『きっと、壊れてる』第12話

156 『きっと、壊れてる』第12話(1/7) sage 2010/11/23(火) 18:21:25 ID:kXhQTJR2
兄さんを迎えに行こうと誓ったあの日から、4年の歳月が過ぎた。
私は高校の3年となり、進路の決断を迫られていた。結論から言うと、まだ決めかねている。
当初は兄さんとの将来を見据え、医療系の専門学校にでも進学して手に職を得ようと思っていたが、
ここ数年は大学で遺伝学を学び、将来的には研究職に就きたいと思う様になっていたからだった。

「プルルルルッ」
電話の鳴り響く音が私のいる自室まで聞こえてくる。
なんてことのない音だが、私は時間が気になった。ちょうど18時。
月末に姉さんが掛けてくる時間と同じだ。
しかし今日は6月のまだ中旬で月末ではない。もし姉さんだとしたら何かあったのか。
私は念のため、ここ数年使用して愛着すら湧いてきた電波受信機を机の引き出しから取り出した。

「もしもし村上です」
「母さん? 私」
「茜? 久しぶりね。どうしたの?」
「特に用事はないんだけど、なんとなく
特に何か起こったわけではなさそうだ。どうでも良い世間話でもするつもりなのか。
そのわりにはここ数年、月末になっても掛かってこない事の方が多い。
姉さんも今の生活に慣れ、特に話す事はないが惰性で続けているだけなのかもしれない。
このまま何の情報も得られない状態が続くのなら、そろそろ盗聴をやめるか。
そう思った私は、欠伸をしながら内容を確認した。

「浩介は元気? そろそろ一段階出世する頃じゃない?」
「どうなんだろ。兄さんは家で仕事の話をあまりしないから」
「システムエンジニアって何をするの? IT業界って残業ばかりなんでしょう?」
「仕事の内容は私もよくわからないわ。残業は兄さんの部署は比較的少ないみたい」
「そうなの? まぁ元気でいるなら母さんも安心だけど」
「でも……つい最近、帰りがすごく遅い日があったの」
「残業あまりないんじゃないの?」
「えぇ。それに仕事や飲み会で遅くなる時は必ず連絡してくれるから、心配してしまったわ」
「結局なんだったのよ?」
「……兄さんが昔付き合っていた女性。玉置美佐さんと言うのだけど、偶然再会して飲んできたみたい」
「……それで? 茜は慰めてほしいの? 言っておきますけど、母さんは浩介の方が正しいと思うからね?」
「フフッ、わかってるわ。ただ、とても兄さんが楽しそうな顔をしていたから、私も嬉しくなっちゃって」
「……茜」
「じゃあ、兄さんそろそろ帰ってくると思うから、切るね。またね」
虫を踏み潰してしまった時のような不快感は久しぶりだった。『たまきみさ』というのか、あの女は。
姉さんの喋り方だと、ただ懐かしさに身を寄せお酒を飲んだだけの様な言い方だが、
実の妹と恋仲にあるという疑惑を持ち別れた女が、数年振りに再会したからといって仲良く酒を飲むわけがない。
かといって兄さんから誘うとは到底思えない。『たまきみさ』が誘ったのだ。また兄さんにちょっかいを出すつもりだ。

しかし、姉さんが何を考えているのかがわからない。
他の女と飲んできた兄さんを見て、自分も嬉しくなった? 勝者の余裕のつもりか、馬鹿が。
想定外の動きをするあの女の不気味さがわからない程、幸せ呆けしてしまったのか、それとも何かもう手を打ってあるのか。
後者だとしても、今回の事を母さんに話す理由はどこにもないので、おそらく前者である可能性の方が高いだろう。

時が来たのだろうか。姉さんから、兄さんを返してもらうその時が。
本来なら、私が就職するまで預けているつもりだった。
社会人になれば、誰に寄りかかっているわけでもないので、何を言われようが私の思い通りにできる。
姉さんに対抗するには、自立した女にならなければいけない。
そう思っていのだが、この数年で姉さんの兄さんに対する支配力が、ここまで落ちているとは思ってもみなかった。

