とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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御坂姉妹の家出 2 1日目



先ほどまでガンガンにつけてあったエアコンは人口密度が高まったので止めておいた。よって今の上条の部屋は音が全くなかった。
上条と御坂三姉妹はテーブルをはさんで向かい合っており、様子を伺うようにジッーと見つめ合うだけで話し出し辛かった。
だが、打ち止めはそんな空気に耐えきれず、口を開けて話し始めた。

「ねえ!なんで黙ったままなのってミサカはミサカは周りを見渡してみる!!
 お姉さまも言いたいことがあれば言えばいいじゃんってミサカはミサカは裾を引っ張ってみる!」
「……はあ、そんなに引っ張らないで打ち止め。今から話すから、ちょっと黙っててね」

美琴は妹をなだめるように撫でてゆっくりと上条と向き合った。

「どこから話せばいいかな?私の理由は話したからいいわよね?」
「ああ。じゃあまず、御坂妹から聞こうか。病院で調整中なんだろ?家出して大丈夫なのか?」
「既に体の調整は終わり、日常生活を難なくこなすことは可能ですとミサカは答えます。
 後は社会での経験を積めば、病院を出て一人で生活できますとミサカは追加説明します。だからミサカたちで交代して外に出て研修しているのですが、
 今日のミサカ19090号が研修に出かける際に私のネックレスを持ち出そうとしたんですとミサカは先ほどお姉さまにした話を繰り返します。――」

御坂妹は自分の家出の理由を上条に説明した。事細かに、そして御坂妹にしては珍しく感情的になって話した。
しかも喧嘩した19090号を『泣き真似の得意な卑しい汚い奴』と罵り、あくまで自分が被害者だと訴えたのだ。
ネットワークで繋がっている妹達から非難されて、そうとう頭にきているのだろう。
だが美琴としては妹達みんな仲良くしてほしいと思っているので、妹達のこんなところを見るとなんだか悲しくなった。
上条は御坂妹の話にしっかりと耳を傾けて共感できるところにはうんうんと頷いただけだった。

「――という訳なんですとミサカは説明を終えます」
「大体わかった。とにかく他の妹達と喧嘩しているから戻れない訳だな?
 病院から飛び出したってことは美琴とは違ってお金もまともに用意出来なかったわけだから、ホテルもダメだろうな。
 まあ…行く宛もなさそうだし今日は家に泊まってけ。明日俺と一緒に病院に行って他の妹達と仲直りしよう」
「ありがとうございますとミサカは感謝しますが、病院へは戻りたくありませんとミサカは最後の提案に反対します」
「わがまま言わないでよ。ここまで良くしてもらっているのに、何日も居候のようにいられる訳ないじゃない」
「ではあの白いシスターは違うんですかとミサカは尋ねます」
「いや……あれは何というか…お前等とは違って帰る家がないから仕方なく泊めてるだけであってですね…お前等とはまた別の事情を抱えてんだよ」

実際のところ、その辺は上条が記憶を失ってしまいインデックスとの出会いが分かっていない。だから、居候として居る理由も不明なので御坂妹の質問に上手く答えられなかった。
そんな上条の心情を察した美琴は急いで別の話題を振ってきた。

「そ、それよりも次は打ち止めよ!しっかりと……って、何やってんよアンタ!?」
「あんまり面白くないから猫とお風呂に入ってたってミサカはミサカはバスタオル巻き付けて報告してみる!!」

上条の家のバスタオルを勝手に拝借して体に巻き付けた打ち止めはずぶ濡れになったスフィンクスを抱いていた。
最初に見たときはフワフワとした毛がすっかり痩せこけて、見ててつらそうだった。

「アンタね~~!!そんなことしたら風邪引いちゃうでしょうが!!まず恥ずかしいから服着なさい!!」
「お家ではいつもこんな感じなのにってミサカはミサカはぶーたれてみる!
 それになんか汚かったし、犬もよく水浴びするから大丈夫だろうってミサカはミサカは意外な気遣いを見せてみたり!!」
「そんな気遣い不要ですとミサカはアホなチビ上司を非難します!お姉さま、今からこの猫を乾かしてきますとミサカが提案します」
「確か黒猫を飼っているから扱い方に慣れてるんだっけ?ならお願いするわ」

美琴からの許可を受けて御坂妹は猫を抱いて洗面台へと向かった。打ち止めもようやく着替え終わり、美琴の膝に強制的に座らせた。

「じゃあ次は打ち止めよ。しっかり話しなさいよ」
「うー、なんでお姉さまにしっかりと掴まれてなきゃならないのってミサカはミサカは疑問に思うけど説明し始める。そもそもあの人がね――」

打ち止めも御坂妹と同じように説明した。
一方通行とのやりとりをこちらも事細かに話したが主に一方通行が短気すぎるということを重点に話し、本当の原因である携帯電話の請求書のことはできるだけ棚上げしていた。

