462 :
三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:48:27 ID:yyH+Q/WN
一緒に買い物を済まし、夏美ちゃんの家に向かう。
「お兄さん。何でそんなに買ったのですか?」
不思議そうに僕を見上げる夏美ちゃん。確かに、購入した食材は作り置きを考えても一人分じゃない。
「夏美ちゃんさえ良ければ、今日の晩ご飯を一緒に食べていいかな」
口元を両手で押さえて飛び上がる夏美ちゃん。
「もちろんです!」
嬉しそうな夏美ちゃんを見ていると、少しホッとする。
「今日は記念すべき日です!」
「大げさだよ」
「だって、私の家でお兄さんと一緒に食べるのは今日が初めてです!」
嬉しそうに笑う夏美ちゃんに胸が痛む。
本当はもっと前に一緒に食べる機会があった。
雄太さん。
「お兄さん?」
不思議そうに僕を見上げる夏美ちゃん。僕は笑ってごまかした。
夏美ちゃんの家につく。
和室の仏壇の前に正座し、手を合わせる。
何があっても、夏美ちゃんを守る。
誓いも新たに和室を出た。
夏美ちゃんとおそろいのエプロンで料理する。
今日の献立は焼きそば。夏美ちゃんに教えながら料理する。
夏美ちゃんも、カレー以外の献立を覚えたほうがいい。
作り置きとしていつも通り肉じゃがも作る。
楽しそうに料理する夏美ちゃん。その姿にホッとする。
食卓でも夏美ちゃんはいつも以上に饒舌だった。明るかった。楽しそうだった。嬉しそうだった。
こんなに喜んでくれるなら、もっと早くに一緒に食事すれば良かったかもしれない。
食後、二人で並んで食器を洗う。ここでも夏美ちゃんは楽しそうだった。
お茶を入れて、リビングのソファーに並んで座る。
夏美ちゃんの制服。胸元のボタンが一つ外れている。
僕はソーイングセットを取り出した。似た形のボタンがちょうどある。
「夏美ちゃん。動かないでね」
僕は手早くボタンを縫い直した。くすぐったそうにする夏美ちゃん。
「ありがとうございます」
そう言って夏美ちゃんは僕にもたれかかった。
背中に回される夏美ちゃんの腕。
柔らかくて温かい感触。
僕の胸に頬ずりする夏美ちゃん。
「お兄さん」
僕を見上げる夏美ちゃん。不安そうな瞳。
「…抱いてください」
消え入るような小さな声。
時計を見る。もう遅い時間。こんな遅くまでいるのはよくない。
「ごめん。もう帰らないと」
夏美ちゃんの目が見開かれる。背中に回された夏美ちゃんの手が震える。
様子がおかしい。
「夏美ちゃん?」
「わ、わたし、何もされてないです」
夏美ちゃんの声は震えていた。
僕を見上げる夏美ちゃん。目尻に光るものが溜まる。
「汚れてないです。本当です」
恐る恐る僕の頬に触れる小さな手。
「その、頑張って気持ち良くします。ですから、その」
僕から視線を逸らしうつむく夏美ちゃん。
「だ、抱いてください」
僕は馬鹿だ。
あんな事があって平気なはずないのに。
それを隠して必死に元気なふりをしていただけなのに。
僕は夏美ちゃんを抱きしめた。
「知ってる。何もなかったって。だから安心して」
「わ、わたしの事、嫌いになったりしませんか」
463 :三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:49:22 ID:yyH+Q/WN
僕は夏美ちゃんの唇をふさいだ。
柔らかくて温かい感触。啄ばむようにキスする。
「んっ、ちゅっ」
微かに身をよじる夏美ちゃん。
僕は唇をゆっくり離した。
「夏美ちゃんを嫌いになったりなんて、絶対にしない」
ぼんやりと僕を見上げる夏美ちゃん。
「愛してる」
夏美ちゃんの頬が赤く染まる。それでもなお、不安そうに僕を見上げる。
僕の頬を白くて小さな手が挟む。温かくて柔らかい。
「お兄さん」
目を閉じた夏美ちゃんの顔がゆっくり近づく。僕も目を閉じた。
唇に触れる柔らかくて温かい感触。
啄ばむようなキスが徐々にむさぼるようなキスになる。
お互いの舌を絡め、舐めつくす。
「んっ、ちゅっ、んんっ」
夏美ちゃんの息遣い。甘い香り。
僕はゆっくりと唇を離した。
「あの、お兄さん」
不安そうに僕を見上げる夏美ちゃん。僕の服を握る小さな手は震えていた。
「その、私の部屋に行きませんか」
僕は夏美ちゃんを持ち上げた。俗にいうお姫様だっこ。
