とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある上琴の結婚計画?



「ねーねー初春、今日は何しよっか?」
「そうですね。久しぶりに映画なんてどうですか?佐天さん」
そんな何処にでも居る女子中学生の会話をしているのは、初春飾利と佐天涙子。
二人とも柵川中学に通う三年生である。
この学園都市にも高校受験という制度はあるのだが、既に二人は希望しているとある高校への学力水準にも到達しており、今日は日頃のリフレッシュも兼ねて遊びに来ているというわけだ。

そんな二人が、二人の希望するとある高校の制服に身を纏った、茶髪にショートヘアーの見知った顔の女性を見つけた。
スタイルの良さは天下一品で、最近では微妙に丸みを帯びてきたその体型は、二人の憧れの存在でもある。
その少女の名は御坂美琴。誰あろう、学園都市の超能力者の一人である。

「あ、御坂さん」
「お久しぶりです。御坂さん」
「あ、初春さんに佐天さん、久しぶりね」
他愛の無い会話から入る三人。
彼女達はお互いで隠し事をするような関係でもないこともあり、結構色々な話を日頃からしている。
そういう訳で、この日も会話が弾むわけだが、どうにも居心地が悪い。
その原因は、美琴の表情にあった。

何となく、影が見えている。

「どうかしたんですか?あんまり浮かない様子ですけど…」
「うん…実は…」
「「…」」
「最近、当麻の様子がおかしいの!」

思わず、コテン、とずっこけそうになるのを抑えながら、二人は良いネタを拾えたといわんばかりの黒い微笑を(美琴にばれないように)浮かべる。
「え?上条さんが、ですか?」
「へぇ、上条さんでもそういう時ってあるんですね…」
「感心してる場合じゃないですよ、佐天さん。御坂さん、ちょっと話を伺ってもいいですか?」
「へ、う、うん。折角だし、ちょっと話してみようかな?」
「そうなると、ここじゃちょっと話しにくいですね。ファミレスでも入りましょうか」

カランカラン『いらっしゃいませー』

というわけで、とあるファミレスに移動した三人。
それぞれの注文を済ませると、会話を再開した。
「で、どういう事なんですか、御坂さん」
テーブルに身を乗り出してくる二人。その食いつきぶりにちょっと動揺しながらも、美琴は話を始めた。
「実は、つい一月前くらいの話なんだけど…」
「「…」」
「ウチに、打ち止めっていう女の子が遊びに来たの」
「ラ、打ち止め?」
「そう、話がややこしいから詳細は省くんだけど…。それで、その子のお守りを一週間ほどする事になっちゃって」
「あー、そう言えば、御坂さん、今は上条さんと同居中でしたっけ」
「そういえば、白井さんが大暴れした事もありましたねー」と、横で初春が目を細め、どこか遠くを見ながら呟くが、佐天は気にしなかった。

「う、うん」
「上条さんと同居する事になった経緯、白井さんも分からないみたいなんですよね…」
「え、えっと、それはまた後で話すわ。で、元に戻るんだけど、その打ち止めって子が、私の事を「ママ」、当麻の事を「パパ」って呼んでたのよ」
「「…」」
「で、当麻はその気は無かったみたいなんだけど、どうも周りから見ると『夫婦とその子供』に見られてたみたいで…」

衝撃である。二人とも上条の事も勿論、美琴の紹介で知っている。
その上で上条と美琴を見たところで、流石に夫婦には見えたとしても、子持ちの家庭と勘違いは難しいのでは…?と思ったのだ。
そもそも、言葉が喋れる子供の居る高校生カップルが居るわけがないのだ。
それなのにそんな勘違いをされるということは…と考えたところで、美琴が怪訝な表情を浮かべている事に気づいた佐天が話を戻す。

「その後から様子がおかしい、と?」
「うん。何か私に見られたくないのか、隠してるのよね…」
「隠してる…ですか…?」
「うん。平日の放課後はどこかに行ってるみたいで、完全下校時刻ギリギリにならないと帰ってこないし、休日も全然相手してくれないし…。もしかして、愛想つかされたのかな…なんて」
「そ、そんな事は無いんじゃないですか?だって、同棲してるんでしょ?何時か分かりますよ!」
「そ、そうかなぁ…」

そこまで話して、美琴の気落ちしている様子がありありと伝わってきた。
言葉では言えないものも、態度には現れるとは、良く言ったものである。
心底上条の事が好きなのだ、という美琴の気持ちが痛いほどに伝わってきて自分も少し心を痛めながら、初春が話をずらす。

「ところで御坂さん、どうして上条さんと同居する事になったんですか?」
「え、えっと…。初春さんも佐天さんも、私達が交際してるのは知ってるわよね?」
「確か、常盤台時代からでしたよね。バレンタインに手作りチョコと一緒に気持ちを伝えたら、ホワイトデーに夕焼けの観覧車デート+チョコのお返し+告白の返事のトリプルコンボを貰ったとか」
「その時に何故か停電が起きて観覧車が止まってしまって…って話でしたよね。羨ましいなぁ…」
「あ、あはは…。ま、まあ、そこら辺は置いておくとして、で、その後、夏休みに実家に里帰りした時に親に報告したのよ」
「そ、そうなんですか?」
「もうそこまで…」
「元々お互いの両親も知り合いだったってのもあって、気が付いたら私達が結婚前提で交際してるって話になっちゃったみたいで…。『どうせなら、同棲しちゃえば良いじゃない』みたいな事言われちゃって…」
「「…」」

