君は僕に似ている、かも知れない。

謙虚なナイトたるburrontを片付け軽く休息を取った後、甲賀騎兵ひぐらしは布教の対象となる参加者を探すべく移動を開始していた。
この近くの人が集まる場所といえば大都市である名古屋か大阪辺りであろうが、人が多いという事はそれだけ争いの火種も多くなるという事。
その口調通り、かの前原 圭一の口先の魔術師的な属性を持つだろうひぐらしとはいえ、さすがに乱戦の最中では己の目的を果たすのは難しいに違いなく、
故に彼が選んだ手段は大都市へ向かう事ではなく、逆にそこに至るルートを移動中の誰かと鉢合うべく周辺を幅広くウロウロしてみる事だった。
この策ならば、出会った誰かと一緒に移動する最中で布教ができるし、仮に次に出会う参加者が
先ほどのburrontのように敵意のある相手でも対処できる筈で。

尤も、burrontから受けたダメージはまだ身体に残ってはいる。
(でも、一人でもまだ参加者が無事な内に、一人でも多くの参加者に布教してかねーとな)
そう決意してひぐらしが夜闇の中を進み始めて、いったいどれぐらいになっただろうか。
彼はふと己の進む道の先に人の気配があるのを感じ取り、息を殺して歩むスピードを落とした。

場所は滋賀と三重の境になる鈴鹿峠の山の中。
アスファルトで舗装された道の先に、一人の男性とそれに絡んでいる獣人の姿が見える。
どうやら男は両手で携えた丸太で密着してこようとする獣人を追い払おうとしているようだが、
獣人は振り回される丸太をその度に軽妙なステップで回避し、男の思う通りにはさせていない。

「あいつは……」
ひぐらしの口から呟きが漏れる。
片方の男はTVで見た事のある芸能人。もう片方の獣人はその勿っぷりからしてどう見てもエイプマンのようだ。
(あいつ、エイプマンの対処法……知らないのか?)
来るな、キモイ、こなくそと喚きながら丸太を振り回し続けている男姿にひぐらしは今度は口に出さずに呟き、そしてにやりと笑った。
――こいつは好都合だ。
気配を殺したままひぐらしは二人というか一人と一匹の方へと近づいていく。
甲賀忍者の力をもってすればこのぐらいはひぐらしにとって朝飯前。

そして十分に近づいた所でタイミングを計り、そして矢のようにひぐらしは飛び出した。
丸太を振り終え、構え直すまでに数秒の硬直を余儀なくされた原田泰造……芸人的戦闘の伝道者の懐へと。
伝道者が乱入者の存在に気付き、表情を強張らせるのと同時にひぐらしは伝道者の腹に当て身を入れ、
丸太を取り落とさせるとそのまま伝道者を抱えて跳躍する。
決して軽量ではない伝道者の体躯にひぐらしの身体は悲鳴を上げるが、二人は何とか手近な木の枝へ飛び移った。

「………………」
「安心しろ。危害を加えるつもりはない」
一瞬の出来事に状況が把握できないのか、足場でもある木の太い枝にしがみついて目をぱちくりする伝道者に向けて
ひぐらしは小さく微笑んでみせる。
「随分アレ相手に頑張ってたんだな。それ自体は賞賛に値するけど……もっと頭を使わないと駄目だぜ」
相手に触れてみてわかったが、伝道者の身体はじんわりと汗ばんでおり、そして鼓動や呼吸もだいぶ乱れているようだった。
「……どういう事」
「ほら、見てろよ」
何とか言い返してくる伝道者にひぐらしは告げると、勿……もとい、エイプマンに視線を向ける。

エイプマンは目の前にいた伝道者がいなくなった事で戸惑っているようにも見えたが、
すぐに進路を塞いでいた邪魔者が無くなった事で、相変わらずの珍妙なステップでひょこひょこと立ち去っていく。

「嘘……」
「アレは変に相手にせずに上なり横なりに逃げるのがベターなんだ。それに……」
執拗に絡まれていたのが何だったのかとばかりのエイプマンの様子に呆然と言葉を漏らす伝道者に、見てみろよ、と言葉を続けつつ
ひぐらしはエイプマンの後ろ姿を指さした。
「アレの首元、首輪付いてないだろ。って事はアレは参加者じゃない。誰かの支給品が野生化したのか、
 それとも何らかのバグなのかまではさすがにわからないけど、少なくともまともに当たるだけ損するだけだ」
「……そうだったんだ。ありがとう」
ひぐらしが言うとおり、エイプマンの首元に参加者の証である首輪が見られない事を確認し、
いよいよもってぐったりしたように伝道者は感謝の言葉を紡ぎつつ肩を竦めた。

