一部の金をもて余した富裕層を楽しませるため秘密裏に執り行われている『ゲーム』もその一つだ。
年齢や職業を問わずに集めた十数の人間たちに、早い話が殺し合いのゲームをさせる。
動く額は数千万単位。
何度も何度も繰り返されてきた『ゲーム』だが、結局一度とて公にされることはなかった。
もしも誰かが公にしようものなら、命の保障は間違いなくされないからだ。
――それでも、この『ゲーム』はつい先日終わりを告げた。
一人の少年の手によって。
一人の少年が中心となって反逆を起こし、とうとう『ゲーム』そのものを破滅へと追い込んだのだ。
綺堂渚という女性もまた、その瞬間に立ち会った一人である。
「……また、なのね」
物憂げに呟くその顔色は優れない。
二十歳を過ぎているとは思えない童顔に、更に若々しさを強調する少女趣味の洋服。
ただし、物腰からはどことなく只者ならぬものが漂っていた。
彼女は、『ゲーム』に何度も参加した。
家族を人質に取られて仕方なくではあったものの、人の生き死にに近くで関わり、時には自らの手さえ汚した。
そんな彼女だったが、今は殺し合いに乗る気など毛頭ない。
渚の中に巣食っていた諦めは、最早完全に消えている。
裏切り者の自分を迷うことなく許し、絶対に不可能とされた『ゲーム』の打倒を成し遂げたあの少年のおかげで、渚にも『希望』というものが芽生えていた。
彼と出会うまでは、他人を信じることすら嫌悪していた自分がだ。
その変化を言葉で表すとすれば、恐らくそれは恋慕にも親い感情なのだろう。
(総一くんに麗華ちゃん……あとは高山さん、手塚さんか)
件の少年は、名前を御剣総一という。
彼が殺し合いに乗る様なんて想像もできないし、天地がひっくり返ってもありっこないと断言できる。
彼の強さは、今回も誰かの支えとなる筈だ。
自分のように――誰かの心を、助けられる筈だ。
八幡麗華。彼女もまた、『ゲーム』打倒を成し遂げた仲間。
頭がよくて理解が早い、こういう言い方はあれだが、本当に優秀な人材だと渚は思う。
そして、高山浩太と手塚義光のふたり。
彼らは強い。
ゲームを何度も経て『慣れ』を得ている渚でも、個人としての能力でなら彼らには遠く及ばないのだから。
思想は総一とはまるで似つかないけれど。
手塚は面白そうな方を選ぶだろうし、高山は確実に勝てる方を選ぶだろう。
こればかりは、会ってみないと分からない話だった。
「なんにせよ、まずは探さなきゃね。後は、他の参加者とも合流しないと」
渚は慣れたように、自分のやるべきことを整理していく。
今回の『実験』で一つ幸いだったのは、この『首輪』にまだ僅かでも取り付く隙がありそうなことだった。
だから、いずれはこれを抜け道で解除することになる。
ただ、それはひとまず後回しだ。
自分だけの知識で取り掛かっては、無駄に命を散らしてしまう可能性の方が明らかに高いのだから。
(総一くん――……)
頭の中に、あの頼もしい少年の笑顔が再生される。
それと同時に、胸の鼓動がとくん、と早まったのを感じた。
この感情が何なのか理解できないほど、綺堂渚は鈍感な人間ではなかった。
――自分は。
――自分は、きっと――。
(……うん)
自分に言い聞かせるように頷いて、渚は小さく笑う。
気持ちははっきりしているけど、きっとライバルは強力だ。
そんなバトルが、この『実験』が終わった後に待っている。
――まずは、これを終わらせなきゃね。
渚は、中学生のような童顔を決意の凛々しさで彩って、右手の銃を握る力を強めた。
