タブンネ花火大会

「「「「チギャァァァァ―――――!!!!」」」」

夜空に綺麗な花火が打ち上がると同時に、数百匹のベビンネの悲鳴が木霊する。
約5000発のタブンネ花火が夜空を彩る、夏の名物行事「タブンネ花火大会」。

「「「「ピビャァ―――――!!!!」」」」

打ち上げられる度に「ターブやー!」とあちこちから掛け声もかかる。

打ち上げ花火の形にもいろいろあり、タブンネの泣き顔をデザインしたものや、
殴られているタブンネのAAを再現したものまである。
このような美しく複雑な花火は、どのように作られているのだろうか。


ここはそのタブンネ花火を製造している花火工場。
打ち上げ花火の『火薬』となるタブンネの出産から花火玉の製造までを一手に行っているところだ。

まず最初の「出産ライン」では、磔にされた数十匹のママンネがずらりと一列に並んでいる。
ミィミィ泣いている者も一部にはいるが、ほとんどはゲッソリして声も出ない。
代わる代わる、面白いほど卵を産み落とし、その卵はコロコロ転がって
ベルトコンベアに乗り、次のラインへと運ばれてゆく。

ここでは1日に3回、人工授精のための精液が注入される。
さらに食事の際には、口から流動食が強制的に流し込まれるが、
その流動食には出産を促進する薬品が含まれているので、ママンネ達は何も考える暇もなく、
ただ卵を産み落とす機械と化しているのである。
最初は卵が運び去られる度に泣き声を上げていた者も、3日も経つと涙も枯れ果て、
夜も昼も際限なく自分の股間から落下してゆく卵をぼんやりと眺めるだけになってゆく。

そのコンベアに乗った卵は「養殖ライン」へと流れてゆく。
上から赤外線で温められた卵は次々と孵化し、「チィチィ♪」とベビンネが殻の中から姿を現わした。
生まれたベビンネはそのままタブ舎へと流れてゆき、そこで1週間を過ごす。
狭いタブ舎の中に何万匹も押し込められ「チィチィチィチィ!!」と鳴き続けるが
ここでは何もすることはない。一定時間に餌のミルクを与えられて、それを飲むだけである。
液体火薬をミックスしたミルクを1週間飲ませ続けることにより、全身に火薬を浸透させるのが目的だ。

そして最後は「製造ライン」だ。
目的の色に合わせ、赤色火薬や青色火薬などを与え続けられたベビンネは、
体色までその色に変化しているため、タブ舎の中はかなりカラフルな光景になっている。
そこから花火製造担当者が必要な色のベビンネを必要数だけピックアップして、運んでゆく。

コンピュータで発破の方向・描きたい図形などが精密に計算され、
三尺玉の枠組みの中にベビンネを配置してゆく。
勝手に動かれては計算が狂うので、手足を縛ってから枠組みに糊で貼り付けるという地道な作業が行われる。
ここだけは昔と変わらず手作業に頼らざるを得ない。
チィチィ泣き喚くベビンネを約100匹ほど内部に収め終わったら、外側から皮を張って完成だ。

この皮は、パパンネから剥いだ毛皮を使用する。
カイリキーやドテッコツに毛皮を引き剥がされるパパンネは「ミギャァァァ!!」と悶絶するが、
構わずに縄で縛り上げてつながれ、液体火薬のプールに突き落とされる。
花火大会の掉尾を飾る作品に使用するためである。

こうした手間隙をかけた工程を経て作り上げられた花火も、その使命を終えるのは一瞬である。
チィチィ叫ぶ声が聞こえ、外の皮がもぞもぞ動く三尺玉が筒に入れられ、電気点火のコード経由で火がつけられる。
鋭い音を立てて上空へ飛んでいった花火玉は、ベビンネ達の絶叫と共に破裂し、夜空に見事な花を咲かす。
体内に十分火薬が染み渡っているベビンネは、一瞬で木っ端微塵となって鮮やかな炎とともに燃え尽き、
儚く灰となって夜風に吹き飛ばされてゆくのである。


「「「「「「チビィィィ―――――!!!!」」」」」」「「「「「「ヂヂャァァァ―――!!!!」」」」」」
夜空に5000発、50万匹ほどのベビンネの悲鳴が轟き、花火大会もクライマックスを迎える。
最後を締めくくるのはパパンネとママンネ達によるナイアガラ花火だ。
近くの山の斜面には、幅100メートルほどの間に、5~6匹くらいずつ数珠繋ぎにされたタブンネが
数十列に渡って吊るされている。

皮を剥がれたパパンネや、花火シーズン終了に伴い用済みとなったママンネ達は、
液体火薬のプールに漬けられていたおかげで半死半生だ。お互いの配偶者を探す気力すらない。
そしてリモコンで点火されると、100メートルの導火線にバチバチと火花が一瞬で走り、
その下方に吊るされたパパンネとママンネ達に一気に引火する。

「「「「「ミギャグギャゲガギャバァァアアァアァァァァ!!!!!」」」」」
数百匹の絶叫と共に、炎に包まれたタブンネ達の姿は、やや距離の離れた花火会場からもはっきり見える。
見事なタブンネナイアガラ花火の完成だ。
最初は鮮やかな火花が激しく揺れるのがわかるが、しばらくすると大人しくなり、
後は炎を上げて燃えるだけとなると、さながら山焼きの様相を呈する。
そこで会場からは自然と拍手が沸き起こり、フィナーレとなるのである。

夏の夜に飛び散る50万匹。また、来年。

(終わり)
最終更新:2015年02月18日 20:26