Separation of the ego

 ――マジ? マジでやるの? やらなきゃいけないの?
 そりゃあ、わたし……なんかじゃない。俺だってやる時はやる。やれるんだけどさ。
 ああ。俺がいる場所は過疎なんだから、必要なら繋ぎもバトルも考察も掘り下げも大鉈振るいもやってみせるよ。
 ていうか、やれなきゃダメだと思うんだ。俺を掘り下げて動かせるのは、今は、たぶん“俺”だけだし。
 そう。“俺”が繋がなきゃ俺たちは動かない。書かなきゃ、殺せなきゃ、ロワ自体が動かないんだ。
 でも……それは、今も先輩がいてくれるから。だからなのかな。

 俺みたいなヤツが、ひとり“こんなところ”にいるのは、何かの間違いだと思うんだよ。

 * * *

「これってなんの真似? 火山に女の子ふたりご案内、なんて……。
 汗をかいた後はゆっくり温泉に浸かっていってね! って狙いが見え見えだわ。入りたいけど」

 ブーツが無ければ、今ごろ地熱で飛び上がっているだろう、桜島。
 活火山の噴火で陸がつながっているのがまだ幸いという地形をかえりみて、彼女は長い髪をかきあげた。

「イエローさんは、温泉が好き……ですか」

 歩きながら話していた――というより、話を聞いてくれていた少女の言葉に、イエローは足を止めた。
 いくら幻獣拳の使い手になったとはいえ、もともとは戦隊ロワのいち書き手なのだ。下りの斜面は、少し怖い。
 翠が主体のチャイナドレスをまとった、幻獣フェニックス拳のメレ。オープニングでも書いたラブ・ウォリアーの姿をした夜明けのイエロー◆Z5wk4/jklIは、恋する戦士の顔に人好きのする笑みを浮かべてみせた。

「んー。お風呂全般ね。ちょっと物騒なフラグも入れたけど、お風呂に入る話も書いた」

 遊撃のハートシーカーと名乗った相手は、その話に凛々しさとあどけなさのあい半ばする唇をゆがめる。
 これがロワというものだと言われればそれまでだが、どうにも笑いをなしていない。

「あなただって汗かいたし、お風呂入りたいでしょ」
「ええと。そちらが、入りたいなら」

 それだけならまだ先もあるだろうが、どうも、煮え切らないのだ。
 べつに一心同体でもないのだから、イエローとしては彼女が温泉に入りたいなら、洗いっこなりなんなりする。イヤなら見張りでもしてもらう。どちらだって構わないというのに。
 フラグうんぬんが良くなかったか、イヤという選択肢を言えないようにも見える彼女に、イエローは息をついた。

「ねえ、支給品は見た?」
「……あ」

 慎重に斜面を降りながら、話してきたのは書き手としての傾向である。
 サガロワが初めてのロワで、途中参加――登場話を書いた経験のないという◆69O5T4KG1cは、体を硬くした。

「べつに、謝らなくていい。私たちは人間だし、何か忘れても当たり前だわ」

 外見とは符合しない、おびえのある反応に、イエローはフォローを入れておく。
 ありがとう、と返ってきた言葉に、なんとか場を繋げたと思うが早いか、

「え……」

 デイパックを開こうとした彼女の両手に、鞘に入った白銀の剣が載せられた。

 * * *

 ――わたしは、書き手です。以前は描き手で、もっと前は読み手でした。
 違いますか。書き手や描き手は読み手でもあるから、全部ですよね。
 つまり、やれることは全部やろうと思う程度には、わたしは、ロワが好きです。
 でも、わたしは、やっぱり……ひろゆき。
 アンサガの、不幸というよりも流されやすい一般人。
 “ヒロユキ”、だったみたい。

「どうしたの!? 私、剣はそんなに」

 その証拠になるかどうか。
 最初に出てきたのは、ヒロユキの持っていた剣でした。
 レフトハンドソードをイエローに預けて、わたしは、火口に戻ります。妖魔の具足で、脚力を上げながら。
 デイパックも捨てて、丁寧な言葉も捨てて。なにか声をかけてくれるイエローも捨て置いて、命をかける……その前に。

