「…………ぇ」
ぐじゅぐじゅと湿った地面をしっかりその両足で踏みしめて、これが悪夢などではないことを確かめる。
確かめたくなんてない筈なのに、脳が自分勝手に決めつける。
認めてしまえと嘲笑う幻聴がどこからか聞こえてきたような気がした。
鬱蒼とした木に囲まれているにも関わらず、小鳥のさえずりや虫の合唱はその片鱗たりとも聞こえない、静寂。
この時ほど、少年が静寂を憎んだことはなかった。
それほどまでに、少年にとっては残酷な光景だったのだ。
鼻孔をつつく不快感溢れる生臭い悪臭と、目に映る事切れた一体の亡骸。
ああ、もういっそのこと、顔面を完膚無きまでに叩き潰してくれていたなら、こんなに衝撃を受けることはなかったかも知れない。
でも、これでは見間違いようがない。
彼女に双子の姉妹がいたなんてふざけた逃げ道はあまりに苦しすぎるし、大体彼女の面影を他の誰かと見間違うなど、有り得ないことだった。
そんなにも大きな存在だった。
言葉通りの死線を飛び越えて、幾多の死を目の当たりにして、数多くの犠牲を払った末に勝ち取った勝利。
最後まで自分に寄り添ってくれた『彼女』の存在がどれほどまでに大きく尊いものであったか、想像することも出来ない。
「典子」
その麗しい面影が、果てていた。
胸のど真ん中に開いた穴から、この世のどんな色よりも不吉な赤色が溢れ出して、ほんの一時も止まることなく流れている。
恐らくは、まだ殺されて間も無いのだろう。
その証拠に地面の血も渇いてはいなかったし、傷口は暴れるように流れ出す血で妖しく光っている。
信じたくなかった。
信じたら本当になってしまうと、現実逃避がしたかった。
けれども。その愛くるしい顔といい、着ている服といい、髪型といい、それは間違いなく彼女だったのだ。
中川典子という少女は、死んでいた。
誰に看取られることもなく、あまりにもあっさりと、死んでいた。
「なあ、起きろよ。……はは、寝たふりなんて性が悪いぜ」
ぐらりと倒れそうになる身体を、どうにか意地で地面へつなぎ止める。
そうすることでこの理不尽極まるくそったれなリアルに、ほんの少しであっても反逆が出来ると思ったからかもしれない。
だが、そうやって反骨精神を燃やすほどに、心は虚しく渇いていった。
目の前にある現実は何も語らず、ただ淡と真実だけを差し出している。
自分一人だけがみっともなく動じて逃げようとしていて、もうとっくに他の何もかもが、現実を認めているのだ。
傷心の七原秋也に即座にこの現状へ適応しろと言うのはあまりに酷な話だったが、現実の理不尽さは彼が誰よりよく知っている。
”そういうこと”については、もう十分すぎるほどに学ばされた。
あの『プログラム』で、忘れたくても忘れられない、そこにある現実の存在を突きつけられたことを思い出す。
すると、脳内は不思議なくらいあっさりと沈静化していった。
クルになる紅い視界が蒼く見えるほどに、落ち着いていく。
事故だったとはいえ、クラスメイトの頭を切り裂いて殺したこと。
自らがきっかけで引き起こしてしまった、灯台での惨劇のこと。
救うことが出来なかった殺人者・桐山和雄との一戦のこと。
最後の最後に喪ってしまった”友達”、川田章吾のこと。
そして、あの島で見てきた数多くの亡骸のこと。
頭を吹き飛ばされ、血を吐き出し、全身を穴だらけにして、立ち消えてしまった青春の痕跡のこと。
つい数日前までは馬鹿話を弾ませて笑っていた愛すべき友人達を一度に喪った、そんな『現実』をよく思い出す。
