三つの鎖 8 前編

273 三つの鎖 8 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/05(土) 00:55:54 ID:tRtYc6li
三つの鎖 8

 あの日。多くが変わった日から次の登校日。
 僕はいつも通り早朝から家事を行っていた。思った以上に平静でいられるのが自分でも意外だった。
 もしかしたら習慣になっていることを行うことで平静を保とうとしているだけかもしれない。
 もちろん分かっていた。やらなくてはいけない事は春子と梓と話すこと。
 二人の行動の理由を聞かなくてはならない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 兄さんが朝食の片付けをしているのをしり目に私は風呂場に向かった。朝食が終わって父さんと京子さんは出勤する前に私はシャワーを浴びるために風呂場に入った。
 あの日。兄さんはおかしかった。見た目こそいつもと変わらないがかすかに動揺していた。何があったのか。
 推測する材料はいくつかある。
 一つ。兄さんは自分のベッドで寝なかった。
 あの日、兄さんと夏美が玄関で話している間、私は兄さんの部屋の布団にもぐりこんだ。兄さんの匂いはあまりなく、洗濯したてのシーツに匂いしかしなかった。
 二つ。お風呂が念入りに掃除されていた。
 私がいつも通り朝のシャワーを浴びるために浴室に行くと、なぜか念入りに掃除されていた。前日お風呂に入る前に私が掃除したのに。
 三つ。兄さんと夏美の間に何かがあった。
 朝食のとき、夏美はちらちら兄さんを見ていた。兄さんと目が合うと恥ずかしそうにうつむいた。
 結論。夏美は兄さんと寝た
 沸騰する感情の中、私は意外と冷静に考えていた。寝たとしたらどこで寝たのか。夏美と春子は同じ部屋で寝ていた。他に人が寝られるスペースも布団もない。
 ならば風呂場でやったのだろうか。それならばお風呂が念入りに掃除されている理由も説明がつく。しかし証拠がない。
 私は手っ取り早く確かめるために兄さんに質問した。兄さんは何も答えなかった。
 それが私を苛立たせた。私が兄さんの足を払いのしかかったのも、関節を決めて無理やりにでも聞き出すつもりだったからだ。
 だけど兄さんの唇を見た瞬間、我慢の限界を超えた。夏美か春子が兄さんの唇を奪ったと思うだけで感情が爆発した。
 私は兄さんの唇を奪った。久しぶりの兄さんの唇は兄さん以外の味が微かにした。
 頭をふり私はシャワーの温度を下げた。熱くなった体に冷たいシャワーが心地よい。突き止めなくてはならない。兄さんが誰とキスしたのか。
 浴室を出て時計を確認すると思った以上に長い時間シャワーを浴びていた。手早く準備をする。今日は自分で簡単に髪を手入れした。髪を下ろしリビングに入った。
 兄さんはいない。二階の掃除をしているのだろう。キッチンの弁当を鞄に入れ家を出た。
 いま兄さんと顔を合して冷静でいる自信が無かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 兄さんに髪をすいてもらわなかった分、学校には早めに着いた。
 教室にはすでに夏美がいた。ぼんやりとしている。私はすぐに分かった。恋する女の顔。
 「夏美」
 私は名前を呼んだ。びくっと震え夏美は私の方を見た。
 「あずさー。おはよう!」
 にっこりと笑う梓。笑顔が嘘くさい。私は椅子に座った夏美を見下ろした。
 「この前は私の家で面白い事をしてくれたわね」
 夏美の顔色が変わる。もちろん、私は何があったかは知らない。だけど、夏美の反応だけで十分だ。
 「ばれてないつもりなの?」
 自分の唇にふれる夏美。
 兄さんの唇を奪ったのはお前か。
 「兄さんの唇はどうだった」
 全身の血液が沸騰する感覚を押さえ私は夏美に尋ねた。夏美の頬が赤くなる。
 気持ち良かったんだ。嬉しかったんだ。そうでしょうね。私の兄さんだもの。ゆるせない。
 「その、えと、あの」
 夏美は赤い顔でもじもじする。その顔を引き裂きたい。
 「ご、ごめん!隠すつもりじゃなかったの」
 ふざけるな。殺してやる。
 「まあいいわ」
 私は熱い息を吐いた。今は何があったか聞き出すのが先決だ。制裁はその後でも遅くない。
 「よかったら詳しい話を教えてくれない?」
 私が夏美に囁くと、夏美はさらに顔を赤くした。
 「言えないの?」
 夏美が私を見上げる。発情した雌猫の表情。苛々する。きっと兄さんにもこんな表情で迫ったに違いない。
 「そのね、お兄さんに、その、告白、しちゃったんだ」
 恥ずかしそうに言う夏美。
 いつだ。二人でアイスを買いに行った時か?朝食の後か?


