仲間を守る。そのためには悪鬼羅刹になろうとも構わない。
そう決意し、何人もの書き手達をその手にかけてきた。
そして彼の側に横たわる――大阪を混乱に渦中に叩き込んだ元凶の一人の死体があった。
『超神』は全ての力を使い果たした末に彼――
ネクロノミコン・血液言語版によって斃された。
「漁夫の利だろうと罵られようが構わないさ……俺はやっと仲間を救えたのだからな」
オレンジ色の髪を持った少年――衛宮士郎の姿をした彼はそう呟いた。
今もなお続く投影の負荷による苦痛。
気を抜けば気絶してしまいかねない痛みを堪えながら彼は修羅の道を歩む。
この苦痛は『ギャルゲロワノミカタ』の決意した代償と言わんばかりに。
この身体はギャルゲロワ2ndの剣。
剣が折れ砕かれるその日まで仲間を優勝させるために振るわなければならないのだから。
超神の死体の横で静かに寝息を立てる少女がいる。
大阪事変の際、超神にその身を取り込まれた
血神ニェノチだ。
彼女は超神の死と共にその呪縛から解放され現世に舞い戻ってこれたのだ。
「やはり彼女の血の影響か」
大阪全土を覆う触手の群れ、彼女が持つ贄の血を取り込んだ結果だろう。
そう彼は推測する。
血液言語はニェノチの容態を確認する。
呼吸・心拍数ともに安定。
所々に擦り傷が見られるがそれも彼女の持つ自然治癒力で塞がりつつある。
「しかし……よりにもよってこの力を宿してるなんて……」
血液言語はニェノチの傷口の様子に目を軽く背ける。
ニェノチの傷口に蠢く無数の白い蛆。時折蛆が飛び跳ねて地面に落ちる。
ギャルゲロワ2ndに登場する魔導書の中でももっとも呪われた存在――妖蛆の秘密。
その不死性は凄まじく、片腕が切断されても瞬時に再生するほどの物であった。
もう一つ彼が心配する物があった。それは超神との融合である。
解放されたとはいえ彼女にはどんな後遺症が残されているかわからない。
今の所は目に見えた――例えばDG細胞の侵食は見られなかった。
「う……うん……」
気絶していたニェノチが声をあげる。
そして彼女はぼんやりとした瞳で目を覚ました。
「気がついたか」
「あれ……わたし……あ……あなたは……」
ゆっくりと再起動してゆくニェノチの瞳に映る少年の姿。
彼女の良く知る衛宮士郎の姿。
そして左腕に巻きつけられた赤い聖骸布。
「衛宮……士郎……」
おそらく彼はギャルゲロワ2ndの衛宮士郎。
戸惑うニェノチに彼は自らの名を名乗った。
「俺はネクロノミコン・血液言語版。血神ニェノチ――君と同じギャルゲロワ2ndの書き手だ」
■ ■ ■
ニェノチはまだぼんやりとしている思考を何とか覚醒させこれまでの出来事を思い返す。
最初にいた場所は京都駅の駅構内だった。
そこでもう一人の自分……らき☆ロワの
ブッチギリ平野に襲われるも何とか逃げることができた。
しかし、逃亡の手段として使用したF-15Eの変身は予想以上に体力と精神力を消耗し淀川に不時着。
岸にたどり着くも意識を失ってしまった。
そして――次に目覚めるやいなや周囲を覆う無数の触手に取り込まれ再び失われるニェノチの意識。
その後今に至る。
「ううっ……ずっと気絶してたから何がどうなったのか全然わかんないよ……」
長い間意識を失っていたようでどうにも現状の把握ができない。
気絶は生存フラグとよく言うが、同時に空気化の一歩でもある。
何としても空気化することだけは避けなければならないのだが……
ふと周囲を見渡す。
正面に立つ血液言語版。そしてその背後に倒れる人影――
「そ、その人……」
「死んだよ。俺が――殺した。君を助けるために」
「そん、な……」
「こいつは『超神』ユーゼスの顔をしてるあたり
スパロワの書き手だろう。あんたはこいつにずっと取り込まれてたんだ」
「…………」
「何か言いたそうな顔だな……だが俺は俺の道を決して曲げない、曲げるわけにはいかない。俺は『ギャルゲロワノミカタ』なのだから――」
やはりそうなのか、とニェノチは顔を曇らせる。
アチャ腕士郎の姿をしている時点で彼がそういうスタンスであることは予想できた。
「あの……一つだけお願いしていいですか?」
「『ギャルゲロワノミカタ』をやめろという願いはノーだがな」
「いえ、わたしだってギャルゲロワ書き手です。衛宮士郎の決意がそう簡単に折れるなんて思ってないから……だからせめて」
彼女は言葉を区切って、強い意志を秘めた瞳で言った。
「殺すのはできる限りわたし達を狙うマーダーに留めてください。わたしだって書き手のはしくれ、ロワで綺麗事が通じるとは思ってませんから」
「約束はできないが……努力はしよう」
ほっと胸を撫で下ろすニェノチ。
それと同時に軽い自己嫌悪。
いくら対主催のスタンスを取っていても、この場所で行われる殺し合いを全て止めるなんて思ってはいない。
自らの命を守るために他者の命の奪うことについては肯定せざるをえない自分。
