その後会場の片付けも終わり、退社の時間もとっくに過ぎているというのに女子社員はまだ準備室にいた
今朝の事もあって自ら泊まりの夜勤を志願したのだ。そして今、チビママンネのご飯を準備中である
一応気が利く社員が事前にチビママンネの餌を用意しといてくれたのだが
蓋を開けて見ると生のブロッコリーの芯3本と萎びかけたさつま芋2本が無造作に入っているだけだった
一日中あんなになるまで頑張ってくれたのにこれは可哀想と女子社員は思い
自腹でオボンの実を買ってきてメニューに足したのだった
そしてその足で休憩室に行き、チビママンネ用の夕食の調理を始めた
ブロッコリーの芯は柔らかくなるまで茹でて野菜スティックのように細長く切り分け
萎びたさつま芋は
電子レンジでふかして皮がついたまま潰したあとで丸めてきんとんに
オボンの実はくし切りに切り分けるだけなのだが皮が硬くて女子社員の腕力では切るのに難儀した
そうして出来上がった三品をそれぞれタッパーに詰め、チビママンネが待つ準備室へと持っていく
「ミッミ~」「ミィミィ!」
「チチィ」「チィチ~」「チッチチッチ!」「チチピィ!」
準備室の中では、チビママンネが自分の周りで自由にベビたちを遊ばせていた
ハイハイで追いかけっこをしたり、空になった哺乳瓶を転がしたり、タオルをくしゃくしゃと弄んだりと
面白いものは何もなさそうなベビーサークルの中でも楽しそうに遊んでいる
「ミッミッミッ!」
「チッチッチ!」「チーチ!チーチ!」
勇者ンネもチビママンネを助けてベビたちの遊び相手になってあげていた
遊びの内容は男の子らしく戦いごっこ
勇者ンネがフシデのように這い回ってベビ達に迫り、ベビたちはその頭を叩いて迎え撃つという内容だ
正気に戻った今、ベビのように甘えていたのが恥ずかしくなって自分から世話に励んでるという訳である
小ベビンネはチビママンネの太ももに抱きつきながらも、勇者ンネたちの遊びを興味ありげにじっと見ていた
そんな笑い声が絶えない部屋のドアが開き、女子社員が部屋へと入ってきた
もちろんチビママンネの食事を持ってきたからである
「タブンネさん、ご飯をもってきました」
「ミミッ?」「ミーミ?」「チー?」
女子社員はチビママンネの目の前にタッパーを並べていく
たが野生育ちのチビママンネはそれを食べ物だと認識する事が出来ず、自らの夕食を目の前にしてキョトンとしているだけだった
むしろベビンネ達の方がタッパーに興味を示し、次々とその周りに集まるのだった
「チチッチ、チィ~」「チッチンチ~」「チチチッチ!」
「悪戯しちゃだめですよぉ、これはお母さんのご飯です!」
タッパーの蓋を太鼓のようにぺしぺしと叩いたり縁に手をかけてひっくり返したり上に座ってみたりと
ベビンネたちの悪戯三昧でとても食事どころではない
女子社員が困ってるのを察して、チビママンネはもちろん勇者ンネも止めに入るが多勢に無勢でベビ達は止められない
そうしてゴタゴタしてうちにタッパーの蓋に手をかけるベビンネが出てきてしまう
「チチィ?!」「チッチ?」
「ミッ?」「ミィー!」
タッパーの蓋が空くと、温められた野菜の甘い匂いがふわっと漂う
その匂いに惹かれたのか、ベビンネたちは一斉に蓋の開いたタッパーに注目する
ついでにチビママンネと勇者ンネもそれに釘づけになっていた
「おっと、危ないです」
「チチー!!」
ベビンネの動きが止まった隙をつき、女子社員はささっと3つのタッパーを回収する
少しかき混ぜられてはいたものの中身は無事で女子社員は安堵した
ベビンネ達はおもちゃを取り上げられたかのようにチィチィと悲しそうに騒ぎ立てたが
女子社員は機転を効かせ、机の上にポケモン用の餌皿を用意して中道を全部出したあと、
空のタッパーをベビ達に渡して事を納めた
いろいろあったが、やっとチビママンネの夕食の時間だ
「チッチッチッチ!」「チィィ~♪」「ンチッチ」「フチィ~」
「よしよしです。さあ、たくさん食べてくださいね」
「ミミーッ!!」
ベビ達がご機嫌を直してタッパーで遊びだしたのを見て女子社員は安心し
餌が山盛りになった皿をチビママンネの前に差し出す
見た目は乱雑になってしまったが、そんなことはチビママンネは気にならなかった
「ミッミ!ミッミ!」
「ミッミ!」
「あれ、おちびちゃんも食べたいんですか?」
朝から何も食べられずにお腹が空いてるはずで、出されたらすぐに食いつくかと思いきや
チビママンネは食べる前に勇者ンネを呼び寄せた。一緒に食べようと言っているのだ
勇者ンネはずっと逃げ隠れしていた為にお客さんから餌を貰えず、今日一日何も食べていないのだ
それどころか、あの男達に捕まって以来ショックから丸一日以上何も口に入れていなかった
正気に戻った今、勇者ンネが感じている空腹は想像に余りある
チビママンネは泣きつかれた際にそんな勇者ンネの体調を感じとり、食事に誘ってあげたというわけだ
「ミッミ!ミッミ!」
目の前のごちそうの山に目を輝かせ、耳をぱたつかせて興奮を隠せない勇者ンネ
誇り高い戦士でも心を壊されかけた負け犬でもない、純心な子タブンネの姿がそこにはあった
二匹はどれから先に食べるか少し目移りした後
チビママンネはブロッコリーの芯から、勇者ンネはきんとんから先に食べ始めた
ブロッコリーの芯は十分に加熱してなお硬い繊維質の食感を残していたが、元は野生ぐらしのチビママンネには気にもならない
それよりも加熱したことにより引き立てられた甘みにとても美味しく感じられた
萎びたさつま芋の金団も少し筋っぽかったが、人里離れた山間の草むらに生まれ育った勇者ンネには未体験の美味しさだった
タブンネの最高のご馳走、オボンの実の美味しさは言わずもがなである
「チィ、チィ、チィチ、チィチ」
「ミミッ」「ミーミ?」
2匹が夢中で食べていると、大きなベビンネがよちよち歩きで近寄ってきた
このベビは勇者ンネと同じ群れ出身のベビンネで
乳歯が生え揃う途中の離乳するかしないかの時期なのだ
それは親や仲間が食べているものに興味を示しだす時期でもある
「ミーミー」「チッチ!」「ミィミィ」
勇者ンネはそんな同郷ベビを快く迎え、自分の隣に座らせた
そして「好きなのを食べていいよ」と促すようにごちゃ混ぜに盛られたを餌を指差す
チビママンネも食べる手を止め、その様子をにこやかに笑いながら見ている
「チーチィ、チ、チーチィ…」
食べていいとは言われたものの三種類のうちどれを食べるべきか分からず
嬉しそうな顔をしながらも少し迷っていた同郷ベビだったが
意を決して皿の中で一番興味が惹かれた食べ物をキュッと掴む
それはよりにもよってブロッコリーの芯だった
「あっ、それは…」「ミミミ!」
その瞬間、女子社員はぎょっとした
茹でてあるとはいえブロッコリーの芯は筋張っていて独特の臭いとえぐみもあり、
とても赤ちゃんに食べさせられるような代物ではない
チビママンネもまた女子社員と同じ考えで、両者とも慌てて口に入れるのを止めようとした