「え?ええ?」
戸惑うような夏美ちゃんの声。
「お、お兄さん!おろしてください!」
手足をばたつかせる夏美ちゃん。
「どうして?」
「だ、だって、私、重くないですか?」
恥ずかしそうな夏美ちゃん。
「軽いよ。羽みたい」
そんなやり取りをしながら部屋につく。
僕は夏美ちゃんをベッドにゆっくりとおろした。そのまま押し倒す。
「いいんだね」
僕の下で夏美ちゃんは恥ずかしそうに頷いた。
お兄さんの大きな手が私の制服のボタンをゆっくりと外していく。
今でも肌を見られるのは恥ずかしい。私は視線を逸らした。頬が熱い。
ブラの上からお兄さんの手が触れる。
「んっ」
思わず声が出る。お兄さんを見上げると、目が合う。視線でいい?と問いかけるお兄さんに私は頷いた。
ブラがゆっくりと外される。お兄さんに見られているのが分かる。恥ずかしい。
お兄さんの両手が私の胸をゆっくりと揉む。
声が漏れそうになるのを必死に我慢する。
私の胸をゆっくりと優しく揉むお兄さんの手。気持ちいい。
時々、乳首を軽くつままれる。それが刺激になって体がびくりと震える。
お兄さんの方手がスカートにもぐりこみ、ショーツの上から触れる。
「あっ」
思わず声が漏れる。ショーツの上からお兄さんの手がゆっくりと撫でる。
「…んっ…あっ…きゃっ…んんっ!!」
じれったいぐらいの速さでお兄さんの手が私のショーツを上からこする。その度に我慢していた声が漏れる。
気持ちいい。恥ずかしい。まともにお兄さんの顔を見られない。
「夏美ちゃん。こっちを見て」
私は恐る恐るお兄さんを見上げた。
お兄さんの顔が近づく。私は目を閉じた。
唇に触れる柔らかい感触。
「んっ…ちゅっ…」
啄ばむようなお兄さんのキス。その間も、お兄さんの両手が私に触れる。胸を揉み、スカートの下をまさぐる。
だんだん頭がぼんやりしてくる。体がほてってくる。
ショーツの隙間からお兄さんの手がもぐりこみ、敏感な個所に触れる。
「んっ!」
464 :三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:50:31 ID:yyH+Q/WN
思わず体が震える。お兄さんの指が膣の入り口にもぐりこむ。
すでに濡れているのが自分でも分かる。
「あっ!ああっ!」
ゆっくりと膣の入り口をかき回すお兄さんの手。恥ずかしくて気持ちいい。
いけない。私ばかり。
私はお兄さんの胸を押した。お兄さんは私から体を起こした。
「あの、今度は私がします」
ベッドを下り、お兄さんの足の間に跪く。
お兄さんのベルトをはずし、チャックを開け、トランクスからお兄さんのを取り出す。
手に触れるお兄さんのが熱い。もうすでに硬くなっている。その事が嬉しくて恥ずかしい。私で興奮してくれているんだ。
「あの、いきますね」
お兄さんは無言で頷いた。
先端をそっと舐める。お兄さんが身じろぎする。
全体をゆっくりと舐める。いつ舐めても変な味がする。
口にしながらお兄さんの顔を上目使いに見る。
何かを耐えるようにじっとしておるお兄さん。気持ち良くなってくれているのだろうか。
私の視線に気がついたのか、お兄さんは微笑みながら私の髪をすく。
「気持ちいいよ」
その言葉にほっとする。私はさらに続けた。
片手でお兄さんのをゆっくりとこする。私の唾液と先走りでべとべとになっている。
お兄さんの両手が私の肩をそっと押す。
「もういいよ。ありがとう」
お兄さんは立ち上がって服を脱ぎ始めた。
逞しいお兄さんの体。恥ずかしくなって私は視線を逸らした。
ベッドの傍にあるスキンをお兄さんは手にする。
ハル先輩の言葉が脳裏に浮かぶ。
お兄さんの心を、私に向ける方法。
気がつけば私はお兄さんの手を押さえていた。
「夏美ちゃん?」
怪訝そうに私を見下ろすお兄さん。
「あ、あの、私、今日は大丈夫な日です。ですから、その」
声が震える。私、お兄さんを騙そうとしている。最低な嘘をつこうとしている。
「ですから、今日はスキンなしで、お、お願いします」
今日は大丈夫な日じゃない。それなのに、嘘をついて、騙して、妊娠しようとしている。
お兄さんの手が私の頬に触れる。体がびくりと震える。
「夏美ちゃん。僕たちはまだ高校生だよ」
私は顔をあげた。お兄さんは真剣な表情で私を見つめていた。
