とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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Dear My Friend



「お前さ、一緒に遊びに行く友達とかいねぇの?」


 そう言われて、ふと思った。

 ――――――友達、ってなんだろう、って。

 一緒に買い物に行く人?
 一緒にクレープを食べる人?
 一緒にファミレスでぐだぐだと過ごす人?

 どれもこれも、当たっているようで、少し違う気がする。
 重要なのはそこじゃなくて。
 もっと、なにか、抽象的な、そんなもののような。

 黒子は友達というよりも、可愛い……うん、可愛い後輩、でいいのよね。
 あとの二人、初春さんと佐天さんは、これもまた可愛い後輩……いや、黒子の友達という方が正しいと思う。
 現にあの子達は敬語でしか話してこないし。
 私からも『さん』づけで呼んでいるくらいだし。
 少しは距離も縮んだかもしれないけど、どこか一線、溝というか山というか、そういうものがある気もする。

 今まで、気の置けない友達、なんてものが必要だとは思っていなかった。
 変に周りで噂を撒き散らされたり、親衛隊のように囲まれるくらいなら、一人でいいと思っていた。
 元々、群れたり派閥を組んだり、なんてことはごめんだったし。
 まぁ、そういう友達がいるに越した事はないし、心の奥で密かにそう言う関係に羨んでいた事も認めるけど……。

「アイツのせいよね」

 あの馬鹿のせいだ。
 初めて会ったときから、私に馴れ馴れしく接してきたアイツ。
 レベル0のくせに、私や、妹達を助ける為に学園都市最強に立ち向かって行ったアイツ。


 そして、恐らく、家族以外で唯一、私を『超電磁砲』という名前なしに見てくれるだろう―――


「あの馬鹿のせいよ」

 つい溜息が洩れる。
 自分の想いに気づいてしまってから、その気持ちはどんどん強くなって。
 仲の良い友達が欲しい。
 気を置かなくて済む、何でも喋れる親友が欲しい。

 そして、アイツと、もっと仲良くなりたい、って。

「まったく、まさか天下のレベル5に友達一人いないかもしれない、なんてね」

 本当に、自嘲するしかない。
 レベル5として、お嬢様として見られる事はあっても、中学二年生の女の子として見られていただろうか。
 仲良くしてくれているあの子たちは、自分の事をどう思っているのだろうか。
 例えば、前から歩いてくるあの子は―――。

「あれ、御坂さんじゃないですか。こんにちは」

「はろー、佐天さん。奇遇ね」

 ホントですねー、と応えてくれる。
 一人でいるところを見ると、初春さんは風紀委員のお仕事なのだろう。
 そういえば黒子もぶつぶつ言いながら支部に向かって行ったっけか。

「御坂さん、今から暇ですか?」

 少し迷いを秘めたような目で、佐天さんは口を開く。
 その気を遣ってくれるような視線が、なんというか、微妙な距離を感じる、と言えば贅沢なのかな。

「アテもなくその辺をぶらつく予定でみっちり、ってとこね」

「あはは。それって、暇ってことで良いんですよね?」

 可笑しそうに笑う佐天さんの表情は太陽みたいだ。
 私に同じ顔が出来るか、って言われるとなんだか自信がない。

「新しい喫茶店がオープニングセールやるっていうんで行こうと思ってたんですけど、御坂さんも一緒にいかがですか?」

「おーけーおーけー。せっかく会ったんだし、美琴センセーが奢ってあげよう」

「あ、いいんですか? 実はちょっと高いお店みたいでどうしようか迷ってたんですよ」

 えへへ、と舌を出す佐天さん。
 悪戯がばれたような顔で頭をかいているところを見ると、元々そのつもりだったのかもしれない。

「で、どこ行けばいいの?」

「えっと、広告についてた地図によるとこの辺だと思うんですけど……ちょっと待ってくださいね」

 くしゃくしゃになった広告とにらめっこして、佐天さんは首を捻っている。
 あの道がこれだから、とか言って確認してるし、地図には強くないのかもしれない。
 自然に頬が緩んでしまうのを照れくさく感じて、私は佐天さんの後ろの方へと視線を泳がせる。
 わいわいと、女子学生で少し賑やかなテラスが眼に飛び込んできた。

「ねぇ、佐天さん。探してるお店って、あそこじゃないの?」

「え? あ、あぁ! あれです、あれです! さっすが、御坂さん!」

 あたふたと広告をしまい、佐天さんは照れくさそうに笑う。
 行きますよー、と私の手をとってぐいぐいと引いていく。
 これくらいの積極性やパワフルさがあれば、私も苦労しないのかもしれないな。

「ほら、なかなかいい感じじゃないですか?」

「うん、思ったより気取らない感じでいいかもね」

 カラン、というベルの音を聞きながら、私と佐天さんはお店の中へと入っていく。
 漂うコーヒーの香りが心地いい。

「御坂さんは何にします?」

「うーん、そうね………」

 メニュー表へと視線を走らせていく。
 普段はあまりコーヒーを飲まないけど、せっかくだから挑戦してみようかな、と。そう思わせるようなお店だ。

「グアテマラに、チーズケーキかなぁ」

「おー、良く分かんないですけど、かっこいいですね」

 きりんまんじゃろ、ってなんだろ―――なんて首を傾げる佐天さんの姿に私はふぅと息を吐いた。
 楽しそうだな、と思う。
 私に足りないのはそういう部分なのかもしれない。
 物事を純粋に受け止めて、純粋に楽しむ。
 佐天さんみたいに素直に生きれたら、どんなにいいだろ、なんて思ってしまう。

