や(乎・哉・耶・邪・也)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 助詞 [1] 〘間投助〙
① 種々の語を受けて詠嘆を表わし、また、語調を整えるのに用いられる。
(イ) 囃子詞(はやしことば)として歌謡に用いられるもの。
※古事記(712)中・歌謡「ええ し夜(ヤ)ごし夜(ヤ) こはいのごふそ ああ し夜(ヤ)ごし夜(ヤ) こは嘲笑(あざわらふ)そ」
(ロ) 連用修飾語(主語も含む)を受けるもの。 ※書紀(720)神武即位前・歌謡「神風の 伊勢の海の大石に夜(ヤ) い這ひもとほる」
(ハ) 連体修飾語を受けるもの。 ※古事記(712)中・歌謡「鴫羂(しぎわな)張る 我が待つ夜(ヤ) 鴫(しぎ)は 障(さや)らず」
※古今(905‐914)恋一・四六九「ほととぎす鳴くやさ月のあやめぐさあやめも知らぬ恋もする哉〈よみ人しらず〉」
(ニ) 終止した文を受けるもの。終助詞とする説もある。 ※書紀(720)皇極三年六月・歌謡「柔手(にこで)こそ わが手を取らめ 誰が裂手(さきで) 裂手そも野(ヤ) わが手取らすも野(ヤ)」
※徒然草(1331頃)八九「『助けよや、猫股、よやよや』とさけべば」
(ホ) 已然形を受けるもの。 ※古今(905‐914)恋三・六七一「風吹けば浪うつ岸の松なれやねにあらはれてなきぬべら也〈よみ人しらず〉」
(ヘ) 形容詞・形容動詞の語幹(シク活用形容詞は終止形)を受けるもの。 ※宇津保(970‐999頃)国譲中「『あなわびしや、いとあつし』との給へば」
※梁塵秘抄(1179頃)二「金の御嶽にある巫女(みこ)の打つ鼓、打ち上げ打ち下ろし面白や」
(ト) 独立語を受けるもの。 ※古今(905‐914)夏・一五二「やよや待て山郭公(やまほととぎす)ことづてんわれ世の中に住みわびぬとよ〈三国町〉」
(チ) 和歌などの初句にあって体言を受け、場面を提示し詠嘆をこめる。後に俳句の切字となる。 ※新古今(1205)冬・六三九「志賀の浦や遠ざかり行く浪まより氷りて出づる有明の月〈藤原家隆〉」
※俳諧・春の日(1686)「古池や蛙飛こむ水のをと〈芭蕉〉」
(リ) 副詞を受けて意味を強めるもの。→今や必ずや又もや
② 人を表わす体言を受け、呼びかけを表わす。 ※万葉(8C後)一七・三九七三「天ざかる 鄙(ひな)も治むる 大夫(ますらを)夜(ヤ) 何かもの思(も)ふ」
※源氏(1001‐14頃)宿木「あが君やをさなの御もの言ひや」
③ 語を列挙する間に用いる。
(イ) 同種の語を列挙し、漠然とした並列を表わす。並立助詞とする説もある。→彼(あれ)やこれや何やかや。→語誌(1)。
※蜻蛉(974頃)中「雨や風、猶やまず」
※大鏡(12C前)二「御あそびせさせ給ひやもてなしかしづき申人などもなく」
(ロ) 反対の意味のことばを列挙し、強調する。→疾(と)しや遅し
④ 動詞の連体形を受け、「…と」「…時は」の意を表わす。→語誌(2)。 ※雪中梅(1886)〈末広鉄腸〉上「国会の準備に奔走するや、諸君は必ず思惟せしならん」
[2] 〘係助〙 疑問または反語の意を表わす。→語誌(3)。
① 文中にあって係りとなり、文末の活用語を連体形で結ぶ。
(イ) 連用修飾語(主語も含む)を受けるもの。→語誌(4)。
※万葉(8C後)五・八〇四「遊び歩きし 世の中野(ヤ) 常にありける」
※古今(905‐914)夏・一五四「夜や暗き道やまどへるほととぎすわが宿をしも過ぎがてに鳴く〈紀友則〉」
※御伽草子・梵天国(室町末)「宿なきままの宿としていくたび夢やさますらん」
