タブンネを飼っている。かわいい。
そうほざくバカな野郎が俺の友人にいたので見に行った。
何とまあ驚いた。
でっぷり太ってまさに醜悪。太り過ぎで俺のテールナーを見て挨拶しに動こうとしたがソファの上から動けていない。テールナーはキモいと小声で言いながら俺の後ろに隠れた。
「リリア、ご挨拶しなさい」
「さよなら」
「こら待て」
嫌がるテールナーを抱っこして友人に話を聞いた。その間中ずっと正にブタンネな豚はテールナーを見ていた。
「あいつもしかしてオスか?」
「そうだよ、お前のリリアちゃんを狙ってんのかもなw」
それを聞いたと同時に豚が赤面した。テールナーは怒り心頭で顔というか頭全体が真っ赤になる。湯気も出ている。
ブタンネはそれを見てさらに赤面する。テールナーはもう奇声をあげながら床を踏み鳴らしている。発狂だな。
ボールに戻す。
ゴージャスボールで捕獲したテールナーの子孫だからボールはゴージャス。素敵だろ。
「リリア、少し頭冷やして」
「わりぃわりぃw俺のせいでw」
友人はそう言ったが、突如友人が凄まじい勢いで倒れこんできた。ってか吹っ飛んできた?俺も巻き込まれて飛ばされる。
犯人はブタンネだった。どうやらテールナーを戻されたのが頭に来るらしい。
「お前のせいだぞバカ」
「リリアちゃん戻すからだろ」
「てめえぶっ殺してやる覚悟しやがれ」
俺はドリボに手をかける。俺の手持ちの切り札が中で元気にしている。
「待て!タイム!タイムだ!やめろ!」
「全く…躾くらいしろっての…」
そう言いながらブタンネを見やる。すると突進の後立ち上がれなかったのか、床をひたすら舐めまわしていた。いや本当に舐めまわしてたわけじゃないよ?あくまで比喩だからね。
「ごめんな、こんななりしてるけどワガママってわけじゃないんだ、俺が餌の配分間違えて太らせてからちょっと機嫌が常に悪くてな」
「普通のポケモンは腹八分目ってんのわかってるけどな」
「…あれ?
俺のタブンネダメな子?」
「いや正常。お前が可愛がり過ぎなだけで正常」
ふと思いつき図鑑を開く。
「うっわ!お前の図鑑ボッロ!」
「…てめえ俺がいつから旅してるか知らねえのか」
「イッシュじゃなかったの?」
「ジョウトから旅を始めてホウエンにも最近回って今の所渡航許可が出ている地域は全部潰した、そう言ったろ」
「あれ?そっか、すまん」
気にせず図鑑をブタンネに合わせる。ほんとボロいよなあ。この前里帰りした時にウツギ博士のところに行ったら新米に渡す図鑑がめちゃくちゃグレードアップされてて驚いたもんだ。まあこの図鑑が壊れるまで使うつもりだから羨望の眼差しは向けないが。新型のポケギアは羨ましかった。何で俺の生まれた時代はあんなポケギアだったんだ。
読み込み完了。大体の能力値が数値として表される。
スパトレのガンバロメーターを友人に見せてもらう。どうやら沖縄のようだ。それも考慮して測るブタンネとしての能力値は…
「2-0-5-6-4-0、ゴミだな」
「はぁ!?じゃあお前のリリアちゃん見せろよ!」
「リリア」
出すや否や喚き出すリリア。リリアの口に人差し指を突っ込むと、幼くして離れた母親の記憶でも蘇ったのかちゅぱちゅぱ吸い始めた。ほんと天使。まあ今も幼いんだけどね。
「リリアは…31-31-31-31-31-31」
「6Vじゃねえかよおおおおおおおお!!」
当のリリアは眠くなったのかウトウトしている。それをブタンネが見てニヤニヤしている。きめえ。翻訳機忘れたのが俺のミスだ。
「…んー、俺にフォッコのタマゴくれないか?」
「男の子の割合の方が高いけどな、フォッコは、特にタマゴだとどっち産まれるかわかんねえぞ」
