タブンネとレンジャー訓練施設_後編

………!………………!
空が明るくなった頃、何かわからないが音に目を覚ました八番は目の前の影に気づいた。
それはホイップという文字通り甘いものではなく、ミミーの尻だ。

「ウワアアアアアアア!」

とっさに避けた場所にブリリュウとはじける異常な水音。
避けた先でついた手の感触にあわせ、鳴る異様な水音。

「ヒェッッ!ひゃああああ!」
叫んだのも無理はない、おびただしい糞がそこらじゅうに散乱していた。

未消化の米や野草、無理矢理出したのか血もまじり昨日の昼間食われた食料全てが下痢糞や吐瀉物となり帰ってきた。
既に上着やズボンは糞だらけ。もう少し遅かったら顔面に受けていたはすだ。

ミミーは必死な顔で糞をひりだしていた。前回を遥かに上回る腹痛に自分でもどうしていいかわからず糞を漏らし回ったのか。
量が決まってる畜舎と違い、旨味が段違いの人間食を暴食し完全に腹を壊したのだ。
外に出て用を足すなど考えるような思慮深さもないのは見た目通りといった感じか。


「こいつは僕に糞をぶっかけようとしやがったんだ…!ふざけやがって!この野郎!!」
「ミィー!!」

完全にキレたのかミミーに拳を振り上げるが、あの笑顔がフラッシュバックし拳は天に振り上げられたまま静止した。
ミミーは落ち着いたのか、テントから出ると残飯雑炊の入っていたコッヘルを「ミッミッ♪」と舐め始めた。

「なんで外でしなかったんだよ」
なんて考える事もなく八番は動くことも声をだすこともなかった。
ザッザッ
そんな八番にトドメを刺すようにあの足音が近づいていた。



「馬鹿者!」
怒声と共に乾いた音が響き渡った。
昨日説明を受けた広場。そこには後ろに手を組み並ぶ七人の訓練生、
教官に平手を受け倒れた八番、
そして教官にロープをくくりつけられ、必死にはずそうとしているミミー。

八番の表情は先日までの気弱さ等感じさせない眉間にシワを寄せたけわしい表情だ。
その瞳が写すものは教官の横でもがくミミー。
僕を裏切った。そんな感情しかわかない。

教官の「命をなんたら」「生きるためのなんたら」など耳に入らない。
吐いた唾は真っ赤に染まっていた。

「八番は午前の水害救助訓練は出なくていい!1230の昼食のタブンネ料理提出までに捌いておけ!いいな?…いいな!」
「………あい」
八番は草ごと拳を握りしめた。

「以上!七名は訓練プールまで急げ!」
見送る教官の横で八番はとんでもない光景を目の当たりにしてしまった。

「ミッミィ♪」
ミミーがロープを可愛らしくくわえながら教官の足に身を擦り寄せているのだ。
はずせ、だろう。気づいた教官と目が合うと八番に向きかえり、指差しながら
「ミッミッ!!」と怒りの表情。
おそらく腹痛にしたのは八番だからもっと折檻しろ!の意味合いなのは誰にも理解しやすいはず。



ブチブチブチ
これは草がちぎれる音ではなく、八番の何かがちぎれる音。
涙を流しながら歯を食いしばる八番は立ち上がると教官の前に立った。

「了解しました、教官」
教官はその剣幕に少し身をひいたが、無言でロープを手渡すと七人が向かった先に歩みだした。

池からは一人と一匹を心配そうにオーダイルが見つめていた。

一人と一匹は出会ったこの場で再び視線を合わせた。
抱き合った暖かさと笑顔を互いに感じた一人と一匹はもう過去。

ミミーは八番に向かいロープを噛みながら「ミギィィ」と威嚇したのは、はずせ!の意だろう。
それに反応した八番はロープを手にとるとミミーは笑顔になった。
「ミィミッ♪オゲッ!?」
そのまま八番に引き摺られるミミー。首の絞まりに苦しみながら一人と一匹は糞だらけのテントサイトに戻った。


「僕…俺はさ、生まれてから一度も叩かれたことないんだ。こうなったのは俺のせい?そうだろうさ、俺がいけないんだ」
「ミケッケホッ」
「たしかに俺の判断が悪い。100人全員俺が悪いというよ?でもね、だからといって…」
「…ミッ?」

「この状況を素直に受け入れて自分の間違いを認められる程俺は大人じゃねええんだよオオオオ!!」
ガシャアアアン!