274 三つの鎖 8 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/05(土) 01:00:41 ID:tRtYc6li
 兄さんは夏美の告白を受けたのか?断ったのか?
 「あの兄さんのどこがいいのか理解に苦しむわ」
 お前に私の兄さんの良さが分かるのか。
 「で?兄さんは何て言ったの?」
 夏美は恥ずかしそうにうつむいた。
 「私が返事は後でいいって言ったから、まだ返事はもらってない」
 少し意外な気がした。キスまでしたのだから兄さんは夏美の気持ちを受け入れたと思ったのに。まだ返事をしていないなんて。兄さんに今まで告白した女は何人かいるが、後から聞いた話では兄さんは全てその場で断ったらしい。
 これは吉か凶か。
 「そうなの。だから兄さんも夏美も眠そうにしていたのね」
 「ううん。私はすぐに寝ちゃったんだ。緊張して疲れちゃって」
 夏美の目を見る。まっすぐで綺麗な瞳。嘘をついているようには見えない。兄さんはあの日の夜、どこで寝たのか。どこにいたのか。
 「私はてっきり春子と話し込んでいると思ったけど。一緒の部屋だったのでしょ?」
 春子と夏美は同じ部屋で寝ていたはず。
 「うん。でも私はすぐに寝ちゃって」
 そういえば夏美は春子に連れられて来た。
 「家に泊まりに来たのも兄さんに告白するのが目的だったの」
 もしそうなら春子も共犯。
 「違うよ」
 夏美は頭を振った。
 「あの日の放課後にハル先輩に会ったんだ。ほら、私あの日のお昼にきまずかったじゃない。春子先輩が協力するって言ってくれたんだ。お泊まり会するから一緒に来ないかって」
 ますます分からない。
 あの日のお昼の夏美を見れば、兄さんに気があるのは一目で分かる。春子はその場にいた。つまり春子は夏美の気持ちを知った上で連れて来た。
 春子は夏美に協力した。夏美は兄さんに告白してキスまでした。夏美は夜寝ていた。
 じゃあ兄さんは夜どこにいた?誰かといた?もしそうなら誰といた?そして何をしていた?
 おそらく兄さんはお風呂にいた。そしてなぜか掃除した。
 消去法でいくと春子といたことになる。しかし春子は夏美に協力していたからそんな事をする理由が無い。
 考えられるのは夏美が嘘をついている可能性。
 「春子も相変わらずおせっかいね。兄さんがちゃんと夏美に優しくキスできたか心配だわ」
 夏美は顔を真っ赤にした。
 「そのさ、私、ファーストキスだったから、よく分からないよ」
 夏美が嘘をついている可能性は低そうだ。夏美は良くも悪くも単純で考えがすぐに顔に出る。
 「意外ね。夏美ってもてそうなのに」
 夏美は可愛くてノリがいい。男が寄ってくるだけの魅力は十分にある。
 「私さ、いつもはテンション高く見えるかもしれないけど、すごく恥ずかしがり屋なんだ。お兄さんに髪をすいてもらっている時とか恥ずかしくて頭が変になるかと思った」
 顔を赤くする夏美。その表情から羞恥と喜びが読み取れる。殺したい。
 「梓ってすごいよね。毎日お兄さんに髪をすいてもらってるんでしょ」
 「別に毎日ってわけじゃないわよ」
 嘘。毎日の楽しみだ。今日はまだだけど。
 「私は無理。嬉しいけど恥ずかしすぎるよ」
 夏美はため息をついて机にへばりついた。
 「わたしさー、梓とかハル先輩とか羨ましいと思ってたんだ。梓はお兄さんと一緒に住んでるし、ハル先輩はお兄さんにいっつもべったりしてるし。
 でも好きな人とずっと一緒にいたりべったりするのってすごく大変だと思う。髪の毛さわられるだけで初めて寝る布団で熟睡しちゃうほど疲ちゃったよ」
 そんなものなのかな。私は好きな人の側にずっといたいけど。
 「兄さんは夏美の告白を受け入れそう?」
 私は一番気になることを尋ねた。
 「うーん。分からない」
 夏美はため息をついた。切なそうな表情。むかつく。
 他のクラスメイトが教室に入ってきた。私たちの会話はここで途切れた。
 とりあえず夏美の事は放置しておいて大丈夫だろう。告白してキスしただけのようだ。それだけで万死に値するが。そうせ兄さんは夏美をふるだろうし。
 私は夏美を見た。顔を微かに染めてぼんやりしている。兄さんの事を考えているのだろう。
 怒りに頭が沸騰する。よくも私の兄さんを穢したな。私だけの兄さんを。兄さんは私のものなのに。
 私は教室を出て屋上に向かった。怒りで頭が変になりそうだった。
 屋上から校門を見下ろす。大勢の生徒が登校している。その中に春子を見つけた。
 そうだ。春子も問い詰めなくては。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 僕は一人で登校した。
 梓は僕が二階を掃除している間にお弁当を持って家を出た。これは今日は話しかけるなということだろう。


