『きっと、壊れてる』第11話

17 『きっと、壊れてる』第11話(1/8) sage New! 2010/11/07(日) 19:53:28 ID:Z23qtmjz
成績はそこそこだけど、スポーツ万能で人を許せる優しさを持った兄。
私が我儘を言っても、大抵の事は苦笑いしながらいつも頭を撫で、甘えさせてくれた兄さん。
同年代の異性にはないその包容力で、いつも私を守ってくれていた兄さん。
好きで、好きで、好きで、大好きで、誰にも渡したくなかった。

運動と感情表現が苦手だけど、成績優秀で人に厳しくできる優しさをもった姉。
私が我儘を言うと、優しくも凛とした態度で諭してくれた姉さん
家族の中で一番私の事を考えていてくれて、いつも私の道標になってくれていた姉さん。
好きで、好きで、好きで、大好きで、私は姉さんのようになりたかった。

もし、家族を1枚のパズルにしたら、きっと二人はお互いの足りない部分を埋めて、綺麗な風景を描くでしょう。
私がはまるスペースはきっと、そこにはない。

二人が家を出てから、父さんと母さんは塞ぎこんでしまった。
父さんは口数が極端に少なくなり、母さんは地域のボランティア活動に尽力する事で寂しさを埋めていた。
傍から見ていても痛々しいその姿。
お兄ちゃんは?
お姉ちゃんは?
いくら聞いても、少し遠い所で暮らす事になった、という答えしか返ってこなかった。
結局私は兄さんと姉さんがいなくなった理由がわからなかった。
ただ、今は父さんと母さんを励まそう、そう思った。

私は村上家の太陽。
昔、兄さんに言われた事がある。
地上や海を満遍なく照らし、生きる力を与える存在。

兄さん知っていた?
私、本当は引っ込み思案で、心の中は暗い事ばかり考えていたの。
ある日突然父さんや母さんが死んじゃったらどうしよう、とか。
兄さんや姉さんに無視されたらどうしよう、とか。

それでもね、私が笑うとみんな笑ってくれたから。
楓は明るいね、一緒にいると楽しくなるね、って褒めてくれたから。
私は太陽の真似をしたまま生きて行こうと思った。

そして兄さん達が出て行った理由も知らず、私は父さんと母さんを照らし続けた。
学校で嫌な事があった日も。
成績が落ちて落ち込んでいる時も。
インフルエンザで寝込んでしまった時も。

私が笑えば、父さんと母さんも少しだけ元気になってくれたから。
そして太陽を求めて、いつか兄さんと姉さんも帰ってきてくれると信じていたから。
私は頑張った。いつか、家族全員また笑いながら過ごしたい。
その願いを夜空に願って。

それから2年か3年経った頃か。
父さんと母さんも大分落ち着きを取り戻し、
我が家は元から私1人っ子だったように、3人の夕食でも違和感が無くなっていた。
私は兄さんと姉さんも通った中学校に進学し、平凡な毎日。
この対外用の性格も功をなして、私の周りには人が一杯集まり、
人間として何不自由ない生活を送っていた。

しかし……微かな違和感。何かが足りない。
理屈では説明できない体中を流れる血液が、否応なしに欲するその感覚。

そんなある日、私は真実を知った──。


18 『きっと、壊れてる』第11話(2/8) sage New! 2010/11/07(日) 19:53:54 ID:Z23qtmjz
最近お母さんが毎月末、時間は18時頃か。
誰かと定期的に連絡を取り合っている事に気付いた。

お母さんは几帳面なので、決まって18時少し前に夕飯の準備を始める。
しかし、取りかかっている最中に電話がかかってくるので、その日だけ夕飯の時間が30分程ずれるのだ。
勧誘電話等の可能性も考えたけど、お母さんがそういった電話をまともに取り合っている所を見た事がないので、
おそらく違うだろう。

