秘技伝授 ◆cNVX6DYRQU



「おいおい。あいつ、あの恐そうな爺さんを跪かせてるよ。え、マジに将軍なの?」
「何だ、まだ信じてなかったのか、銀さん?」
足利義輝と、その前に平伏している塚原卜伝を盗み見ながら、坂田銀時剣桃太郎はこそこそと囁き交わす。
「しかし、義輝さんが本物だとしたら、あの爺さんも本物の塚原卜伝って事になるのか……」
名だたる剣聖との出会いに、桃太郎は覚えず好戦的に目を輝かせる。
「有名な御仁か?」
「ああ。塚原卜伝と言えば、史上最強と評価する奴もいる、高名な剣豪だぜ」
桃太郎の言葉に、信乃は若干の警戒をもって義輝と卜伝を見守る。
そこまで高名で、しかも義輝が師と崇める程の人物であれば、相当の剣客である事は間違いあるまい。
仲間となってくれれば心強いが、それに関して、信乃には懸念が一つ。
義輝は今迄、信乃と共に主催者に対抗する仲間を募って来たが、師に関しては、勧誘する事に積極的な素振りは見せなかった。
手合わせをして己の剣技の進捗を見てもらうという事ばかり言い、協力要請はそれに付随して行うといった感じだろうか。
とすると、首尾良く出会った二人がこれからまずする事は……

「異なる時代から?」
卜伝は、再会した弟子義輝の口から出た突飛な言葉に眉を顰める。
「うむ。間違いあるまい。この場には、遥かに先の時代、或いは過去より来た剣客が多く居る」
もしかしたら書の中にある物語の世界から来た者すら居るかもしれない、とは義輝も流石に言い控えた。
卜伝にしてみれば、義輝の言は荒唐無稽に聞こえるが、確かにそれが事実ならば死んだ筈の義輝が生きている説明も付く。
廻国修行で全国の武芸流派を見聞し尽くした筈の卜伝が、見た事のない技を使う剣士とこの島で幾人も出会った事も。
そこで、卜伝はひとまず、義輝の言葉を信用する事とする。
もっとも、義輝の言葉の真偽がどうあろうと、卜伝の行動は特に変わる筈もないのだが。

「卜伝、そなたはこれからどうするつもりだ?」
「東西の、いや、公方様の御言葉が真ならば古今未来から一廉の剣客が集うこの場で、剣士たる者が為すべき事は一つ」
卜伝の言葉に、義輝はやはりと嘆息しつつ頷く。
三好松永の輩でなくとも、他人に強制されて殺し合うなど義輝には我慢ならない事だが、卜伝にはそうとも限らない。
聞くところによれば、若き日の卜伝は貴人権門の気まぐれで武芸者との真剣勝負を求められる事が幾度もあったとか。
だが、卜伝はそれを厭うどころか逆に好機とし、全ての立ち合いに勝利して己の剣と名声を高めたという。
そんな経験があれば、この御前試合の受け止め方も義輝とは違っていて当然。
義輝も、この師に対して意に染まぬ企てに協力させる事ができるとも、そうしたいとも思っていない。
「公方様は、如何なされますか?」
「この御前試合を企てた者共を成敗致すつもりだ」
だから、下手な勧誘などせず、ただ己の決意のみを語る。
「公方様なら、そうでしょうな」
卜伝もまた、他者の意のままに動く事を決して肯じ得ない義輝の気性は理解しており、了解の意を示す。
「ならば、最後に一手だけ、伝授致しましょう」
平伏の体勢から卜伝が剣を突き出したのを見て、咄嗟に駆け出そうとする銀時・桃太郎・信乃の三人だが……
「手出し無用!すまぬが、二人だけで立ち合わせてくれ」
「かまいませぬぞ。兵は将にとっての剣であり、良い兵を集め従えるのも将軍には欠かせぬ技。
 公方様の集めた兵共が使い物になるや否や、見て進ぜよう」
「あの者達は余の配下ではないし、何より、余は卜伝に一個の剣士として挑みたいのだ、頼む」
最後の「頼む」は卜伝よりも仲間達に向けた言葉。彼等はやむなく立ち止まる。
「けっ、むかつく爺だぜ。俺達をその他大勢みたいに言いやがって」
銀時が毒づくが、信乃は卜伝の立ち居振る舞いから、その言葉のもう少し別の側面を読み取っていた。
「あの老人、口で言う程には俺達の事を軽視してはいないようだ。
 先の言葉も、俺達が義輝の家来ではないと知った上で、俺達の加勢を防ぐ為に敢えて言ったのかもしれない」
「なるほど、評判通りの食えない爺さんって訳か」
桃太郎などは卜伝の巧妙な兵法に更に闘争心を刺激された様子だが、義輝の思いを尊重して自重する。
「何にしろむかつく事に変わりはねえな。おい、手出しはしねえから、刀はこいつを使え!」
銀時が物干竿を抜いて素早く義輝に投げ渡す。
義輝も、木刀でこの大剣豪に立ち向かう無謀は知っているので、その好意は素直に受けた。
「すまぬ。では卜伝……参るぞ!」