275 三つの鎖 8 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/05(土) 01:06:04 ID:tRtYc6li
 のんびりはしてられないが、お昼に梓の教室に行っても梓は不機嫌になるだけで話を聞かないだろう。
 夏美ちゃんの顔が浮かんだがすぐに消した。まずは春子と話そう。
 春子との情事が脳裏に蘇る。なぜ春子はあんな事をしたのか。
 ずっと僕と梓のお姉さん代わりだった春子。いつも僕と梓の世話を焼いてくれたいちばん身近な女性。何があったのか。何を考えているのか。そんな事を考えながら教室に入った。
 春子は黒板を拭いていた。
 思わず身構える僕。春子は僕に気がついた。
 「おはよう幸一君」
 いつもより控え目な笑顔。また黒板を拭く。
 僕は驚いた。いつもの朝なら僕に抱きついて頬ずりしてくるのに。釈然としないまま自分の席に座った。
 耕平が話しかけてきた。
 「村田としっかり話合ったみたいやな」
 違う。
 「村田は納得してくれたんか?」
 僕はあいまいに笑った。チャイムが鳴る。ホームルームが終わって一時間目の授業が始まる。
 授業中にノートの切れ端が僕に回ってきた。
 『話したいことがあるからお昼に二人でご飯を食べよ 春子』
 春子を見ると視線が合った。断る理由はない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 お昼休みに耕平が話しかけてきた。
 「飯どないするん?」
 「春子と話があるから、生徒会準備室で食べる」
 生徒会準備室は人が来ない。聞かれたくない話をするにはいい場所だ。場所を耕平に告げたのは、万が一春子に拘束された時の用心。
 「そか。俺は学食行くわ」
 春子が話しかけてきた。
 「どこで食べる?」
 「生徒会準備室に行こう」
 春子は頷いて歩き出した。僕はその後ろを歩く。春子に先導させるのは春子に背中を見せないため。
 僕と春子は生徒会準備室に入った。この部屋は人が通ることのない廊下の先にある。生徒会準備室とは名前だけで、不便な場所にあるため物置として使われている。
 それを春子は掃除し、整理した。僕も手伝わされた。滅多に使う事がないため湿っぽい匂いがするが、整理され清掃されている。
 特に目につくのはなぜかベッドがあることだろう。保健室の余りなのか、放置されていた。春子は布で飾り立てホテルのベッドのようにした。時々ここでお昼寝しているらしい。
 昔の事が脳裏に蘇る。春子に生徒会の仕事を手伝ってとこの部屋に呼び出された時、春子はベッドの下に隠れていた。
 ベッドはスチールの骨組だが、春子の改造でベッドの横にカーテンのように布が垂れていて下は見えない。僕は全く気がつかなかった。ベッドの下から春子が這い出てきた時は文字通り飛び上がって驚いた。そんな僕を見て春子は嬉しそうに笑った。
 昔の事を脳裏から追い出す。僕は椅子だけを出して春子と少し距離をとって座った。
 「心配しなくても何もしないよ」
 笑う春子。僕は黙殺した。油断はできない。
 「それにお姉ちゃんが何かしても無駄だよ。幸一君は同じ失敗はしないもん」
 春子が僕を拘束しようとするなら、何らかの薬品か手錠やスタンガンなどの道具。手の届く範囲にいてはいけない。
 二人でお弁当を無言で食べる。
 「梓ちゃんに話した?」
 春子は内容を言わないが、何なのかは分かった。僕は頭を横にふった。
 「あの日はね、お風呂に入っている幸一君を私が背中を流してあげようとお風呂に突撃して、私の裸を見た幸一君が鼻血を出してお風呂を掃除することになった。その後幸一君は怒って私とずっと話合って、私は反省して幸一君にべたべたしないと約束した」
 すらすらと春子は話す。
 「そういう事にしておいてね。梓ちゃんにもそう言ってね」
 「あの時、何であんな事をしたんだ」
 僕は春子を見た。いつも僕を見守ってくれた明るい笑顔。その笑顔に嫌悪を感じてしまう。
 「幸一君を愛しているから」
 「あれが春子の愛し方なのか」
 春子はお弁当を置いて椅子から立ち上がった。僕も警戒して立ち上がる。
 「幸一君はお姉ちゃんの体良くなかった?」
 恥ずかしそうに春子は言った。脳裏に春子の白い裸体が浮かぶのを無理やり追い出した。
 「あんな状況でなければ別の感想もあったかもしれない」
 「そんな状況ありえないよ」
 春子は断言した。
 「幸一君にとって私はお姉ちゃんだもん。もし私が幸一君を好きって言っても幸一君は断るよ」
 「そうかもしれない」
 春子は僕にとって一人の女性というより家族としての気持ちの方がはるかに大きい。
 「でも、だからってあんな事をする理由にはならない。それに春子は僕をふったじゃないか」
 まだ僕が中学の柔道部で天狗になっていた頃、僕は春子に告白したことあがる。春子は僕をふった。