「……そうだよな。こんなもんだったよ、現実ってのは。いつだってくそったれで、ふざけきってるんだった」
七原は屈むと、事切れた典子の死に顔に優しく触れる。
開いたままの瞼を指でそっと閉じてやると、それは葬式なんかで見たことのある棺の中の死人そのものの姿になった。
典子は死んでしまった。
胸の鼓動を確かめるまでもない。
鼓動を打ち鳴らす場所に穴が開いているのだから、その行為は全くの無駄でしかない。
不思議と、静かだった。
訪れる悲しみは秋風のように肌寒く、それでいて穏やかだった。
「ちくしょう」
瞳から一筋こぼれた滴が、魂の離れた彼女の青ざめた顔へと落ちる。
音を鳴らさずに透明の液体は、典子の顔をつたって地面の血だまりへと吸い込まれて、呑まれて消えた。
そんなものだった。
現実はドラマティックでも何でもなく、ただただとにかく厳しかった。
「ほんっとさ、嫌になるよ、典子」
返事が返ってくるのではないかという僅かな期待を声に滲ませて、もう動くことのない少女へと、小さく少年は語りかける。
踏ん切りがついたわけではないが、決してくすぶらせるつもりはない。
けれど、こうでもしなければ胸の奥からこみ上げてくる、言い知れない感情の波を振り払える気がしなかったのだ。
短い間とはいえ、互いに信じ合った関係。
今は亡き仲間(とも)が託したものを、早速取りこぼしたやりきれなさ。
いろんな感情を短い言葉に乗せて、誰にも届かせるつもりのない言葉をその口から紡ぎ出す。
「俺さ好きだったんだぜ、きみのこと」
もう涙は流れなかった。
すっくと立ち上がり、静かに彼女へ背を向ける。
それは永遠の離別の際とするにはとても簡素で、呆気ないものだった。
しかしこれでいいと七原は思う。
長彼女の死を引きずっていたら、きっとやるべきこともやり通せない。
自分にはやらねばならないことがある。
この腐ったゲームを、自分の大切なものをまた奪い去ったくそゲームをもう一度根底から叩き潰す。
そのためにも、止まっている暇はないのだ。
七原は振り返ったその先を見据えんとして硬直した。
「うふふ、終わりましたかー?」
そこに居たのは、金髪の女性。
美人と呼ぶに相応しい整った顔立ちをしている。
足が悪いのだろうか、その肉体を車椅子へ預けたままで、そこにいた。
「初めまして、私は木原病理と云う者ですよ・ろ・し・く・お願いしますねぇ?」
◆ ◆
不覚だった、と七原は思う。
病理と向かい合ってそんな感情を滲ませては失礼も甚だしいので抑えてこそいるが、さっきのは本当に危険だった。
病理が殺し合いに乗っていない側の参加者だから良かったようなものの、もしも彼女が乗っている側だったら、今頃自分はこの世に亡い。
車椅子となれば音も鳴るはずであり、それなのに気配すらも察知出来なかった自分の不甲斐なさに頭を抱えたくなる。
典子の死を悲しんでいる最中を撃たれて死亡なんて、言い方は悪いが馬鹿丸出しだ。
彼女のことを真に思うのなら、立ち上がるべきなのだから。
中川典子という少女のことはよく知っている。
知らないことばかりであるのは確かだが、彼女が『良い子』であることくらい、あれだけの時間でも十分によく分かる話だ。
そんな彼女が、自分が失意の底に沈んだまま消えることを望むとは思えない。
「病理さん、ね。大変だな、車椅子なのに」
彼女に申し訳なさを感じさせてはそれこそ申し訳ないと思った七原は、おくびにも自分の感情を出さぬよう努めて話を振る。
だがそれは七原が彼女を見て最も強く思うことでもあった。
