とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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例えばこんな1月31日(記念日) 1



1月31日 授業終了後―――
とある高校のとある教室。

今日は珍しく、デルタフォース事クラスの3馬鹿、上条・土御門・青ピの3人を含めて誰も補習が無い日である。
即ち、担任の小萌先生と触れ合えないなら長居は無用とばかりに青ピは既に帰っていた。
しかし、教室には珍しく何やら悩んでいる様子の土御門元春が居た。 気になって声をかける。
「土御門、お前がそんなに悩みこんでるなんて珍しいな。 どうかしたのか?」
「いや実は… 今日が1月31日だから悩んでるんだにゃー。」
「1月31日? 今日って何かあったっけ?」
課題の提出日でもない。 かと言って、どこかで何かのイベントがあった訳でもなかった気がする。
答えが見つからず、頭にハテナマークを出したまま上条も考え込んだ。
「カミやん、ひょっとして知らないのかにゃー? 1月31日は『愛妻家の日』なんだぜい。」

そう。 1月31日は英語のI(アイ)と、数字の語呂合わせの31(サイ)にかけて「愛妻家の日」とされていた。
その日は、既婚男性が妻に日頃の感謝と労いの言葉をかけると、日本は少し平和になるかもしれない。 という思いから提案された日である。
だが学園都市はその名の通り学生が中心の都市だ。 勿論、教職員を始めとして大人もそれなりには居るのだが、数は圧倒的に少ない。
普通であれば、学生にはそんな話は無縁である。
だが、ノリの良いとある男子学生が
「みんな『愛妻家の日』って知ってるか? 1月31日は実は、既婚男性が妻に感謝する日なんだぜ。
 けど、俺はこの日に彼女への想いや日頃の感謝を改めて伝えたんだ。 そしたら、マンネリ気味だった仲が再びアツくなったんだ!」
などと、海外の通販番組に出てくるセールスマンよろしくその際の軽いレポートを含めて書き込みをした。
すると怪しい書き込みが逆に受け、1月31日だけでなく「オレもやってみた」と言う者が徐々に出だして主に彼女が居る男子生徒に広まったのだった。

「そうなのか? 知らなかった。 …でも、『愛妻家の日』って言っても、俺ら学生なんて結婚してる奴なんてそうそう居ないだろ?」
話を聞いた上条はありがちな反応を示す。 「愛妻家の日」自体、一般的には余り有名でないので無理も無いのかもしれない。
しかし土御門は上条の反応を想定していたかのように返事をした。
「それだからカミやんはダメなんだにゃー。 『愛妻家の日』ってのは、別に奥さんに愛してると言うだけじゃないんだっつの。
 それに、お前も独り身じゃなくて例の超電磁砲(かのじょ)と付き合ってるんだろ?
 カミやんなら、どうせ常日頃から色々と世話になってるんだろうから、偶には労いの言葉でもかけてやれ。 でないと、逃げられちまうぜい?」
逃げられてしまう、という言葉に反応したのか、上条の反応が一瞬だが止まる。
「で、でもなぁ… 急にそんな事言われても、いざ言うとなると言い出し難いと思うぞ?」
何の脈略も無くそんな事を言う自分。 …を想像して寒くなる。
「いきなり言えれば良いが、流石にそんな事は無理な場合が多いぜい。 だからこそ、すんなり言えるムードってもんを作って言い易くするんだにゃー。」
だからお子様は、と言わんばかりに土御門が右手の人差し指を揺らしながら、チッチッチ…と軽く舌打ちしてきた。
彼女が居る、という観点からすれば自分の方が先輩のハズなのに、という疑問が沸いたがそっと横へ置いておいた。
土御門が言いたい事が上条にも何となく分かる。 だが、そういった方面は勉強以上に苦手な上条は自分では良い作戦は思い付かなそうだ。
「なる程なー。 で、土御門は何か良い案でも浮かんでるのか? 良ければ参考として聞きたいんだが良いか?」
聞けばとりあえずでも参考になるかもしれない。 そう思い、土御門に聞く事にしたのだが…
土御門から、あからさまに勿体ぶる様なオーラが出始める。
殴りたいとは思ったが、一先ず我慢である。 殴る事自体はいつでも出来るのだ。
「仕方無い… 他ならぬカミやんだから教えてやる。 でもあくまで参考であって、真似されると困るんだにゃー。」
やっと教えてくれる気になったようだ。 上条は念のため、後一押ししておく事にする。
「流石は土御門大先生! 出来る男は違いますなぁ…」
「だろう? んで雰囲気作りだが、女性はやっぱりアクセサリーを始めとしてプレゼント系に弱い。 だからまず、オレは服をあげるんだぜい。」
「おぉ! 本格的だな。 それで、土御門はどんな服をプレゼントするんだ?」
意外と参考になりそうだ、と思い直し更に情報を引き出してみる。
「ふっふっふ… カミやん、聞いて驚くなよ? 今年は何と! 英国の某デザイナーからわざわざ取り寄せた、小悪魔ベタメイドのメイ―――」
言い終わる前に、上条は土御門の左こめかみに鉄拳を叩き込んだ。

