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「上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11スレ目ログ/11-579」(2010/07/25 (日) 14:23:32) の最新版変更点
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*ささやかなる想いを星あかりのもとで 3 中編A
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【ささやかなる想いを星あかりのもとで(中編A)1】
――常盤台中学、校長室にて。
「……わかりました。ご迷惑をお掛けいたしまして、申し訳ございません」
美琴は頭を下げながら、今の沙汰について考える。予想通りであり、予想以上に重かった、とも思えた。
無期限停学。
無限、という意味ではないが、期限が定められておらず、反省の色が見られなければ、それこそ無限となってしまう。
(たぶん、あの特殊部隊殲滅かな。あの部隊は任務失敗したわけで、矛先は私に向かうわよねやっぱ)
色々推測するが、答えなど無い。
美琴の素行は、以前から問題視されていた。
LV5クラスのエレクトロマスター、つまり御坂美琴の手によるものとしか思えない事件の痕跡は多々あった。
大規模停電しかり、多数の化学研究所破壊しかり。
しかし明確な証拠が無い事と、何より誰も訴えない事――学園都市側は何故か内部処理で済ませてしまっている事。
それ故に美琴は、お咎めもなく今まで過ごしてこれた訳である。
しかし、今回は。
学園都市側は、今までとは異なり、『軍事任務妨害を行った故の厳重注意』を常盤台中学側に示してきたのである。
黙認できるレベルの話ではない、との意思表示であり、常盤台中学も動かざるを得ない。
常盤台中学は協議に入り、御坂美琴への処罰の検討を行った。
本来、ここで当事者の言い分を聞いて、その上で決定する。――だが。
御坂美琴の性格は、いわばもう丸裸にされていた。いわゆる『開発』によって性格は掴まれているのである。
つまり、絶対に譲れないことがあって事を起こし、そしてその理由は、絶対に言わないであろう事が。
言い訳など100%せず、黙秘する事が。明白すぎるほど明白であった。
そして、呼び出された御坂美琴は、予想通り黙秘を貫き。
――結果、御坂美琴は、無期限停学を言い渡された。
指定された学外活動の修了を以て、解除するという但し書きを付記して。
校長室を出て重厚なドアを締め、……ふうっと一息ついて振り返って、美琴は顔を引きつらせた。
「黒子!? アンタ授業中でしょ! 何やってんのよ!?」
「突然の腹痛に襲われまして、やむを得ず、ですの」
白井黒子が、つかつかと美琴に近寄って腕を掴み……2人の姿が消えた。
どうやら屋上に連れてこられたらしい。風が心地よい。
「まず、結果を教えていただきたいですの、お姉様。もう校内は、その話で持ちきりですわ」
「人の事なんてほっときゃいいのに」
「お姉様は、少しはご自身の影響というものを考えられたほうがよろしいかと」
「ま、何でもいいけど。……停学決定、よ」
白井黒子の表情が曇る。
「なるほど、今回ばかりは無罪放免とはなりませんでしたか。しかしこの時期では、一端覧祭と被りそうですわね」
「……何言ってんの、全部アウトよ。……無期限停学、だし」
「!? お、お姉様、それを了承したんですの!?」
「逆らったら退学でしょそんなの。了承するもしないもないでしょーが」
「申し開きすれば、もっと軽減されるでしょう!? ……やはり、何もおっしゃらなかったですのね……」
――あの日、黒子は美琴からの連絡を受け、狂喜乱舞して空港へ迎えに行った。
一人手を振る美琴に、黒子は飛びかかるように抱きつき、お約束のゲンコツを貰いつつ再会を喜んだ。
しかし。
『ごめんね、戦争に勝手に参戦してきた。理由も、何があったかも、今は話せないから。またいずれ、ね』
初っ端から釘を刺され、白井黒子は黙るしか無かった。
(ならば、逆から辿ってみるまで、ですの)
美琴が言わないのならば、と黒子は早速次の日、独自に調べ始めた。
まず、美琴が一人で帰ってきたのかどうか。
搭乗者名簿をコネも使って強引に手に入れ……そして見つけた。『上条当麻』の名前を。
(座席も隣……やはり、ですわね)
嫉妬の炎も渦巻くが、今回もまた、あの少年が絡んでいたのか、という思いの方が強い。
2人が絡んでいたのなら、またレムナント事件の結末のように、あの『バカバカしいレベルの世界』が展開されたのか。
あの戦争の結果は、『自分には手の届かない世界』で行われた戦いの結果なのか。
屋上にて、吹っ切れたような表情をしている美琴の横顔を見上げつつ。
白井黒子は、ますます『自分の居場所』が失われていく気分を味わっていた……。
◇ ◇ ◇
――そして、長点上機学園自習室、にて。
「む、無期限停学だ……って!? 退学の次に重いじゃねーか!」
想像以上の罰を受けた美琴に、上条は慌てる。
もはや上条の頭がら、布束砥信がどうだとか全て、吹っ飛んだ。
「無期限っつーのは、解除日が未定ってことで、永遠てことじゃないわよ? 無いとは思うけど、1週間で解除もあるかもね」
「それにしたって、お前、そんな……!」
「んー、特殊部隊倒した時、顔見られちゃったからね。モノだったら証拠残さずにしてこれたけどさー。
ということで学園都市側から厳重注意が来てね、常盤台中学は停学の判断下したってこと」
「でもそりゃ俺をっ!」
「それは言いっこなし。たかが停学、中学だから義務教育の関係上、あんまり留年とまでは繋がらないみたいよ。
