タブンネゲーセン 裏

現在21:00 Tワールドの閉店時間。

外装の電気を落としシャッターを降ろすと文字通り完全に外界とシャットダウンだ。
ああ、俺はここの夜間スタッフ。何するかってえと清掃や点検かな「裏」の部分の仕事ってやつだよ。

「おはようございまーす、お疲れさまでした」
俺はタブンネの帽子やチョッキを着たスタッフと入れ替わりで入る。ちなみに服装は普通の作業着だ。

事務所横の三重にかけられた鍵を解除して地下への階段を降りてすぐのドアを開ける。ここが俺達の職場
「おはよう!」
「お疲れ様です」
俺が入るとすでにスタッフ数名が準備を始めていて、傍らでは大量の成タブンネ達が業務用エレベータ用カーゴに乗せられていた。

それらタブンネは手垢防止のための手袋をし、管理ならびに反逆防止首輪がつけられている。
「今日はずいぶん大掛かりだな、あれ?こいつら'ママンネ'だろ?この三匹まで掃除に出すのか?」
「例の新作「パンチングタブンネ」あれの稼働日すよ。0200に搬入されます。それまでにタブォーリング撤去するんでタブ手がいるんです」
「へえ」
「ボーリング最終日だから派手にやったら、タ不足してしまい違う部署からまわしたんです。まあ同時に新規タブンネも搬入されますから今だけです」

ちなみにタブォーリングとはボーリングのピンをタブンネにしたスポーツだ。
基本的にマランネ状態に縛ってあるが、プロには拘束を解いてプレイしてもらってる。レーンから出ないよう2mのガラスでしきってるから安心。

「それで先輩には申し訳ないのですがママンネ達の監督もしてほしいんです」
「そもそもこいつら子産む以外役にたたねえだろ?」
「一応ママンネ達は普段から室内清掃作業はさせてますが、先輩は機器点検兼ねた見張りでお願いしたいんです」
「ああ、いいよ」
俺は後輩から掌サイズのボタンがついたリモコンを受けとる。

説明するがこの施設は収容所から回されてきたタブンネを様々な労力として消費してる。大きく分けて

  • 消耗ンネ。エアホッケーやボーリング、射的等ゲームや食用で消費される。
これは主に体が強かったり、性格に難がある個体を重点的にまわす。ベビもこれに含まれる。
ちなみに俺のメイン部署はここの管理だが、俺自身それなりの立場にあるから点検や金銭の管理もしてる。今回がそれだ。

  • ママンネ。♀限定だがベビ出産に使うやつら。ちなみに一度に多くて卵15個くらいは産ませる。
みんな死んだような顔しているのは当然だ。ただ卵産ませて孵させ、ある程度まで育てたら回収されるし。
基本的に気の弱い♀で構成してあり、個別管理だからたまに壊れるやつがいる。そしたらまた♀を補充すりゃいい。
新鮮なベビは収容所からは得られないから一番重要だ、ベビは最悪輸送中に死ぬ事が多い。

  • 雑務ンネ。二つに当てはまらないやつらはみんなこれで掃除や雑務をやらせる。


こんなもんか。こいつらが死んだりしたらどうするかは後で説明するよ。
これらは収容所からの審査報告によって決まるが知っての通り、現場の判断がほとんどだ。
生意気ンネがいてもこういう現場につくとビビって180°変わることもある。
死という絶対的な恐怖があるぶん縛るのは楽っては楽だ。

じゃあ仕事にいくよ。
作業エレベータを向かう途中に、俺はベビケースをチェック。今日は350か。少ないな。
一番人気のギャクタイムに回す分だけは多目にキープしないとな。

ふかふか毛布のケースですやすや眠るベビ達をママンネ共は歩みを遅くしできるだけ視界におさめている。

たしかに可愛くなる時期に取り上げられるんだしな。二度と産むまいと思ってもタブ頭じゃ母性本能には叶わない。
そこは扱いやすく俺も評価してる。

だからといって許さない、そいつらに向けさっきのリモコンのスイッチを押す。
「ミィーヒ!ミハー!!?」
そう、このリモコンは体罰用。向けて使うと首輪から電撃が流れる。

