「上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/1スレ目短編/088」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/1スレ目短編/088」(2010/03/12 (金) 21:26:16) の最新版変更点

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#asciiart(){{{ とある日の放課後。 「ちょっとアンタ!」 上条、スルー。 「待ちなさいよ!」 上条、これまたスルー。 「待てって……」 上条、気づきません。 「言ってんでしょうがこのどバカー!!」 いと高き天より落ちる雷撃。上条はまるで伸びをするように慣れた調子で右手を頭上にかざすと、その一撃を打ち消す。そして周囲を見回して美琴の姿を確認すると、派手にため息をついた。 「不幸だ……。おい御坂、挨拶代わりにビリビリすんのやめろよなぁ。マジでいつかお前殺人罪で前科一犯になるぞ?」 「人が呼んでるのに、アンタが無視するのが悪いんでしょうが!」 「呼んだ?お前、いつだって人に呼びかける前に電撃ぶちかましてくるじゃねーか」 「呼んだわよ!何度も何度も!」 「は?嘘だろおい。今だって電撃の方が先だったぞ」 「………え?」 美琴は過去を振り返る。いつだって自分が呼びかけてるのに上条はそれを無視して、キレた美琴がスパーキング、そして上条がキャンセルというのがパターン。 ……だったはずだ。しかし、このツンツン頭には「自分が呼びかけている」という項目が入っていない。これはもしや……? 「御坂?おい御坂、人に声をかけておいて用件はないのか?上条さんはこれからこなさなくちゃいけない宿題を思うだけでグロッキー状態なので、さっさと帰りたいんだけど帰ってもいいですか帰るぞさようなら?」 「え……?あ、ああ、いいわよ、ふんっだ」 「なんだかなぁ。じゃあな、御坂」 上条はひらひらと手を振ると、美琴をその場に残して立ち去った。 「私が声かけてるってのに、気づいていない。でもアイツは意識してスルーしてるんじゃなく『最初から耳に入っていない』様子だった。ということは、呼びかけ方に問題がある、ってこと?」 美琴は首をひねる。そしてこれまで『上条が呼びかけを無視した』時の、二人が遭遇したときの構図を思い返す。美琴はいつも、おおよそ上条の後方か後ろ斜め45度くらいから声をかけている。つまり、これは少なく見積もっても美琴の姿が上条の視界に入っていない可能性が高い。 「てことは、あれよね……」 もしかして……立ち位置変えればいいってこと? 翌日の放課後。 美琴は通学路でツンツン頭の少年を待ち構えていた。彼を呼び止める。ただそれだけのために。 「来たわね……」 美琴は、視線の先に上条の姿を捉えると、全速力で彼の真正面へ駆け寄った。 「ちょっとアンタ!」 「おーす御坂。昨日の忠告、聞き入れてくれたんだな」 「そうそうアンタよアンタ!……って、はい?」 「だから、『挨拶より先に電撃すんのやめろ』って話。学習の成果を見せに来たんじゃないのか?」 「そ、そういうわけじゃないわよ!とりあえず、アンタがあたしをスルーしなくなったのは感心ね」 「はぁ?俺がいつお前をスルーしたんだよ。そりゃお前のビリビリピンポン攻撃はスルーしたいけどな。あんなので挨拶されたら命がいくつあっても足りないぜ」 「私がいつアンタをピンポン攻撃したってのよ!」 「お前と顔を合わせるたびにほぼ毎回。それからな、上条さんには上条当麻って名前がちゃんとあるんだから『アンタ』じゃなく、ちゃんと名前で呼べ。それと今日の用事は何だ?上条さん、今日は時間があるから大した用事じゃなければつきあってやれるぞ」 「えっと……用事は……」 「もしかして、今時の中学生の間では、用事もないのに人を呼び止めるのが流行ってんのか?」 