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空はいつも灰の色、暗く重く僕らを包む。
あんなに楽しくて失いたくなかった世界の真実を、僕は何一つとして知らなかった。
修学旅行の最中僕らを襲った事故が、あの繰り返される一学期の真相――世界の秘密。
だけど僕は救えなかった。
僕は恭介を救えずに――爆炎に呑まれて、ゲームオーバーに至った筈だ。
救えなかった僕に与えられたのは、まるで罰のような悪夢。幸せな夢は、もう見られない。
僕には、生の実感がなかった。
何も救えなかった半端者・直枝理樹は、自分が生きているのか死んでいるのかも分からない。
ジェイル・スカリエッティと名乗った男が開催した殺し合いの実験。
結局のところ、僕はあの事故で死んだ後、蘇生させられた、ってことになるんだろうか。
我ながら飛躍しすぎだとは思うけど、僕にはこれ以外の回答が思い付かなかった。
だから聖杯っていう話も――あながち、嘘じゃないのかな、と思う。
でも、どうしてこんなことをする。
僕はもう――戦う気力なんてないのに。
恭介に格好よく誓って、それすら裏切って。
誰も救えずにバッドエンドを迎えただけの、僕に何をしろというのだろう。

「…………分からないよ」

情けないことに、何をすればいいのか全く分からなかった。
正しいことが何なのか、間違っていることが何なのか、僕が選ぶべきはどちらの道なのか。
その一。みんなを救うために、この実験で優勝して聖杯を手に入れる。
その二。誘惑に屈せず、スカリエッティの計画を打ち砕いてやる。

……恭介なら、迷うことなく二つ目を選ぶだろうなあ。
世界の秘密とかを抜きにしたら、あの頼れる恭介が『みんなを救うため』なんて偏った考えの下に他人を殺そうとする光景なんて、とてもじゃないけど想像もできない。
ああ、それどころか――恭介なら、ほんとうにスカリエッティを倒してしまいそうだ。
みんながあっと驚くような作戦を立てて、颯爽と悪いやつを倒してしまう。
白い歯をにかっと見せて、『あの時』みたいに頼もしい笑顔で笑うんだ。

僕は恭介みたいにはなれないよ、やっぱり。
何も守れないような弱いやつに、リーダーの座はあまりにも重すぎる。
重くて重くて――――、押し潰されてしまう。
鈴を守ると誓った。……その挙げ句、この様なんだから。とんだお笑い種だ。

とりあえず、ぶらぶらと歩いてみようと思い立つ。
とてもじゃないけど、今のままではまともな判断ができる自信がなかった。
判断を急げば取り返しがつかなくなってしまいそうで、それがとても怖かった。
時間をかけて、よーく考えて決めたんなら、踏ん切りもつく。
抗うのか、受け入れるのか。決めなきゃならない。


   ◇    ◇


暫く歩くと、教会が前方に見えてきた。
荘厳とした外観は、ここがデスゲームの会場であることを思わず忘れそうになる。
そうだ、いっそ神様にでも祈ってみようか?
……とうとう血迷ったかと、思わず渇いた笑いが口から溢れた。
相も変わらず灰色の天空をちょっと見やってもやはり何も変わりはしない。
足を再度動かして、教会へと一歩、また一歩と歩を進めてゆく。

扉の前に立つと、ひどく無警戒に扉を開けた。
ぎぃぃぃっ、という音がして、教会特有の静かな空気が鼻腔と口腔から僕の中へと入ってくる。
――ちょうどいい。
疲れは溜まっていなくとも、今の僕には情報が不足している。
確かスカリエッティは参加者各個に個別の支給品を支給した、と言っていた。
なら、このディパックの中身を確認するのは参加者としてはまず第一にすべきことの筈。
まずは自分の手札を知り尽くさないと、場を見渡したプレイングなんてできるわけがない。
遊びでも実戦でも――意外と、同じなんだな。

恭介の遊びとこんなゲームを同じにすることに強い抵抗を感じながらも、僕はディパックを開こうとして――――そこで、視界におかしなものを捉えた。

「……? 何だろう、あの白い塊」

視界の端で、何かが動いたと思ってその方向に目を向けた。
すると、教会の椅子には不似合いな白い、なんだかもこもこした塊があることに気付いた。
何だろう、あれ。どう考えても不自然なことは確かだけど……。
一度気になってしまうと好奇心に打ち勝てないのが、人間の性だ。
僕はそっと、なるべく自然な風を装って白い塊を凝視する――。