「ベビはいいからさっさとする」
俺は3匹のママンネ共と作業用エレベータで店内に向かい、既に清掃を始めていたスタッフの皆や雑務ンネ共と合流する。
まずはクレーンゲームコーナーからだ。ママンネには中身はいじらせられないからコンソールや筐体外側の拭き掃除させよう。

昼間散々遊ばれた筐体内は血が飛び散り血まみれの手でガラスを撫でたように血の痕がパリパリに乾き始めていた。
一応数回は補充、清掃はしてるがそれでもかなり減って、汚れたようだ。機器のコインカウンターみたら100回以上ある。
つまり朝からいるベビ(いるとすればだが)は100回ニードルに追いかけられてるわけだからゾッとしねえな。

「生き残った」いや「逝きそびれた」ベビンネ達は朦朧とした目で隅に固まり震えていた。
針から抜け落ち出血から貧血おこしてジワジワ死んだろうベビも数匹横たわってる。
清掃スタッフは生きてるベビをはらいのけ、傷モノや死骸をどんどん残骸用カートに放り込んでいった。


ケース内の清掃等汚れ仕事をタブンネに任せ、俺はコインボックス交換作業を始める。
人間用にできてる筐体だからガラス拭きでもタブンネには高すぎるがそんなん脚立使えばいいんだよ


ちんたらちんたら……
さすがにママンネは現場では役にたたない、と思っていた時だった。
「チィーチィ!」
「ミィーッ!」
脚立を使いガラス面を拭いていたママンネの一匹がベビンネとガラス越しに顔を擦り付け合ってるじゃないか。
涙を流しながらベビをガラス越しだが撫でてる姿に、こいつの子なのだと理解した。
こうなりそうだったからママンネは現場に出したくなかったんだよ。

雑務ンネは生きる事のみを第一としてる為、ベビに対しどうこうする余裕はない。言うなれば他ポケだ。

リモコンを構えた時に 虐待ムの管理室からカートを押しながら死んだような顔で雑務ンネが現れた。
カートを覗くとハイレベルに虐待され殺されたであろうベビンネがぎっちり詰まっていた。
分かりやすく言えばピンクと赤の汚れた雑巾の山って感じだが、プロが居たのか活け作り状態のがあった。
腕前は素晴らしいが、必ず殺すよう注意書してんだぞ。

俺はママンネを無視し、マスターキーでガラス面を開けてそのベビつかみあげる。
出してくれた!と思ったのがママが笑顔で俺に手を差し出してくるがそれを無視し俺はベビの首を握った。

「チィーヂィー………ケッ……」
「ミィヤー!!」
このママンネの目の前で苦しめてやる。お前が働かないから子は苦しむんだよ?と。

「ミッミァアボゲッ」
仕事もせず泣きわめくママを押さえ付けて首輪のタグを抜く。
こうすることで気絶する程に電流が流れるんだ。
合わせてママと雑務はこれを抜かれると現職失格。強制的に消耗ンネ扱いになり、明日は新作ゲー行きだな。


「残りのママンネ!同じようなことしたら同じく消耗ンネだからな。ガキを少しでも活かすチャンスが欲しいなら無視してやれ」
「「ミッ…ミヒィ!!」」

やはりタブンネは死に対し絶対的な恐怖がある。だから媚びたり土下座したりゴミ食ってても生きるんだろう。
二匹はそそくさと働きだした。若いから本格的な罰則なんてみたこともされたこともねえんだろうな。
ベビはぐったりしてしまったがまあ明日使う分は問題ねえだろ、それなりに効果あったようだ。