そして不可解な行動。
楓がお腹をすかせ、部屋からキッチンまで催促しにいくと、お母さんは慌てる様に小声になり、すぐさま電話を切る。
そしてなぜか上機嫌な態度で、楓に夕食が遅れた事を詫びるのだ。
つまり、電話の相手がお母さんにとって大事な人物で、声を聞くと安心する、または気持ちが晴れる相手である事。
そして、楓に聞かれては困る相手だと言う事が推測できる。

該当する人物としては、不倫相手か……楓にとっても大事な人物である事しか考えられなかった。

けど、本人に「電話の相手は誰か」と聞いたところで、はぐらかされるに決まっている。
幸い、我が家の電話は未だにアナログ式のコードレスホンだ
お母さんは、キッチンにある子機を使って応対する。
楓の手は、いつの間にかパソコンのWeb検索サイトで『コードレス電話 傍受 子機』というキーワードを打ち込んでいた。
同時に自分の子供にはパソコンはできるだけ与えたくない、と心の底から思った。

次の月末、学校からなるべく早く帰るようにした。
部屋着に着替え、リビングでお母さんと簡単に会話をして、「課題が多いから夕飯まで集中する」と自室に籠る。
そして自室のドアを少しだけ開けて、耳を澄まし、電話の呼び出し音を待った。

プルルルルルッ。
15分程待っただろうか、聞き取りやすい電子音が私の耳に届いた。
先日、秋葉原の無線機器専門店で購入した受信機を机の引き出しから取り出す。
周波数は大体800から900MHz帯らしい。

正直、楓は専門的な事などまったくわからない。
駄目元で「コードレス電話を傍受したい」と店員さんに伝えたら、
ニヤリと笑い、細かい設定をしてから売ってくれたので非常に助かった。
こういう時、その種に精通した人間は役に立つものだ。

その店員さんの話では、もしデジタルコードレスホンや携帯電話での会話なら、盗聴は難しかったらしい。
言われて始めて気付いた。
お母さんは携帯電話を所持している。
なぜ電話の相手は、わざわざ家の電話にコールしてくるのかな。
楓にはわからなかった。

「プルルルルル……プツッ……はい、村上です」
お母さんの声。
傍受成功の喜びも忘れ、受信機から聞こえる音に集中した。

「……もしもし、私」
楓の予想は的中した。
懐かしくも、耳が記憶しているその透き通った声。
電話の相手はお姉ちゃんだった。

「茜、どう? 何か困った事はない? 仕事も始めたんでしょ?」
「うん、ライターをやっているの。全然お仕事もらえないし大変だけど、充実してる」
「浩介は? 大学で遊んでばかりいない?」
「生活費があるからね、そんな暇ないよ。講義が終わればすぐバイト。
私には隠してるけど、お友達からの遊びの誘いも断っているみたい」

お姉ちゃんとお兄ちゃんは、やはりどこかで一緒に暮らしているらしい。
しかもお金に苦労してまで。なぜだろう。
楓は心理の奥底に閉じ込めていた懸念が外へと飛び出さないように、両手で必死に胸を押さえつけた。


19 『きっと、壊れてる』第11話(3/8) sage New! 2010/11/07(日) 19:54:17 ID:Z23qtmjz
「……茜、やっぱりまだこっちにいた方がいいんじゃないの?
金銭的に余裕が出来て、それでも気持ちが変わらなかったら、浩介と二人で住めばいいじゃない」

気持ちとはなんだろう。
金銭的に苦しい状況を選択してでも、お兄ちゃんと暮らす理由は何?