だが、同郷ベビは一目惚れしたそれをためらいも無く口に入れてしまう
「チィチィチィチ…」
まずくてすぐに吐き出すかと思いきや、口に含んだまま顎を動かしだしてモムモムと咀嚼し始める
だが、食べ物を歯で噛むというよりかはチュパチュパとしゃぶっているだけの様だ
歯がまだ完全に生えそろっておらずうまく噛めないのである
それでも、シャクッ、シャクッと歯で噛み切る音も時々ではあるがは聞こえてきた
「まずかったら、吐き出してもいいんですよ…」
「チププ…」
女子社員の心配とは裏腹に、同郷ベビはブロッコリーの味を嫌がる様子はなく
それどころか歯で噛む回数もだんだんと増えていき、ついにはゴクンと飲み込んでしまった
この一口を食べている間に同郷ベビはカミカミが格段に上手になっていた
茹でたブロッコリーの芯の程よい硬さが物を噛む練習にちょうど良かったのだ
「ミッミミミ~!」「ミィーミ!」「チィチィ!チィチィw」
「ええっ、食べれたんですか?」
ブロッコリーの芯を食べられたことにチビママンネと勇者ンネは驚き喜び、
二匹でミィミィと嬉しそうな声で笑いながら同郷ンネを褒め、その頭を撫でた
当の同郷ベビはそれに喜びつつも気持ちは餌の方に向いていたが
(そうか… タブンネたちは赤ちゃんが硬いもの食べられるようになった事を、
成長した事を喜んでいるんだ)
そう解釈した女子社員は優しく声をかけながら二匹の後から加わるようにそっと頭を撫でた
こうやって大人の真似をしながらも時には冒険し、子供たちは成長していくのだと
この大都会のデパートの片隅で、タブンネの親子の野生での生き方を垣間見た気がした
「チ、チィ」
「え、おちびちゃん?」
喜びの余韻が残る中、チビママンネの後ろから小ベビンネが出てきて餌皿へと這い寄っていく
何をするかと思えば餌皿に乗りかかり、その中からブロッコリーの芯のスティックを手に取った
チビママンネたちに褒められてる同郷ベビが羨ましくなり、自分も同じものを食べて褒めてもらおうという魂胆なのだ
「キュェッ!!」
「あっ、やっぱり!」
何も考えずに芯を口に入れた小ベビンネは、二、三回チュパチュパとしゃぶったかと思うと
すぐさま嗚咽とともにそれを大量のよだれと一緒に餌の上に吐き出してしまう
ミルクの味しか知らない未熟すぎる舌に独特の癖のあるにおいと味は耐えられなかったのだ
その後当然小ベビンネは号泣し、チビママンネが大慌てで抱っこして揺さぶりあやし始める
「ど、どうしようこれ…」
皿に残っていた餌は小ベビンネの唾液がたっぷりと掛かりあんかけ状態となってしまっていた
こうなっては勿体ないが捨てるしかないと女子社員はゴミ袋を用意しに行って戻ると
勇者ンネと同郷ベビは気にせずパクパクと食べていた
野生暮らしだとベビンネの唾液程度では汚物扱いしないのである
その様子に女子社員は少し引いてしまったが、まあポケモンだからしょうがないと自分を納得させた
その後小ベビンネが泣き止んでチビママンネも食事に戻り、3匹一緒に餌を食べ始めた
同郷ベビはミルクも飲んでいたので数口で満腹になって食べる手を止め
勇者ンネとチビママンネは夢中で食べ続けているように見えたが
残り1/4程残して食べるのを止めてしまった
「あれ、もう食べないんですか?」
「ミッ、ミィ」
2匹で食べるには少し足りないくらいの量だったので満腹になるのは妙だと女子社員は思ったが
チビママンネが皿を持って笑顔で差し出してきた事でその意図を理解した
これはあなたの分だから食べてと言ってきてるのだ
「い、いいですよぅ」
「ミィ、ミィ?」
女子社員は夕食がまだでおなかが減っているのは確かだ
チビママンネはタブンネ特有の優れた聴覚によりそれを察したのだろう
しかし、食べてと渡されたものはベビンネのよだれにまみれたポケモンの餌だ
さすがにこれは食べられないと突き返しかけたその時
「チィィ?」「チー?」
同郷ベビと小ベビンネが自分を不思議そうにじっと見ていることに気づいた
同時に、先ほどのタブンネの子供は大人の真似をして育っていくという事が頭に浮かぶ
(あの赤ちゃんだって不味い野菜を頑張って食べたんです
この子たちに大人の私が好き嫌いをする所を見せるわけにはいかないです…!)
変なところで発揮されてしまった持前の責任感により、
人生最悪の野菜あんかけを無理やり笑顔を作りながら涙目で完食するハメとなった女子社員であった
タブンネたちの食事の後、遊び疲れたベビンネたちはうつらうつらと眠そうにしていた
するとチビママンネはベビを一匹ずつ優しく抱っこして次々と寝床へ運んでいく
寝床は女子社員がたまたま準備室にあった毛布を折りたたんで作った即席の物だが
初めて体験する毛布の柔らかさと心地よい肌触りにベビ達も気持ち良くに眠りに落ちていった
「ミィ… ミィ… ミ…」
「あぁ、お母さんタブンネもお疲れさんですね…」
寝床にベビたちを集め終えたチビママンネは自分も寝床の上に寝そべり
自分に密着させるように抱き寄せてるうちにいつの間にか眠ってしまっていた
親子がくっついて眠るのは母親の体温で温める事によってか弱いベビたちを夜の寒さから守るという
誰に教えられた訳でもないタブンネの自然の知恵、つまりは習性だ
女子社員はそんな事を知る由もないが、目の前の暖かな親子のふれあいにほっこりとした気持ちになっていた
しかしチビママンネが寝ると毛布の上は満員で、
勇者ンネは女子社員が新たに持ってきた座布団の上で体を丸めて男一匹寂しく眠るのであった
現在は閉店時間の午後10時。タブンネ達の声が消えると騒々しかった部屋も一転して静かになり
することが無くなった女子社員は思い出したように遅い夕食をとった
メニューは買っておいたコーヒーとカツサンド
冷めきってはいるが、ソースの濃い味が未だ口内に不快感を残す小ベビンネのよだれの口直しにはちょうどいい
食べてる音でタブンネ達が起きるといけないので準備室の外で立ったままこっそりと食べる
この時、会場に置かれたままの子タブンネ達が入れられたケージが不意に目に入る
数時間前まではミィミィミィミィと群れたムックルの如く喧しかったが、
店の照明が消えて暗くなった今では火が消えたように静まり返っていた
「おちびちゃん達は大丈夫かな?」
女子社員はケージを見ているうちに気になってきてしまい、その様子を見に行く
ちなみに大勢の檻に閉じ込められている子タブンネ達は夕食抜きである
昼に客たちから餌をしこたま貰っているから大丈夫だろうというざんす男の判断だ
女子社員は内心、本当に大丈夫なのかなと心配していたのだが
いざ様子を見てみると大多数が気持ち良さそうに寝息を立ててるので、この判断は間違ってはいなかった様である
ここで「大多数」と表現したのは、そうでない子タブンネもいるからだ
「ミ… ミ…」「ヒィック… ヒィック…」「ズッ… グズッ…」
檻の傍に居ると子タブンネの寝息やいびきに混ざって、かすかにすすり泣く声が聞こえてくる