「――という訳で一方通行は過保護なロリコンであるとミサカはミサカは結論づけてみる」
「なるほどな。つまり、一方通行が突然キレたからそこから逃げるために家出したと?」
「そうなの、それに一方通行はあのチートな能力使おうとしたからミサカが強制的に止めなきゃならなかったんだってミサカはミサカは正当防衛を盾に訴えてみる!」
(でもなんだかんだ言ったってホントのこと言わないじゃない。なんか一方通行に同情しちゃうなー)

美琴は心の中でそう呟いた。正直、今の打ち止めの説明は具体的な状況は語られていたが、一番の根幹である理由を明らかに飛ばしてた。
もしこれがディベートや討論だったら相手がそういうところをドンドン突いてくる。よって打ち止めでは簡単に論破されて敗北してしまうだろう。
だからたぶん上条もそのことに気づいているはずだ。

「わかった。じゃあ明後日に俺も一緒に一方通行の所に行くか?一応あいつの言い分も聞かなきゃならねーし、黄泉川先生も心配するだろうし」
「ええー!ミサカはずっとここがいいってミサカはミサカは駄々っ子っぽくジタバタしてみる!!」
「ちょっと打ち止め!!膝の上で暴れないでよ!!
 それにダメよ!いくら何でも一方通行だって心配するだろうしあっちの家の方が安全なんだから、明後日にはコイツと一緒に仲直りに行ってきなさい!」

美琴はジタバタと暴れる打ち止めを押さえつけて、姉らしく小さい妹を窘めた。
そしてこの二人が上条の所に長く居たいと考えていることについては、

(どうしてホンネのとこまで一緒なんだろう…)

と自分より積極的な妹達を羨んだ。



「結論から言えば、三人とも誰かとケンカして、居場所がなくなったから家に来たという事だな?」
「大・正・解!!ってミサカはミサカはクイズ番組っぽく答えてみたり!!」
「まあ、そういうことなら仕方ないから家に泊まってもいいが、これから大掃除で忙しくなるから少しは手伝ってもらうぞ?」
「わかっておりますとミサカは昼食のラーメン用に野菜を切りながら返答します」
「あと、布団とか足りないものを後で買い出しに行くからみんな付いてこいよ?」
「いいわよ、他にも買いたい物はあるしってミコトは返答しながら冷蔵庫の中身を見て愕然とします!!」
「「…………お姉さま、何の真似ですか??」」
「……えっと、タイミング的にここは真似した方がいいかなって思ってさ……」
「…いや、無理に真似しなくていいからな?」

お昼近くになったので、四人で昼食にする事にした。
お金があまり多くあるわけでもないので、家に有るもので済ませることになった。
打ち止めに包丁やガスコンロを使わせたくなかったので上条が彼女の世話をすることとなった。よって美琴と御坂妹が協力して作ることとなった。
お嬢様である美琴や社会経験の少ない御坂妹はインスタントラーメンなど作ったことがなかったが料理の腕は確かなので上条が予想してたよりもスムーズに進んでいた。

「あなたの家ってマンガの本がたくさんあって図書館みたいだねってミサカはミサカはそれに引き替え教科書はどこにあるのかなって痛いとこを突いてみる!」
「…教科書は見苦しいからベッドの下に置いてあるんだよ!毎日補習がある上条さんはこういう暇な時こそ勉強から離れていたいんです!!」
「アンタ、夏休みも同じようなパターンだったんじゃない?まさか『宿題』っていうのにまだ着手してないんじゃないでしょうね?」
「ミ、ミコトサン、ソレヲアマリイワナイデクダサイッテカミジョーサンハ…」
「ミサカの口調を無理して真似ないでくださいとミサカは注意します」
「……スイマセン」

正午10分前
美琴と御坂妹が作ったラーメンができあがり、4人が食卓に着いた。
上条の周りを同じような顔をした少女が取り囲んで食事する風景にしては少々不気味ではあったが特に気にすることなく食べ始めた。

「お!結構美味いなコレ。やっぱりインスタントラーメンは誰が作っても美味しくできるもんだな」
「…何よその言い方?まるで私が料理もできない娘みたいじゃない」
「だってお前の料理食べたことなかったし、キャラ的に考えて料理ぐらいは失敗してもいいんじゃないかなーって」
「勝手に変なキャラ植え付けてんじゃないわよ!!なんなら今度ちゃんとした料理作ってやるわよ!それでアンタのイメージひっくり返してやるわ!!」
「おお、じゃあ今度食材が揃っている時にまた来て作ってくれ。いやー楽しみだなぁー」
「なにげに次回の約束を作ってついでに彼の家に行く口実を作っている辺り、お姉さまは計算高いですねとミサカは品評の際には私も呼んでくださいねと先手を打ちます」
「うーん、でもやっぱりみんなで食べると美味しいねってミサカはミサカは精神論を述べてみたり!
 もちろん、ラーメンが不味いって訳じゃないよってミサカはミサカは補足してみる!」

