と(助詞イ)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 助詞 [1] 〘格助〙
① 連体関係を表わすもの。体言、または、体言と同資格の語句を承け、それが同種の語句に対して並立関係にあることを示す。
※万葉(8C後)四・六六〇「汝を与(と)吾を人そ放くなるいで我が君人の中言聞きこすなゆめ」
※伊勢物語(10C前)五〇「行く水と過ぐるよはひと散る花といづれ待ててふことを聞くらん」
② 連用関係を表わすもの。
(イ) (①の用法から転じて) 共同の相手を表わす。…とともに。
※古事記(712)下・歌謡「梯立の 倉梯山は 嶮しけど 妹登(ト)登れば 嶮しくもあらず」
(ロ) 引用を表わす。文あるいは文相当の語句や擬声語を承け、下の動詞(「思う」「言う」「聞く」などの場合が多い)の内容を表わす。 ※古事記(712)下・歌謡「宮人の 足結の小鈴 落ちにき登(ト) 宮人響(とよ)む 里人もゆめ」
※万葉(8C後)一三・三二七〇「ぬばたまの 夜はすがらに 此の床の ひし跡(と)鳴るまで 嘆きつるかも」
(ハ) 体言を承けてそれを状態性概念とし、また、擬態語を承けて状態性副詞を構成し、動作概念を修飾する。体言を承けた場合、比喩的修飾となることがある。 ※万葉(8C後)二・二〇四「やすみしし 吾が大君 高光る 日の皇子 久方の 天つ宮に 神ながら 神等(ト)いませば」
※源氏(1001‐14頃)紅葉賀「こまこまとかたらひ聞え給へば」
(ニ) 形式用言の実質を示す。 ※万葉(8C後)一二・三〇八六「なかなかに人跡(と)あらずは桑子にもならましものを玉の緒ばかり」
※伊勢物語(10C前)一二三「野とならばうづらとなりて鳴き居らむかりにだにやは君は来ざらむ」
(ホ) 比較の基準を表わす。 ※伊勢物語(10C前)一二四「思ふこと言はでぞただにやみぬべき我とひとしき人しなければ」
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「かたちなどはかのむかしの夕顔とおとらじや」
(ヘ) 同じ動詞、または、形容詞の間に用いて強調を表わす。動詞の場合は連用形を承け「し」が下接することが多く、形容詞の場合は終止形を承け「も」が下接する。 ※竹取(9C末‐10C初)「大納言は我が家にありとある人をあつめての給はく」
※古今(905‐914)仮名序「生きとし生けるものいづれか歌をよまざりける」
(ト) (打消の言い方を伴って) その限度を表わす。 ※浮世草子・風流曲三味線(1706)六「おらんが死骸土にまぶれて中々二目と見られず」
[2] 〘接助〙
① 動詞および動詞型活用の語の終止形、形容詞および形容詞型活用の語の連用形を承け、仮定の逆接条件を表わす。中古以降の語。…ても。→補注(2)。
※宇津保(970‐999頃)国譲上「藤壺『千年をかねてきき給ふと、これよりはいかでか』との給ふ」
※今昔(1120頃か)一一「然計の智者にては罵(のる)と咎むまじ」
② 活用語の連体形を承け、順接条件を表わす。中世以後の用法。
(イ) 仮定の順接条件を表わす。
※虎明本狂言・煎物(室町末‐近世初)「笛ふきいだすと、になひ茶屋を、橋がかりへもってのく」
※歌舞伎・仏母摩耶山開帳(1693)二「これ藤、俺がいふ事聞くと、明日から元の高尾の太夫にする」
(ロ) 常に同じ結果の生ずる条件を表わす。…時はいつも。 ※虎明本狂言・二千石(室町末‐近世初)「はじめは上座にござるが、すは、うたひになると、すゑ座へさがらせられて」
※歌舞伎・傾城浅間嶽(1698)中「此子は火を見ると、寝たがる」
(ハ) 時間的な継起関係を表わす。 ※仮名草子・竹斎(1621‐23)上「君は此世を去り給ふと、夜半に紛れて黒谷の野辺の煙となしたる由」
※歌舞伎・傾城若紫(1705頃)中「一人の子を儲け、生み落すと否や抱取りて帰る」
接続詞 [3] ((二)が自立語化したもの) 前の事柄に引き続いて、後の事柄が生じることを示す。すると。 ※歌舞伎・彩入御伽草(おつま八郎兵衛)(1808)小平次内の場「在郷唄にて幕明く。ト正作、親仁(おやぢ)の拵へにて、仏壇に向ひ、鉦打鳴らし、看経してゐる」