瞬間だった。僕は何か――紅い光を目にした。
直後僕の意識は途絶え、すべての感覚を失う。


   ◇    ◇


目が開いた。それは朝の目覚めとは違い、なんだか普通に『目を開いた』だけの感覚だった。
まるで意識はあったのに、無理に目を閉じていたような、そんな気がする。
頭も寝起きとは思えないほどクリーンだし、体だって既に解れている。
記憶を掘り起こそうと首を捻る僕の視界に、その時再びあの白い塊が写った。

「きゃあっ!」

どてーん、とギャグ漫画のような擬音を連想させるほど見事に、白い塊は倒れた。
その塊には手足があった。
僕よりも小柄だけど、髪の毛が異常にもこもこしていることを除けば、それは女の子だった。
人形のように白くて細い手足、お伽噺の登場人物が着ていそうなファンシーな衣服。
僕の前で、女の子が盛大にずっこけていた。古典的なくらい見事に、綺麗にずっこけていた。

「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」

僕は思わず倒れる少女に駆け寄る。
ううー、なんて情けない声を漏らしてはいるものの、見たところ外傷は全くない。
なんとなくこういう危なっかしいところは、あのお菓子好きな彼女を思わせる。
髪の隙間から覗く無機質な銀色は、スカリエッティの実験参加者の証。
――当然といえば当然だけれど、彼女はバトルロワイアルの参加者だった。

そういえば、僕が奇妙な目覚めを迎える前に、何か紅い光を見た気がする。
その時もこの少女を見ようとしたのであって――結果、いつもの持病とも違う暗転を経験した。
敵意は感じない。どちらかというと、一方的に怯えられているようだ。

「……! わ、わわ」

見ていて愉快なほど狼狽える少女に、どうしても僕は緊張感を忘れ去ってしまう。
あっちは至って大真面目なんだろうけど、端から見たらなぁ。
虫の一匹も殺せないような人物とは、彼女のような人物を指すのだろう。
――なんだか分からないまま、妙な誤解を買うのは嫌だぞ。
どっちに着くかも決めていないとはいえ、悪評を食らってはどうしようもない。

「大丈夫、僕は怪しいものじゃないよ。僕は直枝理樹っていうんだ」

……でも、どうすればいいかよく分からないので、まずは無難に自己紹介をしてみることにした。
すると相手はおずおずと上目遣いで僕の方を見て、金魚みたいに口をぱくぱくさせる。
緊張しているんだろうか。僕、そんなに怖い顔をしていたっけ?
来ヶ谷さんとかからは女装をさせられそうになったりもしたんだけど――。
そう思うと、嫌でも楽しい学園生活の思い出が脳裏に去来してくる。
永遠に繰り返した一学期の記憶。
期待に応えられなかった僕に与えられていた、準備期間。
恭介の思い付きから始まった野球も、学園生活の中で時々発生していた激しいバトルも。
こうして思い出すと――ほんとうに、素晴らしい時間だったんだと思える。信じられる。

「わわわわ、わたし、マリーです……」

やたらとどもってたけど、その名前だけは聞き取れた。
マリー。とてもじゃないけど、日本人らしくはない。
彼女の見た目もどこか西洋っぽいところがあるし……クドみたいに、ハーフなのかもしれないけれど。

「マリーさんだね。よろしく……怖がらなくても、僕は殺し合いには乗ってないよ」

――正確には、どっちにするかも決めていないだけなんだけど。

「う、うん……私もこんな実験……やだもん……乗ってないよ……?」

もしかするとマリーさんは、怖がり云々以前に重度の人見知りなのかもしれない。
鈴のやつも相当だったけど、これはそれ以上みたいだなあ。
白くてもこもこしていて、小さくて華奢なその外見はなんだか保護欲が掻き立てられる。

「ちょっと待ってね。僕はまだ、参加者の名簿を見ていないんだ。何の準備もなしにここまでのこのこやってきた、我ながらアホなことしたと思うよ」

苦笑しつつ、ディパックから一枚の紙を取り出す。
表にはマップや細かなルールが綴ってあり、紙自体は防水加工がされているのか手触りが特殊だ。


――裏面には、この実験の参加者たちの名前が明記されていた。


「…………えっ?」

思わず口を突いて素っ屯狂な声が漏れる。
僕の名前の近くには、忘れるにも決して忘れられない、大切な人たちの名前があった。
もう戻らない彼らの――リトルバスターズのみんなの名前が。

「恭介……謙吾……小毬さんに来ヶ谷さん………それに、鈴」

マリーさんから見たら、きっと今僕は茫然とした顔を晒しているんだろうと思う。
自分でも分かる。自分が何も考えられなくなっていることが分かる。
僕は失敗した。恭介たちの繋いでくれたものを台無しにしてしまった。
けども、考えれば分かることではあったんだ。
あの爆発に巻き込まれた筈の僕がこうして生きているなら、彼らだって生きている可能性はあった。
ただ――そんなことにも、僕は気付けなかっただけで。