殺人を肯定する自分。結局、分身である平野と根の部分では一緒なんだと。
「ぐっ……あっ…クソッ……また……ッ……かよ……ッ!」
「血液言語版さん!?」
突然、血液言語版が腕を押さえ苦しみだした。
体内から伸びる剣によって全身が食い破られるような痛み。
聖骸布によって厳重に左腕を封印しているのも関わらず溢れ出す激痛。
投影の副作用は衛宮士郎と同じく血液言語版の肉体を蝕んでゆく。
「まさか……もうすでに投影を!」
「ははっ……こんなとこまで士郎と同じじゃなくてもいいのに……っ、ぐぅっ……」
顔を歪め苦痛を堪える血液言語版。
ニェノチは何か自分にできることはないかと考え――
「そうだわたしの血なら……!」
ニェノチは自らの手首を切り裂く。
一筋の赤い線が走り、すぐさま血がぼたぼたと滴り落ちる。
贄の血――ありとあらゆる人外の能力を強化する血。
書き手ロワの人間はほとんど人外のようなもの、きっと血液言語版にも効果あるはずだ。
そして血と共に零れ落ちる白い蛆。
自らの身体とはいえ何度見てもおぞましい光景に目を背ける。
ニェノチの体内に巣食う無数の蛆は傷口を治そうとすぐさま活動を開始する。
さすがに彼に蛆虫入りの血を飲ますのは気がひける。
「De Vermis Mysteriis/release……!」
ニェノチの身体と同化している妖蛆の秘密を一時的に強制切断。
無数の電気回路のブレーカーを落とすように接続が切り離されてゆく。
しかし身体と同化している物を強引に引き剥がすのは彼女にとって苦痛を伴うものだった。
「っ……血液言語版さん、わたしの血を飲んで! 今は蛆虫を出ないようにしてるから……」
「あ、ああ……」
血液言語版は戸惑うものの彼女が持つ贄の血の持つ魔性の芳香から逃れられそうにない。
熱にうなされたような表情で彼はニェノチの、血が滴り落ちる左手首に舌を這わせた。
「んっ……」
こそばゆいような痛いような不思議な感覚に彼女は身を震わせる。
その仕草がひどく可愛らしく、ひどく愛おしい。
だから足りない。
血だけじゃとても足りない。
彼女の全てをモノにしたい。
彼女の何もかもを貪りたい。
甘く熟れた果実を割り開くように彼女の肉体を求めたい。
「きゃっ……」
仰向けに押し倒されるニェノチ。
視線の先には熱い吐息を吐く血液言語版がいた。
その口元に流れる赤いニェノチの血。
焦点の定まらない瞳で彼はニェノチの鎖骨辺りに指を這わせる。
もぞもぞと芋虫のように這う指がニェノチに何ともいえない感覚を呼び起こさせる。
「……それ以上は……だめ……っ、だよ……」
彼にニェノチの言葉は届かない。
完全に贄の血が持つ魔性に魅入られてしまっている。
彼は果実の皮を剥くようにニェノチの上着のボタンに手をかける。
「やだよ……目を覚まして……っ……血液言語版さん……!」
はだけた胸元を隠す彼女の両腕。
その左手首から今もなお流れ出す贄の血が赤い水溜りを胸元に作る。
その血を飲み干そうと血液言語版は顔を近づけるが――
血がニェノチの胸元に不思議な文様を描いていた。
円と直線を組み合わせた幾何学的模様。
10個の円とそれらを繋ぐ22本の直線。
―――――――――0から00が生じ、そして00を経て000となる。
血の文様はすぐさま姿を消す。
そして――白い蛆が血の中で蠢いた。
「――ッ!」
血液言語版の瞳に理性の光が舞い戻った。
自分が何をしているのかを理解した彼は飛び跳ねるようにニェノチから離れた。
「糞ッ! 俺は何をしているんだ……! 糞ッ! 糞ッ! 糞ぉぉぉぉぉぉッ!」
自らの行為に反吐がでる。
ひたすら自分の拳を地面に打ちつける血液言語版。
皮が破れ血が滲んでも彼は拳を打ちつけることをやめない。
「大丈夫……わたしは大丈夫だから……!」
「俺は何てことを……ッ! もう少しであんたを……!」
「血液言語版さんは悪くないから! だから落ち着いて……!」
必死に血液言語版をなだめるニェノチだった。
「ごめん……本当にごめん……」
「気にしないで、初めての人にわたしの血はちょっと刺激が強すぎただけだから。でも、身体は楽になったでしょ?」
「ああ……」
「だから、もういいの」
そう言ってニェノチは微笑む。
その笑顔が血液言語版の心を癒す。
そして改めて誓う。この笑顔を何としてでも守り抜かなくては――
■ ■ ■
「そろそろ……行くか」
「そうだね、身体のほうは大丈夫?」
「ああ」
行くあては無い。
ただ仲間を求めて当てもなく彷徨う。
降りかかる火の粉は全力で切り払うだけ。
「あの人はどうしよう……埋めてあげたほうがいいのかな」
ニェノチは物言わぬ超神の死体に向かって呟いた。
「いらんよ、奴は全力で戦い力を使い果たし俺に殺された。その結果が奴の墓標だ」
「そう……」
ニェノチは超神を見つめている。
ほとんど言葉を交わしていない、残っている記憶は触手に取り込まれる寸前だけ。
だけど何故だろう……?