四人はスープまで残さず飲み干し、食べ終わった。
食器を上条が洗い片づけ終わって出かける支度をした。

「年末大処分祭って事でちょっと遠くなるけどホームセンターまで行って買い出しするから、買い物リストまとめるぞ」
「布団一式と大掃除用の雑巾と洗剤とゴミ袋、それに妹の寝間着も揃えないとね」
「ミサカは別に何でもいいですよとミサカはワイシャツが入っているタンスを見つめます」
「どこのいちゃラブカップルよバカ!!それにワイシャツ着たとしても、下に履く物がないじゃない!」
「ミサカは生体電気を操って体温の調節が可能ですので、例え裸であっても一晩くらいは――」
「このおバカ!!!なに男の部屋で裸になるとか言ってんのよ!!少しは羞恥心を持ちなさい!!」
「せっかく学んだ知識で恩返しが出来るかと思ったのにとミサカは悔しがります。それで上条さんは鼻を押さえてどうされましたかとミサカは疑問に思います」
「…アンタって奴は…そんなに妹の体がいいのかしら?」
「……イヤ、ベツニナニモイヤラシイコトナンテカンガエテイマセンヨ。ハハハハハハハ……」
「……なんか頭大丈夫?ってミサカはミサカは気遣ってみる」

買い物リストがまとまったので四人は外に出た。
ドアの鍵を閉めて一緒にエレベーターに乗り込むとかなり窮屈になった。上条はできるだけ壁に身を寄せてラッキースケベイベントを防いだ。
万が一にも御坂妹に手など触れてしまったら不機嫌になっている美琴の癪に触れ、電撃をお見舞いされるだろう。
それでこのオンボロエレベーターが止まってしまったら、あらゆる意味で逃げ場がなくなってしまう。だからエレベーターが1階に降りるまで上条は気が抜けなかった。
エレベーターを降りて第7学区のモノレールの駅まで歩いた。
最初はこの四人では異質だと思っていた上条だが、慣れてくるとなんだか家族でお出かけしているみたいで悪い気はしなかった。

「……なんだかほのぼのするな」
「いきなり何よ?」
「いや、なんか家族で歩いているようで楽しいなーってな」
「なるほど。年が若すぎるのは置いておいて男と女とガキンチョが揃っていて、
 一般的な核家族の構成としてはピッタリですねとミサカはお姉さまと私のどちらがお嫁さんなのか気になります」
「ガキンチョだなんて無礼だぞってミサカはミサカは下位個体を叱りつけたり!!」
「およっ、お嫁さん!!?わわ私がコイツの奥さん!!?てててことは、こいつがあなたで、お父さんで、パパで、ダーリンってこと!?」
「美琴さん!?全部同じ意味だと思うのですが…?てかそんなにマジになるなって。つい思って言ってみただけだし……
 …あ、そうだ忘れてた!」

ふと上条が携帯電話を取り出し、電話帳を操作した。

「ねえ、誰に電話かけるの?」
「黄泉川先生。打ち止めの保護者なんだし、泊まることを伝えないとな。美琴も病院の方に連絡しといてくれ。明日連れていくこともよろしく頼む」
「えー、そんなこと別にいいよってミサカはミサカは拒否してみる。場所を知らせるとあの人が飛んでくるよってミサカはミサカは脅してみたり!」
「一方通行の能力はお前が制限かけてるんだろ?アイツだってなんだかんだ言ってお前のこと心配してんだから、一言言っておかないとな」
「アンタもよ妹。突然病院を飛び出したんだから、みんな心配してるわよ」
「ミサカはそうは思いませんとミサカは答えます。他のミサカ達は私だけが黒猫の世話をしたり、ネックレスをプレゼントされたりするので妬んでいるのですとミサカは予想します。
 心配されるとしても、せいぜいカエル顔の医者が患者として心配しているぐらいですとミサカはつまらなさそうに言います」
「「…………」」

いつも無表情な御坂妹だが、今日の御坂妹はいつになく不機嫌そうで落ち込んでいるようにも見えた。
なんとかフォローしてあげたい美琴と上条であったが、今まで見たことのない悲しそうな顔を見ると言葉を失ってしまった。
すると打ち止めが御坂妹に声をかけた。

「10032号、そうイジイジするなってミサカはミサカは励ましてみる!!
 ミサカ達はネットワークで繋がっていて切っても切れない関係なんだからわかってもらえるってミサカはミサカは共存共栄を示してみる!」
「ですが上位個体、ミサカは今更戻れませんよとミサカは再度申し上げます。
 共存共栄の関係であったにしても、みんな心の中では私のことを妬んでいるはずですとミサカは…胸の…痛さを堪えながら……」

