タブンネとレンジャー訓練施設_前編

これは本来とは違う、もしもの話。



「一番から四番降下!着地後五番から八番降下!」
「一番降下します!」

山奥にある森林地帯の拓けた一角。4m程の壁面からラペリングを行うグリーンの服に身を包んだ青年達。
ここは野外活動やサバイバル、その他技術を学べる短期訓練校の所有地だ。

主に10代後半の青年達はここでサバイバル技術を学ぶ。
最初の三日は施設内で学科+訓練を経て、残りは三泊四日の野外実習だ。

本職の国営訓練校クラスまでいかなくとも、ここは訓練カリキュラムを全てクリアすれば国家免許に挑む資格の一部を得られる。
本格的で少人数による集中的な訓練ができることから、ライセンスまでいかなくとも本格的な技術が学べる。
そんな理由から一部の若者の間ではちょっとした場所だ。ほとんどは自身の趣味の為だが。

「うっ、うわああああ!」
そんな中ロープワークが甘かったのかセーフティベルトで宙釣りなった17歳の少年。
「八番!ロープをしっかりしなければ、救助中なら要救助者への二次災害レベルだぞ!!」
「はいぃ~」

八番と呼ばれた少年、彼がこの話の主役になる。


「大丈夫か?キンタマ潰れてないか?しっかしろ」
地面に降ろしてくれたのは二番の18歳の青年だ。
「すみません。尻が痛みますが」
肩を叩き去っていく二番、今回一番の優秀生のようだ。

こうして訓練生達は様々な訓練をこなしていくのだ。


「はぁ、高いとこ怖いよ」
膝に手を付きため息をつく八番。
彼は運動が得意ではなく手先も不器用。そんな彼がここにいるのは理由がある。

7年前成人した際にトレーナーを目指したが、本来の優しすぎる気質がわざわいし断念。
さらに相棒のキャタピーが病気で亡くなってから塞ぎ込みひきこもっていた。
将来を案じた両親が「もともと虫取少年だったことから野外が好き」と曲解し、半ば強制的に入校させた。
本人も家にいたくない等と様々な理由もあるが、嫌々ながらここに来ている。


「終了!午後から野外訓練だ。昼食終了後エリアFに1255までに集合!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
「は、はひぃ」

残りの七人は颯爽と食堂に向かい、八番ものろのろ続く。


「午後は調理もありだってよ!」
「だからってパンとスープだけはねえよなあ!」
他とは違い、友人らしい五番と六番の声がする施設の食堂。それとは逆に八番はため息ばかりついていた。

「もう帰りたい…」
細かく千切ったパンをスープに浮かべながらそうぼやくだけだった。


13時。点呼を済ませた訓練生達はため池近くで待機していると詰所から職員が何かを連れている様が視界に入った。
数珠繋ぎに首輪をつけられ歩く9匹の生物。それは タブンネ だった。

「君達にこれらを一頭与える!それを活用、調理し、これからの野営に使え」

つまりはタブンネ殺して三日間の食糧とし、さらに毛皮で何かを製作するとの事。


タブンネといえば全国図鑑NO531かちくポケモン。
今人間にとってもっとも身近で安価な食肉であり、体毛等の加工品として親しまれている。
頭では理解してても、その過程を知り、さらにそれを自らの手で行う機会など通常ありえない。

人は生きる為に生物の命を…さらにそれを自身の手で直接奪うことでその意味を刻ませる大変貴重であり重要な訓練。
自分の当たり前の価値観を変える事も訓練だけでなく、ポケモン達に対する考えも変える事になる。
表向きには知らされないこの訓練校一番の重要訓練だ。

訓練生に一匹ずつタブンネが渡される。
タブンネはそれぞれ優しく微笑むもの、穏やかに目を閉じているもの様々だ。
けづやも悪く少し痩せぎみだがその理由もすぐに明らかにされた。

