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 かつーん、かつーんという音が、暗闇の中に響いている。
 音の響く方向で、ぼんやりと輝く光がある。
「ったく、とんだ嫌がらせもいいとこだわ……」
 ぶつくさとぼやく女の声は、ティアナ・ランスターのものだ。
 指先に照明代わりの魔力スフィアを光らせ、洞窟の闇を進む彼女の姿があった。
 そりゃまあ確かに、機動六課所属である自分は、スカリエッティにとっては仇敵だ。
 でもだからといって、こんなフィールドの片隅に――それも洞窟の中に飛ばすこともないだろうが。
 (ちなみに、ここからそのままマップ外に繋がっていないかとも考えたが、そちら側は途中でふさがっていた)
「……それにしても、今になってスカリエッティとはね」
 先ほどの光景を、追想する。
 自分達の目の前に現れたのは、まぎれもなくあのスカリエッティだ。
 逮捕したはずの犯罪者が、脱獄してまた犯罪を犯した――そこまでならあの男なら、あるいはやらかしても不思議ではないと思う。
 元々あの男は、JS事件が起こる以前から、散々管理局の手を焼かせてきたそうなのだ。
(でも、だからってこれはふざけすぎてる)
 よりにもよってその犯罪の内容が、いくら何でも悪質すぎる。
 命を奪うことに対しては、さして興味がないように見えた男が、ここに来てバトルロワイアルだなんて。
(絶対に止めなくちゃ)
 そう、固く心に誓った。
 拘束していたあの男を、再び野に放ってしまったのは、それを許した管理局の責任だ。
 上司であるフェイトの命を奪い、60人近くの人間の命を、こうして危険に晒しているのも、全て管理局の責任だ。
 だからこそ、責任は取らねばならない。
 自分達管理局の職員が――他でもないティアナ・ランスター自身が、このゲームを終わらせなければならないのだ。
「出口か……」
 行き止まりから引き返して、数分ほどは歩いただろうか。
 真っ暗なトンネルの向こうに、僅かな色素が見えてきた。
 外は夜だそうだから、陽光の出迎えは有り得ない。
 それでも、月光が差している分、洞窟の外の風景は、ここよりはまだ明るく見えた。
《誰かがいます》
 不意に、手元から声が響いた。
 腕時計に似た形状で待機させている、アームドデバイス・ストラーダ。
 本来は、同僚エリオ・モンディアルのものだ。
 近代ベルカ式な上、近距離戦闘タイプである彼に合わせたデバイスは、ミッド式射撃型の自分とは相性が悪い。
 それでも、何の補助もないよりはマシだろうと、常に使えるように腕に巻いていた。
 そのアームドデバイスが、何者かの気配を察知したのだ。
「そこにいるのは何者か?」
 ティアナが警戒すると同時に、気配の主は声をかけてきた。
 洞窟の出口に現れたのは、金髪の男の影だった。
 否、人影という表現は、果たして適切なのだろうか。
 首元と両手首に巻き付けた、黄金色のアクセサリーは、この薄い月明かりの下でも、ぎらぎらと光を放っていた。
 これ見よがしなデザインは、豪華ではあるが、どこか下品だ。
「……私は時空管理局の、ティアナ・ランスター二等陸士です」
 若干眉根をひそめながらも、ティアナは問い掛けに答えた。
「時空管理局……?」
 しまった、管理外世界の人間だったか。
 訝しげな男の反応に、ティアナは内心で舌を打つ。
 魔法も次元も知らない世界に、不用意に情報を与えるのは、その世界にいい影響を与えるとは言えない。
 いきなりヤブヘビを突いてしまったか、と、己の不用意さを恥じた。
「まぁよいわ。その光から察するに、大方魔術師の寄り合いであろう?」
 不敵に笑う男が示すのは、ティアナの指先の魔力スフィアだ。
 魔術師、という聞き慣れない呼び方が気になったが、どうやら、魔法に対する知識はあるようだ。
「ええ。おっしゃる通り、これは魔法で明かりを――」
「魔法? は――これは滑稽だ。その程度のちゃちな手品が『魔法』であるなら、時臣とて苦労はせぬものよな」
「……は?」
 この時、ティアナは未だ知るよしもなかった。
 自分の思わぬ失言が、この、先多大なる面倒を招くことになることを。



