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Identical ◆sGQmFtcYh2 sage New! 2010/07/12(月) 20:09:55 ID:fkC8pKl3
「兄ちゃんになんてことするんだよー!」
三華は俺をガッチリと抱きしめたまま、目に炎を宿していた。
荒くなっている鼻息が頭に吹きつける。
「……え?あなたは……?」
可哀そうに。伴子さんはたった今、何が起こったのか分からないといった表情をしている。
かく言う俺も何が起こったのか分からなかったが。
「アタシは兄ちゃんの妹だ!お前こそ誰だよ!」
「わ、私は田中伴子という者であって……その……」
伴子さんが押されている。まぁあの
姉さんや二奈を打ち負かした三華だ。伊達じゃない。
「お、おい優二、誰だよその人?今お前の事、兄ちゃんって……」
「あ、ああ。こいつの名前は三華といって、俺の妹だ」
「「「「「えーっ!」」」」」
二種類の反応が返って来た。
拓朗からは「まだ妹がいたのか!?」、その他の人たちは「この人が噂の妹!?」。
「そんなことより、お前!さっき兄ちゃんと何してたんだよ!」
くそっ!せっかく話題がそれたかな?と思ったのに、三華め、ちゃっかりと軌道を修正してきやがるな。
「な、何って……」
「キスしてただろ!?」
「「!」」
な、何を言うんだ、キスなんかしてないだろ!?確かにあの場面を見た人は十中十そう思うだろうけど!
「き、キスなんかしてねぇよ!」
「兄ちゃんも嘘つくなよ!アタシはこの目でちゃんと見たんだよ!兄ちゃんとアイツがキスしているところを!」
俺を締め付ける力がさらに増す。
このままでは埒が明かない。それに……このままだと本当に伴子さんにシスコンのレッテルが貼られてしまう。
「ってか、その前にどうしてお前がここにいるんだよ!?」
そうだ!汚名を返上する云々よりも、まずはどうして三華がここにいるんだ!?
「姉ちゃんが言ったんだ!兄ちゃんが女の人のいるところに遊びに行ったって!」
「どっちだ!?どっちの姉ちゃんだ!?」
「一葉姉ちゃんの方!」
ふふふざけんなよ!よりにも寄って一番ややこしい三華を送りつけやがって!
「……三華、兄ちゃんの言う事……よ~く聞けよ?」
「え?う、うん」
「お前は姉さんに騙されたんだ。この女の人達はお友達だ。決してお前の想像しているような関係じゃない」
「で、でもさっき!」
「あれはただ鼻の頭を当てていただけだ。キスじゃない。それをキスと勘違いしてしまったのは……姉さんによる心理トリックだ」
「心理……トリック……?」
「そう。姉さんの使った『女の人、遊び』という組み合わせてはいけない禁断ワードによって、お前は錯覚してしまったんだ」
「……」
「そうだろ?だってただ友達と鼻を当てて遊んでいただけなのに、お前はそれをキスと勘違いしてしまった。……違うか?」
「違わない……兄ちゃんの言うとおりだ……」
「だろ?だったらお友達に謝りなさい。お前の勘違いで傷ついたかもしれないからな」
「うん。分かったよ」
どうだ!自分でも何を言ってるのか分からなかったが、百戦錬磨の三華を言いくるめてやったぞ!フハハハハハハハハハハハハ!