御坂妹はいつもなら見せないような涙をこぼした。やはり同じ遺伝子を持つ妹達から非難されて落ち込んでいたのだ。
確かに了解もなく勝手に10032号のネックレスを持ち出した19090号も悪いのは明らかだ。だが御坂妹は他の妹達と比べて上条や美琴と多く接している。
そして、黒猫は勝手に連れてきたから違うが、上条からネックレスや雛のお菓子ももらっている。羨ましがられるのも当然だ。
御坂妹もそのことには気づいていたはずなのに突っ張ってしまった。今思えば気遣いだって出来たはずなのに。
御坂妹はそう思い、自分のしたことを後悔した。
出来ることなら19090号に素直になって謝りたかったが、ミサカネットワークに接続しただけで他の妹達から罵倒されそうで怖かった。
絶対能力進化実験で一方通行に殺されそうになったときの
恐怖とはまた別の恐怖を感じた。
独りぼっちとなる。頼れるものがなくなり居場所がなくなる。御坂妹はそう思ってしまい、涙が溢れて止められなくなった。

「ううっ……ミ、ミサカは…もう、どうすればいいのか…分かりませんと…ぐすっ……」
「……そう泣くなよ御坂妹。ほら、これで拭けって。あ~あ、可愛い顔してんのに台無しだぞ。
 それにさ、そんな泣くほど後悔してんのならもう大丈夫だ。きっとみんな理解してくれるよ」
「もう、しっかりしなさいよ!アンタは私の妹なのよ。笑っている方が綺麗なんだからこんなことで泣いちゃダメ。
 明日みんなの所へ行って、素直に謝れば皆笑って許してくれるわよ。私はアンタたちにいつまでも笑っていて欲しいんだから」

上条と美琴が御坂妹を左右から声をかけて慰めた。ハンカチを上条から受け取り顔全体に覆っていると、自然と涙が吸い取られていき次第に収まってきた。
ハンカチを取ってみるとまだ目が真っ赤であったが、気分はすっかり落ち着いた。

「ズズッ……上条さんとお姉さまのダブル慰めで胸の痛みが取れましたとミサカはハンカチを返しながら答えます」
「落ち着いてよかったな。反省も出来たようだし、明日他の妹達に謝れるようにしておけよ?」
「さぁ!駅に着いたし、この話はこれでおしまい!!電車に乗るから離れないでね?」

券売機で四人分の切符を買って改札口を通った。ホームに上がるとちょうど列車が来てたので急いで乗り込んだ。
車内は比較的に空いていて四人分のボックスシートも空いていたのでそこに座ることにした。
打ち止めは窓の景色を見るためにササッと窓側に着いた。しかし美琴と御坂妹はなかなか座ろうとしない。

「どうしたんだお前ら?さっさと座れよ」
「…ミサカも窓の景色がみたいので窓側に――」ガシッ
「わ、私も外の方がいいなあ。だからアンタは打ち止めの隣ということでね?打ち止めは小さいから外見るのは平気でしょ?」
「…………なんか横暴な気がしますがお姉さまに従いますとミサカはしぶしぶ上位個体の隣に座ります…」ムスッ
「??なんかよくわかんねーけどもういいか?美琴も早く座れよ」
「わわわ、わかったわよ!!はいっ、アンタはここ!」

美琴は即座に窓側の席に着き、隣の席をバシバシ叩いて上条の座る位置を示した。
姉と妹の密かな女の戦いに気づかない上条は疑問に思いながらも、美琴の指示に従い隣に座った。

「わー、まるで空を飛んでるみたいってミサカはミサカははしゃいでみる!!」
「上位個体、外を見るときは靴を脱いで座席に立ってくださいとミサカはマナーに従い注意します」
「御坂妹もだいぶ常識が身に付いてきたな。これなら社会に出ても心配はないな。
 ところで美琴さんは窓の景色が見たいんじゃなかったのか?さっきから妙にこっちを気にしてるようだけど…」
「ふぇ!?なななっな、何言ってんのよ!!?ちゃんと外ぐらい見てるわよバカ!!」
(お姉さま……上条さんが席に着いてからずっと間隔を測って手を掴もうとしているくせに……
 隣に座ってくっつきたいのなら最初っからあんな嘘をつかず素直にそう言えばいいのにとミサカは恨めしげにお姉さまを見つめます)

御坂妹は不満そうに美琴を睨みつけてそう思った。
列車は目的の駅に近づいてきた。年末年始のために買い出しに行く人はだいぶ多いのだろう。車内に乗っている大半の乗客が降りる準備をし始めた。

