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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/18スレ目短編/975」(2011/10/26 (水) 23:43:42) の最新版変更点

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*この半径30cmの中で Way_to_Answer. #asciiart(){{{ 「御、坂……?」 御坂美琴に左手を掴まれた上条当麻は、思わず少女の名前を声に出した。 振り返った上条が見たもの。それは、強い決意を込めた表情で上条を見つめている美琴の姿だった。 「今の言葉って、その……どういう意味なんだ?」 怪訝そうに上条は美琴に問い掛ける。 「……そのままの意味よ。私はアンタに付いていく。ただそれだけ」 「本気、か……?」 「私が冗談でこんな事言うような性格に見える?」 上条は、掴まれた左手にさらに力が入るのを感じた。 「いや、でも……ほら、学校とかどうすんだ? 俺みたいな不良学生と違って、お前は常盤台のお嬢様じゃねーか。  無断で休んじまったらエラいことになるんじゃ……?」 「そんなのロシアに行った時でもう慣れちゃったわよ。確かにあの時は寮監とかに鬼のように怒られたけど……  まあもう向こうも耐性できてるだろうし、数日ぐらいフラッといなくなっても大丈夫でしょ」 「俺が言うのも何だけど、サラッととんでもねーこと言ってんじゃねーよ!」 上条は悪びれる様子を一切見せない美琴を見て、この方面からの説得は無意味である事を悟る。 それでも。 自分の極めて個人的かつ勝手な都合に、この少女を巻き込ませる訳にはいかない。 ハワイに向かえば、間違いなく魔術師達との闘いが待っている。 しかも相手は、『上条当麻の存在を確認するためだけに』学園都市どころか地球を破滅に追い込むことが出来る程の 魔術兵器を用いてきたトンデモ集団である。 その連中の標的である上条が戦場に向かうとなれば、これまで以上に死と隣り合わせな状況になる事は想像に難くない。 何とかこの少女にはここでお引き取り願おうと思った上条は、どのように説得するべきか自身の蓄えに乏しい脳細胞をフル回転…… させようとしたのだが、その瞬間、美琴の口が開かれた。 「もう、嫌なの」 「え……?」 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 「第二二学区の時も、ロシアの時も、私は届かなかった。どっちも目の前にアンタがいたのに」 美琴は、自らを責めるような口調で続ける。 「助けたかった。連れ戻したかった。アンタが私を助けた時のように、力づくでも、無理矢理にでも。  でも、私はアンタのようには出来なかった。何が超能力者(レベル5)第三位よ。何が常盤台の超電磁砲(レールガン)よ。  そんな肩書き、何の役にも立たなかった」 「御坂……」 「悔しいけど、私には一度向かってしまったアンタを、そこから引き戻すだけの力はまだないみたい」 美琴は負けず嫌いな性格だ。その少女が素直に力不足を認める。 上条の信念。それがどれだけ強固で揺るがしようのないものなのかを嫌という程知ってしまったから。 でも、御坂美琴は砕けない。その程度で全てを諦めたりはしない。 「なら、一緒に行ってしまえばいい」 それが、美琴の答え。上条の左手を掴んだ理由。 自分の想い、そして上条の信念に気付き、嵐のような感情のジェットコースターに呑み込まれながら出した結論。 超能力者(レベル5)ではない、ただ『御坂美琴』という一人の少女としての、嘘偽りのない、心の全て。 それは、とてもシンプルなものだった。 後から追いかけて連れ戻す事が出来ないなら、最初から一緒に居ればいい。 ずっと側に存在を繋ぎ止めて、奪われそうになれば、その手を掴んで離さなければいい。 エゴイスティックで幼稚な結論かもしれない。学園都市で三番目の頭脳の持ち主にしては、あまりに浅はかで単純すぎる考えかもしれない。 それでも、自己の信念に何処までも真っ直ぐで、立ち止まる事を知らない、現実的で残酷な理屈に耳を貸そうともしない、 あくまで全員が幸せになれるような幻想を追い求め続ける、そんな大馬鹿相手ではこちらもそれ相応になるしかない。 恐らく、昔の美琴なら一生かけても辿り着く事ができなかった答え。それに辿り着けたのは、あの少年に影響されてしまったからなのだろうか。 そう思うと美琴は少し可笑しくなったが、顔には出さない。 「どうせアンタは、自分のせいで誰かが傷付くのは、なんて思ってるんだろうけど」 美琴は横目で上条を見ると、図星を絵に描いたような表情をしている。 でも、それが何だ。この少年は何もわかっていない。だから、美琴は強い口調で問い掛ける。 「アンタが居なくなった時、私がどれだけ傷付いたと思ってるの?」 自分の弱さをさらけ出してしまうようで、本当は口にしたくなかった台詞。 今時、安っぽい恋愛ドラマでも使われる事は滅多にないであろう、そんな意地の悪い一言。 でも、言わずにはいられなかった。上条当麻という一人の人間が、今の美琴にとってどれだけ掛け替えのなく、 そして大切なものなのかを、目の前にいるこの馬鹿に教える必要があったから。 「今でも憶えてる。磁力の糸が断ち切られた時の感覚。アンタから遠ざかっていく時の無力感。  千切れたゲコ太ストラップを見付けた時の絶望感……。心がバラバラになりそうだった。世界が何も見えなくなって、  何処に向かって歩けばいいのか分からなくなった」 そう言いながら美琴は俯き、全身を小刻みに震わせていた。