彼を目にしているとひどく胸が痛む。
まるで彼に残された何かが自分に訴えてきてるような――
「さあ……行くぞ」
血液言語版が声をかけるもニェノチの反応は無い。
どうしたものかとニェノチに目をやると彼女は虚ろな瞳で立ち尽くしていた。
「おい! どうした!?」
彼はニェノチの肩を掴んで軽く揺する。
すると彼女は虚ろな表情のまま言葉を発した。
「ディーンの火がディスの目覚めを促す……」
ほとんど聞き取れない声でそう呟いた。
「何だって? 何を言ったんだ? おい!」
「え……? わたし……何か言った?」
「何かぶつぶつ言っていたが……大丈夫か?」
「別になんともないけど……」
「……わかった。先を急ぐぞ」
「うんっ」
一抹の不安を抱えながらも二人は歩を進めるのだった。
Dis Revu/reincarnation
外見的な面でニェノチに超神に吸収された際の後遺症は見られなかった。
しかし、それは外面的であって彼女の内面についてはそうではない。
超神の残滓は彼女の体内に確実に残っていた。
そう、ディス・レヴとして。
ニェノチが宿す妖蛆の秘密には一つの特性がある。
彼女自身は治癒能力以外の能力しか使っていないものの、妖蛆の秘密は人の負の怨念や怨霊を凝縮し糧とし兵装とする魔術が存在する。
悪霊や怨霊、死霊などを糧とし動力へと変えるディス・レヴやダイダルゲートと本質的には同じ存在。
それが超神へ吸収された際にお互いが共鳴しあい、妖蛆の秘密はある記述を自らに記し始めたのだ。
膨大な魔術言語による記述。
何万行に及ぶその詳細は動力機関であるディス・レヴの魔術的なエミュレート。
本来触れ合うことのない二つの存在の邂逅により生み出されたイレギュラーな存在だった。
まだ彼女は気づかない。
その身に宿すディスの心臓の胎動を。
【一日目 午前 /リトルアイランドエリア】
【ネクロノミコン・血液言語版◆WAWBD2hzCI@ギャルゲロワ2nd】
【状態】健康、強い決意 贄の血摂取による強化
【装備】維斗@ギャルゲロワ2nd
【道具】支給品一式×2、不明支給品2~8
【思考】
1:ギャルゲロワ2ndの人間を優勝させる
2:血神ニェノチと行動を共にする
※贄の血の摂取により投影の負担が軽減されています。
【血神ニェノチ◆DiyZPZG5M6@ギャルゲロワ2nd】
【状態】疲労(小)
【装備】無し
【持ち物】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:対主催として行動する。いつか自分(ブッチギリ平野)と決着をつける。
1:ネクロノミコン・血液言語版と行動を共にする。
2:できれば血液言語版の奉仕マーダーをやめさせたい。
※姿は羽藤桂@アカイイトです。
※F-15Eに変身できますが大幅に体力と精神力を消耗します。
※彼女の贄の血を飲んだ人外は大幅にパワーアップします
※超神に吸収された影響でディス・レヴを体内に宿しました。
ニェノチ自身はまだディス・レヴの存在に気がついていません。
時系列順で読む
投下順で読む
| 閃光 |
ネクロノミコン・血液言語版 |
? |
| 閃光 |
血神ニェノチ |
? |
最終更新:2009年07月21日 09:53