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もう誰も泣かない世界が欲しい。
不要な争いなんかで命が失われない、争いの根絶された世界が。
何人も殺してきた。少数を切り捨てて多数を救う行動原理に基づいて、何人も何人も殺してきた。
フリーランスの暗殺者として活動すること数年。
彼はいつしか『魔術師殺し』と呼ばれるようになっていた。
如何なる魔術師さえも即座に無力化する魔弾と近代兵器を用いる、凄腕の暗殺者。
――そんな彼の下へ、ある『依頼』が転がり込んできた。
それは万能の願望器を巡っての、四度目の戦争。
愛しい妻と娘を得て。衛宮切嗣は、ただ一つの望みを叶えるために銃を取った。

「こんな時に、か。迷惑なことだ」

どこかの学校の校舎の中で、切嗣は煙草を吹かしていた。
火元は理科室で調達したマッチ。ライターなんかがあればなお良かったが、そこまでの贅沢は言えない。
自分がやらねばならないことは、この一服を終え次第すぐに始まる。
殺し合いを止めて、実験運営に関与した全ての存在を抹殺し、冬木へと帰還する為に。

武装には恵まれていた。普段から用いる愛銃コンテンダー・カスタムに、IMIウージー。
後の一つの支給品がこの煙草一箱だったのだが、切嗣にしてみればこれも外れではない。
むしろ、これがあった方が任務の完遂へ集中できるというものだ。
短くなった煙草を地面に落とし、靴の底で火種を揉み消す。
ふっ、と息を吐いて、彼は机に置いていたコンテンダーをディパックにしまい、IMIウージーを右手に持った。

「――ほんとうに、こんなことをしている場合ではないんだがな」

聖杯戦争。衛宮切嗣の理想を成就させる為の戦いへと、一刻も早く帰らねばならない。
だが、スカリエッティはここで殺さなければ、また戦争の最中にこんなことをされては堪ったものではない。
切嗣は冷酷な猟犬の目をしたままで、理科室の扉から廊下へと出る。
闇が包む向こう側へと、黒いコートの男が消えていった。


   ◆    ◆


近代建築が包む体育館にて、奇抜な風貌をした男は感心を露にしていた。
これだけの広さに、ここまで完璧な建築を施すとは。あのスカリエッティという男もやりおる――。
場違いな感想といえばそれまでだが、男の常識からすればそれは至極当然のものだった。
何故なら、彼の生きていた時代は『尾張幕府』が支配していた、近代以前の時代なのだから。
鳥のような衣装に身を包んだ奇人は、ひとしきり構造に感心すると、今度は独り言を呟き始める。

「全く、面倒なことになったものだ。だが、これは好機かもしれんな」

真庭鳳凰。
凄腕揃いのしのびの里においても別格と称される存在、別名を『神の鳳凰』。
彼が事実上の頭領となっている真庭の里は、現在かつてない窮地に立たされていた。

真庭忍軍十二頭領。
本来ならば各個が埒外の力を行使する集団にも関わらず、四季崎記紀という刀鍛冶に関わってからというもの、その同胞たちが次々と散っていったのだ。
今や残されたのは自分と人鳥のみ。
小手先では復興は絶望的という状況下で、鳳凰はスカリエッティと名乗る男に拉致された。

「聖杯――信じ難い話だが、今は藁にもすがりたい状況。仕方あるまい」

異国の男の話を全て鵜呑みにするほど、鳳凰は間抜けではない。
だが、折角の好機をみすみす逃してしまうほど愚鈍な男でもなかった。
勝てば、聖杯を手に入れて願いを叶えることができる。
願いを叶えるというのが虚言だったにしろ、自分さえ生き残れば真庭へのダメージは皆無だ。
全ての参加者を抹殺するのは決して容易くないだろう。
容易く殺されてくれなそうな輩の名が一つ、あった。
鑢七花――虚刀流七代目当主。十二頭領の同胞を何人か殺し、不可能とされていた『変体刀集め』を信じられない速度で完了へ近付けていく文字通りの怪物。

「あれに無策に挑むのは気が引ける。何か策を講じなくてはな」

七花とまともに戦えば、敗北する危険性の方が高いことを鳳凰は承知していた。
しかしながら、鳳凰はそもそもしのび。
忍んで行動する職業の在り方に違わず、忍んで虎視眈々とあれを殺せる瞬間を待つとする。
それまでは他の参加者を殺していれば、実験の進行が滞ることもあるまい。

と、その時。
がらり、と体育館の入り口の扉が開くのを鳳凰は見た。

(まぁ――迷う必要はないだろう)

