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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素敵な恋のかなえかた/Part04 - (2011/02/06 (日) 10:20:11) の編集履歴(バックアップ)


嫌い!好き! 2



「な、なななな何、い、いいちゃ、言っちゃってくれちゃってるわけでございまするか佐天さん!」
 これでもか、とばかりに顔を真っ赤にして美琴はやたらと早口で佐天に反論し始めた。
「御坂さん、言葉おかしいですよ」
 そんな美琴に対して佐天は軽くため息をついた。
「だ、だだだて、そな、そんな、佐天さんが、変なこと言うから!」
「変なこと、ですか?」
「そうよ! だってアイツのことを、私が、その、す、すすすす好きか、なんて……。ど、どっからそういう考えが……!」
「別に変じゃないじゃないですか。だって御坂さんはカミジョウさんと仲良くデートしてたんですよ。なら好きなのかなってあたしが考えるのは当たり前じゃないですか」
「それは、そう、かも、しれないけど……けど……」
 部屋の隅にある座布団をのろのろと取ってきた美琴は、ぺたんと力なく座布団の上に座った。
「けど?」
「でも、やっぱり、だって、アイツが、私のことを、だから……」
「……カミジョウさんが、じゃなくて御坂さんが、ですよ」
「え? あ、ああそうか。私が、か。でも、それでも……」
 真っ赤な顔のまま指をもじもじと付き合わせる美琴を見て、佐天はやれやれと言わんばかりに首を振った。
「もう、はっきりしないですね。ねえ御坂さん、カミジョウさんのことどう思ってるんですか? 好きなんですか、嫌いなんですか?」
「そんなこと、決まってるじゃない! アイツのことなんて――」
「アイツのことなんて?」
「…………!」
 突然美琴は口をぱくぱく動かすだけで何も言わなくなってしまった。
「あれ?」
 不思議そうに首を傾げた美琴はもう一度何かを言おうと口を開いた。
「だから、アイツのことは――。……あれ?」
 しかし、肝心なところで声が出ず、ますます美琴は首を傾げるだけだった。
 訝しげな表情のままうつむいた美琴はブツブツと一人呟き続けた。
「だから、私は、アイツのことなんて――。……あれ、あれ?」

――なんで声が、言葉が出ないわけ? アイツのことなんて好きじゃないって言うだけなのに。なんで? どうして?

 美琴は口を開いて、もう一度声を出そうとした。
「…………」
 しかし、上条のことが好きではないと、美琴にはどうしても言えなかった。「好きではない」、その言葉がどうしても声にならないのだ。
 額に手を当てた美琴は何度も頭を振ると、もう一度声を出してみようとした。
 しかし口から出る言葉は「アイツのことは」の部分までで、肝心な所は決して美琴の口から出ようとはしなかった。

――言えない? 声が出ない? どういうことよ、わけわかんない。なんなのよこれ。

 美琴は頭を冷やすためゆっくりと、そして大きく深呼吸した。
 二度、三度。何度も繰り返すうちに少しずつ気持ちが落ち着いてきたように思えた。
「よし」
 小さくうなずいた美琴はもう一度、上条に対しての自分の気持ちを言葉にしようとした。
「私は、アイツの、アイツのことなんて――!」
 しかし結局はダメだった。
 好きじゃない。
 この一言がどうしても口から出ないのだ。

「なんでよ……。わけわかんない……」
 目を閉じ、両手で顔を覆った美琴はそれ以上何も言えない。ただ小さく頭を振るのみだった。

「…………」
 小さく頭を振り続ける美琴。その脳裏にはここ最近の上条との思い出が次々に蘇ってきていた。もちろん、思い出と共にその時々に感じた気持ちも蘇ってくる。
 そして蘇った思い出や気持ちが昨日のそれになった瞬間、美琴はぴたりと頭を振るのを止め、目を閉じたままぎゅっと体を抱きかかえた。

