たぶ(賜)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 他動詞 [ 一 ] 上位から下位へ物などを与える、くれる動作を表わす。「たまう(賜)」と同性質であるが、「たぶ」の方が「くれてやる」の意味が強い。とうぶ。
① 「与える」「くれる」の意の尊敬語で、「くれてやる」動作をする人を敬う。お与えになる。くれておやりになる。下さる。
竹取物語(9C末‐10C初)「この人々、〈略〉『娘をわれにたべ』と伏し拝み」
平家物語(13C前)六「御書をあそばいてたうだりけり」
賜・給・食
② 上位者がお与えになるものを、仲介してくれてやる。 万葉集(8C後)二〇・四四五五「あかねさす昼は田多婢(タビ)てぬばたまの夜のいとまに摘める芹(せり)これ」
③ 下位者に対する自己または自己側の動作に用い、尊大な語気でいうもの。くれてやる。 平家物語(13C前)五「この日来(ひごろ)平家の預りたりつる節斗(せっと)をば、今は伊豆国の流人頼朝にたばうずるなり」
④ 尊者に対するかしこまり改まった表現(会話・消息・勅撰集詞書など)において、自己または自己側の動作に用い、第三者に対し「くれてやります」の意を表わす。与えられるものが低められることによって、へりくだった言い方になる。 宇津保物語(970‐999頃)俊蔭「親のわづらひて物もくはねば、たばむずるぞ」
[ 二 ] 補助動詞として用いる。動詞、または、動詞に「て」の付いた形に付く。
① ( [ 一 ]①の補助動詞用法 ) その動作の主を尊敬する意を表わす。…して下さる。…なさる。
万葉集(8C後)二・一二八「吾が聞きし耳によく似る葦の末(うれ)の足ひくわが背つとめ多扶(タブ)べし」
土左日記(935頃)承平五年二月五日「なほうれしとおもひたぶべきものたいまつりたべ」
② ( [ 一 ]③の補助動詞用法 ) 尊大な語気で、…してやる、の意を表わす。 宇治拾遺物語(1221頃)一「『そのとりたりし質の癭(こぶ)返したべ』といひければ」
③ ( [ 一 ]④の補助動詞用法 ) 尊者に対するかしこまった物言いとして、自己または自己側の者の動作につけて用い、…してやります、…してくれます、の意を表わす。 宇津保物語(970‐999頃)忠こそ「人の告げたびしかば、いとあやしくおぼえ侍しかど」
[語誌]( 1 )元来は「たまう(給)」と同語で、「たまふ」がタマフ→タムフ→タムブ→タブのように変化して成立したものと思われる。
( 2 )タブを古形とし、接尾辞フの付いたタバフが子音交替してタマフとなったとする説もあるが、タバフの形は文献に見えず、平安初期まではm音からb音への子音交替の例は多いものの、その逆は無いところから採りにくい。
( 3 )上代では「続日本紀」宣命に多く見られ、口頭語的性格の強い語であったと思われる。また、同宣命ではタマフが天皇の行為に付けて用いられるのに対し、タブは藤原不比等や道鏡などの臣下の行為に付いて用いられており、敬意度はタマフより低い。
( 4 )平安時代になると、与える者と与えられる者との身分差が極めて大きい場合に用いられており、タマフが行為者を尊敬する方向に意味が働くのに対し、タブは受け手を卑める方向に働くようになる。したがって、与える者が話し手側の者である場合には尊大な感じが伴ない、与えられる相手が話し手自身の場合には卑下した感じが伴う。補助動詞「給ふ」「せ給ふ」を下接する「…てたび給ふ」「…(て)たばせ給ふ」の言い方が成立するのは、このことと関係するものと思われる。
広辞苑 他動詞 (タマフの約。「たうぶ」とも)
①目上の者から下の者へお与えになる。くだされる。
万葉集20「昼は田―・びてぬばたまの夜の暇に摘める 芹子 (せり)これ」。
土佐日記「御船より仰せ―・ぶなり」
賜ぶ・給ぶ
②目上の者に向かってのかしこまった表現などのとき、第三者に対する自己側の動作に使い、いただかせる、の意。 宇津保物語忠乞「供養絶えて今日三日、わらはべに物もえ―・ばで疲れふし侍ればとり申すなり」
③(動詞の連用形または、それに「て」の付いたものに接続して)その動作を行う主体に対する尊敬の意を表す。→とうぶ 続紀22「 数数 (しばしば)辞び申し―・ぶに依りて受賜はり―・ばず」。
万葉集2「足ひく吾がせつとめ―・ぶべし」。
太平記11「其舟ここへ寄せて―・べ」
大言海 他動詞 たまふニ同ジ。アタフ 宇津保物語、嵯峨院、中 三十八 「破子 屯食 (トジキ)イト多クアリ、云云、人人ニたぶ」
宇治拾遺、一、第三條「質ノコブカヘシたぶゾトテ」
類聚國史、廿五、崇道盡敬皇帝「親王爾送奉止敎比 宣夫 (タブ)
竹取物語、上「竹取ヲ呼出シテ、女ヲ俄ニたべト伏シ拜ミ」
臺記、康治元年、大嘗會中臣壽詞「見食べ尊食べ歡食べ聞食べ」
高橋氏文「虛ツ御魂モ(キキ) 太戶 (タベ)ト申ス」
竹取物語、下「此女、若シ奉リタルモノナラバ、翁ニカウブリヲ、ナドカ、たばセザラム」
宇津保物語、藏開、上 四十 「宮シテ奉リツルカハラケモたばムトテ」
同、藏開、上 四十八 「制シテたばネバ、マタコソ食べ醉ハネ」
月詣集、九「友ダチニ馬ヲたばムト申シタリケルヲ」
「只ノ舍人ノ馬副ニハ二匹たばス」
動詞活用表
未然形 たば ず、ゆ、る、む、じ、す、しむ、まほし
連用形 たび たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 たぶ べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 たぶ も、かも、こと、とき
已然形 たべ ども
命令形 たべ

検索用附箋:他動詞四段

附箋:他動詞 四段

最終更新:2025年02月09日 15:00