机を巻き込む、グワッシャー!という壮絶な音と共に、土御門の体が倒れる。
「か、カミやん! せっかく教えてやってるのに何するんだにゃー!!」
周りの机を退かせつつ、抗議の声が上がった。
「てめぇはただ、記念日とやらにかこつけて己の欲望まっしぐらなだけだろうが!」
上条は「話を聞こうとして損した」と言いたげである。
しかしふらふらと立ち上がった土御門の方も、これだからお子様は… と呆れた様子だ。
「メイド服と言えば、堕天使メイド・堕天使エロメイド・大精霊チラメイド・小悪魔ベタメイド・女神様ゴスメイドなど確かに数はある!
 だがコスプレで本当に最強なのは、偉大なるロリの御使い『小悪魔ベタメイド』こそが一番なんだぜい!!」
何でもかんでもロリへと繋げるお馬鹿が約1名。 堪らず上条も言い返す事にする。
「馬鹿野郎! コスプレと言えば、キャビンアテンダントのお姉さんも捨てがたいだろうが!!」
……どうやら、別の方向で上条の「何か」が刺激されてしまったらしい。
「くっ! いきなりキャビンアテンダントを出すとは… 中々やるな!カミやん!! それならオレは―――」
先程までの「彼女を思いやろう」という話と気持ちは何処へやら… である。
しかも、徐々に当初の話題からずれ出した事も気にせず、アツいコスプレ議論から「どんなポーズが刺激的なのか?」という議論に移ろうとしている。
教室内はというと、彼女云々の話には入り辛かった独り身の男子生徒諸君も議論に加わり、更に白熱していく。
何と言うか…… 今日はこんな感じで平和なのかもしれない。
しばらくぎゃあぎゃあと騒がしかったクラスだが、突然、ゴンッ!という鈍い音が聞こえた。
後頭部に衝撃と痛みを感じ、上条は身体が吹き飛ばされる。
上条が先程まで自分が居た位置を見ると、そこには怒りに満ちた吹寄が立っていた。
わなわなと震えるその身体には、何故かその後ろにゴゴゴゴゴ… と紅蓮のオーラをまとっているようにすら感じられる。
「上条! 貴様のせいでさっきから掃除が終わらないのよ! 下らん話をしてるだけだったら当番の邪魔になるからとっとと帰らんか、この馬鹿者!!」
騒いでたのはオレだけじゃない!と主張しようと辺りを見回す。 が、近くの土御門以外はいつの間にか教室から逃げ出すか掃除当番に戻るかしてしまったようだ。
文句を言いかけたが、吹寄が更にゆらり… と近付いて来る。
これ以上長居すると身体が持たない!
身の危険を察知した上条と土御門はそれぞれ自分の鞄を掴むと、脱兎の如く急いで教室から逃げ出したのであった。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

同日 美琴の放課後―――

授業も終わり、美琴はいつもの様にとある公園にて彼氏である上条が来るのを待っていた。
昨日雪が降ったばかりの雪がそこかしこに残っており、ベンチもまだ濡れている。 おかげで座って待つ事もできない。
(もうすぐ1年… か…)
あっという間だったな、そんな感想が胸の奥に広がる。
昨年の冬、バレンタインデーの際に勇気を出して想いを告げ、ホワイトデーに晴れて上条の恋人となった。
途中紆余曲折は合ったものの、自分の想いが伝わった事に美琴は感謝した程だ。
春休みには2人で映画を観に行った。 5月の大型連休には第6学区のアミューズメント施設に連日出掛けた。
夏休みには上条とだけでなく、黒子や初春さん、佐天さん達と一緒に夏祭りにも出掛けた。
大覇星祭には再び勝負を繰り広げた。 一端覧祭には2人で色々と観て回ったのが上条の友達にバレ、2人して色々と弄り倒されたりもした。
クリスマスにはお揃いのアクセサリも購入したし、年末年始には2人どころか両家併せて過ごしたりもした。
全て良い思い出である。
その全てにおいて、美琴の隣には常に上条の笑顔があった。

しかし、その一方で不安も抱えていた。
上条は相変わらず「何か」に巻き込まれていたのだ。 突然、フラッと居なくなったかと思えばいつの間にか戻ってくる。
「戻って来た」と分かるのは大抵、いつもの病院・いつもの医者から連絡によって知る事となる。
未だにそういった事に巻き込まれている状態なので、不登校&入院分のツケを補習と課題提出という形で補わなければならない。
補習はともかく、課題提出は上条1人に任せておくと仕上げるのでさえ満足に終わらない事も多い。
結果、平日の放課後やせっかくの週末を潰して課題を手伝う事が多くなっている状態である。
もちろん「課題の手伝い」と称して上条の部屋で2人だけでゆっくり過ごすのも楽しい。
だが、
(やっぱりこの状況って、何か違くない?)
とも思ってしまう。 その都度上条は、
「美琴のおかげで助かりまくりですよ。 上条さんは頭も上がりません。」
と彼なりに感謝の言葉は述べているのだが…
(何だか私って、課題手伝ったり料理作ったりしてくれる「都合の良い女」になっちゃってる気がしないでもないのよね…)
そんな風に考えると少し悲しくなってしまう。 勿論、それは自分の思い過ごしだと思いたい。
悶々とした気持ちを払拭すべく、機会を見つけては上条に尋ねていた。
「ねえ当麻。 私の事… 好き?」
そうすると、決まって
「勿論好きだぞ? 上条さんには美琴しか居ないからなー。」
いつものように決まりきったテンプレートの様な答えが上条から返ってきていた。
決まりきっていてもそれを聞いて安心する。 だがそれと共に、少しの自己嫌悪にも陥るのだ。
(アイツが鈍感で、そういう事に疎くて行動に起こすのも得意じゃない。 ってのは分かってたハズなんだけどなぁ。
 でも、もうちょっと好きって気持ちを態度で示してくれると嬉しいのに。 そうすれば、私ももっと安心できると思うんだけど…)
はぁ、と深い溜め息をつく。
分かってはいるものの、やはり言葉だけでなく態度でも示して欲しいと思う時もある。
(でも、だからってそんな事くらいで別れるなんて出来ないのよねー、私も。 アイツは変にフラグ立ててモテるから、別れた途端に誰かに取られそうだし。)
普段、上条から子供扱いされると怒っていた。 だが結局の所、上条に対して恋人としての考え方を押し付けようとしている自分はまだまだ子供なのかもしれない。
そこまで考えた所で、ふと上着のポケットから先程街角でもらったチラシを思い出し、取り出した。
チラシはバレンタインデーを宣伝するチコレート専門店のもので、見出しとしてこう書かれている。

―――あなたの想い(きもち)、バレンタインデーに改めて形にしませんか?