276 三つの鎖 8 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/05(土) 01:07:46 ID:tRtYc6li
 「あの時の幸一君は本気じゃなかったじゃない」
 春子の言う事は正しい。あの時の僕は単に彼女が欲しいと思い、春子なら断らないと思ったのだ。柔道の腕を鼻にかけ愚かで最低な昔の自分。
 「それにあの時の幸一君は少なくとも誰のものでもなかった。付き合ってまで独占する必要はなかったよ」
 言い方が引っかかる。
 「まるで今は誰かのものみたいな言い方だな」
 春子は僕を見た。見たことのある表情。どこだ。
 「嘘だよ」
 思い出した。春子が僕にくっついているのを見て不機嫌になった梓の表情に似ている。
 「分かっているでしょ?今の幸一君は梓ちゃんのものだよ」
 春子の言う事が胸に突き刺さる。
 「梓ちゃんはずるいよ。あんな方法で幸一君を手に入れるなんて」
 「梓は僕の妹で僕は梓の兄だ」
 春子はうつむきながらスカートの裾を両手でつかんだ。僕は身構えた。スカートの下に何かを隠しているのか。
 しかし春子はそのままスカートをゆっくりたくしあげた。白い太ももと黄色い下着が徐々に姿を現す。
 罠だ。
 僕は春子の全身を視界にとらえた。視線を逸らすと襲いかかってくるに違いない。
 春子が顔を上げる。その顔は恍惚としていた。恥ずかしそうに、嬉しそうに僕を見つめる。濡れた視線が僕に突き刺さる。
 「幸一君覚えてる?まだ幸一君のが入っている感触があるよ」
 春子は白い太ももを悩ましげにすり合わせた。もじもじと何かを我慢するように。艶めかしい動き。
 「昨日の休み幸一君はなにをしてたの?お姉ちゃんはね、幸一君とのセックスを思い出してずっと一人でシてたよ」
 恥ずかしそうにうつむく春子。桜色に染まった頬。震える肩。切ない吐息。男の劣情を誘う女の仕草。
 自らスカートをたくし上げ下着をさらしうつむく春子は壮絶な色気を放っていた。
 「幸一君のが何度もお姉ちゃんの膣をこすりあげる感覚が気持よすぎて、思い出すだけでお姉ちゃんあそこがビショビショになるんだよ」
 すでに春子の黄色い下着は見て分かるほど濡れていた。
 「春子。やめろ」
 「必死に我慢する幸一君の表情が可愛すぎて、お姉ちゃん興奮したよ」
 恍惚とした表情で僕を見る春子。僕にのしかかり嬉しそうに腰を振る春子の姿が脳裏に浮かぶ。僕は唇を噛み締めた。
 「腰を振る度にお姉ちゃんの膣がこすられて頭が真っ白になって」
 春子は白い太ももを悩ましくこすり合わせた。長くて綺麗な素足が付け根まで露わに動く。春子の視線は僕の股間にくぎ付けになっている。
 「幸一君がイってお姉ちゃんの膣に熱い精液を出したとき、やけどするかと思うほど熱かったよ」
 大きく息を吐き出して春子は床にへたり込んだ。
 「お姉ちゃんの膣で幸一君のが震えながら精液を出す度に、頭が真っ白になって何も考えられなくなったよ」
 女の子座りのまま僕を見上げる春子。震える肩。濡れた視線。スカートから白い脚がはみ出る。
 僕は動かない。
 「ふふ、幸一君のが少し大きくなってるのがここからでも分かるよ」
 春子の視線は僕の股間に向けられる。屈辱的だが、春子の言うとおり僕の剛直は少し大きくなっていた。
 「その手には乗らない」
 「ふふっ、幸一君すごいね。お姉ちゃん自信をなくしそうだよ」
 「目をそらしたりしたら襲いかかるつもりなんだろ」
 春子は笑った。嬉しいのか悲しいのか分からない笑顔。
 「幸一君はお姉ちゃんの自慢の弟だよ。そんな手にはもう引っ掛からないよ」
 「その弟を犯したのは誰だ」
 感情的になっている自分。落ち着け。
 春子はベッドの上に腰をかけた。スカートをたくし上げ、胸を強調するように突き出し上目使いに僕に濡れた視線を向ける。
 「ねえ幸一君。お姉ちゃんとシよ」
 「断る」
 僕は即答した。
 「ちぇっ。まあいいや。お姉ちゃんはいつでもいいからね」
 春子は立ち上がりスカートを払った。
 「幸一君もどろ。お昼休みが終わるよ」
 教室まで戻る途中、僕たちは無言だった。僕はますます春子の事が分からなくなった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 午後の授業で再びノートの切れ端が回ってきた。
 『放課後屋上に。私が先に行くから少し経ってから来て 春子』
 春子を見ると目が合った。僕はうなずいた。
 一体春子は何を考えているのか。春子は僕を好きだったのだろうか。
 確かに昔からずっとからかわれていた。僕の世話を焼こうとする春子と僕はよく夫婦とからかわれた。春子は姉弟とのんびり訂正していたが。
 でも春子が僕を好きなら、何で夏美ちゃんを応援するような事をする?