 なかなか会えない上条を捜し求め、ようやく上条に会えたと思ったら当の上条本人は美琴以外の女性と仲良く買い物をしていた。そんな事実を知ったときに感じた胸の痛みや苦しみ。
 それが誤解だとわかり、その後上条と二人きりで過ごしたときに心を満たした暖かい、穏やかな気持ち。
 そして今日、上条のことを思い出し、その場に彼が居ないことを理解したときに胸に去来した寂しさ。
 全て今の美琴にはそう感じる理由が説明できない、正体のわからない感情である。

 美琴は昨日、その感情達の正体について慌てて探る必要はないと考えた。その感情を持つ自分自身の素直な心を大切にしていればいつかわかる日が来るのだから、慌てる必要はないと。
 しかし現実はどうだろう。
 昨日の今日なのに上条絡みで新たな感情が産まれた。さらに、もっと根本的に上条に対しての自分自身の気持ちすらわからないことにまで気づかされてしまった。
 たった二日でこの有様では、これから先上条が絡む度に自分の心の中にわからないことが増えていくのではないか、そう美琴には思えた。
 もしそうなったら、自分の心はどうなってしまうのだろうか。
 慌てずに心のままに任せていて本当にいいのだろうか。
 そんな悠長なことを言っていて本当に大丈夫なのだろうか。
 今あるものへの答えがわかる前に、心そのものが押しつぶされてしまうのではないか。
 ならば自分はどうすればいいのだろうか。
 美琴の心はいつの間にか、言い知れぬ不安に囚われてしまっていた。

――昨日といい今日といい、いったいなんなのよ、どうしたっていうのよ私は……。あの馬鹿のことを考えただけで、なんでこんなことになるのよ……。

 ギリッと奥歯を噛んだ美琴はますます体を強く抱きしめた。
 ツーと、一筋の涙が美琴の右の瞳からこぼれ落ちる。

「もう、イヤ……」

 美琴のその一言を最後に、部屋はしんと静まりかえった。



「み、御坂さん……」
 やがておずおずと佐天が美琴に声をかけた。
「御坂さん、御坂さん」
 佐天が何度か声をかけると、美琴は今のほんの一瞬ですっかりやつれたかのような様子で顔を上げた。
「…………」
 その様子にわずかに表情を歪めた佐天は、ばっと頭を下げた。
「ごめんなさい、御坂さん!」
「……へ?」
 美琴はほんの少し首を傾げた。
「佐天さん、あなた何を……?」
 佐天の行動が理解できず、思わず口を開いた美琴に佐天はなおも頭を下げて謝罪を続ける。
「ほんとに、ほんとにごめんなさい御坂さん!」
「だからいったい何を謝ってるの?」
 美琴の言葉に佐天は顔を上げると、辛そうな表情でぽつりぽつりと口を開いた。
「……その、あたし、今日は御坂さんをカミジョウさんのことでからかうつもりだったんです。御坂さんて、お嬢様だし、超能力者だし、美人で素敵で、なんでもできる完璧超人だから、少しくらいこういうことであたしがからかえてもいいかなって軽い気持ちで思って……でも……」
「…………」
 美琴は黙って佐天の話を聞き続けた。
 佐天はそんな美琴に再び頭を下げた。
「でも、まさか御坂さんがここまで真剣で、追い詰められるくらいに悩むなんて考えてもみなくて。本当に申し訳なくて、その……ごめんなさい! 軽い冗談のつもりだったんです! だから、もう何も答えなくていいですから、だから、そんなに辛そうな御坂さんにならないで下さい!」
「佐天さん……」
 美琴は佐天の肩にそっと手を置いた。
「もう、いいわよ。顔を上げて」
 佐天はゆっくりと顔を上げて美琴を見上げた。
「御坂さん……」
「これは別に、佐天さんが悪い訳じゃないんだから。私をからかおうとしたっていうのは、個人的にはちょっとって感じだけど、だからってそんなにせっぱ詰まった顔で謝る程のものでもないんだから。ね?」
「許して、くれるんですか?」
 美琴はこくりとうなずいた。
 佐天は三度美琴に頭を下げた。
「ありがとうございます御坂さん。それでその、お詫びというわけじゃないんですが、一言」
「?」
「もちろんあたしは御坂さんじゃないし、人にアドバイスできる人生の達人って訳でもないですけど……」
「うん」
「御坂さんのわからないことって、たぶん、そう遠くない日に、はっきりわかると思うんです。そして、きっと、全てひっくるめてハッピーエンドで解決しちゃいます!」
「ハッピーエンド、遠くない日、に……?」
「はい!」
 佐天は力強くうなずいた。
「根拠はありません! けど、なんとなくわかるんです!」
「でも……」
「わかるったらわかるんです、大丈夫です! だから今日はもうこのことで考えるのは止めて、そんなに悩まないで下さい!」
「…………」
「大丈夫です! きっとすぐにわかるんです! だから元気出して下さい!」
「……うん、ありがとう、佐天さん」
 何度も何度も繰り返し肯定の言葉をくれる佐天の気持ちに勇気をもらったのか、美琴はようやく小さく微笑んだ。
「はい!」
 美琴の笑みを見た佐天も元気にうなずいた。

