非エロ:提督×大井15-716


「もお……、なんだって年が明けてもこう忙しいのかしら……。あっ大掃除、頑張ります!」

庁舎に戻ってから早速自分らは途中であった大掃除を再開した。
すると大井は五分経っただけで聞こえよがしに愚痴を呟く。
然し自分はそんな大井を咎める立場にはなく、
寧ろ、それは自分の任務をこなす能力にまだまだ不備があるからだとしか言い訳ができない弱い立場にいる。
執務室と書斎だが、大半が書斎の書類整理に時間を取られた。
書斎の方は既に完了しておりあとは其方より狭いこの執務室の掃除だけなのだが、
視界の外から大井はやはり聞こえよがしとしか思えない愚痴を付く。

「嫌なら他の艦にやらせるから正直に言っていいんだよ」

これは遠回しに叱っているとかではなく、本心からそのまま言っているだけだ。
言い方は悪いが、この場合は代わりは利くのだ。
別にやらせる艦が大井でないと駄目な理由はないし、
掃除の進行が遅れた理由も自分にある事からこう言っている。

「他の子になんか任せられませんから」

そんな事はないと思うがな。
とは口には出さなかった。
自意識過剰かもしれないが、ある一つの可能性を認識したからだ。
無神経な失言でどやされるのは避けたい。
なので何も言わず作業を続ける。
部屋の中は箒とはたきと雑巾が稼働する音だけが響く。
力を入れて窓を磨きながら外の様子を眺める。
先の参拝も寒かったが、これから二月まで更に気温は右肩下がりになっていくのだろう。
嗚呼この時期になると鍋やら雑炊やらが恋しくなってくるな。
そういえば参拝前の年越し蕎麦を食べたのだった。
大井に天麩羅を教えてみても良いかもしれない。

「提督? 如何わしい本が出てこないんですけど」

お前は私に何を望んでいるんだ。
そんな物を仕事場に持ち込むか。

「持ってはいるんですね」

しまった。鎌をかけられたか。
然し嘘を付くのに抵抗がある質である自分は、何も返せず不本意に手を止めて沈黙を作ってしまう。
致命傷だ。
さてこの沈黙の間に自分は考えて結論を出さねばならない。
どういった弁明をすれば、大掃除の後に魚雷で殴られる可能性が潰えるのか。
おっとこの隅の汚れがひどいな、等とわざと掃除に時間をかけようとする。

「提督、一旦退室します」

「……! ま、待て……!」

自分が振り向いて静止の言葉をかけた時には、もう木の扉が閉まるところしか見えていなかった。
いくらなんでも気が早いだろう。
艤装でも取りに行ったか。





「大井、戻りました」

「そうだ大井少し落ち着こうじゃないか。考えてもみろ自分がいなくなっては誰が鎮守府の運営を……」

「……提督の方が落ち着いてください。何もしませんから」

おお、呆れるだけで何もして来ないのか。
大井はなんと寛容なのだろう。
自分は窓際のカーテンに身を包み顔だけを出して大井を伺っていたが、それならとカーテンから姿を現した。
然し何もしないというのは本当だろうかと自分はまだほんの少しの警戒心を残していた。
艤装を装備した格好で何もしないと言われても信用できかねる。
今の自分は今まで築いてきた大井との関係による信頼感だけで大井の前に姿を現す事ができている。

「ここに三十本の魚雷があります。選んで一本引いてみてください」

はあ?
突然大井は何を言い出しているのか。
両腕に十本。両足に二十本。勿論全て見慣れた実弾である。
大井の奇行により警戒心を失った自分は 何も考えず右腕にある五本の発射管からそのうちの一本を引いたが、
やはり見慣れたいつもの魚雷に見えるのだった。
それでもくるくる回すと、マジックペンで書いたような黒い太字で漢字が一文字書かれているのを見つけた。

「おめでとうございます。"凶"です」

みくじのつもりか。
しかしおめでとうございますとは一体何事だ。
普通の神社のおみくじは吉系が多めで凶は僅かにしか入っていないらしいが、これは大井特製みくじなのだ。
どうせ八割が凶で二割が末吉でそれ以上の吉は存在していなかったりするのだろう。
いや寧ろ二割でも末吉を入れてくれただけ大井にはまだ慈悲があったと捉えるべきなのか。

「罰として、提督には自宅にあるのでしょう如何わしい本を全て大掃除してもらいます。
従えないのであればここで提督をお掃除します」

やはり何かするんじゃないか!
分かった分かった従う。従うからお掃除はやめてくれ。
自分はここ暫く自宅に帰っていなかった事もあり、そういった物にももう執着しなくなっていた為、
大井の用意してくれた許しの道に飛び込む事に抵抗は何ら感じえなかったのだ。

「まあ。それでは今年も提督は良い一年を過ごせます。よかったですね」

そ、そうか。
自分の一年の良し悪しは最早大井に掌握されているようだ。
いやそれは以前から分かっていた事だがな。



「では、提督の今年一年の良いことその一、です」

「私を、あげちゃいます。……っ、ふふ」



自分からそんな事を言い出した癖に、大井は言い終えてから最後に顔を少し染め、誤魔化すように笑った。
これは……そういう事でいいのだろうな。大掃除は後でやればいいし。
頂きます。


これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/

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最終更新:2015年01月12日 21:52