選んだ道 ◆cNVX6DYRQU



柳生宗矩と睨み合う明楽伊織・倉間鉄山・赤石剛次の三人。
三人の精神性には微妙な差があるが、宗矩程の、しかも主催の一味と思しき剣士と遭遇すれば、望む事は大体同じ。
「俺が行くぜ」
先んじて前に出ようとする赤石だが、鉄山はそれを止める。
無論、負傷し、気絶から回復したばかりの赤石の状態に対する懸念などはおくびにも出さない。
「待て。あの者からは主催者の情報を聞き出さねばならん。君の豪刀では、その前に殺してしまうだろう」
「そういうあんたも、相当の豪剣を使いそうに、俺には見えるがな」
そんな事を言い合う二人だが、いきなり響いた激しい打撃音に慌てて振り向く。
明楽が、おこりも見せずに宗矩に殺到し、仕掛けたのだ。
「使え!」
先制の一撃を防がれて素手で宗矩と対峙する事になった明楽に、鉄山が慌てて剣を投げ渡す。
「ちっ、先を越されたか」
赤石にしてみれば、既に戦闘が始まってしまった以上、それに介入するのは無粋の極み。
渋々ながら、明楽の闘いを見守る事とする。
一方の鉄山は、一騎討ちへのこだわりをそう強く持っている訳ではなく、必要とあれば明楽に加勢するつもりだ。
しかし鉄山は、多対一の戦いでは、多数の側にチームワークがなければ数が逆に枷となる事をよく知っていた。
よって、彼もまずは二人の戦いを見守り、明楽の戦い方を学んで加勢する場合の方法をシミュレートする。
二人の見詰める中、明楽は激しく宗矩に攻撃を仕掛けて行く。

「やるな」
初撃をいなされた明楽は呟いた。
明楽の拳は宗矩の柄に受けられ、同時に出した本命の蹴りも、腰に差されたまま左手で操られる鞘に阻まれる。
「使え!」
宗矩が蹴足をうまく弾いて追撃を封じ、跳び離れると同時に、鉄山が刀を投げ渡して来た。
宗矩のような正統派の剣士には拳法で向かうのが有効かと思ったが、あの捌きを見るに、確かに無手では厳しそうだ。
明楽は刀を受け取……ろうとした瞬間、宗矩が斬り込んで来る。
咄嗟に跳躍してかわしつつ刀を取る明楽。
宗矩は空中に居る明楽に逆風の太刀で仕掛けようとするが、明楽は鞘を飛ばしてそれを封じ、飛び蹴りから接近戦を挑む。
刀と肉体による明楽の攻めを防ぐ宗矩だが、やはり体術では明楽が優っているようだ。
このまま格闘の距離を保って勝負を付けようと、明楽は牽制の拳を放ちつつ、必殺の蹴りの準備を整える。
「!?」
牽制の拳を宗矩が甘んじて受けるのを見た明楽は、慌てて後ろに跳ぶ。
今の一撃は牽制とはいえ、まともに受ければそれなりの痛手にはなる筈。
それを承知で敢えて防がなかったとなれば、宗矩の狙いは一つ。
案の定、宗矩は拳撃の勢いを利用し後進して距離を取りつつ剣を振り下ろして来る。
反応が早かったお蔭で致命傷は防げそうだが、完全にかわしきるのは不可能。
覚悟を決める明楽だが、宗矩はその身体に届く寸前に剣を止めると、距離を取って構え直す。
致命傷にならない程度の一撃は、放つ気も防ぐ気もないという事か……
その剣、息遣い、眼差し……宗矩からは、いささかの乱れも歪みも感じられない。
最初に白洲で見せたあの無惨な行いさえなければ、尊敬できる剣客だと思っただろう。
「何で……あんた程の人が、こんな事に与する!?」
明楽は、思わずそう叫んでいた。