下半身不随の身で殺し合いを勝ち残れなんて、随分とひどい無茶を言うもんだなそう思った。
しかし彼女は「そうですねえ」と気さくに笑って、その後に「でもまあ、歩けても乗らなかったと思いますけどね」と付け足してみせた。
つまるところが、そんなに動じてはいないらしかった。
彼女なりに自分を気遣ってくれているのか、あの森の中での一件についてはなるべく触れないでくれている。
現在は、七原が彼女の車椅子を押していた。
車椅子で森の中を移動するのは、どうしても骨が折れる。
スポーツなどをそれなりに嗜むおかげもあってそれなりに引き締まった身体を持っている自分がエスコートするのは、至極当然のことだろう。
「そういえば、秋也くんは気になることを言ってましたね? 確か『死んだ筈の人間の名前が、名簿に載っている』とか。よかったら詳しく聞かせてもらえませんか? 私にも、ちょっと気になるところがある話ですので」
病理と七原は、軽い自己紹介と知り合いの共有を済ませてある。
七原は彼女が差し出した名簿を見て、思わず驚きの声をあげてしまった。
そこには、自分と典子だけではなく、死んだ筈の三人のクラスメイトの名前があったのだ。
川田章吾、桐山和雄、相馬光子の三つの名前が。
病理の名前はどういうわけか記載されていないとのことだったが、七原にしてみればそれどころではなかった。
だって『激戦の末に殺した相手』と『最期を看取った仲間』が、この殺し合いへ参加させられているというのだから。
「俺は、此処に来る前にこれと同じ、くそったれな『プログラム』に参加させられてたんだ。……そこで、沢山の仲間を喪った」
『仲間』なんて呼べるほど親しい間柄でなかった生徒も沢山いたが、あえてこういう表現を用いることにした。
あの島で死んでいった仲間達を、誰一人として差別したりしたくなかったからだ。
みんな、全部は政府が悪い。
彼らには何の責任もないのだから。ただ、狂わされただけなのだから。
「その『プログラム』で死んだ筈の人間が、三人ここにいるみたいなんだ。顔も一致してるし、同姓同名なんてことはないよ」
「ふむ……間違いなく、その三人は死んでいましたか?」
「……ああ、間違いない。相馬はともかくとして、桐山と川田が死ぬのはこの目で見たんだ。絶対に、死んでいたよ」
瞼を閉じればあの光景が今でも鮮明によみがえってくる。
間違いなく断言できる。あれで生きているなんて、ありえない。
どんな医療を施したって、死人を生き返らせられるもんか。
ならこの名簿にある名前そのものが嘘ということになるが、本当にあのスカリエッティとかいう男はそんな真似をするだろうか。
混乱する七原をよそに、病理は一人冷静に答えた。
底冷えするほど冷静に、事実だけを読み上げるように答えてのけた。
「私は心当たりがありますけどね。死人を”生き返らせる”方法は知りませんけど、出来てもおかしくない連中になら」
「……おいおい、勘弁してくれよ。冗談がすぎるぜ」
「冗談ではありませんよ? だって」
木原病理は当然のことを述べるように、続けた。
「あの『学園都市』の闇の底になら、そのくらいの非人道的技術くらい溢れてるんじゃないですか?」
学園都市?
七原が疑問符を浮かべたことに気付かず、病理は語る。
「第二位の『未元物質(ダークマター)』なんて、超能力を吐き出すだけの塊同然の状態でも生かされていたようですし。……まぁ、第二位なんてバケモノと比べるのは絶対適切ではありませんけど。でも、あり得ない話じゃないと思いますよ?