思いきり蹴りつけられたコッヘルが宙を舞い、ボスッとテントに当たった。
「俺みたいな陰湿なキモ野郎を怒らせたらどうなるか教えてやるよ」
もはや八番は昨日までと同じ人物ではない。鈍く光る鉈が振り上げられた。

「ミィー!!」
首からロープをなんとかはずしたミミーはそのまま林地に向け駆け出し、
ひたすら走り木々の間に身を隠すがそれが間違いだった。
あいにく水難訓練プールは林地から正反対。叫んでも届くことはない。


石に躓き転び、後ずさりしながら必死に手をつきだしやめてと悲願するミミー。
昨日まであんなに優しかった八番が自分に刃を向ける恐怖、絶望、裏切り。
まだ若いミミーもよくわかっていない。だからこそ、自分を腹痛にした八番を叱った教官に親しみを感じたのだろう。
むしろあっちが殺しを薦める側なのだが。

八番もまるで精神的に追い詰めるようジワジワ距離をつめる。
涙を撒き散らしながら必死に逃げるミミーだが追いかけっこにすらならない。

八番に尾を掴まれた時、ついにミミーも牙を向いた。
ヂーヂーうなりながら掴まれた手に噛みつくも八番は怯まない。お返しと鼻先に鉈の柄を叩きこまれ噴き出す鼻血。
糞にまみれた人間とタブンネの死闘は端から見ればどう見えるのだろう。

恐怖からかまだ出るのかといわんばかりにミミーの尻から軟糞が溢れだした。
八番は糞を枝や土ごと掴みあげそれをミミーの口に押し込んだ。
「ムウウウ!ミュウウウムムン゛ン゛ン゛」
苦しみは糞だけではない。尖った枝が口内を蹂躙し小石や土が容赦なく抉り続ける。
必死に吐き出そうとするも、八番のもやしっぷりが嘘のような手の力に、
涙を流し鼻から血まじりの糞を逆流させ動かない四肢を震わせ必死に抵抗した。

「残すんじゃねえぜ?!?」
さらに力を込める八番だが、彼は視界に入った何かをみて口を歪ませた。
「たしかここは…ちょうどいいや。殺さないから一緒に訓練しようぜ!?!」
「ミゲハッ!ゲミミミミ!オグミェッ!!グッ!?」
まだ糞や土を吐き出しきれず悶えるミミーの尾を掴み、その 何か に向け歩みを進めた。

ついた場所は訓練用底無し沼。
ここら林地一帯は自然そのものを利用した訓練場。初日のオリエンテーションで八番は知らされていたのだ。
もちろんあくまでも訓練。身長的に人間の中高生なら絶対頭は沈まない深さとなっている。
だが今使用するのはタブンネ、さらに通常より小さいなら立派な底無しだ。
八番はそこへミミーを投げつけた。

「ミィーッ!?ミミーッ!!」
バチャバチャもがくミミーに向け八番は、軽いから沈まない?と思ったが既に腹まで沈む様子に口端を歪ませた。
「学科でさ、こういう場合は木の枝みたいのに上半身乗り上げて体重を分散させる。ってやってさ」
八番は手頃な枝を探しながら説明するが、既に胸まで埋まりかけたミミーに届いているだろうか。

「実際現場に枝なかったらどうすんだろうね。ほうら」
投げ込まれた枝を、文字通り藁にもすがる思いで掴むミミー。もう頭と肩から腕しか見えないが、必死に体を乗り上げようとする。

