低く、喉がふるえた。
機械の体にしては、やけにアナログな所作で発声練習がなされる。
「姿を消した旅の扉 深く沈んで魔物の腹に 倒す使命は――」
朗々とした声が、高らかに歌いかけてなりをひそめた。
次のフィールドに向かいながら経緯は聞いたものの、伝聞ではどうも熱がこもらない。
何より、歌い手であるエーデルリッターの興味が別に移ってしまっては、詩も既存の作品をなぞって当然だった。
「騒いだのが悪かったのか? あの二人とは、はぐれちまったか」
「ええ、おそらくは。
私も
FFDQ3rdのいち書き手です。旅の扉の不安定さは理解していましたが、実体験となると違うものですね」
浮遊大陸から魔界に向かう際、ウルの村で行動していたグループからはぐれてしまった少女。
ターニアの例は、ゲームロワ特有のペース、スロークイックで言えば“記憶に新しい”。
――あぁもう、そこまで“着いて来い”とは言うてへんッ!
同郷であるらしい変態紳士と、想いのととの間に起こったささやかなバトル。
ぺったんこだからと言って冷淡になるのもどうかと考えたか、「マロさに欠ける尻も後学に役立つかもしれない」と言った紳士の、下心無い(らしい)言葉と手のひらを振り払ったととの仕草は、次元の狭間を渡る波を微妙に、そして絶妙に乱してしまったのだ。
あのせわしない一戦を経てもなお、過疎ロワ組と○ロワ組には十歩……白兵戦に際して警戒できるだけの距離があったのだが、時間の無さと本能ゆえの距離感もまた、裏目に出てしまったと言えば点が辛いだろうか?
「しかし、僥倖というべきです。彼らは全員生きているようですから」
「そうだな。それは良かったが……彼ら“は”?」
今は無手である
大いなる玄人好みの細かな指摘に、エーデルリッターは軽く肩をすくめた。
「なに、お約束ですよ。会えずじまいでしたが、同郷の書き手が」
「――やっぱりか」
失意より虚脱感に似たものをにじませる玄人好みの目には、共感に近い光がある。
そこで深く突っ込むことはやめにして、詩人は
丸太氏に視線を向けた。
「あのような斧があったというのに、何故自分で使われなかったんです?」
「丸太に勝る武器は無い。丸太以上に馴染む武器も無い」
どうせなら返さず使って良いぞ、と投げられたのは、不明支給品だったものの片割れ。
玄人好みが丸太氏に返し、“不明支給品として状態表に残っていた”、丸太氏から譲り受けた斧である。
もちろん、それは名無しさん@AAAロワに支給されていたビルキースと同一ではない。
「火行術・ヒロイズム。術式は説明しましたが、まさか気合いだけで使いこなしてしまうとは。
サガロワから出てきているだけに、他のロワの術式までは説明できないのがもったいないですね」
「ああ、適材適所だったな。俺に詳しい呪文の知識があったら、メラやギラも使えたわけか」
玄人好みの使っていた“ビルキース”とは、斧ではなく指輪。
鋼玉の中でもルビーに近い形質をもつ宝石のリングはアンリミテッド:サガの装飾品である。
これを媒介にして発動する火術、エーデルリッターの最もよく知る術でもある“ヒロイズム”。
自身の筋力を上げるわざを、玄人好みは「説明する」ための理解の速さで覚え、先刻の戦いで使った。
解説能力に突出していた彼は、化け物を相手どるには比較的心許ない腕力を底上げして脅威に立ち向かうことを選んだのだ。
つまり、“丸太氏から譲り受けた斧・ビルキース”とは、すなわち、丸太氏から譲り受けた斧“と”ビルキース。
では、玄人好みが丸太氏から一時期に譲り受け、いま改めて手にしている斧。
ついに出雲大社の丸太を手にした彼が「使いたいと思わなかった」得物とは――
「斧は、農具でもある棍棒に次いで古い起源をもつ武器だ。