久しぶりに自室の隅にある全身鏡を見た。
派手過ぎない程度に女性らしさを押し出した胸。
スラリと伸びた細長い脚。
髪を下ろすと姉さんにそっくりなこの顔。
……この私なら絶対に兄さんを取り戻す事ができる。
明日は平日か。学校をサボるのはあまり気が進まないが、とても勉強する気分ではない。
私は参考書にマークを付けるため購入した赤い蛍光ペンで、
メモ用紙にあの女の名前を書き殴ると、明日出掛ける準備を始めた。


157 『きっと、壊れてる』第12話(2/7) sage 2010/11/23(火) 18:22:09 ID:kXhQTJR2
視線を北東に向けると、白い骨で組み立てられた高い塔が見えた。
現在建設の真っ只中で、2011年には完成するスカイツリーだ。
個人的に東京タワーは少し気障な外見が気に食わない。
あのスカイツリーのように、私も逞しく堂々と地に根を張り生きて行きたいと思った。

隅田川沿いのテラスを私は一人ゆっくりと歩く。
近所に住んでいるわけでもない私にとっては、特別な用事でもない限り訪れる事のない場所。
こうして歩くと、水は多く道も広い。景観が良い場所が多くて悪くない街だ。
ただ、隅田川の濁った色が私の心情を表しているようで、少し腹が立った。
勢いでこの街に来たは良いもの、私の中ではまだ考えがまとまっていなかった。
『たまきみさ』を兄さんの周りから追っ払うのが最優先。
しかし、そのまま兄さんを迎えに行くには、それを達成しただけでは終わらないのがやっかいなのだ。
姉さんをどうにかしなければならないのだから。
正直まだ高校を出てもないのに、兄さんを連れて駆け落ちするのは無理かもしれない。
生活基盤がない上に、兄さんにも仕事がある。
そう易々とは私と一緒にどこかで暮らそうという気にはならないだろう。
仮に成功したとしても、私は大学を諦めなければならなくなり最悪の場合、兄さんに養ってもらうという失態を犯す事になる。
時期早々なのではないか、私の中で少しずつ疑問の声が上がり始めた。

……どうすれば、私と兄さんが最高の形で幸せを掴む事ができるのか。
現時点で一番簡単且つ私にとって得なのは、『たまきみさ』を闇討ちでもして亡き者にする事。
中途半端に追い払っただけでは、二度手間になる事を学んだ。
あの女に1ミリの可能性も残さない、それが今回の絶対的な目標だ。
それさえ達成できれば、兄さんが就職した業界は女性が少ないらしいので、当分変な虫は湧かない。
そして、またしばらく姉さんに兄さんを預け、私は自分磨きを続ける。
それが一番最善なのはまず間違いないだろう。
しかし……大学に行ったとするとさらに4年か、さすがに気が遠くなる。
今すぐにでも、この手で兄さんを奪い返し、抱きしめ抱きしめられたいと願っているのに。
『たまきみさ』と姉さんを一度に排せる良い方法はないものか。

後一つ問題がある。闇討ち、そんな事をどうやって成功させるのかという事だ。
ここは現実世界。
漫画や小説ではあるまいし、殺人など犯したらあっという間に警察の捜査が私を嗅ぎつける。
それに……私はあまり暴力が好きじゃない。
頭と言葉を使えない低俗な人間の行いだと思っているから。
懐かしい記憶が甦る、あれはいつだったか。

私がまだ活発な振りをしている頃、学校でからかわれていた友達を庇い、同級生の男子を蹴った事があった。
家に帰り、その事を自慢げに話す私に母さんや兄さんは苦笑いをしていただけだったが、
唯一姉さんだけは、部屋で私と二人っきりになった時、静かにこう言ったのだ。