女子社員はどうしたのかと不安に思い、聞き耳を立てて泣き声の出てる檻のひとつを探し当て、
起こさないよう気をつけながら懐中電灯光量を弱くして照らし、出入り口の格子の隙間から中をのぞいてみる
そこには数匹ずつ固まってすやすやと眠っているタブンネ達の姿が見えた
泣いているのはその中のうつ伏せで壁に顔をくっつけながら寝ている2匹の子タブンネだった
他の子タブンネと見比べると小さく幼い子タブンネで、薄暗い中だとベビンネのようにも見えてくる
懐中電灯の光をそっと当てて目を凝らしてみると、確かにその頬にはキラリと反射する真新しい涙の跡が
だがキラリと反射したのは頬だけではなく、子タブンネの顔の付近のケージの壁もテカテカと濡れていた
最初は涙が壁に付いたのかと思った女子社員だったが
よくよく見てみると涙にしては量が多く、顔の位置から考えて舌で舐めた跡だなと何となく推理した
「…ごめんなさい」
懐中電灯を消し、小声でそう呟いてからケージから離れていく女子社員
本当はあの子タブンネたちをケージから出して慰めてやりたかった
しかし、あのケージの金属製の扉は開け閉めするとガチャンと大きくて耳障りな音が鳴る
唯でさえ耳が敏感なタブンネたちだ
せっかくぐっすり眠ってくれてるというのにそんな音を鳴らしてしまったらどうなるか…
他の子タブンネの事も考えると、あの子たちは泣くままにしておくしか仕方がない
泣いてる子タブンネは他にもいるが、睡眠が心を癒してくれる事を願うほかなかった
欝々とした気分になった女子社員は、その足で従業員用の出入り口からデパートを出る
向かう先は近くにある24時間営業のスーパー銭湯
明日もイベント場内で接客の仕事。お客様に不潔な姿を見せるわけにはいかない
湯船につかりながら、何であの子タブンネたちは壁を舐めていたのか気になっていたが
その確たる理由は思いつかぬまま風呂から上がり、ジャージに着替えてデパートへ戻る
「チーチ、チー」「チチィ…」「チィー、チィー」「ミィ、ミィ…」
「…? 赤ちゃんたちが起きてる…?」
準備室に戻った女子社員は、暗い中で寝ているはずのべビンネとチビママンネの声を聞いた
べビンネの声は何かを必死に求めるような切ない声で、チビママンネのは悲しい声だ
どうしたのかと思い電気を点けてみると、
寝床の上、寝そべるチビママンネのお腹の前で3匹のベビンネがもぞもぞと動いている
その中の一匹はあの小ベビンネだ
チビママンネは起きてはいるが眠っている時と同じ横に寝そべる体制のままで、眼にはじんわりと涙を浮かべていた
「チーチー…」「チーチ」「チチッチ」
起きているベビたちの様子をよく見てみると、
チビママンネのお腹の毛皮に顔をうずめながらヂューヂューと口を鳴らしたりクイクイと押したりしている
チビママンネは歯を食いしばって切なそうな表情をしているが、べビンネ達のするがままにさせていた
そうさせておくしか仕方がないといった様子だ
「あ、おっぱい!」
女子社員が正解であるそれに思い至るのは容易なことだった
そして行動は早く、即座に3本の哺乳瓶に粉ミルクを作って暖め始める
「ミィ、ミ…」
その様子を見てチビママンネは安堵した。目に涙は消えぬままではあるが
ミルクが温まるまでの間、女子社員は心に残る
モヤモヤが何か気になってい仕方がなかった
なぜあのチビママンネはお乳が出ないのかという疑問もそうだが、
もう一つ嫌な何かがチクリと引っかかっている
そうして物思いに耽ってるうちにミルクが適温に温まった
「赤ちゃんたちお待たせです、ミルクが出来ましたよ」
「チッチィ!」「チチ~!」
女子社員がミルクを持って近づくと2匹のベビがチビママンネのお腹から離れてくるりと方向転換し
眠る他のベビを乗り越えながらも女子社員へ向かってハイハイしていく
踏まれて痛かったたのではないかと女子社員は焦りかけたが
寝てるベビ達はむず痒がるような仕草はしたもののまるで平気そうで起きる気配すらない
野生の薄暗い巣の中ではこの程度の事は日常茶飯事なのだ
「チッチ!チッチ!」「チチィチィ!」
「…あれ、今回は手伝ってくれないんですか?」
「ミーミ、ミィ」
ミルクを与える時必ず手伝ってくれていたチビママンネだが、今回は寝そべったまま動かない
それは眠いからとか疲れているからではなく、小ベビンネが乳首を銜えて離さないからである
他のベビは乳首を見つけられなかったので哺乳瓶が来たらすぐに諦めたが
小ベビンネだけは諦めきれず、乳の出ないいびつな形の乳首を小さな口で懸命に吸い続けている
その切ない様に無駄だからとやめさせる事もできず、チビママンネはただ諦めてくれるのを待つしかなかった
そして2匹のベビに授乳しながらもこちらを気にかける女子社員に、もう少しだけ待ってあげてと哀しい瞳で訴えるのであった
「ミピッ!?」「ヂボェッ!!」
「えっ!?どうしたんですか?」
チビママンネが突然悲鳴を上げたかと思うと、同時に小ベビンネが嗚咽とともに乳首から口を離す
何が起きたか全く分からずただ驚くばかりの女子社員だったが、
2匹のベビが悲鳴に驚いてミルクから口を離したので、授乳を一区切りして何があったのか慌てて見に行った
「え… お乳…?」
チビママンネのお腹の正面から見て右下の所、小ベビンネが吸いついていた乳首
そこからドロリとした白っぽい液体が流れ出ていた
一瞬は母乳が出てきたのかと勘違いした女子社員だったが、すぐにそれは違うと気づいた
気味の悪い黄色がかった色をしていて、鼻を近づけると嗅いだ事のある嫌な匂いがしたからだ
その臭いから、これは母乳などではなく膿だとすぐに判断できた
そしてあろうことかそれを小ベビンネが口に入れてしまったという事も
「おちびちゃん、ちょっとだけ我慢してください!」
「ヂェ、ヂィェッ!ァェッ!!ビグェッ!」
エッ、エッっと嗚咽混じりの咳をしている小ベビンネを女子社員は仰向けに返し、
軽く押さえつけながらティッシュを巻いた人差し指をその口に突っ込んだ
小ベビンネは突然の事にパニックになって反射的に噛みついてしまったが、
まだ歯が一本も生えていなかったので女子社員は驚きはしたものの大して痛くはない
噛まれたまま無理に指で口内の膿を拭き取ろうとしても、
小ベビンネは腕の中でじたばたと暴れ、イヤイヤと首を振ったり顔を反らしたりして順調にはいかなかった
「ミィ!ミィ!」
「ヂヂーッ!ヂィーッ!!」
女子社員が苦戦している所にチビママンネが立ち上がり、助けに入った
両手で頭を押さえて動かないようにしながら、ミィミィと優しく声をかけて荒ぶる小ベビンネをなだめる
それでも小ベビンネは抵抗し続け簡単には拭かせてはくれなかったが
騒ぎ疲れて動きが鈍った隙に女子社員はなんとか口の中の膿をほぼ全部拭き取る事が出来た
小ベビンネの口から、不気味な薄黄色の液体にまみれたティッシュが指とともに引き抜かれる
「お水です、おちびちゃんのお口を奇麗にしてあげてください」
「チチ・・・ チィ…」
「ミィ、ミ」
