狂依存 第4話

625 狂依存 20 sage 2010/11/06(土) 03:10:47 ID:xuKm5et9
翌日
「ただいま……」
と言っても誰もいないんだけどね。
麻由お姉ちゃんは今日は帰りが遅くなるとか言ってた。
「夕飯はっと……」
作ってあったか。
意地でも僕には家事をやらせないつもりなのだろうか。
何が麻由お姉ちゃんをそこまでさせるのだろう。
「ちょうどいい機会か……」
自室に篭り、ベッドで横になって色々考える。
何故麻由お姉ちゃんがあんな風になってしまったのか。
生まれた時からずっと大好きだった。
物心つく前から、お父さんやお母さんの言う事は聞かなくても、麻由お姉ちゃんの言う事だけはちゃんと聞いていたと、両親は言っていた。
生まれながらのお姉ちゃんっ子だったそうだ。
本当に小さい頃、幼稚園ぐらいの時はとても仲が良かった。
何処へ行くのもいつも一緒で、本当に良く面倒を見てくれた。
そんなお姉ちゃんが大好きで、いつしか本気で結婚したいと思い始めて、麻由お姉ちゃんは僕のお嫁さんになるとか言い出し始めた。
でも、僕が小学生になる前後から段々構ってくれなくなって、僕に対する態度も冷たくなった。
人目も憚らずベタベタくっついて来た僕に嫌気がさして来たのだろう。
今考えれば当然の事だ。
だけど、それでも全然嫌いになれなくて、麻由お姉ちゃんにベタベタするのを止める気にはなれなかった。
むしろ、邪険にされればされるほど、どんどん過激になって来た気もする。
いつからだったろう?
麻由お姉ちゃんに変な事しなくなったのは……

フフフ……
もうすぐ、麻由お姉ちゃんの15歳の誕生日。
今年もちゃんと麻由お姉ちゃんのプレゼント買ってあげるからね。
「夫が妻の誕生日を祝うのは当然だよね。」
これを機に一気に嫁との距離を縮めておかないと。
今年は何買ってあげようかな。
「去年は確かストラップをあげたんだっけ。」

「麻由お姉ちゃん、お誕生日おめでとう!ハイ、これプレゼント。」
「……ありがとう……」
ムスっとした表情でお礼を言い、プレゼントを受け取る。
もう、素直じゃないんだから。
「えへへ、受け取ってくれて嬉しいよ。」
もっと喜んでくれて欲しかったけど、今はこれでいいや。
「用はそれだけ?」
「え?あ、うん……」
うーん、もっと甘々な展開を期待してたんだが……
「そう。なら、とっとと出てって。私やる事あるから。」
「麻由お姉ちゃん、良かったら今夜は夫婦二人で一緒に甘い夜を……」
「いいから、出てけつってんだろうが!」
バンっ!
「もう、照れる事ないのに……」
まだまだ、素直になれないんだね。
まあ、まだ慌てる様な時期じゃないか。
じっくり行こう。うん。



626 狂依存 21 sage 2010/11/06(土) 03:11:33 ID:xuKm5et9
って感じだったか。
あれから、夫婦仲は一向に進展してない気もするから、今年は何とかしないとね。
「麻由お姉ちゃん……」
「あっはははは!うっそ、それマジ?超受けるじゃん。」
リビングで友達と携帯電話で話をしているみたいだな。
「それで、どうなったの?うん……」
むう、麻由お姉ちゃん僕が去年あげたストラップ全然使ってくれてないなあ。
その前の年にあげた、ブローチも使ってくれてる様子がないし……
うーん、麻由お姉ちゃんのお気に召さなかった様だな。
嫁が喜ぶものをちゃんと理解出来ない様では、僕もまだまだ修行が足りないみたいだ。
今年はちゃんと、麻由お姉ちゃんが喜ぶものをちゃんとあげないとね。
「あ、そう。うん、じゃあね。」
ようやく通話を終え、リビングから出てくる。
「麻由お姉ちゃん、もうすぐ誕生日だよね。何か欲しい物ないかな?」
「ああ、別にないわよ。」
うーん、去年も同じ事言ってたな。
「でもでも、今年はちゃんと麻由お姉ちゃんが欲しい物あげたいし。あっ去年あげたストラップどうしたのかな?やっぱり気にいらなかった?」
「さあ、どうだったかしらね……」
この表情見る限り、気に入らなかったみたいだな……
今年はどうしよう?
「ねえ、麻由お姉ちゃん。今年は二人で楽しく過ごせると良いね。」
出来れば、姉弟の一線を超えて夫婦の契りを……
「ふん。」
ドンっ!
「あん!もう……」
僕の肩にわざとぶつかって、部屋に行ってしまった。
相変わらずのツンデレさんだなあ。
でもこれは、麻由お姉ちゃんの頑なな心を開かす事の出来ない僕がいけないんだよね。
うん、頑張らなければ。

