エリア・市街地にて、夜風を受けながら佇む一人の人間の姿があった。
金髪のショートカットが僅かに靡き、人間は何かを考えるように、しかし確かな佇まいでそこに存在していた。
ここは殺し合い。生と願望への欲望渦巻く、悪しき科学者の箱庭。
――だが、堂々と存在しているその人間は、幼い少女の形をしている。
少女の名前は、北条沙都子。
本人は知り得ぬことだが、つい先日まで運命の袋小路に囚われていた、か弱き存在だ。
誰もが最悪と呼ぶ醜悪な叔父による、監禁同然の虐待生活。
沙都子は、かつて自分を守って傷付いた実兄の強さを見習い、助けを求めないことを美徳と考えた。
だが、沙都子はそんな過酷に耐えられるだけの精神力を持っていない。
たかだか小学校高学年の子どもに与えるには、その苦痛はあまりに大きすぎたのだ。
ある少女だけが知っている。
彼女を助けようとして短気に走る未来が、幾つも幾つも存在することを。
そしてその短気は結局解決に繋がらず、一つの世界の終わりをもたらす原因となることを。
全てを耐え抜くことを美徳とした沙都子。
彼女を助けようと戦う仲間たち。
結論から言って、沙都子は助かった。
『手遅れ』になる前に、仲間たちが決死の戦いを繰り広げてくれたおかげで、助かることができた。
でも、勝利を勝ち取ったのは他ならない北条沙都子だ。
叔父へと逆らえば、冗談抜きで殺されるかもしれない。
――けれどそれは、自分の兄だって同じだった筈なのだ。
辛く苦しく――痛かった筈なのだ。
だから沙都子は助けを求めることで叔父へと立ち向かった。
強くなるために。
兄の強さを、ほんの少しでも受け継ぐために。
しかし、現実は決して甘いものではなかった。
彼女を、彼女の仲間たちを待ち受けていたのは、叔父の一件が霞んで見えるほどの巨大な絶望。
叔父と比較してなお邪悪な奇人ジェイル・スカリエッティ。
その立ち振舞いはどこかオカルトマニアの鷹野三四を彷彿とさせたが、彼女とは明らかに異なる邪悪があった。
スカリエッティは実験と称して、漸く回帰できた日常を沙都子から奪い去った。
日常に戻りたくば殺し合え――聖杯を使えば、何の損失も無しに日常へと帰れる。
確かにそうだと思った。
全てを元通りにして綺麗に『なかったこと』にしてしまうのが、最善手だと沙都子はいの一番に思い付いた。
「でも……たぶん、それじゃあ駄目なんですわ」
最善手を、チェス盤をひっくり返して考える。
確かにそれは凄く素晴らしい方法だが、彼女には一つの確信があった。
――それは、『自分の仲間たちは、そんな方法で日常を取り戻しても何も喜ばない』ということ。
逆に、自分が手を血に染めて得た勝利を悲しむ筈だ。
彼らはすごく優しいから。
同時に、誰もが自分を大切に思ってくれているから。
その事実は、叔父の虐待から助けて貰った時に嫌というくらいに実感させられた。
そんな優しい人達が、誰かを犠牲にした妥協の上に成り立ったハッピーで喜ぶわけがない。
それに、これは少しばかり弱気な話だが。
常識的に考えて、一小学生に過ぎない自分が全ての参加者を首尾よく殺し尽くすことが出来るだろうか。
答えは当然ノーだ。
お得意のトラップを使えばそりゃ『いい勝負』にはなるかもしれない。
けれど、現実はそう甘くない。
優勝は現実的ではない。計算を働かせて考えても、殺し合いに乗るのはどう考えたって得策ではなかった。
日々の『部活』で多少鍛えられてはいる。
でも身体が所詮子どもに過ぎない以上、運動神経なんてものはほぼ無意味に等しい。
銃なんて必要ない。
自分を殺すなら、金属バットだって必要ないだろう。
押し倒して素手で首を絞めれば、その勢いのままに殺せてしまう。
――そのくらいに、自分は弱くちっぽけな存在なのだ。
そして、もうひとつ乗らない理由があった。
「……大体、なんですの聖杯って。そんな胡散臭い話、今日び小学生でも信じませんわよ」
それは、この『実験』の根本的な部分への疑念だ。
願いを全て叶えるという響きは確かに魅惑的。
現に聖杯という大宝具は存在するのだが、沙都子はそれを知らない。
彼女の常識で考えて、そんな虫のいい話はある筈がないと判断できた。
が、もしも聖杯の存在を知っていたとしても、彼女はスカリエッティを疑っただろう。