「ごめんなさい。わたしは、わたしはやっぱり、一緒には行けない」

 協力します、と言った相手には意味なんて分からないだろうひと言をかけて、今度こそ。
 24作ぶんの“命”をかけて、髪を蒼く染めたわたしは『失くせるもの、譲れぬもの』を――発動した。
 わたしの、初めて書いたキャラの死亡話。ジニー・ナイツとクローディアのように、わたしの中の譲れぬものを見極める。
 そうすれば、先に続く道の苦しさ。近づく熱気に対する恐怖など、簡単に失くせる。
 途中参加の書き手、これから長い中盤に挑む立場の書き手だろうと……これくらいはやらせてもらおう。
 戦隊ロワを信じて、愛して繋ぐ彼女。イエローの求めるところを見抜いた、きっと、わたしに染み付いてる力――
 あえて言うなら『未確認情報ストリーム』が、わたしに“私”の意志を伝えてきたのだから。

 ロワを望んだわたし。わたしは、
 アルベルトやヴィクトールのように、対主催として動くのも良いなと思ってた。
 この力を活かして、ミレイユやレオンのような位置につくことにも魅力を感じてた。
 けっこう書いて、掘り下げてきたアセルスやヒロユキ、ヨハンやカタリナのような奉仕マーダーになって、きっといてくれる先輩やサガロワを護るのも素敵。
 ミルフィーみたいに誤殺して苦しんでも、それはそれでお祭りだって、考えてた。
 なんでもよかったんです。なんでも。大好きなロワを愉しむことができるなら。
 だから、その時々でなんでもできるようなスタンスを、わたしなりに考えていました。

 けれど、わたしは“わたし”に、ロワへ望んだスタンスをすべて、否定された。
 正確には、わたしの中にいる、余計な災難を望まず、他者に流され迎合する“俺”に。
 そう。わたしの中のアセルスとヒロユキ。奉仕マーダーとして振り切れた前者と、煮え切らない後者。
 サガロワで同じくらい掘り下げてきた二人のうち、わたしの心はロワの華――キルマークをつけた後者に掴まれたのだ。
 作中で孤独になることもなく、他の参加者に名分を与えられてマーダーをやっている彼は言う。

 レールがないのは、誰も先に居なくなるのは、怖いじゃないか。
 だから“俺”は、俺の力。『未確認情報ストリーム』で探しあてたんだ。
 どこか別のところにいる、サガロワ書き手の◆69O5T4KG1cなら、こんなとき何を望むのかって!

 ……そういえば、わたしの思考は読めないのだっけ。
 それなら、この“文字列”で。全角換算すればたったの五文字<トリップ>でもって押し通そう。
 サガロワの参加者70人のうち69人までを殺しかねない、この名前の鍵を知る“私”がわたしを読みとったのだと。

 火口に足を踏み出す、今。
 対主催、マーダーのいずれでもない、類似した道を歩む誰かもいないスタンスを、俺が、恐れていた。
 思考が読めないことによって心理描写――サガロワらしさを書く一手を封殺され、繋ぎ手の重荷になりかねない私が、悩んでいた。
 そんな二人の意志が、わたしを否定したと、『未確認情報ストリーム』の力で読めてしまう。

 ……ルージュとヴィクトールに対する、アセルス。
 あの時、二対一となった状況を覆せたのは強力な全体攻撃、搭のカードだった。

 けれど、それをどうして自分に。自分のない“わたし”に使えるだろう?
 わたしを動かした『失くせるもの、譲れぬもの』も、失くせるもののなかに、“わたし”を含めたのだから。
 四方八方から追い詰められて、思考を停止したわたしがどんなに探してみたってもう、

「――そんなッ!」

 見つけられるのは自殺だけ。
 落下の刹那、読んでしまったイエローの動揺。それにまた謝ろうとしている自分に気付いて、笑えない。
 サガロワの放送以降、私の投下率は5割に近い。ここでだって、イエローに協力するそぶりを見せながら、こうだ。
 そこまで“自分”を押し通しておきながら、なぜ、私は、萎縮するのだろう。

『悪いと思う気持ちは嘘じゃない。
 “自分自身”のフラグを折るのも繋ぐのも、リレーじゃないんだから。
 でも、でも自分が書こうと決めたんだったら、もっと』

 最後の、最期の思いは溶岩の圧倒的な熱と質量を前に結論がバラバラになる。
 イエローにも、自分にも、言いたいことが、わたし自身にさえ見えなくなってしまったから。
 パロロワ定番の能力制限。刺しても死なない妖魔の蒼い血など、なんの役にも立たなかった。

