タブンネ虐殺教―そんなものが生まれたのはいつだったか…
世間のタブンネに対する冷酷かつ残虐な扱いからタブンネを救おうとする
愛護組織は星の数ほど存在するがタブンネを救えた組織など無いに等しい
その数多の組織の中で理想に絶望し自暴自棄になってしまった者は多い…
そしてある時にこんな教義を掲げた宗教が生まれた
タブンネに幸せな死を、愛をもって天国に送ろう
その宗教は愛護組織の残党達を集めて急激に成長した
愛無き者に殺されるなら愛を持って殺したほうがいい…
狂った愛情は自暴自棄になった者にどう見えたかは
この成長っぷりを見れば一目瞭然だ
集会に集まった信者たちの眼は狂気に満ちていた…
集会ではタブンネの家族が焼き殺されていた
信者は今日もタブンネが救われた、良かったなタブンネとつぶやく
天国で平和に暮らしてね…と泣き崩れる信者もいた
狂ってやがる…
俺は吐き気を催しながらもその光景を見ていた
タブンネ達が焼かれている祭壇の上には聖画が飾られていた
その絵はタブンネ達が天国の様な場所で幸せに暮らす絵だ
有名な宗教画にも劣らない荘厳な絵だ…これがこの宗教の信じる天国か…
身を焼かれながらも子供を抱く父タブンネの鬼の様な形相に
天国を信じたくなってしまう…彼らは殺される必要はあったのか…
「お待ちしておりました」
ようやく向かえが来たな…
俺は幹部と数名の信者に連れられ教祖の部屋に向かった
この幹部は有名なタブンネ愛護組織の代表者だった男だ
幹部の男は何故教祖が俺を呼んだのかを知っているが信者は知らない
教祖は一部の幹部にしか会わないから知らなくても仕方はない
そして俺と幹部は教祖の部屋に通された
何故一般人の俺が教祖なんかと関係があるのか、それはこういう理由だ
「よぉ、久しぶりだな」
「ああ…久しぶりだ…」
「お前を捕まえた日は今でも忘れられないよ」
「そうか…あれから随分時が経ってしまったな…」
「どうしてこうなっちまったんだかな、タブンネよ」
人語を話す色違いのタブンネは何も言わずに
傷だらけの顔を隠すかのようにうつ向いた…
コイツを捕まえたのは20年前、俺がチャンピオンを目指していたガキの頃だ…
偶然草むらから飛び出してきたのがコイツだ
俺は初めて遭遇した
色違いに驚きボールを投げた、結果は一発で捕獲
まさかの結果に驚いたが理由はすぐにわかった
コイツは虐殺を趣味とする者から命からがら逃げてきたのだった…
仲間に庇われながら…そう、すぐ近くに仲間の死体があった
俺は銃声に怯えその場を逃げ出しポケモンセンターに走った
そしてポケモンセンターでタブンネは一命をとりとめた
コイツは目を覚ましときに全てを理解したらしく涙を流した
その時のコイツの表情は今でも忘れられない…悔しさと怒りに満ちた表情を…
俺はこのタブンネと共にイッシュを回った
タブンネは突出した能力の持ち主で俺のパーティの中心になった
またタブンネは旅の最中に人語をマスターした
俺たちは各地のジムを勝ち抜きポケモンリーグに挑んだ
チャンピオンに勝つことは出来なかったが旅は最高の思い出になった
旅の終わりにタブンネは言った、仲間を守りたい…
そして次の日にタブンネは姿を消した
あれから20年、コイツは変わってしまった…
「しかしお前はなんでこんな宗教を…」
「救えなかったんだよ…」
タブンネは語りだした
コイツはタブンネを守るべく戦った
しかし一度守れたとしても他の虐待趣味の者に殺されたり
自分がいないときに自分が守った群れを皆殺しにされたりと
無力さを思い知らされていた
そして気付いてしまったのだ…タブンネは生きていることが苦なのだと…
「お前…」
「生きていることが苦痛なら…せめて愛のある者によって…」
コイツはどれだけの仲間を奪われてきたのか俺には想像もつかない…
「いつかは俺も死なないとな…憎むべく悪魔として、な」
この宗教では傷だらけの
色違いタブンネを悪魔としている
悪魔の死によってタブンネ達の平和は永遠のものとなる
最初からコイツは…
「…死ぬ気だったんだな…」
「俺だけ生き延びるつもりはない…」
タブンネは殺した仲間の数だけ傷をつけた身体を見ながら呟いた
それは紛れもなくあの日の顔だった…
最終更新:2014年07月30日 23:41