女子社員が空の哺乳瓶に水を入れて渡し、チビママンネがそれを小ベビンネに飲ませた
少し元気を無くしていたが、喉を小さくコクコクと動かしているので飲んでいるのが分かる
一目盛ほど飲むと落ち着いたのかフゥフゥと大きく息をしながらも安らいだ顔になった
チビママンネはその胸に耳の触覚を当て、ホッと息を吐き安堵の表情に
耳の触覚で体調が大丈夫かどうか調べたのだ
これをやったタブンネが安心しているということは、もう大丈夫ということである
無事で良かったと安堵した女子社員だが、やることはまだ色々と残っている
次に手をつけるのは、未だ黄色い膿に汚れたままであるチビママンネの乳首だ
「ちょっと痛いけど、我慢してて下さい」
「ミィィ…!」
女子社員乳首にティッシュをあてがいながら、膿を絞り出そうとする
チビママンネは治療してくれると分かっていたので従順に乳首を触らせていたが、
その顔には痛みに対する恐れが隠せていない
「ミキィーッ!!」「キャッ?!」
ギュッと乳首をつままれた瞬間、チビママンネは反射的に両手で女子社員を突き飛ばしてしまった
あのタブンネ卸業者の女社長に乳首をむしり取られたトラウマが痛みで
フラッシュバックしたのだ
不安定な前かがみで膿を絞ろうとしていた女子社員はバランスを崩してドタンと尻もちをついてしまう
「ミィッ!?、ミィッ!!」
「うう、大丈夫です… ごめんなさい、痛かったんですね…」
ハッと我に返ったチビママンネは慌てて女子社員に駆け寄り、助け起こそうと小さな手でその腕を懸命に引っ張った
後悔と罪悪感に満ちた今にも泣きだしそうな無様な顔で、その心は膿吹く乳首に負けぬほど痛めていた
同時に、あの憎たらしい社長と青いポケモンの事が頭に浮かぶ
あいつに乳首を取られてさえいなければ、こんな事にはならなかったのに…
一方、トラウマの事など知る由もない女子社員は痛かったんだろうなとしか思っておらず、
チビママンネに軽く詫びてから素直に助け起こされるのであった
「今度は我慢しててくださいね」
「ミ、ミィ…!」
今度は膿絞りの痛みに耐える覚悟を決めたチビママンネ
女子社員もそれに応え今度は躊躇わずに一気に絞り出す方針だ
いざ絞り始めると神経が集中してる箇所なのでかなり痛く、
歯を食いしばりながら女子社員の髪と服をギュッと握りしめて必死に耐える
膿はプリュプリュと音を立てながら大量に出てきた
絞り続けると固体のような塊の膿が出てきて、やがて血が混じりに変わり
最後に透明の体液だけが出てくるようになった、こうなると完全に膿が出きった証拠だ
「ミ~、ミ」
「あっ、掻いちゃ駄目ですよ、消毒しますから待っててください」
痛みが消えスッキリした乳首を嬉しそうにさわさわと撫でるチビママンネ
女子社員はそれを制止し、乳首に消毒薬を塗る
傷に沁みる感覚に身震いするチビママンネだったが、その痛みにはすぐに慣れ
最後に消毒薬をしみ込ませたガーゼを絆創膏で貼り付けて処置は終わった
昨日のデパートに来たばかりのチビママンネなら人間にこんな事はさせなかっただろうし
目の前でベビの口に無理やり指を突っ込んだりしたら激怒していただろう
自覚は薄いだろうが、今日という一日だけで女子社員はチビママンネの確実な信頼と友情を得ていた
乳首を見ているうちに、女子社員は何故このタブンネはお乳が出ないのかが再び気になって
くすぐったがるチビママンネの毛皮をかき分けて他の乳首を見てみることにした
「うそ… 何これ…」
「ミ?」
そこに見たものは、乳首があるはずの部分に残っていた傷痕だった
既に皮が貼り治ってはいるものの、ここからお乳が出てくるとは到底思えない、完全に破壊された乳首の痕だ
何よりショックなのは、ほかの部分には一切傷がなく乳首だけがピンポイントで破壊されてるということ
不慮の事故でこんな傷がつくはずはないし、野生のポケモンがこんな襲い方をするはずがない
こんな痛めつけ方をするのは、悪意を持った人間しかいないだろう
「なんで・・・ こんな… ひどい…」
「ミィ・・・」
女子社員は義憤と悲しみに震えた
一体何を思えば、赤ちゃんを育てている母タブンネの乳首をむしり取るという残酷極まる事ができるのか
なぜこんな行為に及んだのか、全く想像も出来ず、ただ名も顔も知らぬ悪人に怒りを燃やす
実際は言う事聞かなかった上に叩かれたのでブチギレという割と単純な理由なのだが、それは置いといて
そして人間がポケモンにこんな事をしてしまったという事実が、あまりにも申し訳なくてたまらなかった
「ミーミ、ミーミ、ミィ…」
「はっ、タブンネさん…」
チビママンネは心配して優しい声で鳴きかけながら女子社員の頭にそっと手を乗せた
「許す」とか「あなたのせいじゃない」とかそういう難しい事を伝えたい訳ではなく
ただこの優しい人間に心を痛めてほしくない、ただそれだけの思いだった
だが、女子社員はこの温かい手によって少しだけ心が軽くなった
「チィチィ…」「チーチ…」「チィ、チィ…」
「あっ…赤ちゃんたちが…」「フミィ…」
安心したのも束の間、今度は眠っていたベビたちがこの騒ぎで目を覚ましてしまい
くしゃくしゃになった毛布の上で鈍くもぞもぞと動き出した
不安そうにビクビクと脅えており、今にも泣きだしそうで爆発寸前といった所だ
これには流石のチビママンネも弱った様子で
今日一日の疲れが一気に襲って来たような限界に近い精神状態だった
「…タブンネさん、頑張りましょう」「ミ、ミィ!」
女子社員とチビママンネはこれが最後と限界な体にムチを入れ
泣きそうなベビたちを自分たちも泣きそうになりながらも懸命にあやし
中断していたミルクを温めなおす所から始めて睡魔と闘いながら再び与え、
どうにかこうにかベビを再び眠りに付かせることが出来た
時計は既に12時を回っており、限界を超えた眠気と疲れで両者ともふらふらと憔悴しきっている
「あれ?まだ寝ないんですか?」「ミーミィ…」
すぐにでもベビの傍で寝たいはずであろうが、チビママンネはすぐに横にはならなかった
解決すべき問題があと一つ残っていると思い込んでるからだ
ベビーサークルの柵のごしにキョロキョロと何かを探すように周りを見回しているが
女子社員はその意図がさっぱり分からなかった
「ミィミ、ミ」「えっえっ?これを私に?」
「ミィーミミ~」
目を覚ましていた勇者ンネが自分が寝ていた座布団を女子社員の下へずるずると引きずってきた
そしてチビママンネと一緒にミィミィと何かを訴えかける
なぜ自分の寝床を渡そうとするのか最初は女子社員は分らなかったが、
ふかふかの座布団とチビママンネの心配そうな顔を見比べるとその心を察する事ができた
チビママンネと勇者ンネは女子社員の寝床が無いことを心配していたのだ
タブンネたちの無垢だけどちょっとズレてしまった優しさに、女子社員はフフッと噴き出しててしまう
「ふふ、心配ありませんよ」
「ミィ?」「ミー?」
女子社員はベビーサークルのすぐ傍に部屋にあった座布団を三枚並べて即席の布団を作り