「麻由お姉ちゃんが喜びそうなものはっと……」
翌日、近所のデパートの小物売り場に出向き、プレゼントを探す。
あれなんか……いや、高すぎるな。
お小遣いに限りがあるから、あんまり高い物は買えないしなあ。
本人に聞いてもわからない以上、自分で考えるしかない。
ストラップはダメ、ブローチもダメ、その前の年にあげたぬいぐるみもダメとなると……
「うーん、難しいな……」
とりあえず、今日の所はこのくらいにして明日は……ミニバスの練習があるから、明後日出直すか。
誕生日は3日後だからまだ少し時間はあるしね。

「はあ~、今日の練習はきつかったな……」
やたらと走り込みやらされて、足が痛い。
さっさと帰って、部屋でゴロゴロしようっと……ん?
あれは……
麻由お姉ちゃんではないか。
むむ?何やら知らない男と歩いてるぞ。
くっ、いくら麻由お姉ちゃんが世界一可愛いからって人の嫁に手を出そうとするとはけしからん!
こんな悪い虫は排除してやらねば。
「という訳で後をつけます。」
「へえ、あいつがねえ。」
「そうなんだよ。マジで受けるだろ。」
むむ……何やら悪い雰囲気ではなさそうだぞ。
万が一に備えて最低でも奴の顔を覚えておかねば……
くそ!暗くてよく見えねえな!
「じゃあ、私こっちだから。」
「あ、あのさ……」



627 狂依存 22 sage 2010/11/06(土) 03:14:26 ID:xuKm5et9
「ん?何?」
「その……えと……これ、読んでくれるかな……」
「……」
「じゃ、じゃあ!返事はいつでもいいからな!」

……
あの手紙は……いや、言うまでもないか。
麻由お姉ちゃんやっぱりモテるんだなあ、当たり前だけど。
「って、関心してる場合じゃねえ。」
今僕の前を駆けていったが、ちらっと見た限りでは背も高くて、中々のイケメンだった気がする。
くっそお、あれはウチの嫁なんだぞ!
まだ素直になっていないとは言え、僕と将来を約束した仲なんだ。
※そんな約束していません。
何とか断ってくれれば良いんだが……

「ただいまー。」
麻由お姉ちゃんより、少し遅れて家につく。
むう、誕生日プレゼントの前に課題が出来てしまったな。
何とかしないと。
「あ、麻由お姉ちゃん……」
ちょうど部屋の前でばったり、会った。
「何?」
「えっと……その…」
「用がないなら、もう行くわよ。これから塾に行かないといけないんだから。」
「あ、ちょっと……」
行っちゃった。
見た限りいつも通りみたいだが……
やっぱり、ああいうのには慣れているんだろうなあ。
流石は僕の嫁だ。
っと感心してる場合ではないな。これはチャンスだ。
麻由お姉ちゃんの部屋にこっそり入って、あの手紙をどうしてるか確かめねば。
「おじゃましまーす。」
ええと、あの手紙は……机の上にはないな。
確か鞄の中に入れたと思ったから、鞄に入ってるのかな。
学校指定の通学鞄だから、別に覗いても大丈夫だよね。
「うんと……」
ないな……
となると引き出しかな。
流石に気が引けるな……
「うーん、もしかしたら制服のポケットの中にでも……おわ!」
何か足で蹴飛ばしちまった……ってゴミ箱か。
すぐに元に……ん?
何か紙をビリビリに破って丸めたような、ゴミが一つ……むむ?
「(これは……?)」
すぐに丸めたゴミを、開くと……
「これは、封筒みたいだな……」
って、まさか?
あの時もらった手紙か?
こんなすぐにビリビリにしなくてもいい気がするが……
まさかイタズラか何かだったとか?
いや、これ封も切ってないみたいだし……
「麻由お姉ちゃん……」
麻由お姉ちゃんの浮気は断じて許さんが、流石に読みもしないで破るのはどうかと……
まさか、いつもこんな事してるのか?
「……」
破いて丸めてあった手紙を広げて、中身を確認する。
………
やっぱり、ラブレターみたいだな。
さっきまで憎くて仕方なかったが、流石に少し可哀想だ。
何か複雑な感情を抱きながら、手紙をゴミ箱に戻し部屋を後にした。