「よ~し、次で降りるぞ~。忘れ物すんなよ」
「ミサカに手持ちの物はありませんので安心してくださいとミサカは手を振ってアピールします」
(ううっ…結局触ることもできなかった……あとちょっとだったのに…)
「美琴さん?なんか落ち込んでるようですけど、どうかした?」
「べべ、別になんでもないわよ!!この電車に思い残すこともなんにもないんだから、平気ったら平気よ!!!」
「あの…なんか大げさすぎませんか?――っと!もうすぐ駅だな」
「あれー!ミサカの靴がなーいってミサカはミサカは大慌て!!」
「!?なにやってんのよ打ち止め!!もうすぐ降りるわよ!!」
「うわーん、限定品のゲコ太シューズなのにってミサカはミサカは血眼になって探してみる!!!」
「なんですって!?!?一刻も早く見つけなさいバカ!ほらアンタ達も手伝って!!」
「しゃーねーな。…あっ!ほら、片方あったぞ」
「ミサカは先に降りてますねとミサカは口にするより早く逃走します」

列車は駅に到着しドアが開いた。御坂妹はごたごたに巻き込まれないうちにさっさと降りてしまった。
残る上条、美琴、打ち止めの三人で車内のあちこちを探す。すると美琴が反対側の座席の下から何かをキャッチした。

「あった!!ゲコ太ぁ~逃げないでよ~」
「靴を頬に擦り寄せてる場合か!!もうベルも鳴ったし、発車しちまうぞ!!」

がしっ!ぎゅっ!!
「わっ!!ちょ、ちょっと!?(アイツと手繋いでる!!キャーキャー!!!)」

上条はとっさに美琴の手を取り美琴を引っ張るように外に出した。
打ち止めもピョンと外に出た時扉もちょうど閉まったので間一髪だった。

「いやー危なかったってミサカはミサカは靴を履きながら列車を見送ってみる!!」
「だめだろ打ち止め!靴をちゃんと揃えてなきゃ。
 あと御坂妹も勝手に逃げんなよ。危うく乗り過ごすところだったじゃねーか」
「人数が多いとかえって効率が悪くなりますとミサカは自己弁護します。
 そんなことより、お姉さまが手を握ったままカチカチに固まっているのですが…とミサカは伺います」
「え?お~い美琴さん?もう手を離してもいいんだぞ?」

美琴は上条に呼びかけられてもずっと握ったまま動こうとしなかった。まるで石像のように固まった美琴は思考が正常に働いていなかった。

(握っちゃった握っちゃった握っちゃった握っちゃったにぎっちゃったにぎっちゃったにぎっちゃったニギッチャッタニギッチャッタ―――!!!!)
「………御坂妹、美琴の頬をつねってみてくれ」
「わかりましたとミサカはちぎれるぐらい強くつねります」
ぎゅっっーー
「いたたたたたた!!なにすんのよ!!!」
「やっと正気に戻ったな。ほら、もう手を離せって」
「なによ、ちょっとのぼせてただけじゃない。そんなに強くつねらなくたって………あれ?外れない?」
「あのな、冗談やってんじゃないの。とっと行かないと暗くなっちまうぞ」
「え、いや、冗談じゃなくても、あれ?腕が言うこと聞かないみたい…」

幻想殺しの宿る上条の右手を握りしめているので能力は関係ない。
だが突然上条に手を握られて興奮してしまったのだろうか。
本能的に強く握りしめてしまい手の表面に接着剤を塗り付けたかのようにくっついて離れられなくなっていた。

「えっと、これどうしよう…離れられない……」
「まるで恋人みたいだねってミサカはミサカはからかってみたり!!」
「ばっ、な、なに言ってんのよ打ち止め!!手握ったくらいで恋人だなんて……」
「そっそそ、そうだぞ打ち止め。美琴だって好きで握りしめてる訳じゃないんだから、あまりからかうなよな。
 ってかもうこんな時間じゃねーか!!急ぐぞ、もうすぐセールの始まる時間だ!!」
「きゃっ、いきなり引っ張らないでよ!転ぶでしょうが、バカ!!!」
(イヤイヤしてる割には妙にニヤケて見えるようですがミサカの気のせいでしょうかとミサカは心の中で指をくわえて見つめます)

上条の右手に引かれて走る美琴は文句をブツブツ言いながらも、恋人のような気分を味わい悪い気はしなかった。
そして彼の手から伝わる体温をもっと感じていたいと美琴は心の中で欲望が湧き始めていた。

「うわーー!!!すっごくひろーい!!ってミサカはミサカは大はしゃぎ!!!」
「だいぶ出遅れちまったな。セールの商品も少なくなってるみたいだからみんなで一緒に行動すると予定通りに買えなくなっちまうぞ」
「二手に別れましょ。会計の時に集合すればいいから、寝具と寝間着を買うグループと大掃除の道具と今夜の夕食を買うグループでいきましょう」
「お姉さまの案には賛成しますがグループ分けは………」