教官の説明によれば、このタブンネ達はメスであり主に食用卵を産むのが仕事だったという。その為か背丈も通常より40cm程低い。
老齢となりこれから格安冷凍加工肉として生涯を閉じるのだが、明日を担う若者達にその身で命の重さを伝える大役を与えられたのだ。
首輪にロープをくくりられたタブンネ達もそれを理解しているのだろう、今も騒いだり暴れるのはいない。

「ミィー?」
そんな中八番に与えられたタブンネが、八番の顔を指をくわえながら覗き混んだ。
この個体はさらに10cm小さい。みすぼらしさも他よりマシといった程度。
耳につけられたタグには「33-I」と書かれていた。

訓練生の彼らは知られることのない事だが、33-Iはまだ一歳と若い。
発育がよくない個体だったため本来の食肉用に適せず、さらに卵すら産めない体だった。
そういう理由から若年とはいえここへまわされたのだ。

若いぶん周りの卵産タブンネ達から娘のように可愛がられており、性格も他より明るい。
それもあってか現在の状況を他の老ンネと違い理解していない様子。知らない人間に会うのが嬉しいのかはしゃいでるようだ。

一番後ろで目立たない八番はその曇りない瞳に思わず抱き抱えてしまう。
33-Iも抱かれた温もりに彼に身を委ねた。

「可愛いな。33-I…ミミーってとこかな?ミミー」
33-Iことミミーは呼び掛けに明るく返事した。
ちなみに家畜タブンネは余計な情報を遮断するため生後触角を切除される事を義務付けられている。
だがミミーは人間のミスか付け根がわずかに残っていた。
そのため今のミミーには「自分を抱き締め、優しく声をかけた」という表層の感情しか理解されていない。
それは幸か不幸か。


「手本見せるぞ。」
教官は最後の9匹目を自分の元へ寄せるとしばし目を閉じ、うつ伏せになるようタブンネを寝かせ、背中に股がる。
「肩関節をはずす、こうすれば上半身は動かない。しっかり腰に入れて太股でタブンネを逃がさないよう押さえてな」
タブンネの腕を天に向け、そのまま頭側に倒す。
ボキッ バキッ

「ミッ!ミビィィィギィィィ!!」
凄まじい悲鳴が山に響いた。
本能で最期=死を理解していても実際の痛みは理解できない。その叫びを目の当たりにしたからか他のタブンネ達も騒ぎ出す。
その様子に訓練生も顔をそむけるのは当然か。

もちろんミミーも騒…がずに八番のシャツを掴み震えているが、八番は腹部に温かいものを感じた。
「うわっ!…クッ」
小便漏らしたのだ。抱きかかえていたのがあだとなり、さらにどういう環境で飼養されていたのか酷い臭いだ。
安売り用卵の飼料は肉食や高級より劣るのだろうか?と疑問など沸かない。
八番は臭気に少し顔をしかめたが、目の前では最終段階となっている。

「しっかり見ろ!」
教官は後ろ腰から伐採鉈を取りだし首に叩きつけると首は胴から離れた。
痙攣しながら首から噴き出す血がこのタブンネの離れた頭を真っ赤にしていく。


教官は頭を拾いあげるとため池に身を向けた。
「頭部はため池にいる番ポケのダイに食わせてくれ。ダイ!」
呼び掛けにダイと呼ばれたオーダイルが頭を一飲みにし池に帰った。

「タブンネの部位は知っての通り頭、骨、排泄物以外全て食用可だ。ただし…」
説明は続き、食べきれない分は最終日に食堂に提出せよと命令された。
排泄物は地に埋め、骨は最終日に供養。頭のみオーダイルに与えてよい。と

血抜きとして木に吊るす等の下処理はかならず行い、その際には首輪についたロープを使用することを命じられた。

「なお今回は単独作業とし、協力は禁止とする。いずれも数m以上は放れる事!解散」

訓練生は皆複雑な顔をしながら散開し、それぞれ自分のテントを設営しはじめた

………………
「ミーッ!ミィーッ!」
ここは三番生のテントサイト。首輪をはずすべく大騒ぎするタブンネの姿があった。
近場の太い木にロープが縛られているのでどんなに引っ張っても自分が苦しいだけである。