628 狂依存 23 sage 2010/11/06(土) 03:15:21 ID:xuKm5et9
「麻由お姉ちゃん……」
あの後しばらく考え込んでいた。
一応あいつだって精一杯勇気を出して、あの手紙を渡したんだろうから一通り目を通すぐらいはしてやれば良いのに。
それなのに、あんなにしちゃって……
「……まさか、僕があげた誕生日プレゼントなんかも……?」
去年あげたストラップも一昨年あげたブローチも全然使ってないし、その前の年にあげたぬいぐるみも部屋にはないし……
「ただいまー。」
「あ、おかえり。」
おっ、帰ってきたか。
「はあ、今日は宿題やたらと出ちまったな……」
「ねえ、麻由お姉ちゃん。」
「ん?」
ちょっと言っといた方がいいかもしれないな。
「あの……えと…今日ミニバスの練習の帰りに偶然見たんだけど、男と一緒にいたよね?あれって……」
「ああ……去年同じクラスだった奴よ。それが何か?」
「えっと……その時、その人に何か手紙の様なものを渡されたのを見た気がするんだけど、あれってまさか……?」
「………」
「ほ、ほら!僕は麻由お姉ちゃんの夫となるんだから、変な虫が付かないか見守る義務があるもんね!うん!」
とりあえずこれでごまかせるか……?
「それが、あんたに何の関係があるのよ?」
「あるよ!大有りだよ!自分の嫁がラブレターなんか貰ったりなんかしたら心中穏やかではないよ!うん!」
「いや、もしかしたら何かのイタズラかもしれないし、変なものが仕込んであるかもしれないから、ちゃんと中身を確認したほうが良いよ!うん。」
く、苦しいかな……?
「あんたに何でそんな事指図されないといけないのよ。バッカじゃないの。」
一応心配してるんだけどなあ。
「だから…その、手紙を貰ったらすぐ捨てたりしないでちゃんと読んで、どんなものか確認しておいた方が良いと思ったり、何だったりすると思うんだ……」
って、やばっ……!
いや、いいか。勝手に入ったのは悪いけどはっきり言っとこう。
「そういう事か……人の部屋を勝手に!」
ガシっ!
「ご、ごめんなさい!遂……」
胸倉を掴んで、僕を睨み付けてる目が本当に怖い……
これは本気で
麻由「あんたが、私の部屋にしょっちゅう勝手に入ってるのは知ってるわ。でも今まで、部屋が荒らされたり、私の物を勝手に持ち出したりしなかったから、見逃しといてやった。一々追求するのも面倒くさいからね。」
「………」
「だけどなあ、人の部屋勝手に荒らしてプライバシー侵害した挙句、私が貰った物の事で何でアンタに説教されなきゃいけねえんだよ?ああ!?ごらぁ!!」
バシっ!ドカっ!ドンっ!
「ごめん!その事は本当に謝るし、もう二度としないから!イタっ!」
バチっ!ドスっ!ドンっ!
「てめえの謝罪なんか、今更信じるわけねえだろ!あんたのせいで私がどれだけ恥じかいたと思ってんの!もう我慢の限界だ!」
怒鳴りながら、容赦なく殴打や蹴りを加えてくる。
こんなに怒った麻由お姉ちゃん久しぶりかも……
ドカッ!ゴンっ!
「う……ごめんなさい!ぐえっ……」
「はぁ……はぁ……ふんっ!」
ドスっ!
度重なる殴打で虫の息になって倒れていた僕を思いっきり蹴り上げ、ようやく終わる。
「しばらく、あんたなんか顔も見たくないわ。さっさと出てって。」
「あ、あのね、麻由お姉ちゃん。麻由お姉ちゃんはあの人の事どう思ってるのかな?もしかして何か嫌な事されたりしたの?」
「私があいつの事をどう思おうが、何の関係もねえだろ。ああ!!?」
ドスっ!
またおもいっきり蹴りを加える。
うう……ちょっと骨折れちゃうかも……
「別にあいつの事なんか、何とも思っちゃいないし、付き合う気もないわよ。ったく、お前に限らず、男ってのはちょいと良い顔すりゃ、調子に乗りやがって。」