「そんなの流行ってないわよ!」 「じゃあ何だよ。早く言えよ」 「い、一緒に……」 上条は一歩後ずさる。 「一緒に……何するんだ?」 「……その、かえらない?」 「ああなんだ。そんなことでいいのか。じゃあ途中まで帰ろうぜ」 美琴からどんな無茶振りをされるのか身構えていた上条は、内心ほっとする。 一方、ひどくあっさりと自分の要望が通ったことをようやく理解した美琴は、自分が何を言い出したかを反芻して、顔を赤らめる。 顔をゆでだこのように赤くして硬直したままの美琴の顔面で上条は手をひらひらと振った。 「……おい何固まってんだよ御坂?」 「にゃ、にゃんでもないわよ!」 さらにその翌日。 美琴はまたまた通学路で上条を待ち伏せていた。視界にツンツン頭の姿をロックオンすると、前日と同じく彼の元へ駆け寄った。 「と、と、と、当麻!」 「おう御坂。……名字でなく名前で呼ばれるのにはちょっと抵抗があるけど『アンタ』よりはましだな。どうしたー?」 「い、い、一緒に帰ろう?」 「あー、いいぜ。どうせ途中まで一緒だしな。あ、俺スーパーに寄ってくから今日は通る道が違うけど、それでもいいか?」 「う、うん」 美琴は上条の隣に並ぶと、歩き始める。上条は美琴に気づかれないように歩く速さを美琴に合わせた。 「んで、御坂さん。何か悩み事でもあるんですか?」 「ふぇ?な、なによいきなり」 「一昨日は用件言わないで帰っちまうし、昨日は昨日で帰り道ずっと無言だから、何か言い出しにくい話でもしたいのかと思ったんだけどな」 「え、べ、別にそんなの……ないけど」 「そっかぁ?」 「そうよ」 「ま、俺はお前とつるんでて楽しいからいいけどな。何か相談があるなら言えよ。乗れる範囲で乗るからさ」 「あ、え、うん。ありがと」 「お前さ」 「ひゃ、ひゃい?」 いつものように突っかかれないので、調子が狂いまくりの美琴は自分の言語が若干怪しくなっていることにも気づかない。 「電撃使わないで、そうやって普通に名前で呼びかけてくればさ、常盤台のお嬢様って言うのを抜きにしても可愛い中学生じゃないか。いつもこうだと上条さんはうれしいんですがねー」 可愛い中学生じゃないか。 可愛い中学生。 ……可愛い。 「ふ、ふ、ふ、ふにゃああ~~~~~~っ!」 思考を停止し、頭から盛大に漏電する美琴。これに対し、電撃が周囲に飛ばないよう慌てて美琴の頭に右手でふたをする上条。習慣という物は恐ろしい。 「おっ、おい!いきなりどうしたんだ御坂!御坂?おい御坂ってばしっかりしろ!」 美琴の襟を掴んでがくんがくんと前後に揺らし、意識を取り戻させようとする上条。とても女の子に取る態度ではないが、割と必死な上条はそんなことにも気づかない。 「目を覚ませ!御坂!御坂ーーーっ!」 (そうにゃんだ。電撃使わないで名前で呼べば、可愛いって、可愛いって……) ショートした美琴の頭の中で、『可愛い』という音声がぐるんぐるんとリフレインする。 この後、通報を受けて現場に急行した黒子が美琴を発見するまで、頭から煙を噴いた少女と必死な形相の少年の珍妙なコントは続くのだった。 }}} #center(){◆         ◇         ◆         ◇         ◆} #asciiart(){{{ その夜、少女は夢を見た。 『御坂。ちょっとつきあってくれないか』 『悪い、御坂。俺、お前の気持ちに気づいてやれなくて』 『俺、御坂のことが好きなんだ』 自分よりちょっとだけ背の高い少年に、抱きしめられる。場所は、一晩中追いか けっこした、あの河原。美琴は、少年の抱擁で身動きがとれなくなる。 (ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとー!?