その上に掛け布団代わりのバスタオルを無造作に置いた
この11月、本当はもっとちゃんとした掛け布団が欲しかったが、これ以外に掛けられそうなものはない
実はベビンネたちが寝てる毛布は気が利く社員が女子社員のために用意したものなのだが、
その事を伝えてなかったので残念ながらその意図は伝わらずに終わってしまった
「ミーミィ~」「ミィ~ミ~」「みんな、おやすみなさいです」
寝床が出来たことでチビママンネは安心して寝床に戻ってベビたちの傍で横になり、
勇者ンネも座布団をチビママンネの隣へずるずると運んでそこで丸くなる
やはり一人で寝るのは寂しかったのだ
女子社員も部屋の電気を薄明かりに変え、座布団の上で横になった
眠りに落ちるまでのまどろみの間、チビママンネは奇妙だが、どこか覚えのある安らぎを感じていた
それはまるで、かつて夫と一緒に眠っていた時のような不思議な安心感だった
自分の傍で眠るあの優しい人間
怖い人間の暴力から守ってくれて、でもその後にベビンネみたく泣いちゃって
夫ンネみたいな強さとベビンネみたいな弱さを一緒に持っている不思議な人間
彼女の事を考えると、今までわからなかった人間と一緒に暮らしたがるポケモンの気持ちがよく分かる気がした
チュパ・・・ チュパ…
(…ん? またお乳?)
真夜中、微かに聞こえる濡れた音によって女子社員は不意に目が覚めた
まだ夢うつつのまま枕元に置いておいた懐中電灯で音がする方をそっと照らしてみると
小ベビンネがまたチビママンネのお腹にむしゃぶりついていた
また膿を吸ってしまわないか心配になったが、どうやら寝ぼけて闇雲にお腹を吸っているだけのようだ
その様子が可笑しくて様子を見ているうちに、ある事に気づく
うつ伏せで母親のお腹を吸うその姿勢が、昨晩見たケージの壁を舐めていた2匹の子タブンネと全く同じなのだ
そう、あの子タブンネたちは引き離された母親の夢を見て泣いていたのだ
小ベビンネが舐めているのは温かい母親のお腹だが、あの子タブンネたちが舐めていたのは冷たい金属の壁だ
そこに救いは何もない
その事に気づいた瞬間、罪悪感がおぞ気となってぞわぞわと全身を走った
そして少しでも逃れようとしたのだろう、体を丸めバスタオルを口元までたくし上げ
両目を力いっぱいギュッと瞑って必死に眠りに逃げようとする
もしかして、自分も仕事だからと言い訳して無自覚にタブンネたちを傷つけていて
あのチビママンネとベビンネ達からお乳を奪った悪人とそう変わらないのではなかろうか?
どんなに体を震わしても、女子社員の体の中から冷たいものが消えなかった
「ごめんなさい・・・ ごめんなさい・・・」
どんなに女子社員とチビママンネが仲良くなったとしても、明日はきっと辛い一日になるのだろう
女子社員は子タブンネをお金に変える店員で、チビママンネは子タブンネたちを守る母親なのだから
チュウ・・・ チュウ…
(・・・また舐めてる?)
早朝、女子社員は目覚ましのアラームが鳴る前に小さいが聞き覚えがある音によって目を覚ました
準備室には窓がないので電気を点けないと部屋は暗く、寝起きでぼやけた視界では何も見えない
睡眠不足の重い身体をよいしょと起こして電気を点けると、毛布の上に座りながら小ベビンネを抱くチビママンネの姿が
小ベビンネはその小さな手でチビママンネの毛をしっかりと掴みながらお腹に顔を押し付けている
その押しつけてる箇所は、あろうことか昨日膿が噴出して処置しておいた所と同じだ
よく見ると、チビママンネのすぐ傍に昨日張り付けたガーゼが剥がれ落ちていた
「え…? 膿は…? 」
「ミィミィ♪」
困惑する女子社員にチビママンネが優しく微笑みかける
その顔に苦痛や切なさは一切なく、喜びと安らぎに満ちた心温かい笑顔だ
「まさか…」
「ミィ♪」
チビママンネの横に回り込んでその足の上に乗せられながら抱かれている小ベビンネを覗き込んでみると、
乳首に吸いついてこくこくと喉を鳴らしている。母乳を飲んでいたのだ
乳首のうちの一つだけ完全に千切り取られてはなかった悪運、
女子社員の治療で膿を出し切った事、そしてタブンネ特有の強靭な再生力
その三つが功を奏しチビママンネの乳腺は一夜のうちに再生を果たしてしていた
「すごい!すごい!おっぱいが出るようになったんですね!」
「ミィ、ミィ♪」
母タブンネの温もりに抱かれながらベビンネが乳を吸うその光景
哺乳瓶で行うような無機質な栄養補給ではない、美しささえ感じる暖かな母と子の繋がりの姿がそこにはあった
小ベビンネも哺乳瓶で飲む時よりもずっと心穏やかな様子だ
もう出ないと思ったお乳が再び出た事に、女子社員は眠いのも忘れてまるでわが事のように喜び、
チビママンネもまた人間の友だちと喜びを分かち合おうとしていた
が、喜んだのもつかの間、女子社員はある事が頭を過ぎり、その喜びは風に吹かれた蝋燭の火のように消え失せる
この子を母親から引き剥がして商品として売らなければいけない事を
「…よかったです、おっぱいが治って」
そう呟いて女子社員は再びと座布団に横になる
辛くて顔を見る事が出来ず、チビママンネに背を向けて
まだ全然寝足りないはずなのに、目を閉じていても眠ることができない
「仕事だから」
そう言い訳してしてタブンネたちの苦しみを知らぬふりしている私に、なぜこんな美しい光景を見せるのか
この小さな親子の暖かい繋がりを、自分の立場と生活の為に永久に引き裂こうとしているというのに
「ミ、ミィ?」
チビママンネは様子がおかしい女子社員を心配していた
一瞬ぱっと花が咲いたように喜んだかと思ったら、途端に悲しそうな顔をして寝転んでしまう
なぜ心が苦しんでいるのか? チビママンネに人間の複雑な心理はよく分からないが
この人間の助けになってあげたい、苦しみを和らげてあげたい、ただ純粋にそう思っていた
自分もベビも明日をも知れぬ囚われの身でという状況で、女子社員の心配をしてしまう性格
お隣ベビや見ず知らずのベビをただ放っとけないからという理由で受け入れた時もそうなのだが
ある意味自己犠牲的とも、若さゆえの愚直さとも取れる優しさだ
それは人間の感性では美徳にも感じられるが、野生で暮らす生き物としては弱点に他ならない
本当はチビママンネのようなタブンネこそ、人間と共に暮らして幸せになれるタブンネなのだろう
「チィチィ…」「ミィ…」
だがそれが叶う事は無いだろうし、チビママンネも望んではいない
今は理解不能な人間たちからベビたちを守り抜き、生きて巣まで帰る事だけが目標だ
お乳を満足に飲んで腕の中で眠る小ベビンネをしっかりと抱きしめる
小べビンネが完全に眠ったのを確認すると、そっと寝床に置いてからすり足で女子社員の所へ
その後ろに寄り添うように横になり、背中に触覚を触れる
「ミィ…?」
女子社員の心音から伝わって来たのは、罪の意識
キリキリと茨の弦で心臓を締め付けられるような、痛々しくて耳を塞ぎたくなるような心の音だ
この優しい人間がどうして罪の意識に苦しまなければならないのか?