無期限って言葉が大げさなだけだから、心配しなくていいわよ」
心配するなと言われても、上条にしてみれば全て自分のせいである。頼んだわけではない、というのは言い訳にならない。
一人の少女のエリートコースを止めてしまった現実に青ざめる。
はあっ、と美琴がため息をつく。
「……と言っても、立場が逆なら、まあアンタの気持ちも分からなくもない。だから、私の復学に協力して貰うわよ」
「な……何だ? よく分かんねーけど、俺にできることなんだな!?」
「うん。私の姿を見て想像つかない?」
長点上機学園の制服を来た美琴。何だか大人びて見える。
ハッ! と上条がひらめく。
「まさか飛び級で高校1年に、とかか!? よく天才少女にあるストーリーだよな!」
「バカかアンタは! マンガの読みすぎだっつーの! 日本の中学にそんな制度認められてないわよ!」
(冗談だっての……コイツ、きっちり飛び級とか調べてんのな)
「だったら何だよー。一緒に勉強なんて、俺がお前に教えられること何もねーしな。……情けない年上で申し訳ないけど!」
「だから、私が教えるのよ」
「……はい?」
「アンタの特別講習の、先生は、私」
「……このヒト……いや御方は?」
上条は横で聞いている布束砥信を指さした。
ちなみに、テスタメントを開発する頭脳を持っている布束砥信は、御坂美琴とはまた異なったハイレベル天才少女である。
「私は、貴方達2人の指導員としての担当者よ。御坂さんは、私の報告書によって、復学が決まる訳。」
布束は首をすくめて、別に分からないことは私に聞いてもいいけど、と言い添える。
「……つーことは何か、俺が編入試験に合格しなければ……?」
「私の運命はどうなるのかしらね? どう? 何をやらなきゃなんないか、理解できた?」
上条は、汗がダラダラと吹き出してきた。
(失敗すりゃ留年でいーや、と考えてたのに……こりゃシャレになんねえっ……!)
「と、いうわけで」
上条の反応に満足した美琴は、にんまりと笑って腕を組んで仁王立ちになった。
「みっちりと、3ヶ月ビシビシ行くわよ! やや抑え気味にはするけど、土日もやるかんね!?」
「ちょっと待って、そこまでやるんかよ!? い、いや例えば冬休みとか、」
「冬休みも無いわよ。まあ年末年始は、進行次第では考えてもいいけど」
「……マジなんですかっ!?」
「普通の高校のオチコボレが、こんなトップクラスの高校に追いつこうってのよ!? 普通の努力じゃ無理でしょーが!」
そのトップクラスの高校1年の内容を教える中学2年生って……
「お、お前はそれで、例えば教科書とか読んで理解できたのかよ。俺ちょっと見たけど、ありゃキツくねえか!?」
「さすがにちょっとつらいけど。でも毎日アンタに教えながら、調べつつやれば何とかなるかな、とは思ってる。
あと教科によっては『特化』しようかとね。例えば世界史なら、今のアンタならイギリス国教中心に展開すれば興味わくでしょ。
日本史なら天草式絡みの歴史を勉強するなら苦にならないでしょ? そういった教科内の得意分野作るつもり」
上条は口をぱくぱくしている。
「アンタにはいっつもやられっぱなしだけど、今回は、私の言う事全部聞いてもらうからねっ! うっふっふっふ~」
◇ ◇ ◇
「それにしても、話が来たときはびっくりしたわよ」
立ち話も何だ、と各自椅子に座って、ちょっと落ち着いた状態になり、美琴は口を開いた。
「停学中の活動について指定されててさ、簡単に言うとココに来て担当者の指示通りに毎日を過ごせ、ってね。
そうしたら、アンタの教育係だとさ。上は何考えてんのかしら」
「Indeed、貴方達を一旦同じ場所に放り込んでおくことで、管理……いや監視しやすくしようとしているのでしょうね」
担当者こと布束砥信がつぶやく。
「監視……」
「バラバラに見張る事を考えれば、単純に労力は1/2で済むでしょう?」
と、布束は天井の隅を指さした。黒い半球状の装置があり、緑と赤のランプが半球内で光っているのが見える。
「アレはセキュリティカメラだけど、当然監視カメラにもなってるでしょうね。声も拾っているかもね」
「口に出して喋っていいの、そういうの?」
「全部推測だから。推測した者に危害を加えて、推測が正しかったことを証明するなんてバカなことはしないでしょう」
「でも私達って、そんな監視するほど悪い奴だって事? 失礼しちゃうわね」
美琴は腕組みして、眉をひそめる。
「貴方達は大人のやろうとしている事を根こそぎひっくり返す力があるのよ。子供の遊びで済ますのもこれまで、ってとこかしら」
「学園都市が余計なことばっかりするからよ! ったく!」
「何にせよ、戦争後でバタバタしてる最中に、目の届かないところで色々されると面倒だから、ってだけならいいのだけれど」
「学園都市の場合、裏の裏の、そのまた裏を読めって、か……」
美琴は、ヒトコトも喋らずに沈んでいる上条を見やる。
「……何座り込んでしょげてんのよ」
「だってお前、編入試験クリアしねえと、お前の停学が、なんて……。俺は短期勝負なら気合入るけどさ、長期は……」
「アンタね! まあでも、短期的な目標決めてやった方がいいのは事実よね。週末の試験でいい点取ったらご褒美とか?」
「……ご褒美。そりゃ何かあれば嬉しいけどさ、……いや逆か。俺が御坂にお礼するって事になるのか、学力上がった訳で」
「んー? それだと、馬の前のニンジンにならないわよ? ……まあ、その辺は始まってからで。それより、その前に、」
美琴は人差し指を立てた。
「1日、どうやって過ごす? 一応、考えてきたのはあるんだけど」
「いきなりの話で何も考えてねーよ。元々先生に従うつもりで来てたしな」