答えろ。

いや、答えるな。
いや、答えろ。
答えるな。

楓の中で会議をしている兵隊さん達が、次々に殺し合いをして争っている。
この戦いの賞品は、楓の人生。

この受信機を今すぐハンマーで壊して、何も聞いてない、何もなかった事にすれば、
明るい楓の人格と、平凡だけどそれなりの人生が手に入る。
お姉ちゃんも『大好きなお姉ちゃん』のまま、お兄ちゃんは『初恋の人』。
ちょっと甘酸っぱい思い出。
例え、二度と会う事はできなくても、二人はいつまでも素敵な私の宝物。

「ううん、私は一生兄さんを愛すもの。気持ちは変わらないわ。それに、今もちっとも辛くない。幸せよ」

胸の中心を鋭利なナイフで切り裂かれたように、内側から何かモクモクとした物が飛び出た。
なんだろうこれ、そのモクモクは楓の周りを1周してから、口から内臓めがけて我先へと入り込んでくる。
何か封じ込めていた球体が割れ目から外側へ裏返しになって、再び球体になる感覚。
なぜか気分が晴れて行く。

お兄ちゃんとお姉ちゃんは愛し合っていた。
愛なんて子供が使う言葉じゃない!って怒られちゃいそうだけど、
あの二人にはお似合いの言葉。
わかってた。
二人が出て行くあの日まで、二人の一番近くにいたのは楓だもん。
そんな事はわかってたよ。

でも、楓は我儘だから、お兄ちゃんがお姉ちゃんに独り占めされちゃうのが怖かった。
信じたくなかった。

楓もお兄ちゃんが大好きで、一生傍にいたくて、誰にも渡したくなくて。
それでも、家族だから、兄妹は一生一緒にはいられないってわかってた。
いずれお兄ちゃんにも彼女が出来て、結婚して、お兄ちゃんの子供に「おばさん」とか言われて。
楓にも恋人が出来て、「初恋の相手はお兄ちゃん」って言ってヤキモチを焼かせたりして。

そんな普通の人生で我慢しようって。
それが運命だって。
そのうち、熱も冷めるって。

楓が我慢すれば、家族の関係を壊さずに当分の間はお兄ちゃんと一緒にいられるって。
そう思ってたのに。

……なんで壊すの?


20 『きっと、壊れてる』第11話(4/8) sage New! 2010/11/07(日) 19:54:47 ID:Z23qtmjz
夕食後、お母さんが何かを嬉しそうに話していたが、内容はまるで覚えていない。
部屋の隅にある、全身鏡に視線を移す。
笑わない顔……いや、本当の自分はこういう表情をしているのだと気付く。
皮肉にも、その顔はお姉ちゃんにそっくりだった。

自分の中で色々な事を整理する。
私の中で絶対的な意思。

お姉ちゃんが楓の気持ちも知らずに、お兄ちゃんを奪った事が許せない。
大好きなお姉ちゃんだからこそ許せない。

楓がどれだけ寂しさを我慢して、どれだけ無理をして両親を支えてきたと思っているのだ。
その間も、お姉ちゃんはお兄ちゃんと二人きり、映画のような駆け落ちでもしたつもりなのか。
その綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしてやろうか?

楓はお姉ちゃんへの一番有効な復讐の方法を考え、そして感謝した。
その方法を実行する事は楓にとっても、唯一無二の念願だったからだ。

お兄ちゃんを奪う事。

しかし、一つ問題がある。
現時点では、とてもお姉ちゃんに敵う気がしない。
女としての器が違いすぎる。
堅牢な城は、無鉄砲に突っ込み、力任せに叩いても崩れないのだ。
今は目的のための準備をする期間だ。
さっそく計画を練る事にする。

手始めに、もう誰に媚びを売る必要はない、私はこの甘ったるい喋り方を変える事にした。
自分の呼び方を『楓』から『私』へ。
今思えば、馬鹿な女にありがちな喋り方だ。よく恥ずかしげもなく使っていた、と我ながら呆れた。
周りの人間への呼称も改める。壁を隔てて会話をすれば、自分が私に好かれていないという事が理解できるだろう。
薄っぺらい知り合いが増え過ぎて鬱陶しかったところだ。丁度良い。