俺はこの瞬間でなら、世界で一番最低な男になったかもしれない。
427 Identical ◆sGQmFtcYh2 sage New! 2010/07/12(月) 20:10:52 ID:fkC8pKl3
「勘違いしてごめんなさい」
三華が土下座して伴子さんに謝った。
二奈に似たのか律儀すぎるその態度に、なぜか俺の良心が無性に痛みだした。
「ごめんなさい」
だから俺も土下座して謝った。とりあえず三華の方を向いて。
「……なんかよく分からんが、君、三華ちゃんっていうの?」
「ハ、ハイ!」
「へ~、やっぱ二奈ちゃんの妹だけあってかわいいね」
拓朗は最初から三華がコンパに参加していたみたいなノリで、気さくに話しかけた。
そういえば三華が俺以外の若い男性と話しているのを初めて見たかもしれない。何となく拓朗がムカつく。
「ほら、もう誤解は解けたんだから帰りなさい」
一刻も早く三華を拓朗から引き剥がさないといけない。そんな衝動に駆られる。
「なんで?いいじゃない。私三華ちゃん気に入った~!」
「俺も俺も!」
「大きいね~。何cm?」
「か、かわいいな……」
さっきとは別の思いで三華を帰らせたくなった。
もう伴子ちゃんも俺を見てくれない。
そんな俺は席を立った。向かう先は一つ。
「はじめまして。山川優二です。そっちは?」
「俺は鈴木祐司です。よろしく」
「よろしく。ゆうじって一緒だね」
「そうだね」
俺は一体、何のためにここに来たのだろうか……?
「でもさっきの三華ちゃん、まるで彼氏を盗られそうになった彼女みたいだったね。そんなにお兄さんが好きなの?」
「好きだよ!」
俺達と違ってあっちは会話が弾んでいた。
それにしても三華の奴、嬉しい事言ってくれるじゃないか。おかげでシスコン疑惑が高まったけど、帰ったら目一杯かわいがってやろう。
「どんなところが好きなの?」
「う~ん、テニスがうまいところ?」
なんだそれ。もしテニスが下手だったら俺の事は嫌いだったのか?
「三華ちゃんってかわいいだけでなくおもしろいね~!こんな妹がいるなら優二君がシスコンになるのも分かるよ」
それにしてもおかしいな。何で俺だけがシスコンって言われて、三華の方は何も言われないんだ?どう見てもあっちをブラコンって呼ぶ方
が正しいだろ。
しかし弾んでいた会話もここまで。
それからは地獄が始まった。
「あ!そうだ兄ちゃん。一葉姉ちゃんが電話してって言ってたよ」
「………………………」
俺は友達の看病に行くと嘘をついてここに来た。
だが姉さんは俺の考えを見事に読み解き、三華をここに派遣した。
それだけじゃない。三華がピンポイントでこの居酒屋に来た事を考えると、二奈の方もグルになっている可能性が高い。
結果=姉さんと二奈にコンパに行ったことがばれている。
それなのに電話をして平気なのか?俺に彼女ができることを祈ってると言うと思うか?
答えは否。
姉さんはふしだらだと言って静かに怒る。二奈の方は……考えたくもない。
「どうしたの、兄ちゃん?電話しないの?」
無理だ。俺にはそんな度胸はない。
とりあえず[ごめんなさい]と書いたメールを送った。
428 Identical ◆sGQmFtcYh2 sage New! 2010/07/12(月) 20:11:33 ID:fkC8pKl3
返事は数秒で返って来た。見るのも躊躇われる。
「三華、このメールを俺の代わりに読んでみてくれないか?」
もしかしたら三華のかわいい声で内容を聞けば、少しは気分が軽くなるかもしれない。
「?……え~っと……[今すぐ一番隅にある部屋に来なさい]だって」
残念な結果だった。三華の声をもってしても、俺の気分はこれっぽっちも晴れなかった。
「誰からのメールだ?」
「その前にまず……三華、先にその場所に向かってくれ」
「うん?分かった」
とりあえず三華をこの部屋から追い出す。
これから俺が行う行動を考えると、なにかと面倒になりそうだから。
「ごめん、みんな。俺、ちょっと行かないと……それと伴子さん、アドレス教えるから後でメール頂戴って言ったら迷惑かな?」
俺が今伴子さんのアドレスを入手するのは大変危険だ。証拠が残る。
「え?構いませんけど……その隅の部屋で誰かお待ちになっているんですか?」
「姉さんともう1人の妹だよ。俺、実は三姉妹がいるんだ。それでこれから家族会議を行うんだって」
「は~?何で今から家族会議なんか行うんだよ?」
「……察してくれないか?」
俺の言葉に全員がある考えにいきついた顔をした。
「そ、そんな……!?」
「も、もしかして……お前んとこの家族の誰かが急に……」
「そうだな。山川家の一人が……もうすぐ旅立たれるかもしれないんだよ……」
ごめん。俺のせいでしんみりさせて本当にごめん。
「それじゃあもう行くよ。伴子さんのメール……待ってるから……」
その言葉を最後に、俺は旅立った。
この襖の奥にはきっと三人の女性がいることだろう。
一人はかわいいかわいい妹の三華。後は考えたくない。
……やっぱり入るのやめよっかな?