それは、かつての自分の不甲斐無さに憤りを感じているからなのか。 それとも、忘れたいであろう記憶を無理に思い出している事から来る拒否反応なのか。 体の震えを振り払うように、美琴は上条の顔を正面で捉え、言葉を続ける。 「だから嬉しかった。今日、アンタにもう一度会えた時。でも、同時に思った。アンタはきっとまた、どこか遠くに行ってしまう。  その時、自分はまた同じ思いをしなきゃいけないのかって。部屋の隅っこでガタガタ震えながら、ただ神様にお祈りしてなきゃいけないのかって」 美琴は首を横に振り、上条の左手を改めて強く握り締める。 「そんなの絶対に嫌。だから、私は一緒に行く。アンタにとっては迷惑なのかもしれない。でももう決めたの。  今度こそアンタを助ける。アンタの力になってみせる。それが、私の選んだ道だから。私がこれから先、歩いていく道だから」 そこには、つい最近まで絶望の底に沈んでいた少女の姿はなかった。凛とした瞳で上条を見つめる少女は、 紛れもなく超能力者(レベル5)第三位『御坂美琴』だった。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 美琴の告白を受けた上条は、戸惑いを隠せなかった。 思えばこの少女とは、顔を合わせばいつも喧嘩ばかりだったような気がする。 第二二学区の時には何やら色々な事を言われたような記憶もあるが、あの時は意識が朦朧としていたため、 上条としては正直内容まではよく憶えていない。そういう意味では、美琴の心の奥底に触れるのはこれが初めてだった。 美琴の想い。美琴の決意。その全てが、上条の心に槍のように突き刺さる。 だが、上条も譲れない。 例え美琴が科学サイドの技術の結集といえる超能力者(レベル5)だとしても、相手は海千山千の魔術師だ。 特に今回の敵「グレムリン」は、今まで闘って来た魔術サイドの面々とはまた違った、醜悪でドス黒い『何か』を抱えている。 確信はないが、上条はそう感じている。 魔術の面識がほとんどない(と上条は思っている)美琴が、そのような敵と対峙した場合どうなってしまうのか。最悪の事態が脳裏をよぎる。 また、上条は夏休みの終わりに、とある不器用な魔術師と『約束』を交わしている。 御坂美琴と彼女の周りの世界を守る。 今、この場で美琴の願いに応える事は、その約束を破る事にはならないのか? 果たして自分は、美琴を守り抜く事が出来るのか? それを思うと、首を縦に振る訳にはいかなかった。 「……」 上条は、やはり連れていく事はできないと伝えるつもりだった。 だが、その言葉を口に出そうとした瞬間。 目の前の少女は、何処までも真っ直ぐな目で上条を見ていて。 自分の決めた道に後悔はない。この道を歩いて起こる全ての出来事に対して、絶対に、何があっても後悔しない。 そんな覚悟を決めた表情をしていて。 ここでようやく上条は悟る。もうこの少女を止める事は出来ない、と。 仮に、ここで美琴を振り切って行き先を告げずに去ったとしても、美琴は恐らく追い掛けてくる。 思えばロシアの時も、上条は美琴に対してロシアに行くという情報は断片すら伝えていない。それでも、美琴はロシアまで上条を追ってきた。 考えてみれば、美琴は学園都市ナンバー1の電撃使い(エレクトロマスター)だ。ネット上での情報収集など十八番中の十八番。 通常レベルではまず知り得ないトップシークレットな情報を得る事も、赤子の手を捻る程度の所業だろう。 間違いなくハワイで起こるであろう騒動にもネットを通していち早く気付き、あらゆる手段を駆使して現地に向かう事は目に見えている。 つまり、美琴の願いに上条が応えても応えなくても、とどのつまり同じ。最初から居るか、後から来るかの違いでしかない。 美琴の決意とは、そういう事。 上条を守る為なら、上条本人の都合や理屈なんて関係ない。ただ、美琴自身が守りたいから守る。 上条は気付いていないが、それはかつて上条がとある少女に対して行った事と全く同じだった。 自分が悩んでいた事の無意味さに気付いた上条は思わず溜息をつき、苦笑いしながら右手で頭を掻く仕草を見せる。 すると、そのリアクションが気に食わなかったらしく、美琴はビリビリ食らわすぞコラと今にも言わんばかりのジト目で上条を睨みつけながら 「……ちょっとアンタ、私の精一杯の決意の直後に溜息ってどういう神経してる訳?」 「いや、お前ってつくづく自分勝手というか、我儘というか……」 口ではそう言ったが、嫌じゃないと思っている自分がいる。上条はその事に心の中で苦笑しつつ、これまでの美琴の言動を思い返す。 今の上条の記憶において、初めて会った美琴の第一印象は「エキセントリック」の一言に尽きた。 いきなりビリビリされるは、自販機蹴るは、人の不幸を笑うは、挙句の果てには自販機ビリビリして警報鳴らされるは……。 だが妹達の事件、そしてその後も数々の騒動で関わっていくうちに、そんな美琴の面は彼女のほんの一部でしかない事を知った。 他人の為に自分の命を投げ出そうとする程の優しさ、強さ、そして弱さを持っていて。 実は泣き虫で。 無邪気なところがあって。結構世話焼きで。いつも一生懸命で。負けず嫌いの意地っ張りで。少し理不尽で。 九月三十日の事件では、美琴にとっては理由も分からないであろう混乱の中、全面的に協力してくれた。 記憶喪失の事が知られた時は、心の底から心配してくれた。 そして、ロシアでの件。美琴が助けに来てくれた事は覚えていたが、あの後、美琴がそこまで思い詰めていたとは夢にも思っていなかった。 美琴の告白を受けた今でも、何故美琴が自分にここまでしてくれるのか、ここまで想ってくれているのか、上条は理解出来ていない。 