自己への初めの問いかけは、基本となる行動方針。
 他者と共に悪の親玉を打ち破るか、それとも他者を殺し尽くして最後の一人になるか。
 つまり対主催になるか、それともマーダーになるか。
 それに対する答えは一つ。

「しばらく様子見だな」

 現時点では、他の参加者の動向をまるで把握できていない。
 この密閉された空間に連れられた参加者の総数も、その内の対主催とマーダーの比率も。
 だから、自身の行動方針は場の情勢を見極めてから決めるとしよう。
 ゲームの主催者に抗う勇猛果敢な者達が優勢となるようならば、自分も彼らに仲間入りしよう。
 彼らとの共闘の果てに、最後は愛と勇気の大勝利というわけだ。
 この場に集った対主催ではマーダーや主催者に勝ち目が無いようならば、残念ながら彼らと組むことは出来ない。
 そうなれば自分もマーダーの一人として、対主催達も他のマーダー連中も蹴落とすために戦わざるを得ないわけだ。
 ともかく、どちらが適切な選択か不明な以上は情報集めが第一であり、他者と接触する必要がある。
 そうなれば二番目の問いかけは、その他者の内の一人と接触すべきかの判定。

『だから…私と志を同じくする人は、街の中のE-5にいるから、集まってください!お願いします!』

 拡声器でも使っているのだろう、現在身を隠す家屋の中にまで届くこの呼びかけに応じるか否か。
 それに対する答えも、至って簡単。

「行くわけねえだろ、馬鹿が」

 名も知らぬ彼女による召集が成功すれば、対主催戦力の一団が早くも完成することになるだろう。
 しかし、そんな素敵な話の成り立つわけがないことも容易に想像できるわけで。
 あの声に釣られてマーダーもまた一人や二人やって来る可能性は十分に在り得るし、それ以前に声の主自体が実はマーダーである可能性もまた否定できない。
 対主催達と共に、複数人のマーダーが「お待ちかねの狩りの時間だ」と舌なめずりしながら一堂に会するなんて事態が起こりかねないと言っていい。
 そうなれば、いずれ必然的に発生するのは戦闘、それも恐らく乱戦だ。
 同じく集まる対主催がマーダーを全て打ち破るのか、それとも呆気なく対主催がマーダーに根絶やしにされるのかはわからないが、
 とにかく一人や二人には流血沙汰の悲劇が降りかかる羽目になるだろう。
 その被害者になるのは、御免だ。
 出来るだけ速やかに、出来るだけ多くの者達の意見を聞きたいとは確かに言った。
 しかし、そのために誰の目にも明らかな地雷原に飛び込むわけにはいかない。
 いくら情報を得たところで、死んでしまっては情報を得る意味が無いのだから。
 よって、放送の主は"接触すべき誰か"には値しないと判断する。
 現在身を置くE-5からはさっさと離れて、彼女以外の参加者を探して話しかけるとしよう。
 きっと危険を承知の上で行動を起こした彼女や、彼女の下に集うだろう参加者達については……諦めることにした。
 わざわざ進んで危険を冒すような軽率な連中などとは、最初から縁が無かったのだ。
 死も覚悟の上だというのなら、そのまま勝手に死ねばいい。
 心中で吐き捨てながら、外へと歩み出す。


      O      O      O


 ここで、最終的にマーダーとして戦う道を選ぶと仮定しよう。
 その場合、死地からの離脱という今回の判断は、自身の保護のためにも妥当な判断だったと言うべきだろう。
 しかし、結局それはマーダー――人道を踏み外した畜生の理屈に過ぎないわけなのだが。
 では、次は最終的に対主催として立ち上がる道を選ぶと仮定してみよう。
 対主催――悪を許さぬ正義漢として戦うのだから、誠実かつ立派な姿勢と褒められて当然だ。
 しかし、それならば今回の判断はやはり卑劣と扱われるのだろう。
 罪も無き人々が命の危機に脅かされていると分かっているのに、我が身可愛さに彼らを見捨てたのだから。
 犠牲を嘆く優しさも持たない奴が巨大な悪意に抗う戦士に媚び諂ろうなんてのは、虫が良いにも程がある話だ。
 この二つの仮定はつまり、真っ当な対主催という立場の者からすれば自分の姿勢は唾棄すべきものだと示している。