二人は言葉を失った。
もうなんと言うか、二人が出会った時には既にこうなる運命だったんじゃないか?と思わずにはいられなかった。
その思いは、学園都市に入った時からの出来レースだった、と言われても驚かない自信が芽生えつつあるほどだった。

「ただ、私が常盤台を卒業するまでは寮生活、って言うのは守らなきゃいけなかったし、実際にその話が進むのは私が高校に進んでからって事だったから、特に誰にも言ってなかったんだけど…」
「なんだかその話を聞いていると、御坂さんが常盤台寮を出るときに荷物を運び出した先が上条さんとの新居になっててもおかしくは無いですね…」
「まさにその通りだったのよ。そのおかげで、時間を気にする事無く当麻と過ごせるのは嬉しいんだけど…ね」
「何か問題があるんですか?」
「うん。今みたいに何か隠し事されてると不安なのよね…。当麻にとっての私との生活って、実はそんなに嬉しくないんじゃないかな…って」
「「…」」
「ほら、一緒に住む事で相手の嫌な部分が見えてきて、気付いたら別れてる、みたいな話ってよくあるじゃない?そういう状況になったんじゃないかな…と」

恋することって大変なんだな、と二人は思う。
自分達が恋らしい恋をしたことが無いからかもしれないが、今の自分達には考えられないような想いや感情が美琴からは溢れ出ている。
それは憧れや好意ではなく、純粋な恋心の塊。
普段は頑丈でちょっとやそっとの事では壊れないのに、一度自分の存在を否定されてしまえば脆くも崩れてしまう、そんな塊。
それを失ってしまうんじゃないかという恐怖と美琴は戦っているのだ、そう思う二人の心には、もう最初のような興味本位な考えはなくなっていた。

「心配しすぎですよ、御坂さん。上条さんは御坂さんの事好きなんですよね?」
「うん…そう当麻は言ってくれるけど…」
「なら大丈夫ですよ、御坂さん。自信を持ちましょう!」
「そうですよ!きっと、御坂さんが喜ぶような事を考えているんだと思いますよ?」
「そ、そうかな…?」

どうしても不安を拭いきれないような反応を示す美琴に、焦れた佐天は鋭く切り込む。

「そこまで不安なら、家捜ししたらどうですか?」
「ちょ、ちょっと佐天さん!?」
「家捜しなりメールチェックなり、御坂さんが出来る事を全部やってみましょうよ!そうすれば、御坂さんが知りたかったものが分かるかもしれませんよ?」
「そう…そうね。うん、一回探してみるわ」
「御坂さん、頑張って下さいね!」
「だ、大丈夫かな…?」

初春は微妙な表情をしながら、美琴と佐天を見やる。
二人とも何だか表情は晴れやかで、大胆な事もたまには悪くないのかな、と初春は思う。
その後は、どうやら美琴も元の調子を取り戻したようだ。
初春や佐天は、悩みを聞く前と一変した美琴の姿に一安心、といった表情を浮かべた。
その後、三人は束の間の会話を楽しみ、そろそろお昼になろうかという頃合いになって、ようやく店を出た。
初春と佐天は、当初の目的通り映画へと向かい、美琴は一人、夕飯の買い物を終えると、足早に自宅へと帰っていった。

その日の午後、上条家からガタゴトと音がした後、局地的に停電が発生したというのは、公然の秘密である。

話は少し進んで、その日の夜。
美琴は、テーブルの上に一冊の本を置き、上条当麻と相対していた。
美琴は、何も言わずに上条をじっと見ている。
対する上条は、少し顔を青くしている。どうやら、冷や汗でも流しているようだ。
そして、テーブルの上に置かれた一冊の本。
その本はやや厚手で、ところどころにカラフルな付箋が貼られている。
その中身は…

「美琴ちゃんは少女チックなところがあるから、こんな式場が良いかも」
「ウェディングドレスならタキシード、白無垢なら袴」
「式場と服装はセットと言っても過言ではないので、慎重に考えてくださいね?」
「国内で手配できないようなら海外もアリだぞ?二人を囲む環境は決して平穏とは言えないし、そちらの方が良いのかもしれない」
「式を挙げるとなると、当然新居も必要!」
「新居は借りるんじゃ無くて買うこと!資金が必要なら両家で援助するわよ♪」

要はそういうことである。
結婚情報誌、それがその本の正体であった。
そして本に張られている付箋は、当麻自身のメモと、上条家・御坂家両親が残した注意書きの数々であった。
最初にこれを見た美琴は、思わず感情の制御が出来なくなってしまっていたが、今はそうでもない。
寧ろ、何故こんな重大事を隠していたのか、上条に問い詰めたくてたまらないのだ。