――御坂さん、ごめんなさい。たぶん、いえ、間違いなくあなたのカミジョウさんへの気持ちは……。御坂さんは単に気づいていないだけ。でも、やっぱりそれは自分で気づかないといけない。だからあたしには励ますことしかできません、ごめんなさい、御坂さん。

 佐天は心の中でそっと美琴に謝罪する。
 端から見たら、上条当麻という一人の男性のためにここまで思い悩む姿から、美琴の気持ちなど容易にわかるのだが、佐天にはその答えを美琴に告げることは決してでなきなかった。
 他人に与えられた答えと自ら掴み取った答え、その違いの大きさは佐天にだって十分わかっているからだ。
 いや、このことはむしろ、一瞬とはいえ能力開発という「自らの」努力を放棄し、「他人に与えられた」幻想御手という結果を選んだ経験を持つ佐天だからこそ、十分にわかっていることなのかもしれない。
 美琴という友人を大切に思い、自ら掴み取る答えの大切さを知るからこそ、佐天は心の中だけで美琴に精一杯のエールを送るのだった。
 「自らの手で」上条への気持ちに気づいて欲しい、と。



 お好み焼き屋を出た二人はこれから何をするかを話し合っていた。
「どうします御坂さん? せっかくだし昨日のリベンジ、ということでゲーセンで勝負しませんか?」
「いいわね。よし、こてんぱんにやっつけてあげるわ!」
「あたしだって負けませんよ。初春に特訓してもらって、最近ちょーっと自信のついたゲームがあるんですよ。それで勝負しましょう」
「……それ、卑怯じゃないの?」
「天才お嬢様、御坂美琴さんから後輩へのハンデですよ」
「えー」
 佐天の励ましによってようやく本調子の出てきた美琴は、佐天と軽口を叩きながらゲームセンターへ向かいだした。

「それで初春ったらですね、寝ぼけてたのか突然授業中に叫びながら立ち上がって――」
「へー、初春さんて、案外ドジっ子なん――」
 佐天と話をしながら歩いている最中、突然美琴がぴたりと足を止めた。
「? どうしたんですか、御坂さん?」
 不思議に思った佐天が声をかけたが、美琴は佐天を無視したまま、車道を挟んで自分達とは反対側に位置する歩道を冷たい目でじっと見つめていた。
「いったいどうしたんですか、御坂さん。あ、あれって……」
 美琴の視線の先に目をやった佐天は、美琴が見つめているのがとある男子高校生の姿だと理解した。
 その男子高校生とはもちろん、上条当麻である。しかも隣にOL風の女性を連れている。

「あらあら、さっきまでの話題の中心人物の登場ですね。でも女性連れのような。どういうことなんでしょうね、御坂……さ――!」
 反省したとはいえ、やはり友人の恋愛関係の話題には興味を引かれるのであろう、ニヤニヤと笑みを浮かべながら美琴の方を見た佐天だったが、当の美琴の表情を見た瞬間、顔をこわばらせた。
 美琴の表情は正に般若もかくや、といわんばかりに険しいものだったからだ。