「まだ子供だよ。万が一もある。避妊しないと」
お兄さんの言葉に種類の違う痛みが胸に走る。
私と子供を作りたくないのですか。
「お、お兄さんは私と子供を作りたくないのですか。わ、私は、お兄さんの子供だったら産みたいです」
「僕も夏美ちゃんに子供を産んで欲しい」
お兄さんの言葉に体が震える。
嬉しい。素直にそう感じる。
「でも、子供を産むのはそれだけの気持ちじゃ駄目だよ。僕たちは高校生だ。まだ学校に行かなきゃならない。お金もないし、収入もない。育てる事も出来ない」
お兄さんの綺麗な瞳。誠実な眼差し。
胸が、痛む。
「夏美ちゃんの気持ちは凄くうれしい。でも、今は我慢しないと」
お兄さんの言う事は正しい。私達はまだ高校生。学校に行かないといけない。収入もお金もない。子供を産んでも育てられない。
でも、そんな事は最初から分かっている。
お兄さんの心を手に入れたい。私だけを見て欲しい。
もう、いやだ。
お父さんは死んで、クラスに味方になってくれる人はいなくて、梓やハル先輩にお兄さんを奪われるんじゃないかと脅え、学校の先生まで私を…。
それでも、お兄さんさえいてくれたら安心できる。例え世界中の人が私を嫌いになっても、お兄さんが私を好きでいてくれるなら、それでいい。
お兄さんを欲しい。誰にも渡したくない。私だけを見て欲しい。私だけのお兄さんになって欲しい。
そのためだったら、何だってする。
ハル先輩だって言っていた。お兄さんのためでもあるって。
「あの、お兄さん。変な事言ってごめんなさい」
私はスキンを手にした。
昨日、針で穴をあけたスキン。
465 :三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:51:39 ID:yyH+Q/WN
「つけますから、じっとしていてください」
包みを破り、スキンを取り出す。
お兄さんのそれにスキンをゆっくりつける。
手が震えて上手く出来ない。
「ご、ごめんなさい。緊張して」
「大丈夫だよ」
私の髪を撫でてくれるお兄さん。
胸が、痛い。
その痛みを無視してスキンをつける。外から見ると、穴があいているようには見えない。
無理もない。小さい穴だ。
「で、できました」
声が震える。
私、ひどい事をしている。
お兄さんを騙して妊娠しようとしている。
生まれてくる赤ちゃんを、お兄さんの心を縛る道具にしようとしている。
「夏美ちゃん?大丈夫?」
お兄さんが心配そうに私を見下ろす。
「すごく震えているよ」
「だ、大丈夫です」
私は立ち上がってスカートとショーツを脱ごうとした。
手が震えるせいでうまくできない。
「ご、ごめんなさい」
私の不手際のせいでお兄さんを待たせている。余計に焦って失敗する。
お兄さんは私をベッドにそっと押し倒した。お兄さんの手が私のスカートとショーツをゆっくりと脱がす。
恥ずかしい。顔から火が出そう。
お兄さんの手が私の足を広げる。
一番恥ずかしい場所が丸見えになる。
恐怖に体が震える。
お兄さんを騙そうとしている。
「ひっ!?」
膣の入り口にお兄さんのが触れる感触に思わず悲鳴を上げてしまった。
「夏美ちゃん?大丈夫」
心配そうに私を見下ろすお兄さん。
「だ、大丈夫です」
震える声しか出ない。
お兄さんはゆっくりと腰を前後させた。私の敏感な筋をお兄さんの剛直がゆっくりと撫でる。
「んっ…あっ…」
じれったい感触。お兄さんは挿れずに、ゆっくりと腰を動かす。
膣に挿れられたら、妊娠するかもしれない。
そう考えるだけで体がこわばる。震える。
もし妊娠したらと考えるだけで、恐怖に体がすくむ。
もしかしたら、お兄さん、妊娠した私を捨てるかもしれない。
だって、大丈夫な日って言ったのに、妊娠したら、きっと怒られる。
でも、これしか方法は無い。
お兄さんを手に入れるには、これしか方法は無い。
「お、お兄さん。大丈夫です。い、挿れてください」
声が震える。歯がかみ合わない。視界がにじむ。
お兄さんは体を起こした。心配そうに私を見下ろす。
「夏美ちゃん。無理しないで」
「む、無理なんかしていません」
私は体を起こした。お兄さんの顔を両手で挟み顔を近づける。
お兄さんは私の両肩をそっと押さえた。
余りの事に頭が
真っ白になる。
お兄さんが、私を拒絶した。
「わ、わたし、その…」