「で、当麻?これはどういう事なのか、説明してもらおうかしら?」
「せ、説明でせうか?」
「そう。後、当麻が最近一人で何かやってることは分かってるんだから、それも一緒に話してもらおうかしら」
「ちょ、ちょっと?流石にそれは…」
「返事は?」
「…分かったよ。…で、何処から話せばいいんだ?」
「じゃあ、この本から」
「それか…。見ての通り、結婚情報誌だけど?」
「…どうして、結婚情報誌があるわけ?」
「…」
「何で何も言わないのよ!?もしかして、私以外の誰かと…」
「いやいや、それは無いから!美鈴さんや旅掛さんからもアドバイス貰ってるし!」
「じゃ、じゃあどうして…」
「ほら、前に打ち止めがウチに泊まりに来たことがあっただろ?」
「うん」
「あの時、打ち止めに『パパ』って呼ばれてたのが、むず痒くはあったんだけど、なんだか嬉しくてさ」
「…」
「そういえば、もうそういう事を考えてもおかしくないんだよな…と、上条さんは思ったわけですよ」
「そ、そういう事って…?」
「勿論、結婚の事。もう美琴を将来の伴侶としていくってのは決めてたんだけど、結婚までは考えた事なかったなーと思ってね。それでその事を実家に話したら、トントン拍子にこいつが送られてきて今に至る、って訳だ」

美琴の頭がごちゃごちゃに掻き乱される。
上条は間違いなく、打ち止めの一件以降、美琴との将来を見据えて動いている。
今までは自分の脳内でしか実現する事のなかった理想が、形を伴いつつある。
その事は嬉しいのだが、それならば包み隠さずに話してくれれば良かったのにという思いもある。
そんな美琴の持つ複雑な心境をよそに、上条は話を続ける。

「んで、その本を読みながら色々と考えてたんだけど、最終的にはどれも無理だな…って思って諦めそうになっちゃうんだよな」
「諦める…?」
「そう。まあ、今でこそ財布は美琴に管理されてるし、無駄な出費も殆ど無いわけだけど、奨学金の貯金にも限界があるからな…。それで、バイトをしようと思って訳さ」
「バ、バイト?」
「ああ。美鈴さん達もお金は出世払いで貸してくれるというし、それこそ美琴の奨学金を使えば別に式を挙げる位は何とも無いんだと思う。だけど…」

一瞬、上条が言い淀む。美琴は何も喋らない。

「だけど、さ。出来る事なら自分の力で金を貯めて、その金で美琴を幸せにしてやりたいって思ったんだ」
「…え…?」
「俺ってさ、フラッと居なくなったり、気が付いたら病院のベッドで寝てたりするだろ?それに最近じゃ家事も美琴任せ、生活費だって美琴に頼ってる部分が大きいし…。いつも、いつも、美琴に迷惑ばかりかけてるって感じがしてさ、今回くらいはちょっと見栄張りたいな…と」
「…違う」
「へ?」
「そんなの、私の幸せじゃない!確かに、当麻が結婚を意識してくれた事は凄く嬉しい!だけど、だけど、家事だって、お金の事だって、全部私が望んでやってることなの!私が迷惑してるなんて事はないの!私は、私は…」
「…」

「私は、当麻がいつも私の傍に居て、私を支えてくれたら、それだけで十分なの!ううん、それ以外には何もいらない!当麻と、当麻と一緒に過ごせる時間が、何よりも大切で、何よりも大事なの!」

上条の胸に、それはそれは強烈に響いた言葉だった。
自分のちっぽけなプライドを守ろうとするがあまり、美琴の事を考えていなかった事を突きつけられた。
自分がやっていたことが美琴の苦しみになっていた事を実感した。

「ハ、ハハ、何やってんだろうな、俺は」
そう言いながら、上条は席を立ち、美琴の横に移る。
そのまま、美琴の顔を両手で包み、言葉を紡ぐ。

「参ったよ、美琴。もう、美琴の傍から離れられないよ」

美琴は、その言葉に全身が蕩けそうになった。
様子がおかしいと思って勘繰りを入れてみれば、何時の間にか「ずっと傍にいてやる」と言わんばかりの告白を受けたのだ。
先程までの不安や悲しみは何処へやら、嬉しさで心が満たされた美琴は、ありのままの自分を、言葉にして伝える。

「当麻…嬉しい!大好き!…でも、本当に当麻が居ない間、寂しかったな…」
「そ、それは…」
「だから、もう、絶対に隠し事なんてしないって約束して?」
「…」
「私ね、何も贅沢なんて要らないの。ずっと、ずーっと、当麻が私の傍に一緒に居てくれれば、あとはどうだって構わないの」
「…」
「ね?お願い…」
「全く…美琴には敵わないな…」

そういうと、上条は美琴の腰を抱き寄せた。
二人の距離はやがて0になり、幸せそうな空間が、二人を包み込んだ。


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