277 三つの鎖 8 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/05(土) 01:09:32 ID:tRtYc6li
 あの日に夏美ちゃんを連れてきたのは春子だ。夏美ちゃんの様子を見ればどんな鈍い僕でも好意に気づく。春子も分かるはず。訳が分からない。
 そして梓。
 何を考えているのか。梓がキスをしてきた時は本当に驚いた。小さい時は何度もキスしてきたが、子供同士のじゃれあいの範囲だ。
 梓に他の誰かとキスしたのかと聞かれた時、見られていたのかと思った。しかし、二階の階段から僕と夏美ちゃんがキスした玄関は見えない。どうやってキスしたことを知ったのか。
 梓は僕にキスをして、その後に僕が他にキスしたのかと尋ねた。小さい時に何度もキスをしたから、僕以外のキスの味が分かったとでも言うのか。まさか。そんな事はありえない。
 ならば何で僕にキスしてきたのか。梓が何を考えているのか全く分からない。
 ふと春子の言葉が脳裏に蘇る。
 (分かっているでしょ?今の幸一君は梓ちゃんのものだよ)
 思いついた考えに戦慄する。
 まさか梓は僕を独占したいと思っているのか。だから僕が誰とキスしたか知ろうとしたのか。
 自分でも何でそんな考えを思いついたのか分からない。僕と梓は血のつながった兄妹なのに。意味の分からないおぞましい発想。
 でもそれ以外の理由は思い浮かばなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 放課後。春子はすぐに教室を出た。
 耕平が話しかけてくる。
 「お昼に村田と何を話したん?」
 「…家庭の事だよ」
 間違いではない。耕平は信頼できる男だが、とても話せる内容ではない。
 「耕平」
 「何や?」
 「春子が僕の事を好きというのはあり得ると思う?」
 耕平は少し考えた。
 「正直可能性は低いんちゃう。可愛がってるのはよく分かるけど、あいつ昔お前の告白を断ったやろ」
 耕平は大体の事情を知っている。
 「まああの時の幸一は嫌な奴やったから仕方ないかもしれへんけど」
 僕は怒らない。耕平の言っている事は正しい。
 「それにや、高校に上がってから何度かお前に女の子紹介したやろ?」
 何度か女の子から春子に頼んだ事があったらしい。結局、友達以上の関係になることはなかった。
 「もしホンマに好きやったらそんな事はせえへんやろ」
 それもそうだ。
 「ただ女はホンマに何を考えているか分からん奴やから、もしかしたらはありえるで。二人を見てると何があっても驚かへん」
 この前の事を知れば耕平でも驚くだろう。
 「ありがとう耕平」
 「いや。なんか結局答えにならんかったし。んじゃ俺帰るわ」
 耕平は余計な事を聞かない。でも気にはしているだろう。解決したら、耕平に話そう。
 僕は春子を追って屋上に向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 屋上には意外な人物がいた。夏美ちゃんだ。
 「あれれ?お兄さんじゃないですか」
 目を丸くする夏美ちゃん。
 「あの時はお世話になりました」
 ペコリと頭を下げる夏美ちゃんの髪が揺れる。髪をすいた感触が脳裏に浮かぶ。
 「こんな場所でどうしたの?」
 夏美ちゃんは頭に手を当ててえへへと笑った。
 「実はハル先輩に話があるって言われたのですよ」
 「僕もだ」
 「え?そうなのですか?」
 「僕たちに何か話したいことがあるのかな」
 「何でしょうね」
 にっこり笑う夏美ちゃん。その唇に思わず目が行く。僕の目線に気がついたのか夏美ちゃんの顔が赤くなる。
 「…ごめん」
 「いえいえいえいえ!めっそうもないです!むしろ意識してくれて嬉しいです!」
 顔を勢いよく振る夏美ちゃん。ちょっと可愛いかも。
 気まずい沈黙。
 「お兄さん。その言わなくちゃいけない事が」
 「どうしたの」


278 三つの鎖 8 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/05(土) 01:12:45 ID:tRtYc6li
 夏美ちゃんは顔を真っ赤にしている。大丈夫かな。
 「私がこ、こ、こ」
 「夏美ちゃん」
 「こけこっこー!」
 ごめん夏美ちゃん。突っ込めない。