「楓、暴力は駄目よ。敵を作るし、社会的なリスクが高過ぎるわ」
「『しゃかいてきなりすく』ってなぁに?」
「そうね……他のお友達から楓はすぐブッたり蹴ったりする、って思われてたらどうする?」
「楓は悪い男子を蹴っただけだよ!? なんでみんながそんな事思うの?」
「理由なんて関係ないの。この世界では偉い人が決めたルールに従って、みんな生きているの。
そのルールの中では、どんな理由であれ暴力を振るった人は悪い人になってしまうのよ」
「じゃあ、楓もいつか嫌われちゃうって事?」
「楓は頭が良いわね。そう、暴力で問題を解決していたら、いつか自分が悪者になって、
他のお友達から嫌われてしまうわよ?」
「やだよ~。そんなの」
「そうね。嫌よね? じゃあこれからは暴力を振るうのはやめなさい。楓には一杯お友達がいるじゃない。
みんなでその意地悪する子に『やめて』ってお願いすれば、その子もわかってくれるわよ」
「じゃあ! じゃあ! それでもその男子が意地悪やめてくれなかったら、どうするの?」
「……その時は、また教えてあげる」

あの時、姉さんが最後に一瞬だけ見せた顔。
それはカミーユ・コローが描いた肖像画の女性のように得体の知れない魅力を持ち、私の目を釘付けにした。
質問の明確な答えを求めていたわけではないが、姉さんが普段見せない感情の片鱗を見せた事。
それが当時の私は不安で仕方なかったのを憶えている。


158 『きっと、壊れてる』第12話(3/7) sage 2010/11/23(火) 18:22:36 ID:kXhQTJR2
私の横を赤ん坊を抱いた女性が通り過ぎる。散歩だろうか。
赤ん坊の小さな体をしっかりと抱えるその女性は、顔から幸福が滲み出ていた。
羨ましい。
私にもああやって兄さんの子を生み、兄さんの伴侶として堂々と街を闊歩できる日々が訪れるのだろうか。
……『訪れる』?
違う。
自ら向かわなければ、その道は私には遠すぎて見えない。
そうだ、兄さんを迎えに行くと決めたあの日から今まで、
誰に打ち明ける事もなく、誰を頼るわけでもなく、自分一人で歩いて来たではないか。
兄さんは、放っておいても私を迎えに来てくれる白馬の王子様ではない。
私がどうにかして『たまきみさ』と姉さんを駆除しなければならないのだ。
しかし……どうする……。何の後ろ盾もない、いち高校生の私に何ができる……。

「あ、あの」

背後から耳に侵入してくるどこかの男の声。
今すれ違った人間か。
明らかに違うとわかるが、念のため兄さんかどうか振り返って確認する。
やはり違う。

「もしかして、モデルさんか何かかな?」

しかし、本当にどうするか。
とりあえず『たまきみさ』に間接的な嫌がらせを行うのが一番手軽でリスクが少ないが、何をネタにするか。
兄さんと姉さんの性行為の写真でも撮って送ろうか。
……いやあまり好ましくないか。
盗撮するにしても隠しカメラか隠しビデオを兄さん達の家に設置しなければならない。
あの二人が家に友人や知り合いをしょっちゅう呼ぶとは考え辛いので、
カメラを発見された場合、私の仕業だとバレる可能性が高い。
それに……そんな物、私も見たくない。

「今ヒマなの?」

先程から雑音が五月蠅い。
ナンパのつもりか、なぜこういう男は無視されても一人で喋り続けるのか理解できない。
お前らについて行くような女は、顔からして馬鹿さ加減が滲み出ているのだから、そっちを狙えば良いのに。
第三者を巻き込む事を恥と知ってほし……第三者か。
私の頭で松明に火を灯したように、アイデアが浮かび出る。
手紙が入っているのと、人間が直接忠告しに来るのとでは不気味さが違うと容易に想像できる。
ましてや、『たまきみさ』は兄さんと同年代だろうから、20代の女だ。
知らない若い男が自分を訪ね、私生活を知っているとすれば、かなりの恐怖を抱くに違いない。