私が言うのも何ですけど、あの街の本当の闇は、理解することさえおぞましいくらいに狂いきってますからね」
「ちょ……ちょっと待ってくれ、病理さん」
七原は語り続ける病理に堪えきれなくなって、彼女の説明を遮った。
病理は焦った様子を見せる七原へ不思議そうな視線を向けていたが、七原にしてみればそんな目をしたいのはこっちの方だ。
彼には、病理の語ることの一割さえも理解できなかった。
学園都市。
第二位。
ダークマター。
SF小説みたいな単語を吐き出し続ける彼女の姿は不気味でさえあったし、まるで悪霊を前にしているような怖気すら覚えた。
「学園都市とか第二位とか、さ。さっぱり意味が分かんないんだけど」
「はい?」
今度驚くのは病理の方だった。
まさかそんな反応が返ってくるなんて思ってもいなかったのか、いつも冷静さを保つ彼女には珍しく、素っ頓狂な声が漏れた。
彼女の常識からすれば、七原の問いは心からアホらしいといえるほど、的を外したものだったからだ。
「……230万人の学生を抱える超能力の科学都市、学園都市。そしてその中で七人しかいないレベル5」
「いや、ごめんさっぱりだ。大東亜にそんな街があるなんて、悪いけど欠片ほども聞いたことがないよ」
「大東亜……? 何の話をしてるんですか?」
二人の人間が疑問符を浮かべて沈黙する。
互いの語ることが、驚くほど噛み合わない。
片や学生の街だ、超能力だと語り。
片やよりによって『大東亜』などと宣ってみせる。
ここまでくるとどちらかが冗談を言っているとかではなく、互いに自分の思っていることを信じているように見えてくる。
数十秒程の沈黙が続いた。
その長いようで短い静寂を破ったのはまたも病理で、彼女は閃いた、というような明るい声でとんでもない回答を吐いてみせた。
けれどそれ以外に、証明するすべなどなかった。
「パラレル・ワールドって知ってますか? ……もしかすると、この殺し合いは世界線を超えて参加者を集めているのかもしれません」
パラレルワールド。
その単語には、七原も朧気ながら聞き覚えがある。
些細なことで世界は分岐してゆき、本人達が近くできていないだけで、実際は数多の多重世界が存在しているという、SF理論だった筈。
七原の知る大東亜とは比べ物にならないほど進歩した科学技術を持つ病理の『学園都市』だが、この理論の証明は未だに出来ていない。
故にこれは、机上の空論もいいところ。
しかしこれを除いて七原と病理の間に生じている差異を証明するのなら、タイムマシンだの何だのと、ある意味ではもっと胡散臭いものを持ち出してこなければならなくなるのが見えていた。
七原も頭ごなしに否定するのは止めた。
病理の話は正直半信半疑だが、三人の死者の名前に説明がつかない。
それならば、病理の語る『学園都市』の技術とやらを使って死者を蘇らせたと考えるのが最も妥当なように思える。
「あ、そうだ。病理さん。桐山ってやつには、注意した方がいい」
七原はすっかり忘れていた、あることを思い出していた。
それは桐山和雄という少年の危険性について。
彼が改心している可能性を考えると申し訳なくはあるが、しかし桐山の強さを実感している身としては、やはり不安要素の一つではあった。
車椅子の病理がもしも乗っている桐山と出会ったら、想像もしたくない惨劇が繰り広げられるのは間違いないだろう。
「いえ、心配ご無用です」
病理は七原の忠告を笑い飛ばすと、くるりと振り返った。
そう、くるりと。
車椅子に乗らねばならないほどの障害を抱えている人間とは思えない身のこなしで、車椅子ごとくるりと振り向いてみせたのだ。