(もうすぐ、1年… でも、結局まだ1年も経ってなかったのよね。)
結局の所、そうなのだ。 まだ1年しか経っていない。
これまでは、自分が越えたいと思った壁は乗り越えてきた。 だからこそのLEVEL5でもある。
しかし今は思うように解決できず、1年足らずでこんなにも迷っている自分が居る。
ふと、いつだか流行った歌の歌詞を思い出した。
(迷いなんて吹き飛ばせばいい、か…)
上条から返事を貰い、晴れて彼女と慣れた時を改めて思い出した。 あの時自分にした約束、それを改めて思い出す。
(そうよね。 いつまでも迷ってるなんて私らしくない! よ~し!!)
先程までの迷いを捨て、再び頑張ろうと決意する。
鞄の中の携帯からゲコゲコと音がした。 鞄を開けて携帯を取り出し確認する。
どうやら上条からメールが来たようだ。 早速内容を確認する。

 From : 上条当麻
 題名 : 帰り
 本文 : 少し寄り道するから遅くなるかもしれない。 でも、夕方くらいまでには帰れると思うから心配しないように。

美琴に自然と笑みがこぼれた。 その笑みは自嘲するような暗いものではない。
昔はこちらから送ったメールにすら満足に返信が来なかった。 だが今は上条からこうして連絡をくれるようにもなった。
(アイツも少しずつ変わってるのよね。 それなら、もっと「自分を見てくれている」と思えるまで頑張れば、きっと…)
そう思い、早速返信のメールを作成して送った。

 To : 上条当麻
 題名 : 夕飯
 本文 : 夕飯作って待ってるから、早めに帰ってきなさい。

携帯を鞄にしまい、さてどうしようか?と考えてみる。
帰りに一緒にどこかに遊びに行けなくなったのは寂しかったが、それなら気合を入れて夕飯を作っておくのも良いかもしれない。
今日は寒さもあるし、ビーフシチューにでもしようか。
圧力鍋で本格的に作ると何気に時間がかかる料理だったので、今までは時間にかなり余裕がある日にしか作らなかった。
だが、こんな日だったら作っても良いかもしれない。
(よし! まずはアイツの胃袋から掴んでやるんだから!!)
いつだか美鈴に教わった言葉を思い出しつつ、美琴はスーパーへと向かった。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

同日 当麻の放課後―――

クラスを急いで飛び出した後、上条は帰り道の途中で1人あれこれと悩んでいた。
一緒に飛び出したハズの土御門は別の道へと逃げたのか、今は居ない。
土御門に少し聞きたい事があったが、どうやら聞けそうにない。
聞きたい事、とは勿論「彼女へ感謝の気持を伝える」という事についてである。
(うーん… 何かプレゼントするなら服とかが良いんだろうか…)
今まで美琴とそれなりに色々な所へと出掛けはした。 だがこうして思い出すと、改まって普段に何かをプレゼントした事は無かった気がする。
何を贈れば良いのだろうか。
必死に考えようとするが、中途半端に話を聞いてしまったが故に「服をプレゼントする」という事から中々離れられない。
(やっぱり、何かしらのメイド服にでもして場を和ませつつ言った方が良いのか?)
メイド系の服は上条なりに色々とは見てきた。 しかし、
(堕天使… は確か神裂が前に着ていたような…… でもって、大精霊うんちゃらってのは五和が着てたとも思うし…)
一体、どんなメイド服が似合うのだろうかと色々と考えてみる。
本来の目的から、少しずつズレて来ているのだが上条はまだ気付きそうになかった。
(堕天使、ってのも違うし。 かと言って大精霊でもないだろ? 小悪魔… それに、女神様ってのも美琴のイメージとは違う気がするなぁ…)
美琴の特徴を活かすなら?と考えた所で、簡単な事に思いついた。
(そういや美琴は「電撃使い(エレクトロマスター)」じゃねぇか。 なら、アイツに似合うのは「超電磁ビリメイド」って所か?)
うむ、我ながら良くぞ思いついた!とばかりに独りで頷く。
だがそこで、「電撃使い」のついでに思い出した事がもう一つ。 何かあるとすぐに電撃攻撃(ビリビリ)してくる、という事だ。
(いや待て。 例えば「超電磁ビリメイド」ってメイド服をプレゼントしたとして、自分の方がその後危なくなりそうな気がする…)
例えプレゼントしたとしても、素直に受け取ってくれるとは思えない。
万が一があって受け取り、着てくれたという事があっても、それはそれで色々な意味で危険な香りがした。
やはり服のプレゼント、特にメイド服のプレゼントは止めた方が良いかもしれない。