美琴はすっくと立ち上がり、黒板の前に立つとカカッと書き始めた。
○ 9:00~12:00 授業(休み時間10分×2)
○12:00~13:00 昼休み(昼食&昼寝)
○13:00~15:00 復習テスト
○15:00~17:00 復習テスト答え合わせ
○17:00~17:30 質疑応答
●帰宅後 宿題(予習として明日の範囲の問題集を解く)
「む……授業としては3時間だけなのか?」
上条は少々驚いた。てっきり1日8時間は授業浸けになるかと思っていたのだ。
「理由の一つはね、そんな広く浅くやったって、身に付きません。前日の予習と、授業と、テスト。
3回同じことやれば、さすがに覚えるでしょ。欲張らず、確実に押さえたほうがいいの」
「ふーむ……いや、それで1年分追いつけるなら万々歳だから、俺は文句ねえけど」
「あとね、やっぱ申し訳ないけど、私の時間が足りないの。次の日用の授業の要点まとめたり、テスト作ったりでね」
「あ……」
「これだったら、比較的余裕あるから大丈夫。長期戦だから、無理してもしょうがないし。
たださっきも言ったけど、土日もやるからこそのスケジュールよ? 土日休みたいなら、もっと詰め込んだのに変わるけど」
美琴は上条を見つめた。
「どうする?」
(別段、土日やることがあるわけじゃねえ。何より、平日に詰め込むと、御坂がパンクするってことだよな、それって)
「テスト問題作るのって、かなりつらいわよ? 別の問題集にしたら?」
「やっぱそうかなあ。う~ん……問題集から抜粋する形にするかなあ……」
布束と美琴の会話を聞きながら、上条は心を決めた。
御坂美琴がなぜここまでやってくれるのか分からないが、少なくとも身を委ねたほうが、きっと上手くいく。
「御坂の言うとおりに。土日もよろしくな、御坂。休みのコントロールも任せる」
(こっ、これで3ヶ月ほぼ毎日一緒に……!)
土日きっちり休みたいと言われれば、平日はかなり忙しく、かつ土日は上条に会う理由が無くなる所だったが。
しかしこれで、毎日公明正大に会える! 美琴は内心で超ガッツポーズであった。
あのシスターが帰ってこようが、他に知らない女の子がいようが、関係ない。自分たちの時間。
(ま、トラブル男のコイツの事だから予定通りには進まないだろうけど! でも、今はこの約束だけで十分……)
3ヶ月みっちり行うということで、上条は黒板を改めて確認した。
「宿題、ってどんなのだ? 予習だけ?」
「予習だけ。復習もやるべきなんだけど、」
美琴は上条をジロッと睨む。
「アンタ夏休みの宿題とやらを、最終日までほとんどやらなかったんでしょ? そんな人に嫌々宿題やらせても効果ないわよ」
「うっ……」
これには上条は何も言い返せない。ましてや、美琴には手伝ってもらいながら、出来なかったのだ。
「だったらせめて、手を動かして何となくででも、予備知識として頭に入れたほうがマシだと思ったの」
美琴は机の上の問題集を指さした。
「だからこの問題集。ほとんど記号問題ないけど、これやってきて。で、当然予習だから答えほとんど分からないはず。
だから、答え写していいからね」
「はい?」
「ちゃんと問題文読んで、一瞬でもいいから考えて。その後自分で答えてもいいし、答え写してもいい。
大事なのは、『なんでこのポイントを問題にしたんだろう』とか『ここは重要ってことだな』とか思って欲しいの」
「はあ……」
「そういう予習をした上で、私が授業する。たぶん取っ付き易くなってるはずよ。どこが重要か何となく掴んでるはずだから。
で、午後にテストやって、最終チェック。これで基本的な流れはおしまい」
「た、確かに身には付きそうだ、な……」
上条は、目の前の少女に圧倒されるばかりだった。
「今回みたいなマンツーマンだから出来る勉強法よね。こういうクセつけとけば、普段の授業にも応用できるわよ」
「お、お前が考えた、のか……?」
「まさか。本の受け売りよ。……去年はさ、寮の同部屋の子とあんまり相性よくなくてね。門限ギリギリまで図書館にいたのよ。
そこで色んな本読み漁ったんだけど、その内の一つが、こういう勉強法ってワケ」
『前任の同居人にはちょっと出て行ってもらっただけですの、……あくまで合法的に』
確かアイツそんな事言ってたな、と上条は某テレポーターを思い出す。
「ま、それはともかく。この勉強法なら私も実践してるし、たぶんアンタでも大丈夫」
「確かにそれなら宿題のプレッシャーはねえな。普段から、こうやってろって事か……」
「うん。勉強ってのはね、心に余裕持ってやると効果あがるのよ。予習しておくと、授業でソレが出るだけで余裕が出来るの。
『あ、そこ知ってる』ってね。そうすると、派生する物事も、難なく頭に入りやすいのよ」
なるほどな、と頷く上条。これならやっていけそうな気がする……
「実践してる、って、中学でもそういうやり方なのか、お前?」
「そんな感じね。休み時間は10分きっちり復習に費やして。昼休みはご飯とお昼寝してるけど。寮帰ったら予習ね」
「いつ友達と話してんだよ。……ぼっち?」
「ぼっち言うな! ま、私がそういう子だって、もう知れ渡ってるから休み時間に誰も話しかけてこないわね。
嫌われてるんじゃなくて、気を遣われて、よ? 言っとくけど。別に放課後とか普通に話してるし。
昼休みは私が食べてる横に黒子が座ってくるのがパターンになってるわね。おしゃべりして、20分前には教室戻って、お昼寝」
上条は地下街の学食レストランを思い出す。確か4万円の常盤台学食が……
「そういや、常盤台の学食って滅茶苦茶じゃねーか? 数万するらしいじゃねーか」
「ああ、バカみたいな値段の学食はあるわね。あんなの一部の金持ちのお嬢様しか食べないけど……よく知ってるわね?
