これはゴーキュー・ザ・キャラマスターがウォット・ザ・エクスピードに出会う、少し前の話しである。
◇ ◇ ◇
「なんていうか……まいったな」
赤髪をぽりぽりとかきながら一人の青年が呟く。
口腔に潜む鋭く尖った犬歯は、どこかドラキュラのような存在を匂わせる。
例えば彼がマルチジャンルバトルロワイアル――○ロワで書いた、バッカーノのクリストファー・シャルドレードのようだと言えば、きっとわかりやすい。
彼のトリップは•◆GOn9rNo1ts。『捕える者』ゴーキュー・ザ・キャラマスターこと○ロワ書き手の一人だ。
「あれが俗に言う見せしめ。
そして僕がここに居るのは参加者を会場へ移動させたため……やっぱりこれは、ロワなんだな」
ゴーキューは先程の光景を思い返す。
理不尽な事で埋め尽くされていたが、俗に言うロワのOPであることはよくわかった。
ならば自分はどうするか。
死なないことは当たり前として、自分がこのロワでどう動いていくかを直ぐに決める必要がある
「対主催、マーダー、ステルスマーダー……選択肢は色々ある。
でも、どれも口にするのは簡単だけど、実行に移すのも簡単と言えば……ちょっと違う、と思う」
ゴーキューの投下数はそこまで多くない。しかし、彼はいわば数よりも質の書き手。
ゴーキューに自覚はないだろうが、彼の初投下は新星と呼ぶに相応しい大作だった。
先ず以前のwiki計算において三分割という大容量であり、それでいて読みにくさを感じさせない。
キャラの特徴を原作から存分に汲み取り、ロワにおける行動や心情に違和感なく反映させる。
キャラが原作において抱えるテーマ、そしてロワ登場話から巻かれていたフラグの回収も
綺麗に昇華させた力は圧巻の一言。
他の住人からの感想は元より、絵師からは初投下ながらもイラストを贈呈され、人気投票では堂々の一位と評価の程は一目瞭然だろう。
そしてゴーキューのスゴイところは一発屋で終わらずに、安定してクオリティの高い作品を投下しているところにある。
許されるのであれば千の言葉で表現したいところだが、この場では割愛させて頂く。
ただ、一言で言わせてもらうのであればゴーキューが書くキャラには、説得力がある。
ゴーキューの書くキャラの心情や行動は、原作でのそのキャラの動きとロワでの動きを合わせて考えれば、とても納得がいくのである。
ゴーキュー・ザ・キャラマスターの、キャラマスターの名は伊達ではない。
だからこそゴーキューは対主催でも、マーダーでも、ステルスマーダーでもきっと上手く動けることだろう。
○ロワで一通りのスタンスのキャラは書いているのだから、トレースすればよい。
しかし、そんな彼であっても自身がロワに巻き込まれると言ったことは初めての経験だ。
必ずしも上手くいくとは言えず、その不安は決して拭いきれるものではなかった。
「とりあえず誰か、知り合いが居れば……」
不安を先送りにするようにゴーキューは歩き出す。
真赤に染まった眼球は少しだけいつもよりせわしなく動いている。
ロワでは深夜の市街地を歩き回ることは多いが、一言で片づけるほどに容易いことではない。
慎重に歩を進めながら、ゴーキューは周囲への警戒を怠らない。
その筈だった。
「なっ――!?」
咄嗟にゴーキューは身を翻し、その場から飛び退いた。
体勢を整えながらゴーキューは状況を確認する。
先ず両目に入ったものは屈強な拳。拳の主は身体の至る所にハートマークをあしらった人形だ。
ゴーキューにはその人形に見覚えがあった。
彼がまだ読み手だった時に、○ロワでその人形が活躍していた事をよく覚えている。
スタンド――クレイジー・ダイヤモンドの傍に一人の男が立っていた。
「いいか、今のはちょいとばかしアイサツ代わりってやつだ。
俺の質問にサッサと答えねェと――今度は容赦なく、クレイジーダイヤモンドをブチ込むぜ」
ジョジョの奇妙な冒険のジョセフ・ジョースターの姿がそこにあった。
ただし、その男もこのロワの例にのっとり、ジョセフの姿をしているだけでしかない。
彼のトリップは◆hqLsjDR84w。彼の所属しているロワは――
「俺は漫画ロワの康一だ。ほら、今も続いてる漫画ロワのだよ。
誰でもいい……漫画ロワの連中に今まで会ったか?もし会ったのならどっちに行ったか俺に教えてくれ」
「いや、僕が会ったのはあなたが初めてですよ」
「チッ……ハズレか」
そう、漫画ロワだ。
康一君の有無を言わせない態度に、ゴーキューは素直に事実を話す。
明らかに落胆した様子を見せる康一君を見て、ゴーキューには一つ思い当る節があった。
「あっ、康一って……○ロワの康一君ですか?