何を言えばいいのか。分からない。
視界がにじむ。涙がこぼれそうになる。
「…夏美ちゃん」
背中にお兄さんの腕が回される。
そのまま私はお兄さんに抱きしめられた。
466 :三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:52:36 ID:yyH+Q/WN
お兄さんの胸。触れる素肌と素肌が温かい。
「無理しなくていいから」
私は恐る恐る顔をあげた。
お兄さんはにっこりと笑った。励ますような力強くて優しい笑み。
「大丈夫。そばにいる」
そう言ってお兄さんは私を抱きしめた。
温かいお兄さんの胸。
「夏美ちゃんが泣きやむまでこうしている」
お兄さんの声に視界がにじむ。目頭が熱くなる。
私、ばかだ。
お兄さんはこんなに優しいのに。
疑って。騙そうとして。
涙がとめどなく溢れる。
「お、お兄さん、そのっ、わたひっ」
お兄さんは何も言わずに抱きしめてくれた。頬を撫でてくれた。涙をぬぐってくれた。
私の涙でお兄さんの胸がぐちゃぐちゃになる。それでもお兄さんは腕を離さないでいてくれた。
「…もう大丈夫です」
私はお兄さんの胸から顔を離した。
もう涙は出ない。
顔をあげるとお兄さんはそっぽを向いた。その頬は微かに赤くなっている。
今更になってお互いに裸なことに気がつく。頬が熱くなる。
でも、私が泣いていたせいで、私もお兄さんも私の涙でべたべただ。よくこんなに泣いたのだと自分でも不思議に思う。
「あの、タオル持ってきます」
私はベッドから降りた。うう。裸は恥ずかしい。
部屋の中のクローゼットからスポーツタオルを取り出す。
振り向いて、私は言葉を失った。
お兄さんはスキンを手に呆然としていた。
ついさっきまでお兄さんが着けていたスキン。それが、破れている。
「お、お兄さん?」
私の言葉にびくりと震えるお兄さん。慌てたように私を見る。
「ど、どうしたのですか?」
「いや、外したら破けちゃって」
苦笑するお兄さん。
「もしあのままだったら、破けちゃったかもしれない。危なかった」
「そ、そうですね」
言葉が震える。
そんな私を心配そうに見るお兄さん。
「どうしたの?」
「な、何でもないです。それよりもべとべとですよね。拭きます」
私はお兄さんの横に座ってお兄さんの体を拭いた。
手が震える。暑くもないのに汗が出る。
「夏美ちゃん?突然どうしたの?」
何でもないと言おうとして言葉を失った。
ベッドの横の机。そこにスキンの包みが置いてある。
私が針で穴をあけた包み。
お兄さんを騙そうとした証拠。
「夏美ちゃん?」
怪訝そうに私の視線の先を見るお兄さん。
「な、何でもないです!」
思わず大声を出してしまった。
いけない。余計に怪しまれる。
「大丈夫です。本当です」
「これがどうかしたの?」
お兄さんは破けたスキンの包みに手を伸ばす。
心臓の鼓動が、はっきりと聞こえる。
止めなきゃ。
でも今止めると怪しまれる。
そんな事を考えている間にもお兄さんはスキンの包みを手にする。
お兄さんの表情が変わる。
467 :三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:54:24 ID:yyH+Q/WN
手にしたスキンの包みを掲げるお兄さん。
この位置からでも見えた。
明かりに透かされたスキンの包みに、小さな穴があいているのを。
痛いほどの沈黙が部屋を包む。
「…夏美ちゃん…これって…」
お兄さんは呆然と私を見た。
私を見つめる瞳に、頼りない光が浮かぶ。
「…まさか…夏美ちゃんが…?」
否定しないと。
違うって。私じゃないって。そんなことしないって。
それなのに、言葉が出ない。
口から出るのは意味のない文字ばかり。
「…どうして…?」
お兄さんの言葉に心が軋む。
何も、分かってくれていない。
私の事を、何も分かってくれていない。
「お兄さんを誰にも渡したくないんです!!」
気がつけば私は叫んでいた。
「お兄さんの周りには素敵な女の子がいます!!ハル先輩も!!梓も!!二人とも私より美人で、
綺麗で、可愛くて、お料理できて、頭もいいです!!私が勝っているところは何もないです!!お兄
さん知っていますか!?お兄さん、人気あるんですよ!!お兄さんのほめる人、いっぱいいます!!