どこぞのコース料理みたいに、一皿一皿ちんまりと出てくんのよねー。昼休みに呑気ったらありゃしない。
私はいっつも千円の日替のお膳定食。これなら頼めば速攻出てくるし、美味しいしね。全然問題なし」
(ソレデモセンエンデスカ、ミサカサン)
と、上条はひそかにツッコむ。こちらは500円超えたらジュースを我慢しようかと考えているレベルである。
「あーもう、なんで学食の話になってんのよ! ……って、」
美琴は上条に突っ込もうとしたが、一つ懸念を思い出した。布束の方を見やる。
「お昼とか、どうしたらいいのかしら?」
「学食はやめた方がいい。Because、貴方達は目立ちすぎる」
「そんな目立つかな。こっちの制服も着てるのに」
「LV5いないから、ここは。名前だけなら第1位はこの学園所属だけど、見たことないわね」
一瞬美琴の表情が陰ったのを上条は見た。まだアクセラレータについては複雑みたいだな、と心の隅で思う。
「じゃあ、お弁当持ち込み、かな」
「俺はそれで問題ねえ。俺も前まで自前の弁当か、パンの買い食いだったし」
「それじゃあさ。私二人分作ってくるね。手間は一緒だから」
「…………!」
「料理の腕、疑ってんでしょ? 正直、部屋で料理できる環境じゃないから、そんなに数はこなせてないけどさ。
ギャグマンガなら大さじイコールお玉と勘違いしてる女、みたいな展開になるんだろうけど、そこまでボケてもいないわよ」
顔を赤らめながら、早口で言い訳するかのごとく、喋る美琴。
しかし上条は。
(違う、違うぞ御坂。一人と二人では、一緒じゃねえんだ……!)
質はともかく台所に立った数では圧倒的に美琴に勝る上条は、突っ込むべきか迷っていた。
一人なら、「どろりとした煮汁がご飯ゾーンに侵食」していようが、極端な話、ふりかけに梅干だけでも構わない。
しかし二人、つまり相手がいる話なら、そうはいかない。
手を抜いたら、それが人物評価に繋がるのだ。
反応が薄い上条に、美琴の目が不安そうになっている。
「い、いらない? ありがた迷惑、かな……?」
「そうじゃねえ。いや、これ以上お前に負担は」
「だから、どうあれ自分の分は作るんだから、関係ないってば」
これはもう断るほうが空気悪くなる、っつー流れだな、と上条は悟った。
(ますます御坂に頭が上がらなくなるなあ。どの道、手抜き弁当作るタイプじゃねえか、コイツは……)
吹っ切れた上条は、素直に喜ぶことにした。お互い、それが一番だ。
「御坂。」
「?」
「俺、もうそれだけのために学校来る! 女の子の手作り弁当を毎日とか、なにそのヘヴン状態!」
「ば、馬鹿! 勉強しに来なさいよ! そ、それに、そんなに期待されるものでも、ないし……」
目を背けて真っ赤になる美琴。
「普通に卵焼き・ウィンナーでいいんですよ! シンプルイズベスト!」
「寮の調理室借りて作るから、煮物系とか時間かかるのが難しいのよね。ワンパターンにならないよう頑張るけど」
「愛情があれば俺はもう何でもオッケーだ。ワンパターンでも一向に構わねえっ!」
あ、愛情……って! と美琴が固まる。
美琴の硬直には気づかず、他何かないかな、と宙を見上げて思案していた上条が、美琴の方に向いた。
「せめてお茶担当ぐらいやるぞ。魔法瓶に入れて持ってくる」
「う、うんお願い。それはそうと、アンタたくさん食べる?」
「あればあるだけ食える」
「おっけー。私の1.5倍は食べそうね……。よし!」
「何だか遠足前の気分になってきましたよ御坂センセー」
「勉強する気あんのかアンタはっ! もう!」
そう言いつつ、どう見ても満更でもない顔をしている美琴であった。
◇ ◇ ◇
ちょっとトイレ行ってくる、と上条が席を外した。
ほうっ、と美琴はため息をつく。話しているときは気付かないが、やはり上条と話すときは気が張っているようだ。
気が高ぶって漏電するのは絶対に避けたい。
(3ヶ月、持つのかしら私?)