「俺の言葉が通じた?わけないよな?」
「ミッ!?ミブジュルル!フハァーァッ!ッミブジュブブゥ!」
必死にもがくミミーの頭を踏みつけ、頭を出して息継ぎさせては再び踏みつける八番。
腕を震わせながら枝を掴むミミーだが、徐々に指が開き……

「おっと、まだまだこれからだぜ!?」
耳を引っ張られ引き揚げられたミミー。沼の重さもあってか、耳のつけ根が内出血起こしていた。

タブンネの生命力はそうとうなものらしい。泥を吐き出しながらも逃げるべく立ち上がった。
若いからなのか、危機に瀕し体組織が活性しているのはわからない。

「次はそうだな、罠から脱出でもやるかなあ!?」
八番の視線の先にはトラバサミが設置されていた。


「ミギィーッ!ミギュウウウッ!!」
足どころか胴まで挟まれたミミーが必死にトラバサミをはずすべく奮闘する。
訓練なので刃はない。あくまでも圧迫するだけだがタブンネからすればかなりの圧迫だろう。
もちろん解除などできるはずもない。

「地味だな」
頭を掻きながら八番は呟いた。
その爪の間には、髪に付着していた乾燥糞がびっしり詰まっていた。
それをフッと飛ばし次の訓練、いやアトラクションを見据えた

ネットによる匍匐前進。道には道中八番が見つけた尖った木の枝が敷き詰められていた。
もちろんミミーは訓練に付き合うつもりはない。足の裏や腹部を傷だらけにしながらネットにからまり転がっては全身を枝が蹂躙した。

八番も不思議だった。生まれてこのかたこんなに高揚したのは始めてだ。
表情豊かでいちいちリアクションが多彩なこのタブンネを見ていると自分を突き動かす何か、そして内から沸き上がる衝動を抑えられずにいた。
気弱で内向的な少年をも魅了し、悪鬼にするタブンネの魔性の魅力。
家畜として接する日々ではまず気がつかないであろう。

………
川の流れる音、木が風で揺れる音、平穏な自然の風景をかきけすような悲鳴再び。
再び八番のテントサイトで今行われているのは

「ギャミン!?ミグゥゥ!ンンーミンッー!」
ミミーは口内に次々押し込まれるゲロにまじった川砂利を強制的に詰めこまれ、その口もタオル(糞まみれ)を押し込まれ、補修テープでカバー。
ムームー涙と鼻水を垂れ流し必死にテープを剥がそうとしては粘着の痛みに躊躇し、さらに涙と鼻水。

「頑丈だな、タブンネって。さて俺の訓練だ!溺れた哀れな生物を救助するぞ!?」
八番はミミーを抱え川に放り込んだ。

「ッ!?ムムムゥ!?」
口を塞がれ鼻につく水がミミーに痛みを与えるのは当然か。
ちなみに川は浅く、流れも穏やか。ただ浅いといってもタブンネ(小)には沼と同じに深さを感じられる。
足がつかずさらに呼吸すら危うい中バチャバチャ騒ぐ姿に八番も笑顔だ。
間もなく力尽きたのがミミーが静かになるとようやく八番は川に入りミミーを救出した。
テープを一気にはがすとゲロや砂利と共に大量に血も吐き出された。

「ミッション終了。んほほ、汚れも落ちてよかったじゃん。あ、なんで口に砂利つめたんだっけ?」
笑う八番を定まらない視界で見据えたミミーだが、そのまま意識を失った。
「パニック起こしてる奴から暴行されるケースもあるから、逆にぶちのめして黙らせてから救う。って、これで合ってたかな?」
再び場は自然の音だけに戻った。


時間は正午。八番とミミーはテントサイトで休憩しているところだ。
とりあえず自分も川で汚れを落とした八番とは対照的にズタボロのミミー。
崩れかけた糞だらけのテント内で、今までの図々しさが嘘のように体を丸め、涙を流しながら身を震わせていた。
こちらを見て、すぐに顔を隠し一段と激しく泣く。
その姿に八番は再び何かが沸き上がる感覚に見舞われ、焚き木に火をつける作業に入った。