これってどうすればいいの?どどどどどうし よう?どうしよう?) 美琴は、何となくツンツン頭の少年に好意を抱いている。だが、そこから先はど うすればいいのかさっぱりわからない。わかっているのは、彼がほかの女性と一 緒にいるのを見かけると自分がいらつくこと、自分が彼にスルーされるのが耐え られないこと。そして、彼にとって『女性として見られていない』ことに腹が立 つこと。 だから美琴は、彼の突然の告白に動揺して、何もできない。何も言えない。よう やく口が動き、なんとか言葉をしぼりだす。 『わっ、わたっ、わたっ、わたし、私は………』 そこで目が覚めた。 その夜、上条は考えていた。 一昨日、美琴は電撃を落として不機嫌に立ち去った。まぁこれはいつものことだ。 昨日の帰り道、茶色の髪の少女は、いつもと違って借りてきた猫のようにおとなし かった。 そして今日。彼女はいきなり煙を噴いた。煙を噴くというのは人間にあるまじき現 象だが、ここは学園都市。そして彼女はレベル5。何が起きてもおかしくない、と 上条はひとまず納得する。 「あいつ、いったいどうしたんだろうねぇ」 シャープペンシルを鼻の下に挟んで、両腕を頭の後ろで組んで天を仰ぐ。悩み事が あるなら言ってくれればいいのに、と思う。とはいえ美琴は反抗期も抜けない中学 生、おいそれと悩みを人に話すこともしないだろう。 「あの性格だしなぁ……」 上条は手元の教科書に目をやる。この学園都市で尊ばれる能力は、自分とは縁が薄 い物だからと、彼は今まであまり熱心に勉強はしてこなかった。今もこうして宿題 を広げているが、気乗りがしなくてちっとも片付いていない。教科書を逆さにした り、ページをぺらぺらとめくっていた上条は、教科書のある項目で手が止まった。 「これって……もしかして」 そこにはこう書かれていた。 『能力とパーソナルリアリティ、ストレスの関連性』 と。 次の日の放課後。 上条は前方に常盤台中学の制服を着た少女を見かけた。 「おーい、御坂ー」 上条が手を振ると、彼女はすぐに気がついて、上条の元に駆け寄ってきた。心なし か顔が赤い。 「あ。と、当麻。どうしたの?」 「お前の姿が見えたから、声かけたんだよ。お前、今日この後時間ある?」 「え、ええ。空いてる……けど」 「じゃあ御坂。ちょっとつきあってくれないか」 「うん、いい、けど。どこに行くの」 「ああ、すぐそこだよ」 借りてきた猫のようにおとなしい美琴を連れて、上条は河原へと向かった。 (こ、ここって、夢に出てきた……) 美琴の動悸が速くなる。彼はここへ来て、いったい何をするつもりなのかと訝し む。 (まさか、あの夢って…正夢?) 少し前を行く上条の後ろ姿を見ながら、そんなことはないそんなことはないと、 頭をふん分左右に振る美琴。やがて、彼は立ち止まり、美琴に向き直った。 「御坂」 (きたっ!) 美琴は緊張の面持ちで姿勢を正す。上条は美琴を見つめると、担いでいた鞄をぽ んと地面に放り投げた。 (や、や、やっぱりあれって正夢なの!?でも、でも、私どうすれば……) 美琴の動揺に気づかず、上条は言葉を続ける。 「悪い、御坂。俺、お前の気持ちに気づいてやれなくて」 (ここまで台詞も場所も一緒って事は、やっぱりそうなの?そういうことなの? どうしよう、私はなんて返事すればいいの? このあとはその、やっぱり、き、キスとかするわけ???) 美琴の顔が、一気に真っ赤になる。上条は一瞬だけ微笑むと、次の言葉を紡いだ。 「お前はレベル5とはいえ、中身は中学生なんだよな。ごめんな、今までビリビリ とか言って」 「………………………………………………………はい?」 「だから………お前の全力(ほんき)を俺にぶつけてこい。俺の全力で受け止めてや るから」 上条は、送球を受ける一塁手のごとく左足を半歩後方に引き、右手を眼前に構えた。 