「オレさ、T大に通ってるんだけど今度サークルで映画を撮ることになってさぁ、
君みたいな子探してたんだ。よかったら撮らせてくないか?」

あからさまな嘘に私は鼻で笑いそうになった。
男の方に振り返り、表情を見る。
意外に嘘をついた事が少ないのだろう。目は泳ぎ、緊張した様子だ。
その男はいかにも遊び呆けている大学生といった容貌だった。
高校の同じクラスにも数人いる。
こういう外見ばかり気にしている中身のない男が。

「映画?」
私は興味がある振りをする事にした。
この辺に大学はないはず。
平日の昼間からこんな所にいるこの男は、この周辺に住んでいる可能性が高い。
『たまきみさ』の家から近過ぎず遠過ぎず、ヒマを持て余している若い男。
条件にはぴったりだ。
唯一の懸念は、『たまきみさ』が引っ越しをしていないか、という点だが、
そこは祈るしかない。


159 『きっと、壊れてる』第12話(4/7) sage 2010/11/23(火) 18:23:11 ID:kXhQTJR2
私が興味を持った振りをして色々質問すると、
男は嬉しそうにペラペラとつじつまの合わない事を、一生懸命それらしく聞こえる様に喋った。

サークルの映画なのに部外者の私が主演を張ってどうする。
小学生でも浮かぶ疑問を私は胸にしまった。
この男の本音を代弁すれば、要するに理由を付けて私とお近づきになりたいのだろう。
私としてはこの男を使う事に決めたので、返事はもう決まっているのだが、
こんな奴の言われるがまま承諾するのも癪に障る。

「なら、その相手役を私が決めていいのなら協力するわ」

私は条件を出した。
映画のヒロインは私。その相手も私が決める、と。
別にこの条件はどうでも良い。
この男がどこまで私をモノにしたいのか、忠誠心を量るだけのつもりだからだ。

「えっ!マジで!?やった!」

く、くくく、ははははははははははっ。
こんなに心の中で笑ったのは久しぶりだった。
男のなんとも嬉しそうな顔。
まるで、クリスマスプレゼントを貰う子供のようだ。
これだけののめり込み具合なら、条件次第では相当な事を注文しても素直に従うだろう。
こんな男でも使い道があるものだ。

先程から私の中にある黒過ぎる画策が現実味を帯びてきた。
もし、この男が私をモノにしようと誘いをかけてきたら、ひとまず受けてしまう。
ただし、『私の依頼を全て終えた後で、その誘いを受ける』と伝える事。
それさえ守れば、端的に言ってセックスの約束をしても良い。

なぜなら……相手をするのは私ではないからだ。

ふと、私は姉さんが昔よく言っていた言葉を思い出し、他人の意見を聞きたくなった。
「あなた、世の中に不必要な物って存在すると思う?」
「えっ!? 不必要な物?」
「そう、存在自体が邪魔な物」
「さぁ? あるんじゃないかな? ゴミくずとか、犯罪者とか」

やはり、馬鹿とはいえ一般社会に紛れている人間としては妥当な意見だ。
記憶を辿り、姉さんの顔と声を思い出す。

「良い? 楓。世の中にはね、不必要……要らない人や物なんてないの」
「なんでー? 楓は要らない物いっぱいあるよ? やぶけちゃった上履きとか」
「なんでも。いずれ楓にもわかる時が来るわ。だから人や物は大事にね」

そう言いながら私の頭を撫でる姉さんは、どこかの聖母のようだった。

しかし、今この時まで私は納得しておらず、この男とほとんど同意見だった。
精神異常者に付きまとわれ、殺された被害者の遺族を前にしても、
姉さんは死刑が確定した被疑者を庇い、同じ事が言えるのだろうか。
私のPC周りに蔓延る膨大な量の埃を、姉さんは「必要よ」と言って掻き集めるのだろうか。
そんな事はない。世の中不必要な物ばかりだ、と。