――ああ、美人て怒ったらこんな顔になるんだ。けど御坂さんのこの顔、白井さんに見せたらどんな反応するかな。

 やや現実逃避も含めたようなことを思いながら、佐天はおそるおそる美琴に声をかけようとした。
「みさ、か……うぅぅ」
 しかし美琴の放つ気迫に圧倒され、結局何も言うことができなかった。

 佐天は仕方なく上条の方を観察することにした。
「…………」
 上条は女性と何やら親しそうに会話をしていた。
 女性の方も上条と親しそうに、時折笑顔を浮かべながら上条に返事をしている。何度も頭を下げているところから見て、落とし物を拾ったとか道案内をしたとか、そういう類の関係なのかもしれない、そう佐天は解釈した。

――けどなんかたまたま知り合っただけっぽいし、別にそこまで嫉妬する必要はないんじゃないかな。

 佐天はぼんやりとそんなことを思いながらも女性の姿を観察してみる。
 上下ともぴしっとしたスーツ姿の女性で髪はやや茶色がかったロング。背は上条より幾分低めで二人並ぶとちょうどいい感じに見えた。顔はくりくりとした大きな目が特徴のかわいらしい感じだったが、女性としての美しさでは美琴の方が遥かに上だと佐天は評価する。
 しかしそれでも、女性に関して佐天の目を引いた物がある。それは、

――でもあれは、ちょっと反則、かな。

 その女性の少々豊かすぎるほどの胸だった。同性である佐天から見ても魅力的に見えるその様は、おそらく男性である上条からするとたまらなく魅力的であろう。

――前言撤回。あれは御坂さん、嫉妬するかも。

 まだまだ体は発展途上中である美琴、そのバストサイズはお世辞にも大きいとは言えない。学芸都市で会ったビバリー=シースルーにもコンプレックスを感じていた彼女だ。おそらくバストサイズに対しては色々と思うことがあるのだろう。
 そんな美琴が想いを寄せる上条が胸の大きな女性と仲良く歩いていたらどう思うか、それは容易にわかることだ。
 もちろん美琴はその予想通りの反応を示していた。

「なんでアイツは……私が見てないと思ったら……次から次へと……。しかもあんな、胸の大きな女と……」
 美琴はブツブツと呟きながら全身から電流を溢れ出し始めていた。
「大体あの馬鹿……。私がもの凄く悩んでる間に……あんな女と……イチャイチャイチャイチャ……。人が昨日から……どんな気持ちでいたか……少しは考えたらどうなの……」
 呟き続ける美琴。それと同時に、その体から溢れる電流はどんどんその勢いを増していく。
 佐天は恐怖に囚われてじりじりと後ずさりしながらも、友人としての義務感から美琴を落ち着かせようと必死で声をかけ続けていた。
「あの、御坂、さん? す、少し落ち着き、ま、せんか? あの、ま、周りの皆、さんも、その、に、逃げてますし……」
 佐天の言う通り、美琴達の周りにいた人間は、既に危険水域に達していた美琴の電流に恐れをなし、蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ出していた。美琴の側にいる人間はとっくに佐天だけとなっている。

――あたしも逃げたい!

 佐天は一縷の望みを託しながらちらりと上条の方を見た。するとそこでは何かにつまずいた上条が、女性を巻き込んで地面に倒れていた。しかもご丁寧に女性の豊満な胸に顔を埋める形で。
 終わった、と言わんばかりに佐天は天を仰いだ。
「佐天さん……」
「は、はひぃ!」
 地獄の底から響くような美琴の声に、佐天は目に涙を浮かべながら反応した。
「あなたさっき、私がアイツのことをどう思っているか聞いてたわよね……? それにその答えはすぐにわかるって励ましてくれたわよね……?」
「は、はい。そ、それがな、に、か……」
「ありがとう佐天さん……。私、わかったわ。アイツのこと、どう思っているか……」
「よ、良かったですね……。そ、それ、で御坂さん、はカミ、ジョウさんのこと、をどう……?」
「どう? そうね、私は、アイツの……アイツのこと、なんて……あんな馬鹿な……スケコマシの最低野郎のことなんて……大、大、大、大っ嫌い!!」
 そう言うと同時に、美琴は渾身の力を込めて雷撃の槍を上条に向かって投げつけていた。
「きゃっ」
 思わず頭を抱えて地面にしゃがみ込む佐天。