お兄さんとお付き合いするようになってから、周りの人が言うんです!!釣り合わないって!!わた
しよりもハル先輩の方が釣り合うって!!付き合っているのが間違いだって!!お父さんが殺されて
可哀そうだから付き合っているって!!そんなわたしを重く思ってるって!!いつかお兄さんがわた
しを捨てるって!!みんなみんな言うんです!!違うって信じたくても、信じられないんです!!だ
ってお兄さんとわたし、釣り合わないです!!お兄さんの方がずっと素敵で立派な人です!!わたし
も分からないです!!何でお兄さんがわたしの恋人になってくれたか!!分からないんです!!だっ
て、お兄さんの周りにはわたしより素敵な女の子がいます!!わたしなんかより、ハル先輩と一緒の
方がお兄さんの幸せになるって分かっています!!それでも嫌なんです!!お兄さんを渡したくない
んです!!お兄さんの傍にいたいんです!!お兄さんの恋人でいたいんです!!だって、誰も私の傍
にいてくれません!!味方になってくれません!!お父さんは死にました!!生きていても私の傍に
いてくれません!!いつもお仕事で遠くにいます!!お母さんもです!!いつもお仕事ばかりです!!
そばにいてくれません!!お父さんが死んでもお仕事です!!三週間で帰ってくるって言っています
けど、嘘です!!わたしの事が大切っていつも言いますけど、それも嘘です!!いつもそう言って帰っ
て来ないです!!入学式も卒業式も誕生日も授業参観も
三者面談も体育祭も文化祭も風邪をひいた時
も!!学校もそうです!!クラスメイトはみんな私の悪口を言います!!陰口を言います!!学校の
先生もひどいことします!!わたし、何もしていないのに!!教頭先生もです!!全部わたしのせい
にしようとして!!警察の人も!!お父さんが死んでも犯人を捕まえてくれない!!ハル先輩も不安
にさせる事ばかり言います!!梓もです!!マンションまで押し掛けます!!わたし遠慮しているの
に!!梓の家まで押し掛けないのに!!梓とお兄さんが一緒にいられる領域に足を踏み入れないのに!!
だからお見舞いに行かなかったのに!!なのに梓はここまで来るんです!!学校でもお昼休みにお兄
さんを連れていくんです!!お兄さんとお食事できるのはお昼しかないのに!!梓はいつもお兄さん
とお食事できるのに!!妹なのに!!いつもそばにいられるのに!!嫌です!!もう嫌なんです!!
みんな私にひどいことします!!わたしにはお兄さんしかいないんです!!わたし、お兄さんの事好
きです!!大好きです!!愛しています!!誰よりも愛しています!!誰にも渡したくないんです!!
なのに何でですか!!何で分かってくれないんですか!!何で私の気持ちを分かってくれないんですか!!」
溜まりに溜まった鬱屈が言葉となって溢れ出す。
お兄さんは何も言わなかった。黙って私の言葉を聞いていた。
それが余計に私を苛む。苛立たせる。
「何で黙っているのですか!!何で何も言ってくれないのですか!!」
視界がにじむ。もう泣かないって決めたのに涙があふれる。
お兄さんは辛そうに俯いた。
「…ごめん…」
絞り出すような声は震えていた。
その声に我に返る。
私、なんて事を。
お兄さんに、なんてひどい事を。
何の関係もないのに、お兄さんは私に良くしてくれているのに。
「ご、ごめんなさい」
無言でうつむくお兄さん。どうしようもなく傷ついた表情。
468 :三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:55:28 ID:yyH+Q/WN
どうしよう。
どうしよう。どうしよう。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
嫌われる。
お兄さんに嫌われる。
悪いのは私なのに。
お兄さんを騙そうとしていたのに。
それなのに、ひどい事言って。
「夏美ちゃん」
お兄さんの言葉に体が震える。
私は恐る恐る顔をあげた。
「ごめんね。何も気が付けなくて」
お兄さんは微笑んでいた。いつもの笑顔だった。
でも、分かってしまった。その笑顔の裏側で、お兄さんが泣いているのを。