(丸目殿のお蔭だな)
体術を交えた明楽の攻めをどうにか防ぎながら、宗矩はそんな事を胸中で呟く。
嘗て、上泉信綱の弟子でタイ捨流開祖の丸目長恵が、新陰流の正当な後継の座を賭け、宗矩に挑んで来た事がある。
その時、宗矩はうまく長恵をおだてて帰したのだが、当然、説得に失敗して立ち合う事になる可能性もあった。
タイ捨流は拳法の技法を多く取り入れた流派。よって、宗矩も拳法に対応する法を幾つも考案し、学んだのだ。
実際には、運良くと言うべきか、残念ながらと言うべきか、宗矩の説得が成功し、タイ捨流と柳生の対決は実現しなかったが、
学んだ技は、今こうして、御庭番の体術に対抗するのに活きている。
(だが……)
体術に関して言えば、明楽の技は、おそらくは丸目長恵をも上回っているだろう。
明楽の蹴りを受けた腕に衝撃が響く。このまま闘い続ければ明楽の体術を捌き切れなくなるのは確実。
事態を打開せんと、宗矩は明楽の一撃を敢えて防がす、その衝撃を利用して間合いを開く。
「!?」
宗矩は後進しつつ剣を振り下ろそうとするが、明楽の素早い反応を見て動きを止める。
拳法家らしく明楽の身体は頑健で、中途半端な攻撃では致命傷を与えるのは難しいだろう。
そして、忍びに対して致命傷にならない程度の傷を負わせるのは、無意味どころか手負いの獅子としてしまう危険さえ孕む。
実際、着衣の下から覗く明楽の身体には無数の傷跡が刻まれ、彼が幾度も手傷を負いながら激戦を生き延びてきた事が伺える。
まして、宗矩の今の状況では、万全の状態で全力の剣を振るえる回数は限られているのだし……

「何で……あんた程の人が、こんな事に与する!?」
「お主にはわかるまいな」
明楽の叫びに宗矩はただそう返す。
明楽伊織が生きたのは、幕府の土台は揺らぎ、海外列強の手が日本にまで伸び、危機感が全国を覆っていた時代。
多くの者がそれぞれの志に従って国を救わんとして相争い、明楽の住む江戸もその渦中に巻き込まれることになる。
倒幕の志士達は御用盗を送って江戸の治安と幕府の権威を打ち砕かんとし、その性質から御用盗には人格の破綻した外道も多数。
これに対し、明楽は、列強から日本を守る為に腐った幕府を倒し、強い国を作り直さんとする志士達の大義を一顧だにせず、
あくまでも目に入る人々を守り、眼前で行われた非道を憎むという、いわば小義の為に闘い続けた。
この点、大義を捨てて小義を取って来たという点では、宗矩も明楽と同じ。
宗矩は、柳生家の興隆という、父が果たせなかった志を実現させるという小義の為に人生を捧げ、
その為に、互いに切磋琢磨する事で剣技を発展させるという、剣士ならば最も優先すべき大義を曲げた事が幾度ある事か。
だが、共に大義を捨てて小義に生きながら、宗矩は明楽のようには己の生き方を確信できず、思い悩んで来た。
更に、出世するにつれ、幕臣として天下の平安を守るべき大義と、柳生の当主として家来や弟子達を守るべき小義も生まれる。
これら絡み合う義の狭間で懊悩していた宗矩は、それ故に果心居士の誘いに乗った。
それまでの軌跡や心の綾は、説明しても明楽には理解されないだろうし、そんな事を理解させる必要もない。
今の宗矩はただの剣士、故に必要なのは、互いに剣技を披露し、それを理解し合う事のみ。
宗矩は、心の内を語る代わりに、今の己に可能な最高な剣を見せる事を決め、まずはその前に果たすべき義務を果たす事にする。

「何だって?」
宗矩が小声で何事かを呟き、明楽が聞き返す。
「その場所に、我等の主が居る場へ通じる入り口がある」
いきなり主催者の核心に迫る情報を教えられて訝しむ明楽にかまわず、宗矩は言葉を継ぐ。
「これが、わしを討った者への褒賞。討てずに死ねば、今の言葉は誰にも伝わらぬ」
それだけ言うと、宗矩は剣を構えて前に出る。