瞬間的にやるべきことを決め、扉へ向かい超人的な脚力で疾駆する。
真庭鳳凰は確かに、七花ほどに爆裂的な必殺技を多数持っている訳ではない。
だが、真庭忍軍十二頭領が実質的な頭領の肩書きは決して伊達ではないのだ。
少なくとも只の少女に殺されるほど、温い鍛え方はしていない――――!
疾駆した先にあった少女のシルエットを破壊するに十全な威力の殴打。
必殺の『断罪円』には及ばずとも、少女一人殺すには事足りる。
何にでも全力で挑むなど、ただひたすらに無駄なだけなのだから。
青い髪の少女。
その首もと目掛けて、鉤爪のような形にした右手を放つ。

「……なに?」

鳳凰は疑問符の付いた声を漏らす。
鮮血が飛び散る感触はなければ、肉を引き裂く獰猛な感覚もない。
剣のような物を砕いた感触はあったのだが、少女を破壊することは出来ていないようだった。
幻術ではない。
それは、足元に散らばった剣の残骸が一番よく証明していた。
瞬間、全てを理解した鳳凰はばっ、と身を翻す。

「成程、剣が我の攻撃を止めている僅かな間に飛び退いたのか」

なかなかに見事な芸当だ、と鳳凰は素直に評価する。
見れば、青髪の少女は西洋風の格好をしていた。
端から見れば鳳凰の格好の方が余程奇抜だったろうが、本人からすれば少女の身なりは奇抜なそれとして写る。
その手には先程折った筈の剣が再び握られている。
四季崎記紀が変体刀、千刀を連想させるが、原理で異なることは見ただけで理解できた。
少女の目線には敵意が明確に籠っており、鳳凰を既に敵と見なしていることが分かる。

「だが、次で終いだ」

少女の下へと再び一気に疾駆。
少女は剣を構え、型も何もあったものじゃない振り方で鳳凰を迎撃せんとする。
当然。そんな斬撃では歴戦のしのびたる鳳凰を殺害できる道理がない。
降り下ろす腕。弾ける剣。次の一撃で、少女の延髄をぶち抜く。
――が、そうはいかなかった。

「ぬっ!?」

少女の右肩を鳳凰の爪が軽く抉った。
普段なら追撃を行うところだが、それを鳳凰がしなかった理由はただ一つ。
死角から出現した剣が、鳳凰の心臓目掛けて突き出されていたからだ。
足元から、剣は出現していた。
ただの少女と思っていたのがいけなかった――不意を打たれた。

「逃がすかっ!」

少女は声をあげて、飛び退いた鳳凰に剣を持って斬りかかる。
跳躍の力は少女のそれではない。
しかもある程度戦い慣れている。

「ふんッ!」

降り下ろされた刃を、鳳凰は片腕で掴み取る。
力量では少女を遥かに凌駕しているが、それでも鳳凰の方がまだ上だ。
砕いたかと思えば再び出現する剣。
今度は三本に増えて鳳凰を貫かんとする刃を潜り抜け、鳳凰は少女に向け今度こそ確実な一手を放つ。
薙ぎ払い。それは少女の脇腹を抉り、鮮やかな鮮血を散らせて肉を飛ばす。
しかし、少女は変わらず剣を振るう。
(何……!? 痛みを感じていないのか?)

相も変わらず単調な刃をバックでかわし、少女を冷静に見やる。
確かに少女の脇腹は鮮血に染まり、今もなお鮮やかな液体を滴らせている。
だが彼女は傷口を押さえることさえしない。
最初から負傷などしていないかのように、立ち続けるだけ。

「無駄だよ。あたしはゾンビみたいなものなんだから」

言う少女だが、鳳凰には『ゾンビ』という単語の意味を理解することがまず出来ない。
ただ、彼女が何らかの不条理を身体に内包しているのは明らかだった。
痛みを感じず、おまけに空間を無視して出現する剣。
しのび顔負けの芸当を披露する少女に、鳳凰は不本意ながら苦戦を強いられていた。

「アンタみたいな奴が……いるからいけないんだ……!!」

少女の瞳は濁っている。
明らかに正気ではない。
この戦い方も、とてもじゃないが正気とはいえない。
自らが受けるダメージを顧みず、何としても相手に一撃を叩き込まんとする捨て身の戦い方。
しかも気を抜けば、飛来する剣に貫かれる。
仕留める気になればすぐ仕留められるだろうが、そこまで踏み切らせてくれない相手。

「乗ってるんでしょ、アンタ。なら、死んでよ」

そういうことか、と鳳凰は勝手に納得する。
この少女は異常な正義の下に行動しているのだ。
だから殺し合いに乗るような輩は、善良な人間に危害を加える前に殺害する――。
極端すぎる思想だ。鳳凰には関係のないことだが、狂っている、という表現が最も似合うように思えた。