結局どうすれば?と頭をグシャグシャッ!と掻いた所で声を掛けられた。
「上条さん、お久しぶりでーす。」
「お久しぶりです、上条さん。」
1人は快活そうな声で、もう1人は少し甘ったるい感じの声。 上条が振り向くと、佐天と初春が立っている。
「おぉ! 久しぶりだな、2人共。」
美琴を通じて知り合った中学生の女の子であるが、上条からしてみると話しかけ易い子だった。
普段、回りに居る女性陣が良くも悪くもキャラが強すぎる、というのもあるのかもしれない。
時々、美琴とのあれこれを聞き出そうとしてくるのは苦手であったが、それ以外は普通に色々と話せる。
そんな訳で、美琴が居ない時に出会っても何気ない生活の話など良くしていた。
「何か悩んでたみたいですけど、どうかされたんですか?」
上条の様子を見ていたのか、佐天が質問してくる。
まさか、美琴に何のメイド服を着せようか悩んでた。 とは言えない。 少し考えて、元々考えていた事を思い出した。
そのまま答えるか悩んだものの、今更隠す様な事でもないかと考え直す。
「いや実はさ… いつも美琴に世話になってばっかりいるから、偶には感謝の気持ちと自分の想いを伝えないと、と思ったんだよ。
 でも、普段そんな事してこなかったから、いざとなったらどうすれば良いか思いつかなくてな…」
上条の悩んでいた内容を知り、佐天と初春が少し驚いているのが分かる。
2人は付き合い始めた頃の鈍感さを知っていたのだから、今上条が考えている事に驚くのも無理は無いのかも知れない。
「うーん… 上条さんは御坂さんとはずっと一緒にやっていきたいんですよね?」
佐天から早速質問が出た。
以前は苦手だったこういった質問も、佐天や初春からの度々の質問攻めで大分慣れた。 自分の想いを素直に伝える。
「そうだな。 こんな俺の事、構ってくれるヤツなんて美琴しか居ないだろうし。
 それに、色々な考えとか気持ちを取っ払うと、やっぱり最後に残るのは『美琴が好きだ』って事だけなんだよ。」
「くっ~! そんなに想って貰える御坂さんって、やっぱり羨ましいな~!!」
往来だが、声に出して羨む佐天。 初春の方は?と言うと、こちらもやはり同調する様に頷いている。
だが、女性陣としては少し納得いかない部分もあったようだ。
「でもダメですよ? そういう風に御坂さんの事を想えるなら、『偶には』じゃなくてやっぱり『マメに』そういう気持ちは伝えてあげないと。」
「そうですよー。 でも、『感謝の気持ちを伝えよう』とか思いつくだけでも立派かもしれません。」
そう言いつつ、初春は携帯ゲーム機にも見える機械で何かをやり始めた。 どうやら、早速何かを検索し始めたらしい。
「初春。 こういう時ってやっぱり、プレゼントとかが良いかな? 何を贈ってあげるのが良いと思う?」
「それを今調べようかと。 と言っても、予算次第になるとは思うんですけど…
 上条さん。 失礼かもしれませんけど、予算はどれくらいを考えていらっしゃるんですか? 教えて頂けると嬉しいかも。」
そういえばこの娘は機械系が得意だったっけか、と操作する姿を見て思い出す。
「さっき、それなりに下ろしては来たんだけどな。 無能力者の上条さんに、その辺りは余り期待しないで下さい…」
自分で言った事とはいえ、悲しくなった気がする。
同じ無能力者として察してくれたのか、佐天は「まあまあ」と慰めてくれた。

上条の懐事情を酌んでくれたのか、初春がポピュラーな提案をしてくる。
「そうですねー。 それなら、スタンダードにお花とか小物辺りのプレゼントとかいかがでしょう?
 お花とか小物とかなら、よっぽど凝らない限りそんなに値段もかからないと思いますし。」
「花とか小物のプレゼントか… うーん、何が良いんだろう?」
花屋なんて普段の上条には縁の無い場所、と言っても過言ではないかもしれない。 店が何処にある、というのさえよく分からない。
小物も同じである。 Seventh mist辺りに行けば良いのだろうが、自分1人で選ぶとなると上手く選ぶ自信は無い。
さて、どうしたものか。 と考え始めた上条に佐天が提案をしてきた。
「お花か小物のプレゼントか… 上条さん。 もし上条さんさえ良ければ、私たちもプレゼント選びに協力しますよ?」
「え? 良いのか?」
もちろん! と胸を張り佐天と初春が答えた。
「上条さんだけで選ぶより、私達も一緒の方が良いと思いませんか? 同じ位の年齢の女性、としてアドバイス出来ると思いますよ。」
「そうですよ! それに、私が居れば、その時知りたくなった事が出てきても、色々と調べてお伝えできますし。
 プレゼントしたい物が決まったら、それを取り扱ってるお店の情報だって、すぐに調べて御案内できますよ。」
私は友達に、ナビ春って言われてるくらいですから!と自信満々で初春も佐天に続けて答える。
佐天も横で「流石だね!」と初春を持ち上げている。
「悪いな… すまないけど、2人の言葉に甘える事にするよ。」
「気にしないで下さいよ。 私達も普段、御坂さんには色々とお世話になってますし。 御坂さんと上条さんが喜んでくれるなら私達も嬉しいよね。」
「ですです! それで、肝心のプレゼントは何にされます?」
何をプレゼントする、という肝心な所はやはり自分で決めないとダメなようだ。
どうするかと考えて、小物などのプレゼントは、贈られた側のセンスに合った物を選べるか? という所が少し気になった。
「小物とかのプレゼントは、美琴のセンスに合ったもんを選べるかちと不安だな。 そういうのはまた今度、美琴と一緒にでも選ぶ事にするよ。」
「多分ですけどー、上条さんが選んでくれた物なら喜んでくれるとは思いますよ?」
そんなに気にしなくても大丈夫、とでも励ますように初春が答える。
「小物よりは値段が高くなるかもしれませんけど、それなら無難にお花のプレゼントにしませんか? 初春、この辺りの近くにあるお花屋さん調べてくれないかな?」
「了解です! それじゃ早速調べてみますね。」
初春が早速花屋を調べ始めてくれたらしい。 上条は今のうちに、と携帯を取り出して美琴に連絡しておく事にする。

