欝の繋ぎ士「バックから拡声器が出てきたわぁ」

大柄な体躯にスーツ、黒髪の男がタバコをふかしていた。
ニコラス・D・ウルフウッドの姿をした彼の名前は欝の繋ぎ士。
トレードマークともいえるタバコをすっているのに、一切気持ち良さそうな様子を見せなていない。
彼の顔が晴れないのは最初に見た支給品にあった。

(こんなもん書き手にわたしてどないせぇっちゅうんや)

彼が視線を落とした先には拡声器。それを持ったまま彼は考え込んでいた。

(自ロワのヴァッシュみたくラブアンドピース叫べーてか?冗談やない)

当然欝の繋ぎ士という名前に従って、この拡声器を欝展開を導く為に誰かに使わせる、ということも思考にはある。
しかし欝の繋ぎ士と呼ばれてはいるが、彼の真価は欝展開ではなくその心理描写の巧みさにある。
心理状態を整理し、次にそのキャラを動かしやすいように状況を動かし、土台をしっかりとさせ次にまわす。
この繋ぎの絶妙さの結果、欝につながっているという印象の方が強い。

彼は迷っていた。
ロワの書き手としてバトルロワイアルの舞台に呼ばれたのには何かしら意味があるのだろう。
書き手としてのスタンスを維持すると選択肢はおのずと絞られる。
欝の担い手として積極的に欝展開を誘い込むために暗躍するか。
繋ぎ師としてとにかく相手の魅力を引き出す心理を描きだすことに集中するか。
そして拡声器は心理を揺さぶり、大きく状況を動かす鍵となるアイテムだ。

少し拡声器を持ち上げてみる。
無駄に安っぽく明るい黄色が目をさす。




「それを使うのは少し待ってくれないか」

その時、思考の海に沈んでいた繋ぎ氏に言葉が投げかけられた。

横を振り向くと少し離れた所には蒼星石が立っていた。
自然と体は警戒態勢をとる。
(アニロワ1stか?ロリショタか?自ロワのマルチか?)
蒼星石自体はそう多くのロワに出てはいないので、蒼星石の見た目を持つ書き手は数が絞られる。
どのロワの蒼星石かによって自身の生存率が大きく変わってくるのだ。
丁寧な口調からすると漫画版、つまり自ロワの可能性も高い。


「拡声器、思いつめた表情、殺し合いという極限状態。これらを総合すると、君がしようとしている行動は予測がつく」

「……だから何や。ワイは」

拡声器のジンクスを知らない書き手はそうはいない。
次の言葉はすぐに予測がつくかと思われたが、発せられた言葉は彼が想像したのとは280度ばかり違っていた。




「そう。君は 大声で 恥 か し い 性 癖 を 暴 露 し よ う と し て い る ね ?」





「……は?」




「いやいやわかっているよ、君の特殊な趣味について私からは何も言うことはない。そう、たとえ救いようがないほどのネコミミロリコンマニアだったとしても、ショタ好きのペド野郎だったとしても私からは」

「ちょちょちょ待てやコラァ!」

「ん?緊縛趣味の方だったかね?これは失礼した」

「どれもちゃうわドアホ!!拡声器ゆうたらアレやろ!殺し合いなんてやめよーやー呼びかけたアホンダレがあーれーて殺される、拡声器のジンクスやろ!」

「ん?いやはやそれは申し訳ない。私はvipで台詞系を書いてきた身でね。バトロワの流儀にはとんと疎い。
いやこの場合はパロロワというほうが正しかったのかな」

「それにしても何でそんな思考回路になるのか理解しがたいわ…」

「私は名前が変態紳士な上に、性格が佐山だからね。それもまたやむなしという所さ」

「あ~…ご愁傷様。同情する」

「まあ元の性格もこんなだけどね」

「確信犯かい!」

「ひどい言い様だね。私は相手の反応を楽しんでいるだけだ」

「同じや!
 全く。見た目は蒼星石、中身は佐山ってどんな詐欺やねん。クーリングオフ要求したいわ」

「ああちなみに、見た目は蒼星石だが私にはついているよ?」

「は?」

「見たいって?ふふっ、JUM君はえっちだなぁ」

「誰がJUM君や!隙あらばシモネタに走ろうとすな!」

「突っ込みのキレは非常にいいけど、ノリが悪いね。ふむ。宴会ではっちゃけるタイプか」

「んな斜め45度にひん曲がった性格診断はせんでええ!
 ……あー、オンドレと話しとるとホンマ疲れるわ」

がっくりと肩を落とす鬱の繋ぎ士。
猫背で大柄なウルフウッドがそうしている姿は、なんとも哀愁を漂わせる。
変態紳士は見た目が蒼星石という極上にかわいらしいだけに、発せられる台詞はひどい攻撃力を伴っているのだ。