今はまだ布束が居るので問題ないが、2人きりで数時間、それが毎日となると……
と、考えたところで、じっと宙を見つめている布束に、美琴は気がついた。
「どうした……んですか?」
「……真横で、バカップルの会話を延々と聞かされる身になってみる?」
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*ささやかなる想いを星あかりのもとで 3 中編A
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――常盤台中学、校長室にて。
「……わかりました。ご迷惑をお掛けいたしまして、申し訳ございません」
美琴は頭を下げながら、今の沙汰について考える。予想通りであり、予想以上に重かった、とも思えた。
無期限停学。
無限、という意味ではないが、期限が定められておらず、反省の色が見られなければ、それこそ無限となってしまう。
(たぶん、あの特殊部隊殲滅かな。あの部隊は任務失敗したわけで、矛先は私に向かうわよねやっぱ)
色々推測するが、答えなど無い。
美琴の素行は、以前から問題視されていた。
LV5クラスのエレクトロマスター、つまり御坂美琴の手によるものとしか思えない事件の痕跡は多々あった。
大規模停電しかり、多数の化学研究所破壊しかり。
しかし明確な証拠が無い事と、何より誰も訴えない事――学園都市側は何故か内部処理で済ませてしまっている事。
それ故に美琴は、お咎めもなく今まで過ごしてこれた訳である。
しかし、今回は。
学園都市側は、今までとは異なり、『軍事任務妨害を行った故の厳重注意』を常盤台中学側に示してきたのである。
黙認できるレベルの話ではない、との意思表示であり、常盤台中学も動かざるを得ない。
常盤台中学は協議に入り、御坂美琴への処罰の検討を行った。
本来、ここで当事者の言い分を聞いて、その上で決定する。――だが。
御坂美琴の性格は、いわばもう丸裸にされていた。いわゆる『開発』によって性格は掴まれているのである。
つまり、絶対に譲れないことがあって事を起こし、そしてその理由は、絶対に言わないであろう事が。
言い訳など100%せず、黙秘する事が。明白すぎるほど明白であった。
そして、呼び出された御坂美琴は、予想通り黙秘を貫き。
――結果、御坂美琴は、無期限停学を言い渡された。
指定された学外活動の修了を以て、解除するという但し書きを付記して。
校長室を出て重厚なドアを締め、……ふうっと一息ついて振り返って、美琴は顔を引きつらせた。
「黒子!? アンタ授業中でしょ! 何やってんのよ!?」
「突然の腹痛に襲われまして、やむを得ず、ですの」
白井黒子が、つかつかと美琴に近寄って腕を掴み……2人の姿が消えた。
どうやら屋上に連れてこられたらしい。風が心地よい。
「まず、結果を教えていただきたいですの、お姉様。もう校内は、その話で持ちきりですわ」
「人の事なんてほっときゃいいのに」
「お姉様は、少しはご自身の影響というものを考えられたほうがよろしいかと」
「ま、何でもいいけど。……停学決定、よ」
白井黒子の表情が曇る。
「なるほど、今回ばかりは無罪放免とはなりませんでしたか。しかしこの時期では、一端覧祭と被りそうですわね」
「……何言ってんの、全部アウトよ。……無期限停学、だし」
「!? お、お姉様、それを了承したんですの!?」
「逆らったら退学でしょそんなの。了承するもしないもないでしょーが」
「申し開きすれば、もっと軽減されるでしょう!? ……やはり、何もおっしゃらなかったですのね……」
――あの日、黒子は美琴からの連絡を受け、狂喜乱舞して空港へ迎えに行った。
一人手を振る美琴に、黒子は飛びかかるように抱きつき、お約束のゲンコツを貰いつつ再会を喜んだ。
しかし。
『ごめんね、戦争に勝手に参戦してきた。理由も、何があったかも、今は話せないから。またいずれ、ね』
初っ端から釘を刺され、白井黒子は黙るしか無かった。
(ならば、逆から辿ってみるまで、ですの)
美琴が言わないのならば、と黒子は早速次の日、独自に調べ始めた。
まず、美琴が一人で帰ってきたのかどうか。
搭乗者名簿をコネも使って強引に手に入れ……そして見つけた。『上条当麻』の名前を。
(座席も隣……やはり、ですわね)
嫉妬の炎も渦巻くが、今回もまた、あの少年が絡んでいたのか、という思いの方が強い。
2人が絡んでいたのなら、またレムナント事件の結末のように、あの『バカバカしいレベルの世界』が展開されたのか。
あの戦争の結果は、『自分には手の届かない世界』で行われた戦いの結果なのか。
屋上にて、吹っ切れたような表情をしている美琴の横顔を見上げつつ。
白井黒子は、ますます『自分の居場所』が失われていく気分を味わっていた……。
◇ ◇ ◇
――そして、長点上機学園自習室、にて。
「む、無期限停学だ……って!? 退学の次に重いじゃねーか!」
想像以上の罰を受けた美琴に、上条は慌てる。
もはや上条の頭がら、布束砥信がどうだとか全て、吹っ飛んだ。
「無期限っつーのは、解除日が未定ってことで、永遠てことじゃないわよ? 無いとは思うけど、1週間で解除もあるかもね」
「それにしたって、お前、そんな……!」
「んー、特殊部隊倒した時、顔見られちゃったからね。モノだったら証拠残さずにしてこれたけどさー。
ということで学園都市側から厳重注意が来てね、常盤台中学は停学の判断下したってこと」
「でもそりゃ俺をっ!」
「それは言いっこなし。たかが停学、中学だから義務教育の関係上、あんまり留年とまでは繋がらないみたいよ。
無期限って言葉が大げさなだけだから、心配しなくていいわよ」