3 狂依存 23 sage 2010/11/06(土) 03:25:12 ID:xuKm5et9
「麻由お姉ちゃん、何か嫌な事されたりした訳でもないんなら、付き合う気がなくても、ちゃんと手紙を読んであげるくらいはしよう。ね?そうしないと相手も可哀想だと思うんだ……」
もしあの手紙読んで気持ちが揺れ動いたら、それはそれでまずいけど……
「だから何で、てめえにそんな事説教されなきゃいけねえんだよ。あんたの事だけでもこっちは頭が痛いのに、手紙で呼び出されたり、頼んでもいねえのに物あげようとしたり、一々面倒な事持ち込まれてこっちはうんざりなんだよ!」
「男なんか呼んでもいねえのに、どんどん言い寄ってきやがって。たまに女子から告白される事もあるけど、どちらにしろ本当勘弁して欲しいわ。まあ、あんた程しつこい馬鹿はいないけどね。ったく、いらねえプレゼントなんて捨てるのも面倒くさい。」
そんな言い方って……
まるで自分に好意を持ってる人たちをゴミ扱いしてるみたいじゃないか……
「そんな捨てるのは、良くないよ……もしかして僕があげた物も……?」
「当たり前じゃない。弟だからって特別扱いしてもらえるとでも思った?あんなもん貰った次の日にポイしてやったわよ。使えねえもんばっかり寄越しやがって。」
「……!」
全然使ってくれないので、もしかしたらと思ったが、流石にショックだった。
そりゃあ、僕がちゃんと喜んでくれるものをあげなかったのが悪いんだけど……
「だったら、最初からいらないって言ってくれればいいのに……」
思わず呟いた。
「はあ?受け取ってやっただけでも感謝しなさいよ。受け取った以上は私の物なんだから、私がどうしようが勝手。あんたが処分する手間が省けて良かったじゃない。」
「用は済んだ?じゃあもう出てって。」
「……」
「出てけっつてんだろ!」
バタンっ!
強引に部屋を追い出され、しばらく呆然とする。
「麻由お姉ちゃん……」
長い間、姉に抱いていた幻想が一気に崩れていくような感覚だった。
まさか、平然とあんな事をするような人だったとは……
そう言えば以前小耳に挟んだ事を思い出した。
麻由お姉ちゃんは勉強も運動も出来るし、可愛いので憧れてる人も多いが、それを周囲に威張り散らす様な態度をよく取っているので、あまり良く思ってない人も結構いるとかいう噂を。
「まさかと思ったけど……」
あの態度を見る限り、本当の様な気がしてきた。
僕にだけああいう態度を取ってるならともかく、他の人にまであんな態度を取ってるのだとしたら流石にまずいよなあ。
「麻由お姉ちゃん……」
姉に対してこんなにも不安を覚えたのは初めてであった。