「それは出来ぬな」

飛来した剣を避けつつ、鳳凰は答える。
着地点に向けて疾駆する少女に、着地と同時に鋭い一撃を叩き込む。
さっきの一撃とは違う。脇腹を確実に吹き飛ばした。
身体のシルエットが変わった。歪な空白が、不気味な影を形作っている。
が、それでも止まりはしない。
もう何本目か分からない刃が、鳳凰を懲りずに再び狙う。

「……再生だと」

少女の腹に生まれた欠損部分が、少しずつだが再生していく。
肉体の破損箇所を再生する――これでは、まるで人外だ。
鮮血を撒き散らしながら斬りかかる少女の瞳が、ひどく異様なものに見えた。

「ここまでくると呆れるな」

学習が見られない。
自分が少女なら、その不死性を利用して潔く撤退するところだ。
狂戦士ゆえに退路は存在しないのか。
だとすれば――やはり相容れぬ存在だな、と鳳凰は小さく呟いた。

「黙れっ……黙れ、黙れッ!!」

ぶおん、ぶおんと振るわれる刃。
少女にもやがて焦りの色が生まれ始めていた。
これほど戦闘を続けていて、未だ疲れの色を見せない鳳凰。
こちらの攻撃はことごとく弾かれ、こちらにも疲労はないが相手にも疲労はない。
お世辞にも、有利に場が進んでいるとは思えない。
やはり未熟。この鳳凰を打ち倒すには程遠い。

「アンタみたいな奴が――」

連撃。ここにきて斬撃の苛烈さが増したな、と鳳凰は分析する。
搦め手も何もないが、喰らえば大傷になるのは間違いなし、というレベルには速い。
そろそろ決める。
鳳凰もまた、この終わりのない戦いを終わらせんと体勢を整える。
再生能力を秘めた相手だろうと、仕留め切る一撃を。

「いるからっ――!」

斬撃回避。
続いて、接続だ。
真庭鳳凰の切り札たる忍法が、一人の少女に向けられる。

「――忍法断罪円!」

鮮血が、一際激しく飛び散った。


   ◆    ◆


廊下を歩く、その手を鮮血で汚したしのび。
激しい戦闘を終えた後とは思えないほどに澄ました表情で、真庭鳳凰は惨劇の跡地から立ち去ろうとしていた。
少女には断罪円を叩き込んだ。
腹の大部分を破壊したのだから、再生よりも先に生命活動が停止するだろう。

「しかし、な。妙な術を使う娘だった」

西洋風の衣装に身を包み、使う得物もまた刀ではなく西洋の剣。
痛覚を無視して戦い、傷を負えば患部が再生し、剣をほぼ無限に扱える謎の技能。
あれでせめてまともな剣士レベルの腕前だったなら、鳳凰といえど危なかったかもしれない。
だが――何度再生しようとも、決してその刃が届かないのではまるで意味がない。
力量で圧倒的に勝る鳳凰が敗北する道理は、万に一つもなかった。
単純に実力の差が、勝敗を分けたのだ。

「だがあの程度ならば問題には値せん――今のところは、予定通りだ」

一人を殺めた。
意表を突く不可解な術を使ってきたが、あの程度ならば己の敵ではない。
しかし成る程、スカリエッティもあまりに圧倒的戦力差が生じるような参加者選別はしていないようだ。
確かに、何の変哲もない少女を何人集めても己や虚刀流には一切届かないだろう。

(多少、気を引き締めねば……)

油断して命を落とすような無様を晒しては、笑い物にすらなりはしないのだから。

「では――真庭の、復興の為に」

鳳凰は姿を消した。
最後に、強い決意と殺意が籠った言葉を残して。


【一日目/深夜/H-1 学園】


【真庭鳳凰@刀語】
[状態]健康、返り血(大)
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×3
[思考・行動]
0:優勝して、真庭の里の復興を実現する
1:虚刀流には注意する
※左右田右衛門左衛門との戦闘より前からの参加です

   ◆    ◇


「――く、そぉ……っ……!!」

真庭鳳凰のただひとつの誤算は、美樹さやかの治癒能力を侮っていたことだろう。
鳳凰の方が上とはいえ、どんな傷を負いながらでも異常な執念で魔女を抹殺したこともある。
忍法断罪円を喰らって根こそぎにされた腹部も、徐々に、だが確実に再生を始めていた。
敗北によってソウルジェムに蓄積される筈の穢れは、何故か癒えている。
その理由は、未だ腹部の傷口を晒したままのさやかの近くにいる、黒いコートの男にあった。