「……ねぇアンタ、いったい何やってるの?」 突然の展開について行けない美琴が疑問を口にする。 「いやあのさ、お前ここのところなんか様子が変だったから、俺なりに考えてみた んだよ。あれだろ?お前、時々全力で電撃を放出してやらないと、お前がストレス でおかしくなっちまうんだろ?でも学園都市じゃ、お前の全力放電を受け止められ るのって俺しかいないからさ。だから今まで、俺に対してだけビリビリをぶちかま してきたんだろ?いくら強大なパーソナルリアリティがお前の中に存在すると 言ったって、まだ14歳じゃ全て制御しきれないもんな。だから、遠慮なく撃ってこ い。そりゃ、電撃かまされるのは怖いけど、それでも『撃ってくる』ってわかって れば心の準備だってできるし。それでお前が落ち着いてくれるなら、俺は友達とし て身体を張ってやる」 目の前でばっちこーい、とか言ってるツンツン頭を凝視する美琴。 「あ、あ、アンタは……」 「どうした御坂。10億ボルトでも、100億ボルトでも、俺は覚悟してるぞ」 「ひ、と、を、勝手に値踏みするなーーーーーー!!」 美琴の放った雷撃の槍が、上条を目指して一直線に落ちる。 ズバーン!という、まるでボールがミットにおさまったような音を何十倍にも増幅 したよう響きが河原を満たす。そして槍は上条の右手に……打ち消された。 「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ……」 「ど、どうだ御坂?少しはストレス、発散できたか?お、お、俺はまだ大丈夫だか ら、何だったらもう2、3発……」 「アンタがくたばるまでやってやるわよ!死ねーーーーっ!」 ズバーン!ズバーン!と雷撃が立て続けに鳴り、そしてその全てが、まるで上条の 右手に吸い寄せられるように消えた。 「なっ、なによ、なによう……」 「お、おい、御坂?どうしたんだ?何か様子が変……」 「アンタのせいよ!」 美琴はビッと上条を指さす。 「アンタの……せいよ……」 上条を指さした手がのろのろと落ちて、美琴は泣き出した。 「お、おい?おいおいおいおい?」 突然泣き出した美琴を目の前に、うろたえる上条。 「な、なに?どうした?御坂、何か俺気に障ることでも言ったか?」 美琴は答えない。答えの代わりに、わんわんと泣き続ける。 美琴が泣き虫なのは知っていたが、そもそもどうして泣き出したのかわからず、上 条は対処に困った。全ての異能を打ち消す幻想殺しでも、少女の涙は止められない。 「えーっと……」 これはマイリマシター、などといってどうにかなる状況ではない。 理由はわからないが、女の子を泣かせてしまったというのは、上条にとって非常にま ずい、気まずい。しかし何をどうしたらいいか、彼の手に負えない。負えないから上 条は解決策を探す。美琴を納得させられる解決策を。 「御坂。お前が何を悩んでいるのか、俺にはわからない。悩みを打ち明けられないん だったら俺の胸でよかったら貸すから、今日は思いっきり、すっきりするまで泣け」 上条はそーっと、御坂の頭に手を回し、自分の胸に抱き寄せた。そして右手でいい子 いい子と、美琴の頭を撫でる。美琴は上条にしがみつき、泣き続ける。 (コイツのバカ!私のバカ!何だってこんな状況になってるのよ!何もかも噛み合っ てないじゃない!コイツの前で大泣きして……私、バカみたいじゃないのよ……) 美琴の今の心境を例えると、『頭ぐちゃぐちゃでワケわかりません』。 気になる異性の腕の中にいるというのに、美琴の心境も状況も芳しくない。 この鈍感男に対して期待するというのは間違ってると、ほかの誰かなら指摘してくれ たかもしれない。 相手を『中学二年生』としか見てないニブチン少年と。 『中学二年生』分の恋愛経験しかないツンデレ少女では。 進展はまさしく神のみぞ知る。 『自分から積極的にならないと状況は変わらない』と少女が開き直るまで、あと×日。 完。 }}} #back(hr,left,text=Back)