 次の瞬間、バチィッという大きな音が上条の方から聞こえてきた。そのすぐ後に聞こえてくるだだっと走る音と、ギャーギャーとわめく声。
 自分自身の身体に異常がないのを確認してほっとため息をついた佐天は、そうっと声のした方、上条がいるはずの歩道を見た。
 そこでは美琴が地面に倒れる上条の胸ぐらを掴んで何やらわめいていた。
「……あれも、ある種のツンデレ、なのかな?」
 佐天は困ったように頭をかくと、そそくさと美琴達の側に走っていった。



「いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも! アンタはどうしてそうなのよ! いい加減一人に絞るとか考えないわけ?」
「ふざけんな! いきなり現れて何訳のわかんねーこと言ってんだ! 大体一人に絞るとかなんの話だ! そもそもそのこととお前が電撃ぶっ放すことになんの関係がある!」
「黙りなさい!」
 佐天が美琴達の側まで来たときも、もちろん美琴と上条の痴話ゲンカは続いていた。
「大体なんなのよ、この女は! あのシスターともクラスメートとも違うじゃないの! アンタはいったい何人の女に手出してるのよ!」
「手出すとか訳わかんねーよ! それからこの人は今さっき会ったばかりの人だ! 名前も知らねーよ!」
「じゃあ会ったばかりの人間となんでこんなに親しげなのよ!」
「親しげも何も、単にこの人の落とした財布を俺が拾っただけだ! それで御礼言われてただけじゃねーか! 文句あるか!」
「な……! あ、あるわよ! あ、あんたこの女の、その、む、胸に顔を押しつけて揉みしだいてたでしょ! あれはどういうことよ! 財布と関係ないじゃない!」
「俺が転んだだけだ! お前だって知ってるだろう、俺の運のなさ!」
「……じ、じゃあなんでこの女はこんなに顔を朱くしてるのよ! 普通痴漢とかなんとか言われるでしょうに!?」
「そんなこと俺が知るか!」
 美琴の指摘通り、確かに女性は顔を朱くして上条を見つめていた。
 しかしこれは上条に胸を触られたことが原因ではなく、まったく別の理由によるものだったのだが、そんなことを露ほども知らない美琴はさらに上条を責め続ける。
「なんで知らないのよ! 普通に考えてそんなことあるわけないでしょ!」
「知らねーもんは知らねーよ!」
「あ、あの……」
 美琴の剣幕におびえながらではあるものの、女性がおずおずと上条に声をかけた。少々舌足らずな感じはするが、容姿に似合ったかわいらしい声である。
「何!!」
 しかしもちろん女性に答えるのは上条ではなく、美琴である。ちなみにこちらはドスのきいた鬼のような声であった。
 顔を朱くしながら女性は上条に頭を下げた。
「その、さっきは本当にありがとうございました。なんだかよくわからないけど、すごい電撃から私を守ってくれて。とにかく、本当にありがとうございました」
「…………」
「…………」
 女性の言葉を聞いた美琴と上条は互いに顔を見合わせた。ただしばつが悪そうな美琴に対して上条は憮然とした表情をしていた。
「お前のせいじゃねーか」
「……そう、そうかも」
 ぷいと上条から目をそらせた美琴の態度に、上条の怒りは爆発した。
「かもじゃねーよ! どこからどう見てもお前のせいだろーが! 上条さんは短気な凶暴ビリビリ娘から一般市民を守ったんだぞ! どこにも責められる要素がないだろう!」
「う……うう、うるさ――い! そうよ、私が悪かったわよ! そこのアンタ! 悪かったわね! でもこの馬鹿のおかげで怪我なかったでしょ! ね!」
「は、はい」
 美琴の剣幕に押されながら、女性はこくこくと何度もうなずいた。
「よし、謝罪終了!」
「みじか!」
 女性がうなずいたのを確認した美琴は上条をギロリとにらみつけた。
「大体、これもそれも、みんなみんな、元はといえばアンタが悪いんでしょうが!」
「俺の何が悪いってんだ!」
「私はアンタにぶつけるつもりで雷撃の槍をぶっ放したのよ! アンタがいなければこの人が巻き込まれることもなかったのよ、元々!」
「論理がめちゃくちゃだ!」
「そもそも、アンタが誰彼構わず女と見れば見境なくフラグ立てまくるのが悪いんでしょうが! 反省しなさい!」
「フラグとか、俺がそんな器用なことできる訳ねーだろーが! 相手見て物言えよ! 大体、たとえもしそうでも、なんでお前にそういうことで責められなきゃいけないんだよ! 俺が誰と仲良くしようがお前になんの関係があるってんだ! 違うのか? なんとか言ってみろ、よ……あれ? 御坂、お、お前どうした、んだよ、いきなりうつむいたり……うわ!」
 急にうつむいて黙ってしまった美琴に声をかけようとした上条だったが、彼の言葉は美琴の電撃によって遮られた。
 至近距離からの美琴の電撃を必死に右手で防いだ上条は、怯えきった様子で美琴を見た。
「あの、み、みさ、御坂さん?」
「何よ……」
 瞳に涙を溜めて顔を上げた美琴は、真っ赤な顔で上条をにらみつける。
「……あの、御坂さん、もしかして、泣いてらっしゃいませんか? もしかすると、わたくし上条当麻、何かまずいことを口にいたしましたでしょうか?」
「言ったわよ……何よ、アンタのことなんだから、私に関係あるに決まってるでしょ……それなのに……こ、ここ、この大馬鹿……。わかったわよ、今すぐアンタをぶっ飛ばして、二度とそんなデリカシーのない馬鹿なこと言えなくしてやる!」
「ひい!」
 美琴の怒りが臨界点を完全に超えたことを理解した上条は、一目散に逃げ出した。
「待ちなさい!」
 一方の美琴も慌てて上条を追いかけだす。
 そしてその場には惚けた表情でぽつんと一人、女性が残されることになった。