バランスはやや悪いが扱いは難くなく、高い攻撃力の一因である長柄は敵船からの繋留索を断つためにも重宝された。
だがこの“ウルヴァン”は、あまりにもガチな能力値を持つ癖に民家から登場した騎士の、今は亡き師匠が得物。
しかも、その師匠は育て上げた騎士に殺られた。奴の出たロワでこれを支給された奴も登場話で死んだ。
SRPGロワからの出典ゆえに玄人好み、いや、今までの傾向からして自殺志願者向きの扱いにくすぎる武器。
本来の使い手さえ力を発揮せず死を選んだ呪いの斧に他ならねぇってのに、何だって俺はこんなものを……?」
説明する機会を得たは良いものの、いわくつきの斧を手に複雑な表情を浮かべる玄人好み。
その目には身振り、手振り、声色に表情まで使って説明した達成感と、ウルヴァンへの危惧が相半ばしている。
玄人好みが恐れるのは、何よりも“これ以上説明が出来なくなる事態”だった。
彼が説明力を発揮できたのは今で三回目だが、それは、いずれも支給品についての解説でしかない。
ロワという環境の厳しさはいやというほど理解しているが、だからこそ、彼は真から“食い足りない”と思う。
もっと別の角度から、もっとたくさんの対象を、もっと落ち着いた環境で、飽くことなく説明したい――と。
「なるほど。自殺志願者ですか」
「ああ。記憶が確かなら、あれは今の持ち主すら死にたがりだ」
ウルヴァンの現在の持ち主である男。漆黒の騎士は、まだ死んではいない。
だが、それも“死にたがり”というキャラの性質に反逆する書き手心と、彼の“戦う相手を求めにいく”姿勢が大きい。
そのあたりは暗黙の了解であるために、純粋な好みで武器を選んだ丸太氏でさえ鎮痛なものを顔に浮かべる。
「では、それは私が持つというのはどうでしょう?
この体こそメカですが、詩人が得意な武器のカテゴリーは“斧・棍棒”ですし」
「「なん……だと……?」」
ゆえにこそ、表情を見せないエーデルリッターの提案に、残り二人は同一のリアクションで応じた。
ジャンプの漫画繋がりのひと言は、シンプルであるからこそ彼らの動揺を如実に表す。
「命を大切にしない者は、何もあちらの専売特許ではないでしょう。
アニロワ2ndのスパイクなどもそうでしょうし、サガロワにも、そんな男はいます」
それを聴いてなお、詩人は機械らしく平然としていた。
“戦って死ぬ”という目標を掲げ、そのわりに“罠(雑魚)で死ねるか!”と死にどきを選びすぎる傭兵。
俺よりも強い奴に殺されたい男の物語を説明しながら、詩人は玄人好みの手から斧を受け取る。
「この武器を使われよ」と言われなかったおかげか、ビジュ@サモンナイト3のように受け取り損ねて死ぬ展開もない。
「それに……私は詩人です。ただ、歌っているだけですから」
「いや、中身が戦闘メカなら し っ か り 戦 え 」
心配したのが馬鹿馬鹿しいと言わんばかりにツッコミを入れる丸太氏。
彼が振った腕の角度について玄人好みが解説を行うに至って、空気が柔らかなものとなる。
この、水ものの状況に応じて行う丸太氏のツッコミは行う者と受ける者、双方の感性を鋭敏にし、
知識を分かりやすく噛み砕いて示す玄人好み説明は、相手に思考を伝達する力とも深く通じており、
半機械、エーデルリッターの有する平常心は、個性の溢れて仕方ない彼らの力を十分に引き出す――
「よぉし、ひと休みしたらやるぞ! 究極と至高の丸太を探す旅は、まだ始まったばかりだ!!」
良い流れを感じた丸太氏が蒼天に向けて宣誓を行い、様変わりした地図を手に食事を始める。
枯れた遺跡の様子も気になるところだが、樹がまばらな以上、そこは丸太氏の望む場ではあり得ないらしい。
「聖域もいいが、墓場に宿るだろう魔力も捨てがたいところだ。
……ああ。桜の根には死体が埋まると言うが、大阪を目指すのもオツだったかもしれんな。