ほら、前に第4回放送を書いていたじゃないですか。僕も○ロワ書き手なんですよ!」
ゴーキューが思い出したことは○ロワ住民にとって未だ記憶に新しい。
放送を予約し、そして進行役であったギラーミン――正直書き手が頭を抱えていた――に見事、有終の美を飾らせていた。
彼もまた新星に相応しい登場を果たし、今後も活躍を期待されている書き手の一人だ。
なにせ投下数0の状態で終盤のロワで主催陣を纏めて予約し、更には退場者も出したのだ。
相当の熱意がなければ出来る事ではないが、面白いフラグの一つや二つなど容易に考える彼にとって造作でもない。
「テメェ……人の話しはちゃんと聞いておけって、学校で習わなかったのか?
俺は漫画ロワのって言ったんだぜ?○ロワだなんて、これっぽちも知らねェーーーぜ!!」
いいか、一度しか言わねェーから耳の中かっぽじってよく聞きやがれ」
だが、目の前に居る男はゴーキューが知っている康一君とは違う。
この場に居る康一君は、○ロワではなく漫画ロワに所属していた書き手。
否、漫画ロワにおいて――作品投下を行うことで戦っていた男だ。
「俺の目的はただ、シンプルにひとつ!
他の漫画ロワ書き手には勝つ……いつかはケリをつけねぇとは思っていた。
俺達は書き手だ。どいつもこいつも、もちろんこの俺も投下する時には、心の底ではこう思っている――“こいつらには負けねぇ!!”ってな。
だからよォ、たとえロワでも、負けたくはないってのが本音なのさ!」
漫画ロワは書き手が作品を投下することで進んで来たロワだ。
誰が立てたロワだなんて関係ない。どんな陰口を言われてもいい。スレが荒れた時だって書き手のやることは変わらない。
ただ、面白い作品を読んで、面白い作品を繋いで――面白い作品をぶちかます。
スレで書かれた感想は次の投下の糧になるだけではなく、読み手すらも生みだす。
新たな読み手は次第に想いを抱いていく。“自分もこの輪に混ざりたい”、と。
研ぎ澄まされた想いは力となり、彼らは書き手となった。
ある者はPCを使い、ある者は携帯を使い、漫画ロワの新しい物語を紡いでいった。
そう、礎となった作品が次の作品を生み、古の書き手が新たな書き手を呼んだ図式。
生命の連鎖とも言えるその流れは、きっと絆と呼ぶに相応しい。
康一君もその絆に引き寄せられた者達の一人だった。
「だったら……むしろ貴方は他の漫画ロワに協力するべきじゃないんですか?
決着をつけるのは、ロワが終わってからでもいいはずだ!」
だが、ゴーキューには康一君の言っていることがわからない。
同じロワ書き手なら争う理由なんてない。
未だロワが続いているのに同じロワの書き手を狙っていくなんてリスキーでしかない。
書き手は少ないよりも多い方がいい。簡単な話しなのだ。
「チッチッチ……おたくの考えは甘ェ。
ガキの頃にシロップをしこたまぶち込んだコーラよりも甘ェぜ」
「っ!どうして――」
「俺は恐れちゃいねぇ。書き手が減ることで、完結しなくなるんじゃないか――ってコトはな」
思わずゴーキューは身震いした。
目の前の康一君が纏う空気が変わった。
今まで体験したことのない気配が肌越しに感じられる。
「一人になっても、自分がロワを完結させる。他の漫画ロワ書き手もそう思ってるはずだ。だったら、俺と全力でぶちあたってもきっと後悔はない……俺はあいつらをそう信じている。
だいたいよォー、人が書きてェーと思ったところをドヤ顔で奪っていくヤツばかりなんだ。
死んじまったらもう投下出来ないだろ。そう簡単には、死んでくれねぇさ」
覚悟。いや、信頼と呼ぶ方が正しい。
ゴーキューには確信があった。
目の前の男は、いや漫画ロワ書き手達は一言で言い表せない関係で結ばれている。
たとえ互いに敵対心を燃やしていても、奇妙な信頼が心のどこかで繋がっている。
そんな事がただ無性に感じられ、そして――どこか嬉しかった。
「……僕も同じですよ」
「ん?」
ゴーキューが息をつく。
康一君の覇気に気押されはしたが、彼だってただの参加者ではない。
ゴーキューだって、書き手なのだから。
「僕の○ロワは色々と大変なことがありました。僕がまだ読み手だった時は、スレはよく荒れて、書き手になった後も二年間停滞していたこともあった」
「……そいつは凄いな。うちのロワだとそれじゃあ遅すぎる」
「ええ、そうなんでしょうね」
康一君はゴーキューの反応が不思議だった。
毒を含ませた言葉に反論することもない。
ただ受け入れるその姿は、どこか晴れ晴れとしていた。
「だけど、二年経ってもスレはまだあった。他の書き手達も帰ってきた。ラジオだってあった……帰れる場所が、僕にもまだあったんですよ。
他の○ロワ書き手に後を託すのならともかく、その場所を目の前にして死なないわけにはいかない」
ゴーキューの赤髪が電気を伴いながら逆立ってゆく。
LEVEL5に位置する力。『超電磁砲(レールガン)』の力をゴーキューは備えている。
やがてゴーキューが懐から取り出したのは一つのコイン。
とある科学の超電磁砲、御坂美琴の十八番とも言える代物を眼前にかざす。
「僕たちのロワの名は○ロワ。
このコインの○を描くように、僕達はゆっくりであっても進み、きっと完結に向かう。
GO AHEAD――ここでは止まらない、止まってはやれない!