さすがに死を目の当たりにした分恐怖のみが精神を支配しているのだろう。穏やかな笑みを浮かべていた個体とは思えない。

「よし、やるか。ちゃんと食うからな」
陽の光が反射する鉈。それを目にしたからかどんどん青ざめるタブンネ。
組伏せられ抵抗するも老齢ではやはり人間には叶わない。折られる肩、そして振り上げられた鉈はその首に

「ミゲッ!ゲエエッッ!」
「何で斬れねえんだよ!」
叩きつけても斬れない、そもそも鉈は斜めに斬りつけるもの。熟練のプロとの違いは仕方ない
さらに伐採鉈は本来肉や骨を断つものではない。
数回叩きつけたのち、ようやく首は胴から離れた。というよりも断たれた。

「ふうふう…やった」
血抜きもせず三番は頭部を持ちオーダイルのいる池に急いだ、その苦痛にみちたタブンネの顔を見ないように。


叫びは次々とあがった。


皮一枚で首がぶら下がり走り回るタブンネ
なぜか頭がかち割られているタブンネ
腕をおるのに失敗して反抗したがその背に刃を受け絶命したタブンネ
逃げ出し、岩に頭を撃って昏倒しそのまま死んだのもいた
引きちぎったような頭もあり、脊髄が少し垂れ下がっていたのもある


できるだけ苦しまないように、と意識はしてるもののやはり苦しみを与えてしまう。
だがこれも命ある生物と認識させるには充分だった。
様々に死に、切り口が綺麗な二番のタブンネを除けば皆様々に逝った。

………………

オーダイルは先の一つを除き、7つの頭をまるでお菓子を両手に抱えた子供のように喜びながら食べていた。

七つ

そう、八番は出来るだけ皆から離れた位置に陣取り、テント内で叫びがあがる度に震えるミミーを抱き締めていた。
「僕にはできない、できないよ」そう呟きながら抱くしかできない。
それでも震えがとまらないミミーに対し、八番はアリスパックからピーナツや小さな煎餅が入った袋菓子を取り出した。

「これ、食べなよ。おいしいよ」
ミミーに与えると手にとり匂いをかいだあと不思議そうな顔をしながら口に含んだ。
咀嚼する音がやむと、食い散らすように残りも食べ始めた。

「ミィーッ♪」
と満面の笑顔で八番に抱きつき、手についた粉をなめたからか、口の周りは粉だらけだ。
「しーっ!…おいしかったかい?ほんとはダメだけどこっそり持ってきたんだ。僕の大好物さ」
もっともっと!と請うミミーに「半分あげるから」と渡す八番。

「はぁどうしよ、逃げ出すにもこんな山じゃ遭難だよなー、あーあ」
「ミッ?」

頭を掻く八番の姿に、顔じゅう粉だらけのミミイは指をしゃぶりながら顔を向けた。
お菓子ですっかり恐怖は失せたのだろうか?シートに散らばったカスも笑顔で舐めとっていた。


………………
しばらくして。15時をまわったあたりだ。
ここは七番のテントサイト。
血抜きを終え、皮を剥ぎ終えた七番は腹部を切開し臓物を選り分けていた。

「グロいなんていってはダメだ。ええと、これが腸で…心臓かな?たしか肺も食べれるんだっけ。」剥がれた皮は所々ボロボロだがたしかに形にはなっていた。
本来は洗浄し、油やその他薬品を使うのだろうがそんなものはない。
ここはマニュアル等は最低限しかなく、あとは本人の創意工夫だ。
「くさいけど…洗っても今じゃ乾きそうにないなあ。どんなもんだろう」

七番の側の肉塊は何も言わない。

「どうだ?具合は」
「教官!いや、なんというか貴重な経験です」
「そうか、よかったな。ほう、きちんと内臓は部位事に…」
教官は順に見て回っていた。そしてその足音は八番のテントにも近づいていた。