瞬間。
七原は思わず、転がるようにしてその場から退いていた。
つい一瞬前まで自分の足があった場所を見て、振り向いた病理へと抱いた不安は確かな恐怖となり、七原へとのし掛かる。
病理の足で踏みつけられた地面は無惨にへこみ、まるで車の急ブレーキの痕跡のようになってその場へ残っていたのだ。
とてもじゃないが、下半身不随の人間が出来る芸当ではない。
それどころか、健康体のプロレスラーであってもこんな威力を出せるかどうか、七原の知る限りでは分からなかった。
そして七原は初めて気付く。
木原病理という女の両目は濁っていたのだ。
墨で塗りつぶしたような漆黒の瞳が、戦慄を隠せない七原へと容赦なく注がれ、愉悦を得たように彼女はまた笑う。
「避けますか。ちょっと予想外でしたが、まあいいでしょー」
車椅子に座り直すと、病理は最初の柔和な笑みとはまるで似つかない、邪悪さを満遍なく押し出した悪魔の微笑みで七原を見据えた。
視線だけで人を殺せるというのは、本当なのかもしれない。
おおよその悪意というものを凝縮したような濁りきった瞳を一秒たりとも見ていたくなくて、七原は目を反らす。
彼の動揺を見透かしたような病理の態度に苛立ちこそ覚えたものの、それをぶつけようとすればどうなるかは想像に難くない。
病理は決して弱者ではなかった。
弱者の振りをした、狡猾極まる殺人者だったのだ。
「秋也くん。あなたについては、特別に見逃してあげましょう」
「……なに?」
数秒前とは打って変わって警戒の色を全面に出す七原は、病理の口から発せられた予想外の言葉に訝しげな声を発する。
罠だとすぐに分かった。
病理はある意味では、桐山以上に侮れない相手だ。
彼女は機械的ではなく、その頭脳を使って此方を騙す術を持っている。
はいそうですかと従っていれば、馬鹿を見るどころじゃ済まない。
「何が目的だ。支給品か?」
支給品はまだ確認していないが、そうであるならチャンスはある。
銃でも入っていれば、一発逆転が出来るかもしれないのだ。
「違います。というかディパックをいじるような真似をしたらその場で殺しますよ? 私があなたに要求するのはたった一つ」
病理の表情は笑顔だ。
けれどもその目は笑っていない。
明らかな殺意を宿した眼光が、ありありと見受けられる。
「諦めなさい、七原秋也。バトルロワイアルを認め、すべてを殺して生き残りなさい」
その言葉が、彼の不幸の始まりだった。
◇ ◆
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
七原秋也は走っていた。
鍛えた体力のおかげで疲労は少なく済んでいるが、まだまだ安心することは出来ない。
木原病理の魔の手がいつ襲いかかってくるか分からない現状、どれだけ距離があっても絶対安全ということはない筈だ。
少しでも遠くへ逃れて、消耗した体力を癒すことが重要な筈。
出来れば川田にも会って、謝りたい。
典子を守れなかったことを頭を下げて詫びて、それからもう一度自分と戦ってくれと頼み込む。
川田の力が加わることは非常に大きいのだ。
前回の『プログラム』とは大きく異なっている今回の『バトルロワイアル実験』だが、打ち砕けないことはないと七原は信じている。
川田や志を同じくする新たな仲間と共に反旗を翻して、スカリエッティへ手痛いダンクシュトを決めてやるのは、無理なことじゃない。
そう無理なことじゃない。
決して無理なんかじゃない、筈なんだ。
(違う。俺は『諦めて』なんかいないっ…………!!)