*能力とパーソナルリアリティ、ストレスの関連性 #asciiart(){{{ とある日の放課後。 「ちょっとアンタ!」 上条、スルー。 「待ちなさいよ!」 上条、これまたスルー。 「待てって……」 上条、気づきません。 「言ってんでしょうがこのどバカー!!」 いと高き天より落ちる雷撃。上条はまるで伸びをするように慣れた調子で右手を頭上にかざすと、その一撃を打ち消す。そして周囲を見回して美琴の姿を確認すると、派手にため息をついた。 「不幸だ……。おい御坂、挨拶代わりにビリビリすんのやめろよなぁ。マジでいつかお前殺人罪で前科一犯になるぞ?」 「人が呼んでるのに、アンタが無視するのが悪いんでしょうが!」 「呼んだ?お前、いつだって人に呼びかける前に電撃ぶちかましてくるじゃねーか」 「呼んだわよ!何度も何度も!」 「は?嘘だろおい。今だって電撃の方が先だったぞ」 「………え?」 美琴は過去を振り返る。いつだって自分が呼びかけてるのに上条はそれを無視して、キレた美琴がスパーキング、そして上条がキャンセルというのがパターン。 ……だったはずだ。しかし、このツンツン頭には「自分が呼びかけている」という項目が入っていない。これはもしや……? 「御坂?おい御坂、人に声をかけておいて用件はないのか?上条さんはこれからこなさなくちゃいけない宿題を思うだけでグロッキー状態なので、さっさと帰りたいんだけど帰ってもいいですか帰るぞさようなら?」 「え……?あ、ああ、いいわよ、ふんっだ」 「なんだかなぁ。じゃあな、御坂」 上条はひらひらと手を振ると、美琴をその場に残して立ち去った。 「私が声かけてるってのに、気づいていない。でもアイツは意識してスルーしてるんじゃなく『最初から耳に入っていない』様子だった。ということは、呼びかけ方に問題がある、ってこと?」 美琴は首をひねる。そしてこれまで『上条が呼びかけを無視した』時の、二人が遭遇したときの構図を思い返す。美琴はいつも、おおよそ上条の後方か後ろ斜め45度くらいから声をかけている。つまり、これは少なく見積もっても美琴の姿が上条の視界に入っていない可能性が高い。 「てことは、あれよね……」 もしかして……立ち位置変えればいいってこと? 翌日の放課後。 美琴は通学路でツンツン頭の少年を待ち構えていた。彼を呼び止める。ただそれだけのために。 「来たわね……」 美琴は、視線の先に上条の姿を捉えると、全速力で彼の真正面へ駆け寄った。 「ちょっとアンタ!」 「おーす御坂。昨日の忠告、聞き入れてくれたんだな」 「そうそうアンタよアンタ!……って、はい?」 「だから、『挨拶より先に電撃すんのやめろ』って話。学習の成果を見せに来たんじゃないのか?」 「そ、そういうわけじゃないわよ!とりあえず、アンタがあたしをスルーしなくなったのは感心ね」 「はぁ?俺がいつお前をスルーしたんだよ。そりゃお前のビリビリピンポン攻撃はスルーしたいけどな。あんなので挨拶されたら命がいくつあっても足りないぜ」 「私がいつアンタをピンポン攻撃したってのよ!」 「お前と顔を合わせるたびにほぼ毎回。それからな、上条さんには上条当麻って名前がちゃんとあるんだから『アンタ』じゃなく、ちゃんと名前で呼べ。それと今日の用事は何だ?上条さん、今日は時間があるから大した用事じゃなければつきあってやれるぞ」 「えっと……用事は……」 「もしかして、今時の中学生の間では、用事もないのに人を呼び止めるのが流行ってんのか?」 「そんなの流行ってないわよ!」 「じゃあ何だよ。早く言えよ」 「い、一緒に……」 上条は一歩後ずさる。 「一緒に……何するんだ?」 「……その、かえらない?」 