パチパチ火を灯す焚き火

「ミィヤアアアーッ!ミヤアアアア!」
ズタボロの尾を引き摺られ焚き火前につれてこられたミミーはもはやトラウマなのか凄まじい騒ぎを見せた。
しかしそれも八番にとっては心地よいBGM。
ミミーを蹴り飛ばすと躊躇なく薄汚れた右足に鉈を叩きつけた。

「ミギャアーッ!」
まだ叫ぶ体力があるのかと言わんばかりに叫ぶが、何度か叩きつけられ足は胴から離れた。

ジュウウウッ
「ミ゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ー゛」
「しーけーつー」
炭化した太い枝を傷口に押し当て止血する八番だが、これはホラー映画でみた知識らしい。
逃げ出すべく必死に身を起こすも本来ある部位を失い、もはやどうすることも出来ないミミー。
そしてもう片足も胴から離れた。

枝にさされ火にくべられるのはミミーの足二本。皮も剥かれ、たいした大きさではないがやはり肉だけに香ばしい匂いが辺りを満たした。
八番が糞だらけのパックからとりだし、水洗いしたそれは配給された胡椒。調味料は様々な意味で欠かせない。

それを焼けたタブ足肉にふりかけ口にすると、いつぶりか笑顔になる八番。
「うんまい!今まで食ったタブ足で一番旨いよ!なんでなんだ!?」
夢中で嘱すとすぐ様骨だけになり、もう一本を手にとると笑顔は邪笑に変わった。

「食えよ。訓練だ♪」
「ミェッ…」
おいしそうな匂いだがミミーからすれば自分の足だ。
かつて自分を支えていた可愛らしいと仲間から誉められた「あんよ」が焼き色に染まり、脂を垂れ流している。
さすがにミミーもそれに食らいつくような真似はせず、涙を流すとキュッと瞼をとじ顔をそむけ…られなかった。
無理矢理口を開かされ押し込まれる焼きタブ足。再び強い力で口を塞がれ、ミミーは両手で八番の腕を離そうと苦闘するがもちろん無駄。
ミミーは涙を流しながら咀嚼し、ちぎれた肉飲み込んだ。

そのすぐ後
「ミゴェェッ!?クッミァァ……プッ」
盛大に吐き出した。
やはり自分の一部というのは、悪食のタブンネからしても拒否の対象。
飲み込みかけた骨と肉を吐き出し気道を確保しようと息をすいこむが

「ミバアアアア!!」
全て吐き出す程の叫びがあがった

「うるせえな…」
八番が焼け爛れた足の切断面にこしょうをふりかけていた。
その苦悶の顔に笑みを浮かべる八番は川で鉈の血を落とし、再び鉈をミミーに向けた。


………
12時を過ぎたあたり。
あの広場には七人がそれぞれ調理したタブ肉料理を持ちより、場は味見会の様相だ。
野菜と肉のバーベキュー、スープ、キノコとの炒めもの、シュラスコ風様々。
八割肉はガチャガチャに崩れている、中でも見映えよいステーキ風のは群生している香草などが散りばめられたもの。
もちろんこれは二番の作品。

「さて………」
教官は川辺に視線を送るが、のぼる煙をみて眉を動かした。
「ほう。皆は食事を続けろ。私は八番も連れてくる。」

「八番か。これとっといてやるか?」
「プッ、」
互いに試食しながらせせら笑う訓練生達。だが二番だけは笑わずにずっと自身の料理を睨んでいた。


…………
八番の傍らには飛び散った臓器、ズタズタになった腸が散らばっていた。
そして

「ミフッ………ミンフ…………ミ」
ミミーはまだ生きていた。だが首から下はまるで胸像。肩から下はまだ鼓動ある心臓と膨らむ肺の動きが見えていた。
タブンネの生命力は常識を越える。だからこそ急所を潰さない限り中々死なない。