友達想い、というワードだけでは説明しきれない行動。 それはまるで解けない方程式のようで、上条の心が靄に包まれていく。 答えを知りたいと思うべきなのか、このままで良いと思うべきなのか。今の上条に答えは出ない。 それでも、たった一つだけ断言できる事があるとすれば。 この少女を、守りたい。 それだけは確かだった。 直後、半ば無意識のうちに上条はポツリと呟いていた。 「参ったよ」 「え……?」 「アンタ、今、なんて……」 「だから参ったって。何というか、やっぱりお前には敵わねえよ」 「そ、それってつまり、どういう……」 「一緒に行くって話だっただろ?」 「た、確かにそうは言ったけど」 上条から見て、美琴は明らかに動揺している様子だった。おそらく、こんなにあっさりと承諾を得るとは夢にも思っていなかったのだろう。 間の抜けた、ポカーンとした顔をしている。 先ほどまでとの表情のギャップに、上条は何故かは分からないが心が穏やかになるのを感じた。 そして同時に、美琴を連れて行く事への覚悟も決めた。 おかしな気分だった。ほんの少し前までは美琴を守り抜く事が出来るのか不安だったはずなのに、それがどこか空の向こうに飛んでいった気がして。 確証はないが、きっと大丈夫だと。そう思えてきて。 だから、言葉が自然に出てくる。 「続きは明日な。もう夜も遅いし、今日はここでお開きにしようぜ。また連絡するからさ」 一緒に戦場(ハワイ)に行く以上、美琴には伝えなければならない事が沢山ある。 美琴はこれまで上条の身に起こった事も知りたがっていた。それも話すとなると、この時間からでは遅すぎる。 そう思っての、心の底からの本音だった。 ところがその言葉を発した瞬間、美琴の体が大きくピクッと反応するのを上条は見た。それも、この上無く不機嫌そうに顔を顰めて。 予想していたリアクションとのあまりのギャップに、あ、あれ? と上条は戸惑う。 「み、御坂サン、どうされたのでしょうか? 私上条当麻、何か御坂サマのご機嫌を損ねるような事を口に出したでございましょうか?」 少し狼狽えつつも、冗談めかした口調で美琴にそう尋ねる上条。 しかし、上条は気付いていなかった。人口二三◯万人を誇る学園都市の中でも三番目に優秀なはずの頭脳が、あらぬ方向へ暴走を始めている事に――。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- (間違いない、やっぱりこの馬鹿は私を置いてく気だ……) 美琴は、先程の上条の発言を聞いて、そう確信していた。 根拠は三つ。 一つは、「続きは明日」というワード。一見何の変哲もない言葉だが、今日は平日である。明日も当然学校がある。 再開された一端覧祭の準備の為午前中授業という事もあり、早ければ午前十一時過ぎ、遅くても午後には話をする時間を取れそうではあるが、 裏返せばその時間までは会って直接コンタクトを取る事は出来ない。 つまり、その空き時間のうちに上条に逃げられる可能性が充分ある。 何処に行くつもりなのか、そんな最低限の情報すらこの場で教えてくれない事も疑いに拍車をかけた。 二つ目は、上条が美琴の願いを美琴の想像より遥かにすんなりと受け入れた事。 何せ相手はあの上条(バカ)である。いくらこちらが言葉で思いをぶつけても、素直にそれを受け止めてくれるとはあまり思っていなかった。 事実あの瞬間、美琴は断られた時用の脳内シミュレーションを完全に済ませたところだったのだ。 だからこそ、あの予想外の返事は言葉のカウンターパンチをまともに食らったようなもので、 しばらくの間、衝撃のあまりまともな反応を返す事が出来なかったのだが……。 今にして思えば、少しでも早く話を終わらせる為の偽りの降服宣言だったとすれば、悲しくはあるが理解出来る。 そして最後の三つ目。それは――根拠というより被害妄想に近いレベルではあるのだが――今まで美琴が散々味わって来たスルー経験。 上条を信じたい気持ちが心の奥底にあるのは事実なのだが、過去の記憶がどうしても美琴の邪魔をする。 (「また連絡する」ですって? アンタの方から連絡取ってくれた試しなんてこれまで殆どなかったじゃない!!) よって、美琴としては上条の言葉を額面通り受け取る事は出来なかった。 何でこんな奴の事……と美琴は頭を抱えそうになるが、気持ちが止められない以上はどうしようもない。 それよりも今大切なのは、どのようにして上条に「今この場で」次は何処に、どのタイミングで向かうつもりなのかを問い質す事だ。 この二つさえ予め知ってしまえば、仮に上条が翌日に何食わぬ顔で次の戦場に行ったとしても、容易に追い駆けられる。 ハッキングで情報を得る手もあるが、時間がある程度かかる上、後手後手になってしまうのが否めない点を考慮すると、出来ればあまりそれはしたくなかった。 (結局のところこうなっちゃうのか) 美琴は何かを諦めたように溜息をつき、事前に何度も脳内シミュレーションを実行済の「行動」に出ることを決めた。 ただ問い質すだけでは埒が明かない事は目に見えている。 それなら、美琴が取る行動は一つしかない。 ある意味、美琴にとっては一番シンプルで性に合ったアクション。 特に上条に対しては。 「アンタにさ、一つクイズを出してあげる」 美琴は満面の笑みで上条にそう問い掛けた。 「はあ?」 上条は怪訝そうな顔を浮かべていた。上条にとっては突拍子もない話である以上、無理もない事だった。 「今の話でどうしてそういう流れになるのかわからんけどさ、上条さんが言ったように今日はもう遅いの。  クイズだろうが禅問答だろうが何だろーが明日ならいくらでも答えてやるからさ。だから今日はもう帰ろうぜ。な?」 