支給されたのは銃。銘柄はFN-Five seveN。間違いなく当たりに分類されるだろうそれだ。
いざとなれば、これの引き金を引く瞬間も来てしまう。
そうならないことを願いたいが、皆が皆殺し合いに背くほどこの世界が平和ではないと、渚は知っていた。
もしも、自らの欲望のままに殺す『救いようのない悪』が現れたなら――その時は。
その時は、この銃で生命を奪わなければならない。
絶対に誰も殺さないという平和ボケした理想は身を滅ぼす。
それに、総一や麗華を守るためならば、これを使って罪を犯す覚悟はとっくに決まっていた。
――夜の学校とは、いつの時代でも不気味なものだ。
渚の初期配置地点は学園エリアの廊下ど真ん中。
思わず、最初に目を開けた時には背筋に冷たい物を感じてしまった。
窓から射し込むほんの僅かな光でさえも、おどろおどろしい雰囲気を引き立てるスパイスに早変わりする。
明かりを点ければ視界も晴れるし気分も回復するだろうが、そんなことをするのは流石に自殺行為だ。
仲間集め云々の前に、下手をすれば敵さえ引き付けてしまう。
(懐かしいなー、こういうのも)
渚にとっては既に学校生活は数年前のものだ。
こうして改めて訪れると、当時は当たり前だったものがどこか新鮮に見える。
――こんな状況なのだけが、水を差していたが。
「ふっ、運が悪いな、おまえも」
渚は、声が聞こえるまでその気配を感知できずにいた。
闇に包まれた廊下に突如響いたのは、総一より若干大人っぽいくらいの声。
しかし、その声に籠められた感情は総一の優しく暖かいそれなんかとは比べ物にならない。
比べ物にならないほどの――敵意があった。
「っ」
渚は銃を構える。
相手が説得でどうにかなりそうな相手なら、これは威嚇のままで終わってくれる。
渚もそれを望んでいた。
「運が悪いのは、お互い様かもしれないな。俺も正直、これには参ってるんだ」
廊下の向こう側から、一人の異様な少年が姿を見せた。
体格は引き締まっていて、袴を着た姿は非常に絵になる。
――が、表情を包み隠す派手な仮面が戴けない。
どこかの部族で使っているような派手なそれを被ったまま真剣な声を出す少年は、もはや間抜けなレベルのシュールレアリスムを周囲へと撒き散らしていた。
その手に持っているのは一本の刀。
鋭い光沢を放つそれは、少年の袴姿と相俟って余計に彼の持つ『雰囲気』を洗練させている。
例えるなら、侍のようだ。
「しかし、ここで会ったからには覚悟しろ。俺には理由がある――その為におまえを殺すんだ」
その声に冗談や悪ふざけの色は欠片も見られない。
一本の剣のように清澄な殺意は、被った奇抜な仮面の可笑しささえ塗り潰すように、真剣なそれだった。
「……私は死にたくない。だけど、君を――」
「悪いが、話している時間も惜しいんだ。こちらからいくぞ」
説得を試みようとする渚だが、袴の少年は一切耳を貸す素振りさえ見せない。
年でいうなら総一と然程変わらないだろうに、その覚悟の色だけは今までに見てきた『ゲーム』のどの参加者よりも色濃く、ここで死ぬことは出来ないという強い意思が空気を伝って、渚まで伝わってくるようだった。
――銃以外の武器はない。
交渉決裂とはいかずとも、まずは無力化しなければ。
「……ごめんね!」
渚が発砲する。
狙うのは腕。腕なら、きちんと処置をすれば大事には至らない筈だ。
とてもじゃないが、二十歳そこそこの女の腕前ではない。
殺し合いの遊戯に慣れた渚だからこそ可能な、一般人を上回る射撃の精度が少年へ襲い掛かる。
一方の少年は避ける素振りを見せないまま、刀を振り上げた。
(え?)