(アカン、変態と話すのがこんなに疲れるとは。すまんかった蒼星石!
変態×2に更にもう一人増やすような話書く真似してホンマ申し訳ない。神さんに懺悔しとくわ)

彼はマルチロワで佐山と、小さい物好きの小鳥遊の変態二人に囲まれた蒼星石という愉快で楽しい変態トリオに、
更に美しい手が好きな殺人鬼・吉良という変態を増やした話「変態×変態×変態×人形」を書いた張本人である。
こうなった原因はあの話を書いた罰ではないかとも思えてくる。



心の中で軽く自業自得な感のあるお祈りを済ませてふと変態紳士に眼をやると、ひどく真剣な目で見つめられていることに気付いた。

「……なんや」

「いや。話を聞いている限り、君はロワに慣れた書き手さんのようだ」

「……
 …軽蔑するか?ロワなんちゅう殺し合いのSSを書いとるワイを」

「すると思うかい?」

「好きなキャラを殺し合いに放り込んで、その様を描くSSを好んで書いとる。
 その時点で後ろ指さされる覚悟はしとる」


「……私が思うに、」
「バトルロワイアル・パロディ、通称パロロワはリレー小説だ。」
「多くの人たちが協力し合い、出し抜き合い、整合性を取りながら物語をつむぎだしていく」

「修正要求という制度がある事に最初は驚いたものだよ」
「2chでこれだけしっかりしたリレー小説が成り立つなど、ほとんど奇跡のようなものだ」

「いや、奇跡ではない。書き手の人たちの不断の努力の上にこれらは成り立っているのが見て取れるよ」
「書き手が諦めたときそれは自然と崩壊する。マルチロワが潰れかけたように」
「そんな風に大変なバトルロワイアルをまわしていく貴方を、軽蔑する?」

「……!」

「バトル、心理描写、クロスオーバー。企画をまわし、一つの作品として仕上げていく」
「整理し、繋げ、渡し、その上で面白さを追求する。」

「……」

「私は尊敬しているのだよ。飽き性の私にはとても出来ない」

「……」

「さて、私は変態紳士。改めて貴方の名前を伺いたい」

「……欝の、繋ぎ士や」

「ほう!私は本当に運がいいようだ。自ロワのトップ書き手かつMAD職人の貴方と最初に会えるとは」

「序盤の同作品同士のキャラが出会うのはロワでは死亡フラグなんやけどな」

「ふむ。書き手が放り込まれてロワしてる時点で自由度は高いと推測するが?」

「まあな。あんたの格好見ればわかりそうなもんやな、なんでもアリって」

「違いない」

ふと二人の顔が緩む。

「とはいえ、私は元々ロワにはそこまで興味はなかったのだがね。
自分が放り込まれたとなると話は別だ。
こうなったら異文化交流ということで様々な書き手の話を聞いていこうかと」
「ついでにマロい尻を持つ人を探すのもいいね」

「……どちらかというと後者の方に重点を置いてるように見えるのは気のせいか」

「ふむ。否定はしないよ」

「変態やな」

「褒め言葉だね」


話が一段楽した所で、軽く伸びをしてあたりを見回す。
随分と時間を食ってしまったようだ。


「まあええわ。んでおんどれはこれからどないするつもりや」

「さっき言ったような方針だからね。人の多い所を探すよ」

「ちょ、待てや。オンドレはロワ初心者やろ」

「なに、紳士には靴下さえあれば大抵の事は乗り越えられる。
 そうばっちゃも言っていた」

「どんな方向性の迷信や!
 あーもう危なっかしくてしゃーない。会った奴がこの変態の餌食になるのは忍びないわ。
 ついてくで」

「それは、願ってもない話だ」

がっちりと握手をしあう両者。
体格差があるので繋ぎ士はかがみ気味、変態紳士は背伸びをして。

勢いに流され気味についていく事に決めたし、協定も組んではいるが欝の繋ぎ氏はスタンスを決めかねている。
ふとこの小さな手を裏切ることもあるのかと思いが胸をよぎった。
生まれた思いを振り切るように背を伸ばす。
少しだけ分かり合えた二人の書き手はこの先どうなっていくのか。


「で、結局君の性癖はなんなのかね?」

「しつこいわ!」



…前途は、多難である。





【一日目・深夜/山口県】

【変態紳士@マルチジャンルバトルロワイアル
【状態】変態という名の紳士
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
1.様々な人に書き手としての流儀、やり方、思いを聞くのも悪くない
2.マロい尻を持つ人はいるかな?


【欝の繋ぎ士@マルチジャンルバトルロワイアル】
【状態】普通
【装備】拡声器
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
1.性癖なんぞ聞いてどないすんじゃ!
2.さて、どうするんがいいか…

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変態紳士 ループ・ザ・ループ
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最終更新:2009年06月06日 00:03
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