E-2に存在する家電量販店、その一角。
壁に備え付けられた鏡の前に、一人の少女が立っていた。
夜空を思わせる蒼黒の長髪。少女離れしたミステリアスな雰囲気。
鏡に写るそんな自らの姿を見て、少女はポツリと呟いた。
「これ……雪美……」
雪美。佐城雪美。
それがこの少女の――否、この書き手の姿の元となったキャラクターの名前である。
出典元はアイドルマスターシンデレラガールズ、所謂モバマスだ。
つまりこの書き手はモバマスロワの書き手であり、そして、モバマスロワにおいて雪美を書いた書き手は一人しか存在しない。
その書き手の名は心情の紡ぎ手P。代表作は雪美の登場話にしてモバマスロワ第一回人気投票登場話部門優勝作品『約束』。
雪美の姿となるのに彼女以上の適任はいないと断言できる書き手だ。
そんな彼女は、しばし鏡を見つめていた。自らの目に、その姿を焼き付けるかのように。
そしておもむろに自らの衣服に手をかけ――
しばらくこのままでお待ちください
「満足……した……」
数分後、そこにはほくほく顔を隠そうともしない心情の紡ぎ手Pの姿が!
彼女に限らず、モバマスロワ書き手は大半がプロデューサーでもある。
そんな彼女たちが愛しのアイドルの姿になって何もしないなどということがあるだろうか? いや、無い!
一般的にはサービスシーンとして扱われるお風呂話を手がけたこともある心情の紡ぎ手Pならばなおさらだ!
「みんなも……きっと……いる……。……なら……私は……どうする……?」
衣服を整えながら、心情の紡ぎ手Pは思考する。
個人的な欲望を満たした今、彼女の関心は既に次の事柄に移っていた。
即ち、個人として何をしたいかではなく、書き手として何をすべきか、ということ。
他のモバマスロワの書き手もこの場にはきっといるはずだ。
そして、彼女たちはモバマスロワのアイドルたちのように、各々の信念に沿って行動するだろう。
ならば、自分はどうするのか。どのような信念を持ち、この殺し合いを立ちまわるのか。
自然と脳裏に思い浮かんだのは、自らが登場話を書いたアイドル、ナターリアの行動方針。
それは『アイドルとして自分もみんなも熱くする』というもの。
ナターリアはアイドルとしてみんな――他の参加者を熱くさせることを目指した。
ならば自分はどうか。書き手もアイドルも、誰かを喜ばせるという点では一致している。
だとすれば、同じものを目指していいはずだ。同じ方針を受け継いでもいいはずだ。
同じ方針。つまり、『書き手として自分も他の書き手も、そして読み手も熱くする』こと。
それこそがモバマスロワで自分が書いてきた作品に相応しい、そして書き手としても相応しい方針だと心情の紡ぎ手Pは確信した。
ならば、やることは一つだけ。
一大イベントだ。ナターリアが企画したライブのようなどでかいイベントを、このロワの中で起こすのだ。
何と言ってもこのロワは書き手ロワ。他のロワの書き手の力も借りれば、今までにないイベントだって起こせるはず。
「私……やる……情熱……負けない……」
誓いの言葉と共に、一歩を踏み出す。小さな、だけど力強い一歩。
かくして、心情の紡ぎ手Pのバトルロワイアルは幕を開けた――ところで、彼女の足が止まった。
「支給品……忘れてた……」
そう、鏡の前でいろいろとやっていた彼女は、今の今までデイバッグの存在を完全にスルーしていたのだ。
近くにあった休憩用のベンチに座り込み、デイバッグの中を漁り始める心情の紡ぎ手P。
ランダム支給品の内容によってはイベント発生が近付くということもあって、その目は期待に輝いていた。
輝いていたのだが……
「……ない……?」
そう、ないのだ。地図や食料などの共通支給品を全て取り出しても、ランダム支給品が出てこない。
デイバッグの中を覗いてみても、鍵付きクローゼット一つ見当たらないのだ。
外れ支給品ならまだリアクションの一つもとれようが、支給品がないのならばそれも無理な話だ。
これはどういうことなのかと首をひねったところで答えは出ず、ランダム支給品が現れることもない。
ため息をついて、心情の紡ぎ手Pは立ち上がる。
「……出鼻……挫かれた……。……でも……頑張る……」
アクシデントはあっても、心情の紡ぎ手Pの方針は変わらない。
『書き手として自分も他の書き手も、そして読み手も熱くする』ため、彼女は進む。
モバマスロワでついぞ佐城雪美が開けることのなかった屋外への扉を開いて。
今度こそ、心情の紡ぎ手Pのバトルロワイアルは幕を開けたのだった。
―――――――――
皆さんは、空気というものをご存知だろうか。
身近な気体のことを言っているのではない。
影が薄い、なんかパッとしない、出番がない。出番があっても台詞がない。ここから先はステルスモモの独壇場っすよ。
種類はいろいろだが、とにかく、今この場での空気とは、そういう類の空気のことを指している。
パロロワにおいては、空気キャラや空気支給品が登場することは珍しくない。
そんな空気達は、読み手にも書き手にも妙な人気を博し、ネタにされることが多々ある。
かつてとあるロワに、空気王と呼ばれる参加者がいた。
リミッターを外す某ファンダリア王のことではない。杉田の称号を持つ者のことでもない。
その空気王は、宇宙が崩壊するようなチート同士の決戦の末に死んでいった。
空気王は死んだが、彼女が用いた武器が壊れることはなかった。
何せ一本で宇宙崩壊余裕でしたなチート武器だ。自らが引き起こすことのできる宇宙崩壊程度で壊れるほど柔でもない。
その武器は、異世界へと飛び立っていった。そしてそのまま触れられることはなく、そのロワは完結を迎えた。
では、その武器はどこに行ったのか?
結論から言おう。この世界だ。
今書き手ロワ4thが行われているこの世界に、その武器は――空気の名を冠する神剣は現れた。
あるロワで生まれた剣が行き着く先として、これほどまでにふさわしい場所はないだろう。
何せ、その剣が生まれたロワもまた、書き手ロワなのだから。
書き手ロワ2ndにて生まれ、第261話『最後の空気王』にて異世界に飛び立ったその剣の名は――永遠神剣第一位『空気』。
書き手4thの世界に現れた神剣は、何の因果か心情の紡ぎ手Pのデイバッグに支給品枠を全消費しつつ収まった。
とはいえ、空気の名を冠する超絶チート武器がどんな書き手でもほいほい使えるようになっているわけはない。
空気を振るうならば、その者もまた空気であるべし。
そう、空気キャラにしか神剣は扱うことができない。
そうでない者は、神剣の存在に気付くことさえできはしないのだ。
それは、空気キャラが作中において認識されないのと同じ事。
神剣は眠り続ける。
担い手として相応しい空気キャラが現れるのを、眠りながら待っている。
いや、もしかしたら待ってなどいないのかもしれない。
空気キャラなんて、いないに越したことはないのだから。
【一日目・深夜/E-2/家電量販店周辺】
【心情の紡ぎ手P@モバマスロワ】
【状態】健康
【外見】佐城雪美@モバマス
【装備】なし
【持物】基本支給品×1、永遠神剣第一位『空気』@書き手ロワ2nd
【思考】
基本:『書き手として自分も他の書き手も、そして読み手も熱くする』
※永遠神剣第一位『空気』は空気キャラにしか認識出来ません。
※永遠神剣第一位『空気』は唐突に消えているかもしれません。なにせ空気なので。
最終更新:2013年05月03日 05:34