「………御坂さん、悩み事、ですか?」

「へ?」

 メニュー表に向いていたはずの佐天さんの顔が、いつの間にかすぐ目の前にあった。
 驚きやら恥ずかしさで、口をぱくぱくと、させてしまう。

「あ、図星みたいですね。なんですかー? あたしでよければ、相談に乗りますよ」

 メニュー表を投げ出し、ふふん、と鼻を鳴らす佐天さんに少しだけ引いてしまう。
 浮かんでいる表情の感じでは、相談を聞くというよりも興味本位という方が強そうだ。

「何を悩んでるんですか?」

「べ、別に……相談するような事じゃないっていうか」

「水臭いですよー。あたしと御坂さんの仲じゃないですか」

 そう、それだ。
 私と、佐天さんの仲。
 それが、今の悩み。

「それが、悩み、かな」

「え?」

「私と、佐天さん、初春さん、もちろん、黒子とも」

「あたし達と、御坂さんの関係ってことですか?」

「……うん」

 キョトン、とした表情で、佐天さんは固まっている。
 それもそうだ。
 突然こんな事を言われたら、誰だって困る。

「えっと………御坂さんにとって、あたしたちはどういう関係なんですか?」

「………それが何か分かんなくてさ。あはは、らしくないよね、こんなの」

 無理矢理に笑ってみせる。
 こんなことで、話が逸らせるとは思ってはいないけど、今の私にはそれ以外にどうしていいのか、分からなかった。

「あたしとしては………友達、以上には思ってるんですけど……ダメでした?」

「え?」

 佐天さんが遠慮がちに紡いだ言葉に、私は目を丸くする。

「あ、後輩のくせに偉そうですかね? 御坂さんとは、色々ありましたし。正直、腹の立つ事もありましたけど……今は、憧れの先輩で、大切な親友だと、思ってます」

「佐天さん……」

「って、うわわわわわ、あたし何を言って……なし! 今のなしでお願いしますっ!!」

 我に返ったような表情になって、顔を真っ赤にする佐天さんに、私は自然と笑えたような気がした。

「ありがとうね、佐天さん」

「え? あ、ハイ……なんか偉そうにすいません」

「ううん、元気出た」

「な、なら良かったです」

「ふふふ、照れた佐天さんも可愛いんだなー、って。初春さんが放さないわけねー」

「なななななっ、なに言ってるんですかっ!」

 バタバタと手を振り、佐天さんは赤かった顔をもっと赤くする。
 黒い髪と白い花が映えるくらいに。

「佐天さんがそこまで思ってくれてるなら、呼び方も変えようかな」

「………呼び方、ですか?」

「うん、いつまでも佐天さんってのも他人行儀だし……涙子って呼ぼうかなー、って」

「ううううううう。じゃぁ、あたしは、美琴さん、って呼ぶんですか、ね?」

 はわわわわ、恥ずかしい、と言いながらブンブン首を振る佐天さん。
 美琴、なんて呼ばれる事は滅多にないけど、いざ呼ばれてみるとすごく恥ずかしい。
 そんな気持ちが顔に出ないように、必死に堪えて、私は佐天さんから目を背ける。
 このまま見ていたら恥ずかしさに耐えきれないような気がしたから。

「あ………」

 視線の先にあったのは、鏡に映った真っ赤な私だった。


「御坂さーん、次どこ行きますか?」

「そうねー。いつも通り、セブンスミストかなー」

 結局今まで通りに落ちついた呼び方も、今までと違った温かさを感じる。
 心の距離が近くなったからだろうか。
 それとも、そこにこもった気持ちが分かりあえたからだろうか。
 表情も自然と、柔らかくなっているような気もする。
 きっと初春さんや黒子とも、今まで以上に仲良くなれると思う。

「おーっす、御坂」

「アンタ………」

 私と佐天さんの前に現れたアイツはいつも通りに、馬鹿みたいに普通に声をかけてくる。
 いったい人をどれだけ悩ませたのか、思い知らせてやりたいくらいだけど、きっと言っても無駄だろうな。

「……ほほーう、もしかしてもしかすると、悩みってこれのことじゃないんですかぁ?」

「んなっ、何言ってんのよ、佐天さん!?」

「この方の事も、あたしみたいに名前で呼んだりしないんですか? 美琴さん」

 ニヤリ、と口元を歪める佐天さんを、私はキッと睨む。
 てへ、と舌を出して頭を下げているけど、反省なんかしていないに違いない。

「なんだ、友達いるんじゃねぇか」

 アイツが笑う。
 意外そうな顔をするかと思ったら、そうじゃなかった。
 なんだか安心したような、そんな顔だった。

「友達いねぇんだったら、俺がなってやるかな―、なんて思ってたけど余計な心配だったか?」

「アンタね、そんな同情しなくても良いわよ」

「そーかい」

 アイツは肩をすくめるようにして、歩みを進める。
 私の横を通り過ぎた、ちょうどそのとき。

「ま、いてもいなくても、俺はお前の友達のつもりだったけどな」

「えっ!?」

 通り過ぎていくアイツの方へと、振り返る。
 その背中は普段通り、頼りがいがあるわけでもないく、カッコイイわけでもない、普通の背中。
 ゆっくりと、その背中越しに、アイツがこちらを向いた。

「じゃ、そういうことだから、またよろしくな、美琴」

 アイツの言葉に、私はなにも返せないまま、立ちつくした。


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