俺が部屋の前で躊躇していると店員さんがやって来た。
「あの、すいません!それはもしかしてこの部屋に持っていく飲み物ですか?」
「はい、そうですけど?」
定員の持っているお盆の上には4つの飲み物が置いてあった。
きっと俺の分も注文してくれたのだろう。
「……ちなみにこの黒と緑色のハーフっぽい色の飲み物は何ですかね?」
「これはこの部屋のお客様の御一人が、青汁とコーラを混ぜた飲み物じゃないと飲みたくないとおっしゃったもので」
俺の家族でこんな飲み物を注文する変食、いや狂飲家はいない。
きっとこの飲み物の行きつく先は俺の口だろう。
「…………ちなみに注文を受けたとき、この部屋の雰囲気はどんな感じでしたか?」
「?そうですね、何やら殺伐とした印象を受けましたが」
そうですか。殺伐としてましたか。
「ありがとうございます。それでは一緒に入りましょうか」
素直でいい子なバイトを巻き添いにして、俺は部屋へと入って行った。
429 Identical ◆sGQmFtcYh2 sage New! 2010/07/12(月) 20:12:43 ID:fkC8pKl3
飲み物を置いて出て行った定員さんを見送った後、俺はものすごい圧力を感じて地面にひれ伏した。
「何をやっているの?あなたは友達の看病をおこなっていたんでしょ?いい事をしてきたのだから、もっと毅然としなさい」
姉さんの目がマジだ。話している内容もそうだが、何よりその目が恐い。
三華、お前はこれを見習うんじゃねーぞ。
「……何も話さないつもり?まぁいいわ」
姉さんが徐に携帯を取り出す。
「これを見ると、さすがの優二も何か話してくれるわよね」
そのまま俺に画面を近付けてくる。
ディスプレイに写っているのは男女のキスシーン。片方は俺で、もう片方は伴子さんだった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!何これ!?いつの間に撮ったの!?」
「そうね~、三華ちゃんが部屋に乱入する数秒ほど前かしら?」
まさかあの瞬間を三華以外に見られていたなんて予想外だった。
「こ、これは誤解なんだ!俺はキスなんてしていない!それはただ鼻の頭を合わせていただけで!」
「そんな言い訳が本気で通用すると思っているの?もしかして姉さんをバカにしてるの?」
「ち、違う!嘘じゃない!信じてくれよ!」
そのとき、今までずっと下を向いていた二奈がぽつりと呟いた。
「…………くなんて…………」
「え?ごめん、聞こえなかった―――」
「嘘つくなんて最低っ!!キスしたんならしたって言えばいいじゃない!!」
二奈は驚くほど感情を表に出していた。
激怒とは何か違う。何かこう、締め付ける思いを吐露しているような、そんな感じがする。
「なっ!?嘘じゃねえって言ってるだろ!頼むから信じてくれよ!」
「こんな写真を見て何を信じろっていうのよ!!」
確かにこの写真では俺たちがキスしているように見える。でもそれは真実ではない。だから俺はそう言った。
なのに二奈は信じてくれない。あの二奈が信じてくれない。
そのことに無性に腹が立った。
「いい加減にしろよ!大体、キスしたとしてもお前には関係ないだろ!」
「ほら、やっぱりしてるんじゃない!!この嘘つき!!」
「……っ!何でお前にそこまで言われなきゃいけねーんだよ!」
「嘘つくからでしょ!?それに初めて会った人とキスするなんて最低!ケダモノ!」
もしここで俺が冷静になっていたらこの場は収まったかもしれない。
でも一度点火した火は簡単には消えなかった。
「お前、マジでウゼーんだよ!!」
「う、うざっ!?」
「いっつも自分の理想を俺に押しつけやがって!確かに俺たちは双子かもしれないけど、俺はお前じゃないんだぞ!構うんじゃねーよ!」
「何よ……何よ何よ何よ!ウチの気も知らないでっっ!!」
そのまま二奈は部屋を飛び出して行ってしまった。
すれ違った瞬間、涙をこぼして。
430 Identical ◆sGQmFtcYh2 sage New! 2010/07/12(月) 20:14:17 ID:fkC8pKl3