 To : 御坂美琴
 題名 : 帰り
 本文 : 少し寄り道するから遅くなるかもしれない。 でも、夕方くらいまでには帰れると思うから心配しないように。

メールを送ってから程なくして、美琴からの返事が返ってきた。

 From : 御坂美琴
 題名 : 夕飯
 本文 : 夕飯作って待ってるから、早めに帰ってきなさい。

返って来た文面を見て、何故だか尻に敷かれている亭主の気分がした。 …が、きっとそれは気のせいだろう。
苦笑しつつ上条が携帯をしまうと、丁度初春から声がかかる。
「早速、この辺りで良い感じのお花屋さんがいくつか見つかりましたよ! あとは… どこが良いでしょう?」
初春が迷ったそぶりを見せると、佐天が「どれどれー?」と画面を覗き込む。
「ここが良さそうじゃない? ここなら、プレゼント用のお花を色々と取り扱ってるみたいだよ。」
「ふーむ… あっ! そこなら私、道分かりますよ。 そこまで御案内しますので、早速行きましょう。」
案内役も買って出てくれた佐天と初春が先頭になり、3人は花屋へと向かった。

例えばこんな1月31日(記念日) 2



同日 とある花屋にて―――

初春の案内で、3人は第7学区のとある花屋に来ていた。
西洋の通りにいかにもありそうなモダンな外観で、赤を基調としたシックな色使いに好感が持てる。
入り口の上辺りに落ち着いた山吹色で「Flore claire(フロール・クレール)」と書かれている。 恐らく、それがこの店の名前なのだろう。
外には大きな鉢植えが置いてあり、入り口の横にはカラーウッディを利用しその日お勧めであろう花の名前と値段が書かれていた。
外から少し見えるだけでも店内に色々な種類の花があるのが見える。
案内してくれた初春と佐天も、店の雰囲気と取り扱っている花の種類の豊富さに思わず見とれているようだった。
「こんなに種類あるのか… ま、とりあえずは片っ端から見てくかな。」
そう呟き、早速上条は店内へと入って行った。 上条の呟きを聞いた初春がふとある事を思い出した。
「花って確か、それぞれに花言葉があるからそこも気にした方が良いですよね?」
「かもしれないねー。 あ、そうだ! 今回の趣旨に合いそうな花言葉を持ってる花、調べられないかな?」
「ちょっと待って下さいねー。 花言葉、花言葉… っと。」
初春は早速調べ出すが、一言で「花言葉」と言っても意外と目的・用途別に種類は多い。
「今回の『感謝』とかを意味するのは、カンパニウラとかダリア、モルセラとかですかねー。 でも今挙げた花って、花束とかよりも一輪の方が合うかもです。
 でも、花を一輪だけプレゼントというのも微妙ですよね。 きっと、店員さんなら簡単に作ってくれるとは思うんですけど、他の花と混ぜる感じになるんでしょうか…」
と言って、初春は画面に表示された花を指しつつ悩む。
花言葉も意識するとなると、意外と難しいな。 と改めて実感したが、佐天は上条が言った先程のセリフを思い出した。
「ねえ初春… そういえばさっき、上条さんって『美琴が好きだ』って思いっきり言ってたよね? どうせなら、そういう方向の花言葉から選ぶのも良いんじゃない?」
「…ですかねぇ。 それじゃ、そういう方向の花言葉は? っと…」
話の意図を察したのか、初春は早速「そういう方向の意味」の花言葉を持つ花を探し直す。 その口元が何やらニヤけているのは気のせいだろうか。
「見つけました! これとかこれ、こんな感じのお花はどうです?」
「どれどれー?」
佐天が画面を覗き込むと、そこにはいくつかの花が載っていた。 初春が指差した花を見ると、花の写真と共にそれぞれの花言葉も載っていた。
「良いね、これ! この辺りなら、どれを選んだとしても後で面白いかも…」
「ですです。 後で御坂さんをファミレスに呼んで、花を貰った際の話を聞けると楽しいかも! イヤ、絶対に聞き出しましょう!!」
店先でニヤニヤする様子はハタから見ると結構怪しいのだが、2人は気にしていない。
そんな事よりも、「さて、どうやって呼び出し、聞き出そう?」とその先の事まで考え出している位である。
「このお店のHP上から確認すると、どれも『在庫有り』にはなってたんですけど… 一応、店員さんに確認してみますね。」
「了解! それじゃ私は上条さんを誘導してみるね。」
お互いに頷くと、初春は店員のもとへ。 佐天は上条のもとへとそれぞれ向かうのだった。