昼間にベビ達を遠くへ連れ去られてしまった時の事を悔やんでるのだろうか?
理由はとにかく、チビママンネは女子社員が苦しんでいるのが辛くてしょうがなかった
その後30分ほど、チビママンネは女子社員の背中に添い寝したままだった
未だ止まぬ女子社員の罪悪の音を聞き続けながら
あなたは悪くないよ、苦しまなくていいよと伝えたかった
しかしタブンネは人間の言葉が喋れないし、人間には心が伝わるタブンネの触覚は無い
「チィチ…」「チィー…?」「チー、チ…?」
母親が傍にいない事に気づき、3匹のべビが不安そうな声でか細く鳴きながら目を覚ました
その声を聞いた瞬間、チビママンネは慌てて寝床へ戻り再びベビたちに寄り添った
触覚がチビママンネのお腹に触れるとベビ達は落ち着きを取り戻し、不安な声は消えた
ひとまずホッとしたチビママンネだが、頭に浮かぶのは女子社員の事だ
乳首のズキズキする痛みを取り去って再びお乳が出るようにしてくれたのに、
自分はこの人の心のズキズキを取ってあげられないなんて
安らいでに眠るベビたちが眼前にあっても、チビママンネの心は痛んでいた
その後、一人と一匹の痛みが癒えるのを待たずにいつもと同じくに太陽が顔を出し、
チビママンネと女子社員、そしてベビたちの別れの日の始まりを告げるのであった
その後始業時間となり、
起床して身支度を終えた女子社員は準備室の前で出社してきたざんす男達を出迎えた
顔色の悪さを隠すためだろうか、化粧がいつもより濃い目だ
女子社員は何時ものように振舞おうとしたが様子がおかしいのがすぐにばれ
心配した男性社員たちは昨日何があったのか問いただすのであった
色々考えた後、女子社員は叱られようが言うべき正しいことを主張する覚悟を決めた
「このイベントは、今すぐ止めるべきだと思います…
タブンネの子供たちをお母さんから引き離して売り物にするなんて、残酷すぎです…
あの子たちはすぐにでもお母さんの所に…」
女子社員は男性社員たちの目をしっかりと見つめながら、
喉の奥から無理に絞り出したようなかすれた声で心からの本音を吐き出す
こんな声になってしまっているのは社会人として間違った事
すなわち、会社に損をさせる事を言っているという自覚のためだ
どうして何百万円もかけて仕入れたタブンネたちを何の利益も出さずに手放す事が出来ようか?
そんな事を提案したら自分の立場が悪くなるのは必至だ
だがそれでも、必死に自分の正義を通すべく頑張る
優しいが気が弱く、小動物のように臆病な女子社員だが、この時ばかりは守るべき者のために戦い抜く気だ
しかし、言いたい事を言い終わらないうちに気が利く社員が話の隙に割って入った
「そのお母さんというのは何所に居るか分かるのかな?」
その一言に女子社員は言葉に詰まってしまう
確かに、あの子タブンネたちがどこから来たのか、自分たちは何も知らない
「もし、このままタブンネたちを売るのを止めて、野生に返したらどうなると思う?
餌の採り方も知らないまま飢え死にするか、もしくはもっと酷い最後になるか
あのタブンネたちはもう人に飼われるしか生きる道はないんだよ」
女子社員は顔を赤くして震え、下の瞼には涙が溜まる
言い返す言葉が思いつかないのと、子タブンネたちの残酷な末路を想像してしまったためだ
気が利く社員は酷い事を言ってるようだが理がある。これじゃあ、無責任に考えていたのは自分の方ではないか
だが、それでも最後の一線だけは譲る気はない
涙を堪えながら震える唇をゆっくりと開く
「だったら、せめてあのお母さんタブンネとベビちゃんたちだけは…」
「お乳が出ないタブンネが、自然の中でどうやって赤ん坊を育てるんだい?」
「出ますよっ!!!」
女子社員は感情が爆発したかのように大声で叫んだ
叫ぶ所を見たのは初めてで、3人とも驚いてポカンと固まっていた
「昨日出るようになったんです、あのお母さん… 悪い人間に人間におっぱいを取られて
膿を出したら治って、今朝飲んでたんです、あの赤ちゃん、ちっちゃい赤ちゃん…」
静寂の中、女子社員は心に浮かぶ言葉を整理する余裕もなく次々に並べたてる
最早我慢する気もなくなった涙を止めどなく流し、時折グスグスと鼻をすすりながら、
その様子に男性社員たちは気まずい雰囲気になり、気が利く社員の額からは冷や汗が流れる
『ヂィーッ! ヂィーッ! ビーッ!ビッ!ビーッ! ヂャァァァァァ!!』
「ん?ちょっと、何かベビィちゃんたちが騒がしいざんす」
「…えぇ?ちょっと様子を見にいきます」
困惑の中、準備室の中からベビたちが騒ぐ声が聞こえてきた
何かに怒ってるような声と、泣き叫んでるような声と、つまりは喧嘩をしてるような騒ぎ方だ
それを聞いた女子社員はぴたりと泣きやんで正気に戻り、急いで準備室へと入る
この時ばかりはタブンネ達に感謝した気が利く社員だった
三人は何があったのか気になって女子社員を追って準備室へと入って行く
「ヂャーッ!!」「ビィィ!!ビィィ!!」「ウヂーッ!チギュビーッ!!」「ギッ!ギーッ!」
「ミィィ!ミィィ! ミィィ~ン」
「え、え?どうして?寝る時はあんなに仲良かったのに?」
先陣を切った女子社員の目に飛び込んできたのは、寝そべるチビママンネのお腹に群がって争うベビンネ達だった
皆ヂーヂーと怒りや苦痛に満ちた悲鳴にも似た叫び声を上げ
小さな手で他のベビを押しのけ、ベビとベビの隙間に頭を突っ込んで割って入ろうとし
やっと乳に吸いついたベビを頭で押しのけて乳首を奪い、また奪われの繰り返し…
お乳を取り合って喧嘩になってしまったという事は、見ればすぐに分かることだった