「……ふん」

 胸の内に巣食う"善人"が訴えかける。
 お前の下す判断は、結局は誰かにとって無情な仕打ちに過ぎないのだと。
 胸の内から"善人"が口汚く非難を浴びせる。
 お前は他者への献身一つも出来ない、汚く醜い男だと。
 "善人"の声のボルテージが上がり、身体を内側から突き破らんばかりに勢いを増し、そして――

「で、それの何が悪いってんだ?」

 一言で、切り伏せる。
 今の自分は確かに汚いだろう、醜いだろう。認めよう。
 しかし、それは命ある人間として当然の姿ではないだろうか。
 現実の日々でも数多の創作の舞台上でも、耳に心地よい綺麗事だけじゃやっていけないのは常識中の常識だ。
 無垢な瞳を輝かせる誰かが障害にぶち当たって、叩きのめされて、惨めに打ちひしがれたところで、どこの世界だろうと何も不思議な話ではない。
 そんな、残念だが当然の事実を知っている一人の人間だから、誰か――特に、同じ時で同じ場で過ごした書き手達の嫌悪するだろう道を歩むのだ。
 利己的で、独り善がりな、他の何よりも自分の命を最優先とする道を。

「生憎、俺は愛とか勇気のために戦うつもりは無いんでな」

 投げやりな謝罪を口に出して、視線を自身の右腕に向ける。
 とある創作の登場人物そのままの有様に変わり果てた禍々しい右腕の、その手中で握られる一振りの黄金色の剣。
 これもまた創作内の別の男が愛用した得物であり、彼の掲げる行動目的――正義を貫くための"切札"。
 更なる力を引き出す専用のカードまでセットで支給したというのは、つまり作中の彼を真似て正義の炎に身を焦がせとでも言う気だろうか。
 そんな想像を経ても尚、この方針を変える気が起きない。
 彼の雄姿に沿わないやり方を選ぶことに、抵抗感は生じない。

「……まだ、やりたいことがあるんだよ」

 一つ言っておきたいが、何もただ意味も無くこんなやり口を選ぶわけではない。
 自身の胸の決して綺麗でない感情を肯定するのは、自分なりの目標を達成するためである。
 それは、一人の書き手で在り続けること。
 自分と仲間達の手がけるあの未完の作品を、これからも書き続けるために。
 最悪このゲームを経た後に仲間達を失う羽目になったとしても、それでも自らの手でいつの日か"終わり"を迎えさせるために。
 そのためなら、マーダーとして憎まれる時が来ようとも、構わない。
 半端者の対主催モドキとして蔑まれる時が来ようとも、構わない。
 どんなに意地汚くとも、最後まで生き残るために最善を尽くすだけだ。
 命が尽きてしまったら、もはや書き手ではいられないのだから。


      O      O      O


 この身を動かすのは、アイデンティティを守り通す意志。

「俺は、死にたくないんだ」

 言い換えれば即ち、生への"欲望"。


【一日目・深夜/E-5】

【◆qp1M9UH9gw@仮面ライダーオーズバトルロワイアル】
【状態】健康
【外見】アンク@仮面ライダーOOO
【装備】重醒剣キングラウザー+ラウズカード(スペードA~K)@オーズロワ
【持物】基本支給品、不明支給品×0~2
【思考】
基本:どんなに意地汚くとも、生き残る。
1:他の参加者と接触し、対主催とマーダーのどちらの道を行くべきか吟味する。
2:とりあえずE-5から離れる。

058:常識は破るもの ◆時系列順に読む 061:あの画像が今――――!
058:常識は破るもの ◆投下順に読む 060:When They Cry
◆qp1M9UH9gw :[[]]

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最終更新:2013年04月26日 19:08