(さて、っと… 上条さんはどこへ…?)
広い店内とは言え、色々な花が飾られていて場所によっては反対側の通路も見えない。
どこだろう? としばらく探した所で、通路の途中で何かを見つめて佇む上条を見つけた。
「あ、居た居たー。 って、上条さん立ち止まってどうされたんです?」
近くに寄ると、一つの花に注目しているのが分かった。 その周りを見ると、同じ花でも『紫』、『青』、『ピンク』、『白』、『黄色』と種類が豊富なようだ。
「いや。 パーっと店内を見てきたんだけどさ、急にこれが目に留まったんだ。 んで、よくよく見てみると意外と綺麗だなと思ってな。」
言われてみると、確かに綺麗だった。 ちょこん、と白い小さなものが目に留まる。 じっくり見つめてみるとそれが花であるというのが分かった。
「自分の感覚だと綺麗だな、とは思えるんだけど… こういうのって、贈られるとどうかな?」
「そんなに心配しなくて大丈夫です! 綺麗ですし、絶対喜んでくれると思いますよ!!」
(うーん、これってさっき見た気がするような… この花って何だったっけ?)
上手く思い出せずにモヤモヤとしたが、自信無さげに確認してきた上条に対して佐天は胸を張って答えた。
「これなら、この花をメインにして綺麗な花束にしてもらえるかも。 早速店員さん探してきますね。」
手の空いてそうな店員はいないだろうか?と辺りを見回すと、初春と女性の店員が揃ってこちらにやってくる所だった。
やって来た初春に近寄り、小声でそっと耳打ちする。
(上条さん、そこにある花が気に入ったみたい。 で、それに決めるかもって。 でも、そこにある花って、さっき見かけなかったっけ? 気のせいかな。)
佐天がそれとなく示した花を見て、驚く。 どんな花を選ぶのか、と少し不安になっていたがどうやら杞憂だったようだ。
(わー、鮮やかだし綺麗で素敵じゃないですか! 名前は……… うーん。 確かに、さっき見かけたような…)
初春も気になるのか、花の名前で再度検索をし始める。
ヒソヒソと小声で話し合う佐天と初春だったが、店員は初春からそれとなく話を聞かされていたらしく上条に声を掛けていた。
「いらっしゃいませー。 本日はどのような花をお探しですか?」
「あっ、ども。 実は、色々と見てたらこの花が何となく気になって… 質問なんですけど、この花で花束とかって作ってもらえますか?」
と言って上条が指差した花を店員が確認する。 そういった注文には慣れているのか、すぐに答えが返って来た。
「『その花だけで』っていうのもできますけど、その花なら他のを少し付け足せばもっと見栄えの良いのができますよ。 サイズはどうされますか?」
サイズまでは考えて無かった。 どれくらいが良いんだろう?と考え込んでしまう。
しかし客が悩むのにも慣れているのか、店員がさり気無く話を導いてくれた。
「『花束にしたい』って事は、どなたかにプレゼントされるんですよね? そうすると、サイズは手渡せる位で良いかもしれませんね。」
「えっ? ええ、まあ…」
この店員さんなら、目的をちゃんと話した方がより良くしてくれそうだ。 だが、「彼女に贈ろうかと」と伝えようとして恥ずかしくなってしまう自分が居る。
土御門や青ピ、佐天や初春などの知り合いに言うのは慣れてきた上条だったが、見知らぬ人に言うのはまだ戸惑いがあった。
どうしよう?と悩んでいると、少し離れた所で歓声が上がる。 歓声の主は佐天と初春であった。

(か、上条さん素敵です! 直感でこの花を選ぶなんて!!)
(だよねだよね! さっき初春が調べていくつか見せてくれた中でも、まさか「これ」を選ぶなんてね。)
2人を見ると、小声で相談しているようだったが何だか盛り上がっていた。 上条と店員の視線に気が付いたのか、こちらに慌てて近付いてくる。
「上条さん。 ダメですよ、恥ずかしがらずに目的をちゃんと伝えないと。」
こちらの話はちゃんと聞いていたらしい。 いきなり初春にダメ出しをされてしまう。
「えっと… 実は、彼女に自分の気持ちを伝えるのにプレゼントしたくて。」
感謝の気持ち、とまではまだ言えなかった。 だが、上条がそう伝えると、
「ふふっ。 その彼女さん、羨ましいですね。」
と、店員は微笑みながら言う。 続けて、「実はこのお花…」とその花が持つ意味を教えてくれ、「この花で良いか?」と確認された。
花が持つその意味に一瞬固まるが、既にこの花が気に入ってしまっている。 今更他を探しても見つかる気がしなかった。
(ま、美琴といえど全部の花言葉を知ってるとは限らないからな。 …見た感じで喜んでくれるだろ。)
自分にそう言い聞かせ、選んだ花をメインにして花束を作ってもらう事にした。
GOサインが出ると、店員は必要になるであろう量と他に添える花なども選び奥のレジへと移動する。
てきぱきと花束を作る作業をしつつ、店員は再び上条に質問してきた。
「花束でしたら、ラッピングなどいかがでしょう? ラッピングは通常タイプのアメリカンと、少し上品な感じのヨーロピアンの2種類ございます。
 通常タイプのアメリカンだと無料で。 ヨーロピアンですと、すみませんがお花代の他にプラス500円となっております。 どちらになさいますか?」
どの程度を以って通常と言うのだろう?と疑問に思ったが、通常よりは上品な方が良いかもしれない。
「と、とりあえずヨーロピアンでお願いします。」
「それと、プレゼントでしたらメッセージカードなども一緒にいかがでしょう? こちらもプラス500円となっておりますが…」
「一応、それもお願いします。」
「メッセージカードを書くのであれば、こちらでどうぞ。 少しですけど、色々なペンも有りますのでお使い下さい。」
空けてくれたレジの端を使い、早速カードにメッセージを書き込んでみる。
書き始めこそ少し迷ったものの、自分は気持ちを伝えられると信じて簡単なメッセージで済ませる事にした。
ありがとうございました、とメッセージカードを渡すと店員が受け取り花束に添えてくれる。
流石、と言うべきだろう。 上条がカードに書き込み終わった時点で既に花束は完成している。
出来栄えは?というと、頼んだ自身でさえも少し驚く程の良い出来であった。
この花束を崩さずに持って帰るには?と考え、気になった事を聞いてみる事にする。
「あっ、そうだ! 花束を直接持って帰るのが恥ずかしいんで今日届けてもらうように配送とかってお願い出来ませんか? 家は第7学区のとある学生寮なんですけど。」
「配送ですか… うーん。 配送だと、前日の14時までにご注文頂かないとお届け出来ないんですよー。 あっ、そうだ。 少々お待ち下さい。」
一旦断られはしたものの、何かを思い出したらしい店員が他の店員を探してレジを離れた。
配送が断られた、という事は自分で持って帰らないといけない。
とりあえず持って帰る途中で誰かに出会わない事を祈りつつ、覚悟を決める。 だが、上条が覚悟を決めた辺りで先程の店員が戻ってきた。
「確認しました所、これから第22学区の方にお花を配送しに行く用事がありますね。 その際にご一緒でよければお届けできますよ。」
と嬉しい提案をしてきた。 話を更に聞くと、それは夕方頃になるらしい。 時間帯的にも丁度良いかもしれない。
「届けてもらえるなら、それでお願いします。 送料はいくらになります?」
「お代は結構ですよ。 『ついで』で行ける範囲でもありますから。 それでは、配送先のご住所をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
渡された紙に、配送先として自分の学生寮の住所を記入する。
「それじゃあ、配送宜しくお願いします。」
「ありがとうございました。 それと、有料のラッピングとメッセージカードをセットでお選び頂いたので『お花の情報カード』もつけておきますね。」
「何から何まですみません、ありがとうございます。」
話がまとまった所で会計を済ませる。 会計が終わった所で改めて店員に礼を伝え、上条達は店を出る事にした。 

