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曇天の隙間から、ふと思い出したように黄金の満月が覗いた。
私はそれを、たぶん凄くつまらなそうな顔で見つめているのだろう。
右の手で一本の鉈を握っている私の姿は、まるで闇夜に紛れる殺人鬼のようだと自分でも思う。
でも、戦うには申し分ないと思う。
ナイフの方が断然やり易いけど、刃がある以上暫くはこれで我慢するとしよう。

「……幹也の奴なら、気の利いた綺麗事くらい言えるんだろうな」

気の利いた綺麗事、という言い回しの可笑しさに私はふと笑いをこぼす。
殺し合いの実験が始まって、私は大きな橋のど真ん中に寝転んだ状態で目を覚ました。
吊り橋なんかじゃなくて、ちゃんと近代の技術がふんだんに使われた立派な橋で良かったと思う。
寝返りを打って転落死なんて――今時、つまらないジョークにしたって落第点だ。
だけど別段行きたいと思えるような場所もない。
ここでこうやって佇んでいる間にも殺し合いは進んでいるのだろうけど、正直知ったことじゃない。
私は参加しない。進んで殺しにも行かないし、この鬱陶しい首輪を外すのも当分はお預けで構わない。

けれど――ジェイル・スカリエッティ。
あの男は殺す。あれは『在り方』は違っても、いつかの『魔術師』と同じ類いの存在だ。
荒耶宗蓮という男と同じく。私には、あれが存在していることそのものが嫌悪に値する。
殺し合いの運営に関わった奴らがどうかは知らないし、興味もないけれど。

……しかし、そんな私の無気力もある気まぐれによって覆る。
支給品の入ったディパックの中の紙切れ、即ち参加者名簿。
その中に、一人見知った顔を見付けてしまった。

「おいおい――おまえ、またか」

思わず溜め息が漏れる。
あの幽霊の時だってそうだった。
歪曲の魔眼を持つ少女の時も、彼がいた。
忌まわしい魔術師の時も――確か、関わっていたっけ。
そして、忘れもしない『ケモノ』の一件でも。

あの青年はいつだって、何かしらの形で渦中にあった。
しかし、今回もか。なんて――運が悪いヤツなんだろう。

「おまえも居るのかよ、幹也。……はぁ、これじゃおちおちゆっくりするのも出来やしない」

私はもう一度深い溜め息をついて、こめかみに手を当てる。
……だけど、私のやるべきことが一つ増えてしまった。
まったく、ホントウに厭な縁だ……あの時から、まるで薄くなっちゃいないんだから。

おまえがいるんじゃ、私は戦わないといけない。
とっととこの面倒臭い実験を終わらせて、スカリエッティも殺して、帰るために。
鉈を握る力が強くなる。目当ての得物を手に入れるまでは、これが相棒となるわけだ。
なかなかどうして――悪くない、けど。
この鉈は、何だか人の血を吸っているような気がする。
だとすれば因果だ。殺人嗜好の式に、人殺しの得物。笑えるほどに、皮肉。

「とは言っても、オレじゃこいつを外すのはどう考えても無理だ」

こつこつ、と指の先で首輪を叩く。
スカリエッティは確か、能力を制限する効力もあると得意気に語っていた。
あんなヤツのことを信用するなんて御免だけど、万一があってからじゃ済まない。
私は確かに『魔眼』とやらを持っている――でも、肝心の両儀式の体はまごうことなきヒトのそれだ。
首を吹き飛ばされたら、間違いなく即死する。

最初から私は首輪に関わる気はなかったことだし、この際これについては丸投げだ。
解除の手段を見つけたヤツに教えてもらえばそれでいいだろう。
幹也の本分はこういうことだった気がする。
とにかく私はパス。まどろっこしいのは好きじゃない。
鉈を適当に振ってみる。――やはり、ナイフの方がいいな。
そもそもヒトを殺すための道具じゃないからか、私にはあまり合いそうにもなかった。
小さく微笑(わら)って、私は一歩を踏み出す。


殺す覚悟はある。そんなもの、当の昔から、改めてするまでもないくらい刷り込まれている。
死ぬ覚悟はある。ただし、死ぬのは厭だ。あそこに墜ちるのだけは勘弁願いたい。

スカリエッティの狗になるような輩は、容赦なんかしてやらない。
とにかく、こんな腐った宴からは――一刻も早く帰りたかった。

「……ん」

二歩、三歩と歩くにつれて、前方に微かに見えていた人のシルエットが確かなものになっていく。
性別は女。私よりは多分年下だろう、鮮花とかとは、あまり変わらないんじゃないだろうか。
・・・・・・むかつく事に巨乳だ。それでも鮮花の乳牛よりも遥かにでかい胸よりはましだが。
瞳に籠っている光は真っ直ぐで、曲がることのない強さを感じさせる。

――――私とは、決定的に違う強さを。


◇ ◇


少女――スバル・ナカジマは憤っていた。

自分の迂闊さに、そしてかつて自分たちを混乱の底に叩き込んだ『あの男』に対しても。
スバルはまだ少女といっていい年齢だが、時空管理局・機動六課に所属する立派な『ストライカー』だ。
機動六課もいよいよ解散となった頃に、こんな大事件が起きるなんて。
牢獄に幽閉されていた筈の次元犯罪者――ジェイル・スカリエッティの悪意は、まだ生きていたのだ。
どういう手段を使ったのかは知らないが、あの男は脱獄を果たし、そして――――そして。