造幣局の桜並木から頂いた葉で道明寺を作れば、カプコンの地元効果と相まって回復力も上がっただろうに」
樹に関する説明にかけては本職を上回る性能を発揮するワニの背中を眺めながら――
『だからか。貴様が逝き、北海道の氷海も消えたために、こうなったのだな』
遺跡の壁に背を預けたエーデルリッターは、詩人の顔に隠した武人の思考を働かせていた。
北海道より、さらに北。
氷の浮かぶ海の底にはロマサガ2のボス敵・七英雄よろしく、サガロワ歴代書き手の本体があったのだ。
半妖の体に使い走りの精神を擁した◆69O5T4KG1cや、詩人の外見にメカの性能を秘める◆FzZ4PxBZ76。
サガロワ書き手全体にみられる異形の姿も、実はここに因している。
SSの執筆にあたって原作や資料に『同化の法』を使って能力を吸収した代償が、精神と肉体、両面のひずみに顕れたのだ。
ハートシーカーなどはその力がために精神の均衡を崩していたようだが、少なくとも後悔はなく逝けたらしい。
だが、いくら年代ジャンプ≒状況の一大変化が起こっていようと、日本が崩壊した今では本体との融合などかなわなかった。
『ああ、そうだな……“貴殿はじつに惜しい書き手だった! 残念だが、私はそれを受け入れ邁進しよう!”』
そんな、エーデルリッターの思考における母語が突如変わった理由。
そして、ハートシーカーの記憶を彼が把握できた理由は、ただひとつにして“もうひとつ”。
七英雄に対抗すべく皇帝の力を伝承し続けた者たちと同じ現象が、彼と◆69O5T4KG1cの間に生まれたからに他ならない。
ハートシーカーとエーデルリッター。彼らの、現時点におけるサガロワのSS投下数は一位と二位、31と27。
皇帝<トップ書き手>の崩御を受けて、彼女の無念を晴らすべく立ち上がる次代の皇帝に、◆FzZ4PxBZ76が選ばれたのだ。
ゆえに今、ハートシーカーの記憶と、彼女の“最も尖ったもの”が、彼に伝承されつつある。
(27+31)/142*100。40%(小数点以下切り捨て)。
過疎と盛況のボーダー上にあるとも評されたロワの、それだけの力が高貴なる騎士に注がれていた。
ハートシーカーの作品には当然ながら波もミスもありすぎるが、それでも、伝わるものはたっぷりとある。
例えば、ジニー・ナイツやカタリナ、コンボイらの見せた決意。ミレイユの騙しを交えた考察。レオンのどす黒さ。
そして、
外道皇帝どころか、一時は“最終下衆皇帝”とすら称されたロワ充・ニコライのフリーダム。
エーデルリッターが死亡話を書き、ハートシーカーが心境を補完した吟遊詩人の――客観性。
彼女のカルマとでも言うべきものが、たしかに次代の皇帝には受け継がれた。
『……今なら、おそらくツインネックのギターも弾けるのだろうな』
クイックタイムをはじめとするニコライの技術や、吟遊詩人の演奏技術と冷静が、彼の底に。
ロマサガシリーズで唯一外見の変わらぬ詩人の、初代は光の神エロールであった男の、魂に染み渡っていた。
リメイク前のロマサガにあった、ハオラーンという“自分の名”を知っていた吟遊詩人の描写が、この伝承を後押ししている。
……問題は、彼にそれを使う気があるかどうか。
例えば。彼が純粋なサガロワ書き手のままであれば、彼は力を明かしただろう。
例えば。彼がヴィクトールのような対主催に近い精神を持っていれば、彼は力を仲間のために役立てただろう。
しかしながら、彼が引き継いだものは、最終的に勝てるのならいかな非道も肯定するニコライ。
◆69O5T4KG1cがやたら生き生きと書いていた男の記憶が刻まれたからこそ、彼の力の用途は――
『簡単なことだ。すべてあるものは正しいというのなら、私は、私の思うままにあればよかろう!