「せっかく案内して来てもらったのに、最後は自分で決めちまってごめんな。」
店から出てしばらく歩いた所で上条が謝ってきた。
「問題ないですよー。 やっぱり、『上条さん自身が選ぶ』というのが大事だと思います! それに、案内だけでもお役に立てて良かったですし。」
大丈夫、気にしないで下さい。 という初春と、その横で佐天が頷いている。
「それじゃあ私達はこっちの道なんで、この辺りで!」
と言って佐天と初春は上条と別れた。 段々と遠くなる上条を見送り、姿が見えなくなった辺りで横に居る初春が話しかけてきた。
「久しぶりに上条さんの本領発揮を見ましたけど、やっぱり凄いですねー。」
「だね。 まさか、パッと見であの花を選ぶとは思わなかったよ。 もし、あんな事を自分がされたら、雰囲気によってはイチコロかも…」
そこまで言った所で佐天が溜め息をついた。
「あーぁ… 私も御坂さんみたいに素敵な彼氏見つけられるかなー?」
「見つけられますよ、きっと! お互いに頑張りましょう!!」
「そうだよね! 頑張るかー!!」
完全下校時刻も近くなった道の片隅で、2人の少女は何やら決意を固めるのであった。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆


同日夜 とある学生寮―――

佐天と初春の2人と別れた後、上条はまっすぐ学生寮へと帰って来ていた。
メールで「夕飯作って待ってる」と言っていたのを思い出したからだ。 余り待たせるのも悪い気がする。
玄関のカギを開けドアを開けて中に入ると、制服にエプロン姿の美琴が玄関で出迎えてくれた。
「おかえりー。 思ってたより遅くなくて安心したわ。」
「夕飯作って待ってる、って話だったからな。 出来るだけ待たせたくなかったんだよ。」
そう言いつつ中へ入ると、一段と良い香りが漂ってきた。 良い香り自体は廊下を歩いて来た時からしていたが、どうやら自分の家だったようだ。
台所を見ると鍋が見えた。 鍋と香りから判断すると…
「おぉ! 今日はビーフシチューか? 珍しいな、平日に作ってくれるなんて。」
「今日は寒かったからねー。 久しぶりに腕によりをかけて作ったわよー。」
と美琴は可愛らしいガッツポーズをしながら答えてきた。
「もう出来てるから、そろそろ夕飯にしない? 洗面所で手洗いとうがいしてきてよね。」
「おーう、分かった。 ちょっと待ってろ。」
返事をしたあと一度リビングへと移動し鞄を置く。 そして洗面所へと向かう。
上条は洗面所で手洗いとうがいをしながら、どうやって話を切り出そうかシュミレーションをしてみた。
改めてシュミレーションをしてみると意外と難しそうだ。 柄にも無い事を言う(であろう)自分に恥ずかしくもなる。
(今更ながら凄く恥ずかしいぞ、これは。 だが、もう花束も頼んじまったしなぁ…。)
仕方無い! 決めたからにはやってやる!! と決意し、リビングへと戻った。
リビングへと戻ると、既にビーフシチューが盛り付けされていた。 他にサラダもある。 後は上条が席に着いて食べるだけだ。
美琴の正面に座ると、
「当麻を待ちくたびれてお腹ペコペコよー。」
と頬を軽く膨らませて抗議してきた。
「悪い。 ちょっと用事があってな。 それじゃ食べようか。」
2人で「いただきます。」と声を合わせ挨拶し、食べ始める。

上条はどう切り出そうか未だに迷っていた。 話をそれらしい方向へと持っていこうかと考えたが、上手いきっかけも思いつかない。
花が届けば、とも思ったがまだインターホンが鳴る気配は無かった。
あれこれと考えている内に、そわそわとしている様子が美琴にも伝わってしまったらしい。
「どうしたの? さっきから落ち着かないみたいだけど…」
「えっ!? そうか? か、上条さんは落ち着いてますの事よー?」
「思いっきりウソでしょ、それ。 …またどっか外へ行くとか、何か隠し事とかしてるんじゃないでしょうね?」
信じられない、とばかりに疑いの目で見てきた。 やはり、美琴には敵わないかもしれない。
(花束はまだ届いてないが、もう言うしかないか。)
そう決意して、話を切り出す事にした。
「…あー。 実は美琴に話さないといけない事があってだな…」
「何よ? まさか本当にまた外に行くとか言うんじゃないでしょうね?」
美琴は自分で言った事を疑いから確信に変えようとしていた。 歯切れの悪い上条の話し方では無理も無いのかもしれない。
「いや、それは違うんだけどな…」
「じゃ、何よ?」
先程までの空気は一転、険悪なムードになりかける。 が、そこでインターホンが鳴った。
助かった、と思い急いで玄関へと向かう。 時間的に、頼んでおいた花だろうと予想し印鑑も用意した。
「どちら様ですか?」
「フロール・クレールです。 お届けものに参りました。」
玄関のロックを外しドアを開ける。 と、そこには先程店で対応してくれた店員が立っていた。
「それではこちらに受け取りのサイン、または印鑑をお願いします。」
言われるままに、指差された場所に印鑑を押した。
「それではこちらが控えになります。 ありがとうございました。 それでは頑張って下さいね!」
花束が入ったダンボール箱を上条に渡すと、店員は去って行った。 何か最後に一言、余計な事を言われた気がするが気にしない事にした。
玄関先でのやり取りが中にも聞こえていたのだろう。 ダンボール箱を持ってリビングへと戻ると、美琴がジトっとした目でこちらを見ている。
その目はいかにも「何を頑張るのよ?」と言いたげだ。
だが、それを無視する形で予定していた事を実行に移す。 品物(プレゼント)は届いたのだ。 あとは言うだけである。
覚悟を決め、美琴に届いた品物を開けるように促した。
「とりあえず、そんな目で見るな美琴。 お前に何か届いたみたいだぞ?」
わざとらしい振りに、ダンボール箱を渡された美琴は相変わらず何か言いたげだった。
「何か、も何も贈り主がアンタになってるじゃない。」
「いいから、開けてみろって。」