「あなたの言う事も一理あるわね、姉さん」

私は男の連絡先を聞くと、少し前までの憂鬱な気分が嘘だったかのように、上機嫌で帰路に着いた。



160 『きっと、壊れてる』第12話(5/7) sage 2010/11/23(火) 18:23:39 ID:kXhQTJR2
数日後、姉と母の電話で『たまきみさ』の勤め先が判明した。
私立N病院。あの女はどうやら薬剤師らしい。
有益な情報だが、あの女の情報が揃えば揃うほど不安になってくるのはなぜか。
理屈でなく本能、ありがちな言葉だが私の中でその感情が消えないのだ。
念のため、昨日学校帰りに今まで地道に貯金してきた20万円を引き出した。
身辺調査。たかが恋敵に異常かもしれない。
だが、念には念を。何も出なければそれで良い。私が安心できるのだから。

ところで……『たまきみさ』の情報は当然兄さんから聞いているのだろうが、
駆け落ち同然の自分に、他の女の話をする兄さんを姉さんはどう思っているのだろうか。
もし私が今の姉さんの立場なら、兄さんが他の女の話をする事は許さない。
街はおろか、テレビの画面ですら他の女に色目を使う事を許さない。
自慰行為で他の女の事を考えながら無駄に射精する事も許さない。
今の内から少しずつ、兄さんが約束を破った時の罰を考えておかなければ。
夜の日課の妄想ではもう数えきれない程試しているが、一度現実の兄さんにも口枷や首輪を着けてみたかったのだ。

邪な野望も程々にして、私はあの男に連絡をして『たまきみさ』への言付けを頼んだ。
そして、頼んだ人物を聞かれたら私の容貌を素直に答えて良いと付け加えた。
『たまきみさ』と姉さんが実際に会った事があるのかは不明だが、
容姿が判明したところで、ほぼ100%『村上楓』が容疑をかけられる事はないだろう。

渋っていた男だったが、最終的には承諾した。
交換条件の私とのデートとやらが魅力的で仕方ないのか。
この男の考えが手に取るようにわかる。当日お酒でも大量に飲ませて、私に下劣な事をしようとしている。
「単純な人間は生きるのも楽そうね」
独り言を呟くと、私の関心はすぐに今回頼んだ言付けで『たまきみさ』がどう反応するか、という所に移った。
まずは、けん制の意味合いが強い今回の言付けだが、恐怖という名の潜在意識は確実に植え付けられるはずだ。
いや、そうでなくては困る。
出来れば、これで引いてくれる事を切に願う。

時計を見た。そろそろ日課の時間。
今日は、何かを苛めたい気分だ。
昔考えた事がある。
もし、私と兄さんの歳が逆だったら、どういう会話をするのだろう、と。
ヤンチャな面影を残した兄さんを嗜める私。
笑顔で擦り寄ってくる小さい兄さんの頭を優しく撫でる私。

膣が疼く。今日の設定は「お姉ちゃんの為に頑張る弟」に決めた。

「楓お姉ちゃん! 今日は僕テストで100点取ったんだよ!」
ランドセルを背負って、私の腰に抱きつく兄さん。
記憶を辿り、兄さんを小学校高学年の頃の顔と体型に戻した。
本当はもう少し幼くしたかったのだが、当時の私が幼すぎてその頃の兄さんを記憶していないから仕方ない。
兄さんのセリフが設定の歳のわりに幼いのは、妥協する事にした。