「勝手にしろよ!」
置いてあったグレープフルーツジュースを手に取り、一気に流し込む。
その場にいなくたって分かる。これはアイツが注文したものだ。
最近これにハマったとかで、俺んちの冷蔵庫に常備されている。俺が勝手に飲んだらヒステリックに怒ってきやがる。
「……あ、あの優二……その……」
さっきまでの威勢は何処へやら、姉さんが気まずそうに声をかけてきた。
きっとこうなる事は予想していなかったのだろう。
「に、兄ちゃん……」
三華の方もまた、おそるおそると言った感じだ。
でも俺に返事を返す余裕がなかった。
それほどさっきの出来事がショックだったのだ。
二奈と俺は双子。全ての双子がそうだとは思わないが、それでも俺たちは兄弟とはまた違う、それ以上に近い存在だと思っていた。
二奈の考えてる事が手に取るように分かる。対する二奈も俺の事を何でも理解してくれている。
そう思っていたのに……信じてもらえなかった。嘘つきと言われた。
……ガリッ……
グラスの中の氷をかじる。その冷気が頭の熱を冷ましていく。
『ウチの気も知らないでっっ!!』
あれは何を言わんとしていたんだろうか?二奈の気とは何なのだろうか?
冷静になって考えると、俺の方が二奈を分かっていなかった。
あの言い方から察するに、相当な思いをため込んでいたのだろう。
だけど俺は気付きもしなかった。気付こうともしなかった。
その結果がこれだ。
「……ごめん、二人とも……二奈を追いかけてきていいか?」
「……私も行くわ。心配なのはあなた一人じゃないのよ」
「アタシも!」
「そうだな。みんなでい―――」
こうと言おうとした時、
……ドクンッ!……
急に心臓が躍動した。
半端じゃない。それにものすごい寒気がする。
「……やっぱり姉さんと三華はここにいて!お願い!」
無意識のうちに言葉がでた。
無意識のうちに部屋を飛び出した。
そして気がついたときには居酒屋を飛び出して走っていた。
俺の走っている方向は二奈の部屋と同じ方向。
なぜか一刻も早く二奈の顔が見たくなった。
携帯を取り出し、二奈に電話をかける。が、一向に出る気配はない。
「くそっ!」
電話を諦めて、走る方に専念する。
二奈の家は大通りを通って行けば2~30分で着く。もしかしたら走っている最中に出くわすかもしれない。
なのに異様な動悸は収まらない。
そしてある場所まで来たときに、それは一層高まった。
左を見ると廃ビルが立ち並んでいる細い裏路地が目に入る。
ここは昼間ですら入るのを躊躇う程の道だ。夜ならば暗さも加わり尚更顕著になる。
そして何より、この道での噂を先輩や友達からいろいろ聞かされている。
そんな場所から、とてつもなく嫌な予感がする。
それに……この道は三華の住んでいるアパートの近道になるのだ。
「いや……でも、まさかな……」
言葉とは裏腹に、俺は左に折れた。
431 Identical ◆sGQmFtcYh2 sage New! 2010/07/12(月) 20:16:01 ID:fkC8pKl3
暗い路地裏を駆け抜ける。
誰一人歩いていない。それどころか誰一人として付近にすらいないように感じられる。
もしこんな場所で女の子が襲われれば、最悪の結果になるのは避けられない。
「二奈に限ってそんな事、あるわけないだろ……大体、あいつが夜のこの道を通るわけ……」
それでも嫌な予感は収まらない。
こんな時こその携帯なのに、何度かけても二奈は出ない。
嫌な予感が加速していく。
……大丈夫……もう少しで二奈の部屋に着く……
そう自分に言い聞かせながら少し進むと、かすかにだが人の声が聞こえてきた。
こんな時間、しかもこんなところで誰か話しているようだ。
その声は俺が近づくのに比例して、しだいに大きくなっていく。
そしてようやく人の影が見えてきたとき、会話の内容を聞き取ることができた。
「どうする?犯っちまうか?」
「ここまで来てやめれるわけねぇだろ」
やる?一体何をするっていうんだ?