次に、勉学に励む。
年老いた頭の悪い女ほど見苦しい物はない。
肉体が衰えるのは仕方ない。しかし、教養と知識が兼ね備えてあれば、大分マシになるのではないか。
近所に住む頭の悪そうな中年男や主婦を思い浮かべる。
寒気がした。
私は、『人の噂』と『他人の不幸』しか楽しみがない人間には絶対になりたくない。
それにきっと、おに……兄さんは、理知的な女の方が好きなはずだから。
10代の内に必死で脳の鍛錬を行うのが正しい選択のはずだ。

最後に、私は髪を伸ばす事に決めた。
理由は特にない……と言いたいところだが、絶対的な理由があった。
私は姉さんが好きだった。

姉さんの髪がとても綺麗で、良い匂いがして、体に巻きつけて眠りたいほどだった。
それは甘い果実のような香りで、シャンプー等の人口的な匂いと、
姉さんの生まれ持った体臭が合わさった天分の匂い。
匂いはおそらく真似できないが、形だけでも姉さんに近づいてみたかった。

専門学校に行って新卒で職を得たとしても、私が20歳になる頃か。
姉さんに対抗できるほどの女になるのは、最低6年は時間が必要だ。
頭の成熟、身体の成長、安定した生活。兄さんを迎えに行くにはこれらが不可欠。
暗く、長い長い穴ぐらをもがき続けなければ光を見る事はできない。
これは忍耐力も鍛えられる。

私は無表情で冗談を言うと、再度全身を映す鏡を見た。
戦う女の顔だ、意外にも美しい。
私は自画自賛の笑みを溢すと、引き出しにしまっていた兄さんの写真を取り出し、日課である口づけをした──。


21 『きっと、壊れてる』第11話(5/8) sage New! 2010/11/07(日) 19:55:21 ID:Z23qtmjz
人生とは思い通りにはいかないものである。
だから面白いのだ、と声を張り上げる人間も多いが、
思い通りにいかない事が続くのも癪に障る。

姉さんに勝てる自信が付いてから、兄さんを迎えに行く。
こんなにも単純で明確な目標を設定しているのにも関わらず、我慢が出来なかった。
兄さんを遠目でもいいからこの目で見たかった。
真実を知ったあの日から、まだ2カ月しか経っていないのに、
私は兄さん達が住む街を、もう何杯目かもわからないカフェラテを飲みながら眺めていた。

昨日の姉さんと母さんの電話を思いだす。
「どう? 変わった事ない?」
「うん、特にない。ごめんね、月に1度は父さんや母さんの声が聞きたくなっちゃうから」
「……帰って来いとは言わないけど、遊びに来るぐらいすればいいのに」
「そうなんだけどね。兄さんがまだ苦しんでいるから。私だけ息抜きするわけにはいかないわ」
「浩介は電話すらしたくないって?」
「ううん。ただ何を話していいのかわからないのよ。母さんだって、兄さんにずっと無言でいられても困るでしょう?」
「そうね。あの子の事だから、無言か……ひたすら謝り続けるでしょうね」
「フフッ、多分ね。だから、もう少し時間をください」
「わかった。体に気を付けるのよ」
「うん……あっ……母さん」
「何?」
「今更思いだしたんだけど、私引っ越しをする時、持って行くのを忘れてしまった本があって……
送ってくれないかな? 着払いでいいから」
「うん、わかった」
「住所は墨田区の──」
「あれ? 変わってないじゃない。知ってるわよ。前に緊急時に備えて聞いたから」
「そうだったかしら。じゃあ、よろしくね。またね」

私はこの時、受信機を片すのも忘れ、小躍りをした。
まさかこんなにも簡単に兄さん達が住んでいる場所を把握できるとは思っていなかったからだ。
しかも、実家からそう遠くない場所ではないか。
意外にも大胆な兄さん達に、私は畏怖の念すら抱いた。

