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 第三次世界大戦を生き延びた。
 こう言っただけでは笑われるだろう。
 彼女・滝壺理后のような年頃の子供は、あの科学と魔術の戦争には一切関与していないということになっているからだ。
 しかしそれは、あくまで表向きだけの話。
 天下の学園都市はその『裏側』で、反抗勢力を潰すために非人道的とさえ呼べる根回しを行い続けていた。
 たとえば、単騎で軍隊を相手取って余裕の勝利を決めてみせるような埒外の怪物を、戦略兵器として投下しようとしたり。
 とある能力者の脳髄を、兵器を作り出すためというただそれだけの理由で死にきれない状態で管理し続けてみたり。
 とにかく、学園都市には底の知れない闇がある。
 その深淵を半端な気持ちで覗き込みでもすれば、深淵の更なる深淵に呑まれて、『不幸な犠牲者』として処理されるだけだ。
 滝壺は、そんな悪魔から逃げ切ったのだ。
 愛する人に守られながら、ロシアの極寒の大地を生き延びた。
 そうして漸く、闇とは無縁の平穏な日常を取り戻せる――筈だった。
 それなのに、滝壺理后はたった一人でこんな辺鄙な場所にいる。

 ピンクのジャージを着た女子高生が、砂漠の真ん中で佇んでいる。
 自分の記憶をどんな風に曲解して繋いでみても、学園都市から砂漠などまで遠路はるばる赴いた覚えはない。
 それに、夢と呼ぶにはあの惨劇は生々しすぎた。
 紫髪のイかれた研究者が、見せしめと称して女の首を吹き飛ばす悪趣味なことこの上ない憧憬が、瞼を閉じれば蘇る。
 とりあえず、支給されたディパックの中に入っていた顔写真つきの名簿を手に取り、ぼんやりと眺めてみることにした。
 すぐに、滝壺の穏やかな表情が険しくなる。
 そこには、最もあってほしくない名前があった。いや、最もあってほしいと望んだ名前であったかも知れない。
 別に特別端正な顔立ちなわけでもなければ、何か特別人を引き惚ける魅力があるわけでもない。
 けれど、彼はヒーローだから。
 滝壺理后を何度も助けてくれた、極寒の大地で誓いの口づけを交わした、この世で一番格好良い、ヒーローだから。
 だからこそ、滝壺はいよいよこのふざけた実験が他人事ではなくなったことを感じつつあった。
 ヒーロー……浜面仕上の存在を確認するまでは、暢気なことに――どこか、この事態に『現実味』を覚えられずにいたのだ。

(はまづら……だけか。むぎのやきぬはたは、いないみたい)

 三度に渡る衝突の末に和解した、最強の七人(レベルファイブ)の第四位の少女に、窒素の鎧を纏う怪力少女。
 正直自分なんかよりもずっと荒事に向いている人材だが、彼女たちの名前は残念ながら見つけることは出来なかった。
 彼女たちが危険な目に遭わないことは喜ばしい。しかし、自身の身を置く組織『アイテム』の仲間が居るのと居ないのとでは、やはり安心感が大きく違ってくる。
 浜面は無能力者だ。
 ただちょっと悪運が強くて度胸のある、ただの学生なのだ。
 滝壺も、『体晶』の呪縛から解き放たれたことで体調不良こそ癒えたが、彼女もまた年頃の少女にすぎない。
 ――でも、今回もまた浜面に頼り切るのは、あまりに情けない。

(私は大能力者(レベル4)だから…………ううん)

 滝壺はいつか口にした台詞をもう一度脳内で反復し、すぐにそれを小さくかぶりを振って否定する。
 あの頃の自分は、途方もない闇に呑まれていくしかなかった。
 けれど今は違う。今は、大好きな人がくれた未来へと歩いている。

(私は『アイテム』だから。仲間のはまづらを守るのは当然)

 言うまでもなく、殺し合いに乗る選択肢はない。
 滝壺自身の力で殺し尽くすなど決して現実的ではないし、仮に力があっても、誰かを虐げるなんて道を選ぶのは御免だった。
 滝壺はかつてアイテムで発揮していた明晰な頭脳を回転させて、如何にこの状況を打破するかを思考する。

(首輪を外せれば、殺し合いをしないことができる……それならやっぱりまずは、どうにかしないとね、これ)

 首輪。
 滝壺はこの会場に存在している全ての参加者に装着されている最大の障害を、急いで解決すべき事柄とした。
 当然といえば当然だが、この厄介極まる首輪をどうにかできれば、何があっても首輪の爆発で死することはなくなる。
 つまり、禁止エリアへも入れるようになる。
 そこで殺し合いを凍結したまま、スカリエッティに吠え面をかかせるための作戦を練ることだって可能だろう。
 乗った参加者から逃げるにもうってつけだ。

(そのためにも、誰か仲間を得る必要がある。はまづらとも会いたいし)

 滝壺は非力だ。
 頑強な男性に襲われれば、抵抗なんて出来ないだろう。
 大能力者が不甲斐ないとは思うが、自分の力はそういうものだから。
 誰か自分を守ってくれるような仲間に出会わなければ、最悪何も出来ずに犬死にしてしまいかねない。
 殺し合いはしないが、決して生きるのを諦めた訳じゃない。
 死にたくない。冗談でも死にたいなんて思えない。
 自分を助けてくれた無能力者の少年の苦労を無駄にしないためにも、そしてあの日溜まりの下でまた楽しく笑いあえる日―を目指して。

(……がんばる)

 がんばる。
 非力な、守られるだけだった少女は決意する。
 あてなんて何もないし、勝算ももちろんない。
 それでも。
 それでも――悲劇では終わらせない。


【一日目/深夜/C―2 因幡砂漠】


【滝壺理后@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
0:実験の打破。学園都市に帰る。
1:浜面を捜す。その他にも、仲間を集めていきたい
2:首輪を外す。外した後は禁止エリアで籠城する
[備考]
※新約一巻開始前からの参加です



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実験開始 滝壺理后 [[]]

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最終更新:2013年02月07日 21:57