子タブンネ兄弟の尻尾

うちでタブンネの親子を飼っている。ママンネと牡の子タブンネ2匹だ。
世間で言われるような性格の悪さを見せるでもなく、とても可愛い。

しかし困ったことが一つだけある。
この兄弟、至って仲はいいのに尻尾に関してだけは自分が一番だと思ってるらしいのだ。
テレビの音楽などに合わせて「ミッミッ♪」と尻尾を振って踊っているうちはいいのだが、
自分の方がうまく尻尾を振れただか、毛並みがいいだか知らないが、何かしら張り合いが始まって、
気がつけば取っ組み合いになっている始末。

タブンネにとっては、尻尾のフサフサ加減は重要なアイデンティティーらしく、
兄ンネも弟ンネも絶対譲らない。ママンネも放置している有様だ。
それでも「ごはんだよ」と木の実を見せると、途端に争っていたことも忘れて、
うれしそうに噛り付く子タブンネ兄弟。いつもそうしててくれれば可愛いのになあ。

所詮子供の争いだし、そのうち分別もつくだろうとあえて見守っていたのだが・・・

ある日、また2匹がお互いの尻尾を見せつけながら、何かしらミィミィ言い争っていたかと思うと、
恒例の喧嘩が始まった。お前らいい加減にしろとか思いつつ、しばらく放っておく。
ママンネは暢気にお昼寝中だ。この光景にも慣れっこなんだろう。
いつも通りやらせておけば、自然とやめると高をくくっていたのだが、今日は違った。

取っ組み合ってゴロゴロ転がり、テーブルにぶつかる兄ンネと弟ンネ。
テーブルの上に置いてあったペットボトルが倒れて、テーブルが水浸しになる。あああああ!
劣勢になった弟ンネは壁際に置いてあった観葉植物の植木鉢によじ登り、
植物にぶら下がって倒した。兄ンネは避けたが、植木鉢の土がばらまかれる。

「こらっ、やめろ!」
俺の制止も聞かず、さらに2匹はその土の塊を投げつけあい始めた。部屋が土まみれになる。
「お~ま~え~ら~!!」
俺はギョッとなる2匹をとっ捕まえ、おでこ同士をごっつんこさせた。
「ミキュウ!」
悲鳴を上げる2匹。もう頭にきたぞ、言うことを聞かない子にはお仕置きだ!

「お前らなあ、そんなに尻尾のことで喧嘩するなら、元を絶ってやろうじゃないか!」
俺は兄ンネを床に腹這いにさせて、背中に5キロのダンベルを乗せた。
「ミィッ!ミヒィッ!」さすがに動きが取れず、手足をバタつかせる兄ンネ。
弟ンネは、俺が自分に味方してくれたと思って「ミヒヒィ♪」と嬉しそうだ。

そして俺は、仕事で使うヘアカット鋏を持ってきた。俺の職業は理容師なのだ。
兄ンネの尻尾を手に取ると、ふんわりした毛をシャキシャキ切り落としてゆく。
タブンネにとっては命の次に大事な尻尾が刈り取られていくのだから、兄ンネはもう大変な騒ぎようだ。
「ミィーッ!ミィーッ!」
涙を流しながら抵抗するが、その短い手足ではダンベルの重さを跳ね返すべくもない。
たちまち兄ンネの尻尾は丸裸になり、それこそ豚の尻尾のように、ちょろんと丸まっていた。

ダンベルをどけて解放してやると、兄ンネは必死で尻尾の毛を掻き集め始めた。
「無駄だっつーの、ほら掃除だ掃除」
俺は掃除機を出して、床に散らばった毛を吸い込む。
「ミィィーッ!?」
兄ンネが持っていた毛も、残らず掃除機の中に吸い込んでやった。
観葉植物の植木鉢に土を戻し、床に散らばった土を掃除している間、兄ンネは掃除機のあとをついて回り、
「尻尾を返して」と言いたげに、ミィミィ泣きながら掃除機をぺしぺし叩いていた。

そしてその一部始終を「ミッヒッヒッ♪」と笑いながら見ている弟ンネ。
おいおい、ひどい奴だな。最大のライバル(1匹だけだけど)を蹴落として高笑いってか。
だが忘れてはいまいな、さっき植木鉢を倒した主犯はお前だぞ。当然お仕置きもグレードアップだ。

俺は商売道具パート2を取り出す。髭剃り用の西洋剃刀だ。それを後ろに隠し持ち、弟ンネにおいでおいでする。
兄ンネを懲らしめた俺が何かくれると思ったのか、弟ンネは何も疑わず嬉しそうに近寄ってきた。
その尻尾を持ち上げて逆さ吊りにする。「ミィミィミィ!」と大慌ての弟ンネとは対照的に、
兄ンネは公平に処罰が下されると思ったらしく、「ミヒヒッ♪」とさっきの弟のように大喜びだ。