信号が変わると、向かいの歩道からたくさんの人がこちらに向かって歩いてくる。
今日は土曜、腕時計は午後7時を指している。
私は駅前ビルの2階にある喫茶店でカウンター席に腰掛けていた。
この席は駅前の横断歩道全体を見渡せて、歩く人物の顔も認識できる。
朝の10時頃この席に座り、かれこれもう9時間か。
先程まで店員の突き刺すような視線が痛かったが、シフトが入れ替わったようで少し安堵した。

こういう時、携帯電話を持っていないと不便な物だ。
家に居る時に友人からのどうでもいい連絡等が来るのが嫌で今まで持っていなかったが、
今度母さんに打診してみるか。
無理なら、兄さんを個別に呼び出せる方法を考えなければ。

昼過ぎにシビレを切らし、兄さん達の家に直接乗り込もうかと思ったが、
もし、姉さんに会ってしまったらどんな顔をしていいかわからないし、
私自身どんな行動に出るかもわからない。
まだ勝負の時ではない、今日は兄さんを一目見て帰ろうと心に決めた。

兄さんは今日ずっと家なのかもしれない。
そんな疑念を抱き、そろそろ帰宅しようとしていたその時。
私の瞳がまるで吸い寄せられたかのように、横断歩道で信号待ちをしている一人の男性を捉えた。

兄さん。

私は『一目見たら帰る』という自分との約束も吐き捨て、伝票を持って会計のレジまで走っていた。


22 『きっと、壊れてる』第11話(6/8) sage New! 2010/11/07(日) 19:55:46 ID:Z23qtmjz
商店街に続く比較的大きな通り、すぐに兄さんの背中を見つける事が出来た。
私がいつも飛び乗っていた背中。見間違う筈がない。
本当にこのまま小走りに走って飛び乗ろうかと思っていた矢先、兄さんの隣に不可解な人間を見つけた。
いや、最初から居たのに私が気付かなかったのだろう。
女。
髪は茶髪。背は私と同じぐらい。細過ぎず、太過ぎずな体型。
姉さんではない。
誰だコイツは。

二人は私に見せつけるかのように、自然に手を繋ぎ、楽しそうに歩いている。
恋人だろうか、可能性は高いだろう。兄さんの事だ、遊びで女とデートする度胸はないはず。
姉さんは知っているのか。
知らないはずがない、姉さんは兄さんの事なら、全てと言っても過言ではない程知りつくしている。
私は、姉さんがなぜ他の女と会っている兄さんを許しているのか理解できなかった。

すぐに一定の距離を取り、二人の後をつけた。
会話を聞きたいが、そこまで近づくのにはためらいがある。
私が判断を下せない内に、いつの間にか二人は立ち止まっていた。
周りを見渡し、住所を確認する。昨日、姉さんが洩らした住所の辺りだ。
二人の前にあるマンションがそうか。
どうやら女は兄さんを送ってきただけらしい。
二人が別れを惜しむように手を振り、兄さんがマンションの中へと消えていった。

私は……女の方を再び尾行する事にした。
兄さんを一目見るという目標はとりあえず達した。
家には姉さんが居るだろう。今深入りするのは得策ではない。
それよりも、この女だ。
なんなんだ、この女は。
今、私のすぐ横を小さく鼻歌を歌いながら通り過ぎたその女は、満面の笑みで世の幸せを独り占めしているように見えた。
私はその女の15m後ろを定位置に、日が落ちた街を歩き始めた──。

30分後、女は電車で2駅離れた駅で降り、駅近くの比較的綺麗なアパートに入っていった。
兄さんと比較的近くに住んでいるところを見ると、大学で知り合ったのだろうか。
しかしこのアパートを見るに、親からの仕送りが多いのだろうか。大層恵まれた家の娘の様だ。
私もまだ世間知らずの部類に入るとは思うが、この女もおそらくその部類だろう。
何不自由なく教育を受け、何も考えず男に寄生しようとする。
私は気楽に生きている女が嫌いだった。