「っ……!」

涙を溢れさせるのは、いけない。
僕は目に浮かんできた雫を溢さないように、全力で堪えた。

恭介だったら、こんなところで涙は流さない。
彼は世界の終わりの時に、一度だけ振り向いて涙を見せた。
まだ泣いていい時じゃない。
泣いては――――いけない。

「大丈夫……?」

マリーさんが心配そうな声色で、おずおずと僕を心配そうな目で見つめている。
大丈夫だよ、とやや掠れた声で答えて、僕は彼女に笑いかけた。
リトルバスターズは終わっていなかった。
それが分かっただけで、僕は立ち上がることができた。
……いや、立ち上がれたのかは分からない。
ただ一つ確かに言えるのは、僕にとってリトルバスターズの意味は、やはり大きかったこと。

――僕も、みんなのことが大好きだったってこと。


「倒すんだ」
「え?」


リトルバスターズは正義の味方。
弱きを助けて悪を挫く。
それなら僕がやらなきゃならないことはたった一つだけ――ああ、もっと早くに気が付けばよかった。


「スカリエッティを倒す。こんな実験、絶対に止めなきゃ駄目だよ」


仲間がこんな殺し合いの中に放り込まれていて、安堵するなんて人間として誉められたことじゃない。
僕は誉められた人間じゃない。なら、誉められないなりに戦ってみようと思う。
あの頼もしいリーダーの背中。それを僕はずっと――ずっと、憧れながら追いかけてきたんだから。



   ◇    ◇


「……メデューサ?」

マリーさんはこくり、と伏し目がちに頷いた。
なんでも、僕が経験したあの『暗転』は、マリーさんの『目』の力だった――らしい。
メデューサという単語には、僕だって聞き覚えくらいはある。
髪が蛇で出来た神話上の化け物で、目を会わせると石にされてしまうってやつだ。
彼女は『それ』なんだとか。
にわかには信じがたい話なのも確かだけど、それなら『暗転』の説明がつかないのも事実だ。
それに、会って数分の間柄ながら、彼女は嘘を吐けるような人柄ではないと理解していた。

「でも、それってこういう状況だとかなり凄い力だよ。危ない時になったら、相手をさっき僕にやったみたいに石にできるなんてさ」
「……うぅ……ごめんなさい」
「あぁっ!? 違う、そういう意味で言ったんじゃなくて!」

マリーさんとも、話す内にそれなりには喋れるようになってきた。
彼女はまだ口数が少ないけど、一応信用は――されてる、ということにしておこう。
当分の間は仲間同士なんだから、余計な心配をするのは無用だ。

「じゃあ纏めるよ。マリーさんの仲間……えーと、キドさんに、カノさん。シンタローさん、その妹のモモさん、それに……ゼットさんだっけ?」
「む……! ゼットじゃないよ、セトだよ……!!」

名前を間違えてしまったらしい。
やけにむっとした態度をされた。
彼女の前でセトさんとやらの名前を間違えるのは厳禁だな……覚えておこう。

一応、マリーさんの仲間についての話もある程度聞いている。
共通しているのは、誰もが『目』にまつわる力を持っているってことらしい。
目にまつわる力なんて言われてもさっぱりピンとこないのが、あれだけど。

「ご、ごめんごめん……。そ、それじゃあそろそろ行こうか、マリーさん?」
「……うん、リキ」

呼び方のイントネーションが、どこか仲間のクドに似ていた。

「……私のことも、マリーでいいよ」
「……分かった。行こう、マリー」

こうして。
なんだかアンバランスな僕らのバトルロワイアル反逆紀行はここに幕を開けた。


   ◇    ◇


ちなみに、この数分後にマリーが驚きの体力のなさを発揮して、僕がおぶることになるのだった。


   ◇    ◇


【一日目/深夜/F-5 言峰教会】


【直枝理樹@リトルバスターズ!】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×3
[思考・行動]
0:スカリエッティを倒して、みんなで元の世界へ帰る
1:マリーと行動。お互いの仲間を探す
[備考]
※Refrain、BADEND後からの参加です


【小桜茉莉(マリー)@カゲロウプロジェクト】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×3
[思考・行動]
0:みんなで帰りたい
1:リキと行動。お互いの仲間を探す
[備考]
※二巻、遊園地で遊び終えたあたりからの参加です
※『目を合わせる力』については使用可能なようですが、制限があるかもしれません



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実験開始 直枝理樹 [[]]
実験開始 小桜茉莉 [[]]

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最終更新:2012年11月28日 18:03