とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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I want you look me, only.



「…あれ?」
放課後、ゲコ太グッズの大人買いとウィンドウショッピングを楽しんでいた御坂美琴の目に、とあるファンシーショップを覗く、見知った姿が二つ飛び込んできた。

一つは、女。
自分と違う学校の制服で、黒髪のロングヘアー。
もう一つは、男。
当然ながら自分とは違う制服で、黒髪のツンツンヘアー。
そう、上条当麻と佐天涙子である。
佐天が話し、上条は相槌を打ち、時折意見を出しているように見える。
その姿は第三者から見れば、恋人か、或いは幼馴染か、そんな風に見られているのかもしれない。
『あの二人、何時の間にあんなに仲良くなってたのかしら…』

佐天に上条を紹介したのは、紛れもなく自分だった。
ある時、無能力者である自分に悩み、力を欲していた佐天に上条を紹介したのだった。
上条と佐天は性格が比較的近いところにある、と美琴は常々思っていたし、それでいて(特に超能力に関しては)見事に正反対の考えを持っている。
「上条の持つ考えを理解しろ」と言うわけではなかったが、「こういう考え方をしている人も居る」という事を知って欲しかった、だけだったのだ。

それがどうだろう。
今自分の見ている二人の姿は、当初の予定には入ってなかったほどに進展しているようにさえ見える。
同じ無能力者と言うことでウマが合ったのか、それ以外の理由があるのか…。
理由がどうあれ、仲が良いということは紹介した身としては嬉しいことだ。自分のしたことが間違ってはいなかったわけだから。

『でも、ただのカップルにしか見えないわ…。悔しいけれど、本当にお似合い』
まるで、大切にしていたオモチャを取られた時のような感覚が全身を駆け巡る。
そのせいなのだろうか、美琴の胸にチクリと痛みが走る。
この痛みが何なのか、美琴はまだ知らない。

第三次世界大戦の中心へと単身突っ込み、上条の巻き込まれている『何か』のあまりの大きさに愕然としつつ、美琴自身遠回りをしながらも目的を果たして、上条と二人仲良く(?)学園都市に降り立ったのはそう遠くない昔のこと。
その後一時期、(大覇星祭の一件などもあって)一部週刊誌などで半ばゴシップ的な感じで「超電磁砲に熱愛発覚!」とか書かれたりしたし、またそれを鵜呑みにした御坂家と上条家が本気で式を挙げる準備をし始めていたという事実を知り、『それならそれで悪く無いかも…いや、誰がアイツと、け、結婚なんて…』などと考えていた事もあったのだが、話自体がすぐに収束の方向に向かったこともあって、今では誰も噂にすることなど無くなっていた。
確かにあの頃は、何かと用があれば上条と連れ歩いていたし、あの黒子ですら自分と上条の関係を認めていたのだ。

変わらなかったのは美琴と上条、その当人同士の間の『距離』だけだった。

上条の視線は変わらなかった。ただし、今までとは少し違う美琴には縁のない遥か彼方を捉えているような感じで、今までと同じで自ら歩み寄ってくる素振りはなかった。
一方の美琴は、今の関係を失いたくないと願ったが故に、上条に近づくための一歩を踏み出せなかった。
失う事の恐怖が、得る事の期待よりも遥かに大きくて、それに押し潰されそうになっていた。

今の上条と佐天の距離は、それ程までに大事にしたいと願った関係より、遥かに先に進んでいるように感じる。
もしかしたら、二人にそのつもりは無いのかのかもしれない。
自分みたいに、日常生活だからこそできる何気ないやり取りの一つ一つに、失う事への恐怖があるのかもしれない。

『でも…でも、ね…』
それにしては、近すぎる。
今にも肩と肩が触れ合わんとしているその距離は、近すぎる。

そう考える美琴の脳裏に過ぎるのは、第三次世界大戦という忌まわしい出来事の後、学園都市へと戻る飛行機の中での出来事。
他愛の無い話から今回に至ることまで、いろんな話をする中で、ふいに上条が聞いてきた事があった。

「御坂には…これが無いと生きていけないとか、全てを捨ててでも守りたいってモノ、あるか?」
「えっ…?」
「いや、ロシアでフィアンマを探してた時にな、一方通行と戦ったんだ」
「一方通行と?」
「ああ、あの時の一方通行は強かった。あの姿から見れば、妹達の時なんて本気のほの字も出してなかったんだろうな…と思えるくらい」
「…そんなに…」
「その理由ってのが、な。大事なものを守りたいのに、守りきれなくなりそうになっての八つ当たりみたいなものでさ、考えさせられたんだ」
「…」
「本当に守りたいモノが傍にある時って、自分の中にある全てを投げ打ってでも、構わないって思えるんだな…ってな」
「…本当に、守りたいモノ…」
「ああ」
「私は…」