あのとき。
七原は病理の要求を飲んで、殺し合いの打倒を諦めることを選んだ。
もちろんそれは建前上だけの話であって、実際はこんなくそゲムに乗ってやる気などさらさらない。
そんなことをすれば死んでしまった典子に申し訳が立たないし、死んでいった仲間達に失礼だとも思う。
しかし。
しかし、七原の心には『棘』のようなものが引っ掛かっている。
『分かった。あんたの言う通り、俺は諦めるよ。だから見逃してくれ』
命がなくては、何も出来ない。
下らないプライドなどにかこつけて命を落とせば、それは名誉の戦死などではなくただの愚か者の死でしかないのだから。
だからあのときの七原秋也の判断は正しかった筈なのだ。
七原自身も頭では分かっている筈なのに、彼の中のどこかに、食わされた毒物の毒素が残留しているような。
「くそっ……!」
やり場のない苛立ちを吐き出して、七原は空を見上げる。
グレの絨毯が敷かれた天空は、まるで先の見えない現状を表しているようで。
どうしようもなく、真っ暗だった。
(典子)
大切な人を喪った少年は黙って空を見る。
その瞳は、悲しみに曇っていた。
【一日目/深夜/B-2・警察署】
【七原秋也@バトル・ロワイアル】
[状態]疲労(小)、精神ダメージ(中)
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
0:殺し合いを潰す。打倒スカリエッティ。
1:……くそっ
2:川田を捜して謝りたい
[備考]
※本編終了後からの参加です
※木原病理から『学園都市についての大まかな知識』と『パラレルワルド説』について聞きました
◆ ◆
きぃこきぃこと、車椅子の音が響いていた。
ゆったりと凭れて、緩やかな速度で前進する黒い瞳の女性は、つい先程の邂逅から得られた情報を整理しながら進んでいく。
パラレルワールドから参加者が集められているとはなかなかに突拍子もない話だと思ったが、これ以上にしっくり来る仮説もそうはあるまい。
”死の淵から蘇った”病理は、ジェイル・スカリエッティという男の持つ技術力を侮ってはいけないと確信を持って言える。
怨敵・木原加群に敗れた自分は、脳天を貫かれて確かに死んだ。
しかしどうだ。
ちゃんと人間の姿のまま、ご丁寧に車椅子までセットで木原病理は復活させられている。
心臓も動いているし脈も正常だ。
身体に動きにくい箇所もないようだし、この分では彼女の持つとある能力についても衰えはないと考えるのが妥当だろう。
なぜ自分の名前が載っていなかったのかは未だに晴れない謎なのだが、それはさして気にすべきことではないと判断する。
(円周ちゃんもいるようですが……彼女は別にいいでしょーね。守るべき逸材には、感じませんし)
木原病理は冷酷な人物だ。
同じ『木原』の人間である円周を切り捨てるのに数秒と要さず、罪悪感すら感じない、合理と確実さの上に生きる狡猾な女だ。
彼女の司るのは『諦め』。
彼女自身も色んなことを諦めてきたし、誰かの夢をへし折ったり、一人の少年を破滅させたことだってある。
つい先程七原秋也へと『諦める』ことを要求したのも、ひとえに彼という火種を使うことで参加者を減らす寸法だ。
本来なら、もっとしっかり手順を踏むべきなのだが彼の場合は、すでに大切な存在を喪って、崩壊の土台は出来上がっているのが大きかった。
すぐには諦められなくても、いずれ諦めてくれるかもしれない。
そうなれば、『repeater(リピーター)』の経験を活かして、病理の勝利へと大きく貢献してくれるだろう。
(…………木原加群…………)
問題は、自分を一度は滅ぼした男のことだ。
致命傷を延避け続ける能力を手に入れていたあの男は、自分の存在を確認するなり間違いなく殺しにかかってくるだろう。
なるだけ早く仕留めておきたい相手ではあるが、とにかく彼との戦いは避けたい相性が、あまりに悪すぎるからだ。
如何にして加群を排除するか。
それが目下最大の課題であるのは明白だった。
(さて、それじゃあいっちょやってみせましょうか)
病理は妖しく笑う。
好意的な笑みではなく、悪意に満ちた笑みで。
(病理ちゃん、いっちょ返り咲いちゃいますよー)
科学の魔物は思考する。
その両目に、悪意の黒色をありありと宿して。
【一日目/深夜/B-3・野原】
【木原病理@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]病理の車椅子@とある魔術の禁書目録
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
0:優勝する。とりあえず生きて帰れればいい
1:木原加群の排除。円周は切り捨て前提
2:揺らいでいる参加者は『諦めさせる』ことで利用する。
3:桐山和雄には一応注意
[備考]
※死亡後からの参加です
※能力に制限はありません
時系列順で読む
投下順で読む
キャラを追って読む
| 実験開始 |
七原秋也 |
[[]] |
| 実験開始 |
木原病理 |
[[]] |
最終更新:2013年01月26日 12:26