心配するなと言われても、上条にしてみれば全て自分のせいである。頼んだわけではない、というのは言い訳にならない。
一人の少女のエリートコースを止めてしまった現実に青ざめる。
はあっ、と美琴がため息をつく。
「……と言っても、立場が逆なら、まあアンタの気持ちも分からなくもない。だから、私の復学に協力して貰うわよ」
「な……何だ? よく分かんねーけど、俺にできることなんだな!?」
「うん。私の姿を見て想像つかない?」
長点上機学園の制服を来た美琴。何だか大人びて見える。
ハッ! と上条がひらめく。
「まさか飛び級で高校1年に、とかか!? よく天才少女にあるストーリーだよな!」
「バカかアンタは! マンガの読みすぎだっつーの! 日本の中学にそんな制度認められてないわよ!」
(冗談だっての……コイツ、きっちり飛び級とか調べてんのな)
「だったら何だよー。一緒に勉強なんて、俺がお前に教えられること何もねーしな。……情けない年上で申し訳ないけど!」
「だから、私が教えるのよ」
「……はい?」
「アンタの特別講習の、先生は、私」
「……このヒト……いや御方は?」
上条は横で聞いている布束砥信を指さした。
ちなみに、テスタメントを開発する頭脳を持っている布束砥信は、御坂美琴とはまた異なったハイレベル天才少女である。
「私は、貴方達2人の指導員としての担当者よ。御坂さんは、私の報告書によって、復学が決まる訳。」
布束は首をすくめて、別に分からないことは私に聞いてもいいけど、と言い添える。
「……つーことは何か、俺が編入試験に合格しなければ……?」
「私の運命はどうなるのかしらね? どう? 何をやらなきゃなんないか、理解できた?」
上条は、汗がダラダラと吹き出してきた。
(失敗すりゃ留年でいーや、と考えてたのに……こりゃシャレになんねえっ……!)
「と、いうわけで」
上条の反応に満足した美琴は、にんまりと笑って腕を組んで仁王立ちになった。
「みっちりと、3ヶ月ビシビシ行くわよ! やや抑え気味にはするけど、土日もやるかんね!?」
「ちょっと待って、そこまでやるんかよ!? い、いや例えば冬休みとか、」
「冬休みも無いわよ。まあ年末年始は、進行次第では考えてもいいけど」
「……マジなんですかっ!?」
「普通の高校のオチコボレが、こんなトップクラスの高校に追いつこうってのよ!? 普通の努力じゃ無理でしょーが!」
そのトップクラスの高校1年の内容を教える中学2年生って……
「お、お前はそれで、例えば教科書とか読んで理解できたのかよ。俺ちょっと見たけど、ありゃキツくねえか!?」
「さすがにちょっとつらいけど。でも毎日アンタに教えながら、調べつつやれば何とかなるかな、とは思ってる。
あと教科によっては『特化』しようかとね。例えば世界史なら、今のアンタならイギリス国教中心に展開すれば興味わくでしょ。
日本史なら天草式絡みの歴史を勉強するなら苦にならないでしょ? そういった教科内の得意分野作るつもり」
上条は口をぱくぱくしている。
「アンタにはいっつもやられっぱなしだけど、今回は、私の言う事全部聞いてもらうからねっ! うっふっふっふ~」
◇ ◇ ◇
「それにしても、話が来たときはびっくりしたわよ」
立ち話も何だ、と各自椅子に座って、ちょっと落ち着いた状態になり、美琴は口を開いた。
「停学中の活動について指定されててさ、簡単に言うとココに来て担当者の指示通りに毎日を過ごせ、ってね。
そうしたら、アンタの教育係だとさ。上は何考えてんのかしら」
「Indeed、貴方達を一旦同じ場所に放り込んでおくことで、管理……いや監視しやすくしようとしているのでしょうね」
担当者こと布束砥信がつぶやく。
「監視……」
「バラバラに見張る事を考えれば、単純に労力は1/2で済むでしょう?」
と、布束は天井の隅を指さした。黒い半球状の装置があり、緑と赤のランプが半球内で光っているのが見える。
「アレはセキュリティカメラだけど、当然監視カメラにもなってるでしょうね。声も拾っているかもね」
「口に出して喋っていいの、そういうの?」
「全部推測だから。推測した者に危害を加えて、推測が正しかったことを証明するなんてバカなことはしないでしょう」
「でも私達って、そんな監視するほど悪い奴だって事? 失礼しちゃうわね」
美琴は腕組みして、眉をひそめる。
「貴方達は大人のやろうとしている事を根こそぎひっくり返す力があるのよ。子供の遊びで済ますのもこれまで、ってとこかしら」
「学園都市が余計なことばっかりするからよ! ったく!」
「何にせよ、戦争後でバタバタしてる最中に、目の届かないところで色々されると面倒だから、ってだけならいいのだけれど」
「学園都市の場合、裏の裏の、そのまた裏を読めって、か……」
美琴は、ヒトコトも喋らずに沈んでいる上条を見やる。
「……何座り込んでしょげてんのよ」
「だってお前、編入試験クリアしねえと、お前の停学が、なんて……。俺は短期勝負なら気合入るけどさ、長期は……」
「アンタね! まあでも、短期的な目標決めてやった方がいいのは事実よね。週末の試験でいい点取ったらご褒美とか?」
「……ご褒美。そりゃ何かあれば嬉しいけどさ、……いや逆か。俺が御坂にお礼するって事になるのか、学力上がった訳で」
「んー? それだと、馬の前のニンジンにならないわよ? ……まあ、その辺は始まってからで。それより、その前に、」
美琴は人差し指を立てた。
「1日、どうやって過ごす? 一応、考えてきたのはあるんだけど」
「いきなりの話で何も考えてねーよ。元々先生に従うつもりで来てたしな」
美琴はすっくと立ち上がり、黒板の前に立つとカカッと書き始めた。