では期待に応えよう。俺は隠し持っていた剃刀で、弟ンネの尻尾を切断した。
「ピギャアアア!」ボテッと床に落下し、激痛で転がりまわる弟ンネ。血の跡がポタポタ床につく。
ああしまった、掃除したばかりだったのに。ま、仕方がない。
兄ンネは俺がそこまでやるとは思っていなかったのだろう、ドン引きした表情だ。
しかし弟ンネの痛々しい姿を見ると、俺の足に「やめたげてよぉ!」とばかりにすがりつく。
このあたりはさすがにお兄ちゃんだな。

尻尾を渡してやると、兄ンネは泣いている弟ンネのところへ持っていって、くっつけてあげようとする。
いや、それじゃ無理だって。早いところお母さんを呼びなさい。
兄ンネも自分の手に負えないとわかって、グースカお昼寝中のママンネを揺さぶり起こした。

「ミ、ミィ?・・・ミイイッ!」
寝ぼけ眼のママンネだったが、弟ンネの有様に気づき、慌てふためいていやしのはどうを放ち始めた。
ヒクヒクいっている弟ンネのおしりに尻尾をくっつけて抑えながら、「ミッミッ!」と励ます兄ンネ。
いい光景だ。喧嘩していてもいざという時は助け合うんだな。
俺は弟ンネの特性はさいせいりょくと知っていたので、少々手荒なお仕置きをしてみたが、
この調子なら無事くっつくだろう。

そして予想通り、小一時間で弟ンネの尻尾は元通りになった。ほっと一息ついたママンネだったが、
今度は「何てことするの!」と言わんばかりに俺に「ミッミッ!」と抗議し始めた。
その頭に俺はチョップを食らわせる。
「ミギッ!?」と頭を抑えるママンネに、俺は説教をかます。
「やかましい!大体お前がきちんと喧嘩の仲裁をしていれば、こんなことにはならなかったんだよ!
 尻尾の優劣にどれくらい意味があるのか知らんが、とにかくいちいち争うんじゃねえよ!
 お前も母親ならこいつらの!・・・・・こ、い、つ、ら、の・・・・・」

俺の視線の先では、復活した尻尾を誇らしげに振る弟ンネ、それをうらやましげにみる兄ンネ、
豚の尻尾と化した兄ンネの尻尾を見て吹き出す弟ンネ、カッとなって弟ンネの尻尾に噛み付く兄ンネ、
んでもって取っ組み合いといういつもの光景が展開されていた。おーいお前ら!学習能力ゼロか!?
ママンネはママンネで不服そうな顔をしているし、そろいもそろってこの親子は・・・
ご主人様を本格的に怒らせたようだな!俺の商売道具パート3・バリカンを食らうがいい!!

※ ※ ※ ※ ※

翌日、俺はイッシュ地方の隠れ名所と言われる『タブンネ晒し場』に向かった。
聞き分けのないタブンネが主人によって様々な格好で晒し者にされ、一昼夜見世物にされるという場所だ。
俺が行ってみると、ちょうど我が家のタブンネ3匹が、通りがかった小学生達に笑われているところだった。

「うわー、こいつら丸刈りにされてるじゃん!」「ケンカの罰だって。恥っずかしーい!」
ゲラゲラ笑う小学生達と、「ミィィ・・・」と消え入りそうな声を出して赤面するママンネ&兄弟ンネ。
そう、昨夜俺は3匹をバリカンで全身丸刈りにした上で、ここに磔にしてきたのだ。
トレードマークのピンクと黄色の毛皮が消え去って、羽根をむしられた鳥のような姿と化し、
『ケンカしました』『もうしません』『私はダメな母親です』と書いたプラカードを
首からぶら下げられた哀れな姿の3匹は、ミィミィ泣いていた。
全く・・・今度という今度は反省してくれよ。


きつーいお灸をすえた甲斐はあって、それ以来兄弟が喧嘩することはなくなった。
もっとも、張り合う対象の尻尾はまだ3分の1くらいしか復活していないので、
「早く生えてこないかなあ」とお互い見やっている状態だ。毛皮もまだピンクのまだらだ。
その光景を微笑ましく見守りつつも、バリカンで丸刈りにした感触が忘れられず、
「もう1回くらい喧嘩してもいいぞ」などと密かに思う俺なのであった。

(終わり)
最終更新:2015年02月18日 19:24