「…じゃあ女の子のフォッコを」
「いいけど」
俺はまた図鑑を開く。持っていないポケモンを確認するためだ。友人がポケモンを提案してくる。
「デオキシスとフォッコ交換しないか?」
「デオキシスならレックウザと隕石叩き割ったら出てきた」
「…グラードンを捕まえる権利とフォッコ!」
「俺のグラードンは31-31-30-15-31-0の勇敢だ、そんなもんいらん」
「ぐぬぬ…!ならホウオウ!」
「いらん」
友人は完璧に叩きのめされた、という顔をしていた。
「なら俺をやる!」
「何考えてんだ、俺は正常だ」
どうしてもブタンネの機嫌を取りたいらしい友人は頭を抱えた。
そんな時、ブタンネが俺の抱えるテールナーに手を伸ばしていた。俺は思わず悲鳴をあげて飛び退く。折角腕の中で気持ちよさそうに眠っていたのに起きてしまった。
「何やってんだバカ!起こしちゃダメだろ!」
「ミブゥ!ミブゥゥゥゥゥ!!」
友人とブタンネは取っ組み合いを始めた。何が可愛いんだか。まともに立てないクソデブが足にまとわりつき、友人はその頭をペチペチ叩く。アホなんだろうかこいつら。相撲でも取れそうだ。俺の頭の中では、よくバラエティなんかで太った人を、相撲取りみたいだ、などと冗談でからかった時に使われるカウベルのようなコン、ココンコン、というBGMが流れている。
そういえばリビエールラインの木の実畑どうなったかな。ドレディアとロズレイドにたっぷりご飯の木の実とおやつのポフレ持たせたけどあいつらちゃんとやれてるのかな。
管理人の人に電話かけてみてもらうか。
ポケギアを起動しようとした瞬間目の前のくだらないいざこざに決着がついた。
「タブンネ!寝てるポケモンは起こしちゃダメだ!わかったな!」
「ブヒィ…ブゥブゥ」
完全に豚じゃねえか。腹の底から湧き上がる笑いを抑える。テールナーは大爆笑していた。怒ったり大爆笑したり忙しい奴だ。タブンネという種族そのものが嫌いだしそれだけ面白いのだろう。
「ライブキャスター鳴ってんぜ」
「えっ?ああ、ほんとだ」
俺はライブキャスターを開く。近々スーパーマサラの血を引くサトシさんのドキュメンタリー第十数弾目の映画をやるらしい。見に行けばボルケニオンというポケモンを捕獲できる権利がもらえるとか。ディアンシーの捕獲権利は欲しかったけど時間がなくてダメだったんだよなあ。
「…ディアンシーとフォッコなら交換してくれるか?」
「鮫トレだぞ」
「いいよそれでも!」
「わかった、ポケセン行ってくる」
俺は念願のディアンシーと対面できるとあって、ポケセンまで一気に自転車を飛ばした。
「フォッコ~、君の御主人様だよ」
「ふぉっこ」
「まだ話せないんだな…」
「そりゃ教えてないからな、リリアが話せるのが天啓だとでも?」
「えっへん、リリア頑張ったんだからね」
がっくりと肩を落とす友人。まあそのうち俺が教えに来てやろう。
友人の優しい性格を見抜いたのか、フォッコはもう懐いている。
「…ディアンシー、ごめんな」
ディアンシーはこくん、と頷くと、俺の手元にやってきた。
「鳴かないのな」
「昨日まではかわいく鳴いてくれてたんだけどなあ」
「べーっ!」
ディアンシーは唐突に友人に向かって舌を突き出した。
「タブンネなんかに現を抜かす頭の悪い主人に飼い慣らされて心底うんざりだったわ!これからよろしくね?ご主人様」
俺も友人も絶句した。誰も教えてないのに流暢に人語を話したのだ。俺は急いでボールに戻す。
話した事にはテールナーもビックリ。というかテールナーが一番ビックリしていた。
「…ま、まあいいだろ、それよりフォッコを育てないとな」