「完全にテンパってたわ…あなたが助けてくれなかったらいきなり切り札使いかねない所だった」
「それは良かった」
心底安堵した様子の伝道者を見やり、ひぐらしはやれやれと苦笑いを浮かべる。
「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺は甲賀騎兵ひぐらし。オールロワの書き手だ」
「私は芸人的戦闘の伝道者。芸人ロワの書き手。
 まぁ、戦闘の伝道者って言うても実際に戦ったらさっきみたいな事になるけどね」

ひぐらしにつられるように苦笑いを浮かべ、伝道者はひぐらしに答えて名乗った。
一応は伝道者も芸人ロワのトップ書き手であり、バトルを得意とする書き手ではある。
しかし彼女が操るのはあくまで芸人。もちろん、不良上がりだったり剣道や柔道や空手の段位持ちだったりする芸人もいるが
基本は荒事には向かない一般人なのだ。
それ故、伝道者自身も人外というイレギュラーに相対してしまえば、バトルの書き手としては褒められない
行動を取ってしまうのも仕方のない事なのだろう。
とはいえ、疲弊こそしていてもダメージらしいダメージを受けていないのはさすがはバトル書き、といえるかも知れないが。

「……伝道者、か」
マイナー作品の伝道師を自称したいひぐらしにとって、伝道者の通り名はどこか羨ましく聞こえる。
意図せず漏れた呟きに、伝道者は苦笑を浮かべたまま小さく頷いた。
「まぁ、自分以外にもうちのロワじゃ贔屓の芸人を推したくて書き手やってる人、多いから。
 私だけが伝道者、っていうのも正直アレなんだけどね」
大勢の芸人が登場するTV番組やライブで、あ、そういえばこのコンビ……とチェックして貰えたら。
そんなささやかなファン心理が、現実の人間故の漫画やアニメやゲームのキャラの非ではないキャラ把握の壁を乗り越え、
そしてその芸人達がよりによって殺し合いをするというバトロワという物語を書く原動力となる。
何かそれはファンとして間違えている気がしなくもないが、少なくともひぐらしには批判を口にする資格はない。

「………………」
何故なら、同じだからだ。
ロワの物語をつづる事で作品を布教していく甲賀騎兵ひぐらしと。

「あ、そうだ。甲賀さん。あれ……」
思わず口を閉ざし、思考の海に沈みかかるひぐらしの耳に、不意にどこか強張った伝道者の声が届いた。
ハッと我に返って相手の方を向けば、伝道者は東の空を指さしているようで。

「何だろう…近づいてくる……」
確かに伝道者が示す闇の向こうから、何かが近づいてくるのがひぐらしにも感じられた。
戦場を駆けた忍びの、そして戦士の勘がピリピリとひぐらしに危険を訴えかける。
(砲撃? それとも魔法の流れ弾的なモノか? 何にせよアレはこの近くに着弾する!)
「……とにかく降りるぞ、つかまれ!」
捕まれと言いつつも自ら伝道者の腕を取り、ひぐらしは木の枝から飛び降りた。
それが何かはわからないが、とにかく接近してくるモノがこのまま着弾すれば、辺りは震動に見舞われるに違いない。
その際木の上にいるのと木の下にいるのとではどちらが安全か、という事である。

「ちょっと、甲賀さん……!」
咄嗟に着地時に受け身を取って衝撃を和らげたモノの、いきなりのひぐらしの行動に抗議の声を上げかけて、伝道者の動きは止まった。
迫り来る何かが尾を引きながら、彼らのいる南、三重の山並みに着弾するのが見えたのだ。
一瞬の間をおいて、衝撃が突風となって辺りを吹き抜ける。
続いて響き渡る轟音。脳内で鳴り響くドリフの盆回しの音楽。
人類は滅亡……はさすがにしなかったが、地形が大きく変わっていくのはひぐらしにも確認できた。