僕らの○ロワを止めるものがあれば、僕は誰とだって戦います!!」
他にロワだって沢山ある。
好きなロワがなければトキワ壮に俺ロワを立てればいい。
だが、ゴーキューは○ロワに戻ってきた。
ゴーキューにとって○ロワは特別な意味合いを持っている。
そしてきっと他の書き手も同じ想いを持っているのだと、彼には確信出来た。
その想いがあれば、たとえ目の前の男がいかほどの覚悟を秘めていようとも彼は引き下がらない。
「……けっ、やっぱり聞いてねぇじゃねぇか。
俺の目的は漫画ロワの書き手だって言っただろ」
「えっ……?」
「だからよォ、俺はもう行くぜ。○ロワ……まあ、精々覚えておくさ」
そう言ってクレイジーダイヤモンドを戻し、康一君はどこへともなく駆けていった。
身のこなしは軽く、瞬く間に夜の闇の中へ康一君は消えた。
意外そうな顔を浮かべたゴーキューは、大きく息を漏らす。
戦いは免れないと感じていたためこの展開は予想外であった。
「助かったのか……まいったな。あんな人ばかりだと、この先が思いやられる」
ゴーキューはコインをしまい、直ぐに移動しようとする。
だが、不意にゴーキューは激しい頭痛を感じた。
何かがおかしい。そして次に全身から違和感が湧きあがってくる。
己の両手を見るとクリストファーのものだった手が少女のものに変わっている。
ひぐらしの泣く頃にの北條沙都子のようにか細い手だ。
「一体、何が……!?」
ロワ開始時に挿入されたガイアメモリとやらが何か関係しているのだろうか。
原因はわからない。
ゴーキューには、全くわからなかったが心のどこかではガイアメモリの不具合によるものにしたかった。
自分達のロワの記憶を、思い出がたった一つのUSBで収まるのはどこか味気ない。
そう思いながら、ゴーキューは意識を手放していった。
姿をクリストファー・シャルドレードから北條沙都子に変えて。
漫画ロワ書き手との短い交流の記憶も、全て忘却して。
口調が変わったことも彼は書き手がゆえに、みずからのキャラに合わせたのだろう。
そして彼にとって一人目――実際には二人目の参加者と遭遇し、彼は死んでいった。
ただ、○ロワの完結だけを心の底で願いながら。
◇ ◇ ◇
「色んなロワがあるようだが……俺のやることは変わらねェ」
康一君が夜の街を歩く。
ゴーキューの話しには気になることがあった。
自らの事を別のロワの書き手と称する人間がいれば、興味を持たないわけがない。
それも自分が知らないロワを出せば尚更のことであり、彼は情報を集めた。
口では漫画ロワ書き手にしか興味がないと言っていても、情報をないがしろにするわけではなかった。
「ヤツが言っていたのは俺の知らない俺か? 未来の俺……ロワでは時間軸が違うこともあるもんな。まあ、いいさ」
そう言って康一君はスタンドを発現する。
直ぐに傍らにクレイジーダイヤモンド――だけでなく、他に二体のスタンドが立っていた。
マジシャンズレッド、そしてホワイトスネイクが姿を現していた。
「俺にはスタンドがある。
特にこいつらのスタンドは他の漫画ロワのやつらには渡せないぜ……ガイアメモリとやらに感謝しておくか」
漫画ロワはスタンドDISCが支給品として支給されたロワである。
当然、参加者には多くのスタンドDISCが支給され、至る所にスタンド使いが出現した。
スタンドを書くにはジョジョの把握が必要。そしてスタンドDISCが出るからには、ジョジョの奇妙な冒険6部のエンリ・プッチの存在に避けては通れない。
ジョジョの奇妙な冒険は名作の一言だが、分量はかなり多い。
未把握者にとって把握するだけでも結構な時間は取られ、さらにアクの強いキャラ達を上手く書くには手を焼かされる。
だが、康一君は漫画ロワにおいてジョジョの第一人者と言ってもいい。
彼が居なければ空条承太郎の記憶DISCを入れ、更にクレイジーダイヤモンドとマジシャンズレッドを使えるようになったジョセフとプッチのバトルパートは繋がれなかったかもしれない。
むしろ、彼が居たからこそ安心してそのパートが造られたことだろう。
それほどまでにジョジョに精通し、他の書き手から信頼された康一君がスタンドの一体や二体や三体を、同時に操れないわけがない。
「――だが、たった一つだけ訂正するぜ。
別に一人になるのは怖くねぇ。ただ、当たり前のことだが、今までの漫画ロワは俺達の一人でも欠けていたら出来ていなかった。
俺はお前達に出会えて本当に良かったと思ってる。だからこそ、思いっきり――戦いてぇのさ!!」
一人でもいい。
どこかに居るはずの漫画ロワ書き手を目指し、康一君は駆けだしていった。
最終更新:2013年06月12日 02:33