「頭潰さないと死なないとかゾンビだなククク。ほらっ」
臓器に触れる度に瞳がグルンとするミミー。
そのまま昏倒かと思えば、八番は触角のあったであろう部位にソーイングキットから取り出した針を刺した。
「ミグモッ」
タブンネにとって一番敏感な器官への痛みはミミーを気絶すらさせない。
意識がぶっ飛びそうになる度に針を刺して、意識を保たせるなど常人では 少なくともここの人間は思わないだろう。

そして八番は背後に寄る足音にも気づかなかった。


「は…八番…なに……を……」

その言葉にヨルノズクのようにいかないが、首を限界まで回した八番。
「いかがですか?ハラミ焼き」

内臓についた肉をはがしながら八番は笑った。

「八番貴様…」

「まってくださいよ……ほら」
ユラユラ立ち上がった八番は既に昨日までの様子でない。その全裸で顔まで血まみれの姿に教官もたじろいでしまう。

「ほらほらほらほらほらほらほら」
さらに串をつきつけられ、教官は思わずそれを手にしてしまう。
「きょかぁ~ん、まずはそのまま食べてみてくださいよぅ~」

調味料すらないただの串焼き。
教官はなぜかその滴る肉汁やケモノくさい匂いがとてつもなく魅力的に感じ、なんと口にしてしまった。

「…………!?ウマッ!!……も、もう一個くれないか?」
「へイ…今度はカレー粉まぶしで」
「フーッ!フウー!パクッ!…………うまいいいいいい!ビール!」

教官はまるでオフ時の、娘や妻から嫌われるだらしないオヤジのようにはしゃいだ。
「これはすごいぞ!同じ肉とは思えない!それもってついてこい八番!」
「アーい。………おっと死ぬなよミミー、帰ってきたらオメメ抜いて歯を一本ずつバラすからねっ?」

「ミ゛ι゛゛:ヶ,ネィ」
ミミーのあらゆる傷口に塩が塗り込まれ、動かないよう耳にはテント用ペグが突き刺された。


広場では皆二番のステーキを囲み険しい顔をしていた。

一番「はっきり言って不味いよね」
二番「たしかに、俺もそう思ってる。格安冷凍肉より不味いというか、こんな不味いの初めてだ」
三番「同じタブンネだよね?見た目こんな綺麗でおいしそうなのに?なんでこんな吐き気がするの?」
四番「実際うちの半生のタブシュラスコがマシじゃね」
五番「てめえの生焼けかよ!なにがレアだ」
六番「でもさ、俺のはうまいでしょ?」
七番「まーね」

それぞれ感想を言い合う訓練生。そんな中

「おーいみんなー!これ食べてみろ!!」
厳格な表情しかなかった教官が笑いながらこちらへくるではないか。
さらに背後には握った手の指の間それぞれから串を生やした全裸の八番。
七人は震え上がった。

そして八番の用意した串焼きを手渡された七人はそれぞれ怪訝な顔をしながら味付けすらなさそうな肉を口にした。

「うまっ!」「なんだこれうまっ!塩だけか?これ」「生焼けなのにうまっ!」

「うまいっ美味すぎる…どうなってんだ…?」
二番ですら感想を口に出していた。
「なあ八番おかわりは?」
「今切ってくるよ。肩肉とトントロ(部位)なら出せるけど」
「がまんできねえ!俺もいくよ!」

9人は八番のテントサイトへいき、訓練生七人はこの旨いタブ肉の元を見なりウォーグルがビビって墜落した程の叫びを挙げた。



その夜
教官と訓練生達は火を囲み、タブ肉について議論を交わしていた。
八番は現在宿舎で入浴後休ませている。とてもじゃないが訓練できる状態ではない。
皮まで剥がされたミミーは骨だけとなり、散らばった内臓はもちろん脳や目玉など本来処理される部分まで皆で食べ尽くされた。
もちろんミミーは息のあるままで解体されていたが。
その様相も散々意識させられた命等はどうでもいいというか、ただ旨い物が食べたいことから教官を含めた八人は黙認したのだ。