(ロ) 条件句を受けるもの。上代では接続助詞「ば」を介せず已然形に直接する。 ※万葉(8C後)一〇・一八二三「朝井堤に来鳴く貌鳥(かほとり)汝だにも君に恋ふれ八(や)時終へず鳴く」
※古今(905‐914)秋上・一九四「久方の月の桂も秋は猶もみぢすればやてりまさるらむ〈壬生忠岑〉」
② 文末用法。→とかや
(イ) 終止形を受けるもの。→得たりやおう
※古事記(712)下・歌謡「汝こそは世の長人 そらみつ大和の国に 雁卵(こ)産(む)と聞く夜(ヤ)」
※伊勢物語(10C前)九「名にし負はばいざ事とはむ宮こ鳥わが思ふ人はありやなしやと」
(ロ) 已然形を受け、反語の意を表わす。 ※古事記(712)下・歌謡「雲ばなれ 退(そ)き居りとも われ忘れめ夜(ヤ)」
[語誌](1)「や」の並立用法として「みな人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける」〔枕‐二三九〕の例を挙げる説もあるが、これは引用の「と」に続いており詠嘆用法とすべきである。なお並立用法の成立は一〇世紀から一一世紀初の頃という。
(2)(一)④の用法を接続助詞とする説もあるが、本来は詠嘆的強調であって、(一)①の近代的用法と見られる「此日や天晴て千里に雲のたちゐもなく」〔雨月物語‐菊花の約〕の例と異なるものではない。主として近代の文語文に用いられる。
(3)同じく疑問・反語を表わす「か」との違いは、文末用法の場合「や」が問いかけを表わす点であるが、上代既に「や」は「か」の領域を侵しつつあった〔沢瀉久孝「『か』より『や』への推移」万葉集の作品と時代〕。
(4)中古以前、疑問語の下には「や」を用いず「か」を用いたが、中世以後乱れた例も現われる。
広辞苑 助詞 ➊(間投助詞)
①活用語の終止形・命令形、名詞、助詞など種々の語に付いて、意味を強め、相手の気持をひき、また話し手の感動をつたえる。歌謡では、はやしことばとして用いる。
万葉集1「これ―この大和にしては吾が恋ふる紀路にありとふ名に負ふ勢の山」。
源氏物語帚木「心深し―などほめ立てられて」。
源氏物語空蟬「待ち給へ―そこは持にこそあらめ」。
源氏物語若紫「こち―と言へば、ついゐたり」「まれまれはあさましの御こと―」。
源氏物語若菜上「さり―よくこそ卑下しにけれ」。
源氏物語夕霧「そよ―この大将はいつよりここには参り通ひ給ふぞ」。
平家物語11「続け―ものども」。
浄瑠璃、長町女腹切「コレ半七様むごい事云ふお人―」。
「またも―大記録をうち立てた」
②呼び掛けに用いる。…よ。 源氏物語常夏「朝臣―、さやうの落葉をだに拾へ」。
浮世風呂2「コレコレ喜代―おのしはのお茶の支度をさつせへよ」
③(格助詞的に)
㋐後の体言に続ける働きをする。古くは連体形や助詞「の」の後に付いたが、のち、体言の後に付くようになる。…の。
古事記上「をとめの()す―板戸を」。
万葉集2「石見の―高角山の」。
古今和歌集雑「大原―小塩の山も」
㋑(平安中期以降、㋐より転じて)ある所・時・事などを詠嘆の意を込めて示し、それについて述べる後の語句に、「は」「に」など種々の助詞の関係で続ける。 新古今和歌集秋「武蔵野―行けども秋の果てぞなき」
㋒(㋑より転じ)連歌・俳諧の 切字 (きれじ)に用いる。 「荒海―佐渡に横たふ天の川」(芭蕉)