「でも、誕生日プレゼントはちゃんと用意しないとね。」
翌日、今度は一昨日とは違うデパートに行き、麻由お姉ちゃんの誕生日プレゼントを探す。
今度こそ喜んでくれるプレゼントを買わないとな。
「うーん……何がいいだろう?」
何かアクセサリーがいいかな?
うーん……でもまた捨てられるとアレだしな。
「食べる物とかいいかも……」
麻由お姉ちゃんはチョコレートが好きだから、チョコケーキでも買ってあげようかな。
でもケーキだと誕生日のプレゼントって感じはしないな。
「じゃあ何に……ん?」
これは……
「可愛いなあ……」
それは、二匹の小鳥が向かいあってたガラスの置物だった。
そういえば、麻由お姉ちゃん昔インコを飼いたがっていたな。
親が反対して出来なかったけど、いつか絶対に飼うとか言ってた。
この小鳥は恋人同士なんだろうか。
値段もギリギリ足りるしこれにしようかな。
「僕たちも将来こんな風に……」
……なれるよな?うん。
今まで麻由お姉ちゃんと将来結ばれることを信じて疑わなかったが、初めてこの時本当に麻由お姉ちゃんに嫌われてるんじゃないかという不安に襲われてきた。
「やっぱり、怒っていたんだよな……」
ようやく自分が麻由お姉ちゃんにしていた事に気づき始めた。
まるで麻由お姉ちゃんをからかってるみたいにベタベタ付きまとって、変な事言って怒らせて……
僕は今まで何てことを…
これでは、嫌われて当然かもしれない。
もしかしたら、麻由お姉ちゃんがああいう性格になったのも。僕のせいなのかも。
「今までの事をちゃんと謝らないと……」
謝って許してくれるかどうかわからないけど、とにかくそうしたかった。
そして、本当の意味で麻由お姉ちゃんと仲良くなりたい。
そう思いながら、ガラスの置物を持ってレジに向かった。


4 狂依存 25 sage 2010/11/06(土) 03:26:13 ID:xuKm5et9
「ただいまー。」
「(来た。)」
コンコン
次の日の夜、プレゼントを渡すため、帰宅した麻由お姉ちゃんが着替え終わった頃を見計らって、部屋に行く。
「麻由お姉ちゃん、ちょっと良い?」
「……何?。」
あからさまに不機嫌そうな顔をして、呟く。
「あ、ごめんね……そんなに時間取らないから。」
「麻由お姉ちゃん、誕生日おめでとう。あの、これ……」
「プレゼントとか迷惑って言わなかった?」
「あ、あの、いらなかったら捨ててもいいよ。でも受け取ってくれると嬉しいな。それと今まで、その……」
ガシャーン
バタンっ
「え?」
今まで本当にごめんなさい。
そう言おうとした瞬間に、ガラスの置物が砕け散る音がした。
麻由お姉ちゃんが受け取った瞬間に廊下の壁に投げつけ、割ってしまい、そのまま部屋のドアを閉めてしまった。
「………」
しばらく呆然として、動くことが出来なかった。
……そうか、そうだよな。
何年もあんな事してたら、完全に嫌われても仕方ないよね。
「しょうがないよね……」
そう呟き、飛び散ったガラスを片付け始めた。

それからだ。
麻由お姉ちゃんに付きまとったりしなくなったのは。
あれからしばらく、ほとんど会話も無い状態が続いた。
まともに話しかける勇気すらなかった。
でもどうしても謝りたかったので、ある日意を決して麻由お姉ちゃんの部屋に行った。

コンコン
「はい。」
「麻由お姉ちゃん……あの、その……」
「……何?」
「あの、今までいっぱい迷惑かけてごめんなさい。この前、プレゼント渡す時に言おうと思ったけど、言えなかったから……」
「あっ……」
麻由お姉ちゃんが今にも泣きそうなぐらい済まなそう顔をしている。
その顔を見ただけでもう十分だった。
「だから、もう二度と変な事しないから、その……えと…そ、それだけだから。じゃ、じゃあね。」
「あ、ちょっと……」
そう言ってすぐ部屋を出て、自分の部屋に篭る。
これでやりたい事は全部やった。
もう迷惑かけたりしないからね。