北条沙都子――――罠使い(トラップマスター)。
トラップとは、相手を罠へと如何にして誘うかが重要だ。
たとえば、教室の入り口に黒板消しを仕掛けるのだって、『ドアを開ける』というきっかけがあって初めて成立する。
きっかけを用意してやることで、此方の罠へと飛び込んでくれる可能性はグンと跳ね上がるのだ。
「それに、もし聖杯なんて話が本当にあったとしても。私達をこんなやり方で集めて殺し合いをさせるような方の言葉をすんなり信じろだなんて、あまりに虫が良すぎますわよ、スカリエッティさん?」
この状況は、聖杯という巨大な『きっかけ』を用いた一つのトラップだと沙都子は考える。
願いにすがりつこうとする参加者達が殺し合いを加速させ、最後にはその『聖杯』とやらを横取りする算段。
このように、仮に聖杯の話を信じるとしても、北条沙都子はジェイル・スカリエッティを一切信用しない。
仲間を傷付けるような輩の言葉が。
見せしめと称して人の命を簡単に奪う輩の言葉が。
どうして、信用できるというのか。
沙都子は逆に教えてほしい程だった。
「圭一さんにレナさん、詩音さんがいるんですのね……うん、これなら十全ですわ」
頼れる仲間は三人もいる。
各個が最強、揃えば無敵の雛見沢分校部活メンバーが三人もいる。
それだけで百人力といっても過言じゃない。
過酷な部活で鍛えられた判断力・思考力・洞察力。
どこぞの馬の骨の計画に膝を屈するようなことは、絶対に有り得ない。
何てったって、自分を助けるために村そのものを改革してくれたような最高の仲間たちだ。
彼らがいるのに不安だと弱音を吐くなんて、贅沢者もいいところ。
負けていられませんわね、と沙都子は殺し合いに不似合いな笑顔を浮かべる。
「雛見沢の人ばかり集められてる……ってわけでもない。外国の方までいるんですの?」
一体どれだけの範囲から人間を集めたのかと思うと、スカリエッティの異常さに少しだけゾッとした。
そうまでして――あの男は殺し合いをさせたいのか。
それだけの手間と時間があれば、もっと大きなことが出来るだろうに。
鷹野と似ているとは思ったが、それは流石に彼女に失礼だった。
ジェイル・スカリエッティは――変態だ。
研究に狂った、変態科学者。
……まぁ、彼女もかなりのオカルトマニアだったし、やっぱり似てるかもしれない。
鷹野さんが聞いたら怒るでしょうね、と苦笑する。
けれども、そんな情熱を注いだ計画もここで終わらせるんだ。
北条沙都子は、あの一件で強さを勝ち取った。
明確な死の気配を前にしても、臆しないだけの強さを。
悪魔のような男に、真正面から立ち向かったときに、臆病は捨てた。
今度は自分が、仲間たちがしてくれたように誰かを助ける番。
殺し合いをめちゃくちゃにして、スカリエッティに吠え面をかかせてやる番だ。
沙都子単体では、くどいようだが弱い。
ただ、仲間を集めて結束すれば弱さは強さへと変えられる。
一足す一を延々繰り返せば、百にも千にもなるように。
だからまずは仲間集めだ。そう思って、沙都子は片手に支給品の金槌を持つ。
間抜けな姿だが、無いよりはマシな筈だ。
――しかし。少女の足取りはすぐに止まることとなる。
「…………」
思わず、茫然となる。
そこには、市街地にあまりに似つかわしくない巨漢がいた。
真っ白な髭が三日月のような形を描いており、肉体も筋骨粒々で弱さを微塵も感じさせない。
老いているものの、それを踏まえても『強すぎる』と第一印象を抱かせる男。
「――グララララ……良い目をしてるな、小娘」
大海賊時代にて、最強の一角とされる男。
『四皇』エドワード・ニューゲート。
またの名を『白ひげ』と呼ばれる怪物が、堂々と君臨していた。
◇ ◇
『白ひげ』エドワード・ニューゲートが目を覚ました時、最初に抱いた感情は疑問だった。
自分はあの戦争で大事な息子を守れず、最期はかつて息子だった裏切り者に討たれ死んだと記憶していた。
なのに自分は今ここに確かに在る――赤犬の猛攻によって負った傷までもが、完全に癒えている。
殺し合いなんて生け簀かないもの、乗ってやる気はさらさらなかったが、自分が生きているのは確かだった。
それをやったのが、あのスカリエッティであることは癪だったが。
次に、名簿を見て今度は疑問以上の驚愕を覚えた。