「ああなんだ。そんなことでいいのか。じゃあ途中まで帰ろうぜ」 美琴からどんな無茶振りをされるのか身構えていた上条は、内心ほっとする。 一方、ひどくあっさりと自分の要望が通ったことをようやく理解した美琴は、自分が何を言い出したかを反芻して、顔を赤らめる。 顔をゆでだこのように赤くして硬直したままの美琴の顔面で上条は手をひらひらと振った。 「……おい何固まってんだよ御坂?」 「にゃ、にゃんでもないわよ!」 さらにその翌日。 美琴はまたまた通学路で上条を待ち伏せていた。視界にツンツン頭の姿をロックオンすると、前日と同じく彼の元へ駆け寄った。 「と、と、と、当麻!」 「おう御坂。……名字でなく名前で呼ばれるのにはちょっと抵抗があるけど『アンタ』よりはましだな。どうしたー?」 「い、い、一緒に帰ろう?」 「あー、いいぜ。どうせ途中まで一緒だしな。あ、俺スーパーに寄ってくから今日は通る道が違うけど、それでもいいか?」 「う、うん」 美琴は上条の隣に並ぶと、歩き始める。上条は美琴に気づかれないように歩く速さを美琴に合わせた。 「んで、御坂さん。何か悩み事でもあるんですか?」 「ふぇ?な、なによいきなり」 「一昨日は用件言わないで帰っちまうし、昨日は昨日で帰り道ずっと無言だから、何か言い出しにくい話でもしたいのかと思ったんだけどな」 「え、べ、別にそんなの……ないけど」 「そっかぁ?」 「そうよ」 「ま、俺はお前とつるんでて楽しいからいいけどな。何か相談があるなら言えよ。乗れる範囲で乗るからさ」 「あ、え、うん。ありがと」 「お前さ」 「ひゃ、ひゃい?」 いつものように突っかかれないので、調子が狂いまくりの美琴は自分の言語が若干怪しくなっていることにも気づかない。 「電撃使わないで、そうやって普通に名前で呼びかけてくればさ、常盤台のお嬢様って言うのを抜きにしても可愛い中学生じゃないか。いつもこうだと上条さんはうれしいんですがねー」 可愛い中学生じゃないか。 可愛い中学生。 ……可愛い。 「ふ、ふ、ふ、ふにゃああ~~~~~~っ!」 思考を停止し、頭から盛大に漏電する美琴。これに対し、電撃が周囲に飛ばないよう慌てて美琴の頭に右手でふたをする上条。習慣という物は恐ろしい。 「おっ、おい!いきなりどうしたんだ御坂!御坂?おい御坂ってばしっかりしろ!」 美琴の襟を掴んでがくんがくんと前後に揺らし、意識を取り戻させようとする上条。とても女の子に取る態度ではないが、割と必死な上条はそんなことにも気づかない。 「目を覚ませ!御坂!御坂ーーーっ!」 (そうにゃんだ。電撃使わないで名前で呼べば、可愛いって、可愛いって……) ショートした美琴の頭の中で、『可愛い』という音声がぐるんぐるんとリフレインする。 この後、通報を受けて現場に急行した黒子が美琴を発見するまで、頭から煙を噴いた少女と必死な形相の少年の珍妙なコントは続くのだった。 }}} #center(){◆         ◇         ◆         ◇         ◆} #asciiart(){{{ その夜、少女は夢を見た。 『御坂。ちょっとつきあってくれないか』 『悪い、御坂。俺、お前の気持ちに気づいてやれなくて』 『俺、御坂のことが好きなんだ』 自分よりちょっとだけ背の高い少年に、抱きしめられる。場所は、一晩中追いか けっこした、あの河原。美琴は、少年の抱擁で身動きがとれなくなる。 (ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとー!?これってどうすればいいの?どどどどどうし よう?どうしよう?) 美琴は、何となくツンツン頭の少年に好意を抱いている。だが、そこから先はど うすればいいのかさっぱりわからない。わかっているのは、彼がほかの女性と一 緒にいるのを見かけると自分がいらつくこと、自分が彼にスルーされるのが耐え られないこと。