美琴から見て、上条は執拗に話を切り上げようとしている様に見えた。その怪しさに、ますます美琴の中での確信が高まっていく。 逃がすものか。 「まあまあ、簡単なクイズだから。すぐ終わるって」 「……はぁ、仕方ねえな。一問だけだぞ」 根折れした上条は投げやり気味に了承する。それが、これから始まる悪夢への片道切符だという事も知らずに。 そして美琴は、先ほどと同じ笑顔を浮かべ 「さて問題です。この私、学園都市第三位、超電磁砲こと御坂美琴が今掴んでいるのはどちらの手でしょうか?」 上条は思わず自分の左手を見る。 「いや、左手だろ……ってアレ、御坂さん。どうしてそんなに身体中に電気をバチバチさせてるんでしょうか?」 美琴は答えない。代わりに、にこやかな微笑みを上条に対して見せ付ける。 その瞬間、美琴の真意を掴んだ上条の額からは大量の冷や汗が噴き出した。 「ちょーっとストップストップ御坂サン! この無防備極まりない状況でビリビリされたら死んじゃう! 本当に死んじゃうから!   というかさっきの話からどうしてこんな流れになるんですか教えて下さい美琴センセー!!」 美琴は白い目で上条を見ながら答える。 「アンタがどう見てもバレバレの嘘つくのが悪いんでしょ。そういえば私、アンタにまだ勝ったことなかったのよねえ。  初めての勝利をここで味わうのも案外悪くないかも。あ、大丈夫よ、死なない程度に手加減はしてあげるから」 嘘をついた相手に本当の事を言わせるにはどうするべきか。 方法はいくつかあるが、最もシンプルで、古代ローマ時代から行われてきた方法。 それは「拷問」である。 美琴なりに柔らかい表現をすれば「実力行使」だが、それでも学園都市第三位を誇る彼女の「実力行使」がどれほどのものかは 想像するだけで恐ろしいものがあった。 「嘘だッ! その悪魔のような笑みはどう考えてもこの世から上条さんを抹殺しようとする顔……って俺いつ嘘ついたんだよ!?」 「ついさっき」 「だからついてねーよ! あと、せめてどの台詞が具体的に範疇に入るのか教えて!!」 「一緒に行くって。あれ嘘でしょ? 続きは明日とか言っておいて、どうせ私のいない間に行っちゃう気なんでしょ」 「何でそんな捉え方しちゃうんだよお前! そんなに俺の事が信じられないんですか!?」 「うん」 「即答!? 美琴センセーに信用されてなくて、俺悲しい……」 「アンタさ、一度自分の胸に手を当てて一万回ぐらい考えてみなさいよ」 「一万回!? 俺そこまで信用なかったのかよ!?」 美琴と上条の、喧々諤々としたやり取りはしばらく続いた。 「――で、結局のところ、御坂サンに電撃ビリビリで黒焦げにならないためにはどうすればいいんでしょう?」 涙目になった上条が美琴にそう尋ねる。 美琴は、右手の親指と人差し指で髪をくるくると巻きながら考え込むそぶりを見せ 「そうね、とりあえず次向かう場所とそのタイミング。あと証拠みたいなのが欲しいかな」 「タイミングとか証拠とか言われてもなあ……。俺も次に事件が起こる場所を聞いただけだし、証拠どころか行くタイミングすら全然決めてないぞ」 「じゃあ、とりあえず場所だけでもいいわ。明日、仮にアンタとコンタクトが取れなくなったら速攻でそこ向かうから」 「行動力おかしいだろお前! 大体、もし俺の言った場所が出鱈目だったらどうする気なんだ?」 「その時は……消し炭、かなあ」 「今の言葉の主語はドコ? まさか俺を、とか言わないですよね!?」 「まあそれはそれとして」 「流すなよ!」 「冗談よ。大体アンタはそんな事しないでしょ。アンタは他人を危険から遠ざけようとはするけれど、出鱈目言って迷惑をかけるような事はしないもの」 美琴は、そう言って優しい目を見せる。 「お前って、俺の事を信じてるのか信じてないのかどっちなんだよ……」 「内緒。それよりいいから教えなさいよ、アンタが次向かう場所」 「はあ、仕方がねえなあ……」 左手で髪を掻きながら、面倒くさそうに上条は答える。 「ハワイ」 美琴の頭の中が、真っ白になった。 「……は?」 「だから、ハワイだってげろこぶしゃあ!?」 上条の左頬に、美琴の綺麗な右ストレートが炸裂した。 繋がっていた上条の左手と美琴の左手が、衝撃であっさりと離される。 「い、いきなり何すんですか御坂サン……。ぐふぅ、今のパンチは効いたぜ」 「アンタこそ何考えてんのよ! どっかに行くって話だったから、てっきりまた闘いに巻き込まれるもんだと思ってたのに、  ハワイ? 常夏? リゾート? 金髪巨乳美女? やっぱりアンタは巨乳が一番なのかーっ!?」 「他のはともかく最後は意味わかんねえよ! あと、別にやましい気持ちでハワイ行く訳じゃありませんからね俺? って、  その目はどう考えても信じてくれない目ですね分かります分かりますけど分かりたくないっていうかあーもう不幸だーーーっ!!」 直後、深夜の鉄橋に闇を切り裂くような雷鳴が響き渡った……。 とある少女の、胸の内。 第二二学区では、手を伸ばす事すら出来なかった。 ロシアでは、手を伸ばすことは出来たが、掴まえるだけの力がなかった。 そして今、ようやく掴まえる事が出来た。 今、自分と目の前の少年が繋っている世界は、たった半径30cmほどで。 それは、あまりにも小さくて。その手を離したら、すぐに壊れてしまいそうで。 だから、改めて決意する。この手は離さない、ずっと繋ぎ止めてみせると。 この小さな世界の中なら、今までとは違った何かが見えてくる。そう信じているから。 この半径30cmの中なら、全てが違って見えてくる。そう信じているから。 そして。 これから歩いていく道、それが自分の人生の答えなんだと。 絶対に、そう信じているから。 }}} #back(hr,left,text=Back)