5 狂依存 26 sage 2010/11/06(土) 03:28:18 ID:xuKm5et9
それから、何日かした後……
コンコン
「はい。」
「あ、あの……」
「ん?どうしたの?」
何か気まずそうな顔をしているけど。
「……えと……その……」
どうしたんだろう?
ガバっ
「え……?」
「ごめん…」
麻由お姉ちゃん……
僕に抱きついて、泣きながら謝る。
「ごめんなさい……この前は本当にごめんなさい……」
「あ、あの……」
麻由お姉ちゃんはひたすら、ごめんなさいを繰り返す。
「ごめん……ごめん……」
「も、もういいから。」
「僕の方こそ、今までごめんね。僕がずっと怒らせるような事してたんだから、麻由お姉ちゃんは何も悪くないよ。」
それが正直な気持ちだった。
今までした事を考えれば、あのぐらいされても仕方ない。
とにかく嫌われてなくて良かった……
「ごめん……ごめん……」
「ほ、ほら!もういいから。あの事はもう忘れよう。ね?」
うわ言の様に謝罪を繰り返す姉を慌てて引き離す。
もう、これで十分だから……
「……本当にごめんね……」
最後にそう言って、俯きながら部屋を出た。
「……引きずらないといいんだけどな。」
あの事は早く忘れて、早く元に戻って欲しい。
それだけが気がかりだった。

「ん……」
寝ちゃったのか……
「目が覚めた?」
え?
「ま、麻由お姉ちゃん!?」
目を覚ましたら、麻由お姉ちゃんが僕を見上げていた。
あれ、この態勢って……
「へへ。寝顔が可愛かったから、膝枕しちゃった。あ……迷惑だったかな?」
「ううん!そんな事はないけど……」
麻由お姉ちゃんの膝枕。
柔らかくて本当に気持ち良い……
「あ、あの、もう……」
ガバ
「え?」
「ごめんね……酷いお姉ちゃんだったよね……本当にごめんね……」
麻由お姉ちゃん……
僕の顔を抱いて、泣きながら謝る
「あのね……あのプレゼントを壊した後も、私しばらく平然としていたの……信じられないでしょう?でも、どうせ大輝の事だからまたすぐ馬鹿やってくるんだろうなって思ってた……」

ガシャーン!
バンっ
「……ふん。」
もういい加減にして欲しいわ。
毎度、毎度私に媚売るような真似しやがって。
「これで、しばらくは大人しくなるかな。」
どうせ、あいつの事だからすぐ馬鹿やらかすんだろうけど。
「さ、塾の課題やっちゃおう。」
こんなに課題出さなくてもいいのに。


6 狂依存 27 sage 2010/11/06(土) 03:29:25 ID:xuKm5et9
「ふぅ……」
ようやく終わった。
ちょっとトイレっと。。

「……」
部屋を出て、大輝の部屋の扉を何となく見つめる。
「やっぱり、ちょっとやり過ぎたかしら……」
いきなり、壊す事はなかったかも……
ぎぃ……
「あっ。」
ちょうど、部屋から出てきた大輝とばったり目があった。
「……」
今まで見た事もないような済まなそうな顔をして、すぐにどっかに行ってしまった。
あいつがあんな顔したのはいつ以来だろう?
いつも私の前ではニコニコしてたのに……
「………」
あの顔を見てじわじわと罪悪感が湧き出てくる。
ちょっとどころではない。
普通に考えれば許されない様な事を平気でしてしまった。
「私……」
少なくともあいつはあいつなりに、私の事を思ってやってたのに……
それなのに、とんでもない事を。

それから何日も大輝は私に話しかけてこなかった。
たまに目が合っても少し挨拶する程度だった。
あんなに落ち込んだ顔をして……
日に日に自分が今までした事への罪悪感が高まっていき、押しつぶされそうになってきた。

キーンコーンカーンコーン
「あ、あのさ……この間の手紙の返事、そろそろ、いいかな?」
「え?ああ……その…」
「ごめんなさい……」
「あ……そうか……うん、悪かったな。じゃあ……」
元々付き合う気はなかったが、それ以上に読まずに捨ててしまった事への謝罪も込めていいた。
結局言い出せなかったけど。
本当にごめんなさい。
心の中でそう何度も呟いた。

その日の夜
コンコン
「はい。」
「麻由お姉ちゃん……あの、その……」
久しぶりに大輝が私の部屋に入って話かけてきた。
何だろう?やけに申し訳なさそうな顔をしてるけど……
「……何?」
「あの、今までいっぱい迷惑かけてごめんなさい。この前、プレゼント渡す時に言おうと思ったけど、言えなかったから……」
「あっ……」
そう言えばプレゼント渡そうとした時、何か言おうとしてた気がする。

