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少女は優しい夢を見る。
それが彼女の為になるかどうかは別として。
当の本人からすればこれ以上ないくらいに優しくて穏やかな夢を。

少女の名前は神北小毬といった。
何ら特別な力を持っているわけでもない、普通の少女。
立ち入り禁止の屋上へ侵入して、大好きなお菓子を食べて休み時間を過ごしているような、ちょっととぼけた女の子。
しかし、今の彼女はどこから見たって『普通』ではない。
目には光が宿っておらず、虚ろに眼前の少年をぼうっと見ているのみ。
少年の当惑を余所に、彼女の頭は少年の『貌』を誤認識してゆく。
無理があったのだ。
心にとある大きな爆弾を抱えた、心の優しい夢見がちな少女では、殺し合い以前に最初の『見せしめ』に堪えきれなかった。
首を吹き飛ばされて死んだ女性を、しっかりと見てしまった。
だからこれは、あるべくして起こった崩壊。
生命が喪われることに強いPTSDを抱いているが故に起こった、必然のパンクだった。

あの日、あの病院で、神北小毬は死に触れた。
死に逝く兄は、彼女に自らの存在そのものを夢と云った。
そうすることで、まだ幼い彼女の心を守ったのだ。
そうでもしないと、こわれてしまうから。

それから何年もの時間が経過して、小毬は高校生になって。
自分に兄がいたというその事実さえ忘れ去って、日々を謳歌していた。
もしも、ジェイル・スカリエッティの目に留まらなければ、小毬には平穏な未来が約束されていたのだろう。
優しい嘘が生んだ呪縛から解き放たれ、やがて来る大きな過酷へ挑む。
仲間たちと笑いあう未来があった筈だ。
けれど、全ては次元犯罪者の手のひらに狂わされた。
彼が殺し合いへの意欲を高めさせるために行った、首輪爆発のデモンストレーションは、彼女の地雷を踏んでいたのだ。
神北小毬の地雷は、生命が消えること。
その悲しい『現実』に触れたとき、彼女は崩壊する。
少年を虚ろな瞳で見つめる小毬の姿は、捨て猫のようにどこか物悲しい。
それを見つめる少年の目もまた、傷ついたように伏せられている。
どうして、と小毬は思った。
幼児のような無邪気さで。

「どうしたの、おにいちゃん?」

おにいちゃん。
そう呼ばれたことで、消沈する少年の眉が僅かに動く。
何を言っているんだろう、という疑念を、その視線は一瞬はらんだ。
その反応は当然である。
彼女の実兄・神北拓也は彼女がまだ幼い頃に、この世を去っている。
目の前の少年とは、正真正銘赤の他人。
一切の因果を持たない、他人同士の関係なのだから。

「…………」

少年は言葉を選んでいる。
目の前の壊れた少女に、どう接すればいいのか考えあぐねている。
普段の彼ならば、彼女の心を汲むことが出来たかもしれない。
『超高校級の相談窓口』と称されたこともあるくらい、彼は『聞き上手』だった。
その彼も、今は無気力。
残酷な真実を告げられたことによる、喪失感に包まれて。
一軒の住宅の中で、向かい合っていた。

やがて、彼は伝える。
目の前で、虚ろなまま無邪気に笑う彼女へと。

「俺は、お前の兄なんかじゃない」
「?」

疑問符を浮かべて首を傾げる小毬は、自分の誤認に気付く様子がない。
少年のことを、自らの優しい兄だと勘違いしたままでいる。
どんなに否定しようとも、届かない。
”届かない”。その言葉が、少年に厭に重くのし掛かった。

「神北。俺とお前は、ついさっき会ったばかりだ。覚えてないのか?」
「覚えてるよ? おにいちゃんと会えて、うれしかったもん」

少年と小毬の出会いは、ごく普通のものだった。
向こうからやってくる少年に、小毬が駆け寄っただけのこと。
『おにいちゃん』と、偽りの名を呼んで駆け寄った。
自己紹介をしようとしても、無駄だった。
仕方ないので顔写真の載った参加者名簿から、『神北小毬』という名前に行き着くことは出来たが、まともな会話もままならない。
少年は決して精神が安定しているわけではなかった。
殺し合いに乗ろうなんていう速まった発想に至るほどではなくとも、その心は無傷というわけではなかった。
希望を砕かれたのだ。
ある意味で、自分を支えていた希望の支柱をへし折られた。
そんなことがあった矢先に、南の島でのコロシアイから今度はイかれた科学者の知的探求心を満たすための殺し合いときた。
平常でいられるわけがない。
それでも自分を見失わずにいるのは、他ならないただ一つの理由。

(見てきたからだよ、な…………)

そう、見てきたからだ。
生き延びようと、守ろうと、舞い戻ろうと、早まった者たちの末路を。
火山の中で生きたまま『調理』され、
軍勢と呼べる数の絶望に切り刻まれ、
空の彼方へと吹き飛ばされ。
散ってきた少年少女の姿を見てきたから、それを教訓とすることができていた。
だからこうして、とりあえずは殺し合いを否としている。

小毬は今も変わらず、自分を兄と呼び続ける。
兄というと、妹の無念を晴らすために殺人計画を練った仲間を思い出す。
自分のような存在では、彼のような覚悟も決められないだろう。
だから兄と呼ばれる資格なんて、どこにもない。
所詮は紛い物の希望でしかない、こんなちっぽけな存在に。
一体、どれほどのことができるというのか。
守りきれるのか。
この虚ろに狂った壊れ物の少女を。
打ち倒せるのか。
生命を弄ぶ邪悪なる開発者を。
証明できるのか。
希望は絶望に必ず勝るということを。
なにかひとつでも、自分にできることがあるのか――――

「おにいちゃん、これからどうするの?」
「……分からない」

神北に当たってもどうにもならないから、ぐっと堪える。
この感情のもやもやをぶつけられたら少しは気も晴れるのかもしれないが、そんなのはただのエゴイズムでしかない。
そんな不毛なことをすれば、本当に自分は腐ってしまう。
何をすればいいのか、何ができるのか分からない。
仲間と合流して、主催を倒す――
とはいっても、彼らのことを仲間と呼ぶ資格が自分にはあるのか。
模造品の癖をして、同じ段に立つ資格なんて、本当にあるのだろうか。

少年の名前は、日向創。
記憶を失い、自分が何の才能を持っているかも忘れている。
彼は長く長く憧れてきた、『希望』の象徴とされる学園へと入学した。
それから彼は紆余曲折を経て――ジャバウォックの名を冠された南の島で、卒業を懸けたコロシアイ修学旅行を送る羽目になった。
修学旅行の中で、彼は真実を伝えられる。
希望を盲信する狂人に、一番知りたくなかった事実を告げられる。

――キミは、希望なんかじゃない。

超高校級の『予備学科』――それが、日向創なのだ。


【一日目/深夜/H-4 鹿目邸】


【神北小毬@リトルバスターズ!】
[状態]健康、精神異常
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
0:おにいちゃんについていく
[備考]
※本編開始前からの参加です
※死を目の当たりにしたことで、精神異常が起きました。
※日向創を自分の兄だと誤認しています

【日向創@スーパーダンガンロンパ2-さよなら絶望学園-】
[状態]健康、精神的に疲労
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
0:殺し合いには乗らないでおく
1:……どうする?
2:神北の誤解を解いておきたい
3:七海たちとは――
[備考]
※自分が『予備学科』であることを知った直後からの参加です


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実験開始 神北小毬 [[]]
実験開始 日向創 [[]]

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最終更新:2013年02月09日 13:45