宗矩の言葉が本当ならば、これは是が非でも持ち帰り仲間に伝えなれければならない情報だが、果たして真か嘘か。
ただ一つ言えるのは、あの言葉が事実だとすれば、宗矩は明楽に決戦を挑むつもりだという事だ。
先程のやり取り、初めの一言は宗矩が声を潜めていた為に鉄山達には聞こえなかっただろうが、それ以降は聞こえていた筈。
だとすれば、明楽は何も宗矩を倒さずとも、あの数語を叫べば、褒賞とやらを仲間達に渡す事が出来る。
或いは、忍びの体術を持ってこの場を逃れ、主催者を目指しても良い。
なのに明楽に主催者の居所を伝えたという事は、宗矩は明楽に叫ぶ暇も逃げる余裕も与えるつもりはないという事。
逆に、あの言葉が嘘だとすれば、明楽にそう思わせ、引っ掛けるのが宗矩の目的というところか。
だとすれば、これからの宗矩の行動を見極めれば、その言葉の真偽も見分けられる公算が高い。
明楽もまた構えを取り、宗矩の動きに対応しようとする。

そして、二人は同時に地を蹴った。
宗矩は無論、明楽にとっても、宗矩が本気で勝負に出た場合、逃げ腰で掛かればあっさり斬られる事になるのは明らか。
二人は全力を込めた一撃を、真っ向から打ち込み合う。
膂力では明楽が優るが、その力を剣に乗せる技術においては宗矩に一日の長がある。
その為、二人の剣はほぼ……いや、完全に同時に相手の身体に届く、即ち相討ち。そう見えた瞬間……
明楽きいきなり刀を引くと、背後に居る鉄山達に投げ渡す。
次の瞬間、無手になった明楽を襲う宗矩の剣。
明楽は防御の構えを取るが、素手で宗矩必殺の剣を防ぎ切れる筈もなく、その効果は死を一瞬先に伸ばす事のみ。
だが、明楽が欲しかったのはその一瞬。それを利用し、明楽は思い切り叫ぶ。
「にノ参にある、道祖神の下だ!」
それだけを言い残し、明楽伊織は宗矩の剣の下に斃れた。

【明楽伊織@明楽と孫蔵 死亡】
【残り四十六名】


明楽が倒れたのを見て、即座に進み出ようとする赤石を、鉄山が留める。
「まだ邪魔をするつもりか?」
赤石が睨むが、鉄山は動じる事なく宗矩を示す。
「君の性格からして、手負いの相手には全力を出し切れんだろう」
確かに、剣を持つ右手の袖口から垂れる血は、宗矩が腕に浅からぬ傷を追っている事を表していた。
この傷の元は、明楽が鉄山の投げた刀を取った直後、牽制の鞘に隠して飛ばした隠し小柄によって受けたものだ。
動脈を掠める、即ち、そのままならば大した傷ではないが、全力を込めて腕を振るえば傷が広がる絶妙な位置への傷。
戦いの最中、明楽に手傷を負わせる機会を得た宗矩が寸前で剣を止めたのは、その一撃で腕の傷が重くなるのを案じた為もある。
そういう訳で、小柄の傷はいわば宗矩の剣を封じる枷として働いていたのだが、最後の瞬間、宗矩はそれを無視した。
傷を構わず渾身の一撃を放ち、結果として明楽を討てたが、代わりに腕の動脈が破れ、これでは存分には剣を振るえまい。
鉄山が推測した通り、そのような者を相手にするのは赤石の趣味とは異なる。
「君は、城下に戻って仲間を募り、明楽殿の言っていた道祖神に向かってくれ。私もあの者の相手をしてから後を追おう」
「……」
にノ参にある道祖神の下……それが、宗矩の言っていた、主催者に続く道の入り口である事は明らかだ。
赤石は無言で踵を返し、歩み去る。
完全に納得した訳ではないが、明楽が遺した情報を活かし、一刻も早く主催者を討つのがあの漢への最良の供養なのは事実。
今の戦いを見て、胸の奥に生まれた炎は、非道な主催者にぶつける事で晴らすとするか。