「んじゃああのタブンネでも殴らせるか」
友人がそう言い放つ。かわいいタブンネとは一体…うごごご
当のブタンネはどうやったのかまたソファに腰掛けていた。
「気になる?俺のブオーさんに頼んで動かしてもらったんだよ」
「かっこいい豚さんとガチな豚の夢の共演か」
寝室の扉が唐突に開く。
現れたブオーさんがマッソーポーズ。
上腕二頭筋を見せるポーズ。
背筋を見せるポーズ。
胸筋から腹筋までを見せるポーズ。
一頻り決めた後ドアを閉めた。
「なんだ今の」
「あいつかっこいいって聞くとああいうことするんだよ、シャイなんだけどな」
ブタンネはそんなブオーさんを鼻で笑い、眠りについた。
「よーし!フォッコ!初陣だ!鳴き声連発!」
「ふぉっこ!ふぉっこ!ふぉっこ!ふぉっこ!ふぉっこ!ふぉっこ!」
ブタンネのAは限界まで下がる。
ブタンネはぐぅぐぅ眠っている。
「たいあたり!」
「ふぉっこ!」
「ミブゥ!」
ブタンネの腹に埋まるほど強烈な体当たりを決める。31-17-31-31-31-31か、ひかえめなフォッコだしそこまで体当たりの威力はないはずなんだがな。どんだけ弱いんだこのブタンネ。
「続けてたいあたり!」
「ふぉこーっ!」
「ミブゥェッ!」
こうかは ばつぐんだ!
ブタンネはたおれた!
…えっ、いや待てよ、弱過ぎだろ。
しかし経験値タンクとしての役割は果たしたらしい。フォッコの体が光り輝く。
どうやらこのフォッコは素晴らしい遺伝子を受け継いでいたらしい。
凄まじくムッチムチなのだ。
視線を奪われる俺と友人。テールナーにビンタされた。
「俺が好きなのはリリアだけだぞ~」
「う~そ~つ~き~」
両足で顔を押さえられる、というご褒美をもらいながら友人を見る。ブタンネのためにてーるなーが欲しかったはずだが、そのてーるなーを自分が一番溺愛しているようだ。
「はぁ~!かわいい!てーるなーちゃんちゅっちゅ!」
「るなぁ!」
涙目で俺に助けを求めるてーるなー。俺のテールナーがキレ気味に俺を見る。
俺はどちらのテールナーも無視し、ブタンネを見た。
思った通りテールナーではなくムッチムチなてーるなーに視線を奪われていた。汚い女たらし。俺も人の事言えないが。
「なあなあ、うちのてーるなーに名前くれよ、ニックネームなしってのもかわいそうだ」
「ムチムチだしムチりん」
「可哀想だろちゃんと考えろ」
「そんなことないよな~、ムチりん」
「るなぁ♪」
ムチりんと呼ぶと笑顔で喜ぶ。多分理解できていない。それでも喜ぶので嬉しいのだろう。
「ムチりんか…」
「あのタブンネはブタりんでいいんじゃないか」
テールナーがまたも爆笑しだす。友人もつられて笑う。ついでに寝室からも笑い声がした。ブタンネは赤面して今にも突っ込んでこようとしている。しかし悲しいかな。その体が重過ぎて突進する前にソファから転げ落ちた。
もちろんそれを見た俺たちは大爆笑。友人はふとボールを取り出して笑いながらも言った。
「もっwww戻れブタりんwwwブタりんwww」
ボールに吸い込まれるブタりん。友人は俺を連れて外に出る。
「んでどうしようっての」
「おやつちょうだい」
テールナーが話の腰を折る。かわいいので許す。ポケモンキャンデーをあげた。一袋20個入りで4000円の高級菓子、どんなポケモンも2秒で懐くがキャッチフレーズ。テールナーの大好物。
「えーっと…なにしにきたかだっけ?もちろんこのタブンネとお別れだよ」
友人はタブンネのボールの真ん中の
スイッチを三回押す。アラートがなるがそのままボールを放り投げる。規定数の回転を確認したボールが開き、逆パカして廃棄物となった。まあ正しくはボールリサイクルに出され再度使用できるよう調整されてまた市場に並ぶ。