○ 9:00~12:00 授業(休み時間10分×2)
○12:00~13:00 昼休み(昼食&昼寝)
○13:00~15:00 復習テスト
○15:00~17:00 復習テスト答え合わせ
○17:00~17:30 質疑応答
●帰宅後 宿題(予習として明日の範囲の問題集を解く)
「む……授業としては3時間だけなのか?」
上条は少々驚いた。てっきり1日8時間は授業浸けになるかと思っていたのだ。
「理由の一つはね、そんな広く浅くやったって、身に付きません。前日の予習と、授業と、テスト。
3回同じことやれば、さすがに覚えるでしょ。欲張らず、確実に押さえたほうがいいの」
「ふーむ……いや、それで1年分追いつけるなら万々歳だから、俺は文句ねえけど」
「あとね、やっぱ申し訳ないけど、私の時間が足りないの。次の日用の授業の要点まとめたり、テスト作ったりでね」
「あ……」
「これだったら、比較的余裕あるから大丈夫。長期戦だから、無理してもしょうがないし。
たださっきも言ったけど、土日もやるからこそのスケジュールよ? 土日休みたいなら、もっと詰め込んだのに変わるけど」
美琴は上条を見つめた。
「どうする?」
(別段、土日やることがあるわけじゃねえ。何より、平日に詰め込むと、御坂がパンクするってことだよな、それって)
「テスト問題作るのって、かなりつらいわよ? 別の問題集にしたら?」
「やっぱそうかなあ。う~ん……問題集から抜粋する形にするかなあ……」
布束と美琴の会話を聞きながら、上条は心を決めた。
御坂美琴がなぜここまでやってくれるのか分からないが、少なくとも身を委ねたほうが、きっと上手くいく。
「御坂の言うとおりに。土日もよろしくな、御坂。休みのコントロールも任せる」
(こっ、これで3ヶ月ほぼ毎日一緒に……!)
土日きっちり休みたいと言われれば、平日はかなり忙しく、かつ土日は上条に会う理由が無くなる所だったが。
しかしこれで、毎日公明正大に会える! 美琴は内心で超ガッツポーズであった。
あのシスターが帰ってこようが、他に知らない女の子がいようが、関係ない。自分たちの時間。
(ま、トラブル男のコイツの事だから予定通りには進まないだろうけど! でも、今はこの約束だけで十分……)
3ヶ月みっちり行うということで、上条は黒板を改めて確認した。
「宿題、ってどんなのだ? 予習だけ?」
「予習だけ。復習もやるべきなんだけど、」
美琴は上条をジロッと睨む。
「アンタ夏休みの宿題とやらを、最終日までほとんどやらなかったんでしょ? そんな人に嫌々宿題やらせても効果ないわよ」
「うっ……」
これには上条は何も言い返せない。ましてや、美琴には手伝ってもらいながら、出来なかったのだ。
「だったらせめて、手を動かして何となくででも、予備知識として頭に入れたほうがマシだと思ったの」
美琴は机の上の問題集を指さした。
「だからこの問題集。ほとんど記号問題ないけど、これやってきて。で、当然予習だから答えほとんど分からないはず。
だから、答え写していいからね」
「はい?」
「ちゃんと問題文読んで、一瞬でもいいから考えて。その後自分で答えてもいいし、答え写してもいい。
大事なのは、『なんでこのポイントを問題にしたんだろう』とか『ここは重要ってことだな』とか思って欲しいの」
「はあ……」
「そういう予習をした上で、私が授業する。たぶん取っ付き易くなってるはずよ。どこが重要か何となく掴んでるはずだから。
で、午後にテストやって、最終チェック。これで基本的な流れはおしまい」
「た、確かに身には付きそうだ、な……」
上条は、目の前の少女に圧倒されるばかりだった。
「今回みたいなマンツーマンだから出来る勉強法よね。こういうクセつけとけば、普段の授業にも応用できるわよ」
「お、お前が考えた、のか……?」
「まさか。本の受け売りよ。……去年はさ、寮の同部屋の子とあんまり相性よくなくてね。門限ギリギリまで図書館にいたのよ。
そこで色んな本読み漁ったんだけど、その内の一つが、こういう勉強法ってワケ」
『前任の同居人にはちょっと出て行ってもらっただけですの、……あくまで合法的に』
確かアイツそんな事言ってたな、と上条は某テレポーターを思い出す。
「ま、それはともかく。この勉強法なら私も実践してるし、たぶんアンタでも大丈夫」
「確かにそれなら宿題のプレッシャーはねえな。普段から、こうやってろって事か……」
「うん。勉強ってのはね、心に余裕持ってやると効果あがるのよ。予習しておくと、授業でソレが出るだけで余裕が出来るの。
『あ、そこ知ってる』ってね。そうすると、派生する物事も、難なく頭に入りやすいのよ」
なるほどな、と頷く上条。これならやっていけそうな気がする……
「実践してる、って、中学でもそういうやり方なのか、お前?」
「そんな感じね。休み時間は10分きっちり復習に費やして。昼休みはご飯とお昼寝してるけど。寮帰ったら予習ね」
「いつ友達と話してんだよ。……ぼっち?」
「ぼっち言うな! ま、私がそういう子だって、もう知れ渡ってるから休み時間に誰も話しかけてこないわね。
嫌われてるんじゃなくて、気を遣われて、よ? 言っとくけど。別に放課後とか普通に話してるし。
昼休みは私が食べてる横に黒子が座ってくるのがパターンになってるわね。おしゃべりして、20分前には教室戻って、お昼寝」
上条は地下街の学食レストランを思い出す。確か4万円の常盤台学食が……
「そういや、常盤台の学食って滅茶苦茶じゃねーか? 数万するらしいじゃねーか」
「ああ、バカみたいな値段の学食はあるわね。あんなの一部の金持ちのお嬢様しか食べないけど……よく知ってるわね?
