提督×北上9-87

87 :北上×提督:2014/04/25(金) 02:16:55.76 ID:eNyf9BLw
「提督……」

か細い声に振り向くと、先日重雷装巡洋艦からさらに改二へと改造を果たした北上が立っていた。
出撃や工廠での調整以外、鎮守府では艤装の所持を許可していない。
扉の前に立っているのはただの人、北上という一人の女性でしかなかった。
ふと思い立ち、自らの懐中時計に目をやると針は日付が変わる頃を指している。

「どうした、こんな時間に。珍しいな、消灯時間はとっくに過ぎてるぞ?」
「うん、ごめん。でもなんだか眠れなくってさ~」

机に向き直って書類を集めながら、北上が起きている理由を考えてみる。
冷静に考えてみれば珍しいこともあったものだ。
大怪我して帰ってこようが、一日中ごろごろしていようが、北上はいつも決まった時間に寝ている。
もとい大井と同じ部屋に入れば、寝るなと言っても気付けば二人で抱きあって寝ている。
我らが鎮守府の名物、仲良し重雷装巡洋艦コンビ。
仲の良さが間違いなく目覚ましい戦果に繋がっているのは非常に喜ばしいことだ。
だからこそ珍しい、大井と起きているわけでもなく単独で北上が起きているのだから。

「大井はどうした?」
「んぁ~、大井っちは部屋で寝てる」
「なおさら珍しいな、いつも二人で部屋に入れば電気が消えているところしか見ないのに」
「それは少し失礼じゃない? 人の事をいつも寝てるみたいに……」
「ははは、すまんすまん。どうした? 何か俺に用があってきたのか?」
「ん~、まぁね~……少し」

書類をまとめて立ち上がり、半身振り返ったところで一瞬頭が回らなくなってしまった。
廊下からの逆光で見えなかった北上の姿が目に飛び込んでくる。
改二になったのと同時、北上は若干服装が変わった。
服の色調が全体的に明るくなり、上着の裾が短くなったおかげでへそは露出している。
艦娘にとって中破、大破で服がお釈迦になることは決して少なくない。
出撃から戻ってきた艦隊を出迎えれば、全員そろって服が破れていることもある。

「あれ、どうしたの? 提督、目が点になってるけど?」
「あ、あぁいや、何でもない。なんでもないぞ」
「……ふ~ん?」

怪しむように細められた北上の視線が突き刺さる。
見慣れていたと思っていた露出も、帰還直後ではなかったり艤装がなかったりするだけでここまで違うものか。
しかしこちらの視線を捕えて離さなかったのは、へそでも太ももでもない。
寝る前だったせいか、普段から結っている髪を全て解いた北上の姿だった。

「北上、今日はその、あれなんだな。髪の毛はまとめてないんだな?」
「髪? うん、寝る時まで結んでたら邪魔だしね~、変?」
「へ、変だなんてそんなこと――!?」

変なことなんてない、むしろ普段のそっけなさからは想像も出来ないほど綺麗だった。
長い長い黒髪は北上の腰辺りまで伸び、山の裾野のように広がっている。
歩き出した北上の動きに従い、左右に軽やかに揺れる髪は艶やさを見せつけてくる。
露出したへその背景のように広がる髪と北上の白い肌とが重なり、色白な肌は純白に輝いているようにさえ見える。
艦娘? 否、今、目の前にいる北上を確かに女性として意識してしまっている自分がいた。

「ま、待て待て北上。何か用があって来たんだろう?」
「そうだけど、提督、何慌ててるの? 顔赤いんだけど……まさか提督、私のこと気になってんの?」

ギクッ、なんてありきたりな擬音が心臓から響いた気がした。
すぐに分かる、表情どころか身体が凝り固まったように動かなくなってしまっている。
さして広くない執務室、北上が僕の目の前に来るのに時間は掛からない。
顔が熱い、普段見ない黒い長髪をなびかせる北上にここまで心が揺さぶられるとは思わなかった。
もうばれないはずがない。
北上は僕の目の前で足を止めて、まじまじと顔を見つめてくることほんの一拍。
自信に満ちたような笑みを浮かべ――

「そりゃあ趣味いいね、実にイイよ! 提督!」
「ちょ、北上、止まって、やめっ!」

むにゅ、ふわぁ、ぎゅうう……男でよかったと思う瞬間である。
倒れこんできた北上の胸元に、柔らかなぬくもりと同時に幸せがあふれ出す。
入渠後ということもあって長く揺らめく髪から、風呂上り特有の石鹸のような甘い匂いが鼻を包む。
腰に回された北上の細い腕なら簡単に振り払えるはずなのに、万力のような力強さを感じる。
あぁ、許せ、呆れてくれ北上――僕はお前で女の子の柔らかさを満喫してしまっているのだ。
今では下がることを許さない大きな机に感謝すらしてしまい、今の状況を楽しんでしまっていた。

「あ~……なんか、すっごい落ち着く……」
「そ、そそそ、そうでございますか?」
「提督は落ち着かない? 私はすっごい落ち着くんだけどな~」

落ち着くわけがない、落ち着けるわけがない。
一歩間違えれば、露わになっている北上のへそに主砲がご挨拶しかねないのだ。
そんなことをすれば大井と北上の酸素魚雷が、愚息ごと僕を海へ葬るだろう。
しかしこちらのことも露知らず、北上は追い打ちと言わんばかりに恐ろしい事を言い放った。

「提督……」
「は、はい?」
「私とちゅーして?」
「……はい?」
「女の子に二回も言わせる気? ほら、ちゅーして」

北上はそう言いながら若干背伸びと同時に目を閉じ、唇を突き出してくる。
あまりにも無防備、そして可憐な目の前の少女に僕はどうすればいいのか分からなくなっていた。

+ 後書き
89 :北上×提督:2014/04/25(金) 02:18:32.66 ID:eNyf9BLw
今のところはこんな感じです
駄文の癖に中途半端で申し訳ないですけど、書けるなら続き書きたいな~と思ってます
キャラ崩れたりしてたらごめんなさいな
最終更新:2014年05月01日 21:48