 * * *

「ちょっと……何よ、何なのよ、これ」

 世界は地水火風の、四つの元素で出来ている。
 その仮説を証明すべく火口に身を消した哲学者よろしく自殺した少女を見ていたイエローは、熱のこもる
地面へ尻を落としてつぶやいた。血の気が引くほど強いめまいは、熱でも解けない。

「まさか“サクラ”? 見せしめがいなかったからって、これが?」

 サクラとは業者と通謀し、購買欲をそそる者。
 ひらがなに開けば、戦隊ロワの主催、ロンに洗脳されて死を。ロワにおけるサクラを命じられた者の名前だ。
 開幕以前から戦隊ロワに所属し、たびたびロンの暗躍を描写したイエローは、即座にそれを思い浮かべる。

「違うわよ、こんなの。こんなのは、見せしめでもなんでもない」

 思い浮かべて、即座に棄却する。
 こんなとき、同ロワの赤き冒険者ならば指を鳴らし、フラグを収束・昇華するための超展開を行うだろう。
 青き鬱のエレメントならば、もっと緻密で濃い心理を描いた上で、読み手の胸を衝く鬱展開にしてみせる。
 他の書き手にしてもそうだ。ハートシーカーのようなヤツは堕としたり覚醒させたり、戦隊に加えたりする。
 あちらでは主に繋ぎを手がけてきたイエローだが、だからこそ、繋いできた書き手の本当の力が分かるのだ。
 そして、オープニング書き手としての彼女は、効果的な見せしめの活かし方も体得している。
 ゆえに。

「投げやりなのよ、煮え切らないのよ。燃えも鬱も、何も無いじゃない。
 とにかくなんか……なんでもいいから残して逝きなさいよ、あんたはぁあああッ!!」

 起承転結、文章作法といった、技術以前の問題。
 ひとりで勝手に結論をつけ、思いを分かち合う暇も与えず無駄死にするような者を、彼女は認めない。
 声を限りに叫び、書き手としての純粋な怒りでもって立ち上がったイエローは、その手に剣とデイパックを拾い上げる。
 無用な誤解フラグを避けるために支給品をひとつの袋にまとめながら、せめて、彼女の持ち物を繋ぐために。

「よーく見てなさい、あんたも、主催者も。
 ノリと勢いで進むのだって限界があることを、この戦隊ロワが教えてあげるわ」

 それは、自重しない主催者に定評があるロワの書き手だからこそ言える、彼女の宣戦布告。
 怒りに猛る心を行動のためのバネにしたイエローは溶岩の灯に背を向け、仕切り直しの一歩を踏み出した。

【鹿児島県/桜島火口(下山中)/1日目-深夜】
【夜明けのイエロー◆Z5wk4/jklI@戦隊ロワ】
【状態】健康
【装備】なし
【持ち物】基本支給品×2、レフトハンドソード@サガロワ、不明支給品1~5
【思考】
基本:戦隊ロワのために戦い抜き、その魅力を知らしめる
1:強い怒り。ロぉぉぉン……じゃない、主催者ぁああ!
2:下山して他の参加者と接触。戦隊ロワの書き手に会いたい
※外見はメレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー。出血するかどうかは、後続の方に任せます。

【支給品紹介】
レフトハンドソード@サガロワ
『ロマンシングサガ』と、リメイク版の『ロマンシングサガ ミンストレルソング』で登場した長剣(片手剣)。
ロマサガ世界の英雄・ミルザが神から戴いた剣であり、名前の通り、左手で持つと真の力を解放。
武器固有技の『レフティフォーク』は五回連続攻撃、『王者の剣』は剣に込められた威光で敵を撤退させる効果をもつ。
サガロワでは、ヒロユキ@アンリミテッド:サガに支給されていた。

【◆69O5T4KG1c:遊撃のハートシーカー@サガロワ 死亡】

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夜明けのイエロー 近くにいました
理解不可能 遊撃のハートシーカー

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最終更新:2009年06月13日 16:47
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