*この半径30cmの中で Way_to_Answer. #asciiart(){{{ ※このSSは、新約2巻ラストの直後を描いた話になります。  性質上、新約2巻のネタバレとなってますので、未読の方は自己責任でお願いします。 「御、坂……?」 御坂美琴に左手を掴まれた上条当麻は、思わず少女の名前を声に出した。 振り返った上条が見たもの。それは、強い決意を込めた表情で上条を見つめている美琴の姿だった。 「今の言葉って、その……どういう意味なんだ?」 怪訝そうに上条は美琴に問い掛ける。 「……そのままの意味よ。私はアンタに付いていく。ただそれだけ」 「本気、か……?」 「私が冗談でこんな事言うような性格に見える?」 上条は、掴まれた左手にさらに力が入るのを感じた。 「いや、でも……ほら、学校とかどうすんだ? 俺みたいな不良学生と違って、お前は常盤台のお嬢様じゃねーか。  無断で休んじまったらエラいことになるんじゃ……?」 「そんなのロシアに行った時でもう慣れちゃったわよ。確かにあの時は寮監とかに鬼のように怒られたけど……  まあもう向こうも耐性できてるだろうし、数日ぐらいフラッといなくなっても大丈夫でしょ」 「俺が言うのも何だけど、サラッととんでもねーこと言ってんじゃねーよ!」 上条は悪びれる様子を一切見せない美琴を見て、この方面からの説得は無意味である事を悟る。 それでも。 自分の極めて個人的かつ勝手な都合に、この少女を巻き込ませる訳にはいかない。 ハワイに向かえば、間違いなく魔術師達との闘いが待っている。 しかも相手は、『上条当麻の存在を確認するためだけに』学園都市どころか地球を破滅に追い込むことが出来る程の 魔術兵器を用いてきたトンデモ集団である。 その連中の標的である上条が戦場に向かうとなれば、これまで以上に死と隣り合わせな状況になる事は想像に難くない。 何とかこの少女にはここでお引き取り願おうと思った上条は、どのように説得するべきか自身の蓄えに乏しい脳細胞をフル回転…… させようとしたのだが、その瞬間、美琴の口が開かれた。 「もう、嫌なの」 「え……?」 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 「第二二学区の時も、ロシアの時も、私は届かなかった。どっちも目の前にアンタがいたのに」 美琴は、自らを責めるような口調で続ける。 「助けたかった。連れ戻したかった。アンタが私を助けた時のように、力づくでも、無理矢理にでも。  でも、私はアンタのようには出来なかった。何が超能力者(レベル5)第三位よ。何が常盤台の超電磁砲(レールガン)よ。  そんな肩書き、何の役にも立たなかった」 「御坂……」 「悔しいけど、私には一度向かってしまったアンタを、そこから引き戻すだけの力はまだないみたい」 美琴は負けず嫌いな性格だ。その少女が素直に力不足を認める。 上条の信念。それがどれだけ強固で揺るがしようのないものなのかを嫌という程知ってしまったから。 でも、御坂美琴は砕けない。その程度で全てを諦めたりはしない。 「なら、一緒に行ってしまえばいい」 それが、美琴の答え。上条の左手を掴んだ理由。 自分の想い、そして上条の信念に気付き、嵐のような感情のジェットコースターに呑み込まれながら出した結論。 超能力者(レベル5)ではない、ただ『御坂美琴』という一人の少女としての、嘘偽りのない、心の全て。 それは、とてもシンプルなものだった。 後から追いかけて連れ戻す事が出来ないなら、最初から一緒に居ればいい。 ずっと側に存在を繋ぎ止めて、奪われそうになれば、その手を掴んで離さなければいい。 エゴイスティックで幼稚な結論かもしれない。学園都市で三番目の頭脳の持ち主にしては、あまりに浅はかで単純すぎる考えかもしれない。 それでも、自己の信念に何処までも真っ直ぐで、立ち止まる事を知らない、現実的で残酷な理屈に耳を貸そうともしない、 あくまで全員が幸せになれるような幻想を追い求め続ける、そんな大馬鹿相手ではこちらもそれ相応になるしかない。 恐らく、昔の美琴なら一生かけても辿り着く事ができなかった答え。それに辿り着けたのは、あの少年に影響されてしまったからなのだろうか。 そう思うと美琴は少し可笑しくなったが、顔には出さない。 「どうせアンタは、自分のせいで誰かが傷付くのは、なんて思ってるんだろうけど」 美琴は横目で上条を見ると、図星を絵に描いたような表情をしている。 でも、それが何だ。この少年は何もわかっていない。だから、美琴は強い口調で問い掛ける。 「アンタが居なくなった時、私がどれだけ傷付いたと思ってるの?」 自分の弱さをさらけ出してしまうようで、本当は口にしたくなかった台詞。 今時、安っぽい恋愛ドラマでも使われる事は滅多にないであろう、そんな意地の悪い一言。 でも、言わずにはいられなかった。上条当麻という一人の人間が、今の美琴にとってどれだけ掛け替えのなく、 そして大切なものなのかを、目の前にいるこの馬鹿に教える必要があったから。 「今でも憶えてる。磁力の糸が断ち切られた時の感覚。アンタから遠ざかっていく時の無力感。  千切れたゲコ太ストラップを見付けた時の絶望感……。心がバラバラになりそうだった。世界が何も見えなくなって、  何処に向かって歩けばいいのか分からなくなった」 そう言いながら美琴は俯き、全身を小刻みに震わせていた。それは、かつての自分の不甲斐無さに憤りを感じているからなのか。 それとも、忘れたいであろう記憶を無理に思い出している事から来る拒否反応なのか。 体の震えを振り払うように、美琴は上条の顔を正面で捉え、言葉を続ける。 