 「いえ、そのですね、あの」
 「夏美ちゃん落ち着いて」
 「はい、はいっす」
 深呼吸。
 「今日の朝ですね、私が先輩にラヴな気持ちを伝えたのが梓にばれました」
 その言い方告白より恥ずかしいよ。
 「そう。仕方ないよ。気にしなくていいよ」
 「随分あっさりっすね!」
 突っ込む夏美ちゃん。
 「隠せることでもないよ」
 顔をさらに赤くする夏美ちゃん。夏美ちゃんは僕の胸に額を当てた。夏美ちゃんの髪からふわりと良い香りがする。
 「お兄さん男らしすぎですよ」
 僕の頬に血が昇る。
 「そんな事はっきり言われると」
 「言われると?」
 夏美ちゃんが顔を上げる。視線が絡み合う。
 「照れる」
 吹き出す夏美ちゃん。そんなにおかしかったかな。
 「本当だよ」
 「笑ってごめんっす」
 夏美ちゃんは頭を下げた。
 「…告白の事だけど」
 「こ、こここここ」
 「あ、ごめん。ラヴな気持ちの返事だけど」
 この言い方、恥ずかしいというよりも色々な意味で痛い。
 「は、はいっす」
 夏美ちゃんは緊張しているようだ。
 「まだ返事はできない。本当にごめん」
 ほっと溜息をつく夏美ちゃん。安心したような残念そうな表情。
 「いいですよ。私も突然でしたし」
 「本当にごめん」
 待たせるのは失礼にあたるのに、僕はまだ決断できずにいた。昔同じような事があった時はその場で断れたのに。
 「じゃあ一つだけお願いしていいですか」
 夏美ちゃんが僕を見上げる。
 「私にキ、キキ、えと、唇を奪ってくれたら許しちゃいます」
 顔を真っ赤にして言う夏美ちゃん。僕は夏美ちゃんのあごに手を添えた。
 「え?え?え?」
 「それでいいの?」
 「そそそそそその、えとあの」
 「僕はまだ夏美ちゃんを愛してるか分からない。それでも夏美ちゃんが望むならキスする」
 自分でも言ったことに驚いた。付き合ってもいない女の子にキスをしてもいいと自分が言うなんて。いいのか。いや、駄目だろ。
 でも夏美ちゃんを見ていると、僕もキスしたいと思ってしまう。
 夏美ちゃんは顔を真っ赤にして目をつむった。僕は夏美ちゃんの唇に軽くキスしすぐに離す。
 「あっ」
 夏美ちゃんが目を開ける。少し残念そうに見えるのは気のせいだろうか。
 「あの、お兄さん」
 僕の頬を夏美ちゃんの両手が包む。白くて小さい手だが、頬にふれるそれは熱い。
 「あの時みたいに、激しくしてほしいです」
 「いいの?」
 「はい」
 熱っぽく僕を見上げる夏美ちゃん。
 もう一度キス。
 目を閉じて受け入れる夏美ちゃん。唇を何度もついばむ。
 「ひゃんっ、ちゅ、はんっ、ちゅっ、ちゅっ」
 夏美ちゃんの唇に舌を入れる。


279 三つの鎖 8 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/05(土) 01:14:27 ID:tRtYc6li
 「ん!?んんんん!!」
 僕は夏美ちゃんの歯を割り口腔をなぶる。
 「ん、んん、じゅっ、ちゅっ、ちゅっ、んっ」
 柔らかくて熱い。
 「ちゅ、んっ、じゅっ、ちゅ、んんんんっ、はむっ」
 されるがままの夏美ちゃん。
 夏美ちゃんの背中に手をまわし抱きしめる。
 「んっ!?ちゅっ、じゅっ、ちゅる、ちゅっ、んんんんんん!」
 夏美ちゃんの舌を舐めまわす。僕の腕の中で震える夏美ちゃんが愛おしい。
 「あむっ、ちゅっ、じゅるるっ」
 びくっと震える夏美ちゃんを抱きしめる。
 「ちゅっ、ちゅっ、じゅる、はっ、ちゅっ、んんんんんんんんんんんんんんんんんんん」
 何度も痙攣するかのように震える夏美ちゃん。
 僕はゆっくり唇を離した。切なそうに僕を見上げる夏美ちゃん。唇から涎が落ちる。
 「夏美ちゃん。涎」
 僕はそれを指で拭った。
 「はむ」
 夏美ちゃんの口の端までぬぐった瞬間、夏美ちゃんは躊躇なく僕の指を口にした。夏美ちゃんの口の中の熱い感触に心臓が跳ね上がる。
 「ちゅっ、ぺろっ、ぴちゃっ、ちゅっ」
 陶然とした表情で一心に僕の指をなめる。
 「ちゅぱっ、ちゅっ、はんっ、んんっ、んふ」
 夏美ちゃんはびくっと震えると、へなへなと腰を落とした。顔を真っ赤にして息も荒く肩で呼吸する。
 「夏美ちゃん大丈夫?」
 「はー、はー、ひゃい、だいひょうふでふ」