「よくも――フェイトさんを……ッ!!」

そして、自分たちの世話を焼いてくれた一人の上司を殺された。
自らの下らない計画を進める為だけに、見せしめのように酷いやり方で殺した。
正直なところ、スバルはスカリエッティという人物へ抱く感情はあくまで『怒り』止まりだった。
殺された上司――フェイト・T・ハラオウンや同僚のエリオ・モンディアルのような『人造生命体』に大きく関わっているらしいことと、自分の姉を拉致されたこと。
それらのことから、確かに看過できぬ悪だとは思っていた。
捕まえなくてはならないとも思っていた。

「――許さない」

しかし、今は違う。
スバルのスカリエッティへの感情は、もはや憎悪に近いものへと変貌を遂げていた。
同じ屋根の下で暮らした仲間をあんなやり方で殺されて、はいそうですかと引き下がれる訳がない。
出会って一年ほどしか経っていない自分でこうなのだから、もっと付き合いの長いエリオやキャロはもっと激しい怒りを抱いているだろう。親友のティアナだって同じの筈だ。

必ず逮捕する。もう二度とこんなことが出来ないように、叩きのめす。
どんなに痛め付けたってフェイトは戻ってこない。
なら、彼女の意思を受け継いでスカリエッティを倒すことこそが、自分のすべきことだ。

スバルは早まることはしなかった。
いくらスカリエッティが許せないといえど、己の感情に任せて突っ走っては、守るものも守れない。
ここには自分の他にも、たくさんの守るべき人間たちがいる。
そして、頼れる仲間たちだっている。
皆で力を合わせればバトルロワイアルを打ち砕ける――フェイトを殺したスカリエッティを、ぶん殴れる。

ぎり、と噛み締めた歯が音を鳴らす。
スバル・ナカジマは、溢れんばかりの闘志を全身にみなぎらせていた。
恐らく――これは、自分の一生の中でも最大最悪になるだろう事件。
気を抜いていたら、上官のなのはやヴィータの指導を受けた自分たちでさえ、命を落としてしまいかねない。

帰るんだ。皆で元の場所に帰って――フェイトさんを、ちゃんと弔おう。
大事な仲間を喪った傷はすぐには癒えないだろうけど、耐えるしかないんだ。
いつまでも悲しみ続けることなんて、あのフェイトさんが望むわけがない。
むしろあたしたちがすべきことは、あの人の正義感を受け継いで、立派な『ストライカー』になることの筈。
皆で力を合わせて、帰ろう。
そしたらそれぞれの道を歩むことになるだろうけど、そうなっても待ち続けよう。
皆で――もう一度笑いあえる日まで頑張ろう。
それがあたしたちにできることで、絶対にやらなきゃいけないことだって思うから。


「見てて下さい、フェイトさん。あたしたち――必ず、スカリエッティを倒しますから……!!」

固く固く、拳を握り締める。リボルバーナックルもマッハキャリバーも、手元にある。
スカリエッティは言っていた。持ち物を没収し、支給品として割り振ると。
どうやらこのリボルバーナックルとマッハキャリバーは支給品扱いのようで、自分の支給品は二つほど数が少なくなっていた。
マッハキャリバー。
マッハキャリバーはデバイス――姉と全力で戦った時に、自分を諭してくれた大切な相棒だ。
機動六課の隊員として、また共に戦おう。
マッハキャリバーも、それを望んでいるだろうから。

第一に、ティアナやエリオ、キャロの捜索。
その過程で参加者を保護して、乗ってしまった相手には説得。
説得でどうにかできなかったら、力づくででも無力化するしかないだろう。

スバルは、自分の内に燃え上がる怒りを圧し殺して冷静さを作り出す。
怒りに身を委ねることが無意味だと分かっているから、まずは自分自身と戦っていた。
……すると、自分でも驚くほど完璧に、冷静さを取り戻すことができたのだった。
――どうやら、機動六課で過ごした厳しくも暖かい日々は、自分が想像している以上に己の為になっているようだ。
フェイト・T・ハラオウン。今は亡い彼女の無念を晴らす。
そして、こんな狂った実験で一人の命だって喪われることを防ぐ。
その為に――この身体を振るおう。

スバルは歩き出す。
数歩としない内に、前方に一人の美しい女を発見した。
艶やかな黒髪が風に靡けば、和服姿も相俟ってひどく絵になる美しさを醸している。
だがその双眸には鋭い殺意。――否、とても研磨された刃のごとき、澄んだ強さ。
彼女は強い。スバルはほぼ直感的にそう確信する。

相手も、自分を見ている。
彼女が『どっち』の立場であるにしろ、無視する訳にはいかない。
スバルは、素性も知らぬ流麗な女へと声を掛ける。

「――時空管理局機動六課、スバル・ナカジマです」
「ふぅん」

こんな淡白な受け答えが返ってきて――スバルは苦笑するしかなかった。


【一日目/深夜/B-7 橋】


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]健康
[装備]リボルバーナックル@魔法少女リリカルなのはStrikerS、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×1(確認済)
[思考・行動]
0:実験を打倒して、スカリエッティを今度こそ確実に逮捕する。
1:目の前の人(式)と話してみる
2:仲間たちを探しつつ、発見した参加者を保護していく
※最終話、機動六課解散直前からの参加です

【両儀式@空の境界】
[状態]健康
[装備]レナの鉈@ひぐらしのなく頃に
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・行動]
0:スカリエッティを殺して、実験を終わらせる。
1:このスバルとかいうヤツの話に応じる
2:幹也を探す。
※第七章終了後からの参加です
※直死の魔眼への制限はありません


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実験開始 スバル・ナカジマ [[]]
実験開始 両儀式 [[]]

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最終更新:2022年07月25日 07:56