渚は心の中ですっとんきょうな声を漏らしてしまう。
まさか、そんなわけがない。
そんなこと、できるわけが――――
「せいやぁッ!!」
きぃぃん、と鋭くも美しい金属音が鳴った。
少年の体にも、刀にも何の外傷もない。――弾丸は、真っ二つに割れて廊下へと転がった。
彼は、迫ってきた銃弾を刃の一振りで両断してのけたのだ。
無論、それは決して容易な技能ではない。
激しく高い腕前と、刀の精度が合わさって初めて可能な、プロ顔負けの超人的芸当である――!
(……間に合わないっ!?)
渚がもう一発を撃ち込むよりも先に、少年の斬撃は銃口を真横から捉え、破壊は叶わなかったが、叩き落としてのけた。
拾おうとする渚に、しかし少年は微塵の容赦もなく業物を振り上げる。
「……本当に、済まない」
少年は悲痛そうにそう漏らすと、刃を容赦なく渚へと振り下ろそうとし――――
「……?」
肉体が半透明に透けている、一人の少年を見て刃を止めた。
◆ ◇
「やあ、お楽しみのところ悪いね」
へらへらと笑いながら、かつかつと音を立てて猫目の男が歩いてくる。
年齢は高校生くらいだろうが、彼もまた纏っている雰囲気は随分と肝が据わっている様子だった。
こんな状況にも関わらずへらへらと笑っていられる時点で、彼もまた只者ではないことを予感させる。
丸腰ながら全くそれが弱点に見えない――彼の余裕があまりにも完璧で、崩せる気がしないから。
しかし、やはり何より目を引くのはその身体だろう。
胴体の辺りが半透明に透けていて、向こう側の空間がのぞいている。
これには袴の少年も驚いたらしく、思わずその刃を止めてしまったようだった。
渚も信じられないような物を見る目で猫目の少年を見つめたが、死人のようにはとても見えない。
顔色はちゃんと血色があるし、大体幽霊がいたとしても、こんなにへらへらとは笑わないと思う。
人を小馬鹿にしたような笑顔を浮かべ続ける猫目に、袴の少年は先に刃の切っ先を向けた。
銃を取ろうとした渚だが、それは刀で更に遠くへと飛ばされ、拾いに行こうものなら、間違いなく袈裟斬りにされるのが目に見えている。
何せ、銃弾を切り裂くようなデタラメな相手だ。
まともに戦って勝てるかと問われれば――答えはノーである。
「妙な奴が出てきたな。やれやれ、ちゃんと刃が通ればいいのだが」
「え、マジで? これで驚いて卒倒とかしないの? それはちっと計算外なんだけど……」
……どうも、猫目の方の少年は自らの姿だけで相手を戦意喪失させてやる気でいたらしかった。
その意図に反して、袴の少年は一切臆する様子がない。
明らかに猫目が引き攣った表情をした。
「ふん、笑わせるな。今更幽霊くらいで驚けるものか」
鼻で猫目の少年を笑い飛ばすと、間合いが詰められていく。
もちろん丸腰の猫目に対抗手段なんてものがあるはずもない。
見たところ体格も並のそれで、格闘技の構えを取るような素振りも全く見せない。
ただ引き攣った表情で少年を見つめ、そして。
「うっそ、だろ……!?」
肩口から脇腹にかけてを刃が駆け抜け、純粋なる紅色の液体がぶしゅううう、と音を立てて吹き出した。
がくんとその身体から力が抜ける。人間の死とは、本当に呆気ないものだ。
渚は飛び起きて、袴の少年が何か反応する前に銃の転がっていった方に駆け出し、銃を拾った。
――対話は、不可能かもしれない。
逃げるか、それとも戦うか。後者の場合、その意味合いはずっと物騒なものへ変化することになるのだが。
「…………」
無言のまま振り返った袴の少年の姿は、やはり顔面に被った仮面のせいで異様なものとなっていた。
自らを隠して修羅に染まる――そのための、仮面。
彼は完全に覚悟を決めているようだし、もはや交渉をするのは絶望的といえた。
ざっ、と彼の足が一歩を踏み出す。
渚も銃を構える。
どちらかが死ぬか、どちらかが生き残るかの勝負が始まろうとした、ちょうどその瞬間(とき)だった。
ばちん、と殺虫蛍光灯のような音がしたのを渚は聞いた。