…………………
その頃の八番。

「まだおしっこくさいよ」
やはりズルして持ち込んだウェットタオルで腹部を拭いていた。
「今三時か、そろそろ夜の薪あつめもしなきゃな…さすがに焚き火しないのはまずいし。あーあ、あ!?」
「ミッ?」
目を離していたのが仇になったのか、ミミーが菓子袋をひっくり返し残りを全て食べ尽くしていたのだ。
もちろんカケラやカスはそこいらに散らばっている

「なにやってんだよ!それ僕の分だぞ!」
「ミー、イ!」
取り返そうとした袋をなんと身を強ばらせ抱えている。さらに顔を袋に入れ、袋の油を舐めているようだ。

八番はそんな姿にため息をついていたときだった。

ザッ ザッ
砂利を踏む音。
ここは川が近くの為砂利が多い。八番は雨が降って増水したら?など考えることはない。
誰がここへ向かってきている。それだけだ。


「八番…?タブンネはどうした?」
一番まずい人物である教官の姿に八番は追い詰められ、退路は無いに等しい。
どうこの場を切り抜けるか…とっさに思い付いたのはこうだった。

「ウォーグルの鳴き声か羽音がしたのでひとまず地に埋めました!!」
………………
…………
「(終わった)あ、あひひ」

「……よく気づいたな」
「あひ?」

そうここにはオーダイルの他に番ポケとしてウォーグルが配備されていたのだ。

「あいつもダイのような番ポケだ。襲うことないから安心していいぞ、しかしいいところに気づいたな!」
教官は満足気な顔で意外な程にあっさり帰った。
見えなくなると八番は腰が抜けたように固い砂利にへたれこんだ。

「なんとかなったか。ふう…ん?」
テント内から何かゴソゴソ擦れるような音がし、それに気づいた時は既に遅かった。

「ああーっ!ミミー!?」

アリスパックが横に倒れ、ミミーはこれまた密かに持ち込んでいた
チョコレート、レトルト食品、スナック菓子、ズル隠蔽用に持ち込んだ野草スープのジップロック
トドメに配給された三日分の白米も。

この体のどこにこんなに入るのか?と思うくらいだが、全てミミーに食い散らかされていたのだ。

「ミィ~ミップ」
膨れた腹でだらしなくゲップし満足げなミミー。そんな姿に八番の手は無意識に握り拳をつくっていた。

「なんなんだよッ!もう!」
そんな声にミミーは笑顔で「ミッ♪」と笑った。


「ミプヒューミッヒュー」
陽が沈み出す頃、満腹になったからかイビキをかきながら寝るミミーを尻目に散らかされた食品を片付ける八番。
借り物のテントは防水シートのおかげでなんとかなったが、失われた食料はなんともできない。

「いいんだ。ミミーは可哀想なんだ…このくらいいいんだ。ツラかったんだ」
自分にそう言い聞かせひたすらカスやゴミを清掃した。

「とりあえず火は起こさなきゃな…薪集めしようにも、このままにしておいたら外へ逃げ出しちゃうかな…」
もちろん首輪は「可哀想だから」とうにはずされている。
さらに不運なことに接続部が割れ、ロックがかからない状態。
仕方なく先程のようにアリスパック内に隠すことにした。

ミミーを抱き上げるとそれを感じたのか、寝たままだが上着をぎゅっと握り身を寄せてくる。
そんな姿に八番はため息をつき、今度はしっかり口を閉め、ベルトも締めた。

「起きても我慢してな…」
八番は薄暗くなった山中へ薪を集めに向かった。



完全に日は沈み辺りは暗闇になった頃。
八番はようやくテントサイトへ戻り、出しておいたランタンに火をともしテント内に入ると凄まじい悪臭が漂った。

「クサッ!」
その声に反応したのか、パックがゴソガサと揺れる。表面に浮き出た染みに八番の血の気がひき、意を決して開くと ムワアッと悪臭が充満した。

「ミィーャァー!!」
パックから飛び出たミミー。ランタンの明かりに照らされたその体は茶や黄土色の糞だらけで染みは尿によるものだ。

「クソもらしたのかよ!やめろ!走り回るな!ダメだって!」
糞の中に閉じ込められてれば気も狂うだろう、清掃されたテント内は先程よりも最悪の状態と変貌していく。

どうでもいい話だがおそらくは大量に食事をとったことにより腹を下したのだ。今の分はここに来る前に与えられた分。
本来こういう場合餌は抜かれるはずだがなにかしらの理由で食べていたのだろう。