➋(係助詞)種々の語に付き、活用語には終止形に付く。話し手の疑念を表し、その結果、この語を受ける語が活用語の時は、断言することを避けて連体形になり、係結びの関係ができる。近い意味を表す語に「か」があるが、形式的には、「や」は終止形(それと言い切った形)に付くが、「か」は連体形(言い切らず言外の余情を含んだ形)に付くという接続の違い、前に疑問詞のある文では「か」は使うが「や」は使わないなどの違いがある。意味的には、「や」は、終止形接続に現れるように、疑問の対象をその前の語の内容に限っていうのに対し、「か」は、連体形接続や疑問詞を使った文でも使われるという形式に現れるように、疑問の対象を一つに定めず、「…か何か」という形での疑問という違いがある。
①問いかけを表す。…か。
万葉集10「朝井堤に来鳴くかほ鳥汝だにも君に恋ふれ―時終へず鳴く」「ほととぎす鳴きてさ渡る君は聞きつ―」。
源氏物語夕顔「北殿こそ聞き給ふ―などいひかはすも聞ゆ」
②疑問を表す。…か。 万葉集3「嘆きつつ吾が泣く涙有間山雲居たなびき雨に降りき―」。
万葉集4「旅寝―すらむ荒き浜辺に」。
源氏物語若菜上「あぢきなく―おぼさるべき」。
史記抄「我事で―あるらう」
③反語を表す。…か、いや…ない。
㋐「…やは」「…やも」の形で用いる。
万葉集6「(おのこ)―も空しかるべき」。
万葉集9「松がへりしひてあれ―は三栗の中のぼり来ぬ麻呂といふ(やつこ)」。
源氏物語若菜上「身をいたづらに―はなし果てぬ」
㋑「や」だけで用いる。 古今和歌集恋「秋の田の穂の上を照らす稲妻の光の間にも我―忘るる」
㋒已然形に付く。 万葉集4「夏野ゆく雄鹿の角の束の間も妹の心を忘れて思へ―」。
万葉集15「年にありて一夜妹にあふ彦星も我にまさりて思ふらめ―も」。
源氏物語須磨「琴のねに引きとめらるる綱手縄たゆたふ心君知るらめ―」
㋓推量表現を受ける。 万葉集1「三輪山をしかもかくすか雲だにも心あらなもかくさふべし―」。
源氏物語須磨「心ありて引く手の綱のたゆたはば打過ぎまし―須磨の浦波」。
蒙求抄2「小若衆のやうな物が為に我等が中をたがわれう―と云ぞ」
➌(並立助詞)いくつかの事物を列挙する。 蜻蛉日記中「雨―風なほやまず」。
史記抄「父―母がある歟」。
三体詩絶句抄「此曲江には花―葉―落ちて」。
「梅―桜が咲く」
➍(接続助詞)動詞活用の終止形に付いて、その動作が確認できないうちに次の動作のあったことを示す。…やいなや。…するとすぐに。 狂言、惣八「来る―いなや此様な赤い魚や黒いうをを出いて」。
「この実験に成功する―彼は一躍有名になった」
➎(終助詞)
①状態を表現する語に付いて、感動を表す。
「わあ、すごい―」「分からない―」
②希望・命令・誘いかけなど、やわらげた感じで事態の実現を求める。 「もういいかげんに忘れろ―」「遠慮せずに言ってみろ―」「がんばろう―」「寝たい―」
③軽く言い放つ。 「もう、いい―」
大言海 天爾遠波 (一)第二類ノ天爾波。指シテ疑フ意ノモノ。 古今集、十四、戀、四「君や來ン、我や行カンノ、十六夜ニ、槇ノ板戶モ、ササズ寐ニケリ」 乎・哉・耶・邪・也
(二)言語ノ末ニ居テ、言切リテ問掛クル意ノモノ。 仁德紀、五十年三月「アキツ島、倭ノ國ニ、雁子ムト、()ハ聞カス揶」
後撰集、四、夏「數ナラヌ、ワガミ山ベノ、ホトトギス、木ノ葉隱レノ、聲ハ聞ユや」
(三)竝ブル意ノモノ。 源、四十八、寄生 九十六 「ワリゴや何やト、コナタニモイタルヲ」
(四)に、は、ノ意ノモノ。 神武卽位前紀「冬十月、云云、 是伇 (コノエタチ)()、天皇志存必克
垂仁紀、五年十月「 故今 (カレ)日、(ミユメ)()、必 是事 ()(ノコタヘナラム)焉」

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最終更新:2024年05月10日 21:50