そこには、守れなかった者の名前があったからだ。
ポートガス・D・エース――その名を見てエドワードはまず驚愕し、そして直ぐに笑顔を浮かべた。
豪快な、男らしい笑顔だった。
生きているのなら、今度こそ助けることができる。
時代は常に移り変わるものと語ったのは彼自身だが、二度目の生を無下にするほど、彼は無欲ではない。
とっととこの殺し合いをぶち壊して、エースを連れて凱旋を決める。
それが、天下に名高い白ひげの采配だった。
いざ行動を始めようとした矢先に、彼は小さな少女と出会う。
その目に浮かぶ光は――歴戦の海賊にも劣らない、確かな希望に満ちていた。
「あ、あの……ありがとう、ですわ?」
少女は明らかに困惑した様子だった。
無理もない。唐突に自分のような大男に声を掛けられては、驚くのは至って普通の道理だ。
だが白ひげ・エドワード・ニューゲートは彼女へ僅かな興味を抱いていた。
どちらにしろ、余程のクソ野郎でない限りは――纏め上げるつもりだったが。
「おれは『白ひげ』……と、言えば解るな?」
「い、いえ。存じ上げませんわ」
「なにぃ?」
『白ひげ』といえば、海賊の時代において知らぬ者はいないほどの高名だ。
それをこの少女は本当に知らない様子――それに苛立ちはしないが、不可解ではあった。
しかし些細なことだろうとエドワードはその小さな疑問を切り捨てる。
知らぬというのなら、ここで再び名を上げればいいだけのこと。
『白ひげ海賊団』が船長として、この腐った実験を粉々になるまでぶち壊すために。
此処には、いつも自分を慕っていた息子たちはいない。
いるのは一人だけ、だがエドワードにすればそれで十分だった。
元より、喜ぶべきことなのだ。
未来を生きるべきあいつらが、スカリエッティなんていうクソ野郎の計画に巻き込まれなかったこと。
こんな下らない催しのために、足を止めている必要なんてない。
どうせ自分は一度終わった人間だ。
最悪この殺し合いで再び命を落とそうとも、何も悔いることはない。
ただし――ただ一人だけ巻き込まれている『息子』だけは助ける。
それを果たすのは、『親父』としての義務だからだ。
海賊団の船長としての、『義』でもある。
そして、救うべきはエースだけにあらず。
この殺し合いに狂わされた全ての者を、『白ひげ』の名の下に守る。
殺し合いに乗った参加者がいるのなら、かかってこい。
『四皇』の一角の名は決して伊達ではないのだ。
どうも、この忌々しい首輪のせいでグラグラの能力は抑えられているようだが――それも些細。
この肉体があれば、それだけでエドワード・ニューゲートは戦える。
「――おれはエドワード・ニューゲート。またの名を『白ひげ』だ」
「私は北条沙都子ですわ。殺し合いには乗っていませんことよ」
勿論おれも乗っちゃいねェ、とエドワードは豪快に笑う。
歴戦の覇者としての風格を漂わせながら。
沙都子も釣られて笑う。
一人の少女として、しかし天下の白ひげの目に留まるだけの希望をその瞳に宿して。
生きる世界も場所も違う二人の人間が、ここに運命への反逆を決意した。
【一日目/深夜/D-5 市街地】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]健康
[装備]金槌@現実
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・行動]
0:殺し合いはしない。日常を取り戻す。
1:白ひげさんと行動する。
2:部活メンバーの皆さんも捜したい
※皆殺し編、綿流しの祭り最中からの参加です
【エドワード・ニューゲート@ONE PIECE】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×3
[思考・行動]
0:この実験をぶち壊す
1:沙都子と行動する
2:"麦わら"、エースと合流。二人は何としても守る
※死亡後からの参戦です
※グラグラの能力についての制限は、後の話に準拠します
時系列順で読む
投下順で読む
キャラを追って読む
| 実験開始 |
北条沙都子 |
[[]] |
| 実験開始 |
エドワード・ニューゲート |
[[]] |
最終更新:2013年01月26日 12:29