そして、彼にとって『女性として見られていない』ことに腹が立 つこと。 だから美琴は、彼の突然の告白に動揺して、何もできない。何も言えない。よう やく口が動き、なんとか言葉をしぼりだす。 『わっ、わたっ、わたっ、わたし、私は………』 そこで目が覚めた。 その夜、上条は考えていた。 一昨日、美琴は電撃を落として不機嫌に立ち去った。まぁこれはいつものことだ。 昨日の帰り道、茶色の髪の少女は、いつもと違って借りてきた猫のようにおとなし かった。 そして今日。彼女はいきなり煙を噴いた。煙を噴くというのは人間にあるまじき現 象だが、ここは学園都市。そして彼女はレベル5。何が起きてもおかしくない、と 上条はひとまず納得する。 「あいつ、いったいどうしたんだろうねぇ」 シャープペンシルを鼻の下に挟んで、両腕を頭の後ろで組んで天を仰ぐ。悩み事が あるなら言ってくれればいいのに、と思う。とはいえ美琴は反抗期も抜けない中学 生、おいそれと悩みを人に話すこともしないだろう。 「あの性格だしなぁ……」 上条は手元の教科書に目をやる。この学園都市で尊ばれる能力は、自分とは縁が薄 い物だからと、彼は今まであまり熱心に勉強はしてこなかった。今もこうして宿題 を広げているが、気乗りがしなくてちっとも片付いていない。教科書を逆さにした り、ページをぺらぺらとめくっていた上条は、教科書のある項目で手が止まった。 「これって……もしかして」 そこにはこう書かれていた。 『能力とパーソナルリアリティ、ストレスの関連性』 と。 次の日の放課後。 上条は前方に常盤台中学の制服を着た少女を見かけた。 「おーい、御坂ー」 上条が手を振ると、彼女はすぐに気がついて、上条の元に駆け寄ってきた。心なし か顔が赤い。 「あ。と、当麻。どうしたの?」 「お前の姿が見えたから、声かけたんだよ。お前、今日この後時間ある?」 「え、ええ。空いてる……けど」 「じゃあ御坂。ちょっとつきあってくれないか」 「うん、いい、けど。どこに行くの」 「ああ、すぐそこだよ」 借りてきた猫のようにおとなしい美琴を連れて、上条は河原へと向かった。 (こ、ここって、夢に出てきた……) 美琴の動悸が速くなる。彼はここへ来て、いったい何をするつもりなのかと訝し む。 (まさか、あの夢って…正夢?) 少し前を行く上条の後ろ姿を見ながら、そんなことはないそんなことはないと、 頭をふん分左右に振る美琴。やがて、彼は立ち止まり、美琴に向き直った。 「御坂」 (きたっ!) 美琴は緊張の面持ちで姿勢を正す。上条は美琴を見つめると、担いでいた鞄をぽ んと地面に放り投げた。 (や、や、やっぱりあれって正夢なの!?でも、でも、私どうすれば……) 美琴の動揺に気づかず、上条は言葉を続ける。 「悪い、御坂。俺、お前の気持ちに気づいてやれなくて」 (ここまで台詞も場所も一緒って事は、やっぱりそうなの?そういうことなの? どうしよう、私はなんて返事すればいいの? このあとはその、やっぱり、き、キスとかするわけ???) 美琴の顔が、一気に真っ赤になる。上条は一瞬だけ微笑むと、次の言葉を紡いだ。 「お前はレベル5とはいえ、中身は中学生なんだよな。ごめんな、今までビリビリ とか言って」 「………………………………………………………はい?」 「だから………お前の全力(ほんき)を俺にぶつけてこい。俺の全力で受け止めてや るから」 上条は、送球を受ける一塁手のごとく左足を半歩後方に引き、右手を眼前に構えた。 「……ねぇアンタ、いったい何やってるの?」 突然の展開について行けない美琴が疑問を口にする。 「いやあのさ、お前ここのところなんか様子が変だったから、俺なりに考えてみた んだよ。あれだろ?お前、時々全力で電撃を放出してやらないと、お前がストレス でおかしくなっちまうんだろ?