「だから嬉しかった。今日、アンタにもう一度会えた時。でも、同時に思った。アンタはきっとまた、どこか遠くに行ってしまう。  その時、自分はまた同じ思いをしなきゃいけないのかって。部屋の隅っこでガタガタ震えながら、ただ神様にお祈りしてなきゃいけないのかって」 美琴は首を横に振り、上条の左手を改めて強く握り締める。 「そんなの絶対に嫌。だから、私は一緒に行く。アンタにとっては迷惑なのかもしれない。でももう決めたの。  今度こそアンタを助ける。アンタの力になってみせる。それが、私の選んだ道だから。私がこれから先、歩いていく道だから」 そこには、つい最近まで絶望の底に沈んでいた少女の姿はなかった。凛とした瞳で上条を見つめる少女は、 紛れもなく超能力者(レベル5)第三位『御坂美琴』だった。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 美琴の告白を受けた上条は、戸惑いを隠せなかった。 思えばこの少女とは、顔を合わせばいつも喧嘩ばかりだったような気がする。 第二二学区の時には何やら色々な事を言われたような記憶もあるが、あの時は意識が朦朧としていたため、 上条としては正直内容まではよく憶えていない。そういう意味では、美琴の心の奥底に触れるのはこれが初めてだった。 美琴の想い。美琴の決意。その全てが、上条の心に槍のように突き刺さる。 だが、上条も譲れない。 例え美琴が科学サイドの技術の結集といえる超能力者(レベル5)だとしても、相手は海千山千の魔術師だ。 特に今回の敵「グレムリン」は、今まで闘って来た魔術サイドの面々とはまた違った、醜悪でドス黒い『何か』を抱えている。 確信はないが、上条はそう感じている。 魔術の面識がほとんどない(と上条は思っている)美琴が、そのような敵と対峙した場合どうなってしまうのか。最悪の事態が脳裏をよぎる。 また、上条は夏休みの終わりに、とある不器用な魔術師と『約束』を交わしている。 御坂美琴と彼女の周りの世界を守る。 今、この場で美琴の願いに応える事は、その約束を破る事にはならないのか? 果たして自分は、美琴を守り抜く事が出来るのか? それを思うと、首を縦に振る訳にはいかなかった。 「……」 上条は、やはり連れていく事はできないと伝えるつもりだった。 だが、その言葉を口に出そうとした瞬間。 目の前の少女は、何処までも真っ直ぐな目で上条を見ていて。 自分の決めた道に後悔はない。この道を歩いて起こる全ての出来事に対して、絶対に、何があっても後悔しない。 そんな覚悟を決めた表情をしていて。 ここでようやく上条は悟る。もうこの少女を止める事は出来ない、と。 仮に、ここで美琴を振り切って行き先を告げずに去ったとしても、美琴は恐らく追い掛けてくる。 思えばロシアの時も、上条は美琴に対してロシアに行くという情報は断片すら伝えていない。それでも、美琴はロシアまで上条を追ってきた。 考えてみれば、美琴は学園都市ナンバー1の電撃使い(エレクトロマスター)だ。ネット上での情報収集など十八番中の十八番。 通常レベルではまず知り得ないトップシークレットな情報を得る事も、赤子の手を捻る程度の所業だろう。 間違いなくハワイで起こるであろう騒動にもネットを通していち早く気付き、あらゆる手段を駆使して現地に向かう事は目に見えている。 つまり、美琴の願いに上条が応えても応えなくても、とどのつまり同じ。最初から居るか、後から来るかの違いでしかない。 美琴の決意とは、そういう事。 上条を守る為なら、上条本人の都合や理屈なんて関係ない。ただ、美琴自身が守りたいから守る。 上条は気付いていないが、それはかつて上条がとある少女に対して行った事と全く同じだった。 自分が悩んでいた事の無意味さに気付いた上条は思わず溜息をつき、苦笑いしながら右手で頭を掻く仕草を見せる。 すると、そのリアクションが気に食わなかったらしく、美琴はビリビリ食らわすぞコラと今にも言わんばかりのジト目で上条を睨みつけながら 「……ちょっとアンタ、私の精一杯の決意の直後に溜息ってどういう神経してる訳?」 「いや、お前ってつくづく自分勝手というか、我儘というか……」 口ではそう言ったが、嫌じゃないと思っている自分がいる。上条はその事に心の中で苦笑しつつ、これまでの美琴の言動を思い返す。 今の上条の記憶において、初めて会った美琴の第一印象は「エキセントリック」の一言に尽きた。 いきなりビリビリされるは、自販機蹴るは、人の不幸を笑うは、挙句の果てには自販機ビリビリして警報鳴らされるは……。 だが妹達の事件、そしてその後も数々の騒動で関わっていくうちに、そんな美琴の面は彼女のほんの一部でしかない事を知った。 他人の為に自分の命を投げ出そうとする程の優しさ、強さ、そして弱さを持っていて。 実は泣き虫で。 無邪気なところがあって。結構世話焼きで。いつも一生懸命で。負けず嫌いの意地っ張りで。少し理不尽で。 九月三十日の事件では、美琴にとっては理由も分からないであろう混乱の中、全面的に協力してくれた。 記憶喪失の事が知られた時は、心の底から心配してくれた。 そして、ロシアでの件。美琴が助けに来てくれた事は覚えていたが、あの後、美琴がそこまで思い詰めていたとは夢にも思っていなかった。 美琴の告白を受けた今でも、何故美琴が自分にここまでしてくれるのか、ここまで想ってくれているのか、上条は理解出来ていない。 友達想い、というワードだけでは説明しきれない行動。 それはまるで解けない方程式のようで、上条の心が靄に包まれていく。 答えを知りたいと思うべきなのか、このままで良いと思うべきなのか。今の上条に答えは出ない。 それでも、たった一つだけ断言できる事があるとすれば。 