女がオートロックを開けた瞬間、何食わぬ顔で一緒に敷地内に入る。
私はただの女子中学生。怪しまれる可能性も低いと判断しての行動だ。
脇にあった階段を上るフリをして、女が郵便受けを確認しているところを階段の陰から盗み見た。
エレベーターで女が上がって行ったのを確認し、私は郵便受けに駆け寄る。

上から2番目で、一番右のポスト。
表札は出ていなかった。
一人暮らし用のアパートなら、そう珍しい事ではない。
私は鞄から、念のために昨日PCで作っておいた『村上兄弟は男女の仲』と印字されている怪文書を1枚取り出し、
郵便受けの中に入れた。
本当は、兄さんと姉さんが住む家の近所にバラ撒こうかと思っていたのだけど、
よく考えれば、近所にバレようとも違う場所に引越せば良いだけの話だ。
兄さんと姉さんに金銭的負担を掛けるだけで、結局実家にはまだ戻ろうとしないだろう。それでは意味がない。

兄さんと姉さんは今は支え木のように寄り添っている。
とりあえず、私が比較的自由に社会の中を動けるようになるまで、兄さんを姉さんに貸しておく事にした。
それについては認める、忌々しいが仕方ない。
けれど、他の女は別。絶対に許さない。

私はそうして女のアパートを出ると、駅までの道を上機嫌に歩いた。
ヒロインを陰で支えるヒーローのように、私の心には妙な満足感が漂っていた。


23 『きっと、壊れてる』第11話(7/8) sage New! 2010/11/07(日) 19:56:09 ID:Z23qtmjz
次の月末。
いつも通りの時間に電話が鳴る。
私に盗聴されているとも知らず、わざわざ私が家に居る時間帯にかけてくる姉さん、呑気なものだ。
この日の会話の内容は私が期待していた以上の物ものだった。

「仕事には慣れた?」
「うん、だいぶ。兄さんのバイト代も合わせれば、それなりに余裕も出てきそう」
「頑張り過ぎてない? 辛かったらいつ帰ってきてもいいのよ?」
「大丈夫だよ。私の気持ちは変わらないから。ただ……」
「ただ?」
「やっぱり、兄さんは今の状況を良く思ってないみたい。私に『普通の恋愛をしろ』っていつも言ってる」
「そりゃそうよ~。浩介が正しいわ、そこは」
「私もわかってはいるんだけどね。気持ち的な問題はどうにもならないよ。それに……」
「それに?」
「兄さんが無理して、『普通の恋愛』を私に教えてくれようとしてる」
「どういう事?」
「最近別れてしまったんだけどね。この前まで兄さん、彼女がいたの」
「あら……そう。なんか……複雑ね。親としては喜ぶべきなんだろうけど。茜を放っておく浩介を見るのも嫌だわ」
「フフッ。兄さんはね、私──」

まだ姉さんと母さんの会話が続いているのにもかかわらず、私は受信機を止め、喜びに浸った。
兄さんはあの女と別れたようだ。
自分の思惑通りに事が運ぶというのは、なんと気持ちが良いのだろう。

そう、これは私と姉さんとの戦い。
部外者はそこら辺の男にでも股を開いていればいいの。
……しかし、兄さんも兄さんだ。
姉さんの口ぶりからすると、必死に普通の世界へ帰ろうとしているようだ。
普通の世界で我慢しようとしていた私の前で姉さんに堕ち、今更『普通の世界が良い』なんて虫が良過ぎる。

あなたはひとまず姉さんに飼われていればいいの。
私が身体的にも成長し、親の庇護から離れた立場になったら、迎えに行くから。

それからは何事もなく、平穏な毎日だった。
1月に1回だった姉さんの電話は、3,4ヵ月に1回までに減少した。
仕事が忙しくなり、それほど話題もないという意味なのだろう。
兄さんも就職し、周りは男だらけの職場らしい。