男たちは何かに夢中になっているのか、俺にまったく気付いていない。
さらに近付く。
そこでようやく相手の顔が見えた。
若い男2人に女の子が1人。
男の方はまるで見覚えがないが、その面相はいかにも醜悪そうだった。
対する女の子の方は見覚えがあった。毎日のように見ている顔。俺とそっくりな顔。
「ん゛っ~!!」
「へへへ……コイツ、マジでかわいいな~」
「こんな時間にここを通るなんて、もしかして期待してた?」
女の子の方は1人の男の手によって口を塞がれていた。
「ん゛ん゛っー!!」
もう1人の方の男の手が女の子の胸に触れる。
「お~!柔らけ~!」
興奮する男。
「んんん~!!」
涙を流しながらも抵抗する女の子。
俺にはこれらが何なのかまるで分からなかった。
ただ一つ、俺が分かったことと言えば、
「へへ―――ぶごっ!?」
「ん?―――ふげぇ!」
「!」
男2人組が何かに衝突でもしたのか、大きく吹き飛ばされたこと。
そして、俺の右手に若干の痛みが走ったことだった。
432 Identical ◆sGQmFtcYh2 sage New! 2010/07/12(月) 20:17:43 ID:fkC8pKl3
「ゆ、優二っっ!?」
二奈が俺に声をかける。その声は恐怖を感じていたせいか、僅かに震えていた。
「そうだけど?ところで……こんなところで何してんだよ?」
「……え?な、何って……」
「お前、この町に越してきてもう2年経つよな?ならこの時間のこの路地裏を通ることがどんだけ危ないか知ってるよな?」
居酒屋のとき以上の怒りを二奈に感じる。
「拓朗やサークルのみんなもその事を教えてくれたのに……どうしてこんなとこにいるんだよっ!!」
我慢できなかった。
いつもは人にああだこうだと言うくせに、なぜこいつは人の言う事を聞かない!?なぜいっつも俺に心配をかけさせる!?