【へノ弐 森の中/一日目/午前】

【赤石剛次@魁!男塾】
【状態】腕に軽傷
【装備】木刀
【道具】支給品一式
【思考】基本:主催者を斬る
一:にノ参の道祖神に向かう
二:刀を捜す
三:濃紺の着流しの男(伊烏義阿)が仇討を完遂したら戦ってみたい
※七牙冥界闘・第三の牙で死亡する直前からの参戦です。ただしダメージは完全に回復しています。
※武田赤音と伊烏義阿(名は知りません)との因縁を把握しました。
※犬飼信乃(女)を武田赤音だと思っています。
※人別帖を読んでいません。



鉄山は、赤石が自分の言葉に従って立ち去ってくれた事に息を付き、宗矩に刀を向ける。
宗矩の右腕の状態からして、全力で剣を振るう事はまず不可能な筈。
無理に全力の剣撃を放てば傷が悪化し、二、三振りで腕が使い物にならなくなるだろう。
だが、鉄山はその事で宗矩を侮るつもりはない。
何故ならば、宗矩は既に死を決した、故に心に一切の怖れを持たない剣士なのだから。
だからこそ、明楽の後に二人の強敵が控えている事を知りながら、腕の傷を慮る事なく戦う事が出来たのだ。
あの戦いの最後の瞬間、明楽との相討ち必至と見られる状況で、剣に毛一筋の動揺も表さなかったのもこの覚悟ゆえ。
対する明楽は、相討ちになれば主催の居所を知る者が居なくなる為、その剣にごく僅かな躊躇が生まれた。
達人同士の決闘では、ほんの僅かの動揺が勝負を分ける決定的な要素になる事が往々にしてある。
己の中の微かな躊躇いを発見した明楽が、瞬時に勝負を見切った事で、今回は鉄山達に情報と刀を遺す事が出来たが……
鉄山が赤石と宗矩の勝負を妨げたのも、宗矩のこの覚悟を恐れた為。
先の伊良子清玄との戦いでわかるように、赤石もまた死を恐れず、命を捨ててでも敵を倒さんとする勇士。
このような剣士同士が戦えば、その帰結は高い確率で相討ち。
そんな形で赤石を死なせる事を肯んじ得なかった為、鉄山は宗矩との勝負を自身で引き受けた。
である以上、鉄山自身もここで命を落とすつもりはない。宗矩がどれだけ手強い武士であっても。
鉄山は前に出てへノ壱に進入し、宗矩に対して剣を構える。

だがそれにしても、宗矩は、そして主催者達は何を考えているのか。
道祖神の下に主催者に通じる道があるという言葉、あれは、ただ明楽を惑わす為に言い放った出鱈目ではない筈。
明楽が命を捨ててまでそれを伝えたのは、生と死の狭間に共に身を置き宗矩を見定めた上で、真実だと見極めたからだろうし、
彼の眼力は十分に信頼に値するものだったと、鉄山は考えている。
だとすると、主催に通じる重要な情報をあっさりと漏らし、それを知る赤石が去るのを止めようともしない宗矩の態度は奇妙だ。
参加者に攻められる事も主催者の計画の内なのか、或いは、宗矩が主催者に完全には同心していないのか……
それをも見定めんと、鉄山は刀を正眼に置いたまま、ひたと宗矩を見据えた。

【へノ壱 森の中/一日目/午前】

【倉間鉄山@バトルフィーバーJ】
【状態】健康
【装備】 刀(銘等は不明)
【所持品】支給品一式
【思考】基本:主催者を打倒、或いは捕縛する。そのために同志を募る。弱者は保護。
一、柳生宗矩の思惑を見極め、倒す。
二、にノ参の道祖神から主催を目指す。
三、十兵衛、緋村を優先的に探し、ついで斎藤(どの斎藤かは知らない)を探す。志々雄は警戒。
四、どうしても止むを得ない場合を除き、人命は取らない。ただ、改造人間等は別。

【柳生宗矩@史実?】
【状態】腕に重傷、胸に打撲
【装備】三日月宗近@史実
【所持品】「礼」の霊珠
【思考】
基本:?????
一:へノ壱に侵入した者を斬る
二:?????




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最終更新:2013年03月14日 20:00