正眼に構えた二人の剣が交わる……と見えた瞬間、義輝が動く。
剣尖を抑え込もうとして来る卜伝の剣を、己の剣をその周りに旋回させる事で外しつつ、電光の突きを放つ。
「さすがは卜伝」
突き出された物干竿の切っ先は、卜伝の身には届かず、その袂を僅かに裂くのみでかわされていた。
義輝は感嘆の息を吐く。卜伝との再会の日の為に開発したこの技も、やはり卜伝から一本を取るには足りなかったかと。
だが、実は感嘆していたのは卜伝の方も同じ。
義輝の剣は、数年前に会った時に比べて、明らかに長足の進歩を遂げていたのだ。
義輝が卜伝よりも前の時代から来ているらしい事を考えると、その進捗の速度は凄まじいとすら言える。
これだけの技がありながら、松永の軍勢如きに討たれるとは、信じられなくなる程の腕前。
いや、或いは、この進歩の多くは、御前試合が始まってからの戦いの中で身に付けたものなのだろうか……
どちらにしろ、義輝の素質はやはり相当の物。
足利将軍家などに生まれていなければ、卜伝の後継者にも成り得たかもしれない。
これだけの弟子を、万が一にも妖術師如きに討たせる訳にはいかないと、卜伝は気合を入れ直して最後の教授を始めた。

暫し睨みあった後、卜伝はいきなり駆け出すと、城の中に駆け込む。
長大な物干竿に対するのに、室内に入る事でその間合いの利を枷と為そうという事か。義輝もそうはさせじと後を追う。
城の中に入っても、これだけ大きな城ならば、物干竿を存分に振るえるだけの広さを持っている部分も多くある。
その領域に居る間に追いつこうとする義輝だが、卜伝に上手くかわされて間を詰められない。
走力ならば若い義輝の方が断じて上回っているのだが、問題は卜伝の知識。
卜伝の学んだ神道流は剣術のみならず、あらゆる武器に加え、軍配術や築城術をも含む総合武術。
そして、卜伝はそれら全ての技を極め尽くしている。
無論、義輝とて征夷大将軍として軍略を修めてはいるが、城に関する知識では卜伝が上回っているようだ。
その知識を活かし、卜伝は城の構造を読み切り、無駄のない計算され尽くした動きで進んで行く。
やがて、遂に卜伝が自ら足を止めた。
そこは立ち並ぶ柱や低い鴨居が邪魔となり長刀を振るうには難がある、卜伝にとっては絶好の地形。

地の利を味方に付けて義輝に対する卜伝だが、愛弟子の構えを見て表情を変える。
剣を下段に付けたその構えは、明らかに卜伝の教えた新当流ではなく、新陰流のもの。
足利義輝は卜伝だけでなく上泉伊勢守にも師事して新陰流を学んだのだから、それも不思議ではない。
だが、上泉伊勢守と言えば、己を史上最強の剣士と堅く信じる卜伝が意識する数少ない剣客の一人。
その伊勢守に伝授された技を卜伝に用いようとするとは……
思わず地形を盾にするのも忘れた卜伝が豪剣を繰り出すと、義輝は紙一重でかわして素早く身を転じた。
死角からの奇襲に備えて正眼の構えを取る卜伝。
多少は広い空間に身を移した義輝も、即座に攻勢には出ずに、向き直ると同時に正眼に構えて卜伝と剣を交える。
次の瞬間、二人は互いに剣を四半回転させ、相手の剣を正中線から外そうと鬩ぎ合う。
だが、義輝は筋力で勝る上に、身を転じた瞬間に握りを変えて剣で相手の押し退ける力を溜めていた。
自身の剣の位置を保ったまま卜伝の剣を外し、素早く構え直して必殺の一撃を放つ。
卜伝も同様に動くが、競り勝って正中線の位置を保っていた義輝の有利は、剣の重量による不利を補って余りある程。
一瞬早く義輝の物干竿が唸り……空を切る。
愕然として動きを止めた義輝に、一瞬遅れて振り下ろされた卜伝の剣が突きつけられた。
「おわかりか?」
「これは……妖術か?」
卜伝は頷く。
香取神道流はただの武術ではなく、忍術や陰陽術・方術・風水・陀羅尼など、魔の領域にも深く踏み込んだ流儀。
それを学んだ卜伝自身がこれらの術を使えるという訳ではないが、術の効果を見破るくらいの事は十分に可能。
卜伝の眼から見ると、この城の中には時空の歪みとでも言うべきものが存在していた。
基本的には殆ど問題にもならない程度のものだが、この一角……ここでだけは歪みが相乗し、無視できない程になっている。
具体的には、確実に卜伝を捉える筈だった義輝の剣が、軌道を逸らされて目標を外してしまうくらいに。
「これを為した者は、おそらくは法師か居士」
卜伝は推測する。城を覆うこの邪気は、法力の類によるものだと。しかも……
「主催者には外道の術者が付いているようですな。この歪みはおそらく、外道の術の使用に付随して生まれた産物」
「外道の法師か居士……話に聞く立川流の類か?」
外道の居士と言われて果心居士を思い出す義輝だが、その宗派、またそもそも真の仏徒なのかも、噂は語っていなかった。
「いえ。それら左道邪教と呼ばれる者共も、仏を崇め、仏の力で事を為そうとする点においては仏道の中に居ります。
 この場合の外道は、仏を信じながら仏を拒み、仏道を外れし者。左様な者は、必ずその根底に歪みを抱えておる筈」
卜伝は言う。外道とは、通常は道に外れた願いや、道に則っていては得られぬ力を望んだ者が堕ちるもの。
だが、仏道の場合、仏尊とは凄まじく多様な存在であり、その力・慈悲は無辺。
確かに仏の教えには厳格な法が含まれるが、悪人成仏の教えに見られるように、仏の力と寛容さは容易く法を超越する。
仏道の中には男女或いは稚児との性愛で仏と合一せんとするもの、殺戮によって悟りに近付かんとする教えすらあり得るとか。
そして、法力を究めた者は、或いは如来と成り、或いは根源仏と合一し、無尽蔵な力を振るえるという。
つまり、法師や居士は、仏道の中で右道左道を選べば如何なる望みでも叶えられる訳で、わざわざ道を踏み外す必要は皆無。
にもかかわらず外道の法力を使うからには何らかの歪みを抱えている筈であり、此処の時空の歪みもその表れであろうと。