 金髪の青年は、名をアーチャーと名乗った。
 あからさまな偽名ではあったが、「いずれおのずと分かろう」と、本名を教えてはくれなかった。
 問題は、支給された名簿には、顔も名前も載っていなかったことだ。
 一瞬、変身魔法でも使っているのかと、その素性を疑ったが、
「たわけ。天上天下、無二の王たるこの我(オレ)の姿が、そう簡単に真似されてたまるか」
 何故かはよく分からないが、妙な説得力のある語調だった。


「――つまり、あたし達の魔法は、体内に宿ったリンカーコアから、魔力を汲み取って発動するものです」
「魔術師共の回路とは、そもそもの特性が異なるわけだな。
 あれは魔力なるものを、生命力から変換すると聞いている」
「あたし達の世界では、生命力と魔力は別物ですね……リンカーコアはそれ自体が、独立した動力源となっています」
「我にもそのリンカーコアとやらはあるのか?」
「可能性は低いと思います。
 魔法を持たない管理外世界では、リンカーコアを持つ人口そのものが、まず圧倒的に少ないですから」
「ふん、つまらんな」
(ああ、もう……何やってんだろ、あたしは)
 あまりの面倒臭さと情けなさに、ティアナは内心で自嘲した。
 先ほどからこんな調子のやり取りが、もう随分と長いこと続いている。
 この男はまるで底なしだ。アーチャーなる男は、次から次へと、更なる言葉を要求してくる。

 こんなことになったのは、先ほど、自分の使う魔法について、うっかり口を滑らせたことが原因だ。
 どうやら彼の住む世界では、「魔法」という言葉の定義が、ミッドチルダとは大きく異なっているようだった。
 ティアナ達の言う魔法とは、彼らの世界で言う「魔術」に相当し、その上位の法こそを魔法と呼ぶようだ。
 厄介なことに、アーチャーは、ミッド式の魔法に興味津津となった。
 何でも、彼らの魔術とは、ミッド式の魔法ほど、万能性を有してはいないそうなのだ。
「我の臣下に学ばせれば、多少は役立つかもしれん。雑種、我に貴様の魔法を説いてみよ」
 何とも尊大な態度で、何とも自分勝手な要求を、アーチャーは突きつけてきたのだった。

「魔法とは、すなわち実現不可能な神秘だ。
 空飛ぶ船のない時代に、独力で空を飛ぶ魔術。これもかつては、魔法と呼ばれていたという」
「つまり魔術とは、物理法則の範疇で実現可能なことを、魔力で実現しているに過ぎないと?」
「人が外なる世界へ渡るという、貴様らの世界で言う魔法は、我の世界では、魔術とは呼ばぬということだ。
 ……まぁ、我がその気にでもなれば、一夜にでも塗り替わる常識ではあろうが」
「ああ、そう」
 いい加減自分の口調も、乱暴になってきたかもしれない。
 さらりとしたり顔をかますアーチャーに、ティアナはそれだけを返した。
 とにかくこの成り金(多分)男は、信じられないほど傲岸不遜なのだ。
 さながら息をするかのように、傲慢な発言をぶちかましてくる。
 その自分勝手に付き合わされる身としては、とてもたまったものではない。
「錬金術を知っているか? 平たく言えば、魔力で物を作る技だ。あれこそは魔術の顕著なるものだな」
「まぁ、フィクションで読む程度には」
「錬金術の初志とは、すなわち、鉄屑より黄金を得ることだった。
 だが、それこそ叶わぬ魔法であり、つまりは実現不可能な奇跡であった。金は金からしか生まれ得んのだ」
「………」
「すなわちそれこそが、魔術の限界というものだそうだ。無から有を生む技とはなり得ん。
 斯様な奇跡を成しうるものは、まぁ、せいぜいが我くらいの――」
「……ああ~、もうっ!」
 いよいよ我慢の限界だった。
 これまでの鬱憤を叩きつけるように、ティアナは思いっきり怒鳴り声を上げた。