お兄さんは無言で服を着た。私は何も言えず突っ立っていた。
「あ、あの」
何か言おうとして、言葉が思いつかない。
どうしようもないぐらい涙があふれる。
お兄さんはハンカチで私の涙を拭いてくれた。
それでも止まらない。涙がとめどなく溢れる。
お兄さんは私の手にハンカチをそっと握らせた。
「夏美ちゃん。今日は帰るよ。夜遅くまでごめん」
そう言ってお兄さんは背を向けた。
「戸締り、しっかりしてね。おやすみ」
部屋を出ていくお兄さん。その後ろ姿を追えなかった。
お兄さんが遠くに行く。その事に気がついて慌てて服を着て部屋を出る。
もういない。お兄さんはもういない。
嫌われた。
お兄さんに嫌われた。
部屋に戻りベッドにうつ伏せになる。
何であんなひどい事をしてしまったのだろう。
何であんなひどい事を言ってしまったのだろう。
お兄さんは何も悪くないのに。
私はお兄さんのハンカチを抱きしめた。
ベッドの上で私は一人泣き続けた。
体が鉛のように重い。歩いているだけなのに、疲れる。
脳裏に浮かぶのは夏美ちゃんの事。泣きながら喚く夏美ちゃんの声が脳裏に木霊する。
僕は馬鹿だ。
夏美ちゃんがあんなに辛い思いをしているのに、何も気が付けなかった。力になれてなかった。支えられなかった。
雄太さんとの約束を何も守れてない。
(お兄さんを誰にも渡したくないんです!!)
夏美ちゃんの悲鳴が脳裏にこだまする。
胸に湧き上がる感情。悲しみなのか怒りなのか後悔なのか分からない。
夏美ちゃんは僕を信じてくれていなかった。
僕が好きな女の子は夏美ちゃんだけなのに。他の女の子を好きになる事なんてありえないのに。
何度も言った「好き」という言葉も、夏美ちゃんは信じてくれていなかった。
僕はかぶりを振った。夏美ちゃんは悪くない。
お父さんが死んで、学校でも教師にひどい目にあわされて、精神的に追い詰められていただけ。
夏美ちゃんは悪くない。
それなのに。いや、それでも衝撃は大きい。
僕と一緒にいるために、妊娠しようとしていた。
無垢な命を利用しようとした。
いまだに信じられない。夏美ちゃんがそんな事をするなんて。
それとも、そこまでしないと信じられないのだろうか。
僕の事を、そこまで信じていなかったのだろうか。
目頭が熱い。涙が出そうになるのを必死でこらえた。
何でこんなことになってしまったのだろう。何がいけなかったのだろう。
夏美ちゃんの様子がおかしくなったのは雄太さんが死んでから。
梓が、夏美ちゃんのお父さんを殺してから。
469 :三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:57:03 ID:yyH+Q/WN
でも、梓が殺した理由は、きっと僕と関係ある。
僕が、夏美ちゃんと恋仲だから。
最初から夏美ちゃんと付き合わなければ、こんな事にならなかったのかもしれない。
そうすれば夏美ちゃんのお父さんが殺される事は無かった。
悪いのは誰で、何がいけなかったのか。
分からない。考えたくもない。
体が重い。僕は帰り道の途中にある公園に入り、ベンチに腰をおろした。
今は家に帰りたくない。梓と顔を合わせたくない。
膝の上に肘を載せ、頭を抱える。
初めて自分が裸足なのに気がついた。夏美ちゃんの家を出る時、靴をはかずに出ていったのだろうか。
僕は笑った。乾いた笑い。靴をはくのも忘れているなんて。それだけ衝撃的だったのだろうか。
座っただけなのに、立ち上がる気力がわかないほど疲労しているのが分かる。
夏美ちゃんの家から帰る時はいつも寂しかった。悲しかった。
それでも、夏美ちゃんの笑顔を思い出すだけで温かい気持ちになれた。
今ではもう、夏美ちゃんがどんなふうに笑ったかも思い出せない。
脅えた表情で僕を見上げ、不安そうに眼を伏せ、涙を流す姿しか思い出せない。
目頭が熱くなる。視界がにじむ。
堪えようとしてできなかった。涙があふれ、頬を伝う。
辛いのか、悲しいのか、惨めなのか、それすらも分からない。
一人で泣いていると、物音がした。
二種類の足音。人と、多分犬。僕の方へ近づいてくる。