まさか……
「だから、もう二度と変な事しないから、その……えと…そ、それだけだから。じゃ、じゃあね。」
「あ、ちょっと……」
バタン
そう言うとすぐ出てしまった
「私、何て事を………」
確かに良く思い出してみると、あの時の大輝は笑顔の中にも何か申し訳ない事をした様な表情をしていた。



7 狂依存 28 sage 2010/11/06(土) 03:30:26 ID:xuKm5et9
あれは私に媚を売るとかそういうのでは全然なくて、今までの事を謝ってちゃんと仲良くしようって気でいたのか……
それなのに……
「うぅっ……うっ……」
涙が止まらなかった。
あの子の優しさに。それ以上に自分の愚かさ、醜さがどうしようもなく悔しかった。
「うっ…うっ、ごめん……ごめん…」
あのガラスの置物、思い出してみれば凄く可愛かった。
私が以前インコを飼いたいと両親に駄々をこねた事を思い出して買ってくれたのかも。
そう思ったら無性にあれが欲しくなってきた。
「なのに……何で……」
でも、もうあれは手に入らない。
例えあの子がまた同じものを買って私にくれても、それはあの時の物とは別の物だ。
去年貰ったストラップもその前の年のブローチもその前のぬいぐるみもその前の玩具の指輪も皆捨ててしまった。
全部二度と私の元には戻ってこない。
「ああっ……う……わああああんっ…んん……ごめんなさい……」
もう、戻らない時を悔いてずっと泣き叫んだ。
本当にごめんなさい……

それから数日後。
ようやく謝罪する決心がつき、あの子の部屋に行く。
コンコン
「はい。」
「あ、あの……」
「ん?どうしたの?」
きょとんとした表情をして、私を見つめる。
もう怒ってないのだろうか?
「……えと……その……」
いや、そんな問題じゃない。
ガバっ
「え……?」
「ごめん…」
大輝に抱きついて、泣きながら謝る。
「ごめんなさい……この前は本当にごめんなさい……」
「あ、あの……」
ひたすら、ごめんなさいを繰り返す。
それしか言葉が出なかった。
「ごめん……ごめん……」
「も、もういいから。」
「僕の方こそ、今までごめんね。僕がずっと怒らせるような事してたんだから、麻由お姉ちゃんは何も悪くないよ。」
どうして、そんなに優しくしてくれるの?
あんなに酷い事したのに……
「ごめん……ごめん……」
もう、二度とあんな事はしない。
もう二度とあなたを悲しませるような事しないから。
そしてあなたの為に何でもしてあげるから。
「ほ、ほら!もういいから。あの事はもう忘れよう。ね?」
「……本当にごめんね……」
本当に優しいのね。
でもその優しさに甘えたりしないから。
私もちゃんと変わるから。
大輝の事をちゃんと愛してあげられるお姉ちゃんになるから。
そう固く心に誓った。

「あの時からよ。私が大輝の為に何でもしてあげようって思ったの。あなたが望むならどんな事でもしてあげようって思った。」
「麻由お姉ちゃん……」
「本当に何でもしてあげるつもりだったのよ。お風呂に一緒に入りたいっていうなら、入ってあげたし、ご飯を作って欲しいって言うなら作ってあげたし、エッチな事したいって言うならやってあげた……」
「でも、あれから大輝変わっちゃたよね……私に全然甘えなくなったし、昔みたいに私に好意を前面に出すような事もしなくなった。」
「あの、それは……」
もう麻由お姉ちゃんには絶対に迷惑をかけない。
そう思ったから、付きまとったりしなくなったのに。