上条に促され、とりあえずダンボールを開けてみる事にした。
ダンボールを開けると… 中には花束が入っている。
「綺麗…」
ピンクを基調としたその花束に、美琴は思わず見とれてしまう。
花束の色使いや花自体の綺麗さに見とれていたが、しばらくしてカードが2枚挟まっている事に気が付いた。
1枚目のカードを手に取る。 そのカードは『お花の情報カード』とタイトル付けされていた。
中を見ると、そこには「お花の楽しみ方」として延命方法などの色々な情報がプリントされている。
そして最後に、花の名前と花言葉が手書きで記入されていた。 恐らく、客が買った花毎に店員が書き分けるのだろう。
そこにはこう書かれている。

 花の名前(色) : スターチス(ピンク)
 花言葉 : 永遠に変わらない心

一瞬、それを見た美琴の動きが止まりそうになる。 だが、2枚目のカードが気になり何とかそれを手に取る。
2枚目のカード、それはグリーティングカードであった。
カードには短い文章ではあるが、見慣れた上条の筆跡でこう書かれていた。

―――いつも迷惑ばかりかけている美琴へ。 日頃の感謝と自分の想いを込めて。 From 当麻

2枚目のカードのメッセージを読んだであろう美琴の動きが止まった。
恐らく数分程経ったであろうか。 未だに美琴は動かないでいる。
きっと言うなら今だ!と決意し、上条は美琴を後ろから抱きしめた。 すると、美琴からこちらに向き直して抱きついてくる。
……美琴は泣いていた。
その姿に焦り、上条は咄嗟に謝ってしまう。
「ごめん、美琴。 やっぱり、俺がこんな柄にも無い事すると変だよな。 でも、外へ行くとかそんな事は無いから。」
上条の確認に、美琴は無言で首を左右に振り「違う」と答える。
「何て言ったら言いか上手くまとめられないけど… 入院とか課題とか、いつも色んな事で迷惑ばかりかけてるからさ。」
そこまで言った上条は、これまでの日頃の感謝の気持ちなどを出来る限りの言葉で伝えた。
きっとそれは、何を言っているのか上手くまとまっておらず意味不明な部分もあったかもしれない。
でもきっと自分の気持ちは伝わってくれただろう。
そう思えた所で
「いままで色々と迷惑かけてごめんな。 そして、俺を選んでくれてありがとう。 俺も美琴の事、愛してるよ。」
と改めて美琴に想いを伝えた。
先程、感謝の気持ちを伝えた辺りでようやく落ち着き始めていた美琴だったが、再び泣き出してしまう。
「うぇぇ… わだじもとうmのことぃあいじtるって…」
何か言ってくれたようだったが、泣きすぎて解読不能にまでなっている。
上条は優しく抱きしめ直し、泣き止むまで美琴を宥めていた。


小一時間程経ったであろうか、やっと美琴は落ち着きを取り戻した。
すると、ポツポツと美琴も自分の気持ちを語り出す。
「ずっと私だけ空回りしてたのかと思ってた。 いつも当麻は『好きだぞー』ってテンプレみたいな返事しかしてくれないし。
 当麻は私に彼女になるのをOKしてくれたけど、それは私を気遣ってくれたからなのかな?って。
 ひょっとしたら私の気持ちだけ一方通行で… でも、他に好きな人が居ても良いから当麻と一緒に居たいな、って。
 でもさっき、当麻の気持ちを言葉にしてくれて、形にもしてくれて… 『嬉しい』って思ったら涙が止まらなくなっちゃって。」
それは、美琴が如何に上条を好きだという事、そして不安だったかという事でもあった。
聞いた上条は嬉しさを感じると共に、反省もした。 自分の考えでここまで不安にさせていたのか、と。
「美琴は一度決めたら突っ走りかねないから、せめて美琴が高校に入るまでは『愛してる』とかは言うのは待とうと思ってたんだ。
 けど、俺の考えが逆に美琴をそんなに不安にさせてたなんて思わなかった。 それが今の内に分かっただけでも、許してくれないか?」
「もう良いの… あなたの気持ちはちゃんと伝わったから。」
そこまで言うと、自分も気持ちを伝えた事で完全に落ち着いたのだろう。
美琴は姿勢を正して上条の方を向き
「私はきっと、当麻のお嫁さん(パートナー)になる為だけに生まれて来たと思う。
 もし他に選択肢があったとしてもそんな選択肢はいらない。 私も、当麻の事を愛してます。」
と言って、ぺこりと頭を下げて来た。 そんな姿が可愛くて、美琴を強く抱き寄せる。
上条は目をみながら
「俺こそ、今一つ頼りにならない奴かもしれないけど、改めてよろしくな。」
そう言って美琴の頬を両手で包み、唇を重ねる。

まだまだ寒い1月の学園都市。 だが、とある学生寮の一室にはそんな寒さに決して負けない暖かいカップルの姿があった。


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