この少女を、守りたい。 それだけは確かだった。 直後、半ば無意識のうちに上条はポツリと呟いていた。 「参ったよ」 「え……?」 「アンタ、今、なんて……」 「だから参ったって。何というか、やっぱりお前には敵わねえよ」 「そ、それってつまり、どういう……」 「一緒に行くって話だっただろ?」 「た、確かにそうは言ったけど」 上条から見て、美琴は明らかに動揺している様子だった。おそらく、こんなにあっさりと承諾を得るとは夢にも思っていなかったのだろう。 間の抜けた、ポカーンとした顔をしている。 先ほどまでとの表情のギャップに、上条は何故かは分からないが心が穏やかになるのを感じた。 そして同時に、美琴を連れて行く事への覚悟も決めた。 おかしな気分だった。ほんの少し前までは美琴を守り抜く事が出来るのか不安だったはずなのに、それがどこか空の向こうに飛んでいった気がして。 確証はないが、きっと大丈夫だと。そう思えてきて。 だから、言葉が自然に出てくる。 「続きは明日な。もう夜も遅いし、今日はここでお開きにしようぜ。また連絡するからさ」 一緒に戦場(ハワイ)に行く以上、美琴には伝えなければならない事が沢山ある。 美琴はこれまで上条の身に起こった事も知りたがっていた。それも話すとなると、この時間からでは遅すぎる。 そう思っての、心の底からの本音だった。 ところがその言葉を発した瞬間、美琴の体が大きくピクッと反応するのを上条は見た。それも、この上無く不機嫌そうに顔を顰めて。 予想していたリアクションとのあまりのギャップに、あ、あれ? と上条は戸惑う。 「み、御坂サン、どうされたのでしょうか? 私上条当麻、何か御坂サマのご機嫌を損ねるような事を口に出したでございましょうか?」 少し狼狽えつつも、冗談めかした口調で美琴にそう尋ねる上条。 しかし、上条は気付いていなかった。人口二三◯万人を誇る学園都市の中でも三番目に優秀なはずの頭脳が、あらぬ方向へ暴走を始めている事に――。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- (間違いない、やっぱりこの馬鹿は私を置いてく気だ……) 美琴は、先程の上条の発言を聞いて、そう確信していた。 根拠は三つ。 一つは、「続きは明日」というワード。一見何の変哲もない言葉だが、今日は平日である。明日も当然学校がある。 再開された一端覧祭の準備の為午前中授業という事もあり、早ければ午前十一時過ぎ、遅くても午後には話をする時間を取れそうではあるが、 裏返せばその時間までは会って直接コンタクトを取る事は出来ない。 つまり、その空き時間のうちに上条に逃げられる可能性が充分ある。 何処に行くつもりなのか、そんな最低限の情報すらこの場で教えてくれない事も疑いに拍車をかけた。 二つ目は、上条が美琴の願いを美琴の想像より遥かにすんなりと受け入れた事。 何せ相手はあの上条(バカ)である。いくらこちらが言葉で思いをぶつけても、素直にそれを受け止めてくれるとはあまり思っていなかった。 事実あの瞬間、美琴は断られた時用の脳内シミュレーションを完全に済ませたところだったのだ。 だからこそ、あの予想外の返事は言葉のカウンターパンチをまともに食らったようなもので、 しばらくの間、衝撃のあまりまともな反応を返す事が出来なかったのだが……。 今にして思えば、少しでも早く話を終わらせる為の偽りの降服宣言だったとすれば、悲しくはあるが理解出来る。 そして最後の三つ目。それは――根拠というより被害妄想に近いレベルではあるのだが――今まで美琴が散々味わって来たスルー経験。 上条を信じたい気持ちが心の奥底にあるのは事実なのだが、過去の記憶がどうしても美琴の邪魔をする。 (「また連絡する」ですって? アンタの方から連絡取ってくれた試しなんてこれまで殆どなかったじゃない!!) よって、美琴としては上条の言葉を額面通り受け取る事は出来なかった。 何でこんな奴の事……と美琴は頭を抱えそうになるが、気持ちが止められない以上はどうしようもない。 それよりも今大切なのは、どのようにして上条に「今この場で」次は何処に、どのタイミングで向かうつもりなのかを問い質す事だ。 この二つさえ予め知ってしまえば、仮に上条が翌日に何食わぬ顔で次の戦場に行ったとしても、容易に追い駆けられる。 ハッキングで情報を得る手もあるが、時間がある程度かかる上、後手後手になってしまうのが否めない点を考慮すると、出来ればあまりそれはしたくなかった。 (結局のところこうなっちゃうのか) 美琴は何かを諦めたように溜息をつき、事前に何度も脳内シミュレーションを実行済の「行動」に出ることを決めた。 ただ問い質すだけでは埒が明かない事は目に見えている。 それなら、美琴が取る行動は一つしかない。 ある意味、美琴にとっては一番シンプルで性に合ったアクション。 特に上条に対しては。 「アンタにさ、一つクイズを出してあげる」 美琴は満面の笑みで上条にそう問い掛けた。 「はあ?」 上条は怪訝そうな顔を浮かべていた。上条にとっては突拍子もない話である以上、無理もない事だった。 「今の話でどうしてそういう流れになるのかわからんけどさ、上条さんが言ったように今日はもう遅いの。  クイズだろうが禅問答だろうが何だろーが明日ならいくらでも答えてやるからさ。だから今日はもう帰ろうぜ。な?」 美琴から見て、上条は執拗に話を切り上げようとしている様に見えた。その怪しさに、ますます美琴の中での確信が高まっていく。 逃がすものか。 「まあまあ、簡単なクイズだから。すぐ終わるって」 「……はぁ、仕方ねえな。一問だけだぞ」 根折れした上条は投げやり気味に了承する。