今の立ち位置
上条の右隣に手を繋いでる美琴
御坂妹のそばではしゃぎまくってる打ち止め
御坂妹でさえもこの状況で公平に分かれましょうとは言えなかった。

「…ミサカはなにか不公平な気がしてたまりませんとミサカは不満を申し上げます」
「…あー、悪かったな御坂妹。美琴たんは可愛いツンデレっ娘だから手離したくてもできないんだよ。だから今回は譲ってやってくれ、な?」
「べ、別にそういう訳じゃないわよ……。あと美琴たんなんて言うな、バカ…」
「まあまあ10032号、お二人さんの邪魔せず、上司と部下の親睦を深めていこうではないかってミサカはミサカは腰をポンポン叩きながら諫めてみたり。
 ミサカ達は掃除道具の方に行けばいいよねってミサカはミサカは確認しながらメモ紙をねだってみる!」
「ああ、布団とか重いから俺が行かないとな。そんでメモ紙は…っと?……えっと、美琴さん?頼みたいことがあるんですが……」
「な、なによ?まさか家に忘れてきたりしてないでしょうね?」
「いや、あるにはあるんだがな……それが俺の右のポケットに入っててさ取り出せないんだ、お前のせいでな。
 だからさ、俺の右ポケットに手に突っ込んでメモ帳だしてくれないか?」
「へっ!?ぽぽぽ、ポケットの中!!?で、でも、しょうがないわよね。左手じゃ掴みにくいし、取って上げるわよ。」

ドキドキしながら美琴はそーっと上条のポケットの方へ手を伸ばす。
ポケットは薄めに出来ているはずなので手を突っ込めば直接上条の太ももの感触に触れることになる。もしかすると股間にある男子にとって重要なアレも……。

(な、なに固まってんのよ美琴!!ただメモを取り出すだけじゃない!べ、別にアイツの体になんか興味ないんだからとっとと手を伸ばしてグッと掴めば―――)
「ひょいっとミサカはポケットの中のメモ紙を取り出します」

美琴がいろいろと悩んでいると横から御坂妹が現れて、上条のポケットに手を突っ込みメモを取りだした。
決心を固めた美琴は獲物を横取りされたような気分になった。

「なっ!!?なんでアンタが取るのよ!!」
「なんかお姉さまがなかなかメモ紙を取ろうとしないので代わりにミサカが取ったのですがとミサカは説明します。なにか不満でもあるのですかとミサカは質問します」
「~~~!!べ、別にないわよ!!!代わってくれてありがとうね!!!!」
「いえいえ礼には及びませんとミサカはメモを切り取りながら答えます。それとポケットの中でも凄くわかりましたよ。上条さんのアレが既にガチガチであることにとミサカは―――」
「ちょ、御坂妹!!?んなわけねーだろ!!!だいたいこんな所でそんな下品なことを言うもんじゃ―――って痛ってえええ!!!美琴さんやめて足踏まないで!!!」

御坂妹が言った“アレ(本当は太もも)がガチガチ発言”で美琴の頭の中でブチッとなにかが切れた音がした。
そして理性を失った美琴は、幻想殺しで電撃を放つことが出来なくても、顔を真っ赤にして上条の足を勢いよく踏んづけて上条を罵倒した。

「こんのエロ野郎がああ!!!アンタってやつは節操が全くないんかーー!!!」
「誤解だああ!今はだいぶ小さくなってるし、御坂妹だって触れてないはずだあああ!!!」
「なんか凄く騒がしいようだけど大丈夫なのってミサカはミサカは心配してみたり」
「いつものじゃれあいのようですので特に心配はありませんとミサカは早速売り場に行きましょうと上位個体を促します」

上条と美琴はそれから五分間、手を繋ぎながら喧嘩し続けて、店員に注意されるまで御坂妹と打ち止めがいなくなるのに気づかなかった。

「これなんかどうよ?」
「ちょっと小さいだろ?もうちょっと大きめなやつで」
「じゃあこれなんてどうよ?」
「デカすぎ。部屋に収まんねーよ」
「あ!これなんて大きさバッチシじゃない!」
「ゲコ太のなんてやめろって。お前いくつだよ」
「だあああああ!!なによ!!さっきから文句ばっかじゃない!!」

寝具売り場
ここにはキングサイズのベッドから子供用の小さな布団までの多くの種類を品揃えていて、枕やシーツ、パジャマや腹巻きなども揃えている。
上条と美琴の買い物はここで全て揃えられそうだった。