[補注](1)(一)の語源は「とにかく」の「と」のような指示性の語にあると言われる(アストン・小林好日・亀井孝・橋本進吉)。
(2)(二)①の用法は、本来「も」の力によって仮定の逆接条件を表わす助詞としての機能をもつ「とも」の「と」がそれだけで用いられるに至ったものと考えられる。
(3)(二)②の用法は①からの発展ではなく、格助詞「と」に源があると推定される。
広辞苑 助詞 ➊(格助詞)体言あるいはこれに準ずる語句、または文に付く。
①それと指示・引用する意を表す。「見る」「聞く」「思う」「言う」などの動詞の内容を示す。
古事記上「(こし)の国にさかし女をあり―聞かして」。
万葉集1「よき人のよし―よく見てよし―言ひし吉野よく見よ」。
「だめだ―分かっていながら」
②動機・理由などを表す。…と言って。…と思って。 万葉集2「吾が背子を大和へやる―さ夜ふけて暁つゆに我が立ちぬれし」。
源氏物語桐壺「よせおもく疑ひなき儲の君―世にもてかしづき聞ゆれど」。
「相手を笑わそう―、滑稽な振舞をする」
③ある事物・状態であると認定して資格を与える。指定の助動詞「たり」の連用形に相当する。
㋐…として。
万葉集8「吾妹子が(わざ)―造れる秋の田の」
㋑(数値を表す語句に付き、後に打消の語を伴って)それを超えない範囲を表す。 「二度―ない機会」「五分―かからない時間」
㋒比喩を表す。…と同じように。…のごとくに。 古今和歌集秋「たちどまり見ても渡らむ紅葉は雨―降るとも水はまさらじ」。
夫木和歌抄18「月日のみ流るる水―早ければ老のそこより年はかへらず」。
「玉―散る」
㋓状態を表す。…で。 伊勢物語「つれづれ―、いともの悲しくておはしましければ」。
東海道中膝栗毛初「むだを言はず―早く食はつし」。
「にこにこ―笑う」「次々―できる」
㋔転化の帰着を表す。 伊勢物語「野―ならば鶉―なりて鳴きをらむ」。
「自分の物―する」「道が川―なる」
④動詞を二つ重ねて、意味を強める。
㋐「すべての」の意を表す。
古今和歌集序「生き―し生けるものいづれか歌をよまざりける」。
源氏物語若菜下「世にあり―ありここに伝はりたる譜といふものの限り」
㋑どんどん…する。 土佐日記「()―来ては、川のぼり路の水を浅み」
⑤共同の意を表す。
㋐動作・作用の協同者を表す。…と共に。
万葉集10「紐解かず恋ふらむ君―居らましものを」。
万葉集19「 天地 (あめつち)―久しきまでに 万代 (よろずよ)に仕へまつらむ」。
「君―行く旅」
㋑動作・作用の相手を表す。 万葉集1「香具山―耳梨山―()ひし時」。
「人―争う」
㋒対等の資格の物事を列挙する。ただし、最後の「と」は省くことが多い。並立助詞とする説もある。 万葉集3「(かず)きする(おし)―たかべ―船の上に住む」。
古今和歌集春「ふく風―谷の水―しなかりせばみ山隠れの花を見ましや」。
後撰和歌集秋「君―我いもせの山も秋くれば色かはりぬるものにぞありける」。
「国語―数学の試験」
⑥比較される物を示す。 源氏物語玉鬘「かたちなどはかの昔の夕顔―劣らじや」。
「彼―の差はごくわずかだ」「以前―同じ状態」
➋(接続助詞)(活用語の終止形に付く。後に連体形にも)
①逆接を表す。(中古以後の用法。現代語では推量を表す語の後に用いる)…とも。…ても。
蜻蛉日記上「嵐のみ吹くめる宿に花すすき穂に出でたり―かひやなからむ」。
梅暦「言はず―知れたこと」。
「行こう―行くまい―勝手だ」
②(主に江戸時代以後の用法)それに伴って後のことの起こることを示す。動作と動作とが引き続いて起こること、習慣になっていること、あるいは偶然のことも当然のこともあり、仮定条件の提示にも用いられる。 狂言、吃り「私の留守になる―酒ばかり飲うで」。
歌舞伎、助六所縁江戸桜「アノ様なものと心安くする―、終にはわれもまつ裸体」。
「雨が降る―道がぬかる」「箸を置く―、黙って席を立った」
➌係助詞的に用いられる。(上代東国方言にだけ見られる。係助詞「そ」の転か) 万葉集20「荒らし男のい 小箭 (おさ)手挟み向ひ立ちかなる()しづみ出でて―()が来る」