どこぞのコース料理みたいに、一皿一皿ちんまりと出てくんのよねー。昼休みに呑気ったらありゃしない。
私はいっつも千円の日替のお膳定食。これなら頼めば速攻出てくるし、美味しいしね。全然問題なし」
(ソレデモセンエンデスカ、ミサカサン)
と、上条はひそかにツッコむ。こちらは500円超えたらジュースを我慢しようかと考えているレベルである。
「あーもう、なんで学食の話になってんのよ! ……って、」
美琴は上条に突っ込もうとしたが、一つ懸念を思い出した。布束の方を見やる。
「お昼とか、どうしたらいいのかしら?」
「学食はやめた方がいい。Because、貴方達は目立ちすぎる」
「そんな目立つかな。こっちの制服も着てるのに」
「LV5いないから、ここは。名前だけなら第1位はこの学園所属だけど、見たことないわね」
一瞬美琴の表情が陰ったのを上条は見た。まだアクセラレータについては複雑みたいだな、と心の隅で思う。
「じゃあ、お弁当持ち込み、かな」
「俺はそれで問題ねえ。俺も前まで自前の弁当か、パンの買い食いだったし」
「それじゃあさ。私二人分作ってくるね。手間は一緒だから」
「…………!」
「料理の腕、疑ってんでしょ? 正直、部屋で料理できる環境じゃないから、そんなに数はこなせてないけどさ。
ギャグマンガなら大さじイコールお玉と勘違いしてる女、みたいな展開になるんだろうけど、そこまでボケてもいないわよ」
顔を赤らめながら、早口で言い訳するかのごとく、喋る美琴。
しかし上条は。
(違う、違うぞ御坂。一人と二人では、一緒じゃねえんだ……!)
質はともかく台所に立った数では圧倒的に美琴に勝る上条は、突っ込むべきか迷っていた。
一人なら、「どろりとした煮汁がご飯ゾーンに侵食」していようが、極端な話、ふりかけに梅干だけでも構わない。
しかし二人、つまり相手がいる話なら、そうはいかない。
手を抜いたら、それが人物評価に繋がるのだ。
反応が薄い上条に、美琴の目が不安そうになっている。
「い、いらない? ありがた迷惑、かな……?」
「そうじゃねえ。いや、これ以上お前に負担は」
「だから、どうあれ自分の分は作るんだから、関係ないってば」
これはもう断るほうが空気悪くなる、っつー流れだな、と上条は悟った。
(ますます御坂に頭が上がらなくなるなあ。どの道、手抜き弁当作るタイプじゃねえか、コイツは……)
吹っ切れた上条は、素直に喜ぶことにした。お互い、それが一番だ。
「御坂。」
「?」
「俺、もうそれだけのために学校来る! 女の子の手作り弁当を毎日とか、なにそのヘヴン状態!」
「ば、馬鹿! 勉強しに来なさいよ! そ、それに、そんなに期待されるものでも、ないし……」
目を背けて真っ赤になる美琴。
「普通に卵焼き・ウィンナーでいいんですよ! シンプルイズベスト!」
「寮の調理室借りて作るから、煮物系とか時間かかるのが難しいのよね。ワンパターンにならないよう頑張るけど」
「愛情があれば俺はもう何でもオッケーだ。ワンパターンでも一向に構わねえっ!」
あ、愛情……って! と美琴が固まる。
美琴の硬直には気づかず、他何かないかな、と宙を見上げて思案していた上条が、美琴の方に向いた。
「せめてお茶担当ぐらいやるぞ。魔法瓶に入れて持ってくる」
「う、うんお願い。それはそうと、アンタたくさん食べる?」
「あればあるだけ食える」
「おっけー。私の1.5倍は食べそうね……。よし!」
「何だか遠足前の気分になってきましたよ御坂センセー」
「勉強する気あんのかアンタはっ! もう!」
そう言いつつ、どう見ても満更でもない顔をしている美琴であった。
◇ ◇ ◇
ちょっとトイレ行ってくる、と上条が席を外した。
ほうっ、と美琴はため息をつく。話しているときは気付かないが、やはり上条と話すときは気が張っているようだ。
気が高ぶって漏電するのは絶対に避けたい。
(3ヶ月、持つのかしら私?)
今はまだ布束が居るので問題ないが、2人きりで数時間、それが毎日となると……
と、考えたところで、じっと宙を見つめている布束に、美琴は気がついた。
「どうした……んですか?」
「……真横で、バカップルの会話を延々と聞かされる身になってみる?」
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