完全解体後そのまま座り続ける八番を宿舎に送り、残りの七人は訓練再開したが、教官ですら肉の謎に集中できずにいた。

何故八番の肉が一番うまいのか?何故二番の肉が一番まずいのか?
残りの六人にもそれぞれ旨味の波が大きいが、どちらかと言えば全て不味い。

そんな中、三番の言葉で事態は動いた。

「そういや八番は生きたまま捌いてたよね」

その言葉にそれぞれ考えた。
生きたままバラされたミミー
それぞれ頭をかち割ったり、背中に突き立てたり、度合いは違う。
訓練して散々苦しめての下ごしらえはさすがに知られないが。

最初はミミーに皆絶句して何も言えなかったが、だからといって嘔吐するものもなく、ただ肉を欲しただけだったのだ。

「俺は気絶させてから殺したんだ。腕も折らず、昏睡させる直前まで宥めて安心させてやっていた。…だから…か」
二番は手を組みながら火を睨んだ。
就寝まで彼らはずっと考えていた。


深夜の職員詰め所。
灯りがともるそこには教官の姿があった。
その手にはこっそり回収していたミミーの肩肉。何も隠して食うわけではない。
夜のミーティングの話が気がかりで、これから研究施設に成分調査の為のサンプルとして提出する手続きをしていた。
既に腐敗しだしている二番の肉、まだ新鮮さを感じさせるツヤのある肉。一日おきとはいえ、ここまで変わるのか。
これまたスタッフポケモンのユキワラシに二つの肉を冷凍させ、ウォーグルに配送させた。

詰め所を後にし向かった先は施設内の一部屋。
中には静かに寝息を立てるタブンネが一匹。予備として用意してあったものだ。
外の喧騒も聞こえない安全な室内で、干し草のベッドに横たわり幸せそうな顔で寝息を立てるタブンネ。
その姿に教官の胸に膨らんだのは 苛立ち だった。
あの寝顔を胸像にされ苦しんでいたミミーのようにしてやりたい。
そしてあの肉を食いたい。そんな感情が教官を支配していた。
そして自然に体が動き出し……

数時間後、部屋の中にはぐちゃぐちゃの肉片と折られた無数の骨、臓物が飛び散っていた。

教官は血塗れでヒビが入った警棒を拭きながら何処かに電話をしていたようだった。

その日の朝食に職員達はたいそう舌鼓をうったという。しかし教官だけはわずかに違和感を感じていた。



野外訓練三日目。
八番はテキスト学習として宿舎、七人の訓練生達は午前の訓練を行ったが七人とも、二番ですらどこか複雑な顔のままだった。
八番本人も昨日のハッスルが嘘のように消沈し、室内学習に安堵していたようだった。
逆におかしいのは教官だ。ソワソワし、何かを待ちわびている様相。


そして1200
広場に集まる七人に向け、教官から言い渡されたのは
「午後はタブンネ解体だ!ヒャア!!」
「「「「「「「イヤッフォッ!」」」」」」」
七人は数珠繋ぎになった七匹のタブンネに飛びかかった。まるで獣のように目をぎらつかせながら。

今朝方教官が連絡したのは畜舎だったのだ。


現場は壮絶を極めた。もはや命の尊さを説き、それらを意識した彼らはない。
史上初の虐殺を行った八番の行動はこの訓練所の伝統を豹変させてしまったのだ。
それだけ苦しむタブンネには人を動かす「なにか」が秘めてあったのだろうか?
七人共に脳裏に浮かぶのはミミーの苦悶の表情。それを再現するためにそれぞれタブンネに襲いかかった。