「大体ね、お金は私が払うのよ。デザインのことまで口を出される覚えはないわ!」
「けどな、問題が解決してお前等が家から出たとき布団ごと持ち帰れるのか?
 お前や御坂妹には帰ったらベッドが元からあるわけだし、打ち止めだって黄泉川先生の所に寝る場所ぐらいあるだろうが。
 どうしたって買った布団は俺の家に置いて行かなきゃだめだろ。それなのにこんな子供っぽい物なんて……」
「いい加減ゲコ太をバカにすんな!!それと、買った布団は私がお金払うんだから私のよ!また使う機会があるかもしれないんだから、私が意地でも持ち帰るんだからね!」
「………(なら俺にいちいち聞いてくんなよ。なにかしら言わなきゃならねーじゃないか)」

心の中でボソッと呟いた上条は結局美琴の決めたゲコ太の布団セットを買うことにした。
店員によるとギリギリで今日中に配達してくれるようなので、布団セットを店員に預け寝間着の方を見に行った。
ここはデパートではないのでそれほど種類が豊富にある訳ではない。
しかし上条としては色っぽいネグリジェなどを買うわけではないので普通の無地のパジャマでいいと思い、さっさと済ませられそうだと考えてた。

「女の子だったらこれぐらいの薄いピンクのやつで良いと思うけど、御坂はどう思う?」
「で、でもこっちの方が可愛いしあの子なら気に入ると思うわよ?」

美琴が選んだのはピンクの生地に水玉模様が散りばめられたとてもファンシーなパジャマであった。以前セブンスミストにあったものがこんな所にもあったのだ。

「……そのパジャマ、どこかで見覚えがあるな。ってかそんな小学生が着るようなやつ御坂妹に着せるのか?
 アイツなんか嫌がりそうだぞ?」
「(そういえば虚空爆破事件の時の記憶もないんだっけ)いいじゃない、外に出て見せびらかす訳じゃないし。
 それにあの子は私のクローンよ。これくらいの可愛さだったらあの子だって気に入るわよ」
「う~ん…電話して聞いてみるか?打ち止めに電話すれば通じるだろ」

上条は二着のパジャマを美琴に渡し、空いている手でケータイを取りだし打ち止めを呼び出した。

「もしもし打ち止め?」
『はいは~いってミサカはミサカは答えてみたり!!』
「悪いけど御坂妹に代わってくれ。アイツのパジャマについて意見を聞きたいんだ」
『いいよ、じゃあ代わるねってミサカはミサカはバトンタッチ!!』
『お電話代わりましたとミサカは答えます』
「御坂妹、今パジャマ見に来てんだけどな、どちらを買うか迷ってるんだ。だからお前の意見も聞きたいんだ」
『なるほど、しかし私たちも今食品のお買い得セールがまもなく始まりそうなので動けませんとミサカは状況を説明します』
「今日が特売日だったのか!次からはチェックしていこーっと。にしても動けないんじゃ試着できないよな~。どうしようか?」

百聞は一見にしかず。
直接来て試着すれば簡単に判断できるが電話越しに伝えたら誤った判断をしてしまい御坂妹が不機嫌になってしまうだろう。
上条がどうするか迷っていると美琴がこんな提案をした。

「だったらさ、私が試着してみるからそれをケータイで撮ってあの子にその画像を見てもらえば?」
「おお!!それはいいな美琴!じゃあ御坂妹、今から写メするからそれ見てメールを返してくれ。いいな?」
『わかりましたとミサカは納得し電話を切ります』

上条はケータイをしまって美琴と共に試着室へと向かった。
美琴は名残惜しそうに上条から手を離しパジャマを手に取りカーテンを閉めた。
そして3分後。カーテンを開けて美琴がモジモジしながら出てきた。
そこにはピンクの水玉模様のパジャマを着た“超電磁砲”が立っていた。
顔を赤くして恥じらうその姿はとても名門常盤台中学のエースとは言い難く、小学生の乙女にも見えた。

「御坂…さん?」
「なにジロジロ見てんのよ?いいから早く撮りなさいよ。こっちだって恥ずかしいんだからね!」
「わ、わかった。ほら、こっち向いて。はいチーズ」
パシャ パシャ
「!!?今、二回撮ったでしょ!!アンタ一体何のつもりよ!!」
「あ…いや、別にこれといった理由はないんだがな、お前があまりに可愛いからメールで送る用とは別にケータイに保存しておきたいな~って思って撮っちゃった」
「かわっ!!?ななな、何言ってんのよアンタは!!ほほほ、ほら次やるから閉めるわよ!!」
「あっ……ああわかった…」

美琴はピシャっとカーテンを閉めて二着目に着替え始めた。
上条はその可愛すぎる美琴の姿を見て思わず興奮してしまった。だから美琴がカーテンを閉めるとき、なにか名残惜しい気持ちだった。
それから数分もかからずに美琴は上条の選んだ薄いピンクのパジャマに着替えてきた。先ほどとはうって代わって非常に無難な女の子らしいものだった。