でも学園都市じゃ、お前の全力放電を受け止められ るのって俺しかいないからさ。だから今まで、俺に対してだけビリビリをぶちかま してきたんだろ?いくら強大なパーソナルリアリティがお前の中に存在すると 言ったって、まだ14歳じゃ全て制御しきれないもんな。だから、遠慮なく撃ってこ い。そりゃ、電撃かまされるのは怖いけど、それでも『撃ってくる』ってわかって れば心の準備だってできるし。それでお前が落ち着いてくれるなら、俺は友達とし て身体を張ってやる」 目の前でばっちこーい、とか言ってるツンツン頭を凝視する美琴。 「あ、あ、アンタは……」 「どうした御坂。10億ボルトでも、100億ボルトでも、俺は覚悟してるぞ」 「ひ、と、を、勝手に値踏みするなーーーーーー!!」 美琴の放った雷撃の槍が、上条を目指して一直線に落ちる。 ズバーン!という、まるでボールがミットにおさまったような音を何十倍にも増幅 したよう響きが河原を満たす。そして槍は上条の右手に……打ち消された。 「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ……」 「ど、どうだ御坂?少しはストレス、発散できたか?お、お、俺はまだ大丈夫だか ら、何だったらもう2、3発……」 「アンタがくたばるまでやってやるわよ!死ねーーーーっ!」 ズバーン!ズバーン!と雷撃が立て続けに鳴り、そしてその全てが、まるで上条の 右手に吸い寄せられるように消えた。 「なっ、なによ、なによう……」 「お、おい、御坂?どうしたんだ?何か様子が変……」 「アンタのせいよ!」 美琴はビッと上条を指さす。 「アンタの……せいよ……」 上条を指さした手がのろのろと落ちて、美琴は泣き出した。 「お、おい?おいおいおいおい?」 突然泣き出した美琴を目の前に、うろたえる上条。 「な、なに?どうした?御坂、何か俺気に障ることでも言ったか?」 美琴は答えない。答えの代わりに、わんわんと泣き続ける。 美琴が泣き虫なのは知っていたが、そもそもどうして泣き出したのかわからず、上 条は対処に困った。全ての異能を打ち消す幻想殺しでも、少女の涙は止められない。 「えーっと……」 これはマイリマシター、などといってどうにかなる状況ではない。 理由はわからないが、女の子を泣かせてしまったというのは、上条にとって非常にま ずい、気まずい。しかし何をどうしたらいいか、彼の手に負えない。負えないから上 条は解決策を探す。美琴を納得させられる解決策を。 「御坂。お前が何を悩んでいるのか、俺にはわからない。悩みを打ち明けられないん だったら俺の胸でよかったら貸すから、今日は思いっきり、すっきりするまで泣け」 上条はそーっと、御坂の頭に手を回し、自分の胸に抱き寄せた。そして右手でいい子 いい子と、美琴の頭を撫でる。美琴は上条にしがみつき、泣き続ける。 (コイツのバカ!私のバカ!何だってこんな状況になってるのよ!何もかも噛み合っ てないじゃない!コイツの前で大泣きして……私、バカみたいじゃないのよ……) 美琴の今の心境を例えると、『頭ぐちゃぐちゃでワケわかりません』。 気になる異性の腕の中にいるというのに、美琴の心境も状況も芳しくない。 この鈍感男に対して期待するというのは間違ってると、ほかの誰かなら指摘してくれ たかもしれない。 相手を『中学二年生』としか見てないニブチン少年と。 『中学二年生』分の恋愛経験しかないツンデレ少女では。 進展はまさしく神のみぞ知る。 『自分から積極的にならないと状況は変わらない』と少女が開き直るまで、あと×日。 完。 }}} #back(hr,left,text=Back)

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