「オラァン!」
「ミビィィッ!」
一番は首にくくりついたままのロープを引っ張り、砂利の上を引き摺る。

「降下開始!」
「ミギェーッ!ボンッ!」
二番はラペリングウォールから突き落としていた。

「ヘアッ!?」
「ミギャン!ブハッ!ミブクブクブク!ブハッ!ミブクブク!」
三番はため池に何度もタブンネの顔を叩きつけていた。

「くるしい?くるしい?」
「ミグェェ」
四番はロープで首を絞めて、弱めて、絞めていた。肩が折られているので抵抗できない。

「なんだバカヤロー!」
「モエッ!ゴエッ!」
五番はタブンネにプロレス技をかけていた。あらゆる骨が折られていて、よろよろ立ち上がったところにドロップキック。

「イクゾオオ!!」
「ゴエッハッ!ミィ!!」
六番も友人の五番と同様プロレスはまるでタッグマッチ。木の上からエルボードロップされたタブンネの口からは血以外の物も噴出した。

「大丈夫だよ。怖くない、僕はあいつらじゃないからね」
「ミゲゲゲゲ」
七番はそういいながら裂かれた股から腸をゆっくり引きずりだしていた。


「そうだ!そうやって極限まで痛めつけるんだぞ!わかったか!?」
「「「「「「「イエッサー!!」」」」」」」

満足気な教官は先程タブンネと共に届いたレポートを目にしていた。

ミミー肉は特殊なアドレナリンが分泌されていたのが肉を検査した結果判明したようで、
さらに旨味、保存性、栄養価も一般品よりはるかに向上している。
そのため、タブンネは痛め付けてから食肉化するほうが良いのか?という疑問。
しかしこれはモラルに反するのではないか?という意見も端々にあった。
だが、肉の魅力にとりつかれた彼らにはもはや関係ない。七人も苦しむミミーの姿に興奮していたのだから。

そして地獄絵図は集束した。
貯め池のオーダイルはメチャクチャに破壊された頭部に困惑したが、一つ頬張るとあっというまに残りも食してしまった。
そしてまともに調理もせず、食らいつく七人。

「うまい!前よりうまいけど、なんか足りなくない?」
「たしかに。すげえよ!けど何かしら」
「ちゃんと生きたまま解体したんだけどなあ」
「やる時間が短すぎたとか?」
「わかんない、八番のよりなんか足りない。まあどっちにしろ旨いだろ!いらないならもらうよ」
「しっかしなんだろ?食ったからか解体したからか、すこぶる体の調子がいい感じ」

教官も考えていた。何が足りない?
あの時八番を迎えに行った時にあったものは……食い物の袋…食い物か?いや……
満足の中に僅かな不満をいだきつつ三日目も過ぎていった。




最終日の朝。八人は会議室に集まり、レポートと共にそれぞれ意見を出した。

「痛め付けた肉はやはり旨味が違う。我々も行ったがやはり八番と違う部分があるのだ。そこで八番のやり方を聞きたい」
「あ、いや…僕はミミ…いやタブンネを殺せなくて…その」
教官の言葉に八番は洗いざらい全てを打ち明けた。

「そうか!」
立ち上がったのは二番
「俺も情けをかけて接し、死を意識させず殺しましたがそれだけではダメなんだ!タブンネを心から絶望させないと」

「つまりアメと鞭?」
三番が続く

「そう!それも極上アメと最悪の鞭。つまり天国から地獄に叩き落とすくらいに!それをやった八番はすごいよ!」
二番は拳を握りしめた。

「八番すごいなー!」
七番が八番の肩を叩いた。

「いいすか?僕が感じてるのは、痛めつけた肉食べてから体調がいいんですよ。今ならイシツブテも片手で投げれる」
「たしかに。今ならなんたらブリッジ自転車でなん往復でもできそうだよ」
五番と六番も言う。
それには八番も心当たりがあった。テキストが全問すらすら解けたのだ。

「つまり何かしらある?解りやすく言えば経験値的な」
一番も続く。
「ああ、その、俺もみんなと同じ意見」
四番もうなづく

そして最後のオリエンテーションと共に訓練は解散となった。
八番もなぜかすっきりしたような顔で教官に頭を下げた。

解散後教官は彼らの全てをレポートにまとめ、突っ返される覚悟で提出した。
この時の彼らは、自分達の意見がかちくポケモンタブンネの運命を変えるなど誰も思わなかったであろう。