 返事をできる状況じゃなさそうだ。僕は夏美ちゃんの背中に手を当てた。震える夏美ちゃん。そのままゆっくりとなでる。
 「はんっ、ひゃっ、おにい、さんっ、くすぐったい、ひゃ!」
 「ごめん」
 手を離す。安心したような名残惜しそうな顔をする夏美ちゃん。
 「落ち着いた?」
 「あ、はい」
 夏美ちゃんに手を差し出す。手をつかんで引き上げた。足元が揺れる夏美ちゃんを支える。
 「ご、ごめんなさい」
 顔を赤くしたまま僕にもたれかかる夏美ちゃん。夏美ちゃんの体温が伝わる。温かい。
 寄り添う僕と夏美ちゃん。気恥ずかしいけど心地よい。落ち着く。
 そうしていると、携帯が振動した。メールだ。開くと春子から。
 『急用で行けなくなっちゃった。ごめんね。夏美ちゃんによろしく』
 「春子からだ。急用で行けなくなったって」
 夏美ちゃんが不思議そうに僕を見る。
 「結局何だったんでしょう」
 もしかしたら僕と夏美ちゃんを合わせるのが目的だったのかもしれない。
 僕と夏美ちゃんに普段の接点はない。たまに昼食お弁当を食べるぐらいだ。
 しかし、もしそうとすると春子の行動がますます分からない。
 「あのっ!お兄さん!」
 夏美ちゃんが僕の手を勢いよくつかむ。小さくて柔らかい手。
 「メアド交換しませんか!」
 「はい」
 勢いに押されて頷いてしまった。
 「やったー。メアドゲットだぜー!」
 飛び跳ねる夏美ちゃん。スカートから白い太ももが見える。僕は視線をそらした。
 「おにーさん。途中まで一緒に帰りませんか?」
 僕は状況に流されるのはあまり好きじゃない。いつも自分を律したいと思う。
 でも。
 「うん。僕でよければ」
 今は流されてもいいと思ってしまう。
 「行きましょう」
 夏美ちゃんの笑顔がまぶしい。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



280 三つの鎖 8 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/05(土) 01:16:35 ID:tRtYc6li
 「でね、幸一君にすごく怒られちゃった」
 春子はしょんぼりと肩を落とした。
 私は怒りを必死で抑えつけた。
 「変態シスコンにしては紳士的ね」
 私は感情を抑えて吐き捨てた。
 「それで約束したんだ。もうべたべたしないって」
 春子は寂しそうに言った。
 私は放課後に春子に呼び出された。私も春子に聞きたいことがあったから好都合だった。
 そこで春子はあの日に何があったかを教えてくれた。私には不愉快極まる内容だった。
 シャワーを浴びていた兄さんの背中を流そうと風呂に入って、春子の裸を見た兄さんが鼻血を出したと。それで風呂を洗い、兄さんに怒られたらしい。
 「梓ちゃん。お姉ちゃんちょっと寂しいかも」
 「もういい年なんだし自重したら」
 「幸一君と同じこと言うね」
 春子は寂しそうに笑った。
 「幸一君がすごく真剣に言うんだよ。もう高校生なのだしこんな事をしてたらダメだって」
 私には好都合だ。春子が兄さんにべたべたするのは私の精神衛生上良くない。
 「春子は」
 私は春子を見た。物心ついたときから私の傍にいた人。いちばん身近な家族以外の人間。
 「兄さんの事が好きなの?」
 私は常に思う疑問をぶつけた。
 高二にもなって幼馴染とはいえ異性にべたべたするのは気があると思われても仕方がない。もしそうなら私にとって不都合だ。
 春子はうーんと首をかしげた。
 「ええとね、確かに好きだよ。でも恋人になりたいとか、そういう好きじゃない」
 「なんで?」
 「幸一君は私にとって弟みたいな存在だから。恋愛の対象じゃないのかな」
 胸が痛い。私は兄さんを恋愛の対象に見ている。
 「春子は何で夏美に協力するの」
 春子はまじまじと私を見た。何を考えているのか分からない微笑みに苛々する。
 「夏美はいい子よ。あんな変態シスコンには似合わない」
 私は感情がこもらないように必死に我慢した。
 春子がほほ笑んだ。寂しそうな笑顔。
 「私はそうは思わないよ」
 私の頭をなでる春子。温かくて柔らかいのが不快だ。
 「夏美ちゃんはね、まっすぐなの」
 そうは思わない。夏美はいい子だが単純なだけだと思う。
 「飾らない等身大の自分を見せる事ができる子だよ。お姉ちゃんには真似できないよ」