チビママンネもミィ!ミィ!と厳しめに鳴いてベビたちの間に片手を入れて争いを止めようとしてるが効果はなく
小べビンネは押しのけられて争いの中にすら入ることができず、
差し出されたチビママンネの片手に縋りついてただ泣きじゃくるだけであった
「ふぇ~、ベビィちゃんなのにこれまた壮絶ざんす。チカちゃん、ミルクの準備を頼むざんす、
ヤマジくんとミナツくんは私と一緒に喧嘩を止めさせるざんすよ」
指示のもとに社員たちが一斉に動き出す
女子社員はタブンネたちを気にしつつも急いで粉ミルクを急いで溶いて暖め
体格がいい社員とざんす男はベビを抱き上げてチビママンネから引き離し喧嘩を止めようとしたが
傷つけないように気を使いながらなので思ったように捗らない
ベビに触られて威嚇の声を上げたチビママンネだったが
社員たちは気にする余裕もなく、傍にいる小ベビンネを意味もなく怖がらせただけだった
「ちょっと試してみます」
「ミィッ?!」
そんな時、気が利く社員が練乳を染み込ませたガーゼを持ってベビーサークルへ飛び入り、
ベビたちにへ近づいていく
その顔を見たチビママンネはビクッと恐怖し威嚇すらできず硬直した
昨日暴行された事がトラウマになってるのだ
だが気が利く社員はチビママンネには構いもせず、喧嘩し続けるベビンネたちにガーゼを近づける
「さあ、こっちのお乳は甘いよ~」
「ヂィィィィィ!! …チ?」「チーチィ!」
すぐに数匹のベビンネが匂いに食いつき、喧嘩をやめてガーゼの方に寄って行く
なおもガーゼを振って甘い匂いを振りまくと、
なんと小ベビンネ以外の全てのベビがガーゼに引き寄せられたのだ
そのまま少しずつ後ろに下がっていくとベビたちもガーゼを追って早めのハイハイで付いていく
「ミィ、ミィーッ!」
チビママンネは大声で鳴いてベビたちが怖い人間に止めようとしたが
数匹のベビがちょっと気になった程度で振り向いただけで、戻ってくるベビはいなかった
ベビたちにも母親に甘えたい気持ちは大いにあるのだが、今は食欲と練乳の魅力の方が勝っていた
自分よりもタブンネに平気で暴行する悪い人間をベビたちが選んだという事実に、チビママンネは恐怖した
「ん、お前たちはどうしたんだ?」
「ミィ…」「チィーチ…」「チィチ…」
一方、ちょっと手持ち無沙汰になった体格のいい社員
ベビーサークルの片隅にいる勇者ンネとその横でちょこんと座る大きいベビンネ2匹に目が向いていた
勇者ンネは大きいベビが争いに加わらないよう引き止めていたのだ
あの争いに力が強いベビが混ざる事によって他の小さなベビが怪我をしてしまうのを心配しての事で
本当は他のベビの争いも止めたかった勇者ンネだったが、力不足でそれは不可能だった
大きいべビは空腹でチュパチュパと指をしゃぶりながらもお乳を我慢している
普通べビは我慢などできないのだが、勇者ンネのカリスマ性の成せる技だろう
「ミルク温まりました!」
「オーケー、みんな、ベビィちゃんたちにミルクをあげるざんす!
社員たちは次々にミルクを手にとって授乳に向かう
ベビたちは待ってましたと言わんばかりにそれに吸いつき、美味しそうにゴクゴクと飲んでいる
ざんす男と気が利く社員と女子社員の三人は両手に哺乳瓶を持って同時に2匹のベビに授乳しているが、
大きなベビを受け持った体格のいい社員は一匹のベビにもうまくミルクを与えることが出来ないでいる
吸い口を口に無理やり押し付けるような形で授乳しようとしていた為、ベビがそっぽを向いてしまったからだ
「ミィッ!ミィッ!ミイッ!」
「ん、お前も飲みたいのか?」
勇者ンネはベビを苛めるなと威嚇をしたが、迫力不足のため鈍感な体格のいい社員にその怒りは伝わらず
勘違いされて哺乳瓶をそのまま渡されてしまう
この時勇者ンネも意図を勘違いし、哺乳瓶をよいしょと両手で持ち上げて傍にいた同郷ベビに授乳を始めた
満タンになった哺乳瓶は子タブンネにとって結構重く、時折大きくぐらりとふらつくが
それでも同郷ベビはゴクゴクと美味しそうに飲んでいる
「おっ、上手いじゃねぇか。俺もちゃんとやんねぇとな」
隣で美味しそうに飲むベビを見て自分も飲みたくなり、
体格がいい社員が授乳しようとしていたベビもミルクを吸いだした
これで全てのベビがお腹を満たせるかと社員たちは思ったがそれは違う。
あの手のかかる小ベビンネがミルクを飲んでいないからだ
一方、切ないのはチビママンネである
せっかくお乳が出るようになったのに、人間が作る粉ミルクの方がいいだなんて…
確かに一つの乳首を10匹で分けると量が足りなくなるのは当たり前で
しかも争いをしながらではとても腹を満たすどころではない
ついでに言うと味も粉ミルクの方が美味しい
つい昨日までは心安らぐ光景だった哺乳瓶でお腹を満たしていくベビたち
だが今ではそれに激しく心乱され、嫉妬や悲しみ、やり場のない怒りすら覚える
チビママンネは歯噛みしてそれをじっと見ているしかなかった
「チィチィ… チィチィ…」「ミィ…」
だが、小ベビンネにとっては何があろうとチビママンネの母乳が一番だった
争うベビ達に次々と乱暴に吸われ、乳首はヒリヒリと赤く充血し
母乳はもはや枯渇寸前で唇を濡らす程度にしか出なくなっている
しかし小ベビンネは必死に吸い続け、チビママンネは授乳の体勢を崩さずその痛みを必死に堪える
大勢のベビのお腹を満たせる人間と哺乳瓶、そして一匹のベビのお腹をも満たせない自分
チビママンネは情けなさと自分への怒りで母乳よりも量が多い悔し涙を流すのだった
「ん?ひょっとしておっぱいが出尽くしちゃったざんすか?