「あーあ、御坂さん。それじゃもうツンデレ超えてますよ、凶暴すぎて……」
 既にこの場を去ってしまった友人に対して、佐天はため息をつきながらぼやいた。
「あれじゃ自分自身の気持ちに気づいたって、カミジョウさんにはその気持ち、当分伝わりませんよ……」
 佐天は、はあ、と心の底から盛大なため息をついた。
「でも御坂さん、気づいてますか? 御坂さんに追いかけられてるときは、少なくともカミジョウさん、御坂さんのことだけを見てるんですよ。御坂さん以外の女性は眼中にないんですよ。……もしかして、無意識にやってます?」
 佐天は、今日意外な一面を見せた友人がいるであろう方向を見て、ほんの少し困ったような、しかし優しい笑みを浮かべていた。

「頑張って下さい。そして、お幸せに」



「馬鹿! 変態! スケベ! 色魔! 腐れ外道! 女性の敵! 鈍感! 朴念仁! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! 嫌いよ嫌い! アンタなんか大っ嫌いよ――――!!」
「勘弁してくれ! 上条さんがいったい何したって言うんだ! それに嫌いなら追いかけないでくれ!」
「うるさ――い!!」
 電撃を放ちながら必死に上条を追いかける美琴と、その電撃を必死に捌きながら逃げ続ける上条。
 こうして久しぶりに始まった美琴と上条、二人だけの鬼ごっこはいつ果てることなく続けられるのだった。



おしまい

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