「公方様。法力破りの技を伝授する暇はありませぬが、公方様ならば、必要な時が来れば自ずと使えるようになりましょう。
 剣は全ての基にして、外道は必ず正道を恐れるもの。ただそれだけをお忘れあるな」
観念的な言い様ではあるが、実際、卜伝の剣は時空の歪みなどものともせず、精確に義輝を襲っていた。
それを見ただけでも……剣術が妖術の効果に打ち克つ事ができると確信できただけで、義輝にとっては大きな収穫だろう。
言うべき事を言い終えると、愛弟子への最後の教授を終えた卜伝は一礼して剣を納め、立ち去る。
二人の戦いを見守っていた義輝の仲間達は一顧だにせず……少なくとも、関心を示した様子を表には出さない。ただ、
「今は去り申すが、次にお会いした時には、公方様等の御首級、頂戴致すでしょう。それまで御健勝で」
そんな不吉な言葉を残して。


【ほノ参/城内/一日目/午前】

【塚原卜伝@史実】
【状態】左側頭部と喉に強い打撲
【装備】七丁念仏@シグルイ、妙法村正@史実
【所持品】支給品一式(筆なし)
【思考】
1:この兵法勝負で己の強さを示す
2:勝つためにはどんな手も使う
【備考】
※人別帖を見ていません。
※参加者が様々な時代から集められたらしいのを知りました。

【足利義輝@史実】
【状態】打撲数ヶ所
【装備】備前長船「物干竿」@史実
【所持品】支給品一式
【思考】基本:主催者を討つ。死合には乗らず、人も殺さない。
一:正午に城で新撰組の長と会見する。
二:信綱と立ち合う。また、他に腕が立ち、死合に乗っていない剣士と会えば立ち合う。
三:上記の剣士には松永弾正打倒の協力を促す。
四:信乃の力になる。
五:次に卜伝と出会ったなら、堂々と勝負する。
【備考】※黒幕については未来の人間説、松永久秀や果心居士説の間で揺れ動いています。
犬塚信乃が実在しない架空の人物の筈だ、という話を聞きました。

【犬塚信乃@八犬伝】
【状態】顔、手足に掠り傷
【装備】小篠@八犬伝
【所持品】支給品一式、こんにゃく
【思考】基本:主催者を倒す。それ以外は未定
一:義輝を守る。
二:義輝と信綱が立ち合う局面になれば見届け人になる。
三:毛野、村雨、桐一文字の太刀、『孝』の珠が存在しているなら探す。
【備考】※義輝と互いの情報を交換しました。義輝が将軍だった事を信じ始めています。
※果心居士、松永久秀、柳生一族について知りました。
※自身が物語中の人物が実体化した存在なのではないか、という疑いを強く持っています。
※玉梓は今回の事件とは無関係と考えています。

【剣桃太郎@魁!!男塾】
【状態】健康
【装備】打刀
【道具】支給品一式
【思考】基本:主催者が気に入らないので、積極的に戦うことはしない。
1:銀時、義輝、信乃に同行する。
2:向こうからしかけてくる相手には容赦しない。
3:赤石のことはあまり気にしない。
※七牙冥界闘終了直後からの参戦です。

【坂田銀時@銀魂】
【状態】健康 額に浅い切り傷
【装備】木刀
【道具】支給品一式(紙類全て無し)
【思考】基本:さっさと帰りたい。
1:危ない奴と斬り合うのはもう懲り懲り
2:新八を探し出す。
※参戦時期は吉原編終了以降
※沖田や近藤など銀魂メンバーと良く似た名前の人物を宗矩の誤字と考えています。


義士達に更なる試練を 塚原卜伝
義士達に更なる試練を 足利義輝
義士達に更なる試練を 犬塚信乃
義士達に更なる試練を 剣桃太郎
義士達に更なる試練を 坂田銀時

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最終更新:2011年03月30日 20:19