ここ数カ月、兄さんに会いたくて堪らない衝動に何度か襲われた。
でもそれは駄目。
まだ二人が家を出てから、そこまで時間が経っていない。兄さんの私への認識はただの妹だ。
兄さんの中で私の記憶が薄れた頃に、成長した姿で現れる事に意味があるのだ。
きっと、そうだ。

しかし、我慢するにもガス抜きと言うタスクが必要だ。
私は新しい日課の準備を始めた。
時刻は23時。自室の電気を消して、ベッドに潜り込む。
でも格好は寝着ではない。学校指定の紺色のセーラー服だ。

部屋に親が突然入って来る可能性を考えて、シーツを頭まですっぽりと被った。
そして兄さんのイメージを頭に描く。
兄さんはそろそろ21歳になる頃か。
私の記憶の中の兄さんと、この前少しだけ見れた兄さんのイメージを混ぜ合わせ、ベッドの中で抱き合っている妄想をした。

私のセーラー服のリボンを、兄さんの手がイヤらしく解く。
今回は、『意地悪な兄さんの大きく逞しい手で私の右手を掴まれ、無理やり自分の手で自分のの股間を弄らされている』という設定だ。
右手に力を入れて、スカートの中に手を入れる。
「ンッ」
下着越しに指先が当たっただけで、私の体は敏感に跳ねた。


24 『きっと、壊れてる』第11話(8/8) sage New! 2010/11/07(日) 19:56:31 ID:Z23qtmjz
買ったばかりの白い下着を、痛まない程度に横へずらし、
兄さんに掴まれた右手の中指でクリトリスをつついた。
「~~ッ!」
言葉にならない刺激。
私は兄さんに命じられるがままに、自分の秘部をクチャクチャと音を立て、掻き回す。
「ピチャッ……ピチャッ……嫌だよぉ……恥ずかしいよ」
兄さんは意地悪そうな顔をして、さらに激しく私の右手を動かした。
「ぐちゅ……ぴちゃ…クチュ…クチュ……」
堪らない快感が私の全身を駆け抜けた。
自らの手で秘部を弄らされる羞恥心と、犯されているという妄想の上限定の被凌辱感。
現実世界では見る事がない兄さんの意地悪そうな表情が、私を快感の奈落へと突き落としてくる。

「はぁ……はぁ……お兄ちゃん……もう……許して」
涙目で許しを請う私を見て、兄さんは余計に意地悪そうな表情を浮かべた。
左右の膝を両手でそれぞれ掴まれ、大きく広げられる。
「っ! やだぁ! 恥ずかしいよぉ!」
女の口は本当に気持ちと紐付けられていない事が多い。
私はかつてないほど濡れていた。

足を広げたまま、再び右手で秘部を弄る。
左手はいつの間にかセーラーの中に侵入していて、
同級生の中では比較的成長している私の乳房を激しく揉んでいた。
「痛いッ! もっと優しくしてよぉ」

どうやら私が文句を言うと、今日の兄さんは逆に興奮するようだ。
血走った瞳が私を捉え、右手と左手はさらに激しく各部を刺激した。
「ひゃあぁぁぁぁ! もうイっちゃう! やめてぇ!」
シーツの中で私の喘ぐ声が響く。
クライマックスは、兄さんがお風呂に入っていない体で、私を犯すシーン。
「イく! ホントにイく! あっ! あっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!」

しばらくすると、シーツを捲り寝る準備を始める。
終わった後、そのまま寝るわけにはいかないのがこの日課の欠点だ。

しかし……今日の設定は最高ランクだった。
レギュラー入りね。

私はいつか本物の兄さんと添い遂げられるのを夢見て、
窓の外で光る月に祈った。

第12話へ続く


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最終更新:2010年11月07日 21:32
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