8 狂依存 29 sage 2010/11/06(土) 03:34:27 ID:xuKm5et9
まさか……そんな事で……
「あ、あの……あの時の事はもう全然気にしてないから……本当だよ。」
「ありがとう……でも私あの時誓ったのよ。もう大輝を傷つける様な真似は絶対にしないって……変わらなきゃいけないって……」
あれから二人の関係は変わった。
僕は麻由お姉ちゃんにやたらと付きまとったり、変な事言ったりはしなくなったし、麻由お姉ちゃんも優しくなった。
時々僕に甘えて抱きついてくる事もあった。
ようやく、本当の意味で仲良くなれたと思ったのに……
「麻由お姉ちゃん……ありがとう。その気持ちだけで充分だよ。だから……」
「だから、これからの人生は全部あなたに身も心も何もかも全部捧げるわ。。あなたの事を一番愛して、幸せにしてあげられる麻由お姉ちゃんになったから……」
いや、だからって何でそこまでしようとするの?
「あの……あの時の事は本当にもう、怒ってないよ。いや、最初から怒ってないからね。だから、もう忘れよう。ね?」
「ありがとう……でもそれじゃ、駄目なの。その優しさに甘えて私が変わらなきゃ、またあなたの事傷つけちゃう。だから、二度と繰り返さない為に私が変わらなきゃ駄目なの。」
ああ、何でそうなるのかな……
「あの……甘えて良いんだよ。麻由お姉ちゃんだったらいくらでも甘やかしてあげるし、同じことやっても絶対に嫌いになったりしないから。」
本当だ。
麻由お姉ちゃんにだったら、何をされたって絶対に恨んだりしない。
「優しいのね……でも、本当は怒ってたんでしょ?当然よね。私は大輝の誕生日にプレゼントなんかあげたことないのに、私にはプレゼントあげていて……それなのに、私……」
「いや、だから……」
怒ってないと何度言えば……
「あれから私に甘えなくなっちゃたし、私の誕生日に何もあげなくなっちゃったもんね……」
「……!!」
そうだった……!
あれから、もう迷惑だろうと思い、麻由お姉ちゃんの誕生日に何もあげなくなってしまったんだった……
「あ、あの、それはね……えと…」
「当然よね。人から貰った物を平気で壊したり、捨てたりする様な人にプレゼントなんかあげられる訳ないわよね……」
「でもね、次の年の誕生日に何もくれなかったのショックだったの……本当に勝手な話よね。あんな事しておいて、簡単に許せるはずないのに……」
何も言えなかった。
次の年の誕生日も何かあげようかどうか、迷ってはいた。
でも何をプレゼントしていいのかわからず、無理にあげても迷惑だと勝手に思い込んでそのまま放置してしまった。
そして、それがずっと続いた。
そうだよ……
これじゃ、まだ完全に許してないと思われても仕方ないじゃないか……
「ご。ごめんね!本当にごめん!怒っていた訳じゃないんだけど……その……」
「謝らないで。大輝は何も悪くないでしょ。私の勝手な我侭だったんだから……」
「で、でも……その年の僕の誕生日にはちゃんと僕にプレゼントくれたのに……」
あの年。僕が中一の時の誕生日に麻由お姉ちゃんは部活で使うスポーツタオルをプレゼントしてくれた。
初めて貰った誕生日プレゼントだったので、本当に嬉しかった。
それから、毎年僕の誕生日にはケーキやお菓子を作ったりしてくれていた。
なのに、何で……

「だから、あの時のお詫びに私はこれからの人生全てをあなたに捧げてあげる。ううん、それ以上にあなたの事を愛しているの。愛しているのよ。」
「ごめん……本当にごめん……」
何も言い訳が出来ない。
まだ許してないのか?
本当に怒ってないのか?
心の何処かでまだ恨んでいるのか?
許していたのなら、何でプレゼントをあげようとしなかったんだ?
全然怒っていないのなら、また壊されたって、捨てられたって怖がることなんかなかった筈なのに。
「思う存分甘えて欲しかった。子供の時のような無垢な笑顔をまた私に向けて欲しかった。でもあれ以来全然向けてくれなくなった。優しくしてくれたけど、それは他の人に向けていた優しさと同じだった。」
「もう私の事を特別な目で見てないんだなあって……そう思うと寂しくて。だから、もう一度私の事を愛して欲しいって気持ちがどんどん強くなった……」
「麻由お姉ちゃん……」
そんな……知らない間に、そんな寂しい思いをさせていたなんて……
思い起こしてみれば、あれ以来麻由お姉ちゃんに対して何処か遠慮がちに接していた。
迷惑かけない様に、甘えない様にと思いながら。
そして何か用がある時以外は僕から話しかける事もあまりなくなり、そういう接し方がいつしか当たり前になってきて何とも思わなくなっていた。
それが麻由お姉ちゃんをこんなに傷つけていたなんて……


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最終更新:2011年10月02日 09:08
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