あた(仇)

日本国語大辞典 名詞 (古くは「あた」)
① 自分に向かって害を加えようとするもの。かたき。外敵。
※万葉(8C後)二〇・四三三一「しらぬひ筑紫の国は 安多(アタ)守る 押への城(き)そと」
※平家(13C前)二「其の事となうつねに烽火(ほうくゎ)をあげ給ふ。諸侯来たるにあたなし」
② (「あたとなる」の形で用いることが多い) 害となること。危害。損害。妨害。→仇をなす ※虎明本狂言・察化(室町末‐近世初)「そうじて、あのやうな物をわるうあひしらへば、後にあたをする物じゃ」
※浄瑠璃・舎利(1683)三「殊にみづから天下の害(かい)、仏のあたと成事は、あらもったいなやいまはしや」
うらみ。怨恨。遺恨。→仇をなす ※東大寺本地蔵十論経元慶七年点(883)四「此の怨(アタ)を滅し、尽きしむべし」
※和英語林集成(初版)(1867)「Ada(アダ) ヲカエス」
[語誌](1)語源についてはいまだ確定的なものはない。「万葉集」の表記に始まって平安朝の古辞書における訓、中世のキリシタン資料の表記はすべてアタと清音であり、江戸中期の文献あたりでは、いまだ清音表記が主流である。二葉亭四迷の「浮雲」を始め近代の作品ではアダと濁音化しているので、江戸後期から明治にかけて濁音化が進んだとみられる。
(2)類義の「かたき」は善悪にかかわらず自分の相手となるものであり、「あた」は自分に害を加えるものであって、もともと用法の明確な区別があった。
広辞苑 名詞 (室町時代までアタと清音)
①攻めて来る者。敵兵。
万葉集6「―守る筑紫にいたり」 仇・敵
②自分に害となるもの。かたき 宇津保物語藤原君「―は徳を持ちてとぞいふなる」。
「―を討つ」「親切心がかえって―になる」
うらみ。遺恨。 古今和歌集恋「形見こそ今は―なれ」。
「恩を―で返す」
辞書 品詞 解説 例文 漢字
大言海 名詞 (アタ)るノ語根、名義抄、攴部「敵、アタル、カタキ、アタ」日本釋名(元祿)中 十四 仇「あたハ、當る也、我レト相當ル也、敵當ノ意ナリ」〕
(一)我レニ害ヲナスモノ。
字類抄「仇、アタ」
宇津保物語、俊蔭 唐土 (モロコシ)ニ至ラムトスルホドニ、あたノ風吹キテ、三ツアル船、二ツハ(ソコナ)ハレヌ」
伊勢集「吾ガタメニ、何ノあたトカ、春風ノ、惜シムト知レル、花ニシモ吹ク」
(二)我レニ當ル相手。攻メ來ル者。カタキ(テキ) 名義抄「寇、アタ、カタキ」
神武紀 虜兵 (アタドモ)滿路」
十六 賊衆 (アタドモ)戰死」
萬葉集、二十 十八 長歌「シラヌヒ、筑紫ノ國ハ、 安多 (アタ)(マモ)ル、(オサヘ)()ゾト、(キコシ)()ス」
「外國ノ寇」
(三)怨ミトナルモノ。遺恨 古今集、十四、戀、四「形見コソ、今ハあたナレ、コレナクバ、忘ルルコトモ、アラマシモノヲ」
十訓抄、上、第一、第四條「我レ情ヲ施セバ、人カヘリテ從フ、あたヲバ、恩ヲモテ報ズベシ」((アタ)ナリ)
老子經「報怨以德」
(四)怨アリテ、報ユベキコト。 仁德紀、五十五年、田道、蝦夷ニ破ラレテ死ス、蝦夷、田道ノ墓ヲ掘ル、大蛇、出デデ蝦夷ヲ()ム「時人云、田道雖旣亡、遂報讎」
史記、留侯世家「張良(タメニ) 韓報 ()仇」
字類抄、「讎、アタ」
「父ノ讎ヲ討ツ」 仇討 (アタウチ)
(五) () (カヘ)タタリ復讎 「狐、擊タレテ、あたヲナス」あたヲカヘス」

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最終更新:2024年05月06日 19:35