「……成程。さやかちゃんは契約によって力を得た『魔法少女』。道理で、全身から魔力を感じる訳だ」

コートの男・衛宮切嗣は、地面に穢れを吸い取ったグリーフシードを放り投げ、感心したように呟く。
鳳凰が去ってからすぐに切嗣は現れ、さやかの負傷を見かねて駆け寄ってきた。
が、その傷口が少しずつ再生しているのを見て、さやかに一体何者なのかを問い質してきたのだ。
そこで僅かに迷ったものの、切嗣は曲がりなりにも『魔術師』なる職業らしい。
魔法少女のことを話しても、疑う素振りさえ見せずに信じてくれた。
更に、彼の支給品に三個セットで封入されていたグリーフシードの一つも、躊躇わずに使ってくれた。
"この人はいい人だ"と、さやかに思わせるには、それだけで十分だった。

「この『グリーフシード』ってやつは、君にあげよう。ソウルジェムの穢れを癒せないのは致命的だろうしね」
「え、いいんですか?」

別に構わないさ、と微笑する切嗣。
切嗣にとって、魔法少女という存在は全く知らないものだった。
願いを対価にしての契約で魔力を得る――そんなシステムがあること自体、初耳だ。
切嗣が如何に魔術師として邪道の道を歩んでいるにしても、いくら何でも知り得ないという訳はない。
恐らく協会さえも把握していない、闇に生まれたシステムなのだろう――と切嗣は分析する。

そして、痛覚の遮断と傷口の治癒を併せ持つさやかを圧倒したのが、派手な容貌をした男。
格闘戦に秀で、『忍法断罪円』なる一撃は絶大な威力を誇る。
さやかに顔写真付き名簿を見せると、それは『真庭鳳凰』という男であることが分かった。
真庭鳳凰――要注意。
切嗣はマーカーで鳳凰の名前を囲む。
この囲みは、次に見付けたなら殺害する対象である、という意味だ。

「はぁ、それにしてもグリーフシードを貰えて良かったです……」
「そういえば、一つ聞きたいことがあったんだ」

切嗣は先程、『ソウルジェムの穢れが癒せないのは致命的だろう』と言った。
だがそれはあくまで、さやかがグリーフシードを見たときの反応から推察したものである。
切嗣が魔法少女について知っているのは、契約を対価として力を得ること。
そして、人々を結界に閉じ込めて襲うという『魔女』を討伐する役割を帯びていること。
実のところ、もう少し詳しく知っておきたかった。
さやかとはこれから同行するかもしれないのだから。

「君のソウルジェムが、仮に穢れで埋まったとしよう。――そしたら、君はどうなる?」
「…………」

さやかは答え辛そうに目を僅かに伏せる。
しかし切嗣としてもここで引く訳にはいかなかった。
衛宮切嗣は人情云々の前に、まずは情報を優先する合理主義者。
一方のさやかも、観念したように口を開いた。
どうせいずれは話さねばならないことだと、踏ん切りが付いたらしい。

「あたし達魔法少女は、ソウルジェムを破壊されない限り死なないんです」

それは、さやかの様子を見れば分かることであった。
腹をあれだけの範囲で破壊されれば、普通なら治癒云々の前にショック死しても何らおかしくはない。
なのに彼女は痛覚を遮断しているとはいえ意識を保ち、その命は再生を続けているのだ。
少女に課されるには、些か過酷すぎる宿命。
これが戦うという定めか――切嗣は魔法少女システムの末恐ろしさを感じた。

「そして、これに穢れが溜まりきると。……正直、どうなるかあたしには分かりません」

そう言ってソウルジェムを切嗣に見せるさやか。
ゾンビ同然の肉体になって、それでもあの契約獣の言葉を信じることは出来なかった。
ただし、それでも正義を実行することはできる。
世界を腐らせるような悪を殺してしまえば、乱暴なやり方ではあるが正義の味方になれる。
新たな希望を胸に、悲しげな笑顔を浮かべるさやか。
それを同じく微笑で迎え入れ、衛宮切嗣は――――

「なら、さよならだ」

――――美樹さやかを、IMIウージーで銃撃した。

「が、ぁぁあああっ!!??」

ソウルジェムを咄嗟に庇うことは出来たが、治癒しつつあるさやかの体に銃創を刻み込んでいく。
切嗣はさやかの体を踏みつけ、ソウルジェムを押さえて確実に破壊できるようにする。