詩作! あの魂の閃きと交歓、そして最高の舞台を待ち続けて命を散らそうものなら……その前に作りに往けば良い。
この力のすべてを私のために、私が“私”であるために。私の目的を達成するために、使ってみせようではないか』
これ以上なく明確に、決定された。
◆69O5T4KG1cが自分のサガに負けて逝ったというのなら、◆FzZ4PxBZ76に自重を求める権利などないのだから。
罪悪感など生まれる前に捨てたかのように、エーデルリッターは清冽な朝明けに赤いアイセンサーをきらめかせる。
晴れがましいと形容出来るほどに爽やかな立ち姿にはなお、いち書き手としての誇りが残っていた。
それは、サガロワの維持と進行を願い……信仰すらして異形を手にした歴史がある限り、消えはしない。
まさに信仰にも近く、丸太氏が丸太を求めるように。
大気を求める自然さで、玄人好みが説明を行うように。
ゲームを盛り上げて詩を歌い上げる。その詩想を発想を演出を、サガロワの作品に活かす。
それが此処に立つ彼の柱。スレドニ・ヴァシュターだった。
【一日目 朝/ルインズエリア・遺跡周辺】
【丸太氏@動物バトルロワイアル】
【状態】:疲労(小)
【道具】:丸太(出雲大社の木)
【持物】:基本支給品、HARLEY-DAVIDSON:FAT BOY@
ロボロワ、不明支給品0~1(「丸太が使いたい」武器は無い)
【思考】
1:しばらく一休み
2:何となく、獣王会心撃を撃ちたい
【備考】
※外見はクロコダイン@ダイの大冒険。
※
猛撃のエーデルリッターと情報交換をしました。
【大いなる玄人好み@安価漫画バトルロワイアル】
【状態】:説明病末期
【装備】:ビルキース@サガロワ(火の術・魔法が使用可能)
【道具】:基本支給品、YAMAHA SR400@現実、不明支給品0~1
【思考】
1:まだまだ説明しまくる
2:このフィールドでも説明しまくる
【備考】
※外見は説明台詞の人@斬。
※猛撃のエーデルリッターと情報交換をしました。彼の説明により、基本的な火術を使えます。
【◆FzZ4PxBZ76:猛撃のエーデルリッター@サガロワ】
【状態】健康、伝承法の極みに達した
【装備】フォルテール@GR2、ウルヴァン@SRPGロワ
【道具】基本支給品、不明支給品0~2
【思考】
基本:詩人の心をつかむべく、詩作に励む。演出の為には手段を選ばない
0:次の題材探し。基本的には二人に同行する
1:フォルテール&他の参加者に興味。もののふの心を持つ者を探したい
2:伝承された力は極力明かさず、自分の役に立つように利用する
【備考】
※外見は詩人@ロマンシングサガ1~3。素顔はメタルアルカイザー@サガフロンティア1です。
※伝承法@ロマンシングサガ2によって、◆69O5T4KG1cの能力を引き継ぎました。吟遊詩人(エロール)@ロマンシングサガ、
ニコライ・アレクサンドル・バレンヌ(最終皇帝男)@ロマンシングサガ2の能力が発現しています。
※丸太、大いなる玄人好みと情報交換をしました。
【支給品紹介】
ウルヴァン@SRPGロワ
丸太氏に支給されていた。
アイクの父親にして漆黒の騎士(ゼルギウス)の師・グレイルの形見の斧。魔防が少し上がる。
SRPGロワでは、ビジュ@サモンナイト3の初期支給品だった。
ビルキース@サガロワ
丸太氏に支給されていた。
ルビーとサファイアを合成することで生まれる素材・シヴァの女王製の装飾品。
火に属する術を使うための媒体かつ、土に属する術を強化する力を持つ。
ロマンシングサガ ミンストレルソングではなく、アンリミテッド:サガからの出典である。
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最終更新:2009年06月22日 08:18