場所は……そうね、実家にしておこう。その方がイメージしやすい。
兄さんと呼ぶのは少し気恥ずかしく、私は纏わりつく兄さんの頭を撫でながら愛称を考えた。
「浩ちゃんは偉いわね。女の子にモテるでしょ?」
「そういうのまだわかんないよ。でも楓お姉ちゃんは好きだよ」
眩しい笑顔を私だけのために向ける兄さん。
この真っ白なキャンパスを私色に染められる事に悦びを感じた。
「本当? でも言葉だけじゃ信用できないな」
「ホントだよ! 楓お姉ちゃんは僕が守るよ!」
一瞬、男の表情に変化する幼き兄さんの顔。
この純粋な兄さんが妄想の中を飛び出し、今現在ベッドの中で淫らに陰唇を指でなぞる私を見たらどのように思うか。

「浩ちゃんは優しいんだね。じゃあさ、私が気持ちよくなる事を一緒に手伝ってくれる?」
「うん! 何を手伝えばいいの?」
子犬のような目で、私の指示を待つ兄さん。
それだけで、愛液が溢れベッドが湿っている気がする。


161 『きっと、壊れてる』第12話(6/7) sage 2010/11/23(火) 18:24:01 ID:kXhQTJR2
「じゃあ私のここを優しく指でなぞってくれる? 力を入れちゃ駄目だよ?」
私は下半身に身に着けていたスカートとショーツを脱ぎ、横にあった椅子に座った。

「ここって?」
不思議そうな顔をして、されど本能なのか。
私の性器をまじまじと食い入るように見つめる兄さん。
「ここ」
私は小さい兄さんの指を右手で握ると、自らの陰唇に導いた。

「ひゃぁぁぁぁぁぁ!」
「だ、大丈夫!? お姉ちゃん」
少し大げさに声を上げてみると、予想通り兄さんは私を本気で心配した表情を見せてくれた。
「大丈夫よ。今の声ね、お姉ちゃんが喜んでいるって事なの。
痛い時は痛いって言うから、浩ちゃんは何も心配せずに今したみたいに、グチャグチャにかき混ぜてみて?」
「う、うん」

「……ピチャ……ピチャ……」
「アンッ! そこぉっ! もっと早く動かして!」
私の膣で、ぎこちない動きをする兄さんの指。
だが、そのぎこちなさが兄さんのキャンパスに、初めて筆を入れている事を実感できて興奮する。
「……グチュッ! グチュゥッ!」
「アアアアアァァァン!」
「お、お姉ちゃん」
「はぁあぁぁぁん! ……どうしたの?」
「僕、少し腕が疲れてきたよ」
「駄目よ? お姉ちゃんのお手伝いしてくれるんでしょ? そんな事言う浩ちゃんは嫌いになっちゃうかも」
「や、やだ! 頑張るから嫌いにならないで!」

私がそう言うと、兄さんは必死になって今までよりも早く、腕と指を動かし始めた。
なんて素直で愛らしい生物なのだろう。
私の性器もヒクヒクと意思を持ち始めたかのように、震えている。
そろそろ、イきそうだ。
ラストはどうしようか。

「あんっ! あんっ! ……ねぇ、浩ちゃん」
「なあに?」
「もうそろそろ終わりしようと思うんだけど、最後に浩ちゃんにお願いがあるんだ」
「そのお願いを僕が聞いたら、お姉ちゃんはもっと気持ち良くなるの?」
「えぇ、そうよ。浩ちゃんの事ももっと好きになる」
「じゃあやるよ! 何をすればいいの?」
「指はそのままでね、その指が入っている所のちょっと上、小さい突起物のような物があるでしょう?」
「……うん、なんか小さくて腫れてるみたいのがある!」
「そこをベロでペロペロしてくれる?」