訝しげに目を細めた時には、あれほど屈強な印象を受けた袴のシルエットが今度は崩れ落ちた。
その先に見えたのは、つい先ほど斬り伏せられた筈の猫目の少年の姿。
袈裟斬りにされた傷口はどういう原理なのか見当たらず、出血している様子など全くといっていいほどない。
万全の体調であることは、その変わらぬ笑顔から窺えた。
「改造スタンガン、だってさ。それじゃお姉さん、自己紹介タイムとでもいかない?」
◇ ◇
目を欺く能力。
それが少年――鹿野修哉こと『カノ』の語ったこと。
なんでも、周りの人間たちの目を文字通り『欺く』ことができる能力らしい。
渚にはとても信じられないような話だったが、彼女もカノの身体が変貌しているのを見ていた。
原理は本人にも分からない。ただ、同じような能力者は他にも複数名存在している、とのことだった。
しかもその能力者たちが、この『実験』には彼を除いて四人も参加させられているというから驚きだ。
「まあ、僕の能力は未熟でね。自分の身体にしか使えないっていう、なかなか不便な力なんだよ」
そんな風に彼は称したが、その力がなければ今頃、自分は文字通りバッサリやられていた可能性だってあるのだ。
彼には感謝しなければいけなかった。
倒れた袴の少年の手首には手錠がかけられていて、鍵はカノが持っておくということで落ち着いた。
ここで放置を選べば、他の誰かが殺されてしまうかもしれないからだ。
それに、彼とはろくに話すことも出来ていなかった。
対話を経てもしも引き返してくれれば、それ以上のことはないと渚は思う。
「とりあえずキド達と合流したいんだよね、僕は。ああ、安心してよ。殺し合いをする気は全く無いからサ」
軽い情報交換と自己紹介を交わして、互いの参加者名簿に○をつけていく。
合流すべき相手が一目で分かるようにするための工夫だった。
女は希望を胸に。
猫目は笑いながらも、実験打倒を掲げ。
袴の少年は未だ意識を取り戻さない。
――果たして、彼らの辿り着く結末は何処なのだろうか。
【一日目/深夜/H-1 学園】
【宮沢謙吾@リトルバスターズ!】
[状態]気絶、ステータスアップ
[装備]マスクザ斎藤のマスク@リトルバスターズ!、絶刀・鉋@刀語
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×1
[思考・行動]
0:優勝して聖杯を手に入れ、リトルバスターズを救う
1:…………
※Refrain開始直後からの参加です
※マスクザ斎藤のマスクのおかげで、ステータスが上昇しています
【鹿野修哉@カゲロウプロジェクト】
[状態]健康
[装備]改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・行動]
0:実験に興味はないから、早く元の世界へ帰れるようにする
1:渚さんと行動。キド達を探す。
2:だけど、まずは袴の子が起きるまで待とう。
※参戦時期は、シンタローが目覚めてから遊園地にいる間の何処かです。
※『目を欺く能力』に制限はありません。
【綺堂渚@シークレットゲーム-KILLER QUEEN-】
[状態]疲労(小)
[装備]FN-Five seveN(19/20)@現実
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・行動]
0:実験を打倒して、今度こそ日常へ帰る
1:カノくんと行動。総一くん達を探す
2:袴の少年が起きるまで待つ
※Episode4終了後からの参加です
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投下順で読む
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| 実験開始 |
宮沢謙吾 |
[[]] |
| 実験開始 |
鹿野修哉 |
[[]] |
| 実験開始 |
綺堂渚 |
[[]] |
最終更新:2013年03月19日 11:00