それが、これから始まる悪夢への片道切符だという事も知らずに。 そして美琴は、先ほどと同じ笑顔を浮かべ 「さて問題です。この私、学園都市第三位、超電磁砲こと御坂美琴が今掴んでいるのはどちらの手でしょうか?」 上条は思わず自分の左手を見る。 「いや、左手だろ……ってアレ、御坂さん。どうしてそんなに身体中に電気をバチバチさせてるんでしょうか?」 美琴は答えない。代わりに、にこやかな微笑みを上条に対して見せ付ける。 その瞬間、美琴の真意を掴んだ上条の額からは大量の冷や汗が噴き出した。 「ちょーっとストップストップ御坂サン! この無防備極まりない状況でビリビリされたら死んじゃう! 本当に死んじゃうから!   というかさっきの話からどうしてこんな流れになるんですか教えて下さい美琴センセー!!」 美琴は白い目で上条を見ながら答える。 「アンタがどう見てもバレバレの嘘つくのが悪いんでしょ。そういえば私、アンタにまだ勝ったことなかったのよねえ。  初めての勝利をここで味わうのも案外悪くないかも。あ、大丈夫よ、死なない程度に手加減はしてあげるから」 嘘をついた相手に本当の事を言わせるにはどうするべきか。 方法はいくつかあるが、最もシンプルで、古代ローマ時代から行われてきた方法。 それは「拷問」である。 美琴なりに柔らかい表現をすれば「実力行使」だが、それでも学園都市第三位を誇る彼女の「実力行使」がどれほどのものかは 想像するだけで恐ろしいものがあった。 「嘘だッ! その悪魔のような笑みはどう考えてもこの世から上条さんを抹殺しようとする顔……って俺いつ嘘ついたんだよ!?」 「ついさっき」 「だからついてねーよ! あと、せめてどの台詞が具体的に範疇に入るのか教えて!!」 「一緒に行くって。あれ嘘でしょ? 続きは明日とか言っておいて、どうせ私のいない間に行っちゃう気なんでしょ」 「何でそんな捉え方しちゃうんだよお前! そんなに俺の事が信じられないんですか!?」 「うん」 「即答!? 美琴センセーに信用されてなくて、俺悲しい……」 「アンタさ、一度自分の胸に手を当てて一万回ぐらい考えてみなさいよ」 「一万回!? 俺そこまで信用なかったのかよ!?」 美琴と上条の、喧々諤々としたやり取りはしばらく続いた。 「――で、結局のところ、御坂サンに電撃ビリビリで黒焦げにならないためにはどうすればいいんでしょう?」 涙目になった上条が美琴にそう尋ねる。 美琴は、右手の親指と人差し指で髪をくるくると巻きながら考え込むそぶりを見せ 「そうね、とりあえず次向かう場所とそのタイミング。あと証拠みたいなのが欲しいかな」 「タイミングとか証拠とか言われてもなあ……。俺も次に事件が起こる場所を聞いただけだし、証拠どころか行くタイミングすら全然決めてないぞ」 「じゃあ、とりあえず場所だけでもいいわ。明日、仮にアンタとコンタクトが取れなくなったら速攻でそこ向かうから」 「行動力おかしいだろお前! 大体、もし俺の言った場所が出鱈目だったらどうする気なんだ?」 「その時は……消し炭、かなあ」 「今の言葉の主語はドコ? まさか俺を、とか言わないですよね!?」 「まあそれはそれとして」 「流すなよ!」 「冗談よ。大体アンタはそんな事しないでしょ。アンタは他人を危険から遠ざけようとはするけれど、出鱈目言って迷惑をかけるような事はしないもの」 美琴は、そう言って優しい目を見せる。 「お前って、俺の事を信じてるのか信じてないのかどっちなんだよ……」 「内緒。それよりいいから教えなさいよ、アンタが次向かう場所」 「はあ、仕方がねえなあ……」 右手で髪を掻きながら、面倒くさそうに上条は答える。 「ハワイ」 美琴の頭の中が、真っ白になった。 「……は?」 「だから、ハワイだってげろこぶしゃあ!?」 上条の左頬に、美琴の綺麗な右ストレートが炸裂した。 繋がっていた上条の左手と美琴の左手が、衝撃であっさりと離される。 「い、いきなり何すんですか御坂サン……。ぐふぅ、今のパンチは効いたぜ」 「アンタこそ何考えてんのよ! どっかに行くって話だったから、てっきりまた闘いに巻き込まれるもんだと思ってたのに、  ハワイ? 常夏? リゾート? 金髪巨乳美女? やっぱりアンタは巨乳が一番なのかーっ!?」 「他のはともかく最後は意味わかんねえよ! あと、別にやましい気持ちでハワイ行く訳じゃありませんからね俺? って、  その目はどう考えても信じてくれない目ですね分かります分かりますけど分かりたくないっていうかあーもう不幸だーーーっ!!」 直後、深夜の鉄橋に闇を切り裂くような雷鳴が響き渡った……。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- とある少女の、胸の内。 第二二学区では、手を伸ばす事すら出来なかった。 ロシアでは、手を伸ばすことは出来たが、掴まえるだけの力がなかった。 そして今、ようやく掴まえる事が出来た。 今、自分と目の前の少年が繋っている世界は、たった半径30cmほどで。 それは、あまりにも小さくて。その手を離したら、すぐに壊れてしまいそうで。 だから、改めて決意する。この手は離さない、ずっと繋ぎ止めてみせると。 この小さな世界の中なら、今までとは違った何かが見えてくる。そう信じているから。 この半径30cmの中なら、全てが違って見えてくる。そう信じているから。 そして。 これから歩いていく道、それが自分の人生の答えなんだと。 絶対に、そう信じているから。 }}} #back(hr,left,text=Back)

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