私が指示すると、兄さんはそのまだ誰にも汚されていない可愛らしい舌で、私の陰核を舐めまわした。

「ひゃあぁん! そう、上手ね、指も休んでは駄目よ? 舌も指も私の為に動かして! それでねっ! 浩ちゃん!」
「ピチャ、ペロペロ……ピチャ……なに? 楓お姉ちゃん?」
「ヤンッ!……ああぁぁぁぁ! 『愛してる』って言いながらやって?」
兄さんは言われた通り指も舌も休まず、私を淫落へと導き、そして少し恥ずかしそうにしながら、その言葉を紡いだ。
「楓お姉ちゃん! 愛してるよ!」
「ヒッ……ヒャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「……ふぅ、暑い」
しばらくの間放心状態だった私は、ベッドから降りふと目に入った時計の針を見た。
日課を開始してから1時間が経過していた。
今日の設定は悪くなったが、レギュラーローテーション入りさせるには少し変化球過ぎるか。
私は自分より年下の兄さんとの行為を、もう一度だけ脳裏に焼き付けると、
再びベッドのシーツに包まり、芋虫のように丸くなった。


162 『きっと、壊れてる』第12話(7/7) sage 2010/11/23(火) 18:24:25 ID:kXhQTJR2
男に言付けを頼んでから、もうすぐ1ヶ月になろうとしていた。
まだ結果がどうなったかは聞いていない。
大学に、できれば推薦で入学したかったため期末テストの勉強を優先し、そんな暇がなかったのだ。
しかしそのせいで私は、自分の耳を引き千切りそうになるという人生初の経験をしていた。

「私達ね。普通の兄弟に戻る事にしたの」

受信機から聞こえる姉さんの透き通った声。
母さんの声も聞こえてはいるが、1秒後には記憶から泡が弾ける様に消えている。

「そう、私は兄さんの幸せが一番だから、身を引く事にしました。
ほら、この間話した玉置美佐さんともう一度お付き合いでもするんじゃないかしら?」

不味い、受信機を叩きつけてしまいたい衝動に駆られる。
もう少しだけ我慢しよう。

「えぇ。私も会った事があるけど、明るくてとても感じの良い人。あの人になら、兄さんを任せられるわ」

ハッ……ハッ……何が「兄さんの幸せが一番」だ!
お前が……ハッ……ハッ……一番兄さんを苦しめて……ハッ……ハッ……きたクセに!

「うん、じゃあまた落ち着いたら連絡する。兄さんもそっちに顔出したがっているから。うん、じゃあね」

……ガンッ、ガンッ、ガシャーン!
「ハァッ……ハァッ……」
私は受信機を釘打ち用のハンマーで壊した。
この数年間の情報と、私を不快にさせてくれたお礼として、精一杯の力を込めて。

でもありがとう、姉さん。これで、すべての決心がついた。
やはり今が時なのね。

まず、兄さん達の家に潜入する。今は丁度夏休み。理由はいくらでも思いつく。
そしてあの男に連絡を。
逃げてはいないと思うが、本当に『たまきみさ』に言付けを伝えたのか。
しっかりと伝えていたなら、その忠誠心はまだ使い道がある。
そして兄さんを私なしでは生きられないようにする。
少しだけ時間は掛かると思うが、できない事はない。必ずやってみせる。
そして、『たまきみさ』……待っていてね。
私はあなたのとても大切な思い出を握っているの。
恨むなら探偵業なんかを認めているこの国と、自分の運命を恨んでね。

部屋の隅にある鏡を見た。
我ながら良い顔をしている。何事にももう動じることはない。
4年前に誓った決意と、今日腹をくくった私の魂が見事に1つとなったのだ。
ヘタをすれば、もう実家へは戻れない。
リスクは承知の上だ。
世の人間は口を揃えてこう言うだろう。
実の兄を愛する欠陥人間だ、壊れている、と。
私から言わせれば、それは世間一般の主観であり、
道徳的な決めつけと、僅かな医学的根拠しかない欠陥理論だ。
私は断言する。
近親者への異性愛を認めないこの世界こそがおかしい。

姉さんの顔を思い浮かべる。
もう枯れてしまったみたいだけど、あなたは間違っていなかったから、胸を張りなさい。
そして、大人しくご飯でも作ってて?
私が証明してあげるから。
この世界こそがきっと、壊れているのだと──。

第13話へ続く


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最終更新:2010年11月28日 17:02
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