  • 後日談・
タブンネ肉は様々な分野から研究された。
結果、タブンネは痛め付ければ特殊なアドレナリンを分泌し肉質が向上。
さらに殺すと経験値が多量に得られる。
ポケモンに殺らせた所、通常より成長がはやまった結果から得たのだ。
栄養価も評価され、これを食した人間達は徒歩で地方横断しても疲労が少ない結果もでた。
今後盛況を極めるポケモンバトルのトレーナー達が状況も問わず場に居続けられるのもこの事が関連している。


さらにタブンネをが苦しむとリアクション時に一種のフェロモンが放出され相手の加虐心を煽る結果もでたが、これは内密に処理された。
さすがに公にはできないだろう。
そしてモラルの問題から畜産業からは敬遠されたが、極秘に行った一業者の肉質が大変よいと噂になり、
生育に虐待過程がどこでも実施されるようになってしまう。
今まで愛情たっぷりだった業者も金が絡めば一変し、この業者の肉は極上とまで言われた。
タブンネはここでも人々を変えた。

こうしてタブンネ種限定地獄が幕を開けた。
人間も一部の者しか知らない文字通り人為的な地獄だ。
だが良いことばかりもなく、じわじわ需要を表してきたポケモンバトルの育成用に人為的に野に放たれたタブンネ達。
それはすさまじい繁殖力で増え農作物をはじめとした被害も多発。
その為政府は専門ハンター、ポケギアを通したミニゲームという名の駆除を実施。
そして一部で問題の虐待虐殺もタブンネなら黙認するという手段に出た。
育成、そして他ポケ虐待も、加虐フェロモンにより一般ポケモンにやったよりも充実感は大きいのだ。
虐待や不正な行為がどんどんタブンネに集中されていき、他種は安泰を得て生態系を取り戻していく。
もちろん野生種にもタブンネは餌としてよい結果をだしているのも事実である。
悪い部分ばかりでないが一進一退のタブンネ地獄は数年後の現在も続いている。
かつて命の尊さを教える存在であった彼らの姿は自然と風化し、人間にとって都合のいい存在、そして害獣と化していった。

……
ここはとある町の保健所。
電話が鳴り響き、内容はもちろんタブンネ被害。
町近隣の森で異常繁殖したタブンネによる被害が報告された。タブンネ狩りにいったトレーナーですら逃げ帰った程という。
保健所はハンターに連絡し、数分後には現場に着くと返事がきた。


数分後現場にはリーダーらしき男性と部下数名が森入り口で待機していた。

「いいかみんな?一匹残らず、卵まで処理しろ。最近は奇特な奴が飼っては捨てた「技持ち」も確認されるからな。気を抜くなよ」
「「「「了解」」」」
「よし、出るぞ!ボール用意」

数分後。人とポケモンとの共同作業により、森の被害を抑えつつ群れは駆逐された。
後片付けする隊員のうち一人の手には手持ちとは別のモンスターボールが。
帽子を脱いで汗を拭うその人物はかつて八番と呼ばれた彼。
彼は現在ハンターとして活躍している。同期もそれぞれ何かしらタブンネに関わる仕事だが割愛する。
彼がいつも一匹は若い♀を捕獲する理由は、可愛がって苦しめて殺して 食う 為だ。

もちろん高級タブ肉製造は一般に知られてはいないが、あの訓練に参加した彼らには常識だ。
八番は相棒のバタフリーを撫でながら、食い頃が楽しみだと笑みを浮かべた。
「よろしくな、ミミー」

これは もしも の話
現在タブンネがこのような事態に陥ったのは八番と呼ばれた彼の行動の結果なのかもしれない。
今日も畜舎では天国から地獄におとされ涙を流すタブンネ、産まれてから愛も知らずに苦痛のみのタブンネ、
野生で人や他ポケモンに抗うべく必死に戦うか、ただひたすら怯えて生きるしかないタブンネ。
かつて命のひとつとして数えられたは既に過去、今は一部とは言え害獣として処理される日々が今も続く。


これは もしも の話。
最終更新:2016年10月10日 12:05