あふ(合(自動詞))

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 自動詞 [一] (合) 物と物とが一つに重なる。また、物と物とがつり合う。
① 物と物とが寄りついて一つになる。
(イ) 一方が他方にうまく重なる。また、すきまなく寄りつく。合する。
※万葉(8C後)一四・三四八二「からころも裾のうち交(か)へ安波(アハ)ねども異(け)しき心をあが思はなくに」
※日葡辞書(1603‐04)「カイノ クチガ vǒta(ワウタ)」
合・会・逢・遭
(ロ) ある物事に他の物事が加わる。いっしょになる。 ※枕(10C終)一四二「声あはせて舞ふほどもいとをかしきに、水の流るる音、笛の声などあひたるは」
(ハ) 夢・占い・主張などが事実と一致する。 ※源氏(1001‐14頃)若紫「この夢あふまで又人にまねぶなとの給ひて」
(ニ) 両者の心・性質・数量・運動などがうまく一致する。 ※日葡辞書(1603‐04)「シュビガ vǒ(ワウ)〈訳〉初めと終わりとが符合する」
② 状態や程度が互いによくつり合う。
(イ) ある状態や時期、程度などにふさわしくなる。似合う。適合する。
※土左(935頃)承平五年一月二一日「人のほどにあはねば、とがむるなり」
※枕(10C終)一〇六「すこし春あるここちこそすれとあるは、げにけふのけしきにいとようあひたるも」
(ロ) 二つ以上の音や色、味覚などがうまく調和する。 ※蜻蛉(974頃)上「薄色なるうすものの裳(も)をひきかくれば、腰などちりゐて、こがれたる朽葉にあひたる心ちもいとをかしうおぼゆ」
(ハ) 力などが互いに同程度である。張り合う。 ※今昔(1120頃か)二九「兵具を調へ馬に乗せて、郎等二三十人具したる者にてぞ下(くだり)ければ、会ふ敵无き者にてぞ有ける」
(ニ) 道理にかなう。 ※曾我物語(南北朝頃)三「あはざる訴訟なりとも、一度は、などや御免なからん」
(ホ) 費やしたものと、その結果得たものとがつり合う。割に合う。 ※俳諧・炭俵(1694)下「よいやうに我手に占(さん)を置てみる〈利牛〉 しゃうじんたればあはぬ商ひ〈桃隣〉」
※多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「それくらゐの事を言はなくて償(ア)ふものぢゃない」
③ (刃と石とが適合する意か) 研いだ刃物などが鋭くなる。よく切れる。 ※七十一番職人歌合(1500頃か)三番「いつまでか蛤になる小刀のあふべきことのかなはざるらむ」
[二] (会・逢・遭) 顔が合う。男女が合う。また、力と力とがぶつかる。
① 顔を互いに向かい合わせる。
(イ) 対面する。会見する。
※古事記(712)下・歌謡「吾が愛(は)し妻に い及(し)き阿波(アハ)むかも」
※竹取(9C末‐10C初)「竹取の家にかしこまりて請(しゃう)じ入れてあへり」
(ロ) (相手を主語にして) やって来て偶然出会う。来合わせる。 ※万葉(8C後)一三・三三〇三「汝(な)が恋ふる 愛(うつく)し夫(づま)は〈略〉黒馬に乗りて 川の瀬を 七瀬渡りて うらぶれて 夫(つま)は会(あひき)と 人そ告げつる」
(ハ) (そちらに)顔を向ける。対する。 ※大鏡(12C前)一「あきらけき鏡にあへば過ぎにしもいまゆくすゑの事も見えけり」
② ある物事や時期に偶然ぶつかる。
(イ) ある現象や事件などに出合う。
※万葉(8C後)一四・三四一三「利根川の川瀬も知らずただ渡り波に安布(アフ)のす逢へる君かも」
※徒然草(1331頃)一七五「かくからき目にあひたらん人」
(ロ) ある時に巡り合う。また、よい時機にぶつかって栄える。 ※万葉(8C後)一五・三六七五「沖つ波高く立つ日に安敝(アヘ)りきと都の人は聞きてけむかも」
※古今(905‐914)仮名序「つらゆきが、この世におなじく生まれて、この事の時にあへるをなむよろこびぬる」
③ 男女が関係を結ぶ。結婚する。 ※竹取(9C末‐10C初)「此世の人は男は女にあふ事をす。女は男にあふことをす」
※滑稽本・東海道中膝栗毛‐発端(1814)「きた八さまに口説(くどか)れまして、ツイ逢(アヒ)まして、かうした身になりましたゆへ」
④ 相手に立ち向かう。戦い争う。 ※書紀(720)神功摂政元年・歌謡「槻弓(つくゆみ)に まり矢をたぐへ 貴人(うまひと)は 貴人どちや 親友(いとこ)はも 親友どち いざ阿波(アハ)なわれは」
[三] (合) (動詞の連用形に付けて、補助動詞として用いる) 二つ以上のものが同じ動作をすることを表わす。