僕は腰をあげて立ち上がった。公園を出よう。泣いているところを、例え知らない人にも見られたくない。それに夜の散歩をしている人を驚かせたくない。
「幸一くん」
聞き覚えのある声が僕の名前を呼ぶ。
ずっと僕の傍にいてくれて助けてくれた、大切な家族の声。
振り向いてはいけない。
振り向くと、情けない姿を見せてしまう。頼ってしまう。甘えてしまう。
それなのに足が動かない。
「幸一くんでしょ?」
僕の肩に彼女の手が触れる。温かくて柔らかい手。
「どうしたの?」
心配そうな春子の声が後ろから聞こえる。
「…何でもない」
僕の声は震えていた。震えているのを隠しきれなかった。
「何かあったの?こっちを向いてよ」
シロが足に体を摺り寄せてくる。
春子が僕の正面に回り込もうとしてきた。
「来るな!!」
春子の足が止まる。自分でもびっくりするぐらいの硬い声。
「…お願いだから、来ないで」
泣いている姿を、情けない姿を、春子に見られたくない。
振り向いたら、きっと春子に甘えてしまう。
「幸一くん」
柔らかい声が僕を呼ぶ。
背中に温かい感触。僕の前に白い腕が回される。
僕を後ろから抱きしめた春子が囁く。
「怖がらないで。大丈夫だよ。お姉ちゃんが傍にいるから」
柔らかい声。その声に自分でも信じられないぐらい安心してしまう。
「大丈夫だから。ね?こっちを向いて」
涙がとめどなく溢れる。頬を伝い涙が落ちる。
「僕はっ、ぐすっ、僕はっ…!」
「お姉ちゃんの前ならどれだけ泣いてもいいから」
もう耐えられなかった。僕は後ろを振り向いた。
春子が笑顔で僕を見上げていた。
僕は春子に抱きついた。
温かくて柔らかい感触。
春子も僕の背中に腕をまわして抱きしめてくれた。
身長差があるから僕が春子を抱きしめているみたいだけど、それでも春子は僕を抱きしめてくれた。
「こんなに大きくなったのに、相変わらず泣き虫だね」
僕の腕の中で春子は笑った。その笑顔に、沈んだ心が軽くなる。
470 :三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:58:36 ID:yyH+Q/WN
「大丈夫だから。お姉ちゃんが傍にいるから」
春子は僕の背中をあやすように撫でた。子供をあやすような行動なのに、不快じゃなかった。心が落ち着いていく。
「ごめん。もう大丈夫」
僕は春子を離した。もう涙は出ない。
「よかった。お姉ちゃん安心したよ」
春子も一歩離れた。
その姿を見て思わず息をのんだ。
水色のキャミソールに白いホットパンツ。夜の闇でも眩しいぐらいの白い肌を惜しげもなくさらしている。背中まで垂れる長い髪は夜の闇にも混ざらないほど黒く、烏の濡れ羽のように艶がある。
一瞬、梓に見えた。
「?どうしたの?」
不思議そうに僕を見上げる春子。
「いや、梓みたいな格好だと思って」
「そう言えば最近の梓ちゃんはお姉ちゃんと同じ髪型だよね」
朗らかに笑う春子。その明るくて優しい笑顔だけは梓と違った。
「もう大丈夫?」
大丈夫かといわれると、そうでもない。状況は何も変わっていない。
でも、春子と話しているだけで、気分は少し晴れた。
「春子と話して元気が出た」
「よかった」
そう言って春子はにっこりと笑った。シロもわうと吠えた。
「幸一くん。明日ひま?」
明日。そう言えば、土曜日だ。
予定は無い。精々、家事をするぐらい。
「じゃあお姉ちゃんと一緒に遊びに行こうよ」
「…嬉しいけど」
「僕には夏美ちゃんがいる?」
僕の言おうとした事を口にして笑う春子。
「笑わないでよ」
「ごめんね。でもね、聞いてくれる?」
真剣な表情な春子。
「幸一くんには気分転換が必要だよ。気が滅入ったままだと、また体調を崩しちゃうよ」
確かに春子の言う通りかもしれない。
気分転換が必要なのかもしれない。
でも、春子と二人っきりで一緒にいた事を夏美ちゃんが知ると、また夏美ちゃんが悲しむ。
「お姉ちゃんは幸一くんのお姉ちゃんでしょ?」
確かにそうだけど、こういうのは理屈じゃない。でも、久しぶりに春子と出かけて遊びに行きたい気持ちもある。
どうしよう。
幸一くんは随分悩んでいる。
もう。悩まなくてもいいのに。