「ど、どうよ?」
「…うん、結構まともだな。さっきのよりはずいぶん大人しめって言うか…」
「まあ、確かに可愛くはないけど着心地はこっちの方がいいしあの子にちょうど良いかもね。ほら、撮ってよ」
「ああ、はいチーズ」
パシャ パシャ
「よしオッケー。じゃあメール送っておくから着替えていいぞ」
「わかった。そこで待ってなさいよ」
「動かねえから早くしろって」

上条は二つの写真をメールに添付して御坂妹に送った。5分後、美琴がカーテンを開けて出てきたと同時に返信のメールが来た。

『ミサカは無地の方がいいですとミサカは要望します。ただ出来ればもう一方のやつも欲しいですとミサカはおねだりします』
「やっぱあの子供っぽいのは趣味じゃなさそうだな。でもなんで二着も必要なんだ?アイツは予定だと一泊するだけだろ」
「私にも見せてよ。……んー、会ってみないとわからないけど、お金の心配はないから買ってもいいわよ」
「じゃあ両方買うか。…そんで美琴さん?なんでまた私の手を掴んでいるのでしょうか?」

美琴が上条からケータイを奪うと空いてる左手が勝手に上条の右手を掴んでいた。

「あっ、こ、これはなんていうか、その、握っていたいなって思って勝手に………ダメ?」
「………ダメ、じゃないです」

本日二度目の必殺ウルウル上目遣い。やはり効果が抜群だった。二人はモジモジしながらパジャマ二着を持って会計に向かった。
周りの客や店員は初々しいカップルだなーと暖かい目で見られて二人は余計恥ずかしくなった。

「そろそろ手離したらどうだ?わざわざこんな賑わってるところで繋ぐ必要ねーだろ?」
「い、いいじゃない。私だって今までこんな風に握ってることなんてあまりないんだから。
 それにほら、最近よく漏電すること多くなってるし周りに迷惑かけないようにこうしていればいいでしょ?」
「…その前に漏電癖を減らす努力をしろよな」
「…わかってるわよ」

会計が済み元来た道を戻っていくと出口のところに御坂妹と打ち止めが待っていた。
二人とも食品や掃除道具を大きめの手提げ袋に詰め込んでいて待ちくたびれたようにしていた。

「おっそーいってミサカはミサカはぶーたれてみたり!!それに荷物がなんでそんなに少ないのってミサカはミサカは追及してみたり!」
「布団は後で宅配してもらうことになったんだ。今日中に届くから別に良いだろ?」
「そんな顔しないでよね。ほら、こっちの方が軽いから荷物交換しましょ、打ち止め?」
「相変わらずいちゃラブしてますねとミサカは妬ましく感じます。そこで奥の手を考えましたとミサカは実行します」

御坂妹は上条の左側に来るとそのまま左腕にしがみついてきた。
さらにいつかの罰ゲームの時のように上条の左手を慎ましい胸に当て、美琴に勝ち誇ったように見つめてきた。

「!!?な、なにしてんのよアンタ!!」
「二人がくっついているのが不満なのでミサカも倣ってくっついてみましたとミサカは説明します」
「いや~御坂妹さん?あなたの気持ちもわかりましたので少し手をゆるめて――」
ガシッ ギュゥゥゥ!!
「美琴さん!!?お前も何してんだ!?」
「た、対抗意識ってやつよ!!変に積極的になったところで妹が姉に勝てるわけないでしょうが!!」
「言いましたねお姉さまとミサカはその言葉を挑戦状と受け取りました。ならばミサカも負けるわけにはいきませんとミサカは気合いを込めます」
「勝負とかどうでもいいから、とっとと離れろよ!!両手が塞がってこっちは大変なんだぞ!!」

瓜二つの少女からサンドイッチのように抱きつかれている上条当麻高校1年生。
だが彼にはまだ空いているスペースがあり、そこにピッタリはまる女の子がしがみついてきた。

「うげっ!!!ら、打ち止め、お前なんで背中に…」
「なんか見てて面白そうに見えてきたからミサカも参戦ってミサカはミサカは背中に乗っかってみたり!!」
「面白くねーよ!!!てかなんでもいいから離れろよお前等!!!」
「じゃあ誰が一番長くひっつくことができるか勝負ねってミサカはミサカはヨーイドン!!!」
「ヨーイドンじゃねーよ!!!これじゃあクラスメートから袋叩きにされるだろうが!!あーーもーー、不幸だあああ!!」

周りの人から見れば“どこがだ!!”とつっこまれても文句は言えない上条当麻。結局家に着くまで誰一人として落伍者はいなかった。
特に帰りの電車の中では座席に座っても打ち止めが前に回って胸にしがみつき、美琴と御坂妹も腕から離れまいとしがみつきながら眠ったため、
上条としては危うく理性が吹っ飛ぶところだった。


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