そこから先の言葉が、美琴の口から発せられる事はなかった。
何故だか目の前にある上条の顔にばかり視線を集めてしまうし、思わず「アンタよ、アンタ」と口走ってしまいそうになったが、それは止めておいた。
理由は簡単で、「何故?」と聞かれると答えを返すことが出来なかったからだ。
薄っすらと自分が上条に持っている気持ちが何なのか、は学園都市でのあの出来事を機に自覚しつつあったし、ロシアで上条が核による攻撃をされそうになり、それを必死で止めた時には上条を失いたくないという気持ちが働いたのは言うまでも無い。

それに、美琴の人生設計において、上条の居ない生活そのものが考えられなかったのだ。
距離は変わらないかもしれないけれど、それは二人が一生仲の良い関係を維持できているという前提があっての話であるし、その時にはきっと、お互い生涯独身を貫く事になるのだ、と美琴は考えていた。
そもそも、美琴にとって上条とは、変えの効かない存在なのだ。

『アイツ』の隣、その位置は、例え相手が誰であったとしても、譲れない位置なのだ。

その事は美琴自身が良く理解していた。
特に学園都市に帰ってきてからと言うもの、自分が上条に対して素直に接する事が出来ていたなら、もう毎日のように猛烈なアタックを仕掛けていたのは想像に難く無い。
未だに上条の前では素直に話せないのだが、その位置が手に入るのならば、今自分が持っているもの全てを投げ捨てる覚悟は出来ているのだ。
例の週刊誌の一件にしても、表向き嫌な素振りを見せたし、心の中の薄い壁は必死になって打ち消そうとしていたけれど、周りから見ればその噂をかえって喜んでいたように見えていただろうし、壁にしてもあちこちに亀裂が入った衝立にすらなっていないような代物だったのだ。

だからこそ、なのかもしれない。
美琴の頭の中で、大戦帰りの飛行機の中でのやり取りと、今目の前で起こっている光景が、混ざり合った。
佐天の位置に居る自分を思い浮かべるだけで、心が潤い、満たされていくのが分かった。
美琴は、上条と自分がカップルでありたいと、一生を共にする存在でありたいと、そう願っていたのだと、知った。
それならば、胸に刺さるチクリと痛む感情の名は、嫉妬。
美琴の心の中で彷徨っていた自分だけの現実をも揺るがす強大で得体の知れない感情と、上条に対しての醜いまでの独占欲。
その二つの塊が大きなうねりと共に、一つの巨大な塊となって、姿を現した。
その塊の名は、恋。

『…そう、だったんだ…私、アイツに、恋、してたんだ…』

御坂美琴は、上条当麻に、恋してる。

その事実が全身を駆け巡る。
その感情が神経の一つ一つに行き届き、全身を駆け巡る体液という体液に浸透する。
全身でその感情を知った美琴に、迷いは無かった。
もう、上条の前で素直になりきれないということも無いだろう、と美琴は思う。
今までなら、恋をするという感情そのものが好きではなかったのだ。
それがどうだろう、自分でその感情を自覚した途端、考えが変わってきつつあるのだ。
恋も悪くない、そう思っている自分が、今、確実に自分の中に芽生えつつあるのだ。

今なら、上条に対して、素直にいけるかもしれない。
真っ直ぐに、自分の気持ちを伝えられるかもしれない。
もう、大戦前に最後にあった時のように、パニックを起こす事は無いと、言い切れる自分が居る。
そして何よりも、上条に自分だけを見て欲しいと願っている自分の存在が大きくなっているのが、手に取るように分かるのだ。

そうだ、と美琴は思う。
それならば、あの時、飛行機の中で言えなかった答えを、今、この場で、はっきりと言ってやろうじゃないかと。
前々から思っていたことも、今はっきりと自覚した事も、全てひっくるめて。
上条と佐天の関係なんて知った事じゃない。
後々になって、どんな形で揶揄されようたとしても、今まで得てきた地位や名声があっさりとひっくり返ったとしても、構わない。多少の迷いや葛藤はあるかもしれないが、上条と一緒なら乗り越えられる自信がある。
結果的に学園都市を追われることになっても構わない。もう、学園都市に幻想など抱いていないのだから。

それに、何よりも。
美琴にとって、上条を失うより怖いことは無いのだから。
美琴にとって、上条の居ない世界で暮らす事そのものが、生き地獄に埋められたと同義なのだから。


だからこそ、あの二人の間に割って入り、こう宣言してやるのだ。
贅沢なんて要らない、人並みの生活ですら必要ない。当麻が居ればそれで良い、と。
だから、私だけを見て欲しい、生涯でただ一人、私だけを愛して欲しい、と。



ちなみに、後日、上条と佐天がファンシーショップを覗いていた理由が、上条が佐天に食料を少々譲ってもらった代わりのお礼を選ぶためだったと両人から聞かされて、一人で浮き足立って勘違いしていた事に気付き、顔を茹蛸状態に仕立て上げられ、能力制御もままならなくなっていた常盤台の制服を着た少女が居たとか居なかったとか。
また、そんな少女の能力を必死に打ち消す彼という構図を見て、「やっぱりこの二人はお似合いだなー」と思った無能力者の少女が居たとか居なかったとか。


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