(イ) ともに…する。一同が…する。
※万葉(8C後)一八・四一〇六「紐の緒の いつがり安比(アヒ)て にほ鳥の ふたりならびゐ」
※竹取(9C末‐10C初)「ことゆかぬ物ゆゑ大納言をそしりあひたり」
(ロ) 互いに…する。 ※徒然草(1331頃)一一五「二人河原へ出であひて、心行くばかりつらぬきあひて、共に死ににけり」
広辞苑 自動詞 ➊《合》二つ以上の事物が寄り集まる。
①一つに集まる。合する。
万葉集13「玉こそば緒の絶えぬれば(くく)りつつ又も―・ふと言へ」。
「二つの川が―・う地点」「目と目が―・う」「両者の呼吸が―・う」
合ふ・会ふ・逢ふ・遭ふ・遇ふ
②二つのものの形・性質・内容などが同じになる。合致する。一致する。
▷対象を表す格助詞には「に」「と」が使われる。
源氏物語若紫「この夢―・ふまで、また人にまねぶな」。
源氏物語行幸「たけだちそぞろかに物し給ふに太さも―・ひて」。
「割印が―・う」「足に―・わない靴」「答が―・う」
③二つのものが、互いに相手を悪くすることなく一緒に存在する。似合う。釣り合う。調和する。適合する。
▷対象を表す格助詞には「に」「と」が使われる。
土佐日記「人の程に―・はねばとがむるなり」。
源氏物語明石「ある限りひきすまし給へるにかのをかべの家も松のひびき波のおとに―・ひて」。
日葡辞書「カミソリガワウ」。
「服に―・った靴」「現実に―・った企画」「あいつとはうまが―・う」
④差引きで得が出る。計算があう。割にあう。引き合う。 「―・わない仕事を引き受ける」
➋《会・逢・遭・遇》二つ以上が寄り集まり、相手を認める。
①《会・逢》互いに顔を見て相手を認識する。顔を合わせる。対面する。会見する。対する。面と向かう。
古事記中「 嬢子 (おとめ)(ただ)に―・はむと」。
徒然草「かたへの人に―・ひて」。
「旅先で友達に―・う」「―・って話をする」
②進んで行ったら向うから来て、互いに顔を見る。偶然出くわす。出会う。行き会う。
▷古くは先方を主語にして「…(の)あふ」の形で使われた。
伊勢物語「物心細くすずろなるめを見ることと思ふに修行者―・ひたり」。
「悪い時に悪い人と―・う」
③《遭・遇》何かをしている時に、悪い事態が自分の身に起こる。いやな体験をする。遭遇する。 拾遺和歌集別「たみのの島のほとりにて雨に―・ひて」。
日葡辞書「ナンギニワウ」。
「盗難に―・う」
④(ある時に)めぐり合う。生まれ合わせる。 万葉集6「天地の栄ゆる時に―・へらく思へば」。
日葡辞書「ヨイトキニマイリワウタ」
⑤結婚する。 竹取物語「つひに男―・はせざらむやは」
⑥(相手に)立ち向かう。たたかう 万葉集1「香具山と耳梨山と―・ひし時」。
平家物語9「強ち一条次郎殿の手で(いくさ)をばするか、誰にも―・へかし」
➌《合》(他の動詞の連用形に付いて)二つ以上のものが同時に、その動作をする。一緒に…する。互いに…する。 竹取物語「大納言をそしり―・ひたり」。
源氏物語賢木「 賭物 (かけもの)どもなど二なくていどみ―・へり」。
「皆で喜び―・う」「愛し―・う」「競い―・う」
大言海 自動詞 (一){二ツノ物事、一ツニ寄リツク。カレトコレト、共ニナル。 枕草子、七、六十八段「水ノ流ルル音、笛ノ聲ナドノあひタルハ」
(二){相、(カナ)フ。適當 土佐日記、一月廿一日「墨鳥ト云フ鳥、巖ノ上ニ集リ居リ、檝取ノ云フヤウ、墨鳥ノ(モト)ニ、白キ浪ヲ寄ストゾ云フ、此詞、何トハナケレド、物言フヤウ(興アリゲ)ニゾ聞エタル、人ノ程ニあはネバ、トガムルナリ」
(三)アタルハマル。勞力ノ(ツクノヒ)トナル。 「手閒ニあはヌ仕事」 閒職 (マシヨク)ニあはヌ」
(四)刃物ヲ硏ギテ、(スルド)クナル。凹凸ナキ()(イシ)ト、()ト合フヨリ云フナルベシ。 七十一番歌合(文安)三番、硎「イツマデカ、(ハマグリ)ニナル小刀ノ、あふベキコトノ、カタハザルラム」
倭訓栞、あふ「剃刀ナドヲ硏グニ、あふトモ、あはすトモ云ヘリ」( 合砥 (アハセド)ト云フアリ)
動詞活用表
未然形 あは ず、ゆ、る、む、じ、す、しむ、まほし
連用形 あひ たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 あふ べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 あふ も、かも、こと、とき
已然形 あへ ども
命令形 あへ

検索用附箋:自動詞四段

附箋:四段 自動詞

最終更新:2023年10月18日 18:49