この公園に私が来たのはもちろん偶然じゃない。
盗聴器で幸一くんと夏美ちゃんの会話を聞いて、家を飛び出した。
シロに匂いをたどらせ、ここまで来た。
私が来た時、幸一くんは見てられないぐらい傷ついていた。
少し胸が痛んだ。私が画策したこととはいえ、ここまで傷ついている幸一くんを見ると、私も苦しく感じた。
はやく夏美ちゃんと別れればいいのに。そうすればこんなに苦しむ事もないのに。
幸一くんと夏美ちゃんは、もう終わりだろう。
これ以上付き合っても、お互いを傷つけ合うだけ。
後はほっておいても大丈夫。
シロはゆっくりと歩く。それに合わせて私達もゆっくりと歩き始めた。
「春子。リード持ってもいい?」
もう。お姉ちゃんの手よりリードの方がいいんだ。そんな事を考えながらも私は幸一くんにリードを渡した。
嬉しそうに幸一くんの周りを走るシロ。なんだか少し腹が立つ。
「春子。その指輪、もしかしたら昔あげたやつ?」
私の左手を見ながら幸一くんは言った。
気がついてくれたんだ。嬉しい。
「そうだよ。覚えてる?」
「高校受験の前だから、中三の時だったかな。梓の誕生日のお祝いに協力してくれたお礼にあげたっけ」
そう。梓ちゃんの14歳のお誕生日のお祝いをお手伝いしたお礼に幸一くんが
プレゼントしてくれた指輪。飾り気のない銀のシンプルな指輪。
昔は鎖を通してネックレスにしていたけど、高校に入ってからはチェックが厳しいから外していることが多かった。
471 :三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 21:00:26 ID:yyH+Q/WN
今日は久ぶりに指にはめた。
「まだ持っていてくれたんだ」
「幸一くんがプレゼントしてくれた指輪だもん。大切にしているよ」
懐かしい思い出。指輪をはめて欲しいという私に、不思議そうな顔で左手の小指にはめてくれた。
「春子」
幸一くんは意を決したように私を見つめた。
「春子さえ良ければ、明日遊びに行こう」
私と遊びに行くだけなのに、こんなに真剣な表情をする幸一くんが微笑ましかった。
「いいよ。ちょっと遠くに行く?」
近場だと夏美ちゃんや梓ちゃんに遭遇するかもしれない。
「うん。隣町のショッピングセンターに行かない?」
「いいよ」
待ち合わせ場所などを決めながら歩く。
家に近づいたところで別れる事にした。近くまで行って、この前みたいに梓ちゃんに見られたら大変だから。
「幸一くん。おやすみ」
「春子」
幸一くんは微笑んだ。
「今日はありがとう。言葉に尽くせないぐらい感謝してる」
幸一くんって本当に単純。今日の事も裏で私が手を引いてるって知ったら、どんな顔をするだろう。
でも、そんな所も含めて好き。
「気にしないで。また明日ね」
「おやすみ」
シロが小さくワンと吠えた。
家に戻りベッドにダイブする。
夏美ちゃん、本当に惨めだった。
確かに夏美ちゃんの現状は悲惨だ。
お父さんは殺害され、クラスでは孤立し、教師まで夏美ちゃんを傷つける。
でも、幸一くんは関係ない。むしろ幸一くんは夏美ちゃんを助けようと、支えようとしている。
うんうん。違う。幸一くんも勘違いしている。
幸一くんは夏美ちゃんの支えになれてないと思っているけど、それは違う。
夏美ちゃんはできた子だ。関係のない人にあそこまであたるなんてできない。
幸一くんが夏美ちゃんにとっての支えだからこそ、あそこまで心の内を晒せた。
それは逆説的だけど、幸一くんが夏美ちゃんの支えである証。
本当に哀れな二人。
幸一くん、本当に疲れている。
もし幸一くんが疲れてないなら、私と二人きりで出掛けるなんて絶対にしない。夏美ちゃんが誤解するような行動は絶対にしない。
明日は幸一くんとデート。
胸がドキドキする。わくわくする。
今日の幸一くん、私の恰好を見て顔をひきつらせていた。
暑いからキャミにショートパンツにしたけど、梓ちゃんを連想したのかな。この格好、梓ちゃんがいつもしているのと似ているし。
明日はどんな格好をしよう。幸一くんが好む服装ってどんなのだろう。
そんな事を考えながら私の意識は眠りに落ちた。
最終更新:2010年09月05日 21:39