「何だ、騒々しい」
「いい加減にしてください! いつまでこんなことをやらせるんですか!
 こんなことをしているうちにも、どこかで殺し合いが起きているかもしれないんですよ!?」
 もうこれ以上はたくさんだ。
 何せこの男と会ってから、この洞窟の入り口に留まったまま、一歩たりとも動けていないのだ。
 今に何が起こっているか分からない。同じ六課の仲間達や、まだ見ぬ人々の誰かが、危険に晒されているかもしれない。
 それを未然に防ぐためには、すぐに行動を起こさなければならないのだ。
「まぁ、違いあるまいな。で、それがどうしたというのだ?」
 そんなティアナの怒りに対する、アーチャーの返答が、これだ。
 けろり、という表現がピッタリ当てはまるように、何事もなく言ってのけたのだった。
「どうしたって……貴方はこの殺し合いに対して、何も思うことがないんですか!?
 こう、やられる前にやるとか……こんな殺し合いは止めてやるとか!」
「ないな。いかなる状況であろうが、我が死ぬことなど有り得ん。
 であれば、見えている結果への過程になど、一体どれほどの価値がある?」
「なっ……」
 一瞬、言葉を失った。
 こうまで清々しく言い切られると、こちらも反応に困るというものだ。
 要するにこの傲慢男は、自分がこれから何をしようと、極論何もしなかろうと、
 自分が最後まで生き残るのは当然だと、本気で考えているのだ。
 だから、それまでに何が起ころうと、自分の知ったことではないというのである。
 こうなると、生命への無頓着を怒るより先に、呆れの方が浮かんできた。
「逆に問うが、貴様の望みこそ何だ? 聖杯のお零れにでも預かるつもりか?」
「それは……殺し合いを止めることです。こんなふざけた実験なんて、絶対に認められませんから」
「なるほど。まぁ確かに、我も趣味がいいとは言えぬな。
 人が人を殺せば、つまらぬ罪罰で迷おうものだ。その手の苦しみは、我としては、面白みに欠ける」
 中には例外もいるようだが、と。
 言い終えると、アーチャーはしばし沈黙した。
 顎に指を添えるその仕草は、何やら考え事をしているようだ。
「……よかろう。ではこれ以降の話は、歩きながら行うことを許す。
 この遊戯を終わらせたいのであれば、道中で好きにすればよかろう」
「え? は、はぁ……」
「ただし、道を決めるのは我だ。貴様の死に場所を決めるのもこの我だ。
 貴様の魔法を語り終える前に、勝手に死ぬことは我が許さん。……分かれば行くぞ。ぐずぐずするなよ」
 そう一方的に言い終えると、アーチャーはくるりと踵を返し、さっさと歩いていってしまった。
 ティアナの事情も意見も何も、一切確認することなく、王様は我が道を進んでいったのだ。
「……もうっ!」
 理不尽だとは思う。正直、ついて行けないと思う。
 それでも放っておくわけにもいかず、ティアナはその後へと続いた。
 実際、どういうわけかは知らないが、何故だかあまり逆らいたくないと思うのも、それはそれで事実なのだ。


【一日目/深夜/E-1 洞窟入り口】

【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]健康
[装備]ストラーダ(待機形態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・行動]
0:実験を打倒して、スカリエッティを今度こそ確実に逮捕する
1:不本意ながら、アーチャーについて行く
2:アーチャーにミッドチルダの魔法について教える
※最終話、機動六課解散直前からの参加です
※アーチャーの真名を知りません

【アーチャー@Fate/Zero】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×3
[思考・行動]
0:殺し合いについてはどうでもいい。最後に生き残るのは自分なのだから、どうなろうと知ったことではない
1:ティアナから、ミッドチルダの魔法について情報を得る。
  彼女が知る全てを語り終えるまで、勝手に死ぬことは許さない
2:ミッドチルダの魔法に興味。臣下に習得させることができれば、魔術よりは役立つかもしれない
※具体的な参戦時期は、後続の書き手さんにお任せします



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実験開始 ティアナ・ランスター [[]]
実験開始 アーチャー [[]]

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最終更新:2012年12月05日 17:18