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 ――――ディルムッド・オディナには、願いがあった。
 「今度こそ主を護る刃でありたい」という、一片の穢れもない、純粋な望みがあった。
 生前果たせなかった忠義を、今度こそ果たしてみせたい。
 それさえできれば、聖杯なんて物の事など、どうでも良かった。
 主がどんな願いを聖杯に託していようが、己の忠義さえ貫ければ、彼は満足だった。

 だが、彼のその祈りは、無残にも打ち砕かれることとなる。
 二度目の死は、またしても主の裏切りが原因であった。
 令呪を用いた自害の命令は、ディルムッド本人の意思とは関係なく、彼を死に導いたのだ。

 心臓に突き刺さった槍の感触は、脳に深く刻み込まれている。
 死の間際の彼の風景――自分を見つめる数人の人間達の姿――も、鮮明に思い出せる。
 あの黒衣の男こそが、セイバーの真のマスターだったのだろう。
 となると、セイバーも彼の指示に従っていた可能性が高い。
 あの堂々とした佇まいも、ディルムッドに見せた騎士道も、何もかもが演技だったのである。
 自分は所詮、それに踊らされていた只の道化に過ぎないという訳だ。

 主と戦友の裏切りは、ディルムッドのあらゆる誇りを無に返した。
 彼らの行いは、ディルムッドの生き様に唾を吐き捨てたようなものである。
 そしてその行為は、彼の「祈り」を「呪い」に変貌させるのには、十分すぎる。



■ □ ■ □


「聖杯……だと……ッ!?」

 己を導いたその願望器の名前を、ディルムッドは憤怒に満ちた声色で言った。
 聖杯――七人の英霊の魂を代価に、あらゆる願いを現実のものとする万能の釜であり、
 そして同時に、聖杯戦争の勃発の原因となった代物である。
 ディルムッドもまた、その万能の釜によって、「槍兵」の英霊として現世に蘇った存在なのだ。

「貴様らは、そうまでして願いを叶えたいのか……ッ!?
 幾多の祈りを踏みにじってまで、貴様らは願いを叶えたいのかッ!?」

 今の彼にとっては聖杯など、憎悪の対象以外の対象でしかない。
 願望器に群がった亡者共のせいで、ディルムッドの誇りは徹底的に穢されたのだ。
 それらの亡者を呼び寄せた切欠となった聖杯を、彼が憎まない訳がない。

「どこまでも醜悪だ……ッ!貴様ら亡者共は……どこまでも恥を知らん……!」

 そう嘯くディルムッドには、かつて義を重んじた騎士の面影など、何処にも見当たらない。
 目は血涙を流さんとばかりに充血し、かつて「輝く貌」と謳われた美貌も、
 地獄の鬼と見間違えてしまう程にまで、醜く歪んでいた。
 彼の内側で猛り狂う憎悪の念が、彼をここまで変えてしまったのである。

「……いいだろう。貴様らがそうなら、俺にも考えがある」

 そう言って、デイパックから一振りの槍を取り出す。
 身の丈3メートルという、槍としては少々歪なサイズのそれは、
 説明書きによれば「主君の槍(グングニル)」と呼ばれているらしい。
 これまで所持していた「破魔の紅薔薇」と「必滅の黄薔薇」が手元にないのは残念ではあるものの、
 この槍も相当な業物であるが故に、十分双槍の代用品になり得た。



「貴様らと同じように、この俺も願いを踏みにじる亡者となろう。
 俺はこれより、憎しみに仕える悪鬼として、この殺し合いに参じようではないか」

 冷静に、しかし内心に激情を潜ませながら、ディルムッドはそう宣言する。
 二度の屈辱的な死で、彼は己の騎士道の無意味さを痛感させられた。
 そして同時に、この世界が如何に自分を拒絶しているかを思い知らされた。
 自己の存在意義を、運命を以って否定した世界を、一体どうして愛せるだろうか?
 最早この世界には、ディルムッドが情愛を抱くようなものは一つとしてありはしない。
 彼にとっては、この世にあるありとあらゆる全ての物など、己の憎しみをぶつける対象でしかないのだ。

「名利に憑かれ、俺の祈りに泥を塗った亡者共め……!
 断じて許さん――聖杯もろとも、地獄の底に叩き落としてくれる……ッ!」

 先程とは一転して怒りに震えるディルムッドが、手にした槍を掲げ上げる。
 するとどうだろうか――彼を中心に突風が巻き起こり、辺りの塵屑を吹き飛ばしていくではないか。
 これがこの「主神の槍」の真なる能力――あらゆる天候の操作である。
 天変地異を支配するこの力は、災害の如く災厄を振り撒くであろうディルムッドに、実にお似合いな能力であった。

 彼を突き動かすのは、騎士道ではなく憎しみ。
 彼を支えるのは、誇りではなく怒り。
 最早そこに英霊としての誉れはなく、ただ呪いを振き散らす悪鬼の姿がそこにはあった。

 疾風はやがて焔となり、周囲を燃やし尽くさんと暴れ始める。
 それはまるで、ディルムッドの怒りがそのまま顕在したかの様だ。
 事実、これこそが今の彼が望む風景。
 原初の地獄をここに再現し、聖杯ごと全ての願いを焼き尽くすのが、今の彼の"願い"。

「貴様らにも思い知らせてやろう……この俺の屈辱を!この俺の憎しみを!
 全身を引き裂かれ、絶望に身悶えしながらッ!このディルムッドの怒りを思い知るがいいッッ!!」

 かつて騎士だった者の目に残るのは、全てを呪わんとする憎悪のみ。
 そこには、最早一片の希望すら存在しはしない。


【ランサー@Fate/Zero】
[状態]健康、深すぎる憎しみと強すぎる怒り
[装備]主神の槍(グングニル)@とある魔術の禁書目録
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・行動]
0:騎士ではなく悪鬼として生きる。
1:参加者を見つけ次第、殺す。
2:自分の槍を取り返す。持っていた者は勿論殺す。
※死亡後からの参戦。
※怒りに支配されて冷静な判断ができなくなっています。




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最終更新:2013年03月19日 12:38