➍終助詞的に用い、相手の発言を受けて、問い返す。 「駄目という―」
大言海 天爾遠波 第一類ノ天爾波。指ス所アルモノ。其意、種種ナリ。
(一)差シ定ムル意ヲナスモノ。
竹取物語「書キハツルと絕エ入リタマヒヌ」
古今集、四、秋、上「ヒグラシノ、鳴キツルナベニ、日ハ暮レヌと、思フハ山ノ、陰ニゾアリケル」
源氏、五十一、蜻蛉 五十四 「花と云ヘバ、名コソアタナレ、女郞花、ナベテノ露ニ、亂レヤハスル」
「某とイフ人」(ソレ)と定ム」(コレ)と知ル」
(二)の如く、ノ意ヲナスモノ。 古今集、八、離別「白雲ノ、コナタカナタニ、立チワカレ、心ヲ(ヌサ)と、碎ク旅哉」
夫木抄、十八「月日ノミ、流ルル水と、早ケレバ、老イノソコヨリ、年ハカヘラズ」
更級日記「笛ノ音ノ、タダ秋風と、聞ユルニ、ナド荻ノ葉ノ、ソヨト答ヘヌ」
「雪と散ル」霜と消ユ」
(三)として。と思ひて。ソレナラヌモノヲ、ソレトシテノ意ヲナスモノ。 萬葉集、二 廿九 御立 (ミタタ)シシ、島ヲモ家()、住ム鳥モ、アラビナ行キソ、年替ルマデ」
同、十四 十一 「信濃ナル、知具麻ノ川ノ、 細石 (サザレイシ)モ、君シ蹈ミテバ、珠()拾ハム」
宇津保物語、俊蔭 十三 「モミヂノ露ヲ、乳房とナメツツアリフルニ」
「花と見ル」露と置ク」
(四)となりて。ソレナラヌモノノ、ソレトナリテ、此物ノ彼物ト(カハ)リテ、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、二 三十六 長歌「久方ノ、天ツ宮ニ、神ナガラ、神 等座 (トイマ)セバ」
同、三 五十四 長歌「足引ノ、山邊ヲ指シテ、 晚闇跡 (クラヤミト)(カク)リマシヌレ」
古今集、一、春、上「今日來ズバ、明日ハ雪とゾ、降リナマシ、消エズバアリトモ、花ト見マシヤ」
(五)とて、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、一 熟田津 (ニギタツ)ニ、船乘セム()、月待テバ、潮モカナヒヌ、今ハコギイデナ」
廿二 長歌「()ヲ取ル()、騷グ御民モ」
同、二 十二 「吾(セコ)ヲ、大和ヘ遣ル()、小夜深ケテ、曉露ニ、吾ガ立チ濡レシ」
(六)にて、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、三 四十六 逆言 (オヨヅレ)ノ、 狂言 (タハゴト)()カモ、高山ノ、巖ノ上ニ、君ガ(コヤ)セル」
古事記、中(神武) 十三 「畝傍山、晝ハ雲 登集 (トヰ)、夕サレバ、風吹カムトゾ、木ノ葉サヤゲル」
續紀、一、文武天皇元年八月、宣命「 天皇 (スメラ) 大命 (オホミコト) 良麻止 (ラマト)()リタマフ大命」
(七)と共に、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、一 廿六 「アラレフル、アラレ松原、住吉ノ、 弟日娘與 (オトヒヲトメト)、見レド飽カヌカモ」
同、二 三十二 長歌「君()時時、(イデマ)シテ、遊ビ給ヒシ」
同、三 十六 「人コガズ、アラクモシルシ、カヅキスル、鴦()高部()、船ノ上ニ住ム」
(八)とある、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、十五 廿三 長歌「スメロギノ、遠ノ 朝廷 (ミカド)()、韓國ニ」
(九)とありて、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、十八 廿 長歌「天ノ日嗣()、知ラシ來ル、君ノ御代御代」
(十)又、ノ意ヲ示スモノ。 讚岐集「シバシトモ、我ハトドメジ、春ノ內ハ、()()ム人ヲ、花ニマカセテ」
古今集、十六、哀傷「秋風ノ、吹キと吹キヌル、武藏野ハ、ナベテ草葉ノ、色カハリケリ」
「降リと降ル」有リとアル」

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最終更新:2024年11月17日 22:02