「ご、ごめんなさ―――っ!優二、後ろ!」
「っがぁ!?」
二奈に気を取られていた俺は油断していた。
ものすごい衝撃が脇腹にきて、そのまま1mほど吹き飛ばされる。
「てめぇ、よくもやりやがったな!」
男たちは俺を歯がいじめにしようと向かってきた。
でも俺だってこいつらに用がある。
すぐさま態勢を立て直し、相手にカウンターを決める。
「俺は二奈に対しても腹が立ってるけど、お前らに一番立ってるんだよ!!」
そのまま2発、3発と立て続けに攻撃する。
自慢じゃないが一応あの三華の兄ちゃんなのだ。運動神経には自信がある。
「調子こくなよ、このガキっ!」
「ぐふっ!」
でも所詮は素人。しかも1対2では分が悪すぎた。
「「ぶっ殺してやるっ!」」
「お、お願い!もうやめて!」
倒れている俺に対して容赦のない拳や蹴りが入ってくる。
でも思ったほどの痛みは感じなかった。それよりも感じたのはこいつらをぶん殴りたいと言う衝動。
「っで!!」
一人の足を思いっきり引っ張って、地面に叩きつける。
しかしこれが最後の反撃となってしまった。
「―――お願いだから、もうやめてよ!それ以上やったら優二が死んじゃうよぉ!!」
その後は相手に一撃も与える事は出来なかった。
こんな奴らに好きな様にされている自分。二奈を助けるつもりだったのに、逆に心配されている自分。
そんな自分に対して今日一番の怒りを感じた。
そして、俺は痛みよりも悔しさの方が大きい敗北を喫した。
433 Identical ◆sGQmFtcYh2 sage New! 2010/07/12(月) 20:18:52 ID:fkC8pKl3
「だ、大丈夫……ヒック……優二……?」
大丈夫なもんか。あまりの悔しさであいつらを今すぐにでも追いかけていきたい気分だ。
男たちは俺を散々殴りつけた後、気分が削がれたのか、そのままどこかに行ってしまった。
「……ごめんなさい……ヒック……ごめんなさい……ヒッグ……」
二奈は顔や体中あざだらけの俺を見て、さっきからずっと泣き続けてる。
「ウチのせいで……ヒッグ……本当に……ごめんなさい……」
でもまぁ良かった。最低限の事は出来て本当に良かった。
「……分かったから……もう大丈夫だから……だからもう泣くなよ」
痛む手で二奈の頭をなでる。
こうして見ると、あらためて二奈が妹だと実感してしまう。
いつもは強気な発言ばかり言ったり、こっちがビビってしまう程怒ったりするが、こんなに泣きじゃくりながら弱りきっている姿を見ると
そう感じてしまった。
「とりあえず、お前んとこに連れてってくれないか?もう体中が痛くて」
アパートに着いた頃には二奈の方も幾分か落ち着きを取り戻していた。
それで安心したのか、二奈の部屋に入ると同時にものすごい疲労感に襲われた。
「ごめん、ベッド使わせて……」
確認も取らずにベッドに倒れこむ。
ものすごく眠い。
「ま、待って!せめて傷の手当てをしてからにしてよ!」
そんな俺の意見を二奈は却下した。
それから二奈は何処からか消毒液とガーゼを取り出して、傷の手当てを始めた。
「ちょっとだけ我慢して」
顔中に消毒液をかけらる。さっきアイツらに殴られた時よりもはるかに痛い。
「もう少しで終わるから……」
次に顔一面にガーゼがかけられそうになった。
「いや、絆創膏でいいから。ってかお願いだから絆創膏にして」
「でも……」と二奈は渋ったが、そこは俺のごり押しで何とか大惨事にならなくてすんだ。
「じっとしててね」
二奈はそう言うと、俺の顔に絆創膏を貼り始めた。
二奈の顔が間近に迫る。
今思うとこんなに二奈の顔を近くで見たのは久しぶりだ。
一緒に寝るときだっていつも反対の方を向いて寝るし、朝に限っては必ず俺より先に起きていた。
二奈の目は大きい。それにくりっと丸みを帯びている。
よく見ると俺とは違う。
気付かなかったけど、俺とはあまり似ていない。
俺とは違って……本当に美人だ。
「はい、終わった!次はお腹を出して」
「え~、もういいよ。顔だけで十分だから」
「えぇ!で、でもまだ―――」
「頼むからもう寝かせて」
そのまま横になる。あっという間に眠りに就きそうだ。
「あ!待ってよ!ちゃんと手当てしないと!」
二奈の声が遠く聞こえる。
「おやすみ~」
それを最後に俺は眠った。
だからその後で二奈がなんと言ったのか分からなかった。
「もう!……でも優二は凄いね……いっつもウチが困ってるときに助けに来てくれて……本当に……ありがとね……そして―――」
「大好きだよ、お兄ちゃん」
最終更新:2010年07月12日 20:36