ミミーはさんざん暴れたのち隅で腹を抱えて苦しんでいる。震えながら苦痛に満ちた顔、尻からあふれでる粘液、
それらを見ていると八番はなぜか怒りなど沸かず、むしろ込み上げるなにかを感じていた。

が、すぐに八番も同じくらい苦痛に満ちた顔になった。

致命的なミス再び。パック内のものを出してない、つまりそれが意味することは…

「アアッー!」
パックをひっくりかえすと案の定、防寒具、その他サバイバル品、着火用新聞、着替え、タオルなど全て糞まみれ。
そしてトドメといわんばかりにまたまた隠し持ってきたニンテンドー3DSも糞まみれ。
騒いだ際に爪でやられたのか開かれた液晶やパネルに傷が入り、糞がキーやボタンにべったりついて、その隙間にもたっぷり入り込んでいる。
ジュース等をコントローラに溢したことある人には想像しやすいだろう。

「―ッ」
八番は拳を握りしめ涙を流した。飛び出したSDカードやDSカードにも糞がしっかりと端子を覆っていた。

20時。
焚き火の前で八番は震えながら暖をとっていた。夏場といえ、山の夜は冷える。
着火には財布の中のレシートでなんとかなったが、食料も無く防寒具も無い現状だ。コッヘルは無事たったが中に入ってるのは先ほど集めた食いカス。
同期の仲間に頼るなんてリスクが大きすぎることはこの小心にできるはずもない

今夜のメニューは食い溢しを水に浮かべ暖めただけの地獄雑炊だ。チョコの甘さが染みたベタベタ米が舌を地獄に誘った。

「みんな今頃なにくってんのかな…」
皆が食べてるのはタブ肉料理だろう。
タブステーキ タブカレー タブライス タブ汁
全て食べたことのある料理、無性に食べたくて仕方ない。しかし殺したくない自分への問答はさらに精神を追い詰める。

そんな時だった。
「ミィ~」
寝ていたはずのミミーが足元にきていた。

「ダメだろ出てきたら!」
ミミーは糞だらけの体をすりよせてくる。なんだかんだで優しい八番を頼っているのだろう。

「ズボンが…」
スッと足をよけても必死に追いかけしがみつこうとするのはやはり暗闇は怖いのからか。
畜舎ではなんだかんだで周りに仲間がいたのだから平気だったのかもしれない。

そんな姿に八番がふと思ったのは
「焚き火に投げ込んでやろうか…」
だった。

そんな考えを天は許さないのか、降りだす雨。
普通ならテント内がだめならタープだけをはずし、雨よけとしてビバークするのだが生憎八番にそんな考えも行動力も無い。
ガタンと地獄雑炊を足で蹴飛ばし悪臭空間へ戻り、畜舎暮らしのミミーも初めての雨にチャーミャー騒ぎながら後を追った。


「明日謝ってもう帰らせてもらおう」
出来るだけテントの隅で体育座りしながら八番は俯くと、ミミーは八番の膝をポンポン叩く。
膝に糞の跡がついた。

「うるさい、お前酷いな。なんでこんなことばっかするんだよ」
そんな質問にもミミーはやはり頭をかしげた。さすがに指はくわえてないが。

「もう寝るから邪魔しないで」
背を向ける八番にミミー背中に身を寄せた。もう八番は何もする気もなく場は静寂に包まれた。

誰が悪いのか、100人がそう言われれば100人全員八番が一番悪いと答えるだろう。それを解っているからこそ八番は涙を流した。
殺したくない、でもこの惨状を許せる程の精神的な余裕も広い心もない。

「キャタピー…」
今の惨めさや孤独感からかつての親友の名を呼びつつ意識は闇に沈んだ。

最終更新:2016年10月10日 11:59