 私にもできない。兄さんにありのままの私を見せると、兄さんを不幸にするだけだ。
 そうだ。夏美は私から兄さんを奪おうとしている。私にとって誰よりも大切な兄さんを。兄さんの事を一番好きなのは私なのに。血がつながっていないだけの女が兄さんにすり寄っている。ゆるせない。
 夏美。私から兄さんを奪うなら。
 殺してやる。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 「おいしーですねお兄さん」
 ソフトクリームをおいしそうに舐める夏美ちゃん。僕たちのいる公園は静かで誰もいない。
 二人でベンチに並んで座ってのんびりソフトクリームを食べていた。
 僕と夏美ちゃんは寄り道していた。何となく別れがたいものを感じた。
 「おにーさん?」
 夏美ちゃんが僕を見上げる。
 「夏美ちゃんは」
 こんな事を聞くのは卑怯だと思う。
 「何で僕が好きなの」
 僕はまだ保留しているのに。
 「何ででしょうね。私にもわかりません」
 人を好きになる理由なんてそんなものなのか。僕は恋をした事が無いから分からない。
 「何で僕を信じられるの」
 何も知らないのに何でそんな事を言えるのだろう。僕自身も梓にゆるされる日が来るとは信じられないのに。
 夏美ちゃんが僕を見上げた。
 「お兄さんは信じるに値する人だからです」
 まっすぐな瞳。


281 三つの鎖 8 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/05(土) 01:22:27 ID:tRtYc6li
 「何でそんな事を言えるの」
 僕は夏美ちゃんを見つめる。夏美ちゃんは僕の視線を受け止めた。
 「僕でも信じられないのに」
 「お兄さんはお兄さん自身の事をあまり分かってないのだと思います。梓の事も分かってないです」
 「そんな事はないよ」
 いや、そうかもしれない。僕は梓が生まれた時から一緒にいるけど、いまだに理解できない。
 でも、血を分けた兄妹でも分からない事を、夏美ちゃんに何が分かるのか。
 「梓はいつか必ずお兄さんをゆるします」
 僕もそれを望んでいる。でもそんな日が本当に来るかを信じられないでいる。
 「私が信じているのはお兄さんだけじゃなくて、梓もです」
 ほほ笑む夏美ちゃん。僕は意表を突かれた。そして納得した。夏美ちゃんは僕だけでなく梓も信じてくれる。
 「梓は必ずお兄さんをゆるします」
 そう言って夏美ちゃんはのんびりソフトクリームのコーンをかじった。
 変な子だと思う。ノリがいいように見えて恥ずかしがり屋だったり、変わったことを言ったりする。僕を好きと言ってくれる夏美ちゃん。
 僕はこの子を一人の女性として愛していない。
 それでも思う。
 「夏美ちゃん」
 不思議な感情。
 「今、僕は夏美ちゃんを一人の女性として愛してはいない」
 「そうですか」
 夏美ちゃんは残念そうに肩を落とした。
 「でも夏美ちゃんを好きになりたいと思う」
 びっくりする夏美ちゃん。
 「僕でもよく分からない。好きになりたいのはどっちなのか。好きと言ってくれる夏美ちゃんなのか、信じるといってくれる夏美ちゃんなのか。あるいはそんな事は関係なく好きになりたいのかもしれない」
 夏美ちゃんが自分の口を両手で押さえ震える。目尻に涙が浮かぶ。
 「僕が好きだと確信できるまで、そばにいたい」
 涙をぽろぽろ落とす夏美ちゃん。
 「僕と付き合ってください」
 夏美ちゃんは僕の胸に額を当てた。
 「恥ずかしくて顔を見れないですから、このまま答えさせてください」
 僕に背中に夏美ちゃんの手が回される。小さな温かい手。
 「私でよければ喜んで」
 夏美ちゃんは顔をあげた。涙でぐちゃぐちゃの笑顔。
 そのまま僕たちはキスした。唇に柔らかくて温かい感触。
 目を開ける。
 恥ずかしそうに笑う夏美ちゃん。
 夏美ちゃんの奥。
 視界の端。
 公園の入り口。
 梓がいる。
 僕たちを見つめている。
 遠くて表情は見えないのに、感情は伝わってくる。
 ゆるさないと。


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最終更新:2009年12月15日 14:37
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