コンソールを拭くママンネは、必死にガラスを叩くベビ(実子だろう)と目を合わさず清掃を続けた。


「お疲れさまです。なんの騒ぎすか?」
大量の生きてるベビを詰めたカートをひいたスタッフだ。
「ああ、ママンネがうるせえからしめただけだよ。」
「そうでしたか」
スタッフは清掃済みの筐体に指をくわえて寝たまま幸せそうに寝息をたてるベビ共を補充していく。
俺がママンネ共の方向に振り向くと二匹はさっと顔を背けた。

「あと帰る時にそこに伸びてるやつ、消耗落ちしたからよろしく」
「はい」

そしてコーナーの掃除が完了したが、結局残りの二匹も消耗ンネ行きとなった。
「やっぱダメだ、適材適所ってな」
そう呟きながら筐体を眺めると生き残ったベビ達は仲間か友達が増えた事に小さく歓喜したが俺の視線に気づくと消沈して丸まった。
入れられたばかりのベビ達は目をこすりながらまだ寝ぼけてる。

虐待ム専用筐体内では外の惨劇なんか別次元の如くベビンネ共がふかふか布団の上で寄り添い幸せそうな寝顔。
「明日が楽しみだな」
俺は他のよりずっしりくるコインケースを交換しながらこいつらの末路に思いを馳せた。
ただし活け作りした奴は次やったら出禁すっぞこのやろ。


ところ変わって搬入口を過ぎたあたりの駐車場。
重そうなボーリングのレーンを必死の形相で運ぶ雑務ンネの列があった。4タブで一枚だ。
後部レーンの左前を持ってる奴の顔色が明らかにやばいぞ、あー
バタァァァァンッ!ミッギャアアアアアアッ!

クアドラプルミギャーまたはステレオミギャーか。
四隅のタブンネ達は指を潰されてるようで中腰で涙を流していた。それぞれの接地部から手袋越しでもじわじわ血液があふれだしてくる。

ババターーン!ミッギャアアアア!
前列も落とした。

「ああもう!」
搬入側の作業員が罵声を飛ばすが俺はそれを制した。幸運にもここは通行の妨げにはならない位置だ。
「自分達でやらせます」
俺はそれだけ言い作業員を追い返した。
タブンネ達は皆俺に救いを請う表情だ。俺は笑顔で言ってやる。
「自分達でやらせます」
タブンネ達の悲鳴が響いた

それからしばらくして搬入を終えたシートもはがしてない「パンチングタブ」前のベンチで俺は休憩してる。今は深夜3時だ。
明け方五時までには終わるな。

整備員と共に俺は新筐体の設定を始めた。


現在0700、仕事終わり時間となった。
俺は雑務ンネを整列させ、食堂に向かわせるがいつものように蛇口からタブンネ用ドリンクが出てこない。

「えっ?飯係が早退?わかった俺がやる」
タブンネどもの餌係が早退していたようなので俺がすることになったから丁度いい、ついでに点検もしとくか。

俺は地下からさらに地下に降りるとそこにあるのは無機質な銀色のタンク。
この大きいミキサーは廃棄ンネはベビンネの死骸はここで砕かれペーストにされる。
それに水を加えて、ここのタブンネの餌ジュースになるんだ。

はっきりいって栄養価は抜群だ、これカップ一杯で一日賄える程にね。

雑務ンネ達はコップから飲み干すとそれぞれの檻に戻っていく。
センサーで頭数を確認し、施錠する。
消耗にはやらん、ママンネには二杯分やる。これはたくさん卵産ませるためである。
自分の子を、もしかすると旦那や家族を食ってるかもしれないがどうでもいい。

忘れてたがレーンに指潰された奴らはあのあと業者勤務のドッコラー達が回収しそのままタブンネを持ち帰ったという。
なんでも焼き肉やるらしい。

とにかくタブンネみたいなエンターテイナーは様々な場所で活躍してる。人間にはかかせない存在なんだろうね。
また今日も頑張ってほしいかぎりだ、俺は帰る。今夜は新作の掃除や整備が大変になるだろうしな
「お疲れさまでした!」

最終更新:2016年01月11日 17:54