じゃあマーマさんに代わって私がミルクをあげるざんすよ」
「チィィ!」「ミィィ! ミィィ!」
一足早く授乳が終わり、小さな親子の事が気になったざんす男
母乳の出が悪い事を察し、小ベビンネに哺乳瓶の吸い口を向けるも逆に怖がられてしまう
チビママンネは声を張り上げてやめてと懇願すると、ざんす男は突然の大声に驚いて一歩退いてしまう
「そのちっちゃい子は甘えっ子でお母さんタブンネの手からしかミルクを飲まないんですよ」
「あー、ナルホドナルホド。それじゃあマーマさんにお任せするざんす」
「ミィー…」
女子社員の助言に納得したざんす男はチビママンネに哺乳瓶を手渡す
渡されたその後、チビママンネは胸に哺乳瓶を抱きしめてブルブルと震えだした
せっかく母乳が出るようになったのに、こんな物に頼らなくてはならないなんてという悔しさのためだ
ざんす男が心配そうに見つめる前で一分近く震えた後、
チビママンネは片手で小ベビンネを遮って吸うのを止めさせ、すっくと立ち上がった
プライドより小ベビンネの空腹を満たすのが先決だと覚悟を決めたからだ
「ミィ!」
「チィチィ… チィチィ…」
チビママンネは哺乳瓶の吸い口を小ベビンネの口元に向けるが
小べビンネはそれに見向きもせず、母親の足にすがりついた
チィチィ、チィチィとお乳を求める鳴き方で鳴きながら
「んー… やっぱりマーマさんのおっぱいが一番なんざんすかねぇ」
「ミィィ… ミィィ…」
チビママンネは哺乳瓶をゴトリと落とし、立ち尽くしたままさめざめと泣いた
人間も、子タブンネですらやっていた哺乳瓶でミルクを与えることすらも自分は出来ないのかと
チビママンネの母親としてのプライドは、皮肉にも母乳が出たことによってズタズタになろうとしている
「まぁー、そう泣かないでチョーダイ。美味しいものを食べればおっぱいも出るようになるざんすよ
ミナツ君、マーマさんに滋養のある物を持ってきてあげるざんすよ」
「はい」
チビママンネと小ベビンネの問題は残ったが騒ぎは収まり、社員たちは準備室を後にする
その時、食品売り場に行こうとする気が利く社員を女子社員が呼び止めた
「ミナツさん… ごめんなさい。ミナツさんの方が正しかったです
私はただタブンネ達がが可哀そうだと、家族と一緒にいる方が幸せだとそれだけしか考えてなくて」
チビママンネが単独でベビンネたちを育てる力が無いことを目の当たりにし
女子社員の考えはすっかり変わっていた
あのベビンネたちは優しい人間に飼われるしか幸せになる道はなく
自分はその橋渡しの勤めを全力で果たすしかないと
ただ、心配なのはあの小さなベビンネだ
チビママンネの傍らでしか生きられないあの子は、一体これからどうすればいいのか…
「…チカさんが言った事は何も間違ってないと思います
ただ、言うならもっと早く、できれば企画の段階で意見すべき事であったというだけで…」
女子社員はこの企画を言い渡された時、
かわいいポケモンがいっぱい見れると少し楽しみにしていた自分を思い出し、そして恥じた
その後、昨日と同じように会場の準備を終え、子タブンネたちもチェックして汚れを取ってから場内へ放された
何をされるか知られていたため抵抗されて昨日よりかは苦戦したが、兎に角イベントの準備は整った
「あの小さいのも午前中から売り場に出しときますか?」
「それがいいざんすね、様子を見に行ってオッパイを飲み終わってたら売り場に出すざんすよ」
指示を受けた気が利く社員は再び準備室に戻ると、チビママンネとベビたちは毛布の上で眠ってしまっていた
社員たちが前準備をしている間に与えられた餌(ゆで大豆とオレンの実)を平らげ
栄養補給により再び湧き出した母乳を小ベビンネに与え、その後眠くなってまた寝てしまっていた
一度は離れていったベビたちもチビママンネのお腹の前でひしめき合って眠っている
乳は出なくとも、血が繋がってなくとも母は母、その愛とぬくもりは何物にも代えがたい
「…あれだな、ちょっと面倒そうだ」
ベビンネが9匹もかたまっているのでその中から小ベビンネを見つけるのはちょいと難儀
…と思いきや気が利く社員は一目であっさり見つける事ができた
小ベビンネはチビママンネの胸の中、両腕でしっかりと抱かれながら眠っているからだ
では、何故気が利く社員が困っているのかというと、
連れて行く際にチビママンネを起こしてしまうのは避けられないからだ
その時に必死の抵抗にあうのは想像に余りある
「ミッ!?」
足音を殺してそろりそろりと近づこううとした気が利く社員だが、
三歩目でチビママンネがハッと目を覚ましてむくりと起き上がり、
恐怖と警戒が混じった表情で気が利く社員に目を向けている
「…耳がいいんだったっけ、まあいいや予定より早いけどこいつを使おう」
気が利く社員は懐からモンスターボールを取り出し、チビママンネの足もとに投げる
そこから閃光とともに現れたのは少女のようにも見えるポケモン
白い顔に赤い瞳、緑色の髪の毛に見える葉っぱに赤い花、ドレディアと呼ばれるポケモンだ
気が利く社員が少年時代に育てていたポケモンで、実家に預けていた所を急遽送ってもらったのだ
「ミィ、ミィィ…」
唐突に現れたドレディアにチビママンネはビクッと驚き、そして戦慄した
一見穏やかな外見の優しそうなポケモンではあるが、この個体はただならぬ雰囲気を放っている
かわいらしい丸い顔つきに似合わぬ攻撃的な赤い眼光、体内を脈々と流れる雄大な植物の生命エネルギー
このドレディアは野生でも鑑賞用でもなく、幾多のバトルで鍛え上げられた百戦錬磨の戦鬼である
その戦闘力は若い野生のタブンネなど比べ物にならない
チビママンネはこのドレディアが只者でないことは雰囲気と身体からの音で理解していたのだが
判った所で胸にベビ、足元にベビの今の状況では戦うことも子供たちを連れて逃げることもままならない
「ミィィィィィィィィィィィ!!」
「ミィッ?!」
その強さと恐ろしさが分からなかったのだろう。
勇者ンネがドレディアに向かって突進してスカートの部分にポテンとぶつかった
チビママンネへの恩義を心に込めたの渾身の一撃だったが
その突進はドレディアに何のダメージも与えることもなく、逆にチビママンネが驚いて隙を作る結果になってしまった
「ドレディア、鼻っ面に眠り粉だ。赤ん坊にはかけるなよ」
指示を受けた瞬間、ドレディアはチビママンネの眼前へと一足飛びに降り立ち、顔面に頭の赤い花を突きつける
視界が赤い花に覆われた次の瞬間、チビママンネは驚く間もなく意識が暗闇に落ち、ガクンと膝を落とした
花弁からの眠り粉を直に吸わされたのだ
強制的に眠りに落ちてもなお抱いていた小ベビンネを放すことは無かったが、
倒れる直前にドレディアが腕の中からたやすくスポッと引き抜いてしまった
「よし、一応そこのチビにもかけといて。量を少なめにな」
勇者ンネは反動の痛みにもめげず未だに臨戦態勢だったが
眠り粉が振りかけられると風船から空気が抜けるように力が抜け、眠りに落ちてばたりと倒れた
「そいつらを外に連れてって誰かほかの人に渡すんだ。僕はまだやる事があるから後で行く」
ドレディアはこくりと頷き、両脇に小ベビンネと勇者ンネを抱えて準備室の外へ出て行く
その際、植物のひんやりとした肌触りを不快に感じ、小ベビンネが「ヂィィ…」と辛そうなうめき声を上げた
それに反応し、倒れたチビママンネの耳がピクッ、ピクッ、と小さく動く
意識が確かなら何が何でも取り返しに行く所だろうが、寝不足の体に眠り粉は効きすぎた
「あれ?何ざんすかこのドレディアちゃん?」
「キュー、キュルルン」
「あらまおちびちゃんたち、私にくれるざんすか?、ありがとざんす~
チカちゃん、おちびちゃんのケージを持ってくるざんすよ」
こうして小ベビンネとチビママンネは再び離れ離れになり、
タブンネとあそぼうMIMIパラダイス・二日目が幕を開けた
最終更新:2017年08月20日 20:27