「何で……あの辺り……なぎさ………お墓……うそよ、嘘だっ!」
蹌踉めきながら、伝道者が発した叫びはひぐらしには途切れ途切れにしか聞き取れない。
そもそも伝道者の行動方針すら知らないのだから、伝道者がやけに狼狽する理由も、墓が何だと叫ばれても、
ひぐらしにピンと来ないのも仕方がないだろう。
ただ、漏れ落ちた単語の一つがひぐらしに一つの懸念を抱かせる。

『なぎさ』

それは伝道者にとっては目指していた墓に眠る芸人の名でしかない。
けれども、ひぐらしには違うモノを連想させたのだ。
それすなわち、渚カヲル。
kskロワに於いて見せしめ死という最期を遂げながらも、kskロワの書き手にたびたびイデを見舞う者としてスレ住人に恐れ敬われている存在。

(確か三重には伊勢神宮がある。もしもこの日本であの神社に死したカヲル君が祀られていたとしたら…
 そして今の衝撃でカヲル君が暴れ出したら……書き手達のパソコンはイデで大変な事になる!)

MMRばりの無茶な思考ではある。が、あながち妄想乙とも言い切れないのがカヲル君の怖い所でもある。
ならば杞憂ではあるが、念のためにその辺りまで一度調べに行く必要はあるかも知れない。
だったら。

「落ち着くんだ、伝道者」
「……でも!」
「でもじゃない。今は夜中でまだどれだけの被害があったかわからないだろ。
 実際は案外大した事ないかも知れないし。だからそれを確かめるために、一緒に三重へ急ごう」

改めて書くまでもないがひぐらしの行動方針は「布教」。
ここで三重を探索に向かい、結局何でもなかったとしても、そのさなかで言葉や背中で作品をアピールできれば
それで彼の目的は果たせるのだ。
せっかく好意的な参加者と書いてカモを見つけたのだから、これを活かさずしてどうするのだという話である。
だから突然の同行宣言に目を丸くする伝道者に向けて彼は告げる。

「俺は“甲賀”騎兵ひぐらしだが、伊賀の里も心配だしな。それに現場を見れば今の真似をやらかした奴が
 誰かヒントもわかるかも知れない。乗りかかった船でもあるし、そういう事だ」
キランと擬音がしそうな程に胡散臭さ満開の爽やかな笑顔で言い切ったひぐらしに、伝道者は内心を疑う事もせずに深々と頭を下げた。
ひぐらしからすれば交渉成立、あるいは計画通りという所ではあるけれど。

「……さっきも今も、本当にありがとう」
そうだよね、しっかりしなきゃ。
小さく付け加えるように呟く伝道者の様は、どう見ても女の子である……のだが、その見た目や声色が立派な成人男性の者である事を、
いい加減相手に指摘した方が良いのか引き続きスルーするべきか、ひぐらしはにわかに頭を悩ませるのだった。





【一日目・黎明/滋賀県(鈴鹿峠)】
【甲賀騎兵ひぐらし@オールロワ】
【状態】ダメージ(中→小にやや回復中)
【装備】王者の剣@ニコロワ、バタフライナイフ@オールロワ
【道具】支給品一式×2、不明支給品0~3
【思考】基本:自分が好きな作品の布教を行う
    1:『なぎさ』が気になるので念のため三重を探索しつつ、芸人的戦闘の伝道者に布教する
    2:話を聞いてくれそうな参加者を捜す
    3:邪魔する参加者には容赦しない
※外見は金髪のキリコ=キュービィ@装甲騎兵ボトムズです


【芸人的戦闘の伝道者@芸人ロワ】
【状態】健康・狼狽
【装備】丸太@動物ロワ
【持物】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】基本:三重県を目指す。
    1:三重を探索し、墓が無事なら墓参りをしたい
    2:甲賀騎兵ひぐらしを信用する
※外見はネプチューンの原田泰造@現実or芸人ロワです
※何か切り札があるようです


※エイプマン@ニコロワはどこかに行きました
※三重県の一部が崩壊しました。音や震動が他県にも伝わった可能性があります

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空蝉忍法帖 甲賀騎兵ひぐらし カオスを目指した結果がこれだよ!
書き手の業 芸人的戦闘の伝道者 カオスを目指した結果がこれだよ!

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最終更新:2009年03月28日 20:25
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