「バイバイタブンネ、さよならだ」
「ブッ!?ミブヒィッ!?」
「でも太ったのお前の責任だろ?」
俺は即座に突っ込む。太ったからかわいくないのだろう。そう思ったからだ。
「そうだけどいらないから」
ニカッと笑うその顔は悪意100%の天然産。ムチりん出してたら嫌われたことだろう。
「ブヒッ!!ブヒブヒッ!」
「うるさい!他所様のテールナーを許可もなく娶ろうとするバトルもできない穀潰しはいらないんだよ!」
ガスッ!!という音ともに蹴りが入る。太り過ぎでダメージになってないが。
「ムチりんの経験値にしたら?」
「いいね、リリアの言うとおりにしなよ」
「…よし!行け!ムチりん!」
「るなっ」
スタッ、と緑の草原に人が二人、黄色いキツネが二匹、ピンクデブ一匹。からふる。
「…ムチりんの覚えてる技は火炎放射、サイコキネシス、サイコショック、鬼火、」
「なんで同じような技二つも覚えてんだよ~、このこの~」
「るな~」
ムチりんを見て、やっぱりテールナーはかわいいと再確認する。リリアを抱っこして続きを見物する。
「ムチりん!サイコショック!」
「るなぁ!」
ブタンネの頭上…失礼、ブタりんの頭上に念道力の塊が浮かぶ。それが空中で四散し…
「ミブェッ!!!!」
ブタりんの急所に命中。お見事。
「ムチりん!続けて火炎放射!」
「るなぁ…!るなっ!!」
ほんの一瞬のタメを入れ、枝の先から凄まじい熱量の炎が噴き出る。とは言っても、タブンネ族に恨みのないムチりん。殺す程の火力はなく、バトルで出す時と同じ程度の火力だった。
だがそれは裏を返せば絶望的なダメージになる。ただひたすらに燃やされる。死ぬ事も許されないままに。
なんという生き地獄。我が子ながら天晴。
「トドメだムチりん!サイコキネシス!」
「るぅぅぅっ!なぁぁぁぁっ!!!」
空に飛ばされ、地面に叩きつけられるブタンネ。バキィッ!!という大きな音と共に倒れた。
「…おー、ムチりんの
レベルアップすごいな、大文字覚えられるぞ」
「…サイコキネシス忘れて?」
「るな?」
俺は技マシンスペースから伝説のピコピコハンマーを取り出し、てーるなーの頭を1.2の…ポカン!
ムチりんはサイコキネシスを忘れた!
そして…!
ムチりんは大文字を覚えた!
「ねえねえ、こいつ死んでるよ」
テールナーがげしげしけたぐりながら言う。少なからずお前が蹴ってることも関係してるんじゃないのか。本当に死んでるかどうかは知らないけど。
「仕方ねえなあ、ムチりん!大文字で火葬してやれ!」
「リリアも大文字」
二匹のテールナーが放つ大文字によってブタンネは跡形もないまでに燃え尽きる。
ごうごうと燃えるそれはまるで火の神を怒らせたかのよう。
うちのテールナーはバカなのかアホなのか燃やし尽くした後で火を止めておきながら、食べたかったな、と呟いた。骨まで灰にしておいてそりゃないだろう。
「結局かわいいタブンネって何だったんだよ」
「昔はかわいかったんだがなあ」
てーるなーを高い高いしながらそういう。まだ産まれたばかりのてーるなーは構ってもらえるだけで嬉しいようで、キャッキャと声を上げながら喜んでいる。
「何で私の妹の方がスタイルいいの…」
「口開けろ」
落ち込むテールナーにポケモンキャンデーをあげる。
「結局、ムチりんが一番かわいくてすごいんだよね」
「黙れ」
俺は友人を勢いのままにブン殴る。涙目のムチりんに止められなかったら今頃殴り殺していただろう。
一番かわいいのはリリアに決まってるだろ。
チクショウが。
最終更新:2016年06月14日 22:55