「ア、ンタ……! あたしを、騙してた、のかぁ……っ!?」

呪詛に満ちた瞳で、さやかは切嗣を睨み付ける。
ソウルジェムに少しずつ、黒い濁りが生まれていく。
切嗣はそんなさやかに何の感慨も抱くことなく、コンテンダー・カスタムの銃床を振り上げた。

「許さない……! 殺してやる、衛宮切嗣……!!」

そして、降り下ろす。
琥珀で形成された銃床はソウルジェムを粉砕し、美樹さやかはがくりと脱力し、それきり動かなくなった。
切嗣は少女の死体を見やり、しかしやはり何一つ罪悪感を感じない様子でマッチを擦った。
煙草を一本取り出して着火すると、口許まで運んで、二度目の一服を始める。

――美樹さやかの誤りは。
よりにもよって衛宮切嗣に、自身が『どうなるか分からない』危険性を教えてしまったことだろう。


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】



   ◇    ◇


美樹さやかの考え方は、暴走をしない限り実に合理的なものだと切嗣は思っていた。
他人を犠牲にするような人間を殺していけば、最終的に必要な者だけが残ろう。
彼女に多数と少数の理論が理解できたかは分からないが、それでも同行を考える価値はあると思った。
――あの瞬間までは。
美樹さやかが、ソウルジェムの穢れが限界に達したとき、どんな事態が起きるか分からないと言うまでは。

「……どんなきっかけで、精神の汚染が進むかも分からない現状だ」

さやかは最後に見せた呪詛に淀んだ瞳を無機質に曇らせて、口を半開きにして死んでいる。
これがソウルジェムを――魂を破壊された者の末路なのだろう。
哀れだとは思うが、可哀想だと同情を寄せるつもりは毛頭ない。
まして、自分がしたことを謝罪する理由などどこに在ろうというのか。

「君の話を聞く限りだと、魔法少女の契約には様々な裏があったんだろう。――なら、危険すぎる」

美樹さやかは――否、魔法少女は正義の存在などではない。
いずれ絶望を引き起こすかもしれない、危険因子だ。だから、殺した。
スカリエッティ打倒の障害となるような存在を生かしておく理由はどこにもないのだから。
切嗣の脳裏で、既に一つの行動方針が設定された。

それは、『魔法少女の殲滅』だ。
絶望に化ける前に、ソウルジェムを砕いて殺害しておく。
そうやって他の参加者に危害が及ぶことを防ぐ。
魔法少女に漬け込むのは簡単だ。
自分はグリーフシードを持っている、これを餌にすれば美樹さやかのように簡単に信用されるだろう。
それに――もし信用されずとも、実力行使で排除すればいいのだ。

自分は何としても冬木へと帰らなければならない。
人類が追い求めてきた恒久的な世界平和を実現するために、聖杯を獲ることは譲れないのだから。
命を捨てるような真似は出来ない。
それでいてスカリエッティを殺し、脱出することを実行するには――片っ端から、危険人物を排除するしかない。

「少数の危険を排除して、多数の生命を救う」

呟いたのは、ずっと自らに課してきたやり方。
超究極的な合理主義のカタチにして、誰かを救うために誰かを殺す矛盾の螺旋。

ここには、共に仕事を行ってきた少女はいない。
自らが人間性を目覚めさせ、心から愛したホムンクルスの女もいない。
その愛した女との間に生まれた最愛の娘なんて、いるはずがない。
自らに関連する者でここに存在するのは、騎士道なんてものにすがる憐れな英雄様。
残りは全て殲滅すべき敵だ。
聖杯をめぐる戦争でどうせ殺さなければならないのなら、この場で排除しておくのも悪くないだろう。

「――行くか」

ちらりと腕を見れば、残り三画フルで残されている、自らの傀儡への絶対命令権。
理想に破れた男・衛宮切嗣は――自らが殺した少女に意識を向けることもなく、体育館を立ち去った。


【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]健康、セイバーの令呪(3/3)
[装備]IMIウージー(24/32)@現実、コンテンダー・カスタム@Fate/Zero
[所持品]基本支給品一式、IMIウージーマガジン(7)、煙草(13/15)@現実、グリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ、マッチ一箱(現地調達)@現実
[思考・行動]
0:スカリエッティを殺しての実験打倒
1:危険人物の排除。セイバーとの合流はとりあえず考えない
2:魔法少女は危険。
3:聖杯戦争に参加しているサーヴァントやマスターは極力殺すが、場合によって対応する
※四巻、ランサー陣営壊滅後からの参加です
※起源弾は支給されていません


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実験開始 真庭鳳凰 [[]]
実験開始 衛宮切嗣 [[]]
実験開始 美樹さやか GAME OVER

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最終更新:2012年12月05日 17:22